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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


新入生歓迎コスパをしよう♪

 4月。春。すなわち新年度。
学校と名のつくものでは、初々しい新入生が次々と入ってくる季節。
神聖都学園では新入生歓迎と交流のために総合体育館にて毎年イベントを行っていた。
今年も生徒会が中心となり、各部活動がひとつ出し物をしたり、
さながら文化祭のごとく教室を使って出店したりという企画の計画を立てていた。
 そんな中、廃部寸前のレクリエーション愛好会も…
一応、今年も無事になにがしかの企画の割り当てを貰ったのだが。
「コスパってなんですか?」
 きょとんとした顔で、会長の新堂・愛輔は生徒会役員に聞き返した。
「まあいわゆるコスプレパーティの略称ですよ」
「ああ、コスプレ…って、ええ?!なんでその企画がうちに!?」
「いえ…やっていただけそうな部活動さんは今回、出店担当になってるんですよ」
 なるほど、と納得はしてみたものの、愛輔は正直…そっち方面には微妙に疎かった。
ネットをしていてゲームをしたりアニメやら漫画やら同人誌という物は知ってはいても、
実際にその世界に触れた事が無いのである。
「あの…それで具体的には何をすれば?」
「会場は共同ホールです。観覧と参加はもちろん無料ですし、自由になってますから…
なので誰も参加してくれなかったら意味が無いんですよね。
そこでコスプレパーティに参加してくれるコスプレイヤーさんをなるべく多く探す事と、
当日参加したい人の為に衣装を10着程用意することですね。あ、ちなみに予算は8万円を支給しますから」
「えっ!?そんなに?!」
 愛好会という性質から、かなり低予算な活動をしているレク愛好会だけに、
その金額に驚いて叫ぶ愛輔ではあるが、実際問題、その予算は打倒なのかどうかはわからない。
とにかく、その予算の金額と元々の企画、お祭好きの血が騒いで愛輔はOKの返事をしたのだった。
「でも…僕だけじゃあ無理だよな…誰か協力者探してみよう!!」
 愛輔は予算の入った茶封筒を手に、愛好会の部室を後にした。
イベントは一ヵ月後。愛好会としての予算は8万円。果たして無事にできるのかどうか…。



 神聖都学園の講師として潜り込んでいる慎一郎のもとに、レクリエーション愛好会の会長である愛輔が訪ねてくる。
まあ、どうやら手当たり次第に教師も生徒も問わずに声をかけまくっているらしいのだが…。
「宇奈月先生!コスプレに興味ありませんか?!」
「コス…プレ?それはあの、キャラになりきってレッツゴー!みたいなあれですか?」
「そうですそうです。たぶん」
「でも僕はあまりアニメとかゲームとかには詳しくは無いんですよ〜…まあ一般の人よりは詳しいかもしれませんけど、
いえ、決してオタクなどでは…マニアだなんてとんでもない!ただ少し知識があるだけで…」
「先生、そんな事聞いてないです」
 何故かもじもじと指をくるくるとさせながら呟いていた慎一郎に、愛輔がツッコミを入れる。
はっと我に返った慎一郎は、ひとつ咳払いをして。
「そうですね…どんなものでもいいのなら、やらせていただいてもいいですよ」
「ほんとですか!?」
「とてもやってみたい憧れの方がいるんですよね」
 慎一郎はうっとりとした表情で、どこか天空を見つめる。
愛輔には見えないが、おそらくそこには慎一郎がやってみたい憧れの人の姿が映っているのだろう。
「じゃあ宇奈月先生!暇な放課後でいいですから、レクリエーション愛好会の部室に来てくださいね!」
「わかりました!是非っ!」
 キランと瞳に星を光らせるかのような勢いで、慎一郎は愛輔へその眼差しを向けたのだった。




 必要な布が揃い、製作が開始されるという事で見学に行く事になった。
向かった先には製作担当の嘉神・真輝(かがみまさき)と田中・裕介(たなかゆうすけ)の二人が型紙やら布を前に頭を捻っていた。
ちなみに、今日見学に来たのはコスプレの参加者である馬渡・日和(まわたりひより)と、
宇奈月・慎一郎(うなずきしんいちろう)の二人である。
「へえ〜!メイド服いっぱい作るんですね!かわいいな〜♪」
 日和は裕介の用意した型紙を手に、楽しそうに目の前に並ぶ布を見つめる。
「僕は専門外なのでお任せしちゃいますけど、楽しみですねぇ…これ、何のアクセサリーですか?」
「宇奈月先生!それ針山ですよ!」
「あ、痛いっ」
 さくり、と音がしそうなほど指先を針に刺す慎一郎。
あははははと笑いながら流れ出る血を近くにあったティッシュで拭き取りながらパイプ椅子に腰を下ろした。
 この調子で無事に製作・開催できるのだろうかという一抹の不安が愛輔の脳裏を過って行く。
その不安もある程度当たり、その後、布が足りなかったりシミを作ってしまったりと様々なトラブルに出くわしたのだが…。


★★

 紆余曲折を乗り越え、やってきたイベント当日。
新入生歓迎の式典が簡単に総合体育館で執り行われた後、それぞれクラスや部活が主催したイベント会場へと、
三々五々散っていく。もちろん、新入生以外も、学園の関係者以外も、である。
 そんな中、共同ホールで開催の新入生歓迎コスプレパーティはと言うと…意外な盛り上がりを見せていた。
前もってチラシ配布をしていた事もあってか、思いの他コスプレの参加者も多く、
人が集まらなかったらどうしようと言う心配も杞憂に終わっていた。
「宇奈月先生〜!」
「おや、新堂くん」
 会場の隅のほう、更衣室から出てきたばかりの慎一郎に、愛輔が声をかけた。
更衣室では忙しそうに真輝と裕介の二人が着付けをしたりメイクをしたりと忙しく働いている。
二人のルックスも手伝ってか、女性陣にえらく大人気だった。
「宇奈月先生…それ、なんのコスプレなんですか?」
 会場内を並んで歩きながら、愛輔が素朴な疑問とばかりに声をかける。
一瞬、チューリップハットの慎一郎はきょとんとした顔をした後…驚きに顔を変えて、
「の、の、の、ノッポさんを知らないんですか?!」
「え?ノッポって事は背が高い人の事くらいしか…」
 純粋に聞き返した愛輔を、慎一郎はさらに驚愕の表情で見つめ。
「知らないなんて…ノッポさんを知らないなんて…」
「ごっ…ごめんなさい!あ、でもほら、僕あんまりテレビ見てないから…」
「いいんですよ…そうですよね…世代が違いますから…」
 悲しそうな表情で、慎一郎は遠い目をしながらふらふらと歩く。
それはある世代にとっては欠かすことの出来ない、忘れようにも忘れる事の出来ないほどの存在である、
某工作系教育番組の人気キャラクターではあるのだが、最近の若い世代にはどうやら通じないようだった。
 あまりのショックに慎一郎は虚ろな目で会場内を歩いていたのだが、
「あ!ノッポさんや!」
「え?」
「ほんとだ!!うわ〜なっつかしー!!」
 しかし、少ししてから数人の若い男女グループが慎一郎の周りに集まってくる。
懐かしい〜とか、似合ってる〜とか、女の子達はきゃあきゃあと楽しげに賛辞を並べる。
少し嬉しくなって何かポーズをキメようとする慎一郎だったのだが…
「でもさ、ロン毛だから似てねーよ」
 ひとりの男性がきっぱりはっきり大声で言う。
それにつられるように、何故か先ほどまで褒めていた周囲の者達も口々に野次を飛ばし始めた。
「あ、あの…これは…」
「どーせやるんならもっとちゃんとしろよー!」
「ノッポさん言うたらパーマやろパーマ!」
「って言うか似てねー!」
「そっ、そんなっ…!」
「っていうかー、いまどきノッポさんっていうのもね〜…」
 周囲を囲まれての野次に、慎一郎の中で何かが音を立てて切れる。
愛輔がおろおろと見つめている中、慎一郎は傍らに持っていたノートパソコンを取り出した。
そしてすさまじい指の動きで召還陣を組み上げて行く。
最後に、エンターキーに指をかけると同時に、
「そこまで言うのならお見せしましょう!!出でよ!『夜のゴーンタ』!!」
そう叫んでポン!とエンターを押す。
 すると…ずごごごごご…と、音を立てて彼の背後に獣のシルエットが浮かび上がる。
黄色い帽子をちょこんとかぶり、何の動物?と問いたくなるソレは…
「召還成功ー!どうですっ!?この僕と『夜のゴーンタ』を見たら皆さんも納得するでしょう!?」
 えっへんとばかりに胸を張る慎一郎…だったのだが。
『ウゴウゴ!!ウゴウゴウゴウゴッ!!ウガー!!(てめぇ!!そんな事のために人を呼びつけやがって!!)』
「ああっ、ゴーンタッ!?」
 可愛らしいふわふわのゴーンタの手は、慎一郎に見事にクリーンヒット。
そしてまるで空中から叩き落されたハエの如く、彼は床にべしっとへばりついたのだった。
心なしか、真っ赤な血の池が床に広がっているように見えるのだが…その顔はとても幸せそうである。
「ご、ゴーンタ…」
『ウゴウゴ!!(黙れ!このウドの大木がっ!)』
「うん、うん、ありがとう…ありがとうゴーンタ!」
『ウゴウゴガッウゴッ!ウゴウゴ!(いいかげんにしやがれ!次はねえぞ!)』
 腰を抜かしてその場にへたりこむ愛輔や、その他の周囲の人々に、『夜のゴーンタ』はくるりと向き直ると、
『ウゴウゴウゴっ☆(お騒がせしました☆)』
先ほど、慎一郎に向けていたのとは違う可愛らしい笑みを浮かべて姿を消したのだった。


★★★

「いっや〜!おかげで無事に終わることができたよ!うん!ありがとうっ!!」
「おい新堂…わかったから人の手持ってぶんぶん動かすのやめろって」
「僕は楽しくていいですけどね〜あははははっ」
「宇奈月先生、頭から血が…」
「…あたしの知らないところで何があったの…?」
 レクリエーション愛好会の部室にて、無事に終了したお祝いとねぎらいを兼ねて、
ささやかなお菓子と飲み物でのパーティーを開催する五人。
 すっかり意気投合と言うか、なかなかどうしてなごやかな雰囲気だった。
「ところで、この衣装はこの後どうするんだ?」
「来年のために保管しておくそうだよ?」
「…来年もまたやるんですか…楽しいから、あたし来年も参加しちゃおうかな」
「いいですね〜!じゃあ来年の僕は…教育テレビシリーズでチョーさんでも…」
「懲りないですね、宇奈月さん」
 裕介は苦笑いを浮かべつつ、しかしどこか楽しそうに呟いた。
「ま、とりあえずこの一ヶ月色々と世話になったし、お疲れって事で乾杯しようぜ?」
「真輝さんに賛成!ジュースですけど」
 目の前にあるペットボトルをそれぞれ手にして、高く掲げる。
そして、愛輔の音頭に合わせて鈍い音をたててペットボトルを合わせたのだった。

 …そんなわけで。
神聖都学園の新入生歓迎コスプレパーティは成功のうちの幕を下ろしたのだった。





★おわり★


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1098/田中・裕介(たなか・ゆうすけ)/18歳/男性/孤児院のお手伝い兼何でも屋】
【2021/馬渡・日和(まわたり・ひより)/15歳/女性/神聖都学園高等部一年(淫魔)】
【2227/嘉神・真輝(かがみ・まさき)/24歳/男性/高校教師(家庭科)】
【2322/宇奈月・慎一郎(うなずき・しんいちろう)/26歳/男性/召喚師】
NPC
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)18歳/男性/高校生・レクリエーション愛好会会長】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。ライターの安曇あずみでございます。
この度は神聖都学園「新入生歓迎コスパをしよう」に参加いただきありがとうございました。
少々、時期はずれになってしまいましたが楽しんでいただけていたら幸いです。
コスプレパーティと言うことでちょっとマニアックな内容だったのですが、
参加いただけて嬉しかったと共に、とても楽しみながら執筆させていただきました。(^^)
またどこかで皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。

>宇奈月・慎一郎様
こんにちわ。宇奈月様でははじめまして。
久々のゲームと言うことでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
ライター個人的にはプレイングからとても楽しませていただきました。(笑)
ハメを外さない程度に外そうと思いつつ、夜のゴーンタ召還させていただきました。
楽しんでいただけていたら幸いです。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>