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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


レッツ☆ガーデニング!

「この間はどうもー! 幻楼堂の水嶋未葛ですー」
 にこやかに微笑みながらアポイントもなしに突然訪問して来た女性に、草間興信所の探偵である草間武彦は、これでもかというほど思いっきり嫌そうな顔を向けた。
「何ですか、その不細工な顔は」
「怪奇関連ならお断りだぞ」
「まーたまたー。そんなこと言っちゃって。この間の依頼、きっちりやってくれたじゃないですか。うちの店主も感心してましたよ? 流石、怪奇探偵!」
「だから! 違うって言ってるだろう!」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんですよ」
 さらりと流されて、草間は思わず片手で頭を抱える。そんな草間を後目に、未葛はちゃっかりとソファに座って、零の出したお茶を受け取っていた。
「……で? 今回は何なんだ?」
「あ。やっぱり受けてくれるんですね?」
「受ける受けないは訊いてから決める」
 憮然と言った草間に未葛は嬉しそうに笑って、持っていた包みをテーブルに置いた。若い女性が持つにしては少し渋過ぎる、唐草色の風呂敷である。
「……何だ? これは」
 包みを開くと、そこにあったのは手のひらほどの大きさの、楕円形をした茶色い物体だった。
「これは……種か?」
「そうです。大きいでしょう?」
「……大き過ぎるんじゃないか?」
 手にとってみると、なかなか重い。中身がぎっしり詰まっているといった感じだ。草間はそれを眺めながら、未葛に問う。
「これがどうしたんだ?」
「それを、育てて欲しいんです」
「あ?」
 思わぬ依頼に、草間はつい間抜けな声を出してしまい、慌てて咳払いをした。
「……どういうことだ?」
「ですから、それを育てて、実を収穫して欲しいんです。あ、土とかはどんな土でもいいらしくて、世話も夜に水をやるだけでいいそうです。うちじゃあ、ちょっと風が清らか過ぎて、育たなくて……」
「ちょっと待て。清らかだと駄目だって言うのは……?」
「ああ。それ、魔界の植物なんです」
 さらっと言われたその言葉に、種を持つ草間の手が強張る。
「魔界の、植物……?」
「はい。うちの店主が友人から貰ったそうなんですけどね。何でも、実を使ったスープが絶品らしくて。収穫して頂ければ、報酬の他にそのスープもご馳走致しますんで……」
 お願いしますーと言って拝むポーズをする未葛に、草間は種を凝視したまま悩み始めた。




 深い森の中にある、広大な敷地に立てられた一つの屋敷。それが所有する美しき庭園の一角に、モーリス・ラジアルは草間から受け取った種を植え終えて、満足したように頷いた。
 草間から連絡を受けるのは別段珍しくもない。彼の元にやって来る怪奇な依頼を解決するのに何度も手を貸したことがあったからだ。今回も、草間の強ばったような声にモーリスは何か大変な依頼が来たのかと思って呼び出しに応じたのだが、そこで渡されたのは一つの大きな種。
「何ですか?」
「種です。魔界の」
「……魔界の?」
 草間興信所で未葛から手渡された種は、確かに何か強い力が詰まっている感じがした。モーリスはそれを珍しそうに眺めて、依頼内容を問うように草間を見る。
「それを育てて、実を収穫して欲しいんだそうだ。実をスープにすると絶品なんだと」
「これを、ですか?」
「そうです。その種は植えると一日で芽を出して、すぐに家一階ほどの大きさまで成長し、五日ほどで幼児くらいの大きな実ができます。植える土はどこでもよくて、毎晩水を与えるだけでいいので、是非お願いします」
 ぺこりと頭を下げられ、モーリスはちょっと悩むような仕草を見せたが、庭師としての好奇心もあり、それを受けることにしたのだ。
「絶品のスープか……セレスティさまに食べさせてあげたら、どんな顔をするのでしょう……」
 優しげな微笑みを浮かべる主人のことを思いながら、種を植えた場所に水をかける。数日で巨大になるらしいので回りに他の植物もない、庭の設計的にも邪魔にならない場所に植えてはみたものの、不安要素も少なからずはあるのだが。
「まあ、そのときはそのときで」
 モーリスはそう呟いて、他の仕事に戻って行った。



 種を植えた翌日。水をやるために種を植えた場所に向かったモーリスは、既に普通に成長した植物と同じくらいの大きさに育っているそれに、目を見張った。
「さすがは魔界の植物というわけですか」
 言いながら、たっぷりと水を注ぐ。こうしていると普通の植物に見えるのだが、未葛の話が本当ならば、明日になれば巨大な姿で向かえてくれるのだろう。
「ちょっと楽しみですね」
 楽しげに植物の葉を撫ぜるモーリスの背中に、優しく月の光が降り注いだ。



 二日目。庭の世話をしようと屋敷を出たモーリスは、そこから種を植えた方向に見える巨大な植物を発見し、思わず立ち止まってしまった。
「これはまた……」
 未葛の言った通りに家一階程度の大きさに育った植物を見上げる。樹齢数千年の樹木ほどもあろうかという太い茎に、しっかり地面に潜り込んで地形を変化させている多数の根、作り物の葉のごとく硬質でメタリックな緑葉。まさに「どーん」という効果音のつきそうな巨大な植物に、モーリスは我知らず目を輝かせた。



 三日目。モーリスは植物に水を与えるため、明るい月の光の下、植物の元へ向かった。これ以上育つと大分離れた屋敷にまで根が届きそうで少し心配だったが、植物の大きさは一定に達すると止まるらしい。屋敷に根が届く数メートルというところで植物の成長は止まり、そして代わりに蕾をつけた。
「これが開いたら、どんな花になるのか……」
 自分の重さに俯く蕾は、開花前のチューリップに似ている。まだ色がついていないのか、それともその色なのか、純白と言っていいほどの美しい色をしていた。およそ魔界の植物とは思えない。
 蕾に手を伸ばすと、何とか指先が蕾の先端に届いた。それを優しく撫ぜると、モーリスはゆっくりと水を注ぎ始めた。



 四日目。旬の苺にも似た、甘く爽やかな香りが屋敷をも包み込み、植物は
その蕾をゆっくりと開かせる。
「素晴らしい……」
 モーリスが思わず感嘆の声を上げた。月の光を弾く気高き白は、天界の植物だと言われたほうが納得するだろうほどに美しかった。分厚く硬質な葉とは逆に、八重咲きの花はシルクのような手触りで透けるほどに薄い。どの植物にも似ていない、その花だけが持つの美しさ。暗い魔界の中で誰にも汚されず、美しさを守っていたその花弁に、モーリスは慈しむようにキスをし、暫しの間そのまま花を眺めていた。



 五日目。未葛の話によれば、この日に実が収穫できるということで、モーリスは我知らず胸を弾ませて、植物の元へ向かって行った。だが、目に入った植物は、昨日とは打って変わって、醜い姿でそこに立っていた。
 茎は萎れ、葉は茶色くなり、あの気高い白はどこにもなかった。
 モーリスは、あの美しい姿が一時だけの姿だったと知り、少しだけ残念そうに溜息をつく。そして気を取り直して実を収穫するために、根元に落ちている実を観察した。
 実は茶色く、まるで堅い殻をまとっているようだった。そう言えば何かに似ていると頭の中を探ったモーリスは、大きさこそ違うものの、胡桃に似ていることに気がつく。もしかしたら殻のようなものだと思ったものは本当に殻で、魔界の悪魔や地面に落ちるときの衝撃から中の実を守るためのものなのではないかとモーリスは分析した。植物の知恵ですか、そう呟いて、モーリスが実に近づく。そのとき、萎れていた茎が、最後の力を振り絞らんばかりに光り輝き、モーリスに向かって鋭い光線を飛ばした。
「……っ!」
 咄嗟に後ろへ飛ぶと、一瞬前まで自分がいた場所に、白く輝く刺のようなものが刺さっていた。茎を見るとまるで実を守るかのように葉を広げ、モーリスを威嚇している。
「やはり魔界の植物……そう簡単には収穫できませんか」
 茎はキィィと耳鳴りのような音を立てて震えると、モーリスに無数の刺を飛ばす。モーリスはそれに恐れる様子もなく、ひらりと避けて、茎全体を視野に入れた。
「すみませんが、実は収穫させて頂きます」
 モーリスがそう呟くと、茎の頭上に巨大な檻が現れる。そしてその檻は一瞬にして茎を閉じ込めた。驚いたように茎が刺を檻に向かって飛ばすがビクともせず、刺は檻の外に出ることもなくそれに触れた途端に消滅する。その間に、モーリスは悠々と実に近づいた。
「なかなか重いですね」
 言いながら実を抱えると、甲高い悲鳴のような音が茎から聞こえて、モーリスは振り返る。モーリスの見ている先で、茎はどんどん黒くなって、溶けるように地に沈んだ。実を他者に取られた瞬間、この植物の命は終わったのだ。
「……何とも後味の悪い……これも魔界ならではということですか……」
 モーリスは眉を潜めて呟くと、軽く溜息をついた。



 コトコトと煮込まれたスープは淡いクリーム色。鍋からこぼれる香りは、大して空腹感のない者でさえ涎が出てきそうなほど食欲を誘う。そのスープに思わず喉を鳴らしたのは草間だった。
「さー皆さん、お約束のスープです。どうぞ召し上がれー」
 言って、未葛が器にスープを盛ってモーリスに渡す。モーリスはそれを少し惚けたような顔で見下ろした後、ゆっくりとスプーンですくって、口に運んだ。
「……これは……」
「美味しい……凄い美味しいですね、お兄さん」
「あ、ああ……これは凄い」
 スープを口に入れた途端、モーリスは言葉を失った。草間と零も、信じられないようなものを見たかのようにスープを凝視する。
 あっさりとした味が舌をさらさらと流れたと思ったら、ふくよかな甘みが口内、いや体中を包み込む。その甘みに安らぎを覚え、体中の筋肉が弛緩するような感覚がした。思わず溜息をついてしまうそのスープに、モーリスの顔も緩む。
「素晴らしい……これは是非ともセレスティさまにもご賞味頂きたいですね。水嶋さん、この実には種などはなかったのでしょうか。宜しければ分けて頂きたいのですが……」
「あ、いいですよー」
 モーリスの頼みに、未葛は軽く了承した。
「でも、一応人間界にはない植物なので、あんまり普通の方には広めないで下さいね。内輪だけの内緒に……」
「ええ、承知しております。大丈夫ですよ。私は主人に食べさせてあげたいだけですので」
 そう言ってにこりと笑うモーリスに未葛は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑い返して、じゃあレシピも書いておきますねと答える。
 おかわりを求めて立ち上がる草間の横でモーリスは、スープを飲んで微笑む主人の顔を思い浮かべて、口元を緩ませた。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、モーリス・ラジアルさま。緑奈緑と申します。今回は魔界の植物を育てて頂き、有り難う御座いました。
主人の屋敷で、ということで、ご主人さまの名前も出させて頂きました。設定通りになるように台詞には人一倍気をつけましたが、どうでしたでしょう?壊してませんかね?
それと植物の攻撃ですが、当初は実が攻撃するという設定だったのですが、モーリスさまの能力であれば茎が攻撃した方がやりやすいだろうと判断しまして、ちょっと変えさせて頂きました。何とも後味の悪い植物ですみませんでした(笑)

ではでは。またうちの未葛が種を持って来たら宜しくお願い致します(笑)
発注有り難う御座いました!