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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


子ユニコーンを救え
 
「これがユニコーン?」
 写真をみた草間の声は裏返った。
 依頼は、ユニコーンを助けてほしい、というものだった。依頼者は滝本啓人という少年。彼の住む町で静かに暮らしていたユニコーンの親子が何者かに捕獲されたのだという。
「どう見たってこいつは」
「犬ですね」
 草間の隣で零がぽつりといった。写真に写っているのは、ヨークシャーテリアに似た小型犬のように見える。
「そいつは子ユニコーンなんだよ。警戒心が強くて、親のほうの写真は撮れなくてさ。大きくなれば、角も生えるし、ちゃんとした姿になるんだ」
「なるほど。で、捕獲した連中はどんな奴なんだ?」
「それが妙な術を使ってさ。俺と一緒にユニコーンを助け出そうとした友達が大怪我させられた」
「妙な術、ね。それでうちに来たってわけか。その手の依頼は断ってるんだが」
「でもお兄さん、今回は怪奇事件とは少し違います」
「なあ、頼むよ。見せしめってんで、親ユニコーンは殺されちまったんだ。せめて子ユニコーンは助け出したいんだよっ」
 必死な滝本の言葉に、やれやれと草間は肩をすくめた。
 
 
「人に心を許さない獣だぜ?」
 草間から話を聞いた蒼王翼(そうおう・つばさ)は表情を曇らせた。
「それに極めて気性が荒い。掌を返したように懐くのは穢れを知らない乙女の前だけだ」
「で?」
 同胞の血で穢れた自分では、返って警戒されてしまうのではないかと危惧していたのだが、草間の声は思いの外そっけない。
「悪いけど僕は『穢れを知らない少女』じゃない。他をあたった方賢明だよ」
「でも、こいつは……」
 滝本は声を呑んだ。『最速の貴公子』と呼ばれる男装の少女のことは、滝本もテレビで知っていた。まして、同い年とは思えないほどの美貌である。たじろぐのも無理はなかった。
「こいつは……、まだ子供だし、割と人懐っこいんだ。男の俺が言ってるんだから間違いないって」
「――あの」
 と、話に割り込む声がした。
 ひとりのスフィンクスが、事務所の入り口から草間たちをうかがっていた。ラクス・コスミオンである。草間たちに近づかないようにして、ラクスは言った。
「ある子に頼まれてきました。人外同士ですし、その術にも興味がなくもないので、できる範囲で協力したいと思うのですが……」
「ホント? ありがとう。恩に着るよ」
 顔をほころばせて滝本は立ちあがった。握手を求めて歩み寄ろうとすると、ラクスは二、三歩後退りした。今にも泣きそうである。
「ラクスさんは男性恐怖症なんですよ」
 事情を知っている零が説明した。
「そっか。怖がらせてごめん」
 滝本がソファに座ると、ラクスはホッと胸をなでおろし、
「ところで滝本さま。いくつかお聞きしたいことがあります。術の形態やそれによる被害はどのようなものなのでしょうか。それに、相手の人数、容姿、性別、年格好。そして使用している言語なども」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。いっぺんにそんなに聞かれても……」
 滝本は狼狽した。
「妙な術のことは、よく分からないんだ。俺、そういうの詳しくないから。魔術つっても、いろいろ種類があったりするんだろ?
 相手は二人。たぶん日本人で、背の高いグラサンと茶髪のチビ。二人とも、いつも黒い服を着てる。年齢は二十五歳くらい、かな。もっと上かもしれないけど。
 被害は、村の大人たちが何人か襲われてる。それでみんな、ビビッちゃってさ、何にもしようとしないんだ……」
「とりあえず現場に行ってみよう」
 翼が言った。
「ラクスは先にひとりで行ってくれ。その方が気が楽だろう? 彼は僕が連れて行くよ。あとで現地で落ち合おう」
 
 
「……聞いた?」
 草間興信所から離れた路地裏で、背の低い少年が、なにかに話しかけた。
『はい』
 返事をしたのは、彼、飛桜神夜(ひおう・かぐや)が背負っている喋る棺桶。貧乏生活をしている神夜は、なにか儲け話がないかと草間興信所に盗聴器を仕掛けていたのである。まさかここまで役に立つとは思ってもいなかったのだが。
「……ユニコーン売ったら……日本銀行券……手に入る」
『手段は?』
「……他のやつらより早く捕まえる」
『どうやって目的地まで行くんですか?』
「……バイクか車、盗む」
 無表情のまま、さらりと言ってのけた神夜に、棺桶は言葉を失った。神夜が盗みをするのはいつものことなのだが、なんといってもまだ十二歳、本来なら普通自動車はおろか原付さえも運転してはいけない年齢だ。
『やめましょうよ』
「嫌」
『……』
「行動開始」
『ちょっと待ってください。最後にもう一つ』
「なに?」
 バイクか車を物色しに近くの駐車場へ向かおうとした神夜は、一度足を止めた。
『もしも……依頼人たちと戦闘になったら?』
「……叩きつぶす。……それで東京湾に沈める」
 目的地は北関東なんですけど、と棺桶は訂正しようとしたけれど、やめた。そんなことを言ったら、本当に戦闘になったとき、どんな扱いをされるか分からない。棺桶は神夜を守る盾であり、武器でもある。乱暴に扱われると、正直、痛いのである。
『……やっぱり、やめませんか?』
「……棺桶のくせにしつこい」
 棺桶は溜息をついた。
『分かりました。もうなにも言いません。……どうなってもしりませんからね』
 でも、我が侭を言わせてもらえれば、移動手段は車がいいなあ。バイクはバランスが悪そうだし、途中で落とされたら、すごく痛そうだし……。
 
 
 山の中腹にあるログハウスを、ラクスは林の中から観察していた。
 周囲に人の気配はない。ふもとには温泉街があり賑わっていたのだが、そこから離れると、途中にガラス工房があった以外、このログハウスまでなにもなかった。
 小屋の中を透視すると、滝本が言ったとおり、中には二人の男がいた。部屋の隅には倒れているユニコーンが一頭。その脇に、子ユニコーンが捕らわれているケージが置かれている。
 小屋に突入した際のことを考えて、ラクスは個人用の対魔防壁と飛行強化を使用し観察を続ける。
 ――滝本さまが仰ってた術を使ってくれないかしら。できればその術の禁呪結界を周囲に張っておきたいのですけど。
 しかし、そう都合よく事は運ばす、男たちは話をしているだけだった。誰かと取引でもするのか、さきほどから時計ばかりを気にしていた。
 しばらくして、白い軽自動車が到着した。取引相手だろうか。「でも、変ですわね」とラクスは思った。車から降りてきたのは、小柄な少年だったのである。しかも、なぜか棺桶を背負っている。
「――どんな様子だい?」
「きゃっ」
 不意に話しかけられて、ラクスは軽く悲鳴をあげてしまった。心臓が停まるところだった。
「そ、蒼王さま?」
「そんなに驚かないでくれよ。男性恐怖症なのは分かるけど、これでも僕は女なんだぜ」
「すみません……ところで滝本さまは?」
 合流したのが翼ひとりきりだったので尋ねてみた。
「家に送りとどけてきたよ。足手まといになるからね」
「そうですね。それがいいかもしれま――」
 せんね、と最後まで言い切れなかった。小屋の中で異変が起こっていた。仲間割れなのだろうか。先程の少年が、棺桶を振り回して男たちと戦っている。
「大変です、蒼王さま! 小屋の中で戦闘がっ!」
 
 
 翼が小屋の中に入ったときには、すでに戦闘は終わっていた。そこにいるのは棺桶を背負った少年――飛桜神夜ひとりだけで、男ふたりは忽然と消えていた。
「……これで日本銀行券、たくさん手に入る……」
 神夜がケージに近づこうとするところを、
「待てよ」
 翼が呼び止めた。
「大方そのユニコーンを売りつけようという魂胆だろうけど、そうはさせない」
 振り向いた神夜は、
「……邪魔すると殺す」
『ほら、だから言ったんですよ。戦闘になっちゃったじゃないですか』
「……うるさい。棺桶は黙れ」
 会話を聞いていた翼は脱力してしまった。神夜よりも棺桶のほうとが常識人のようで調子が狂わされそうだ。
「言っておくけど、キミじゃ僕には勝てないよ。絶対にね」
 棺桶を構える神夜に警告とばかりに言う。
 相手の能力は、翼の支配下にある風が教えてくれた。ユニコーンを捕獲した二人は、あの棺桶に吸いこまれてしまった。ならば――。
「覚悟」
 神夜は大きく棺桶を振り回したが、空を切っただけで、それ以上はなにも起きなかった。おかしい。神夜は、「棺桶? ヴォーグ?」と声をかける。いつもなら小言か文句を言う棺桶が、なぜか黙ったままだ。
「無駄だよ。その棺桶くんは僕の術にかかっている。キミの言うことは聞かないよ」
「ちっ」
 棺桶を投げ捨て包丁を取りだした。神夜のもう一つの武器だ。
 跳躍し、翼に飛びかかる。その場から動かない翼を斬りつけようとした瞬間。
 突風が吹いた。
 小柄な神夜はそれに飛ばされ壁に叩きつけられた。身体に衝撃が走る。
「だから言ったろう? キミは僕に指一本触れることさえできない。これでも手加減してやってるんだぜ」
「くそ」
 投げ捨てた棺桶を拾い翼をにらむ。
「覚えてろ……次、会ったら絶対殺す」
 それを聞いて翼は苦笑いをした。まさか今時、そんな捨て科白が聞けるだなんて思ってもいなかった。
 
 
『うーん』
 車の運転をはじめてすぐに棺桶の意識が戻った。なにが起きたのか理解できていないのか、後部座席できょろきょろと周囲を見渡している――といっても、傍目から見たら、棺桶がただ置かれているだけなのだけど。
『ユニコーンはどうしたんですか?』
「……失敗した。……全部お前のせい」
『ええー。責任転嫁なんてひどいですよー』
 実際、棺桶が翼の術にかからなければ、もしくは成功したのかもしれないのだが、棺桶はそのことを知らない。
「……今度ヘマしたら……お前、東京湾に沈める」
『そんなことされたら、いくらなんでも死んじゃいますよ。』
 棺桶が死ぬかどうかはさておいて、半分は冗談だったのつもりだったが、反省させるためにも神夜はそれ以上なにも言わなかった。
『ねえ、本気なんですか? 本当に東京湾に沈められちゃうんですか?』
 神夜は返事の代わりに、めいっぱいアクセルを踏みこんだ。
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
【2863 / 蒼王翼 / 女性 / 16 / F1レーサー兼闇の狩人】
【1963 / ラクス・コスミオン / 女性 / 240 / スフィンクス】
【3035 / 飛桜神夜 / 男性 / 12 / 旅人?(ほとんど盗人)】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、神夜さん。ライターのひじりあやです。
今回は参加してくださってありがとうございます。神夜さんのプレイングは、わたしが想定していたものとはまったく異質な、いわばイレギュラーなのですけれども、わたし的にはこういうのは好きですので、書いていてとても楽しかったです。特に棺桶の性格がかわいいです(笑)
他のPCを殺すことはさすがに出来ないので、神夜さんはちょっと損な役回りをさせてしまったかな、という気もしますが、少しでも気に入っていただけたら幸いです。よかったら、また参加してくださいませ。
それでは、いつかまたどこかでお会いしましょう。