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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


だんじょん☆くえすと

「なんだ、これは?」
 草間は、口にくわえていたタバコをぎゅうと灰皿に押つけると、何気なくその箱を手に取った。
「う〜ん、なんだか玄関先に置いてあったんですよね」
 零は、人差し指を口に当て、ふみゅ、と小首をかしげた。
 草間は、その言葉を聞きながら、改めてその箱を眺めた。
 せんべいの缶ほどの長方形の箱。木で作られており、箱の側面には鳥や、獣を抽象化した模様が無数に彫られ
ている。
 表面には、なにやら大雑把な文字で「ダンジョンクエスト」と題が入っていた。
「……どうやら、何かのゲームのようだな」
 草間は、何気なくその箱を開けた。すると。
 箱の中に、小さな扉。それは、レンガを模したものだった。
 草間が、それに手を触れた次の瞬間。
「うわぁぁぁぁ!!?」
 突然、草間の体がぐらりと歪む。
そして、一気に扉の中に、吸い込まれたのだ!
わっはっはっはぁ……とどこからか嘲笑するような声が聞こえた。
しかし、それは、一瞬の出来事であった。それが何者かを確認する暇もなかった。
箱の中の小さな扉がぱたり、と閉まった。
あとには、呆然とたたずむ零のみが残された。


「と、いうわけなのです」
 零は、静かに話した。
「義兄さんは、あのゲームの中に吸い込まれてしまいました……。その時に、私、聞いたんです。『生贄は、頂
いた』と……」
 零は、きわめて真剣な表情でつぶやいた。
「でも、そのあとに、また不思議な声が聞こえてきたんです。『我は守護者なり。我の封じた光の水晶散らばり
けり。助けたくば、試練を受けよ。光の水晶を集めよ』と」
 光の水晶。これを集めると、草間をさらった奴を、倒せるのだと。
「私も行きたいのですが、義兄さんの留守を預からなくてはなりませんし」
 途方に困った零は、こうして依頼をしたのだった。
「そうそう、これ」
 零は、どこからか6個のバッジを取り出した。
 それには、『ナイト』『魔法使い』『僧侶』『盗賊』等の絵が入っていた。
 その世界で、それぞれの格好になれということなのか。ともあれ、どうやら、このバッジで、ゲームの中に入
れるらしい。
「義兄さんを、助けてください。どうかお願いします」
 雫はそういうと、ぺこりと頭を下げた。


■1・だんじょんのきっかけ

 草間を助けて欲しい。
 そんな零の願いを聞き、興信所には男女合わせて、すでに6人が集まっていた。
「また、草間さんが巻き込まれたんですか………」
 ふう、と大きなため息をついたのは、海原・みなも。透き通るような青い瞳、肩まである青い髪。
 線が細く、ややはかなげな印象をうける少女だ。
 みなもは学校帰りに、ここに立ち寄ったのだった。
「大変ですね、雫さんも」
 紺のセーラ服に身を包んだみなもは、くるりと振り返り雫を見やる。その時、胸元に巻かれた赤いリボンがふ
わりと風に揺れた。
「……なるほどな」
 あたりを通り抜ける、すがすがしい風。
 いつのまにか、一人の少年が立っていた。いや―少年ではない。少女だ。
 長身でやや細みの体格。宝石がちりばめられた細身の長剣を腰にさし、清清しい風を体にまとっている。両肩
につけた、燻し銀色のプレートがいかめしい。現代の女騎士というにふさわしい姿。天才、F1レーサー蒼王・
翼だった。
「あいかわらずだね、草間さんは」
 翼は、唇の端をわずかにゆがめて微笑んだ。濃い金色の前髪が瞳の前にこぼれ落ちる。
「雫ちゃん、心配しなくていいよ。僕が必ず……助けるからね」
 精悍な濃いブルーの瞳で、雫を見つめる。時折、風が、薄手のマントの裾をはためかした。
「ねえ、ノイ、なんだか面白そうですよね」
『あまり期待するのもアレだけどな』
 黒の帽子、黒のレースに縁取られた上着。それに対応するかのように白の帽子、白で統一された衣装。如月・
縁樹と人形のノイである。二人は、興信所へお茶をしに来たところ、たまたまこの状況に立ちあったのだった。
「でも、本当になんでこんなことになったんでしょうね?」 
 黒に限りなく近い真紅の瞳が、きらきらと輝く。その表情は、好奇に満ち溢れていた。
「僕、すっごく興味あるなぁ、ねノイ……ていたた!」
 無造作に切られたアッシュグレイの髪を突然ひっぱられ、縁樹は悲鳴をあげる。
『ボクに聞くなよ』
 黒髪の人形は、憮然とした表情でつぶやく。
「べ別に、ノイに聞いたわけじゃ……」
『あ、ソウデスカ』
「ノイ〜〜〜〜〜」
 縁樹は、ぷうと頬を膨らませた。
 そんな二人のやりとりには、目もくれず、一人なにやらつぶやいている男がいる。
「……ふふふ、ダンジョン……冒険……ろまん……!」
 病的なほどにやせ細った体。青白い顔を縁取るのは、長い黒髪。
 宇奈月・慎一郎。モバイルに召喚魔法を代唱させ、高速にて使途を召喚する現代の魔術師である。
「……どうしましょう? どうしましょうか? 草間さんがまたピンチだそうですよ……ふふふ」
 慎一郎の眼鏡が、きらりと怪しく光る。慎一郎は、どこか遠くを見つめながら幸福そうに笑っていた。
「なんか、わけわかんねぇのもいるな……」
 眉をひそめ、慎一郎の様子を横目で眺める革ジャンの男。
 日向・龍也。何でも屋を生業にしている青年である。
「まあ、ヤバいってわけでもねえだろうし、なんか逆にわくわくするな……」
 龍也は、布が巻きつけられた拳を固め、手のひらに打ち付けた。
「……はぁ〜あ。なんか、眠くなってきちゃったな」
 椅子に座り、足をぶらぶらさせながら大きなあくびをしたのは瀬川・蓮。小悪魔的な印象の少年である。黒の
ダブルコートを着込んだその姿は、風格のある貴族のような雰囲気をかもし出すのに一役買っていた。
 蓮は、輝く金髪をかきあげつぶやく。
「理由なんていいから、早く遊ぼうよ。ね?」
 蓮は椅子から、たっと飛び降りると、にっと微笑んだ。
「そうだな、とっとと行こうぜ」
 龍也もあとに続く。
「でも、どうしてこんなことになったのか、まず知りたいです。だって、箱があるということは何か事情がある
わけでしょうし」
 みなもがつぶやく。
「まあ、なぜ光の水晶を集めなければいけないのか……その訳もとても気になるしね」
 翼も、雫をじっと見やる。
 みなの視線が、雫に集中する。雫は、しばらく沈黙を守っていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「私も……よくはわからないのですが……」
 以前兄さんは、【ゲーム殺人】とよばれる事件に関わったことがあるんです。それは、文字通り【ゲーム】に
見立てて殺人を行っていくという、快楽殺人者によるものでした。
 しかし、その事件は普通のゲーム殺人とは少々趣が違ったんです……。

 * * *

 その部屋は、まさしく穴蔵というのにふさわしかった。
 全体が暗く、陰鬱な雰囲気であった。
 壁にかけられた絵はすべて、風変わりなもので、中世ヨーロッパを模した銅版画であった。いやらしい、いぼ
がついた鼻を持つ子鬼、大きな三日月の鎌を持った死神、頭がヤギの悪魔。
 どれもおどろおどろしい生き物達が、この壁のいたるところに見出される。
 そして大きくせり出した棚には、ぎっしりと箱が積まれていた。それはすべて、ゲームだった。よく知られて
いるテレビゲームもあれば、中には、見たこともない外国のボードゲームまであった。
 だが、その中でももっとも不気味な雰囲気を放つものは、中央のテーブルに置かれているボードゲームであっ
た。ゲームは、一人の男によってしっかりと抱え込まれていた。
 「……なるほど、かなりのゲーム好きなんだな」
 部屋を一折見回すと、草間は男に目を向けた。
 男の表情は、青ざめ、体はぶるぶると震えていた。時折、男は何かをつぶやく。しかし、その言葉は聞き取れ
ない。
 草間は、ふんと鼻を鳴らすと男に問い詰めた。
「ゲーム殺人……か。お前は、このボードゲームのストーリーにそって、次々と殺人をおかした。そうだな?」
 とんとん、と草間は机の上に置かれている紙を指し示した。
 そこには、悪魔が人を食べている絵が描かれていた。
「お前のやっているそのゲームは、悪魔が主人公だったな。たしか生け贄に人間を捧げていかなければ、自分の
持ち点がどんどん少なくなるというものだ。そうだな?」
 男は、黙ったままだ。
 草間は、ふうとため息をつく。
「……ゲームと、現実の区別がつかなくなったのか。だからお前は……」
 その時、男が口を開いた。
「……だ……なんだ……」
「なんだと……? よく、聞き取れない」
 男は、もう一度つぶやく。
「生け贄なんだ……。あいつらは、生け贄なんだよ……」
「イケニエ、だと?」
 男は、こくりとうなずく。こころなしか、その表情はさらに切迫したものになっていた。
「やらなきゃ、俺が殺される……」
「一体、なにをいっているんだ?」
 男の焦点は、すでに定まっていなかった。
「……集めたんだ。俺は、集めたんだ。でも、集まらなかった。だから、やるしかなかったんだ。次は俺だ、俺
が殺される! 俺が生け贄なんだ!!」
 男は突然立ち上がると、半狂乱になって叫びだした。
 草間は、慌てて男を取り押さえる。
「おちつけ、おちついて話すんだ。なんだ? いけにえだと? 集めた? 何を? ……次はお前の番?」
 草間は、男の肩をしっかり掴み、瞳を見据えた。
「俺は、世界各地のゲームを集めてきた。ゲームの為ならどんな場所でもいった……」
「ほう、それで?」
 草間は、男を刺激しないようゆっくりと語りかける。
「ヨーロッパに行った時のことだ。俺はそこで、とある民族の噂を聞いたんだ。不思議なゲームを使う民族の噂
をな……」
 そして、男は流暢に語り始めた。
 ゲームは、災いから民をすくった勇者の伝説に基づいているということ。
「ここに、いくつか職業が描かれた駒があるだろ。これは、災いを追い払った勇者を現しているといわれてい
る」
 そして、ゲームは儀式用であること、その民族の若者達の、成人の儀式に使われるということ。
「このゲームをすることで、自分達が災いを払った勇者となる。災いを近づけないようにする願いを込めた儀式、
そんなものだと思っていたんだ」
 男は、そのゲームがとても欲しかったが、譲ってもらえなかったこと。
 しかし、ゲームを盗みだし、帰国したこと。
「……けれど、そのゲームは災いが封じられていたんだ」
 男は、つぶやいた。
「俺は、知らなかったんだ。ただのゲームだと思っていたんだ」
 その時、男の表情が変わった。
「……けれど、本当に災いが封じられているなんて……」
「なんだ? 災いとは、なんだ?」
 草間が問いただす。さっきよりも、強く肩を揺らす。しかし、男の表情はうつろになっていた。
「災いだよ……。これは、災いを封じるための道具だったんだ……」
「聞いてるのか!! はっきり話せ!!」
 草間は強く一括する。しかし。
「悪魔だよ! 悪魔が封じられていたんだよ!! あいつは、俺に命令するんだ、『イケニエを……』と!」
「な、なんだと……」
 草間は、ここでの災いとは、病気か何かだと思っていた。確か中世ヨーロッパではペストが大流行したはずだ。
そのため、病気を悪魔の仕業と結びつけて語られた。そんなものだと思っていた。しかし、まさか本物とは。
 ―ありえない。草間は首を振る。
「バカなことを……。その悪魔が何かの拍子に目覚めて、お前に生け贄を求めたというのか。だから、お前は殺
人を犯したとでもいうのか」
「ああ、そうだ……」
 草間は、ごほごほと咳をした。冗談で言ったというのに、まさかここまで本気にするとは。
 ―狂っている。草間は確信した。
「そういえば、何かを集めたといっていたな。何を集めたんだ? 何がダメだったから、殺人をした?」
 男は、ちらりと草間を見る。
「勇者達だよ。正確には、勇者の力が封じられた駒だ。本来、これは9つあったんだ」
「……このバッジか。でも、今は6つしかないが?」
 その時、だんっと男が机を叩いた。
「だから、集まらなかったんだ!! あと3つだったんだ!! でも……見つからなかった」
「これを集めると、どうなっていたんだ?」
 草間が尋ねる。
「封印が保たれる。災いは、光の水晶と呼ばれる力で封印されていたんだ。その力は、それぞれの勇者の駒に宿
っていた。けど、儀式の時には例外的に封印が解かれることがある。試練を受けさせるためにな」
「……どうやって?」
「これだよ……」
 そういうと、男はどこからか新たな駒を取り出した。その駒には少女の絵が描かれていた。
「……姫、か?」
「そうだ……。つまり、『生け贄』だ。この駒を取った時、封印が解かれる。そして、勇者達の駒はバラバラに
なる」
「じゃあ、『姫』の駒をお前が取ったことにより、封印が解かれたとでも?」
「そういうことだ……。災いを封じる方法は二つ。ひとつは、バラバラになった勇者達の駒を集め、光の水晶で
封印すること。そしてもうひとつは、生け贄を捧げることだ」
 男は、大きく深呼吸しつぶやいた。
「生け贄は……『姫』の駒を取った人間―つまり、俺だった」
 男は、突然狂ったように笑い始めた。
「最初は、勇者達を集めようと思ったさ。けど集まらなかった。俺は、殺されたくなかった! 生け贄なんてま
っぴらだ! だから、俺は聞いたのさ。どうすれば、いいのかってな」
「……悪魔にか」
 男は歪んだ笑いを浮かべた。
「そうだ。悪魔はいった。『イケニエを……』とな。だから、俺は生け贄を捧げていた。それだけだ! ひゃー
はっはっは!」
「けれど、それも終わりだな。お前は、ここで捕まるんだ」
「……いやだ、俺は、死にたくない……! 続けなければ……生け贄を捧げなければ……!」
「あるはずがないんだ! 目を覚ませ!」
 草間は、男の手から『姫』の駒を取り上げた。
「ああ!?……ああ、はは、そうだ、こうすればよかったんだ……今度はお前だ……お前だ!」
「な、何を……」
「イケニエは、お前だ! その駒を手にした時からな! 箱は追ってくるぞ。何処にいても。必ず……な!」
 そしてその後、男は潜入した警察官達に逮捕された。
「哀れなものだな……」
 草間は、男の後姿を見つめながらつぶやいた。
 ―狂っている。
「イケニエ、か……」
 草間は、あとに残されたゲームを見やる。そこには『姫』の駒が転がっていた。
「あるはずがない、そんなもの……」
 草間は、駒をポケットに押し込んだ。

 ―ゲームの名前は、『ダンジョンクエスト』とあった。


* * *


「……そうして、今度は草間さんが『イケニエ』というわけだね?」
 翼がいまいましげにつぶやく。
「……はい、そうとしか考えられません」
 雫は、うつむいた。
「義兄さんは、『気にしてない』とはいっていたんですけれども、まさか本当にこんなことになるなんて……」
「……その犯人の男はどうなったんでしょうか?」
 みなもが、おずおずと手を上げる。
「は、はい……。どうやら、そのあと取り調べの途中に心臓発作で亡くなったそうです」
「イケニエになったというわけですか」
「そうですね……」
 雫は胸の前で手を組み合わせた。
「ごめんなさい、雫さん。こんなことを聞いてしまって……」
「いえ、いいんです。だから、皆さんにこうしてお頼みしたのですから……」
 雫は、顔を上げ笑顔を見せる。
「お願いします」
「じゃあ、とっとと行こうよ! リクツはもういいからさ」
 蓮が叫ぶ。
「俺も早いとこ、一暴れしたいもんだな」
 龍也が、にっと笑う。
「……じゃあ、みなさん準備ができたらバッジを取っていきましょうか」
 慎一郎は、ふふふと眼鏡のずれを直しながらつぶやいた。
「わぁ〜、なんだかすっごく楽しみですね! ねぇ、ノイ?」
『まあ、あんな話聞いたらナ』
 縁樹とノイは、心なしか楽しそうである。
 こうして、集まった六人は、それぞれバッジを手にし、ダンジョンクエストの箱に近づいた。
 すると、まばゆい光がそれぞれを包み、箱の中へと吸い込んでいった。
 こうして、草間救出の冒険は始まった。


■2・E それぞれの姿


 気づくと、翼は一人であった。
 真っ暗な闇の中に、一人、ぽつんと取り残されていた。
「ここは……」
 翼は、きょろきょろとあたりを見回す。手探りで壁をまさぐると、なにかレバーのようなものが見つかった。
翼はためらいなくそれを引いた。
 すると突然、ぼっと壁にすえつけられていたたいまつに明かりがともった。
 そして、その時初めて、翼は自分の姿を悟った。
「貴族……?」
 翼の胸には、貴族のバッチが輝いていた。
 基本的には、いつもの格好とあまり変わりがなかったが、羽のついた飾り帽子を被り、目の部分だけに仮面を
つけていた。強さと妖艶さが混じった姿であった。
「なるほどね……」
 翼は、ふふと微笑む。とその時、前方でなにやら、がやがやと騒がしい声が聞こえてきた。
 翼は、その方向へと一歩あゆみはじめた。


■3・C 第3の試練〜力の試練〜


 小さな扉の目の前。そこには、様々な姿をした人々が集まっていた。
 宝石がちりばめられた細身の長剣を腰にさし、両肩につけた、燻し銀色のプレート。頭には、羽のついた飾り
帽子を被り、目の部分だけに仮面をつけた人物。
 翼であった。彼女は、貴族のバッジを身に付けていた。
 黒の長衣を下に着、白の革鎧に身を包んだ男は、龍也。首からは戦士のバッジをぶら下げている。
 そして、白シャツに赤ネクタイを締め、上に紺のマントを羽織った眼鏡の青年は、慎一郎であった。マントに
魔法使いのバッジが止めてあった。
「……なんか、みんなすげぇ格好だな……」
 龍也は、眉をひそめてそれぞれの姿を見る。
「僕は、普段と変わらないけどね……」
「いや、そうでもないぞ……」
 さらりと流した翼に、すかさず龍也が突っ込みを入れる。
「けど……」
 龍也は、ぎぎぎ、と首をまわし、慎一郎のほうを見やる。たらり、と一筋汗が流れる。
「あれは、どうすりゃいいんだ……」
 慎一郎は、肩に乗ったけむくじゃらの生き物(ぬいぐるみ)に向かってなにやら話しかけていた。
「ははははは♪ 僕は魔法使いだったんです。そうなんです♪ さあ、おいで、ゴーンタウィグ!」
 ばっ! とマントをひるがえし、あさっての方向を指差していた。その表情は、いまだかつてないくらいにき
らきらと輝いていた。
「……からみづれぇ……」
「…………」
 二人は、そんな慎一郎に何を言うわけでもなく、ただただ遠い目をしてその様子を見つめていた。
「さあっ!! はやくいきましょう!! 魔法列車に遅れますよ!!」
 ぐっと拳を握り、力説する慎一郎。
「いや、何いってんだか全然わかんねぇし」
 ぼそりと龍也がつぶやく。
「……はいはい。じゃあ、お遊びはこれくらいにして、扉を開けるよ? いいかい?」
 冷静な翼が、金属のドアノブを掴み回す。
「うわぁ……」
 ―そこには、大迷宮が広がっていた。
 

 草間を探す途中、様々な魔物が3人に襲い掛かってきたが、ほとんど龍也と翼によって、倒されていった。
 慎一郎も、とりあえずファイアーなどの魔法を駆使してみたのだが、ことごとく失敗した。
「行きますよ!! クリーチャーたち!! 僕の魔法の力、思い知るがいへぇああああああ!?」
 すぱこーーん!! と、これでもかというくらい軽快にぶっ飛ばされていた。
 ―そんな状況を知ってか知らずか、翼と龍也は終始無言で、戦いに明け暮れていた。
 

「……で、とりあえずたどり着いたな」
「ああ、そうだな」
 ぼろぼろになった慎一郎とは対照的に、翼と龍也の凛とした口調があたりに響きわたる。
 3人は、今巨大な扉の前まで来ていた。それは黒々とした鉄の扉で、見上げなければ上が見えないほど巨大な
ものだった。
「これが試練ってやつか?」
 龍也は、翼に尋ねた。
「ああ、そうだと思う。これで、最後だといいが……」
 翼が、ぽつりとつぶやく。
 龍也はにっと微笑んだ。
「そうだな……頑張ろうぜ」
「ああ」
 2人はお互いにこぶしをつき合わせる。今までの戦いで、協力関係が生まれていたのだった。
 そんな様子を慎一郎は、ひとり寂しく見つめていた。
「ううう、いいですね……友情、汗、涙……そして芽生える、愛……はぅっ」
「いや、それはありえないね」
 翼は慎一郎の背後で、ぼそりとつぶやいた。
「……へ、をををおおおおをお!? き、聞かれていたのですか……ふ、不思議だ……防音は完璧のはずなのに
っ!」
「いや、つつぬけだしな」
 ぼき、ばきと指を鳴らし、龍也が笑う。しかし、その笑みはどこかひきつっていた。
「…………きゃあっ♪」
 慎一郎は、人差し指を立て、くるくると回った。肩に乗ったぬいぐるみも、一緒にまわる。
「本来だったら、殴ってるところだぜ……」
 龍也は、ぷるぷると拳を震わせた。
「ほら、こんなところでもたもたしている場合じゃないだろう? 先を急がないと」
 翼は微笑むと、扉を指し示した。
「ああ、そうだな。それじゃ……おらぁぁ!!」
 龍也は、気合を込めて、巨大な扉を押し開けた。ぎぎぎぃと扉はきしんだ音をたてて、ゆっくりと開いた。
 3人は中に入る。
 と、その瞬間。
 ぐぉおおおおおおおおん!!
「!!!?!」
 突然、扉が閉まる。ついで間髪いれず、雷撃が飛び、けたたましい爆発音が鳴り響く。そして、それはあっと
いうまに壁を粉砕した。
 さっきまで自分達がいた場所が今は見る影もないほど崩れていた。
 しかし龍也と翼は、とっさに気配を察知し、避けていた。
 ―慎一郎だけ、逃げ遅れた。
 もうもうと立ち上る白煙の中を、龍也と翼は真剣な表情で、じっと見据える。
「さってなにやら、こいつがお相手のようだか?」
 龍也は、にいと笑った。
「そうみたいだね」
 翼もつぶやく。
「今度は、少しばかり骨のありそうな奴だといいんだけどね」
 ああ、と龍也も頷く。 
「んじゃ、……ショウタイムだ!」
 そこには巨大な鎧が、ひとふりの剣をかまえていた。
「シンニュウシャ……ハイジョ……シンニュウシャ……シ……!!」
 鎧は、ぐごご、と鈍い音をさせると、突然その姿からは考えられないほどのスピードで二人に襲い掛かってき
た!
「シンニュウシャ……コロス……!」
 鎧は、剣を大きく振り上げると一気に打ち下ろした。一瞬、ぐごうっ!とあたりの空気が歪む。
 そして、恐ろしいまでの衝撃波が二人に容赦なくあびせかけられた。
「壁よ!!」
 龍也が叫び手を突き出す。瞬間、目の前に輝く魔法の障壁が現れた。
「ぐはっ!」
 しかし、その衝撃に耐えられず壁にたたきつけられる。
「だいじょうぶか! ……ふ、なかなかやるね……」
 翼は、ふ……と、口端をゆがめ不敵な笑いを浮かべた。翼は、愛用の剣を引き抜くと、すっと顔面でかざす。
 ただ、美しいとだけ呼ぶには、あまりにも妖艶でたけだけだしい容貌であった。とぎすまされた刃の放つ輝き
のような怪しくも鋭敏な美しさが、そこにはあった。 
 敵をしっかりと見据える。と、次の瞬間、翼は駆けていた。
 翼の動きは、最小限の無駄のないものだった。
 迫り来る鎧の攻撃を素早くかわし、真横に掲げた小剣を盾代わりに使って攻撃を受け止める。
 そして、一気に剣を振りかざして鎧の足をなぎ払った。
 ぐらり、と鎧の体がゆらぐ。しかし、それはわずかに鎧のバランスを崩しただけであった。
「なんだと……」
 確かに攻撃は、命中した。しかし、鎧にはなんの変化もなかった。
「あはははははは、僕に任せなさい!!」 
 いつのまにか衝撃から立ち直った慎一郎が、起き上がり叫んだ。
 慎一郎は、びしぃっと鎧を指さすと、こういった。
「天知る地知る人が知る!! いいーーっか鎧! 僕の力、思い知るのがよいのです!!」
 微妙に間違った日本語を駆使し、慎一郎は、どこからかモバイルを取り出すとなにやらつぶやきだした。
「ぱら@ぱら<<いえもんи¬д≒йぱらた記豪さTえほほぅ!!」
 高速で詠唱しているため、何を言っているのかさっぱり判別がつかない。しかし、詠唱時の慎一郎は、いまだ
かつてないくらい真剣な表情だった。
 慎一郎の目が、かっと開かれる。呪文は完成した。
「ゴーンタ、召喚!!」
 ぱぁぁ!! とあたりはまばゆい光に包まれる。
「うっ……!」
 そのあまりのまぶしさに、慎一郎は思わず手で目を覆う。
 しゅうう……。
 白い煙の中から、何かが現れた。
 うほうほ……。
「ご、ゴーンタ!」
 それは、まさしく夜のゴーンタだった。全身毛むくじゃらで大きな赤い鼻を持ち【ウホウホ】と鳴く、素敵な
種族。熊のように大きくたくましい、素敵な種族。そんな体に似合わずチューリップハットをかぶった素敵な種
族。
「さあ、ゴーンタ、やっちまってください!!」
 慎一郎は、びしぃっとイワシをとりだし、ゴーンタの鼻先に突きつけた。ゴーンタは、うほほと頷く。 
 と。
 ぼぐぅおっ!!
「ぐはぁっ!?」
 次の瞬間、慎一郎の体は見事な軌跡を描いて宙を舞った。
 ゴーンタパンチが決まったのだった。
 宙を舞っている時に、慎一郎は夢を見た。
(くっ……さ、さすが僕のゴーンタですぅっっ!!)
 なんか、天使とかバラとかが見えた。
 次の瞬間、どしゃぁぁぁん!! という派手な音をたてて慎一郎は地面にめり込んでいた。
 なんか、鼻血とかでてた。
 それでも、慎一郎は幸せだった。
「う、うふふふふふふふ♪ ゴーンタぁあぁぁぁ……がく」
 慎一郎が意識を失うと同時に、ゴーンタも姿を消した。
「あいつに、普通の攻撃は無理だぜ……!」
 そんな慎一郎には目もくれず、龍也はなにやら左手に力を込める。
「は、あああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
 気合が高まると同時に、龍也の左手からものすごいエネルギーがほとばしる。そして、頂点まで達した瞬間、
龍也は左手に巻いていた布を一気に取り去った。
 ぶぉん!
 瞬間、そこに剣が現れた。具現化された霊剣である。
「……俺を怒らせたことを本気で後悔させてやるぜっ!」
 龍也は霊剣を握りしめると、鎧に向かって一気に反撃に躍り出た。
「はあああああぁっ!!」
 龍也は剣を垂直に打ち下ろす。
 と、次の瞬間、無数の剣が出現し、鎧に向かって目にも見えぬ速さで降り注いだ!
 ひゅんひゅんひゅんひゅひゅんっ!!
「……きゅおおおおおん!!」
 鎧の動きが止まる。隙間という隙間に剣が入り込み、身動きが取れなくなったのだ。  
 がきぃん!
 にぶい金属音があたりに響きわたる。鎧の腕に、深々と剣が食い込んでいた。
「……僕という存在に対してもね」
 仮面から鋭い視線が容赦なく貫く。翼であった。そのまま、翼は一気に力を込め腕を断ち切った。鎧の左手が
ぼろりととれる。
 きゅおおおおおん!!
 鎧はさらに、悲痛な叫び声をあげた。
「はぁっ!!」
 ついで、龍也が剣を奪い取る。
 そして。
 鎧の後ろから光が斜めに走る。
 がっ!!
 腰から、胸にかけて切り裂かれた鎧は、一瞬棒立ちになる。
「これで、最後だ!!」
 龍也は、精神を集中させ、一気に放出させた!
 ぐごぅっ!
 突如、空間が激しく歪む。
 次の瞬間、鎧はその空間に飲み込まれ、鉄の塊と化していた。
「ふぅ……!」
 龍也は、汗をぬぐうとにこやかに話した。
「……やっぱ、たいしたことなかったな?」
「ああ、そうだね……」
 2人はお互いの顔を見ると、ぷっと吹き出した。
「この剣は、圭織の土産にするか……」
 龍也は、ぽりぽりと頭をかいた。
 と、その時。
「あへぁあ!?」
 今まで、倒れていた慎一郎が突然復活した。
「んなっ? ななんだよ?」
「なにごとだい?」
「あ、あああああれあれあれ」
 慎一郎が指さす。鎧が消えた場所から、一筋の光が立ち上っていた。3人はゆっくりとその光に近づく。する
とそこには、丸い水晶がまばゆい光を放っていた。
「もしかしてこれって……」
 3人は顔を見合わせる。
「光の水晶!?」
 翼が水晶を拾い上げる。すると、3人の体が光に包まれた。



■4・ボスそして救出


 そこは、神殿のようだった。荘厳な雰囲気を持つ4つの柱が部屋を支えている。その柱と柱の間に、複雑な文
様が描かれたレリーフがはまっている。それは、ドラゴンの頭、ハーピーの羽、そして鎧をかたどっていた。
 そしてそのレリーフの下には、それぞれ丸いくぼみがあった。
 分かれていたグループともここで合流することができ、再び6人での行動となった。
 手に入れた水晶は、3つ。そして、それぞれが手に入れた水晶をくぼみにはめこんだ。
 しばらくの沈黙の後、ぐがぁぁぁぁぁ……と地の底から搾り出したような叫び声が聞こえた。
「なっ、なんですか!?」
 縁樹が叫ぶ。
「あ、悪魔……か!?」
 しかし、いっこうに悪魔は現れる気配がない。
「ど、どうしたんでしょう」
 慎一郎がつぶやく。
 と、その時みっつの水晶が、一斉にまばゆい輝きを放ち始めた。
「!!?」
 あたりは見る見るうちに白い光に包まれていく。そして……。
「……お前達が、封印を……してくれたのか……」
 突然響きわたる、低い声。
「だ、だれ? だれですか?」
 みなもは声の主に向かって語りかけた。声の主は、ゆっくりと話し始めた。
「私は、守護者なり……。今、お前達が乗り越えた試練によって、悪魔は再び、封印された……」
「光の水晶を……全部集めたから……なのか?」
 翼がつぶやく。
「そうだ……。お前達こそ、真の勇者……。これで我々も、解放される……」
「解放? 解放って……」 
声の主は、一言だけ残した。
「ありがとう……」
 一筋、また一筋とどこからか光が差し込む。壁から、ふわりと丸い光がいくつもいくつも飛び出していく。
「これって、もしかして……」
「たぶん……イケニエにされた奴らの魂じゃねえのか」
 龍也は髪をかきあげた。輝く不思議な光達が立ち上る様を、皆いつまでも見つめていた。


 その後、レリーフが左右に分かれ、中から草間が発見された。草間の手には、『姫』の駒が握られていたが、
最後の光の玉が、草間の手に触れた瞬間、駒はこなごなに砕け散った。
 そして、意識が途絶えた。


 ―再び、意識を取り戻した時、そこはいつもの草間興信所であった。
 だが、なぜここにいるのか、わからない。どうして、こんなに人々が集まっているのかもわからない。
 けれど、皆何かをやり遂げた記憶はある。だがそれが、なにかはわからない。
「……ああ、雫。コーヒーを一杯作ってくれないか?」
 草間は、にっこりと微笑んだ。
「はい、義兄さん。もちろんです。皆さんも、せっかくですからどうぞ。ね?」

 ―ゲームは、記憶だけでなく、いつのまにか、その姿を消していた。

 
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
【2863/蒼王・翼/女/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【2322/宇奈月・慎一郎/男/26歳/召喚師】
【1790/瀬川・蓮/男/13歳/ストリートキッド(デビルサモナー)】
【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術使い

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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。

 この文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。
大きくわけた展開は3つ。1.みなも、縁樹様、2.蓮様 3.慎一郎、龍也、翼様という感じです。
もし機会がありましたら、他の参加者の方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。
また今回の参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。

大変お待たせしました。本当に申し訳ありません。もっと早くお届けできればよかったのですが、切羽詰ってい
ます。
ストーリーは、いろいろプロットを組んではいたのですが、やはり最初の考えどおりには進みませんでした。
たぶん、あちこち矛盾点が発見されるかと思われます。(爆)
最後、悪魔がでてこないじゃないか、というのは水晶を皆様発見してくださったためなのです。水晶の発見具合
によってボスの強さが変わる。これは、もう最初から考えていたことだったのですが、でもちょっと疑問に思わ
れるかたもいらっしゃるかもしれません。一応、謎のゲームなので……こんなことになっていると……。えぇ。
しかも雅の悪いくせが、暴走しまくってます。ええ、ギャグです。(汗)
皆様ほとんど影響を受けてます。(爆)
ギャグが嫌いなPLさんは、本当にごめんなさいとしかいいようがありません。雅は、こんな奴なんです。
もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコン、もしくはショップのHPに、ご意見
お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。 

>翼様 はじめましてです。この度は依頼へのご参加ありがとうございました。美しすぎるお方なので、そそう
のないようにと、なかばびくびくしながら書いておりました。(笑) 口調のほう、間違っていないか心配です。
どきどきどき……。(笑)