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アフロンジャー 第七話
君は憶えているか? 放送コードを背面跳びで超えた番組を。ダンス戦隊アフロンジャーなるあの狂乱を。性別や人種や年齢を超えて集い、供に、生命の輝きであるアフロを被ったあの感動を。
アフロンジャーとは、よくある特撮の戦隊物である。ただし別にタイツスーツは身に着けないし、単にドタマにアフロを被るだけ。でも五人揃えばアフロンジャー。そんな番組である。
アフロンジャー第一話、アフロを被った戦士の物語である。民草の髪を承諾も取らず、びだるだすーんなサラサラヘアーにしようとする、思想の押し付けという自由に対する犯罪を行った、サラサラ団との戦いである。
アフロを被った男が居た、アフロを被った女子が居た、地毛のアフロはアフロパワー略してAPがえらい数だった。種類はアフロレッドやアフロマーブルにアフロレモン味とかもあった。
「我々は継続する一瞬を、永遠の記録とした、そしで電波という渡り鳥に乗せて世界に届けた」
反響は凄まじく、続編は決定、一話の次は二話、二話の次は三話、
「しかし、あたかもカレーの分量を水増しするかのように、重ねるごとにとろみも旨みも無くなっていく」
変調は第四話、各話ごとにアフロンジャーになる面子が変わっていくのがこの番組の特徴だったが、「被ったんがヒョウ柄の服きたおばはんっちゅうのが、……とと、おばさん達だけというのが、子供受けが悪かった。美形を求めた主婦層にも悪かった」
そこで第五話は思い切ってテコ入れする、どう考えても視聴率が取れる企画、が、「ってかなんでマッチョが降臨なされた瞬間《暫くお待ちください》の表示やねんっ! この局は上司に対して何か恨みでも、ってこほん」
日曜の朝に対してのスタッフの賢明な判断は一つも誉めず、彼女は語る。
「第五話は将棋、第六話も将棋、二週に渡って行ったが、それでも視聴率回復せず。つまり、うちが、じゃなくて私が何を言いたいかと言うと」
アフロンジャーはすっかり駄目になってしまった、と。
ここでようやく状況についての説明、場所は、ゴーストTVのスタジオで、学校コントを繰り広げる為のセット。教壇に上り力説を繰り広げていたのは、潜在的にショタコンなのに表面的にはショタ恐怖症という厄介な心体質の恵局長。駄目な生徒に説教をするという役柄上標準語で威厳を出してたが、完璧に徹し切れてない。
机に着席しているのは、アフロンジャー第七話出演者の一部。全員では無い。
「我々は考えた、この腑抜けたアフロンジャーという番組を変えるには、生きるか死ぬかの戦いしか無いと。つまり、貴殿達のすべき事は、」
そこで背中を見せチョークを右手そして黒板にガリガリと殴り書く。並んだ文字は、
【冠番組争奪戦】
「アフロンジャーに回り番組を死守するも良し、サラサラ団に属して正義を挫くも良し、はたまた全く関係ない組織を作り、あるいは単独で行動し、ともかく、倒せ、奪え、掴み取れっ!」
――こうしてアフロンジャーは第七話にはすでに、打ち切りの危機に合ったのだった。戦いの果てに残る物は? 集え、戦士達っ!
「てかアフロンジャーの活躍って、僕らが勝手に撮影して番組にしてるだけやから、打ち切りとかそんなん言うても」
解説サンキューキャラ固まってないショタっ子。
◇◆◇
実際の大阪へ行くノリにて、観光を目的にバラエテ異界に足を踏み入れる者は少なくない。遠くの大阪より近くのバラエエ異界、アフロを被れば一瞬で、電車ですらもKAN-JOU-SENなら二時間なんてかからない。実際の大阪よりも更に大阪がキツく、有名人だった日にゃ肩を叩かれまくるが、そんな心配は無い一般ピーポーは、イカ焼きたこ焼きお好み焼き等を目当てにバラエテ異界へと繰り出すのだ。しかしその旅の目的というのが、
色とりどりのアフロをゆっくりと眺める為というのが、一般よりズレてる気がするのですがと何処かの誰かが聞くのだけど、
「だって、もこもこって素敵じゃない」
理知的な顔をほがらかに崩してそう答えるのは、ご存知草間探偵事務所の台所役、シュライン・エマ。
彼女の性質を申せば、仕事先での亭主(例え。しかし実際でもある)によるハードボイルドを建前にしたスチャラカ行動の収め役という事もあり、冷静とまではいかねども、沈着が常。あっぴろげに言えば物事への指摘、つまりツッコミ役である。第三者の意見を統計しても、あの草間武彦と柔らかくからかい合う時を除けば、彼女が物事のかく乱、つまりボケ役としては成立せぬのは鉄の事実であるのだが、――もこもこの事となると、イレギュラーが発生する。
二十歳も半ばに過ぎた大人の女性が童心に帰るマテリアル、シュライン・エマにとってそれがもこもこであった。それは例えばぬいぐるみであるし、今ここでの未来で溢れるであろうアフロでもあるのだ。実際、己の恋人にアフロを被せて、それをにこにこと眺めながら紅茶をすすった経験有り。
黙って座ればいい女なのにという言葉をもじって言えば、もこもこに執着しなければ普通なのに、が、シュライン・エマ。ただ、それもどちらかというと可愛らしさの部類に入り、妖艶な彼女の魅力を更に高める結果に繋がるのだが。とまぁ、色々語った事の要約、シュライン・エマはアフロを求めて、再び、バラエテ異界に降り立ったのであった。
前回の彼女の役割はナレーションというか実況、今回はそれに加え、番組の今後についても意見するつもりである。素晴らしきもこもこの灯火を絶やさぬ為にも、
そう思って来た物だから、シュライン、
「……それ、本当なの?」
アフロを求めて来るのって何かズレてますねー、と聞いた何処かの誰か、
「はい。さっきテレビ局の方から聞きましたから」
バラエテ異界に再び降り立った、
小麦色の肌を持ち、くしゃりとした頭髪の、たこ焼きをパクついてる青年、アイン・ダーウンの言葉には、思わず聞き返さざるをえなかったのである。
「アフロンジャーが二人だけ?」
◇◆◇
弓槻蒲公英とは。
弓槻蒲公英とは何者かと、まずは容姿の項を爪弾けば、7歳の身の丈とはいえ、それに等しき長さである、黄金よりも美しい潔黒の髪がまず浮かび上がる。
そして能力にある者はそれに見合った行動をしなければならないのなら、少女がアフロンジャーの永遠の宿敵、日本総サラサラ髪化計画に邁進するサラサラ団に所属するのは川の流れだった。実際彼女が不幸な間違い(電車搭乗ミス)によって、三日前、このふざけた異界に辿り着いた事により、それは速やかに実行される。サラサラ団の一、二を争う黒髪は、幹部の地位へと持ち場所と定まった駒で。
だが、才能はそれだけであった。宝の持ち腐れというより、見た目と実力は必ずしも比例しない真実の表れであった。
少女の性格は心優しき、静。それが災いしたのである。ただでさえ七歳の少女なのだ、それに、子供が持つ世間知らずゆえの暴走がともわないとなれば、見知らぬ男のパンチパーマを無理矢理サラサラにするのも無理だし、勧誘活動としてティッシュを配るのも、小ささゆえに人込みに流されて。
こうして彼女は、ほとんどが異界の住人のバイトによって構成されているサラサラ団で、幹部の地位でありながら、辛く、陰湿な、……己が学校で経験する憂き目を、このふざけた異界でも。
さみしくて死んでしまうのは兎である。
けれど少女はヒト科である。
だから、耐えてしまう。
その事実は悲しいから、他人の悲しみで心苦しくなるのもヒトだから、
――サラサラ団本部、というか前話で作られた足元が暗くて周囲に光る機器が見える大道具のセット、で。説教だとバイトが蒲公英を引きずっていって、中からバイトのお叱りの声が呪詛のように流れてる一室の前に、
佇む神主の姿が、助けなきゃと呟いたのだ。
空木崎辰一、二十八歳。名から聞けば男であるが、目で見れば女となる、それ程に、真実とは反した容姿を持つ彼。神主ゆえに身に付けてる神主の服ですら、巫女服じゃないのですか? と問いただしてしまいそうである。
実際、この容姿の所為で細腕繁盛記に匹敵する苦労もあるのだが、まぁそれはおいといて、今は目の前の中に起こってる問題を、「なんとかしなきゃね、定吉」
普段はかなりポケポケであるが、この時は真剣な瞳に対して、みゅーと鳴くのは生物(と書いてナマモノと呼ぶ)子猫の定吉。ただ、この猫は猫のようであって猫でなく、空木崎辰一に仕える《式神》であるが。そして、もう一匹、
「なんや、わいには言葉かけへんのかいな旦那」
そう彼の右後ろからの人語も式神。こちらも白黒ブチの猫だ。使役してる二つが同じにゃーと鳴く動物なのは、空木崎の好みである。自分に仕えてる中でも特に働くナマモノに、空木崎はごめん、と声をかけようと後ろを振り向いた。
その刹那、目の前で爆発。網膜には炎上、鼓膜には爆音。
一人と二匹の鼓膜には、続けてこんなセリフが聞こえてくる。「おお俺と一緒に戦ってうえいっ!?」
それは味方だと思ってた者に殴られたセリフだ、美しくも激しい炎の光の先に目を凝らせば、倒れているのはサラサラ団の戦闘員のバイト。
そして、倒したのは、
「弱者の集まりめ、私の力にもならぬのか」
靴底と床が打撃しあう音を背後に演奏しながら、炎を背景とし、ただ遠巻きから眺めるサラサラ団戦闘員を壁として歩み寄ってくるのは、
「利用する価値も無いとは」「こ、この野郎ッ!」
背後から飛び掛ってきた戦闘員の方へ、
首を向ける事も無く、後ろ足で撃退したのは、「死の手前にとどめた苦痛は、言葉を遮った罪の罰だ」
ただひたすらにクールな台詞なのは、やがて浮かび上がった姿が、金銀パールとごてごてした装飾の衣装や方眼鏡に剣もおまけとした容姿なのは、
そして空木崎に颯爽と話しかけるのは、
「弱者の卑劣から、弱き少女を助ける事、協力しよう」
謎の男――
「私の名はゴウ・ヤマナー」「あ、確か草間さん所に顔出してる豪さ」「アホーっ!?」
その瞬間片眼鏡の手には精神注入と書かれたハリセンが! 説明しよう、バラエテ異界で外からやってきた者で関西弁を扱う者は、KAN-JOU-SEN乗り放題等の素敵得点がついてくるのだっ! この《何も無いところからハリセン召還》もこの類である! 式神にも適応されるぞ!
とりあえず、ハリセンで頭殴られるのは天然ボケの空木崎。ぱしーん。
「い、痛いじゃないですか、えっと、ご」
「誰だその月見里豪という男は! 私はゴウ・ヤマナーだっ!」
「確か蒲公英ちゃんのお父さんの」
「ええ加減黙れっちゅうにおんどら!」
式神とバイト戦闘員の視線が集まる男は何度も否定してるが、関西弁を隠し切れずハリセンを召還しているのは、月見里豪その人である。
この男、特撮臭バリバリの衣装を身に着けているのに、それが毒にもならぬ程の絶世の美男が目立つ。なにしろ六本木ナイトクラブではNO.1のホスト、名実ともにグンバツなのだ。多くの女性が瞳交わすだけで、底無しの恋へと陥らせるくらい。
が、この男、同時にとてつもない親バカである。
彼を語るゆえで欠かせぬプロフは、弓槻蒲公英の親という事。本人に全く自覚無いが、とーさまと慕われる時の彼は、明らかに、他の女性と触れ合う時とは違う微笑みをみせる。恋にも似て、それを超えた、愛という名が二人の間には見受けられた。
実際これだけの美形の彼が、アフロンジャーなるステレンキョウに出演しているのも娘の為。アフロンジャー出演自体は某局長が某所長を通して、『子供と一緒に見てるお母さん向けに美形を募集』として回されてきた仕事であるが、参加を決意したのは昨日から行方知らずの蒲公英がこの異界に居る事を知って、だ。
愛娘が姿を見せぬ間、草津の湯にも治せぬ病を抱えていた彼が、断れるはずが無く。それでも局から与えられた役には、似合わぬからと関西弁を封じて、そもそもこの役事態が気恥ずかしいゆえ、知り合いから声かけられても役名を高らかに叫ぶだけだが。
ともかく、某所長と話してからやっとこさの再会である。いくらバラエテ異界の隠しカメラで安全は確認してると言われても、不安はあったのだ。そんなもの、普段の自分からは遥か縁遠いのだけど。
離れてから知る繋がりもあるのかと、柄にも無く考える。
再会を。
ともかく再会を。それからは俺がなんとかしたる、と、部屋のドアに手をかけた瞬間、
ドォウッ! 「ッ!」
手で引くすらもなく、襖が開かれる。ぶち抜かれたのだ。
飛んでくる板は、豪も、辰一もひらりとかわす。だがそれでも驚きは続いてる。「まさかっ!」説教にとどまらず暴力に、豪の怒りメーターが振り切れる、が、
すぐに素に戻ったのは、
一般人に手をあげるレスラー、それくらい有り得ぬ事。それを見たせいで。
そもそも何故ドアが吹っ飛んだのかは、空木崎と式神が確認してる。「旦那」「にゅー」甚五郎と定吉が肉球で指す戦闘員の体。これがドアにぶつけられて、その侭ドアごとここまで飛んできた、のだ。
人間を飛ばす筋力がこのドアの向こうにあったか、ならば、蒲公英の身は、そう思ってドアの向こうを見れば、
すでに、豪が確認していた。
現実が信じられない、和室の中には、倒れている戦闘員、その前で、
起立する蒲公英。
目撃した経過は――小柄といえどもボーリング玉よりは重い己の重量を、手の一番硬い部分、付け根に、肩幅に開いた両足を肩幅に合わせ開くと同時、大地を鬼のように踏み付ける事によって注ぎ、その衝撃と地面との反発力を勢いとし、相手の顎にかちあげる事により、力学の法則に従って男は天井に激突し、脳天より墜落した。肉体は棒として突き刺さり、すぐに脱力してぐにゃりと崩れ。
そして少女は、おそらく自分を説教し続けた戦闘員の気絶した肉体を、カーペットのように踏みつけて部屋の外に出てくる。うつむいてるのと長い髪のせいで、表情が見て取れない、が、
嫌な汗が、父親に奔る、「た、たんぽぽ?」
片眼鏡の紳士が、愛娘にそう聞けば、
「蒲公英?」
、
「蒲公英と呼んだか、貴様?」
がらりと、口調が変わった音がする。
声質は未だ可憐であるが、それであるのに口調は貫禄と恐怖をしかりと携えてるのが、波動で伝わった。周囲の反応は、冷や汗。
豆鉄砲を食らった鳩達を見回してから、蒲公英は続ける。「我、確かに蒲公英なり。しかし蒲公英であって蒲公英では無い、解るか意味が? 六法より先に知識とせよっ! 我は、」
我は新生せり! と、人間を賛歌するが如き、凛とした叫びが、顔を勢い良くあげた少女から放たれた。それに確かに彼女の面影は無い、いや、容姿は鏡のように同じである、だが、
「弱い奴めは死んだのだ、否、我が殺してみせた。言葉如きに暴力をふるえぬ、弱き女はな」
覇気が、何より違うのだ。あれ程に美しかった長髪が、今は黒衣の鎧のように。瞳に優しさの心は無く、ただひたすらに冷酷に。「それでも貴様は蒲公英と呼ぶか、だが再度言おう、我は蒲公英であって蒲公英ではあらぬっ! 我を称すなら、」
彼女は手の甲を頬にあて、小さな身体を大きくみせるように足を広げ、開口、
「蒲公英TWOと呼ぶが良いッ!」
キャシャーン、と心の擬音語が、爆ぜるように鳴り響いた。女帝降臨、独裁開幕。
バイトの戦闘員と女と間違われる神主が、森林のように立ち尽くす中、動かずにいれられないのがとーさまでして、
「あのぉ蒲公英」
ただ事ならぬ娘に、おそるおそる話しかけるが、瞬間、
「気安く話しかけるな下郎がぁっ!」
バシドコォッ! と、ニ回転してから放たれた音速の張り手が、整った美形にかまされる。威力自体は、あやうく片眼鏡が落ちてバレバレの正体が白日の下に晒されかける程だったが、ゴウ・ヤマナーの身は一拍おいた後、糸の切れた操り人形、崩れる、、
「あのやまな、……ゴウ・ヤマナーさん?」
ここまで飛んできたゴウ・ヤマナーにしゃがみこんで話しかければ、
「……グレてもうた」
「え?」
「蒲公英が、蒲公英がグレてもうたー! 俺を、育ての俺を殴るやなんて、こんな、嘘、まさか……あああああああああ!」
精神の方が、崩壊するくらいの痛手である。その様を見て、
「ハハッ! ハァッハッハッハ!! ハハハハハッハッハハッハハッハ!!!」
と、蒲公英TWOは高らかに笑った。親子の絆が切れている狭間で、暫し、どうしたものかと考える空木崎であったが、やがて思い直す。
他人の問題に口を出す前にすべき事があると。
目を閉じる、瞼の黒に更に黒いシルエットが浮かぶ、使役してる猫型より数倍はナマモノしい形、
伏字して正体を明かすならば、○○○○の言葉。ここに、
サラサラ団に入れば――
今、彼が居る意味。
――全世界からソレを抹殺できるのだ。おういえー。
選択儀が一つしかない問い。少なくとも、空木崎にとっては。
閉じていた瞼に、忌まわしきソレが浮かんだ。拒否するように目を開く、決意の音が鳴り響く。
「……僕は」
ことりと、
、
言葉が置かれる、
「僕はメイド服に復讐する」
愛しさとせつなさと心強さが濃縮二倍された言葉――
「サラサラ団に一つも関係ないですね」
という《お好み焼きをごはんと一緒に食べる事にチャレンジしているサイボーグでマッハ5まで加速できるアイン・ダーウン》のセリフも耳に入らぬ程、空木崎辰一の決意は固かったのだった。トラウマってびっくり。
◇◆◇
「アフロンジャーが二人だけ、か」
所変わってここは冒頭の場面、ゴーストTVでのアフロンジャー第七話製作会議が行われた場所である。だが、今この部屋の明度は零に近い。テーブルに乗ってる蝋燭が唯一で、テーブルの周辺に座る三人の身体も、顔、それも上半分しかはっきりしない。
だが目は口程に物を言い、始まりにセリフとしても出された現状に対するそれぞれの心が、瞳の光り方で表される。静か。
「けどさ、番組の新しい主役の決定方法は多数決じゃないんだろ? だったら戦争上等かかってこいって事で。……といっても、何も考えずって訳にはいかないか」
「数が必ず力って訳じゃないだろうけど、流石に二人だけっつうのは問題ありますね」
「ていうか別に二人でもいいんだけどさ、」
「?」
「やっぱ、男よりも女の子がいいなア」
「それしか考えてないんっすかあんた」
目は口ほどに物を言うのでじと目である。それの応対として静かな目をした男の目は軽い調子の目に変わった、さて今までの問題で目という単語は何回出たで「何ブツブツ言ってるんだ局長?」
『ってアホッ! うちが幽霊作家のねーちゃんが来るまで代理でナレーション役やっとるのに言葉挟むな!』 「普通ナレーションの途中でクイズ入れねぇって」 ……正解者の方には抽選でアトラス編集部の某不幸男が眼鏡を外したプロマイドを、「なにぃ三下さんだとぉ!」
「ともかく、」
『と言って、あの便底眼鏡の事になると我を忘れる男の行動を、軽く流したのは女好きである』「っていや局長、三下さんのそれ」
「横断歩道の白の部分の面積はいくらか求めるバイト中に」 『どんなバイトやねん』「微妙に命がけだねぇ」「前かぶったのと同じアフロが空から降ってきて、それが頭に被ったのも何かの縁、俺は協力するよ恵ちゃん?」
『そう言って軽くウィンクする彼、目線だけが見えてる今はあやうく恋の落とし穴であるが、証明をつければアフロなのを皆様思い出すように』
「というかプロマイド、ギャラの上乗せの分にしてくれねぇ?」
『流して、』「流すなよ」
『アフロンジャーは二人だけ、この不変の事実への対策も、突如の停電で暗くなった部屋からは生まれる気配が無い。果たして彼等は番組を阻止する事が出来るのであろうかっ! っと? お、停電なおったみたいやな』
「くあ……ッ。 ……いきなり明かりつけられっと、目が痛むねぇ」
『そう言って白日の下に晒されたアフロンジャーふたりぼっちの片割れ、前回から引き続きウール100パーセントの青いアフロを被った男、アフロブルーことガタイのええにーちゃんである』
「名前を言ってくれよ。いいか、俺の名前は五代真! 便利屋っていうなんでもござれの仕事をしている男だ、ま、正直イロモノ戦隊に出演するのは気がすすまねぇけど、これも三下さんのプロマイドの為にがんばってやる!」
『気がすすまんわりにカメラ目線でノリノリやないかーい。それにプロマイドやると言ってへーん』
「投げやりなツッコミだね恵ちゃん」
『と、すぐに合いの手をいれたこの黒服のにーちゃんはアフロイエロー、ええと本名は、』
「藍原和馬、そこのブルーと同じでどんな仕事でもやる何でも屋だ。生活の為というより社会勉強だけどね」
『で、仕事の為やったらなんでもするさかい』
「ん?」
『そないつくしの生えた毛糸のアフロすら、かぶる事も厭わんのやな』「って何気に春仕様かよっ!? 何をしこんだんだ恵ちゃん!」
『ええいそのアフロの毛糸が気温もあがったのに冬っぽいからやないかいっ! さらにスプリングっぽくする為に冬眠したカエルも中に、』「遠くからゲコゲコって聞こえるの気のせいじゃなかったのか!?」
『とまぁいい男が更にステキングになるアフロ、超常現象など凌駕した宇宙の希望を、暗黒の手から守るのだ、二人の若き男達よぉっ!』
『そう高らかに叫ぶ恵局長であったが、』
『ん、え、は? なななななんや急にこの声は』
『灯台下暗しとはこの事か、人のふり見て我が身を知らず』
「なーんや聞き覚えのあるようなってうちの声スピーカー通ってへんやん!? ああ気づいたらこの謎の声がナレーションにぃっ!?」
『随分説明口調なつっこみをする前に、気づくべき事柄』
「気づく、って」
淡々としたナレーションが周りを見る余裕を作り出して、恵がはたと気づいたの。今しがた笑ったばかりのツインアフロに、こっそりと笑われているのだ、自分は。
声はたてぬ動作であるが、目は確かに己をからかってる、「な、なんや」ねんなととりあえず黒服のにーちゃんの方に尋ねようとした時、やっと、感じた。母のぬくもりが頭を包んでる事を。もしや、と、冷や汗を浮かべながら、入り口の横に備え付けられた姿見に目をやる、と、
『片思いする程に桃色のアフロを被っていたのだッ!』
「えぇぇぇぇっ!?」
とっても大きく叫ぶ恵の瞳は、入り口に何時の間にやら着てる実況もといナレーターのシュラインを映さず、ただ、自分の頭に降臨なさった物であった。やわらかなアフロが屋内なのに風で揺れてる。
「い、いつのまにこんなんっ!? 停電する前はこんな」
「オッケーばっちし」「作戦成功」
「お前らの仕業かいっ!?」
お互いの右手をパシィッとたたき合わせてるのは、ブルーとイエロー。「いや、局長いれんの考えたのはイエローさんだけどね。俺としては人数多い方が良い訳だし」
「だって恵ちゃんさ、何時までたっても女帝役やってくれないんだもの。それに色気の欠片も無い戦隊に入るほど、俺はお人よしじゃないしね」
「納得できるかーっ!? よりにもよってこんなピンクのアフロ被せよって、うちは絶対アフロンジャーなんて、」
『こうして家族を殺された憎しみをはらす為、今、技のブルーと力のイエローによって、少女はアフロを被ったのだッ!』
「特撮風に話を捏造するな幽霊作家のねーちゃんっ!? 確かに兄ちゃんは死んでるけども! ていうか目がキラキラ輝いてるのは何故っ!? もこもこにめろりっ!?」
アフロンジャーにおいて本来ツッコミ役の三人が、なんかノリとかそういうものでその職務を放棄した事により、なんでやねんのマシンガンを乱射するのは恵一人。いや、一応部屋の外にもツッコミ系の人が居るのだが、
「ほんま僕ってなんやんねんろーなー最初はGTVのマスコットみたいになるとか言われたのにキャラがたってへんからってろくに扱ってくれへんし寧ろ他の奴らの出番減るからひっこんどけとか言われるし」
「若いのに苦労してますねー」
局長の相方であるはずのこのショタも、これで今回の登場は終わりである。その不遇をさほど気にしてないように適当な生返事は、イカ焼きにかぶりつくアイン・ダーウンであった。
◇◆◇
何故そこに佇むのか? そこに崖があるからだ。
バラエテ異界にはそれ程完璧な崖があった。海や山の傍らでは無いけれど、異界の反対側に一つあるその造形は、獅子の風格を携えており、なによりも、異界全てを見通せる高度に、人々は遠く憧れるのである。
今宵、いや別に夜じゃないけど今宵って言ったほうがなんかかっこいいから、今宵、少女がそこに降り立ったのは、素晴らしき場所と一枚の景色となったのは、偶然か。否、意思が働いている。それは彼女自身の意思では無い。第三者の指示――
ソレを《第三者》と称すのは何か憚れる気がする。日本語にうるさいお兄さんに成り代わって言えば、修正後は、《第三ナマ者》となる。
ともかく、第三ナマ者はゆうくりと、崖に立つ少女にやって来た。突き落とす気など天地神明に無いと誓える。その第三ナマ者は少女の足元に落ち着き、すっと、鼻を靴に擦り付けた。
その動作で、崖の上でかもしだしていた孤独な王の貫禄が、少女からあっさり落ちる。残った無邪気が発動した行為は、
「かわうそちゃんかーわーいーいー!」
であった。抱えあげられる第三ナマ者、
果たしてその正体は《かわうそ?》である。かわうそではない、かわうそ?なのだ。ちなみに名前を聞き返したりすると、――え、かわうそ? ? かわうそ? かわうそじゃなくてかわうそ? という事はかわうそ? はかわうそでなく―――と文章が滅茶苦茶になるのでここはテストにでないぞーだが注意が必要だ!
とにもかくにもはてなが付くだけあって、このナマモノの素性は一切が謎であるのだ。ここで重要なのが謎に包まれてるという訳でなく、謎そのものがかわうそ? であること。酒と蕎麦を嗜んだり、時々サイズが変わっていたり、何時の間にやらUFOキャッチャーの景品になってたりり、この少女に救出されたり、|Д゚)たり、徹頭徹尾これ謎である。お見合いの席にたつ事があれば、謎の一言で紹介が済ませられるので、仲人さんは楽チンポンである。
そしてこのコボナゾよりも謎のかわうそ? が少女にとっては、シュライン・エマのアフロと同義であった。
「そろそろ変身する。らせん、あっちのカメラ見る」
「あ、うん」
そう言われて、バラエテ異界の各地に配備されているカメラのレンズに、崖の上からという絶好のロケーションに、正面から撮影してもらい、少女は、
名前は銀野らせんという、眼鏡とみつあみの密接な関係を体言する高校生女子は、何かを《召還》した。
先に宣言すれば、彼女は変身する。
だからと言って彼女が携えた物は、星形の飾りが先にあしらわれてるステッキでは無い、確かにそれは魔法の道具であるが、彼女が目の前に持ってきたのは、黄金のドリルであった。
変身の開始と終了に時間はあったのか。経過は無視しよう。そうだこの世は結果だけが残ると、カエルで鉄分を補給する人のようなセリフを引用すれば、
確かにそこに見参していた。
「銀の螺旋に勇気を込めて、」
ただのメガネが通常の三倍はびっくりなアイグラスに、
「回れ正義のスパイラル」
制服の肩に取り付けられるメカ、ここまでが何時もどおり、しかし、ここからがちょっと違って、
「ドリルガールらせん、」
その名を示す彼女の武器は、右腕のドリルは、「改め」
この言葉で否定される――
「本日限りの特別仕様、N(ナマモノ)ガール、ご期待通りに只今見参!」
雄雄しきまでのドリルは今、愛しのナマモノをかたどったマペットによって封印されていた。右手に宿るぷりちーなかわうそ? の姿。ただし、口からドリルがはみ出してる。
滞りなく変身を終えて。
「うい、らせん、良くやった」
彫刻のように起立した決めポーズも、その一言で崩れまして。「さっすがかわうそ?ちゃんの演出!」と満面の笑顔で再び抱きかかえるらせん改めドリルガールどっこいナマモノガール、密かにナマモノマペットの口からはみだしたドリルがかわうそ? にささりそうになったのだが、無事なのはやはり謎のおかげである。
とにもかくにもこうして、彼女の目的であるナマモノの可愛らしさを広めて世界を平和にする心が、まもなくの番組開始に合わせて実行されるのは、未来だ。アフロンジャーとサラサラ団に対抗するこの組織の名前はナマモノ団。構成は、首領はかわうそ? 親衛隊長はNガール。そして――
「って、ああぁっ!」「どうしたらせん?」
「よ、良く考えたら今の変身シーン見られたら、あたしの正体バレちゃう。いや、でも今はNガールだから、けど」
というかドリルガールもといNガールの姿事態が、普段の銀野らせんまんまであるのだが。誰もつっこまないけど。しかしNガールは狼狽して、それにかわうそ?
「安心するらせん、これ本番じゃないから、さっきの誰も見ない」
「だったらなんでわざわざ崖に立たしたんですかねー」
と、レッドボールファイブカラードラバーニングを食べながらアイン・ダーウンは言うのだけれど、それも謎としか説明しようがないのである。ナマモノだし。
◇◆◇
と、こうして今回のアフロンジャーバトルロワイアルにおける各勢力を紹介してきたのだが、まだ何処に属すか悩んでいるのが、
「番組作りって大変なんですね」
と、今やすっかりバラエテ異界に入り浸っている、小麦色の肌で東南アジア出身のマッハ5を超えるサイボーグ、アイン・ダーウン。異界の名物を食べ歩きながら各人の元を渡り歩いてきたようだが、未だどのスタンスで行くか決めかねているようだ。最早全ての名物は胃の中じゃいと言わんばかりにどこでも食えるポテチ塩ノリ味食べながら。フグやカニはどうしただと? 経済的に無理っぽいです。
「しかし、最初はアフロ被る人って居ないと思ってたんですけどね、だったらかなり笑えるんですけど」さらりと洒落にならん事を呟く18歳。
「アフロンジャーは三人、サラサラ団も三人、ナマモノ団というのは初めてですが、これは一人と一匹みたいですね。人数を合わすのでしたらナマモノ団ですが――」
ぶつぶつ言いながら、地面をノートに、木の枝を鉛筆にして、考えをまとめあげていくアイン。言い忘れたがここは公園である。
「ただ、俺はナマモノじゃなくてキカイモノですし駄目だろうな」
ナマモノキカイモノヒカリモノ。声に出して読む程でもない日本語。
「となるとあふろ団かさらさら団のどちらかですが」
グループ名を無意識に団で統一して悩みに悩むアイン・ダーウン。ポテチをすっかり食べても頭を使うのはやめられず。で、結局、あみだくじできめることにした。
正直どっちでもいいのである。カレーとラーメンの究極対決と違って、完食したのち後ろ髪引かれる類の選択儀では無い。それが理由ならナマモノ団も考慮に入れるのが筋だろうが、三択よりも二択の方が白黒つけれるので漢らしいし。
と、いう、わけ、で、「あっみだくじ、あっみだくじ」
無表情で作詞作曲アイン・ダーウン《あみだくじ−わいの人生枝分かればっかや−》を熱唱しながら、指先が行き着いたのは、
「さらさら団に決定」
長い長い旅路inバラエテ異界の末に、やっと手にした答えである。ここは一つ笑顔を浮かべて喜ぼうとした、が、
「貴様がサラサラ団に入るだと? 冗談にしか聞こえないな」
「!? だ、誰だ!」
声をした方を向けば、そこはジャングルジム。
夜空に浮かぶ銀の円を、現在の時刻はまだ午後の二時半なのでセットなのだけど、ともかくそれを従えるのは、絶世の美男、
「誰だと、そう聞くのか。その事自体、私の組織に入る資格が欠落している」
「……私の組織という事は、まさか」
「その通り」
ふわりとマントを閃かせながら、綿毛の速度でジャングルジムから飛び降りる片眼鏡の男。穏やかに着地すると同時、立ちすくむアイン・ダーウンの元へと近づいていく。
距離、一メートル。「貴方は、サラサラ団所属」
「そう、私の名は」
口の端を僅かにあげて、「ゴウ・ヤ」
「月見里豪さんですよね、蒲公英ちゃんの」「ってこらあぁぁっ!?」
ハリセンがアインの頭をスパコーン。つまり、関西弁再来。演芸のノリが訪ねてきたので、神秘的な月の夜セットがどこからともなく表れたスタッフの手によって撤去されていく。「せやから違う言うとるやろがっ! 寧ろ初対面のおのれがなんで知って」
「さっきサラサラ団にうかがった時、親切な神主さんにくわしく事情を聞きましたから」
あの神主殺すなどと、子供と一緒に視聴する世のお母さん方の黄色い声を呼び寄せるであろう絶世美男のサラサラ団幹部ゴウ・ヤマナーが思ったかどうかは定かでは無い。こめかみがひくひくしてるが。
ともかく気を取り直して、ハリセンも無に返して、「私はゴウ・ヤマナーだ」と。そう言われていちいち否定する訳じゃないアイン・ダーウン。
「ともかくアイン・ダーウン君、サラサラ団に入りたいそうだが」
再びセットが月の夜に変わった。ちらりと大道具係りの足が写る。現場の声が聞こえないのか、足は引っ込む様子が無い。構わず、ゴウ・ヤマナーは静止せず。
「君には、欠点がある」
「欠点ですか」
きょとんとした様子で聞き返したゴウ・ヤマナーの瞳は、ご近所のマダムを二秒で虜だ。そしてまだ足は写ってる、写ってるよ!
「サラサラ団とはサラサラの髪をなにより尊ぶ組織だ、君はそれを知ってるだろ?」
「もちろんです、台本で読みましたし」
「結論を言おうアイン・ダーウン」
ゴウ・ヤマナー、瞬時。
腰に下げた剣を抜き取り、アインの頭へと切っ先を。アイン、
逃げない。音速の五倍を凌駕する彼なら、逃避や反撃は容易い。だが動かなかったのは、刃に殺意が見受けられなかったから。
そしてその通り、刃は頚動脈を傷つける事も無く。ただ、
アインの髪を、一つ散らす。それを、空いた手で受け止めるゴウ。
掌には、答えがあった。
「君は、天パだ」
、
「天然パーマなのだッ! サラサラ団を願う、アイン・ダーウン!」
稲妻のような衝撃がアインを貫く、演出。それを見ながら、新たな声が挿入される。
『青年の夢が崩れたとしても』
シュラインの良く通る声に合わせて、画面が切り替わる。それは、サラサラ団本部。
『時は、振り向かない』
メイド服、怨。そう書かれた垂れ幕の前で、精神統一をする空木崎。
横顔のアップ。目が開かれて、決意が光る。その奥で蒲公英TWOが何か薬品を揺らした。悪い顔だ。
また、場面が切り替わる。
『流れる』
三つのアフロが並んだ映像だ。しかしけして三兄弟ではない、その内ピンク色は妹だからだ。ピンクは、ギャーギャー黄色に文句を言う。黄色は聞かない。青はやっぱりこの番組に出るんじゃなかったと後悔している。
そして、最後の場面、
『全てから』
そこには、かわうそ? と、
『全てへ』
Nガールが――
マイクスタンドを前にしてた。
◇◆◇
※ 主題歌をバックにして各人の様子を、って貞子っ!? おいおいお前ナレーションの仕事中にスタジオ入ってくるんじゃないよ! ただでさえあのシュラインさんに仕事奪われて、ここだけしかナレーションが、って貞子ぉっ!? 誰か救急車を、救急車を呼んでくれ! 貞子、死ぬな、貞子……、―――、小よ子ぉぉぉぉぉっ! ってげふ痛いじゃないか貞子え、名前まちがえてるってだって一度言ってみたかったぎゃーごめんなさいテレビの奥から出てこないで怖い怖いこわ
ダンス戦隊アフロンジャー
アフロンジャー:藍原和馬/五代真/鈴木恵
サラサラ団:アイン・ダーウン(仮)/空木崎辰一/月見里豪/弓槻蒲公英TWO
ナマモノ団:銀野らせん/|Д゚)
ナレーション:シュライン・エマ
世界の中心で愛を(くださいうおううおうと)叫ぶ:ショタ
♪ 翼二つを 手で編み上げて
出演者協力:草間興信所
ロケ地協力:バラエテ異界
「ってなんだ、もう主題歌か? ……しかしよぉ、オーケストラみてぇな曲はともかく、この歌詞は」
「アフロンジャーじゃないな、どういう事恵ちゃん?」「そんな事聞く前にうちのアフロ外せーっ!」
♪ 流れる赤が 時に果て行く
主題歌:ラ・ナマモノ・レ・ドリル
作詞作曲:謎
歌:謎
「ナマモノ団の歌か……。かわうそ?が動いたな」
「しかし旦那、サラサラ団に入るようゆうたんはかわうそ?やで? やのになんでかわうそ?はナマモノ団っちゅうのに」「みゅー」
「説明は簡単だけど、理解は難しいね。理由は《謎》だから」
♪ 踊る朝と 息絶える夜 月はけして人じゃなく
プロデューサー:鈴木恵
スペシャルアドバイザー:ナマモノ
『そもそもなんであのナマモノが、この異界に来たのかしらね?』
「気にするな、かわうそ?は、かわうそ?なのだ」
『……そうするわ。声に振り返ったらもう居ない、神出鬼没さも含めて』
♪ 感じた刹那 終わる繋がりに どれだけ 敗北するのだろう?
撮影:知らん
編集:聞くな
録音:そんなん知らんでもごはんはうまい
(かわうそ?ちゃんは口をパクパクしとけばいいって言ってたけど、折角だから本当に歌おうかな? でもそれでバレたりしたら、あたしの正体もバレる、なんて事はないか。……それよりかわうそ?ちゃん、どこに行ったんだろう………)
♪ ほら 忘れなさい 屈辱にまみれなさい
♪ 命が命になるには 手を繋ぐしかない
スペシャルサンクス:おじちゃん
「だから悪役の私に娘など居ないと!」
「そうですねー、子持ちだという事になると、全国のお母さんがため息を」
「そういう意味じゃない!」
♪ 一の手に 二の一を 我に螺旋を
♪ 無垢を捨て 欲望し 我に螺旋を
漫画連載:大学二年生、留年/月間うめこぶちゃ
友情:あるよ! だから金貸して!
努力:するよ! だから金貸して!
勝利:やるよ! だから金貸して!
「なんかさ、すでにスタッフじゃじゃなくなってないピンク?」
「ピンクゆうな! ともかく、そんな文句はガタイのええにーちゃんに言え!」
「俺には全然関係ねぇよっ!」
♪ この手から零れようと
♪ 胸に
♪ そう、夢想する
制作:ゴーストTV/アフロンジャー制作委員会
「それにしても、これなんの歌なんだろう?」
「ドリルを歌ってるようだが、詩は極下たる稚拙だな、女」
「だ、誰!? ……って貴方は!」
♪ 二の果ての一はとうに
♪ 胸に
♪ そう、夢想する
◇◆◇
『アフロンジャーは仲間割れをしてるようですが、オープニングも終わりましたので――』
シュライン・エマの声が響いてるのは戦場では無く、GTVの一室。そこには各地を映し出すモニターが網羅されていて、その数と同等の目に晒されている。視線の持ち主達は、アフロンジャーの製作者やスポンサー等の関係者。シュライン・エマが集めた者達だ。
彼女が手をパンッと叩く、彼らの視線を自分に向けてから、語り、
『CMの間に説明をしたいと思います。なお今回のアフロンジャーは生放送ですのでご了承を』
語り。
『これより戦いが始まりますが、誰が生き残りになるかは、皆様方の評価で決めたいと思います。項目はインパクトや美醜それに粘り強さ等、手元に配った用紙にチェックを入れていってください』
さて。と言ってから、シュラインはモニターに視線を向け、更にそこから三回矛先を変えた。一つ目はぶつぶつ言いながら外に出たアフロンジャー三人の場面、二つ目はアインとゴウの対面に空木崎がメイド打倒のハチマキを巻いて、「……なんなのだ、その、ハチマキの文字は?」「文字通りですよ、……これから僕たち三人でこの異界を、いえ、全世界にあるメイド服を焼却しに行きます!」
「サラサラ団関係あらへんやないかいッ!」
「僕は本気だ! それでも僕を阻むなら貴方も打ち倒すまで!」
「会ってすぐに仲間割れかい!? と、ともかく、ともかくだっ! 単独での行動は死を招く大罪、今は耐えるのだ空木崎しんい」
「豪さんだって蒲公英ちゃん助けようとして」「だから誰なのだその月見里豪という男は!」
という二人が言い合ってる間も、「確かにこの髪は、サラサラヘアーじゃありませんからね。どうしよう」とまた悩み始めたアイン・ダーウンが居る場面。
そして三つ目は、その両者をビルの上から写して、さほど、距離は無く。十分後には対するだろう未来をしじゅんする場面。
『今回の勢力はこの二つともう一つ、Nガールが率いるナマモノ団です。今は補足できてませんが、戦いが始まったらモニターに写るでしょう。……さて、皆様に断っておきますが、私はナレーションですのでこれからその職務を果たします。その仕事の始めの対象は、』
第四の勢力と断っておきます、と。
浅い喧騒が起こる部屋で、シュライン、手を上に伸ばして何処からか飛んできたマイクを鮮やかに掴み、身体を半回転した後、モニターを指差し、『あれを見よっ!』
示した画面には、三つの影がゆらゆらり、カメラが寄っていく、輪郭がはっきりしてくる、あれは、『クマだ! 雪男だ! いや、ぬいぐるみだっ!』
――言葉の通り並んでいるのは、もこもこ動物のぬいぐるみ達!
『アフロのもこもこ! サラサラの形状! ナマモノの可愛! その全てを兼ね揃えた究極の戦隊が今ここにっ! 奴らの名前は』
シュラインの声が伝わってるのか、そこで赤いクマのぬいぐるみがジャキーンとポーズ! 青い鳥も、黄色いうさぎも、もこもこもこもこぜんたーい、決め!
『着ぐるみ戦隊!ここに、』
誕生、と、高らかに叫ぼうとしたら、
一斉に倒れる着ぐるみ。うち、クマの頭がはずれころがり、中の人の顔が見えた。熱海の干物、エジプト風に言い直せばミイラ化してる。
「……高温多湿の日本には不向きね」
あんたの発案かい。
◇◆◇
【 帰ってきたアフロンジャー 第七話 】
生死×制止×正史! バトルロワイアルだよ全員集合!
結局一発ネタに終わった着ぐるみ戦隊の画から、切り替えて、――アフロンジャーとサラサラ団、第二次接触の模様。
初音は、声で無く剣戟による響き。エックス字に交差する刃のお互いは、サラサラ団側の方は、宝玉があしらわれている剣を腰にぶらさげていた者を思い出せば、ゴウ・ヤマナーと察せられる。しかしアフロンジャー側の予想をするとなると、初回を見しとかねば解らぬ未来だろう。
そう、始まりの時にもこの剣はあった。「アフロ等、ふざけたイロモノだと思ってたが、力はあるようだな」
と、己の衣装を棚上げしながら、刀身から伝わる威力に対し、余裕を誇示せんとばかりに笑みをもって賛辞を送るゴウ・ヤマナー。そしてそれに対面する者は、アフロンジャーの肉体派、アフロブルー。
彼の職業は前述の通り、剣士でもなんでもない便利屋なので、刃など持ち合わせる訳が無いのである。それは今までの行動からしてそうである、が、
『その刃は、APが二万に達した時に、奇跡として再び降臨する!』
何度も起こったらそりゃ奇跡じゃないだろというつっこみは遥か彼方へおいて、水飲み馬に仕込まれた遠距離受信スピーカーより響く《実況が解説》するにはっ!
『アフロンジャー最強の剣、アフロソードッ!』
「だから退魔宝刀泰山だって言ってんだろっ!」
そう抗議するブルーだったが、すでにこの名称で玩具化してるので今更修正は聞かぬのである。
ともかく両者とも命が目の前である鍔迫り合いが、暫く続いた後、同時に後ろへ飛んで距離を置いた。ゴウ・ヤマナーは砂場へ、アフロブルーはそこへすぐ繋がる滑り台の上へ。身体的に見上げながら、心情的に見下ろしながら、ヤマナーは語る。
「弱き者よ、何を勝ち誇ってるのだ? その剣の力を信じてるならば、滑稽としか言いようが無いな」
「はんっ、おかしいのはてめぇの方だろ? そんなおもちゃの剣で俺に勝てると思ってるなんてよ」
「確かに、武器のみで言えばそちらに部があるだろうな」所詮小道具ですし。
「だが私には《自分》がある、この五体、そして精神は、遥かに君を超えている」
「自慢話は聞きたくねぇな」
刀身で肩を二、三度叩いた後、アフロブルー、
滑り台から滑り降りず、その地点から上昇するっ! 重力に刀身の重さとなによりも己の筋力を加算して、「ぶった切ってやる!」一つの目的の為に全霊をッ。
ゴウ・ヤマナー。
ガキリ、と鋼が響く。
もしごてごて装飾の男の防御が、今まで腰にぶら下げていた剣によるものであれば、その剣ごとアフロソードによって両断されていただろう。
しかし、ヤマナーの手には、「て、めぇ」
「なるほど、良い剣だなアフロブルー」
にやりとほくそえむ理由は、そして、
瞳の色が、深い緑に変貌した理由は、
「これで貴様の勝利は消えた」
《自分》の強さは私が上だと――語るその手には、
同じ、アフロソード。
そして左手には小道具の剣ッ! 思わぬ二刀流に後ずさるアフロブルー、それを許さず追撃する小道具の剣、そしてアフロソードッ!
「必殺技の真似って、ベタすぎんだよてめぇっ!」
「約束は鎮守されるものだッ! それが特撮の中だろうとな!」
二刀を左右に突き出して、緑の瞳を輝かせながらその場でつむじ風のように回転する、それによる二撃の一発目を避け、二発目をアフロソードで弾きあげ、
劣勢がアフロ、優勢がサラサラ、夏の嵐のような剣の舞に、ゴウ・ヤマナーの高らかな笑い声が混ざる。
「所詮貴様はこんなものかっ! やはりイロモノはイロモノに過ぎない!」
「ッ、誰が――」
一転。
「イロモノだこらぁ!」
果たしてそれは爆発するかの如く。
ゴウ・ヤマナーの存在を全て吹き飛ばすのは、両手持ちにより放たれたアフロソードの一撃。手に痺れを覚えながら、マントをひらめかせ着地したヤマナーに剣を突きつけ、
「なんか調子にのってねぇか、このイロモノの敵!」
「実力ある者の当然の権利だ、このイロモノ戦隊!」
そこから言葉は要らなかった。再び、お互いが零距離になるのが開始、一刀流と二刀流が激しく拮抗する。『アフロンジャーとサラサラ団、因縁の対決がボルテージアップする中、他のメンバーはっ!』
おそらくはモニター室で拳を握り締めて実況してるであろうシュライン・エマ、が、
『ポテテ塩味ノリ風味を食べてるって何してるのよ貴方達っ!?』
おそらくはモニター室でずっこけてるであろうシュライン・エマ。が、そんなスピーカー越しの声では心に届かないよと言わんばかりに、軽やかに実況を無視してるのは三人、
「ブツクサ言っときながらノリノリやんあのにーちゃん達」
「つうか、傍観してる俺達の方が問題あると思うんだけどさ」
「とか言いながらすっかりくつろぎモードじゃないですか」
ピンク、イエロー、そして未だどっちつかずのアイン・ダーウン。ポテチは開けたら最後ユーキャントストップなのだ。これ、袋入りだけど。
「だってさ、恵ちゃんがアフロンジャーの代わりに、」らっこちゃう「女帝役やらないって言うんだから、こっちのやる気も萎えて仕方ないし」
「アフロやろうが女帝やろが、」みんくちゃう「こないちゃらけた番組に出る事自体がマイナスっちゅうに」
「でもアフロンジャーって、」かわうそ?は、「局長さんが企画したものじゃ」
「そんな昔の話は、って」かわうそ?なの、っ!?「……なんやこのおもしろおかしい珍獣は」
ポテチで油塗れになった手で、首根っこを掴んだ物体は、「ぷー! 珍獣ちゃう! かわうそ?なのだッ!」である。あ、そうやったと思い出す局長の手の中で、ばたばたするナマモノをみつめて、とりあえず腹をくすぐってみるイエロー。嫌がるかわうそ? 更にくすぐるイエロー。口から波動砲を発射しようとするナマモノ。謝るイエロー。
「こんな所にかわうそ?なんて、ペットとして飼いきれなくなって誰か捨てたんですかねー」
「いや、確からせんちゃんって言うかわいい女の子が、ナマモノ団で出演するって台本に書いてあった気がするなァ」
情報収集の切欠が女の子が多いが、けしてスケコマシという訳ではない。多分。
「まぁとりあえずナマモノとはいえ、客には変わりあらへんから」
なにやら歓迎してくれるのかとわくわくするナマモノ。
「小麦粉をまぶして油で揚げましょうか?」
サイボーグの唐突な発言にビクゥとなるナマモノ。
「っていくらなんでも食えないだろ?」
と、常識的なツッコミに物凄い勢いで首を縦振りなナマモノ。
「せやけど中国四千年の歴史をひもといたら」
あくまで食べる方向性を崩さぬアフロピンクに再度がびーんなナマモノ。
「ところで俺はどうやったらサラサラ団に入団できるんですかね?」
それをアフロンジャーに聞いてもしょうがなかろうとつっこんでもいられない、何故なら何処からか調達したか恵が中華鍋を取り出してるものだからなナマモノ。
「今日ばかりはこの天然パーマが恨めしい限りで」
そんな事より中華鍋におさまって軽く炒められはじめかけられてぷー! ぷー! と野生の咆哮を二、三度、しまいにゃ怒ったのか変な呪文を唱えてゲゲーッ! アフロピンクの服がメイド服にっ!?「女帝じゃないのか」「おのれはどこまでこだわっとんねんっ! ちゅうかなんでまたメイドふ」
その時、一陣の風のように殺気が来襲する!
「なんやこのプレッシャーぬおわぁっ!?」
次の瞬間アフロピンクは浮いていた、正確にはイエローの腕に抱えられて飛んだのである。その場に留まっていたのなら、《玄武》の力で割れた大地の底であったろう。
玄武とは、四神の一つで地の力を司る幻獣。そしてそれを使役するは、
空木崎辰一――
「なななななんやねんなこの巫女のねーちゃんはっ!」
「僕は男だって叫んで来ただろッ!」「んなの知らないって!」
メイド服への憤怒が、普段ポケポケの彼を烈火に変える、燃え上がる気持ちは其の侭技として放たれた。「四大ナマモノが一つ!」いや、だから四神でしょうが。「朱雀ッ!」
声により招聘されし、鳳凰の火力は地獄をも超えて。
周囲を殲滅せんとばかりの豪炎を刹那でかわすイエロー、チリチリのアフロが更に焦げた。ていうか、
「なんでそこまでメイド服にこだわる訳!? アフロンジャー関係ないだろっ!」
「こだわり? メイド服とは悪だ! 悪を倒す物は正義だ、つまり、僕はまともだ! メタルナマモノッ!」
「旦那はん、わいは甚五郎」「メタルナマモノ!」「……ほんまメイド服なると、見境つかんようなるなぁ」
やれやれと猫背で肩をすくめた後、次には、式神には獅子の姿に変化した。全身を覆う銀毛は勇ましいばかりに靡き、瞳は射殺さんばかりにらんらんと。
力、人ならぬ突進を、アフロピンクをかばいながらマタドールよろしく。死線に晒される事により、腕の中で涙目になるアフロピンクメイド仕様、をみつめ|Д゚)なナマモノ。
こうして、サラサラ団とアフロンジャーの熾烈な戦いが、二つに分かれて繰り広げられて――
「……結局どうしましょうか」
アイン・ダーウンはすっかりはみだしサイボーグ純情派である。間違った方向にピュアだけど。所詮この世の中、こうもり野郎は好かれない。派閥に所属せねば憂き目にあうのが現代社会の構造なのだ。しかし、サラサラ団を選択したとしても、今はこの天パがうとましく。かといってアフロンジャーに入るのはあみだくじの結果に反するし、はてさてどうしたものか、
「すいませーんアイン・ダーウンさんこちらにいますか?」
「え?」と振り返れればそこには宅配のお兄さんが、「あ、俺がそうです」
「お届け物でーす、判子押していただけます?」
「判子ですか、今は持ち合わせてませんね。取りに帰ってもここ異界だからマッハ5でも時間が」
「あーでしたら拇印でー」「解りました」
ぎゅむ。
「はい、こちらお届け物になりまーす」
「お疲れ様です」
これでアイン・ダーウンの属性がつっこみならば、って、あんた誰だよ! と終止符をうって今までの一連をノリツッコミとして完成させていただろう。だがしかし彼はどちらかというとボケの部類であった。よって、この異常を容易く受け止め、恙無く小包を開きまして、
果たしてそこには願っていた物、「これはっ」
さらさらヘヤーになる怪しげな飲み薬!
「これでサラサラ団に入れますね! ありがとう、俺の足長おじさん!」
そう薬の瓶を手にとりながら、アイン・ダーウン18歳は、お空に向かって手を振ったのです。はてさて、彼にこんな素敵なプレゼンツを送ってくれた方は、
◇◆◇
ただ今崖の上で、絶賛武闘中。
「くだらぬ、」手撃、「くだらぬ、」蹴撃、
「くだらぬっ!」
投撃、と。
『この小さき身体にどれだけの力が眠ってるのかッ!』アフロンジャー側の実況が途中から響いてなかったのは、さぼってたのでなくこちらに目と声を移したからだ。
とにかくモニター室のシュライン・エマにも冷や汗が出る変わりよう。一体何故、弓槻蒲公英なる少女が、名前を象徴せんばかりに優しい少女が、今、
銀野らせんが演ずる、Nガールに対し鬼神なのか。「くあっ!?」
その少女のかわいい姿に騙されたのが一度だけならば、今は強さを把握してるはずであるNガール、しかし、未だ防戦一方なのだ。破壊の旋律が肌を通して伝わり、本来ヒーローたる自身の肉体が、世界の終わりに対して嘆くように震えてる。折れてないのは心と、ドリル。
だがそのドリルも今は使えない、全くの誤算だ。今ドリルを回転させれば、上にかぶせてるかわうそ?ちゃんのパペットが千切り飛んでしまうっ! ナマモノの口から出るとんがりも、こうなっては無用の先端。……否、
『否、たとえドリルを回せたとしても』
実況のシュラインの声が、汗を握る。『目前の少女に勝利出来る確立は、』
「無よ」
実況の続きを己で補足した後、
蒲公英TWOはそのドリルを掴み、そして、相手が引いた反動に乗算するよう己の肉体を回転させる。
相手の動きに仕掛けるように合わせた動作で、Nガールは三回転した後地面に伏せた。
なんたる屈辱かっ! 己の螺旋を回せず、あまつさえ、敵に回されるとは! しかし涙を出そうにも、それを許さぬ程の苦しみが蛇のように身体にのたうつ。
『蒲公英は、』
「その名で呼ぶな! 我は蒲公英TWOなり!」
遥か彼方にあるモニター室へ、直接届きそうな程の声に、ひるみながらシュライン、『蒲公英TWOがNガールを見下ろしている! 虫を哀れむというのか、その心は何を映し出しているのか! ……って、本当に蒲公英ちゃん? またあのナマモノが何か』
思わず素に戻ったシュラ姉さんをほったらかして、
「数が力とするなら」
演説が始まる。「貴様程の弱者はおらぬ事になるな、ナマモノ団。いや、団と称すのも箸が転がる」
おかしい、という意味なのだろう。実際蒲公英TWOは悪鬼のように笑っている。
思い通り事が進んだのが嬉しいのだろう。戦略とは、一番弱い物からノミを潰すように攻略していく事。そして第一の成功は今ここに。血を第二の開戦の狼煙としてあげようか、そう考えながらゆらりと近づいていく蒲公英TWO、
「私は、一人じゃない」
Nガールの台詞だ。「私は一人じゃない、供に戦う仲間が居る」
「仲間、だと? 笑止、貴様は」
孤独、そう答えた言葉を、
否定せんとばかりに空から数百のナマモノが襲撃してくるっ! それはウサギ、それはネコ、それはイヌ、それはそれはそれはそれは、
「行けぇっ! ナマモノ団ッ!」
『これは形勢逆転だ! さながらスイカに群がる蟻の大群、蒲公英TWOに次々と飛び掛っていく、蒲公英TWOが言ってた通り、数の力に負ける事になるのか!』
熱のこもった実況に奮い立つNガール、相手は女の子ゆえに、気絶するまでにとどめるとして。だが、とどめは、この魔法のドリルで、
悪しき精神を砕けば――
「馬鹿者が」
「え」
疑問符が口をついて出た途端、
空からレーザーが照射された。
巨人の鎌の一閃が如く、群がるナマモノは爆発で飛んだ。死には至ってない、いや、敢えて加減したのか。
累々たる死に掛けナマモノで埋まった雲の上で、蒲公英TWOは笑ってみせた。Nガールの背筋が、ぞくりと。
「我が、殲滅兵器を欠かすとでも?」
思う、普通思う。というかこれはアフロンジャーっていうおちゃらけ番組だったはずである。なのにあなたレーザーってなんのSF漫画であろうか。戸惑うNガールの戸惑いを、
覇王たる蒲公英TWOが見逃すはずも無く。「死ね、弱者」
声に、気づかぬ内に本能が、パペットを被ったドリルを回し始めようとした瞬間、
「あ」
「え?」
「うい」
蒲公英TWOとNガールの間に、ナマモノ。途端、
『あーっと! 突然蒲公英TWOが気絶しました! 動きません、動きません! さっきまでの猛攻はなんだったのでしょうか!』
とか実況が聞いたってわからぬ事態、とりあえず蒲公英TWOは、何故か《かわうそ?を確認した瞬間》意識を失ったのだ。これもかわうそ?の謎能力であろうか。
とりあえず、数百のナマモノ達を一旦崖の上の森に帰しながら、かわうそ?をぬいぐるみみたいに抱えるNガールである。「もー、どこに行ってたのよかわうそ?ちゃん。いっぱい心配したんだからっ」
頬をふくらまして怒りながら、ぎゅうっと抱きしめるNガール。軽く変形するナマモノ。とにかくらせんはかわうそ?激ラブなのだ、人の嗜好は多種多様というのに、かわうその可愛さで世界平和を目標にしてるのだから。いや、思わず賛同しそうだが。
とりあえず「らせん! 苦しい!」と意思表示をするナマモノ。慌てて緩む腕。
「ごめんごめん。……でもこれからどうしようかわうそ?ちゃん。やっぱり、あのかわいくないアフロを倒しに行く」
アフロに対する大いなる誤解は、おいといてかわうそ?、「それよりもあれ見る」と、鼻先を向ける先は崖の向こう、はてさてなとナマモノを抱きかかえながら際まで移動して、
崖の上から異界を見下ろせば――
街が、縦横無尽に伸びたサラサラの髪に飲み込まれている。
「……ええぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっぇっ!?」
――ダンス戦隊アフロンジャー!
◇◆◇
『……って、アイキャッチ入ったけど、なんでCM流さないでここが映ってるのかしら?』
カンペ、スポンサーが今回ついてないんです。
『だからってモニター室なんか映してどうするのかしら?』
カンペ、シュラインさん、今現在でのスポンサーの反応をレポートしてください。
『ああ、今ここではスポンサーの方が各チームの奮闘ぶりをチェックして、今後に生かそうとしてるわね。……いちいち説明しないと、視聴者忘れてるわよ』
カンペ、巻いて巻いて!
『本当、ここのテレビ局って行き当たりばったりね。それじゃこの方のアンケート用紙を借りてと。ええと、アフロはいい、パンツを映せ、……って』
カンペ、いやまぁ大多数の意見かと。
『なんだか直球過ぎて笑えて、……いえ、やっぱり笑えないわね』
カンペ、それじゃCM開けまーす。
『こんな適当でいいのかしら?』
◇◆◇
言うなれば黒い海原、言うなれば闇の絨毯、言うなれば髪の密林、言うなれば、
アイン・ダーウンから伸び続ける髪は、すっかりバラエテ異界に侵食したのである。GTVの中枢であるTWO-TEN-KAKUに、小学生の自由研究でおなじみの朝顔のツルよろしく絡んだり、蟹や河豚の看板も引き摺り下ろす始末。お天気お姉さんならばバラエテ異界に降髪確立を設けるであろう。
そしてその被害により、状況が変わるのは一組、「いくらなんでもやり過ぎだろ! どう始末つけんだよっ!」「私の預かり知らぬ事だ」と言って、先程まで互いに振り合っていた剣を、芝刈りよろしく無限に増殖するサラサラヘアーに翳すブルーとヤマナー。
大して現状維持、相変わらずなのは勿論、「った! クソ、足に髪が絡む、って待てってストップ! あのさア、今は喧嘩してる場合じゃ」「問答無用! メイド服に聞く耳は無しッ」メイド服殲滅を本日から未来永劫に渡り標語にしてる空木崎辰一と、女の子をお姫様ごっこにしてる姿も様になる、ただし、両者ともアフロを被ってる事さえ除けば、な、アフロイエロー。髪が直接に被害として及ばないイエローの腕という安全地帯のピンクは、メイド服が引き起こす絶体絶命を後回しにして、下手すれば異界の終わりに通じる事に対して、
「さっさと髪伸ばすのやめへんかあほぉ!?」
と、髪の毛を24時間フル回転の工場が如く大量生産し続ける、アイン・ダーウンに申し叫ぶのであるが、
「とか言われましても、この飲み薬飲んだ途端この有様ですからね、一体どうしたものか」
「他人事にすなぁっ! 気合と根性でなんとかならんのかい!」
その力が物事全てに通じるならば、年末ジャンボは一等続出だ。と、言う訳で、本人も制御出来ぬ発毛促進は、全国のケガナイ人々からの羨望の視線を集めながら伸び続けて。アフロブルーとゴウ・ヤマナーの剣の切れ味が幾ら鋭かろうと、空木崎辰一がメイド服を燃やし尽くそうと放ち外れた朱雀の力が一瞬で多くを消し炭にしようと、侵攻は止まらない。
意を決したのは、ゴウ・ヤマナー、
「同胞を葬るのは信念の挫折だが」
そう言って彼は、ブルーから貰い受けたと同じ、アフロソードを鋭くアイン・ダーウンに構え、霧のように立ち込める先に居る彼へと、剣、
「サラサラ団における尊き犠牲だ、潔く散れ、アイン・ダーウンッ!」
そう叫ぶと同時髪を老練の美容師が如く切り分けて、本体たる小麦色の彼へッ! 切りかかる、
だが、「ってぅおっ!?」
と、二枚目役が台無しの、コントみたいに前のめりにこけるゴウ・ヤマナー。位置は《マッハ5》でかわしたアイン・ダーウンの背後、
「もう危ないじゃないですか、あやうく死んじゃう所です」
「ク……ッ、貴様は約束を破る冷血漢なのか、今の場面はくらってなんぼだろっ!」
「けど、月見里さんだって痛いのは」「ってせやからその名前で呼ぶなっ! ちゅうかわざと言ってるやろおのれはっ!」
ハリセンを空中から取り出しぶちかます勢いだったが、それも新たな髪の毛が壁になった事で阻まれる。舌打ちをしながら後ろへ。「アフロンジャー、一時休戦だ。この髪をどうにかせねば間違いなくこの異界は終わるぞ」
「もう変な番組にでなくて済む事考えりゃそっちの方がいいけど、そういう訳にはいかねぇか」
『戦いの中で交わされた熱き友情、』忘れた頃にやってくる実況である。『しかし、未だ繋がれず、磁石の同極のように反発し合う間も有り』
言うまでも無く、メイド服憎しの空木崎と、追われる側のアフロピンクである。とは言っても、「このイエローの兄ちゃんの腕の中におったら安全やけどなー、あれ、うちってちょっとしたお姫様? せやなぁ争いは愚民どもに任せて、それを高見の見物する役。しかしこの腕寝心地がええわぁ、まるで洗い立ての髪のようにツルツル」
……洗い立ての髪のように?
『アフロピンクはその時気づいた』「イエローおらへんやないかー!?」
自分を抱えて防戦してた彼は空気のように皆無と化して、慌てて辺りを見回すアフロピンク、の前に、
メタルナマモノこと獅子の甚五郎と、みゅーと鳴きます定吉、そして、
今、メイド服に現世全ての恨みを込めて。「ちょ、ちょっと巫女のねーちゃん、なんや目が人殺しの目なっとるで」
あははと冷や汗を書いて笑うアフロメイド、に、
「天罰覿面!」
「何の神に逆らったんやぁっ!」
容赦ない一撃が向かって、第三部完! となりそうに!
されど、閃光。
目を焼かんとばかりの壮絶な白光が、空木崎を始め、周囲の者達の目を伏せさせた。たっぷりと十秒時間が空く、
一番初めに瞳を開いたのは、まさにその光に命を救われたばかりのアフロピンク。「な、何が起こって」そう呟きながら、異変に気づいた。
いや、相変わらずアインの髪は絶賛発売中である。異変は己の身に降りかかった事、アフロピンクのメイドの衣装、
今は、下着一丁である。
「ッっッ!!!」
と言って顔を赤くしてその場にしゃがみ込む局長を見ながら――場面変わっモニター室、スポンサー達はすたんでぃんぐおべーしょん、生まれも育ちも違う彼らの心が、今、一つに! シュラインお姉さんによる制裁と、暫くお待ちくださいの画面に変える配慮をしたが―――とりあえずその画面が解除された時には、アインの延び放題の髪を身体に巻きつけての再登場である。意外に肌触り良し。
とりあえず、乙女の恥が晒された原因は、メイド服を着る事になった所以と同じで、
「局長、チチナシ」「このナマモノォォォッ!」
かわうそじゃなくかわうそ?である。涙を目じりに溜めてキーキー叫ぶ恵を、さっきとはうってかわって優しく抑える空木崎辰一。彼の心の中で、メイド服を消滅させる長い旅が終わりを告げたのであろう。一人で騒いで一人で完結する流石さ。
そして、そのナマモノに引きつられたのは二人だった。「本当、大変な事になっちゃってる」と汗を書いて異常の渦中に飛び込んだNガール、そして、
「た、蒲公英!?」
ゴウ・ヤマナーが素に戻り、お父さんの顔である月見里豪として駆け寄る、気絶している蒲公英である。「おのれ、蒲公英に何したんやっ!」
我を忘れてNガールに詰め寄る豪さんに、らせんはたじたじしながら答えた。
「な、何もしてませんよ。……なんかかわうそ?ちゃんと目を合わせた途端、気絶しっぱなしになっちゃって」
かわうそ?が――そのナマモノを見るゴウ・ヤマナー。そんな彼に対し、未だ暴れる局長を馬をなだめるようにしながら空木崎辰一は口を開き、
「良く解りませんが、かわうそ?が居る限り、蒲公英ちゃんは暴走しないみたいですね」
それは、吉報である。「娘さんが落ち着いて良かったですね豪さん」という続けられた声にも、目を少し伏せながら、「娘ではないと言ってる」とそっけなく言うが、内心は穏やかだ。隠そうとしても唇が緩んだ。懸念していた問題が一つ解決して、後は、
「あの髪を抑える事だな、あのサラサラは、正しきサラサラでは無い」
「……しゃあねぇな、敵と組むなんてベタでかっこ悪いけど協力すっか」
ヤマナーを先頭にして、続くブルー、そして、「メイド服の終わりは人類の夜明け、それの障害は取り除かなきゃ」
四大ナマモノを召還しながら空木崎。ここまでは三人、そして、最後は、
「君はどうする? かわうそ?を模した者」
いきなり話を振られてNガール、一度慌ててから、改めて応答、「どうするって」
「今は敵と味方に別れてる場合じゃない、供にこの脅威を砕くのが先決だ。誰の責任かは今は問題ではない」
「でも、俺がこうなったのってきっとサラサラ団の蒲公英TWOさんが原因で」
「おのれがろくに確かめんと薬飲むからやろがっ!」
娘が絡むと役を見失うゴウ・ヤマナー。とにかく、彼の誘いに対するNガールの答えは決まっていた。
不意に、肩へ舞い降りるナマモノ。動じる事無く、顔を向けて、そのかわいさに手をやりながら、彼女は参戦を。
ナマモノ団の目的は、このかわうそ?の可愛さによる、永遠の平和。
後でかわいくないアフロは退場させれば良いし。さり気に怖い事を考えながら、ゴウ・ヤマナーを中心とした戦列に並ぶ――
その編隊の光景は神々しくさえあり。『今、アフロもサラサラも、そしてナマモノの間に、隔たりは無くなり』それに合わせるように美しい声で、朗々と流れるシュライン・エマの声。
『争いを止める事が真の強さならば、彼等は今、高らかにそれを手にした』
サラサラ団からはゴウ・ヤマナー、空木崎、
『争いを無くす事が真の夢ならば、彼等の一歩は、それに続く』
アフロンジャーからは、ブルー、ピンク、「うちも入ってるんかいっ!」
『争いを捨てる事が真の愛ならば、彼等は、』
ナマモノ団からは、Nガール、かわうそ?
『その資格を』
愛、Nガールには夢があった。
世界人類ナマモノ団計画、全てにかわうそ?のラブリーキュートを、全てにかわうそ?の謎能力を、全てにかわうそ?のかわうそ?を、
全てを――それは真の幸福たる世界、
「あ」
「ん、どうしたよらせんちゃん?」
ブルーが尋ねても言葉を返さないくらい、衝撃の事実にNガールは気づいたのだ。肩の上でヨガポーズをしてるかわうそ?に目をやりながら、その事を言葉にする。
(ナマモノ団に居たら、かわうそ?ちゃんを独占できない)
「どうしたのだ? まさか今更怖気づいたのか?」
「所詮相手は髪ですから、そこまで怖がる必要は無いと思いますけど」
「恐れる必要は無い、か……。ヒトって、見た目だけで判断して、泣きを見る生き物ですよね」
「……いや、髪の山に埋もれながらくくって笑うなよ、微妙に怖ぇ」
ほんのり危険な香りを放つ髪の発生源に突き進む四人、(一人は髪で必死に自分の薄い身体を隠し中)であるのだが、
その中の一人、Nガールが停止して、
ドリルに被せてあったかわうそ?のパペットを投げ捨てた。へ?
――誰かが声をかける前よりも早く、
「ご、ごめんなさぁいっ!」
「ってなんでジェットで飛んで行ってんだよっ!?」
「ナレーションで盛り上がってたのが無に!」
ブルーとヤマナーが激しくつっこむ中、一人ポケーと、ドリルガールとかわうそ?の逃避行を、猫の姿に戻ったナマモノと供に見送る空木崎。
ただ、逃避で失われるのは彼女の存在だけで無く、
「ん? ……!」
もう一つ、あったのだ。「どうしたんだよイロモノ紳士」
目を細めながらのブルーの言を気にせぬ程、ゴウ・ヤマナーは戦慄した。彼に比べれれば軽度なれど、それは空木崎にも重なる。
目撃した物でなければ、その恐怖は解らぬ。かわうそ?が離れた事によりゆうくりと、蒲公英TWOが胎動し始めた。
正確には立ち上がろうとする動作。蒲公英で無く《TWO》として、意識を成立させるかのように。ゴウ・ヤマナーの脳裏に、我が娘に殴られた頬の痛みが思い起こされた。いや、叩いたのが本当の意味での娘ではない事には気づいてる、だとしても、あの一撃は心まで揺れたのだ。
選択儀の無い運命に対しての人間の弱さを思い知らされるゴウ・ヤマナー、久々の(数日だが)再会で思い知らされる境遇、
ただ、為す術も無いかに見えた、が、
突然の出来事が、娘への愛を思い出させた。突然の出来事、
アイン・ダーウンの髪が鎌となって、起き上がろうとする蒲公英を襲おうと。
気づいても、空木崎の朱雀も、ブルーのアフロソードも間に合わない、遠すぎる距離と時!
凌駕したのは。
……蒲公英TWOが目覚めると、目の前に誰かの顔。記憶にある、何時も、懐かしい。
腕のぬくもりが背に伝わり。
「大丈夫か、」
、
「蒲公英」
髪で形作られた死神の鎌から、
身を挺して守り抜いた。
それは、父だろうか。
何よりも愛しいゆえに守ったのは、「蒲公英」
深い緑を捨てた瞳へ、ただ人間として精一杯自分を救った瞳へ、
蒲公英は、
言った。
「離せ、死ね、息が臭い」
―――、
「ああっ! 月見里豪さんが海よりも深くうなだれているっ!」
「何ショック受けてんだっ!?」
最早本名を呼ばれた事など耳に入らず、蒲公英がグレてもーたーと延々と呟きながらうなだれるとーさま。大の男を此処まで貶めた蒲公英《TWO》は、普通に歩行し、髪を掻き分けアイン・ダーウンの隣へ。「良く薬が効いてるようだな」
「あ、やっぱり蒲公英TWOさんが薬をくれたんですね」
色々修羅場がある中で、マイペースなサイボーグ。蒲公英TWOはにやりと笑い、アイン・ダーウンの頭を掴んだ。
「最早、我に敵無し!」
歌うように叫ぶと同時、アインの髪が荒れた海のように狂う! それを足元にしていた連中は当然身体が揺れて、黒い髪の中に埋もれて行く最中、
『こ、これは』
モニターに映った光景に、シュライン・エマは絶句した。
現れたのは黒髪による巨人。
――ダンス戦隊アフロンジャー!
◇◆◇
CM明け、ついにあの女が帰ってくる。
体力を消耗する飛行能力を収め、二本の足で異界外への二人(一人と一匹)の脱出を図った元Nガールのドリルガール、しかし、その途中大変な事に気づく。
「かわうそ?ちゃんが居なくなってる!?」
だっこしてたのにもう居ない、流石は神出鬼没のファイター、探し出す為踵を帰して、気づいてみれば元の場所、果たして、そこには!
急転同地の新展開! チャンネルは其の侭!
『本当もうすぐでしょ』
◇◆◇
Nガール改めドリルガールを始め、空木崎にしてもブルーにしても、何より髪の持ち主であるアイン・ダーウンにしてもあっとびっくりためごろーである。未だ涙を流す某ホストは除くが。
髪で作られた、黒い巨人。
そして先制は驚きで止まった人間で無く、感情の無い異形であった。
「っくはっ!?」
余りに不意を突かれて、ブルーは巨人の手をくらった。何億本と束ねられた毛は、ダイヤよりも硬くブルーを打ちのめす。口から、血が漏れた。とーさまは立ち上がれない!
遅れをとったら負けの図式を目の当たりにして、今度はこちらが先手と、四大ナマモノの内風を司る百個を呼び出し、嵐を巻き起こした空木崎。しかし焼け石に水、大地にに暴風、風の抵抗を押しのけて空木崎を踏み潰そうと。親指の腹が肩に直撃した。
ここまでの経緯は十秒にも満たない、不意をつかれたとは言え、人間がサラサラの髪に屈している。有り難くない史上初を、一人、賛歌するのは蒲公英TWO。
「ハーハハッハハッハッ! 無様と無様! 大無様めっ! 貴様達では最早止められぬ、全人類を闇の彼方に葬り去るのはな!」
『言い方はかっこいいがサラサラ髪という事実が嫌な感じであるっ! しかし、絶望的なのは確か』
実際、ただのサラサラ髪の人型に、ドリルガールこと銀野らせんは底知れぬ恐怖を。今まで幾度の危機をドリルで打ち砕いてきたというのに、何故こうも怯んでしまうのか。理由があるとすれば、余りにも、髪がサラサラだからだろう。これがアフロならば問答無用ドリル大回転であるが、サラサラの髪は綺麗で健やかなのだっ! ただの好き嫌いとは言ってはならない。
ゴウ・ヤマナーが懐かしい娘との思い出に逃げ出し始めた時、
「死ね」
残酷な命令形がドリルガールへ、必死で応戦しようとドリルを突きつけようと。が、長い髪が絡んでくる! ドリルとしての性能が落ちて、また、別の髪が。
「何してるんですかアインさん! 自分の髪なら止めてください」
「いや、でも俺、あみだくじでサラサラ団ですし」
「……それもそうですね」「納得すんなよボケ神主!」
抜けたやりとりとは対照的に、今にも血が溢れそうな相対、そして、
「いやぁぁぁっぁあぁぁぁあああぁっ!」
ドリルガールが叫びを発して、
『これが最後の声、』、『い、いや! 違う!』
シュライン・エマが実況を変える訳、第一に、髪の毛巨人の攻撃が止まった事。もう一つはその止まった理由、
「な、なんだありゃ」
「……随分とたくましくなってますね」「旦那、それちゃう」
と、式神に突っ込まれてもそれが空木崎辰一の正直な感想である。何せ、遥か100メートルくらい先に、
40メートル級ナマモノ降臨。
思わぬビッグサプライズに、泣き伏していたゴウ・ヤマナーも立ち上がる!
「何故大きくなったかは解らぬが、それも全て謎のおかげだな!」
『説明になってないようで説明になってる! とにかく突如巨大化したナマモノ、そして、今歩き始めて!』
明後日の方向にグッナイ。
「って帰るんかぁいっ!」
つっこんだのは髪に埋もれてすっかり忘れられていたアフロピンクである。この人も出番終了。
嵐のように現れて、嵐のように去っていく。残りますは破壊の爪痕。「かわうそ?ちゃんどこ行くのー!」「追いかけるなよ! ただでさえ戦力が少ないのに」
ドリルガールを引き止めるブルーの声に、反応して蒲公英TWO。
「戦力? 一人二人増えた事で、サラサラの髪に勝てると思うてるのか?」
すでに勝利を確信したかのよう、蒲公英TWOはアインの頭を掴んだ。「あ、そこ気持ちいいです、頭がハッキリとしてきて」無意識にマッサージ。
そう、蒲公英自身は素直で優しい子なのである。それが何の因果でこのような暴帝として君臨してるのか、解らない、仮にかわうそ?が原因としても謎の一言で済まされて解らない。
解らなくても、異界の破滅は、全てが闇の中に落ちるのは近い未来で。
「最後ゆえ苦しまぬよう、全員の首を絞めてやろう」
「た、蒲公英」
「我は蒲公英TWO」
静かに微笑み、「弱い奴めを踏み越えた者、弱い己に打ち勝った者、」
手をあげて、
「真実の己」
下げ、
『今、』
シュラインの声、
『終止符が』
各人の首にサラサラヘアーが蛇のように絡み、そして、
『打たれて』
収縮する――
◇◆◇
『その時こそ、』
シュライン・エマは笑っている。モニターに映る絶望的な情景を、吹き飛ばさんばかりに笑っている。
『その時こそ、ヒーローは、』
、
『来る』
◇◆◇
「これは何だ、」
その時の一言は、蒲公英TWOらしかぬ。動揺が含まれた声色にて発せられた。すぐさま、声再び、
「これは何だぁ!」
呪うかのように叫ぶ隣で、アイン・ダーウンは髪を伸ばしながら、感嘆する。「これは」
その場にいる者たちの感情は、今日何度目かの驚きの中で、一番希望に溢れていたかもしれない。その様を見下ろして、
アフロイエローは、コクピットで笑った。さんざん無くした出番を取り返す為にも、
「発進するぜ、」
そびえたつはプラチナの城、に黄金のアフロを被せたの! 名称は、
「真、アフロロボッ!」
――真アフロロボテーマソング
♪ そのアフロ 質実にして剛健
「な、何処からか歌が流れて、一体誰が!」
「そのアフロォッ、美人にして薄命!」
「ってブルーおのれかいっ!」
「ロボが出たのに歌わずにいられるかよ!」
「いや、別に歌わなくてもいいだろ、って何処に行くんだ、ってああアフロロボに吸い込まれて――現代科学に出来るはずがッ」
♪ そのアフロ 五里にして霧中
「ううん豪さん、かわうそ?ちゃんが言ってた」「何度も言うが私はゴウ・ヤマーだ」
「アフロを被った人はAPが宿るらしいの、そしてAPはあらゆる奇跡を起こすって。それは本当だったのよ!」
『って、感心してるセリフみたいだけど、顔は信じられないって表情してるわよ』
「……だって、アフロかわいくないし」
♪ そのアフロ 朝三にして暮四
「さてと、帰りの荷造りはこれでいいかな」
「旦那旦那、まだ番組終わっとらんで」「みゅー」
「え? だってロボが出たら戦隊物は終わりだろ?」「いや、そういう問題やなくて」
♪ そのアフロ 焼肉にして定食
「それは四字熟語じゃないと思うんだけど?」
「細かい事は気にしないでください、ともかく、やっぱロボは男の浪漫っすね」
「ああ、真になってパワーアップ、スポンサーも大喜びだ!」
『おもちゃメーカーあたりかしらね』
♪ そのアフロ――
「「真実にして一路っ!」」
二人合わせての掛け声が起動である、ずしりと踏み出された足により、地に這う髪が千切れる。それを見てアイン、
「……そういえば、これだけ髪が伸びてたら、ハゲるんじゃ」
今更んな心配しても――そう突っ込まないのは余裕が無いから、逆に余裕があるからか、
どちらにしても蒲公英TWOは笑う、「我がそれしきでひるむかッ!」
一度叫び空気を振動させた後、
「黒髪の化身よ」
手を前に突き出し、アインの髪の毛に号令を下す体勢、
「殺戮せよ!」
命が下った瞬間、身体である髪が分散して、アフロロボの四肢を縛り上げようと、これで、
「終わり」
その瞬間、
何かが砕ける音がして。
それが響くと同時に、蒲公英TWOの意識がぐらりと揺れて、「き、きさ、ま」
背後に目を向けたならば、「ドリルガール、ただ今参上」
銀野らせんの魔法のドリルが、蒲公英TWOの精神を砕いたのだ。ヒビが入ったガラス、それからは、崩れるのが早かった。ばさりと倒れる蒲公英、それを受け止めるのはゴウ・ヤマナー。……気を抜くとすぐ月見里豪に戻りそうではある。
ともかく、番組はまだ終わってない。真アフロロボが黒髪の化け物を倒す迄がアフロンジャーなのである。それを無視して帰ろうとする神主も居るのだけど。
蒲公英が救出されたのを見取ってから、アフロイエロー、すっと笑って。「アフロガン発射準備!」
その声に応じてブルーはボタンを押した、「エネルギー充填60、80、100、……120パーセント!」
それからやっとアフロロボは、腰に下げていた銃を握った。今にも襲い掛からんとする黒い髪の化け物へ構えるそれの造形、銃口は広く、銃身は円形、取っ手にはスライド式のレバーで、コードが伸びており、って、
『ドライヤーじゃない』
日常的な物に本音を漏らすシュラインの声が聞こえたのかどうか、アフロイエローはこう言った。「アフロロボのドライヤーが、唯のドライヤーだと思う?」
『……まさか』
その一言に密かに淡き期待を抱いたのは一人、後のメンバーは嫌な予感である。蒲公英ONEを抱えながらゴウ・ヤマナー、
「まさかとは思うがアフロンジャー、そのドライヤーは」
「シュラインさん、解説お願い」
そう促されて、それ来たと目を輝かせるのはもこもこフリーク。
『おそらく、いや、絶対的な未来、この巨大たるドライヤーは、圧倒的な物量たるアイン・ダーウンの黒髪を』
アフロにする為存在するっ!
その素敵な出来事を予想してシュラインがめろりとなる中、ドリルガールは聞いた。
それって、あたし達も巻き込まれるんじゃ?
ブルーは答える、当たり前だ、と。
「離脱するぞっ!」
大脱走が開始される、せっかくここまで美形のキャラで来たのに最後がアフロでは台無しだ! いや、己もそうであるがもしこの蒲公英が、アフロになる事があれば!
――それは筆舌に尽くせぬ地獄
願い空しく、ドライヤーのスイッチが入る。
、二人きりのサラサラ団は遥か遠くへ。
照準を、襲い掛かってきた髪の毛へと。
、ナマモノ団というかドリルガールは上空をひたすら目指して。
秒読みを開始するコクピットのアフロンジャー。
、え、ていうかうちまた忘れられてる? なアフロピンク。
スリーで、ツーで、ワンで、そして、
、|Д゚)
ゼロ。
その時、アイン・ダーウンの心に去来したのは、
◇◆◇
………、
………、
……え、いや、
「別に何もありませんが?」
◇◆◇
ドガラフロオライアロロゴッオクレテスイマガガゴドロホォッ!!
『とてつもない爆音! 果てしない爆発! 金の輝きよりも凄まじいドライヤーの威力! 今、アフロロボの正面は、一切の煙。しかし、』
そこに隠れて確かにあるのは、
『……もこもこ』
果たしてシュラインが言うとおりに、今、異界は、
アフロに包まれている。
「……やっと終わったなア」
「ええ。……やっぱりアフロンジャーって、イロモノ中のイロモノですね」
「ああ、それにしても見てみろって」
コクピットから眺め見えるのは、元もとの天然パーマの力が、自然に、そして素直に引き出された事により発揮された、完全なる地毛のアフロ。どんな肥沃した大地よりも価値があると、シュライン・エマだけは感じたのかもしれない。彼女さんざん言ったとおりもこもこ好きだし。
そして危うく難を逃れたドリルガールと某親子は、
「遠くまで逃げなくても、僕みたいにアフロロボの足元へ逃げれば良かったのに」
今更言われても後悔するだけの事を、空木崎から聞いたのだった。
そして、何より今この異界を全て支配するアフロの持ち主、アイン・ダーウンは、
「……いや、別に何もありませんね」
気の利いたコメントで番組をまとめるなんて不自然な演技と、今のセリフで主張していた。
こうして、
アフロンジャーとサラサラ団、そしてナマモノ団の三つ巴の戦いは、これで終結したのである。世界で一等愉快なアフロをサイボーグに。そして、
「……死ぬ」
コントで爆発落ちをくらったまんまのアフロを、某局長に残して。
◇◆ シュライン・エマ通信 ◆◇
みんなお疲れ様、とりあえず冷たいジュースでも飲んで、
「って待てぇ幽霊作家のねーちゃんっ! なんで局長であるうちを差し置いてあんたが仕切っとんねん! ってかなんや通信って!? ファミかッ!?」
最初に言ってなかったかしら? 今回の各人の活躍をスポンサーに評価してもらって、今後の番組の参考にするって。
「あー言うてたようなそうでないような」
「とりあえず、アフロンジャーは安泰っぽいけど」
「って黒服のにーちゃん!? なんでおのれまででっぱって」
「だって俺の見せ場アフロロボぐらいしかなかったろ? 話にオチ付けたのも俺なんだから、おいしい所はいただかなきゃね。それで、肝心のスポンサーの意見は?」
まぁ、根本的に何か間違ってるって至極まともな意見がほとんどだけど、「ああ、それは解るような」
後はやっぱりお色気が欲しいってあるわね。……男って、もこもこだけじゃ満足できないのね。
「ボケてるつもりで言うとるんやろうけど、幽霊作家のねーちゃんが言ってもシャレならんで実際。てか、お色気やったら、今回うちのサービスショットあったやん」
「でもチチナシ」
「ってこらナマモ、って、あ、声だけっ!?」
「いや、俺は恵ちゃんでもOKよ? でも願わくば女帝役の方が」
その話は流して。まぁ、今後のアフロンジャーについては《適当》なのが一番望ましいかしら?「なんちゅう投げやりな。はぁ、これでほんま番組やっていけるんかなぁ」
「でも一番投げやりなのは局長さんって噂ですよね」
あら、普通の天パに戻ったのね。……惜しいわ。
「残念がらなくても巨大アフロはあそこに残ってるしさ」「はよ撤去せい」
◇◆ おまけ ◆◇
「ったく、あんだけきつい事したのにギャラこんだけかよ。やっぱイロモノ戦隊は出るものじゃねぇよなぁってあそこにいるのは三下さん! ああネクタイの締め方が間違ってるのがまた良いんだからっ!」
今週のトレビアン、五代真は、三下さんの事になると物凄くボケる。
◇◆ おまけTWO ◆◇
「あの……とーさま?」
「うおっ!? な、なんや蒲公英、どないした?」
「………とーさま、どうしたの?」
「い、いやはは別に何も。……TWOの方ちゃうよな」
「………?」
◇◆ おまけちゃう! おまけ?なのだ! ◆◇
「それにしてもアフロンジャーっておかしかったよねぇ。どうせ戦隊だったらナマモノ戦隊とか。あ、それ凄く良い! かわうそ?ちゃんだらけの戦隊で、それじゃあたしが司令官ね! ああでもそれじゃ、どのかわうそ?ちゃん選べばいいか迷っちゃうし」
|Д゚)……。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1335/五代・真/男/20/便利屋
1533/藍原・和馬/男/920/フリーター(何でも屋)
1552/月見里・豪/男/25/ホスト
1992/弓槻・蒲公英/女/7/小学生
2029/空木崎・辰一/男/28/溜息坂神社宮司
2066/銀野・らせん/女/16/高校生(/ドリルガール)
2525/アイン・ダーウン/男/18/フリーター
◇◆ ライター通信 ◆◇
申し訳ありません。
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