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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


だんじょん☆くえすと

「なんだ、これは?」
 草間は、口にくわえていたタバコをぎゅうと灰皿に押つけると、何気なくその箱を手に取った。
「う〜ん、なんだか玄関先に置いてあったんですよね」
 零は、人差し指を口に当て、ふみゅ、と小首をかしげた。
 草間は、その言葉を聞きながら、改めてその箱を眺めた。
 せんべいの缶ほどの長方形の箱。木で作られており、箱の側面には鳥や、獣を抽象化した模様が無数に彫られ
ている。
 表面には、なにやら大雑把な文字で「ダンジョンクエスト」と題が入っていた。
「……どうやら、何かのゲームのようだな」
 草間は、何気なくその箱を開けた。すると。
 箱の中に、小さな扉。それは、レンガを模したものだった。
 草間が、それに手を触れた次の瞬間。
「うわぁぁぁぁ!!?」
 突然、草間の体がぐらりと歪む。
そして、一気に扉の中に、吸い込まれたのだ!
わっはっはっはぁ……とどこからか嘲笑するような声が聞こえた。
しかし、それは、一瞬の出来事であった。それが何者かを確認する暇もなかった。
箱の中の小さな扉がぱたり、と閉まった。
あとには、呆然とたたずむ零のみが残された。


「と、いうわけなのです」
 零は、静かに話した。
「義兄さんは、あのゲームの中に吸い込まれてしまいました……。その時に、私、聞いたんです。『生贄は、頂
いた』と……」
 零は、きわめて真剣な表情でつぶやいた。
「でも、そのあとに、また不思議な声が聞こえてきたんです。『我は守護者なり。我の封じた光の水晶散らばり
けり。助けたくば、試練を受けよ。光の水晶を集めよ』と」
 光の水晶。これを集めると、草間をさらった奴を、倒せるのだと。
「私も行きたいのですが、義兄さんの留守を預からなくてはなりませんし」
 途方に困った零は、こうして依頼をしたのだった。
「そうそう、これ」
 零は、どこからか6個のバッジを取り出した。
 それには、『ナイト』『魔法使い』『僧侶』『盗賊』等の絵が入っていた。
 その世界で、それぞれの格好になれということなのか。ともあれ、どうやら、このバッジで、ゲームの中に入
れるらしい。
「義兄さんを、助けてください。どうかお願いします」
 雫はそういうと、ぺこりと頭を下げた。


■1・だんじょんのきっかけ

 草間を助けて欲しい。
 そんな零の願いを聞き、興信所には男女合わせて、すでに6人が集まっていた。
「また、草間さんが巻き込まれたんですか………」
 ふう、と大きなため息をついたのは、海原・みなも。透き通るような青い瞳、肩まである青い髪。
 線が細く、ややはかなげな印象をうける少女だ。
 みなもは学校帰りに、ここに立ち寄ったのだった。
「大変ですね、雫さんも」
 紺のセーラ服に身を包んだみなもは、くるりと振り返り雫を見やる。その時、胸元に巻かれた赤いリボンがふ
わりと風に揺れた。
「……なるほどな」
 あたりを通り抜ける、すがすがしい風。
 いつのまにか、一人の少年が立っていた。いや―少年ではない。少女だ。
 長身でやや細みの体格。宝石がちりばめられた細身の長剣を腰にさし、清清しい風を体にまとっている。両肩
につけた、燻し銀色のプレートがいかめしい。現代の女騎士というにふさわしい姿。天才、F1レーサー蒼王・
翼だった。
「あいかわらずだね、草間さんは」
 翼は、唇の端をわずかにゆがめて微笑んだ。濃い金色の前髪が瞳の前にこぼれ落ちる。
「雫ちゃん、心配しなくていいよ。僕が必ず……助けるからね」
 精悍な濃いブルーの瞳で、雫を見つめる。時折、風が、薄手のマントの裾をはためかした。
「ねえ、ノイ、なんだか面白そうですよね」
『あまり期待するのもアレだけどな』
 黒の帽子、黒のレースに縁取られた上着。それに対応するかのように白の帽子、白で統一された衣装。如月・
縁樹と人形のノイである。二人は、興信所へお茶をしに来たところ、たまたまこの状況に立ちあったのだった。
「でも、本当になんでこんなことになったんでしょうね?」 
 黒に限りなく近い真紅の瞳が、きらきらと輝く。その表情は、好奇に満ち溢れていた。
「僕、すっごく興味あるなぁ、ねノイ……ていたた!」
 無造作に切られたアッシュグレイの髪を突然ひっぱられ、縁樹は悲鳴をあげる。
『ボクに聞くなよ』
 黒髪の人形は、憮然とした表情でつぶやく。
「べ別に、ノイに聞いたわけじゃ……」
『あ、ソウデスカ』
「ノイ〜〜〜〜〜」
 縁樹は、ぷうと頬を膨らませた。
 そんな二人のやりとりには、目もくれず、一人なにやらつぶやいている男がいる。
「……ふふふ、ダンジョン……冒険……ろまん……!」
 病的なほどにやせ細った体。青白い顔を縁取るのは、長い黒髪。
 宇奈月・慎一郎。モバイルに召喚魔法を代唱させ、高速にて使途を召喚する現代の魔術師である。
「……どうしましょう? どうしましょうか? 草間さんがまたピンチだそうですよ……ふふふ」
 慎一郎の眼鏡が、きらりと怪しく光る。慎一郎は、どこか遠くを見つめながら幸福そうに笑っていた。
「なんか、わけわかんねぇのもいるな……」
 眉をひそめ、慎一郎の様子を横目で眺める革ジャンの男。
 日向・龍也。何でも屋を生業にしている青年である。
「まあ、ヤバいってわけでもねえだろうし、なんか逆にわくわくするな……」
 龍也は、布が巻きつけられた拳を固め、手のひらに打ち付けた。
「……はぁ〜あ。なんか、眠くなってきちゃったな」
 椅子に座り、足をぶらぶらさせながら大きなあくびをしたのは瀬川・蓮。小悪魔的な印象の少年である。黒の
ダブルコートを着込んだその姿は、風格のある貴族のような雰囲気をかもし出すのに一役買っていた。
 蓮は、輝く金髪をかきあげつぶやく。
「理由なんていいから、早く遊ぼうよ。ね?」
 蓮は椅子から、たっと飛び降りると、にっと微笑んだ。
「そうだな、とっとと行こうぜ」
 龍也もあとに続く。
「でも、どうしてこんなことになったのか、まず知りたいです。だって、箱があるということは何か事情がある
わけでしょうし」
 みなもがつぶやく。
「まあ、なぜ光の水晶を集めなければいけないのか……その訳もとても気になるしね」
 翼も、雫をじっと見やる。
 みなの視線が、雫に集中する。雫は、しばらく沈黙を守っていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「私も……よくはわからないのですが……」
 以前兄さんは、【ゲーム殺人】とよばれる事件に関わったことがあるんです。それは、文字通り【ゲーム】に
見立てて殺人を行っていくという、快楽殺人者によるものでした。
 しかし、その事件は普通のゲーム殺人とは少々趣が違ったんです……。

 * * *

 その部屋は、まさしく穴蔵というのにふさわしかった。
 全体が暗く、陰鬱な雰囲気であった。
 壁にかけられた絵はすべて、風変わりなもので、中世ヨーロッパを模した銅版画であった。いやらしい、いぼ
がついた鼻を持つ子鬼、大きな三日月の鎌を持った死神、頭がヤギの悪魔。
 どれもおどろおどろしい生き物達が、この壁のいたるところに見出される。
 そして大きくせり出した棚には、ぎっしりと箱が積まれていた。それはすべて、ゲームだった。よく知られて
いるテレビゲームもあれば、中には、見たこともない外国のボードゲームまであった。
 だが、その中でももっとも不気味な雰囲気を放つものは、中央のテーブルに置かれているボードゲームであっ
た。ゲームは、一人の男によってしっかりと抱え込まれていた。
 「……なるほど、かなりのゲーム好きなんだな」
 部屋を一折見回すと、草間は男に目を向けた。
 男の表情は、青ざめ、体はぶるぶると震えていた。時折、男は何かをつぶやく。しかし、その言葉は聞き取れ
ない。
 草間は、ふんと鼻を鳴らすと男に問い詰めた。
「ゲーム殺人……か。お前は、このボードゲームのストーリーにそって、次々と殺人をおかした。そうだな?」
 とんとん、と草間は机の上に置かれている紙を指し示した。
 そこには、悪魔が人を食べている絵が描かれていた。
「お前のやっているそのゲームは、悪魔が主人公だったな。たしか生け贄に人間を捧げていかなければ、自分の
持ち点がどんどん少なくなるというものだ。そうだな?」
 男は、黙ったままだ。
 草間は、ふうとため息をつく。
「……ゲームと、現実の区別がつかなくなったのか。だからお前は……」
 その時、男が口を開いた。
「……だ……なんだ……」
「なんだと……? よく、聞き取れない」
 男は、もう一度つぶやく。
「生け贄なんだ……。あいつらは、生け贄なんだよ……」
「イケニエ、だと?」
 男は、こくりとうなずく。こころなしか、その表情はさらに切迫したものになっていた。
「やらなきゃ、俺が殺される……」
「一体、なにをいっているんだ?」
 男の焦点は、すでに定まっていなかった。
「……集めたんだ。俺は、集めたんだ。でも、集まらなかった。だから、やるしかなかったんだ。次は俺だ、俺
が殺される! 俺が生け贄なんだ!!」
 男は突然立ち上がると、半狂乱になって叫びだした。
 草間は、慌てて男を取り押さえる。
「おちつけ、おちついて話すんだ。なんだ? いけにえだと? 集めた? 何を? ……次はお前の番?」
 草間は、男の肩をしっかり掴み、瞳を見据えた。
「俺は、世界各地のゲームを集めてきた。ゲームの為ならどんな場所でもいった……」
「ほう、それで?」
 草間は、男を刺激しないようゆっくりと語りかける。
「ヨーロッパに行った時のことだ。俺はそこで、とある民族の噂を聞いたんだ。不思議なゲームを使う民族の噂
をな……」
 そして、男は流暢に語り始めた。
 ゲームは、災いから民をすくった勇者の伝説に基づいているということ。
「ここに、いくつか職業が描かれた駒があるだろ。これは、災いを追い払った勇者を現しているといわれてい
る」
 そして、ゲームは儀式用であること、その民族の若者達の、成人の儀式に使われるということ。
「このゲームをすることで、自分達が災いを払った勇者となる。災いを近づけないようにする願いを込めた儀式、
そんなものだと思っていたんだ」
 男は、そのゲームがとても欲しかったが、譲ってもらえなかったこと。
 しかし、ゲームを盗みだし、帰国したこと。
「……けれど、そのゲームは災いが封じられていたんだ」
 男は、つぶやいた。
「俺は、知らなかったんだ。ただのゲームだと思っていたんだ」
 その時、男の表情が変わった。
「……けれど、本当に災いが封じられているなんて……」
「なんだ? 災いとは、なんだ?」
 草間が問いただす。さっきよりも、強く肩を揺らす。しかし、男の表情はうつろになっていた。
「災いだよ……。これは、災いを封じるための道具だったんだ……」
「聞いてるのか!! はっきり話せ!!」
 草間は強く一括する。しかし。
「悪魔だよ! 悪魔が封じられていたんだよ!! あいつは、俺に命令するんだ、『イケニエを……』と!」
「な、なんだと……」
 草間は、ここでの災いとは、病気か何かだと思っていた。確か中世ヨーロッパではペストが大流行したはずだ。
そのため、病気を悪魔の仕業と結びつけて語られた。そんなものだと思っていた。しかし、まさか本物とは。
 ―ありえない。草間は首を振る。
「バカなことを……。その悪魔が何かの拍子に目覚めて、お前に生け贄を求めたというのか。だから、お前は殺
人を犯したとでもいうのか」
「ああ、そうだ……」
 草間は、ごほごほと咳をした。冗談で言ったというのに、まさかここまで本気にするとは。
 ―狂っている。草間は確信した。
「そういえば、何かを集めたといっていたな。何を集めたんだ? 何がダメだったから、殺人をした?」
 男は、ちらりと草間を見る。
「勇者達だよ。正確には、勇者の力が封じられた駒だ。本来、これは9つあったんだ」
「……このバッジか。でも、今は6つしかないが?」
 その時、だんっと男が机を叩いた。
「だから、集まらなかったんだ!! あと3つだったんだ!! でも……見つからなかった」
「これを集めると、どうなっていたんだ?」
 草間が尋ねる。
「封印が保たれる。災いは、光の水晶と呼ばれる力で封印されていたんだ。その力は、それぞれの勇者の駒に宿
っていた。けど、儀式の時には例外的に封印が解かれることがある。試練を受けさせるためにな」
「……どうやって?」
「これだよ……」
 そういうと、男はどこからか新たな駒を取り出した。その駒には少女の絵が描かれていた。
「……姫、か?」
「そうだ……。つまり、『生け贄』だ。この駒を取った時、封印が解かれる。そして、勇者達の駒はバラバラに
なる」
「じゃあ、『姫』の駒をお前が取ったことにより、封印が解かれたとでも?」
「そういうことだ……。災いを封じる方法は二つ。ひとつは、バラバラになった勇者達の駒を集め、光の水晶で
封印すること。そしてもうひとつは、生け贄を捧げることだ」
 男は、大きく深呼吸しつぶやいた。
「生け贄は……『姫』の駒を取った人間―つまり、俺だった」
 男は、突然狂ったように笑い始めた。
「最初は、勇者達を集めようと思ったさ。けど集まらなかった。俺は、殺されたくなかった! 生け贄なんてま
っぴらだ! だから、俺は聞いたのさ。どうすれば、いいのかってな」
「……悪魔にか」
 男は歪んだ笑いを浮かべた。
「そうだ。悪魔はいった。『イケニエを……』とな。だから、俺は生け贄を捧げていた。それだけだ! ひゃー
はっはっは!」
「けれど、それも終わりだな。お前は、ここで捕まるんだ」
「……いやだ、俺は、死にたくない……! 続けなければ……生け贄を捧げなければ……!」
「あるはずがないんだ! 目を覚ませ!」
 草間は、男の手から『姫』の駒を取り上げた。
「ああ!?……ああ、はは、そうだ、こうすればよかったんだ……今度はお前だ……お前だ!」
「な、何を……」
「イケニエは、お前だ! その駒を手にした時からな! 箱は追ってくるぞ。何処にいても。必ず……な!」
 そしてその後、男は潜入した警察官達に逮捕された。
「哀れなものだな……」
 草間は、男の後姿を見つめながらつぶやいた。
 ―狂っている。
「イケニエ、か……」
 草間は、あとに残されたゲームを見やる。そこには『姫』の駒が転がっていた。
「あるはずがない、そんなもの……」
 草間は、駒をポケットに押し込んだ。

 ―ゲームの名前は、『ダンジョンクエスト』とあった。


* * *


「……そうして、今度は草間さんが『イケニエ』というわけだね?」
 翼がいまいましげにつぶやく。
「……はい、そうとしか考えられません」
 雫は、うつむいた。
「義兄さんは、『気にしてない』とはいっていたんですけれども、まさか本当にこんなことになるなんて……」
「……その犯人の男はどうなったんでしょうか?」
 みなもが、おずおずと手を上げる。
「は、はい……。どうやら、そのあと取り調べの途中に心臓発作で亡くなったそうです」
「イケニエになったというわけですか」
「そうですね……」
 雫は胸の前で手を組み合わせた。
「ごめんなさい、雫さん。こんなことを聞いてしまって……」
「いえ、いいんです。だから、皆さんにこうしてお頼みしたのですから……」
 雫は、顔を上げ笑顔を見せる。
「お願いします」
「じゃあ、とっとと行こうよ! リクツはもういいからさ」
 蓮が叫ぶ。
「俺も早いとこ、一暴れしたいもんだな」
 龍也が、にっと笑う。
「……じゃあ、みなさん準備ができたらバッジを取っていきましょうか」
 慎一郎は、ふふふと眼鏡のずれを直しながらつぶやいた。
「わぁ〜、なんだかすっごく楽しみですね! ねぇ、ノイ?」
『まあ、あんな話聞いたらナ』
 縁樹とノイは、心なしか楽しそうである。
 こうして、集まった六人は、それぞれバッジを手にし、ダンジョンクエストの箱に近づいた。
 すると、まばゆい光がそれぞれを包み、箱の中へと吸い込んでいった。
 こうして、草間救出の冒険は始まった。


■2・B それぞれの姿

 気づくと、縁樹は一人であった。
 真っ暗な闇の中に、一人、ぽつんと取り残されていた。
「あ、あれ? 僕一人ですか〜?」
 縁樹は、きょろきょろとあたりを見回す。ノイがいない。いつもうるさいノイだが、いなくなると不安になる
ものである。
「の、ノイ〜!ノイ〜!」
 縁樹は、とりあえずノイを探すべく、一歩足を踏み出した。
 と。
『うみゅっ!』
 何か、踏んだ。
「……」
 その時突然、ぼっと壁にすえつけられていたたいまつに明かりがともった。
 そして、初めて、縁樹は自分の姿を悟った。
「武道家……?」
 縁樹の胸には、武道家のバッチが輝いていた。
 真っ赤な拳法着に、羊の皮でできた黒い靴。背中には竜の刺繍がほどこされていた。
「なんだか、かっこいいですね〜」
 縁樹は、うっとりとした表情を浮かべる。とその時、下で何者かが叫びだす。
『おいっ、縁樹!足どけろ!どけろ〜〜!!』
 その声に、縁樹ははっと我に返った。そして、そぉ〜っと足をどかす。
 たらり、と一筋こめかみから汗が流れる。
 そこには、踏みつけられてくっきりと背中に足跡がついたノイが、いた。
「のっノイーっ! だ、だいじょうぶですかー??」
『大丈夫なわけないダロ』
 ノイがつぶやく。しかし、縁樹は聞いていない。
「誰が、こんなひどいことを……。僕のノイに……」
『いや、お前だお前』
 ノイは、遠い目をした。
 …………。一瞬、二人のあいだに沈黙が流れる。が、しかし縁樹はとびきりの笑顔を向けてノイに語りかけた。
「でもノイ、その格好にあってますね♪ 可愛いですよ〜♪」
『いや、話題変えるなて』
 とはいえ、確かにノイの格好は可愛かった。縁樹と同じ拳法着。ただ縁樹が赤であったのに対して、こちらは
白とさわやかだ。そして背中には謎のチャックから、ナイフが顔を覗かせていた。
「ノイ、それは……」
『うん、なんでもないよ♪』
 いぶかしがる縁樹を後目に、突然態度をかえるノイ。微妙に返り血がナイフにこびりついていたのは気のせい
か。様々な謎を残してはいたが、なにやら奥のほうで物音が聞こえてきたため縁樹の考えは中断された。
「ねえ、ノイなんかあっちのほうが騒がしいですね。いってみましょうか?」
『そうだな』
 縁樹とノイは、音に引き寄せられるように歩を進めた。


■3・A 第一の試練〜心の試練〜


 ちょうど小さな扉が見えたとき、お互いの姿を見つけることができたので、自己紹介することにした。 
 上身ごろの着物を身にまとい、黒衣に数珠といったザ、仏教といった姿の女性は、みなも。
首からは僧侶のバッジをさげている。
 真っ赤な拳法着、黒の革靴といった中華風な姿の少女と、同じく白の拳法着といった背中にくっついてる人形。
縁樹とノイであった。
 二人の胸元には、武道家のバッジが輝いていた。
「……返り血」
 みなもはノイの背中から、ナイフが飛び出しているのにかなり戸惑っていた。しかも刀身に、謎の血。気にす
るなといわれるほうが困る。
「あ、いやその、あまり、気にしないで下さい♪」
 それでも縁樹は、ややあせりぎみにみなもにつぶやく。
『そうそう。気にすると、大きくなれないぞ』
 ノイは、うんうんと頷く。その度に、背中から飛び出しているナイフもぶんぶんと揺れる。微妙にみなもの方
に飛んできそうで怖い。
「そ、そうですか……なんかいろいろ言いたいことはあるんですけど」
「え?」
『ん』
 二人のきらきらした視線を一手に浴び、そのままみなもは沈黙する。
「いえ、なんでもないです。では、いきましょうか」
「はいっ、わくわくしますね、ノイ♪」
『ああ、冒険の始まりだな!』
 縁樹とノイはお互いに親指を立て、ウインクする。
 その光景をみなもは冷静に、傍観していた。そしてどこからか取り出したデジカメでぱちりと収めた。
「これも、記念ですよね」
 みなもは、にっこりと微笑んだ。


「!?」
「きゃぁああ!?」
『ノォォォォォーーーーっ!!』
 部屋に入った瞬間、3人は思わず叫び声をあげてしまった。とてつもなくオンチな歌が、3人の耳を襲ったの
だ。手で耳をふさぐが、効果はまったくない。
 その部屋には、ひとりの少女がいた。手は翼に変化し、足は鳥のそれである少女。あきらかに普通の人間では
なかった。彼女はハーピーだった。
 しかし、魔物とはいえただ歌を歌っているだけである。別にこちらに攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「……うう〜結構くらくらしますね……」
 縁樹は、目をつぶり頭を振る。
「たしかに、聞いていると耳をふさぎたくなりますね」
 みなもは意外に冷静だ。がしかし。
『……ぷ〜』
 ノイにいたっては、例外だった。なんか口から、魂みたいなものが飛び出していた。今にも死にそうだった。
「ああ〜っ!? の、ノイ〜〜!? だ、だいじょうぶですかぁ〜!?」
 縁樹はがくがくとノイの肩を掴み、激しく揺らす。
 しかしその度に、ノイのHPが明らかに下がっている。ノイ瀕死。
『……ぷ〜……く、くはっ!?』
 と、突然ノイがかっと目を開けた。
「ああっ、ノイ〜〜! 気がつきましたか〜! もう僕は心配で心配で……」
 縁樹は、ほろりと涙を流しつつ、ぎゅうとノイを抱きしめた。
『死ぬわけないダロ』
 ノイは、にやりとマンダムポーズを決めて微笑む。だがしかし、まだ回復していないらしく、微妙に青白い顔
で死にそうだった。さらに、縁樹の強い抱きしめによって、これまたHPが急激に低下していた。
『……ぷ〜』
「ああっ、またノイが〜〜〜!!」
 縁樹は、ぎゅうとノイを抱きしめると、くるりとみなもの方に向き直りこういった。
「敵は、恐ろしい攻撃を仕掛けてきます! 気をつけましょう!」
 ぐぐっと拳を固め、縁樹は力説した。
「……ええ、そうね」
 みなもは、いろいろといいたい事があったが、あえてそのままにし、微笑んだ。
『をぃ、無視するなヨ』
 ぴくぴくと痙攣しながら、ノイがつぶやく。
「でも……」
 縁樹は、神妙な面持ちでみなもに語りかける。
「―たぶん、ハーピーさんはきっと悪気はないんですよね?」
「そうね……。友達にもいるけど、下手の横好きって結構多いし、気持ちも分かりますし」
 みなもは、ふふと苦笑する。
『をぃ』
「そうですよね。じゃあ、こちらからの攻撃は止めたほうがいいですよね?」
 縁樹は、ぴっと人差し指を立て提案する。
「ただ、歌を聴いて欲しいだけだと思いますし……」
 う〜んと縁樹は考える。
『なぁ』
 ノイがつぶやく。が、ことごとく無視された。
「あたしは歌を教えてもらって、一緒に大声で歌うっていうのはどうかなと考えたのですが」
 みなもがにっこりと微笑む。
「ああ〜、なるほど〜! それは結構いい考えですね♪」
 ノイ抜きで話はどんどん進む。
「ええ、踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損損♪って」
「わあ〜、みなもさんからそんな言葉を聞くなんて、びっくりですよ〜♪ あははははは♪」
「うふふふふふ♪ 肺活量には、自信がありますし♪」
「すごいですね〜〜〜♪」
 二人はすっかり意気投合する。そして。
「……じゃあ、とりあえずやってみましょうか? ねぇ、ノイ〜〜耳栓だし……て、て、あああああ!?」
 くるり、と縁樹が振り返ったその先には。
『………………』
 無言で、背中のチャックからバズーカを取り出し、ハーピーに狙いを定めているノイが、いた。
「だっ、の、ノイ〜〜〜〜!? や、ややややめてください〜〜〜!!」
 縁樹は慌ててノイを止める。
『止めろ、とめてくれるな縁樹。あんな奴、こいつでぶっ飛ばしてやる』
「そ、そんなことだめです〜〜!! ハーピーさんは悪気がないんですから!!」
『ううううるさい!』
 ノイは、ぶんぶんと首を振った。その時、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「の、ノイ……??」
 縁樹は、どうしようとおろおろしている。そこに、すっとみなもがノイを抱きあげた。
「……ごめんなさい、ノイさん。無視してしまって。かまってもらえなくて、さみしかったんですよね?」
 みなもは優しくノイに語り掛ける。ノイは、こくこくと頷く。
「……そっか。そうだったんですね、ノイ……。すみません……」
 縁樹も、ノイの頭を優しく撫でた。
「じゃあ、三人で、歌いましょう? ね?」
 みなもは、にっこりと微笑んだ。
「はいっ!」
『おう!』
「それじゃあ……」
 みなもは、耳栓をきゅっとはめると、ハーピーに向かってしゃらん!と数珠を突きつけた。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損損!!♪」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!??」
 ノイと、縁樹の声が重なる。
「そ、それでいくんですか!?」
「……これでなかったら、何を歌うって言うんですか?」
 みなもは、とびきりの笑顔で返した。すでに、足は軽くステップを踏んでいる。
「え、えっとぉ〜〜〜……」
 だって、それってかなり失礼でわ……。
 そんな思いが縁樹の心の中を通り抜けていった。
 しかし、みなもはそんな縁樹の思いを知ってかしらずか、さらに近づき歌い踊る。
(え、え〜〜い! なるようになれです!)
 ノイからとりだした耳栓をつけ、縁樹も、
「踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損損!!♪」
 謎のカンフーで、くるくると廻り踊りながら、歌い始めた。ノイもまたしかりである。
 すると、意外なことにハーピーが喜び、歌い始めたのだ。
(お、おををを……)
『スゲェ……』
 その後、3人の試みはかなりの困難を極めた。なにしろ耳栓をしていても響く強烈な歌である。だがしかし、
みなもの丁寧な歌や、縁樹、ノイの踊りでハーピーの機嫌はかなり良くなっていた。
 歌っていると、なんだか3人は楽しくなっていた。歌が下手とか、そんなのは関係ない……。そんな気持ちが
3人のなかに芽生え始めていた。
 そして、みなの歌声がひとつになる。その時だった。
 ハーピーの体が、まばゆい光をはなちだしたのだ。
「!!?」
 3人はその光に目がくらんだ。
(ありがとう……楽しかったわ……ほんとうにありがとう……)
 光の中で、3人は声を聞いた。
 そして、光はさらに強くなった。
「あ、あれ……?」
 光がおさまった後には、ハーピーはいなくなっていた。
「いなく、なってしまいましたね……」
 みなもが寂しそうにつぶやく。
「でも、とってもよい顔をしてましたね、ハーピーさん」
 うんうん、と縁樹も頷く。
 と、その時。
『おい、ちょっとちょっと!』
 突然、ノイが大声をあげる。何事かと皆集まる。するとそこには……。
「水晶!?」
 そこには、まばゆい光を放つ丸い水晶が残されていた。
 3人は、顔を見合わせ微笑む。
 そして、縁樹が拍手を始めた。ノイ、みなももそれに続く。 
(よかったです……)
 ノイが、水晶を拾い上げる。
 すると、3人の体は光に包まれた。


■4・ボスそして救出


 そこは、神殿のようだった。荘厳な雰囲気を持つ4つの柱が部屋を支えている。その柱と柱の間に、複雑な文
様が描かれたレリーフがはまっている。それは、ドラゴンの頭、ハーピーの羽、そして鎧をかたどっていた。
 そしてそのレリーフの下には、それぞれ丸いくぼみがあった。
 分かれていたグループともここで合流することができ、再び6人での行動となった。
 手に入れた水晶は、3つ。そして、それぞれが手に入れた水晶をくぼみにはめこんだ。
 しばらくの沈黙の後、ぐがぁぁぁぁぁ……と地の底から搾り出したような叫び声が聞こえた。
「なっ、なんですか!?」
 縁樹が叫ぶ。
「あ、悪魔……か!?」
 しかし、いっこうに悪魔は現れる気配がない。
「ど、どうしたんでしょう」
 慎一郎がつぶやく。
 と、その時みっつの水晶が、一斉にまばゆい輝きを放ち始めた。
「!!?」
 あたりは見る見るうちに白い光に包まれていく。そして……。
「……お前達が、封印を……してくれたのか……」
 突然響きわたる、低い声。
「だ、だれ? だれですか?」
 みなもは声の主に向かって語りかけた。声の主は、ゆっくりと話し始めた。
「私は、守護者なり……。今、お前達が乗り越えた試練によって、悪魔は再び、封印された……」
「光の水晶を……全部集めたから……なのか?」
 翼がつぶやく。
「そうだ……。お前達こそ、真の勇者……。これで我々も、解放される……」
「解放? 解放って……」 
声の主は、一言だけ残した。
「ありがとう……」
 一筋、また一筋とどこからか光が差し込む。壁から、ふわりと丸い光がいくつもいくつも飛び出していく。
「これって、もしかして……」
「たぶん……イケニエにされた奴らの魂じゃねえのか」
 龍也は髪をかきあげた。輝く不思議な光達が立ち上る様を、皆いつまでも見つめていた。


 その後、レリーフが左右に分かれ、中から草間が発見された。草間の手には、『姫』の駒が握られていたが、
最後の光の玉が、草間の手に触れた瞬間、駒はこなごなに砕け散った。
 そして、意識が途絶えた。


 ―再び、意識を取り戻した時、そこはいつもの草間興信所であった。
 だが、なぜここにいるのか、わからない。どうして、こんなに人々が集まっているのかもわからない。
 けれど、皆何かをやり遂げた記憶はある。だがそれが、なにかはわからない。
「……ああ、雫。コーヒーを一杯作ってくれないか?」
 草間は、にっこりと微笑んだ。
「はい、義兄さん。もちろんです。皆さんも、せっかくですからどうぞ。ね?」

 ―ゲームは、記憶だけでなく、いつのまにか、その姿を消していた。

 
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
【2863/蒼王・翼/女/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【2322/宇奈月・慎一郎/男/26歳/召喚師】
【1790/瀬川・蓮/男/13歳/ストリートキッド(デビルサモナー)】
【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術使い

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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。

 この文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。
大きくわけた展開は3つ。1.みなも、縁樹様、2.蓮様 3.慎一郎、龍也、翼様という感じです。
もし機会がありましたら、他の参加者の方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。
また今回の参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。

大変お待たせしました。本当に申し訳ありません。もっと早くお届けできればよかったのですが、切羽詰ってい
ます。
ストーリーは、いろいろプロットを組んではいたのですが、やはり最初の考えどおりには進みませんでした。
たぶん、あちこち矛盾点が発見されるかと思われます。(爆)
最後、悪魔がでてこないじゃないか、というのは水晶を皆様発見してくださったためなのです。水晶の発見具合
によってボスの強さが変わる。これは、もう最初から考えていたことだったのですが、でもちょっと疑問に思わ
れるかたもいらっしゃるかもしれません。一応、謎のゲームなので……こんなことになっていると……。えぇ。
しかも雅の悪いくせが、暴走しまくってます。ええ、ギャグです。(汗)
皆様ほとんど影響を受けてます。(爆)
ギャグが嫌いなPLさんは、本当にごめんなさいとしかいいようがありません。雅は、こんな奴なんです。
もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコン、もしくはショップのHPに、ご意見
お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。 

>縁樹様、ノイ様 はじめまして。今回は初参加ありがとうございます。なんだかノイ君と縁樹ちゃんの掛け合
いは書いていてとっても楽しかったです♪ うまくキャラにあっているのかどうかわからないのですけれど……。
(苦笑) また機会がありましたら、遊んでくださいませ。それでは。