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<東京怪談・PCゲームノベル>


☆君に誓いを

 あやかし荘の花見から数日後のこと。
 長谷茜は、ある事で気を重くしていた。
 三角関係から四角関係に発展し、収拾がつかなくなった。実際決断する方というのは幼なじみのすることだが、気が気でならない。天然剣客は自分の今の状況をどう思っているのか全く分からないのだろうか?そのくせ人の恋愛にはよく反応し冷やかしている。こまった幼なじみである。
 信じているのだが、今は妹弟子である自分より年上の女性に好意を寄せているのは、クリスマスやメイド服騒動や先日の花見から分かっているし、かつ稽古の途中の戦闘でのトラブル……。要素がありすぎだ。瀬名雫はその事を知らないが、知ったら大事になるだろう。とは言っても、彼女の場合、義明のオーラに魅了されただけと考えるべきだろう。
 長谷神社全体の掃除を済ませた茜は、家の縁側でため息をつく。
「どうしたらいいのかなぁ」
 手っ取り早く告白した方が良いのか。まだ様子を見るべきか。
 義明は誰かに引っ張って貰わないと駄目な男だ。幾ら神の力を手にしても、自堕落人間と変わりない。肉体の劣化を抑えるために殆ど眠っている。三滝尚恭との戦いが長引く事で更に彼自身“死”に近づいている。幼い時から得ていた神の力を封印すればよかったのだろうか?そうすれば、幼なじみは今の危険な戦いに身を置くこともなく生きていただろう。しかし、封印を拒み、戦いに身を置いた事を義明自体が選んだのだから、茜に責任はないし、この事抜きに彼女は義明を好きでいる。幼なじみで放っておけない兄弟で、愛している。其れは曲げられない事であの幼なじみは分かっているはずと信じている。でも、そろそろ疲れたとも我慢出来ない状態だ。

 彼女がため息をついているところに、いつもの顔がやってきた。
「どうしたんですか?茜さん」
「裕ちゃん」
 田中裕介。天空剣門下生であり、茜や義明のよき相談相手。どちらかと言えば、茜を妹のように接している兄の様な存在だ。とは言っても、飄々としているし、メイド趣味という性癖があって、かつ色々女の子に手を出しているナンパ者なので、兄貴と言うより義明に次いで大きくて困った弟である。
「また義明君のことですか?」
「わるい?」
 心を見透かされたのか、フグのように頬を膨らませる茜。裕介は優しい笑みで彼女の頭を撫でた。
「気分転換行こう、茜」
「え?」
 相変わらず、この男の思考は読めないというか、何か落ち着くのだが。
「う、うん。一寸待って」
 巫女服野間まで外に出るのは問題なので、着替えてくる茜。
 支度には1時間以上かかる。そんな時間は裕介にとって些末事だ。
「お待たせ」
「はい」
 いつものポニーテールに春の質素な服装で現れる茜の手をとり、裕介は神社を後にした。今の茜には、このメイド魔神が支えになっているのだろうと思わなくもない。
 屋根では、小麦色の謎生物が欠伸をしてその2人を眺めていた。


 代官山のブティックに連れて行かれる茜。
「え?私が?此を?」
 驚いている茜。
「大人の雰囲気な場所に誘いたいから」
 と、裕介。
 ま、茜が驚くのは無理はない。今まで可愛い感じの服しか着ない彼女にとって、胸元が開いたドレスを仕立てて貰っているのだ。試着してと裕介にせがまれ、着ることに。
「似合ってるよ」
「もう、そう言う才能あるから否定できないよ。でも恥ずかしい……」
 赤面している茜をみて微笑む裕介。
 その後と言えば、ドレスに似合うように、美容室に連れて行かれたり、装飾店まわりとまぁ、まるで裕介の着せ替え人形の様に引きずり回される茜だった。
 其れは其れで茜は楽しいから良いのだが、少し引っかかる。この“大きな弟”が何を考えているのか、やはりわからないのだ。彼の影響で、メイド趣味に足を突っこんでしまったことなど幼なじみには言えない。今はなるようになれと思うことにした。
 普通の服に替えてから、ブティックではなく、例のナマモノがぬいぐるみになってUFOキャッチャーに居ると聞いて、調べてみる。本当にあったので、
「裕ちゃんやってみて」
 茜は悪戯っぽく裕介に言ってみた。
「わかった」
 任せろと言わんばかりに景品を睨む裕介。
 しかし、わらわらとかわうそ?がいっぱい埋まったUFOキャッチャーを見るのは抵抗がある。アレはアレで可愛いのだが、アレの性格を知っていると、複雑である。しかも1匹もぞもぞと動いているではないか。
「……」
「……」
|Д゚)……
 『ソレ』と目が合ってしまった。
「止めようか」
「そうね……」
 と、2人は早々に立ち去った。
 UFOキャッチャーの中にいる小麦色のナマモノは、2人を見送るしかできなかった。



 そして、途中どこかで着替えた茜と裕介がたどり着いたのは高級ホテルだった。
「そんなお金あるの?裕ちゃん?」
「貧乏に見えるんですか?」
「服装からしたら」
「酷いなぁ」
 苦笑する裕介。
 茜は、ドレス姿で少し緊張しているのだが、こう話していないと行けない気がしていた。それも、ディナーショーなんてと緊張し過ぎてカチコチになる。必死の抵抗なのだろう。

 ジャズ系のソロライブのディナーショーで、落ち着いた雰囲気。料理も神社では早々お目にかかれないものだった。茜は緊張して何も答えられない。
「どうしたんだい?」
「ん……ちょっと……私には場違いじゃない? だって……」
 赤面する茜。
 しかし、裕介は首を振って否定している。
「茜らしくないよ。この頃は特に」
「むー」
 上目遣いで裕介を見る茜。
 茜は根負けしたか、ぽつりぽつりと今の心境を語った。その話はまるで曲に合わせて裕介には聞こえる。

 語り終えた茜は、ため息をついた。憂さが晴れてホッとしたものである。
 そこで裕介が一言。こういった。
「……俺は何があっても茜の味方ですよ。といってもこうやって話を聞くくらいしかできないが……」
 と。
 茜は、「バカ……」と小声で答えた。多分酔っ払っている様に赤面しているだろう。
 後ろに支えてくれる人がいるのはとても嬉しい事だ。大きな弟でもあり、兄でもある田中裕介。しかし、どんどん彼に惹かれ始めている心を見つけてしまい、どうにかなりそうだ。
 ダンスタイムになって、全くダンス経験のない茜をエスコートしてダンスを楽しむ裕介。何かふき入れたのか一緒に楽しむ茜。今の姿はどう見ても兄妹ではなく、恋人同士ではないだろうか。
 そして、ディナーショーは終わる。


「部屋を取っているけど、どうする?」
 裕介が、サラリと茜に訊く。
「え?それって!ちょっと!」
 慌てふためく茜。既に格好は、いつもの着慣れた洋服だった。
「まさか、そんなコトしたら、義明君に殺されます」
 苦笑する裕介。
 しかし、今の茜はどうしようか悩んでいる。丁度、幼なじみが誰を選ぶかと同じように。
「何もしないんでしょうね……?」
 ジト目で大きな弟に一応訊いてみる。
「もちろん」
 と、自信満々に答えるも、
「メイド萌えで妹萌えの裕ちゃんの言葉は信用出来ないわ」
「ひどいなぁ」
 茜はまたフグのように頬を膨らませて言う。項垂れる裕介をみて、クスクスと笑った。
「信頼しているから」
 と、笑顔を見せOKといった。
「あ、ああ」
 その意味が何であるか裕介は分かった。
 ――彼女は自分に惹かれている事を。
 彼女の笑顔は、儚く哀しいものだったからだ。


 2人はツインの部屋に入り、ドアを閉める。


 この事が、吉と出るか凶と出るか、今の2人にも、この事を知らない義明も分からない。

 End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1098 田中・祐介 18 男 孤児院のお手伝い兼何でも屋】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高校生・巫女】
【NPC かわうそ?】

※ライター通信ならぬ、NPCから伝達
|Д゚)……かわうそ?のかわうそ?です。
|Д゚) 読者の皆様、部屋の中で何が起こっているか、ご想像におまかせなり。
|Д゚) クスッ