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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


帰ってきた武彦

 あなた達は零と共に興信所の手伝い(今回は月に一回の大掃除)をしていた。やはり人手が多いとはかどるものだ。

 いきなりバタンと興信所のドアが開く。掃除をしていた零とあなたは開けた人物に驚いた。
「に…兄さん!?」
「や、元気か?久しぶりだな」
 零は久しぶりの対面に、涙を流し兄と慕う男に抱きついて泣いた。
「どうして、勝手にいなくなって、どうして」
「済まん。色々事情があってな…」
 草間曰く、大きな仕事が入ったのは良いが、結果的失踪した形をとりたかったそうだ。
 探偵には守秘義務というモノがあると分かっている零は深くは追求しない。
「それでも酷いです……勝手に」
「だから、なんていうか……時間が空いたとき、こっそり此処に戻ってくる。良いだろ?」
「はい、兄さん」
 涙目で笑顔をみせる妹。
「おっと、忘れていた」
「何です?」
「ただいま、零」
「はい、お帰りなさい兄さん」

 そこで、祭り好きの五月やかわうそ?が
「ただいまパーティするのはどうかな?」
「異議なし」
「ですね♪」
 さて、宴会で草間兄妹の再開を祝う夜を過ごすのも良いのかもしれない。


 訝しげに見つめているシュライン・エマ。しかし此処で自分の考えていることを口に出すのは避けようと思った。
「さて、大掃除も後少しだし。その後に準備始めますか」
 と、掃除の続きを促す。
 はーいと元気な声が響く。
 ただ、五月はシュラインの表情が曇っていることを気にいていた。
 余談だが、帰ってきたばかりの武彦も手伝う羽目になる。

 そして、零が電話でお帰りパーティするということで呼ばれたのが、天薙撫子と隠岐智恵美、そして柏木・狭波だった。かわうそ?からは飼い主であるケーナズ・ルクセンブルクが呼ばれた。
 第一声が、皆揃って、
「可愛い妹(零さん、零様)を心配かけちゃだめですよ(いけないじゃないか)」
 である。
「それは、十二分に反省しているから……」
 と、草間はすんなり謝っている。
 その後暫く沈黙が続いたが、互いに笑い合って、再会を喜んだ。
 なんでも、ケーナズが全ての費用を出すとか言っている。かわうそ?は彼にねだられたのか、いつの間にか寿司屋の調理場を設置していた。
 皆でわいわい、飾り付けをしている。

 あまりトラブルはなく、宴の準備は進む。

 一部自分のことを棚上げして、馴れ馴れしく草間の肩を組みつつ、自慢のハウスワインとチーズを勧めるケーナズ。撫子は家にある大吟醸を沢山持って来てから、シュラインと狭波と共に料理に力を入れていた。
 智恵美は、いつもの口癖「あらあら」など言いながら、五月や焔と和んでいる。
 勘の鋭い人物なら(ケーナズや智恵美、何故かかわうそ?)、シュラインの態度がおかしいことは分かるだろう。ただ、零は兄が帰ってきたことでとても浮かれているため、彼女の心情(普通に接しているように見えるので)を気付いていない。

 そして、料理もでき、鮨屋もオープンし準備が出来た。
「草間さんおかえりなさーい!」
 と、皆で乾杯し、草間を囲んでの草間不在中の話をしていた。

 |Д゚)……

 ナマモノは、寿司を握りながら、周りを見ている。
 じっと寡黙な少女、狭波が気になったらしい。
「元気ない。トロ食べる?」
「……え?……あ、ありがとうございます」
「かわうそ? 私と草間君の分も頼むよ」
 ケーナズがペットに注文する。
「……あい……。もう少し後で。零、なにかいる?」
「トロって美味しいですか?」
「美味しい」
「じゃ、お願いしますね」

 一方、撫子は大吟醸の一升瓶を持ち、草間の酌をして自分も飲んでいた。
「もう、零さんどれだけ寂しかったか分かっているんですか?」
「其れは最初から何回も聞いたから勘弁してくれ」
「もう、今まで何をしていたか気になります。どうしたんですか?」
 とまぁ質問攻めと、自分も飲んで絡む絡む。
 草間が困っているところ零が、申し訳なさそうに、
「其れは、言いにくいことらしいです」
 撫子に告げた。
「そうとっても大事なことだったのですね。申し訳ありません」
 悄気ても飲む撫子さんだった。
 ――なぁシュライン、おかしくないか? 今日の撫子。
 ――暫く会えなかったのは零ちゃんだけじゃ無いから浮かれているのよ。
 と、草間はシュラインにSOSを送るのだが、サラリとかわされる。
 智恵美さんは理由は大体分かっている。仕事先が先な物故に。
「あら、あらあら」
 と言いながら、五月と遊んであげたり、頭に焔を乗せてずっと和んでいる。
 ただ、いつの間にか五月が悪戯で彼女のコップにお酒を入れているのは知らずに……。

 
 宴の進む中、では、ケーナズはかわうそ?とじゃれながら、草間を肴に参加者を笑わせて、零とシュライン、狭波はてきぱきと次々に料理を運んだり、酌をしていたり、忙しく動く。零は楽しんでいるのだが、シュラインは黙々淡々と仕事をこなしている。
 長いことの付き合いのある零も、此はおかしいと感じた。だが、自分が考えていることに近いのか“一種の不安”で言い出せなかった。もちろん、シュラインも皆が楽しんでいる時につまらない事を口出ししては行けないと思っての行動だ。
 狭波は、性格の為なのか寡黙であり、皆が楽しんでいる所をニコリと笑って見ている。子供好きの智恵美が横に付き添って、一緒に和んでいる感じだった。
 いつの間にか、ある人物……興信所の影の支配者……の姿は見あたらなかった……。

 
 さて、とうとう、臨界点突破した撫子さんが動き出した。
 草間に腕を回して、
「ごろごろにゃー」
 と、猫になって絡んでいる。頬ずり頬ずり。
「あら、あらら」
「大胆だな、天薙さんは」
「良いから誰か止めろ……って傍観するなぁ!」
 誰も撫子の絡みを止めず、笑っている。
 そしてまた、
「零さんほっといてどこにいたんですかぁ?」
 今度は色っぽく、しかも可愛い猫なで声で聞いてきたのだ。
「兄さん、モテますね」
「草間君は罪な男だな」
「此は違う!断じて違う!」
 零とケーナズにからかわれ、草間は否定する。
 ――分かっていっているだろ貴様ら!
「済まん撫子、ちょっとトイレ……」
 と、草間が逃げるためか本当にそうか知らないが、撫子から離れ様とすると……、
 何かが巻き付く音で、草間は豪快にソファーに倒れた。
「え?」
「だめですにゃあ〜。質問に答えないとだめですにゃあ」
 猫語になっている撫子さんは、妖斬鋼糸で草間をがんじがらめにしたのだ。
 そのまま、絡むというか、抱きついて離れない撫子。
「天薙は、酔っ払うと此処までするとは豪快だな」
 かわうそ?を撫でながら、感心しているケーナズ。
「織田さん曰く、こうなるとてが付けられ無いだとか」
「しらふになるか気を失うまであのままか? ははは」
「あら、あらら」
「……すこし行き過ぎだと……」
 零の説明にケーナズは笑い、智恵美は苦笑、狭波はむっとしていた。
 しかし、ペースが以上だったのか、絡み撫子さんは草間に抱きついたまま眠ってしまう。なんとか鋼糸の束縛を外した草間は、彼女を零の部屋に連れて行き、ため息をついた。

 そろそろたけなわに。

 智恵美は気付かなかったが酒を飲んでいたらしい。ほろ酔いだった。
「おつまみが足りませんわね」
 と、フラフラ台所に向かっていく。
「ああ!駄目です!智恵美さん!料理を作っては!」
 零が必死に止める。かわうそ?も五月も焔も必死に止めている。
 他の人は分かっていない、多分。
「ん〜スモークチーズも尽きたから、丁度いいと思うのだが?」
 ワイン片手にケーナズが言う。
「それは、その!なんと言いましょうか!」
「あー!零お姉ちゃん、智恵美さんもう料理している!」
「あー!」
 何故其処まで錯乱するのか分からないケーナズに狭波。
 草間は……天を見上げ、もう此処までかと言わんばかりの顔をしていた。

 零の阻止も虚しく、できた智恵美さんの料理。
 つまみに最適な野菜炒めだっだ。匂いに食欲を誘う。
「此は凄いな」
「……美味しそう」
 ――いえ、見た目だけです……(零ちゃん達の心の声)

 草間は一切箸を付けず、煙草を吹かす。同じく零も。
「んじゃ一口」
 と、智恵美の料理を食べるケーナズに狭波。
「……っ!」
 兄妹は目を覆った。死屍累々の光景を。
 恐怖をこらえ、この後の風景を見てみる。
「!?」
「旨い!」
「……おいしい……」
 と、意外な感想が漏れた。
「ほ、本当か?酒で味覚がおかしくなったんじゃ?」
 草間は驚いている。
「草間君、疑うのなら食べてみると良い」
 ケーナズが小皿に分けて勧めた。
 草間は食べてみる。
「……信じられん!」
 そう、天国に行くかのような旨さなのだ。
 隠岐智恵美は、人を倒れるほどの恐怖料理を作るとして“ある組織”では手作り禁止令が出ている。しかし、酔うと、味覚と技術が激変し……一寸した目玉焼きでも天国に逝けるまでの美味になるのだ。そう、天国に逝けるほど。
 食した草間とケーナズ、狭波は夢を見るように。
「……あ、旨いなぁ……」
 と、バタリと倒れた。
「あら、あらあら……」
「きゃー! 兄さん! ケーナズさん! 狭波さん! しっかりしてください! 」
 興信所には、穏やかな苦笑と、恐怖の叫びが木霊していた。

 天国と地獄は紙一重なのかと、かわうそ?は思った。


 このお祭りをいち早く抜けているシュラインは自宅に帰りながら考えている
 ――まだあの組織側にいるのかしら。
 前に、佐山宗治の異界で出会った草間の事を考えると、今回はただ、零達を心配して隠れて帰ってきたのだろう。そうなると、あの時会った“草間”は別の時間軸の存在なのか? 興信所に戻っていると“敵”が知れば友人知人にに被害が及ぶとか、色々不安要素を持っていた。なので本当の意味で草間の帰りを祝えなかった。
 本当に堂々と戻って来るなら、心の底から祝えたのだけどなぁと、思っていると、
 ――それは、杞憂だ。アイツはただ、帰り辛いだけだったそうだ。
 と、目の前に銀髪の大きな座敷童子が立っていた。
「エルハンド。この事、黙っていたの?」
「すまんな、アイツに口止めされていてね。今の“あっちの仕事”は落ち着いているし……何より隠岐智恵美が興信所に堂々といること自体で大事にはならん。“影斬”もこの“時間”にはいない。もちろん君が見たあっちの“草間”と今の“草間”は正真正銘同一人物だ。再会したときは時間旅行で時代ボケをしただけに過ぎないとおもう」
 シュラインが質問する前に更に彼は続ける。
「不安を抱えるのはわかる。しかし、今は“アイツが戦う敵”の力は弱体化の一方だ。又動くときは……零に伝えるか分からないが、君にだけなら伝えるだろう」
「……?」
「ま、明日興信所で忙しくなると思う。しっかり寝ていた方が良いぞ」
「まって! まだ聞きたいことが!」
 と、シュラインの質問攻めを逃げるかのように(彼女にはそう見える)お節介焼き(?)の男は闇の中に消えた。
「……明日?」
 明日の事って? と首を傾げるも多分宴会の惨状のことなのだろうと彼女は思った。




 翌日。
 案の定、応接間はノックダウンしている3名を看病している零と智恵美をみて、固まっているシュライン。
「おはようございます……に、兄さんと、み、皆さんが」
 およよと泣き、シュラインに駆け寄って泣く妹・零。
「零ちゃん……どうしたの?」
「智恵美さんの……」
「ああ、そう言うことなのね……」
 当たらずも遠からずな光景。
 いそいそと、看病の手伝いをする。
 あの、黒マントの男の言うことと、智恵美がこの場にいるというならば、暫くは普通の“草間武彦”なんだろうなのね、と様子を見ることにしたシュライン。
「あれ?わたくしは……どうして此処に? あ、お、おはようございますぅ」
 と、天薙撫子が妖斬鋼糸を引きずり、間の抜けた声であいさつする。
「あら、あらあら、皆さんおはようございます」
 相変わらずののんびりした智恵美さんが、自分の料理で倒れた人達を看病をし続けていた。


「智恵美……こあい」 
「いいのじゃない?君は食べなかったのだから」
「にゃー」
「すぴー」
 隅の方で、五月とナマモノが、こそこそと話しをしていた。

 End





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【1462 柏木・狭波 14 女 中学生・巫女】
【1481 ケーナズ・ルクセンブルク 25 男  製薬会社研究員(諜報員)】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】

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■         ライター通信          ■
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 滝照直樹です。
 『帰ってきた武彦』に参加して下さりありがとうございます。
 実際、草間は失踪という形で、姿を消したのですが、こうヒョッコリ戻ってきたのは「一仕事」終えたと言うことでしょう。また「大事な仕事」があるなら出かけてしまうかもしれませんが、暫く草間興信所の所長に再復帰のようです。また、怪奇探偵の名を馳せていくのでしょう。
 
 柏木・狭波様、初参加ありがとうございます。

では、又の機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝