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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


爆裂先生冒険記♪(おぢょうさん、俺と一緒に牛退治!編)


『燃えよ青春!! 集えよ若者!! 

 君の心を躍らせるものがここにはある!!(ハートビートモーター☆)

 来たれ、冒険部へ!!(ヨロレイヒ〜♪) 〜詳細は厚木俊夫まで〜』

 その張り紙は、音楽室に突然現れた。
 ピンクの模造紙に、ぶっとい筆で書きなぐられた文字。
 何度も間違えたのか、文章のところどころにはミノムシが出現していた。
 
 ―ぢょしこうせいかよ。(びしっ)

 思わず、突っ込む。
 つうか、あまりにもセンスがない。俺はしばらくのあいだ白くなって固まっていた。
「……で、なんなんすか? これ」
「う〜ん、私もよくはわからないんだけど……」
 カスミ先生も、眉をひそめて怪訝そうな表情だ。
「ただね、厚木先生がなにやらさっきいらっしゃって、これを置いてったのよね」
「あ、厚木先生すかっ!?」
 ぐは、と俺は思わずうめいた。
 厚木先生。通称、熱男。(あつお) 
 週に5回ジムに通い、スクワットを10秒で500回こなすという超人的な男だ。
 風の噂には、スリランカで盗賊団を壊滅させただとか、
 ペルーで酸欠になったところをラマに助けられただとか、変な伝説も多い。
 しかも見た目には、どう考えても体育教師なのに、なぜか音楽教師というこのギャップ。
「……んで? 熱男……いや厚木先生が今度は何を?」
「ええ、なんでも、学校で、ステーキを食いたい!とかいいだして」
「は」
「それで、牛を捕まえる!とか言ってて」
「へ」
「で、でででででもステーキなんか、店で食えばいいぢゃないすか!」
 その時、ばぁあん!! とものすごい音とともに扉が開いた。
「それは違うぞ、タカハシくん〜♪!!」
 後光を浴びて、びしぃと指さすその男。カウボーイハットに、半袖短パンのその男。
 なぜか、左手に鮭(タクト代わり?)を持ってるその男。 
 
 ―厚木俊夫その人だった。

「いや俺、田中……」
 俺の話も聞かず、厚木はぐっと拳を固め叫びだす。
「俺は、この手で最強の牛を捕まえて、食いたいのだぁぁぁ〜♪♪!!」
「で、でででもそんな牛、どこに?」
 すると、厚木は、ふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふっふっふ……。タケダくん、よくぞ聞いてくれた。ぢつはな……♪」
「いやだから俺、田中……」
「牛は、この学校にいるのだよ!! わっはっはっはっは♪!」
 
 ―意味が分からない。

 しかし、どうやら厚木は、学校で秘密の洞窟を見つけたという。
 そこに、ちらりと巨大な牛の影を見たのだと。
 んで、彼の計算だと、冒険ついでに牛を退治→ステーキゲット!という単純な魂胆らしぃ。
「やはりな、俺一人だと少々不安が付きまとうものでな!
 こうして冒険部なるものを設立し、同志を集った、とまあこういうわけだ!!」
「ぢゃあ、ここ以外にもこの張り紙を……??」
「あたりまえぢゃないか!! わっはっは!!」
 俺は、白くなって遠い目をした。
 けれど、最近、女子学生が行方不明になっているという噂も聞くが、まさか……。


■1・さぁ冒険だ!!(熱)


「わっはっはっはっは!! いや〜〜〜みんな! よくぞ集まってくれた!」
 腰に手を当て、高らかな笑い声を上げる男。
 ピンクのカウボーイハットに、半袖短パンというちぐはぐな格好。そして左手には、謎の鮭。
 厚木俊夫―通称熱夫―その人だった。
 俊夫の背後には、【冒険部♪】と墨で書きなぐられた細長い模造紙が、でかでかと掲げられていた。他にも、
マッチョ置物や、熱夫がこれでもかとばかりに暑苦しい笑みを浮かべる、特製巨大パネル等がひしめき合ってい
る。そんな狭苦しくも暑苦しい部室内に、俊夫を含めてなんと7人が集まっていた。もう部屋中はよくわからな
い熱気でムンムンだった。しかも、熱気にやられ鮭が腐り始めているのか、汗と何かが入り混じった微妙な匂い
が充満していた。
「……そういや最近、まともに牛肉食べてないからなぁ」
 ぼそり、とつぶやいたのは宮本・まさお。ロックバンド『スティルインラヴ』ギター兼ボーカルである。女性
なのだがその格好は限りなくボーイッシュであった。胸のところで張り詰めたジャケットが、汗で黒っぽくなっ
ている。長い金髪が首や頬にへばりついている。まさおはうざったそうに、その髪の毛を払った。そのしぐさは、
どこか妖艶だった。
 と。
「……ぬっ、美しい! 美しいな! まさお!」
 突然、大声を上げ、歓喜の涙を流す熱夫。なぜか、ぐっと拳を握りしめている。
「……は? あ、ああ、ありがとう」
 まさおは、やや戸惑った表情を浮かべながらも、にっこりと微笑んだ。自分が女性と認められたのだ。女性の
割にはがっしりした体格であるまさおは、いつもオカマと勘違いされていた。でも今は。
 まさおは、認められた喜びをかみしめていた。
 が。
「なぁ〜〜に、オカマでも私は差別しないぞ! 美しいものは美しへぶうぉお!?」
 ―ずがぁぁぁん! 
 次の瞬間、熱夫の体は壁にめり込んでいた。
「……私はオカマではない!!」
 まさおの強烈なパンチが決まったのだった。
「…………ぢょしこうせいかよ」
 ぼそりとつぶやかれる謎の言葉。
「!?」
 まさおは慌てて振り返る。と、そこには力なくピースを決める、長い黒髪の少女がいた。ぴんと触覚のように
はねた二本の前髪。緑のブレザーに白のシャツ、赤いリボンを締めている。日本国文武火学省特務機関特命生徒。
亜矢坂9・すばるであった。
「ぢょ、ぢょしこうせい……? なんだ……??」
「………………」
 微妙な空気が二人のあいだに流れる。しかし。
「プログラム発動……対象……認識……」
 すばるは、無表情でつぶやく。
「総合的データー及び評価を加え、対象をオカマと論断……」
「だから、私はオカマではない!」
 だぁぁ! とまさおは頭を抱えた。
「牛退治!! やるやる〜♪」
 瀕死の篤夫と、ぱらぱらと土ぼこりが舞う室内の様子などまったく気にせず、陽気に手を上げたのは霧杜・ひ
びき。シルクハットに燕尾服、といったいかにもマジシャンという姿だ。しかし、その姿とはうらはらに、シル
クハットの下からのぞくのは、まだ幼い少女の顔立ちであった。
 ひびきはシルクハットを脱ぐと、おもむろに中を探る。銀の髪が、ふわりと揺れる。しばらくして、少女の銀
の瞳が輝いた。
「これこれ! 牛退治って言ったら、これだよっ♪」
 ひびきの手には、いつのまにか赤い布が握られていた。
「これで、牛さんの気を引くね!」
 ひびきは、にっこりと微笑んだ。次の瞬間、赤い布から純白の鳩が現れる。
「わーっ、すっごーい!!」
 そんなひびきのマジックを好奇の表情で眺めていたのは、葉山・壱華。腰まで届く長い銀髪。パーカーにズボ
ンといったラフな出で立ち。横一文字に切りそろえた前髪が特徴的な少女である。そして何よりも特徴的なのは、
頭に生えた二本の角であった。彼女は鬼の子供だった。
「なんか、これからわくわくするね☆ う〜ん、楽しみ〜〜♪」
 壱華はにっと白い歯を覗かせる。
「……うむ、ナイスだ……ナイスゲーマーふぶき!」
 いつのまに立ち直ったのか、ぼろぼろになった熱夫がひびきの後ろで腕を組んでいた。たらりと鼻血がこぼれ
る。
「……いや〜、私、ひびき……」
 むろん、そんなひびきの抗議など熱夫は聞いちゃいない。
「そうして、我々探検隊は、いざ未知の世界へと出かけるのであった!」
 びしぃっ! と指さし、どこか遠くを見つめたのは熱夫……ではなかった。熱夫の隣で、これまた熱い男がふ
はははと高らかに笑っていた。
「どんな困難にも、俺は立ち向かおう! なぜならそれが隊長の役目だからだ!」
 ぷるぷると拳を震わせ、ばーん、と男の顔がアップになる。太いもみあげが目にまぶしい。不動・修羅。神聖
都学園高等部の二年生である。流れる黒髪に、詰襟の制服。中に、Tシャツを着込んでいる。どうやら、彼には
今、なんとかスペシャル張りな謎の隊長の霊が降りているらしい。修羅は流れる黒髪をふぁさとかきあげた。
「さあ、行こう! 未知なる世界が、俺達を呼んでいる!!」
 修羅は、熱夫と肩を組みははははははと高らかに笑った。
「……それにしても、牛と迷宮……。クレタ島のミノタウロス伝説のようですね」
 一人冷静に、つぶやいたのはルゥリィ・ハウゼン。肩の位置で切りそろえた銀髪に、清楚な白のブラウス。首
元には、群青のリボンが結ばれている。彼女は神聖都学園大学部学生および、ドイツからの留学生であった。そ
して、特殊な『D因子』の保有者でもあった。
 彼女は、あごに手を当て考えるしぐさをした。
「女子高生達のことが、気にかかりますね」
「……それって、隠れて牛肉パーティでもやっているのか? モーモーつなぎ着て!」
 ふふふとまさおが、怪しげな笑みを浮かべつぶやく。どうやら、この部屋の熱気と、熱夫のパワーにやられて
壊れたらしい。
「うむ、モーモー! 牛とは名ばかりの怪物をぶち倒してやる!」
 はははと修羅がそれに続く。
「ねえー、っていうか、それって牛? 本当に牛なの?」
 素晴らしい手つきでカードを切り、どこからか国旗一覧を出してみせるひびき。
「わー、すっごいー!! もう一度やってやって!」
 ひびきのマジックに夢中で、本来の目的を忘れかけている壱華。
「迷宮構造解析用機能及び破壊的装備搭載見送り……」
 力ないピースを決め、なにやらつぶやくすばる。
「…………」
 こんなメンバーで大丈夫なのだろうか。ルゥリィの心に、一抹の不安がよぎった。
「さっ、行くぞ我らが冒険部!!」
 びしぃっ! と鮭で指さし熱夫が叫ぶ。
「おををををを!!」
 一同は、同意の声を上げた。
 こうして、謎の牛退治は幕を開けたのだった。


■2・いくぞ洞窟探検隊!(燃燃)


「うぐあぁぁぁぁぁぁ!?」
 次の瞬間、熱夫の体は炎に包まれた。ぱたりと倒れる熱夫。
「……恐ろしい悪魔の炎が、熱夫隊員の体を焼き焦がしたのだった!」
 修羅はどこからかテープレコーダに吹き込んだナレーションを流し、おもむろに熱夫の元に駆け寄る。
「だいじょうぶか!!」
 しかし、熱夫の反応はない。
「―くくぅ! ここで俺たちは隊員を一人失うのか!」
 ぐっと歯を食いしばり、だばだばと涙を流す修羅。と。
「……ごっめーーーん!! 炎、とんでっちゃった〜〜☆」
 てへっといった感じで、壱華はぽりぽりと頭をかいた。
 この炎は、壱華が明かり用にと、放ったものであった。
「…………」
 気まずい沈黙が流れる。
 が。
「くそうっここには危険が一杯だ! みな、気をつけろ!!」
 ばっと立ち上がり、皆を落ち着かせる動作をする修羅。
「……いえ、落ち着いていますし」
 ルゥリィがつぶやく。彼女はエストラントと呼ばれる装甲を装備していた。
「それに、熱夫のことだから死なないだろ」
 ぎゅい〜ん、とまさおは、持っていたギターをかき鳴らす。
「………………」
 またも、気まずい沈黙が流れる。そして、修羅はこほんとひとつ咳払いをするとこういった。
「……とりあえず、我々は『明かり』を手に入れ、暗闇の洞窟を進むことになった」
 ぱちぱちぱち、とどこからか力ない拍手が聞こえる。すばるだった。
「やー、ありがとうありがとう」
 照れながらも、修羅は拍手に答える。と。
「くぉぉおらあああああああ!!」
 突如、ぶち倒れていた熱夫が復活した。確実に炎が命中し、確実に体が燃え上がったのにもかかわらず、熱夫
は髪をアフロにしただけであった。まさに超人。まさにマッスル。人類の驚異。
「すごいですーー!!」
 目をきらきらと輝かせて、熱夫を見つめるひびき。
「今度、それマジックで使いたいです!」
「……ん? HAHAHAHAHA! オフコース、なみき! 今度俺が、じきじきに伝授してやろう!」
 熱夫はぐっと親指を立てると、ひびきに笑いかけた。心なしか、きらりと歯が光ったような気がした。
「……ん〜、え〜っと、私の名前、ひびきなんですけど……」
 ひびきは、たらりと一筋汗を流すと、はははと力なく笑った。
 しかし、熱夫がそれを聞いているはずもなく。
「確かにここには危険が一杯だ! みんな、きをつけろ!」
 ぐっと拳を握り、皆を落ち着かせる動作をする。
「……二回目」
 ぼそり、とすばるがつぶやく。
「う?!」
 白くなる熱夫。みかねたのか、
「……とりあえず、また明かり作るね〜☆」
 壱華が、ぼっと手から火の玉をだした。炎は、今度はふわりと浮かぶとあたりを照らし出した。
 ―そこは、大迷宮だった。
 ごつごつとした岩肌がむきだし、いくつもの道が枝分かれしている。地面には、何かの骨が大量に散乱してい
た。巨大な穴も見受けられる。その穴にも白い骨があった。
「これは……」
 まさおが骨を拾い上げる。
「人間、ではないですね。何かの小動物の骨のようです」
 ルゥリィが、穴の中を覗き込みつぶやく。
「でも、油断はできません」
 その時、ぐぉぉぉぉぉぉん……という恐ろしい咆哮が、洞窟の奥から聞こえてきた。
「!!!」
 皆一斉に、その方角を見やる。
「……現装備発動……対象確認……現地点より斜め45度、北北西の方角に対象物あり……」
 すばるが冷静に状況を分析する。すばるもある装備をつけていたが、諸般の事情でここに名前をあげることは
できないらしい。
 うむうむと熱夫がうなずく。そのほかのメンバーも同意する。
「我々は、未知との遭遇にいざ立ち向かおうとしていた!」
 高らかな修羅の声が、洞窟内に反響した。


■3・A ワナワナぱにっく!(爆爆爆)穴バージョン


「物理的罠、発見です!」
 エストラントに身を包んだルゥリィは、的確に地面に設置されている罠を発見する。暗視装置、レーダー、超
音波装置といった装備までエストラントには装備されていた。
 しかし。
「ぬ?」
 ぽちっ。
 熱夫がうっかり踏んでしまい、罠が発動する!
「ををををを!!!?」
 瞬間、熱夫の真下に穴が出現する!
「うへぁぁぁぁぁぁ……!!」
 熱夫はまっさかさまに落ちていった。
「おお、なんということだ……! 熱夫隊員の命はいかちゅどごぉぉぉむ!」
 修羅のナレーションは、最後まで続かなかった。
 とんでもない破壊音が響きわたったのだ。
「…………」
「…………」
 修羅と、ルゥリィはお互いの顔を見合わせる。
 ―これは、いくらなんでも……。
 死んだだろ。そんな思いが、二人の心を占めていた。
「……さよなら、熱夫。俺はお前を忘れない」
 修羅は、ふぁさりと黒髪をかきあげる。そして。
「……合掌」
 おもむろに、穴に向かって手を合わせた。
「とりあえず、救出に行ってきますね」
 ルゥリィが両手を組む。すると、背中に輝く霊体の翼が出現した。ルゥリィはその翼をはためかせると、おも
むろに穴の中へと降りていった。
 しばらくして。彼女は、ぐったりした熱夫を抱えて戻ってきた。熱夫の顔に、生気はなかった。修羅は、ルゥ
リィの顔を見やる。ルゥリィは、だめだといわんばかりに首を横に振った。
「熱夫、あつおーーーーーー!!」
 修羅は、熱夫の体を抱きしめ、叫んだ。
 と、その時。ぱちりと熱夫の目が開いた。
「!!!!?」
 仰天する二人をさしおき、熱夫は
「ぬおおおおおおおお、体が軽い、軽いぞーーー!!!」
 肩をぶんぶん回し、うははははと腰に手を当てて高らかに笑っていた。
「…………人間って死なないんですね」
 ぼそりとルゥリィがつぶやく。もしものために、治療セットと鎮静剤を用意していたが、どうやら必要なさそ
うだ。
「た、たぶん熱夫だけだと思うが……」
 遠い目をしていた修羅だが、はっと我に返る。
「人間とは思えぬ驚異の力を、我々は眼にしたのだった……」
 ぼそりとつぶやいた。
「ははははははははは!」
 熱夫はいつまでも笑っていた。
「はははははは、俺は最強ださいきょへぶぉ!?」
 ぱたり。突然、今まで元気だった熱夫が倒れる。
「!?」
 見ると、その頭にはぶっとい注射針が刺さっていた。
「な、なにを……」
 修羅のこめかみから、汗がつうと流れる。
「鎮痛剤です。しばらく休ませてあげましょう」
 そこには、どこから取り出したのかぶっとい注射を手にしたルゥリィが微笑んでいた。
その微笑みは、柔和ながらも、どこかひきつっていた。
「……こ、この世の中で恐ろしいものはやはり、人間なのである……」
 修羅の声は、心なしか震えていた。


■4・牛と戦え!!(激激激激)


 どごぉぉぉぉん!!!
 壮絶な破壊音が響きわたり、目の前の石壁が砕け散った。
「こ、こいつが……最強の……牛!!」
 熱夫のこめかみから、一筋の汗が流れる。
 それは、まさに怪物だった。牛の頭に、鍛え上げられた人間の体。丸太のような太い腕には巨大な斧が握られ
ている。頭から生えた二本の鋭敏な角で一突きされれば、ひとたまりもないだろう。
 牛は、荒い鼻息をつきながらぐぉぉんと吼えた。首の辺りが、きらりと光る。
「あれ、鍵じゃない?!」
 壱華が指さす。
「あいつを倒さないと、女子高生達も助からないみたいですね!」
 ルゥリィの口元が、わずかに歪む。
「俺の捜し求めていたステーキ! 覚悟!」
 熱夫はびしぃっと指さす。
 その瞬間、牛が猛烈な勢いで斧を振りかざし突進してきた。
「て、をを!? ちょとまてちょとへぶぉを!」
 熱夫は猛ダッシュで逃げる。しかし牛はどんどん熱夫に迫り来る。さりげなくすばるが牛の背中にへばりつい
ている。
「ぬわーーーー!!」
 熱夫、今度こそ大ピンチ! がしかし。
「おろ?」
 牛は、突然軌道を変える。そこには。
「牛さんこちら〜! こっちですよ〜!」
 シルクハットから、赤い布を取り出しひらひらさせるひびきがいた。
 牛は、ぶもぅっと荒い息をつくと猛然と突進を開始する。
「う、うわわわ!?」
 呼び寄せたのはいいものの、ひびきの方もこれまた大ピンチであった。しかしそこに、一人の人影が立ちはだ
かった。
「……とうとう、俺たちは目的のものに出会ったのだ」
 うつむき加減で、ぶつぶつとつぶやく。
「今! ここで、お前をたおぉぉっす!」
 突然顔を上げ、鋭い眼光で、修羅は牛を見据える。
「は、ああああああああ!!」
 修羅が気合を込めると、体からいくつもの光筋、熱気が立ち上る。
「英雄テセウスよ! 我に降臨せよ!」
 ばっと修羅が拳を天に突き出した瞬間。あたりは一瞬闇に包まれた。
 そして。
 ――ぐぉぉぉぉ!!
 天から降臨した猛々しい勇者の魂が、修羅と一体となる。
「あ、あ、あ……」
 修羅はしばらく身悶えていたが、やがて、かっと目を開く。
「うぉっしゃあああ!」
 次の瞬間、修羅は地面を素早く蹴り、牛の顔面近くまで飛んでいた。
「はっ!」
 体を優雅に回転させ、強烈な回し蹴りを牛に叩き込む。
 ぶもも! と牛はたまらず後ろへよろける。
 と。
「えーーーい!!」
 ちゅどごぉぉむ!
 ついで、渦巻く紅蓮の炎が幾条も牛の体に命中する。
 壱華が放った炎であった。
「へっへーー! 牛はミディアムが一番!」
 壱華は、にやりと口端をゆがめた。
「エストラント―発動!」
 その瞬間、ルゥリィの体が純白の光に包まれる。ルゥリィの背後には龍人霊体が現れていた。
「はぁ!」
 ルゥリィが大きく手を振りかざし、一気に打ち下ろす! すると霊体の腕も同じく上がり、牛の胸部を切り裂
いた。みるみるうちに、牛の胸からは真紅の花が咲き乱れる。
 まさおは、戦いを横目に激しくギターをかき鳴らしていた。と。
「……ハートビートモータ! ナイスオカマ!」
 ぼそり、と熱夫がつぶやく。
 その言葉にギターをかき鳴らす手をやめぴぴく、と反応する。
「……お前はまだわからんのかぁぁぁぁ!」
 がっと片手で熱夫の頭を掴み、そのまま振りかぶって熱夫を投げとばす!
「をををを!?」
 ぐわごぉぉぉん!
 熱夫は見事に、牛の体にクリティカルヒットした。
「……何度いったらわかるんだ」
 まさおは、ふんと鼻を鳴らした。
「これで、とどめだーー!!」
 修羅は咆哮し、はぁっと気合を込めた。次の瞬間、修羅の体には熊をも倒したといわれる伝説の空手家の霊が
宿っていた。
「ちぇぇぇすとぉぉぉーーーーーーーーっっ!!」
 ひょぉぉっと奇声を発しながら、修羅は牛の両角に強烈な手刀をくらわせた。
 ―きゅぉぉぉぉん!! と牛は悲痛な叫び声をあげ、その場にずぅんとひれ伏した。
「うおおおおお!!」
 修羅は、折った角を高々と掲げ、勝利の雄叫びを上げた。
「……げっと」
 終始無言で牛の背中にへばりついていたすばるは、おもむろに牛の首から鍵を取った。そして力ないぴーすを
作る。
「な、ぬっ、ナイスだ! ナイスだお前達!」
 ぼろべろになった熱夫だったが、感激の涙を流しぐっと親指を立てた。
 すばるも、ぐっと指を立てた。しかし、それは中指だった。


■5・救出+宴=きっかけ(炎炎炎炎炎)


 牛が倒れたその先に、鉄の扉があった。
 すばるが手に入れた鍵を差し込むと、鈍い音をたてて扉が開いた。
 そこには、行方不明になった女子高生達が数人倒れていた。
「おい! キミたち! だいじょうぶかね!」
 熱夫は、すばやく駆け寄り女生徒たちに声を掛ける。
「う、う〜ん……」
 女生徒は、しばらくぼぅっとしていたがやがて、はっとした表情で熱夫を見る。
「やや、気がついたかね! だいじょうぶかきみたへぶぉ!?」
 次の瞬間、熱夫の体ははるか後方までぶっ飛んでいた。
「厚木先生〜〜〜〜〜!!! なんてことしてくれたんですか!!」
 女生徒は、つかつかと歩み寄り、熱夫の襟元を掴んでがくがくとゆらした。その表情は、怒りで歪んでいる。
「……な、ななななんのことかな??」
「封印!! といたの、先生でしょう!!? あれほど、やめてくださいっていったのにっ!!」
「ふ、ふういん……? な、なんのことだか……」
 ぱしぃん! と高らかな音があたりに響く。女生徒の平手打ちが炸裂したのだった。
「私達、伝説研究部が! 長年の培ってきた研究と伝統を! あなたはこわしたんですよ! わかってるんです
か!」
「す、すすすまんすまんすまんだって」
「だってもくそもありません!」
 かあっと一斉に女生徒に一括され熱夫は、縮こまった。
「……いったい、どういうことなんです?」
 ルゥリィが尋ねる。
「私達、伝説研究部は長年この学校にまつわる不思議な伝説、出来事について研究を重ねてきたんです。そして、
この学校に生息する魔物達を、復活させない手法を編み出したのです」
 ほう、といった表情でまさおが女生徒たちをみやる。
「今年は、このミノタウロスが復活する年でした。ですから、私達は長年の研究成果から、ミノタウロスを封印
する儀式を行いました。それなのに」
「それなのに?」
 ひびきがつぶやく。
「この人は! 自分の私利私欲のために! ミノタウロスの封印をといたのです!!」
 びしぃっと、熱夫の鼻先に指が突きつけられる。
「どうやって、といたワケ?」
 壱華がたずねる。
「……これです!」
 女生徒は、指さす方向を変えた。その先には……。
「しゃ、しゃしゃ鮭!?」
 ぐはっと修羅がうめく。
「そうです! この鮭こそミノタウロスへの捧げものだったのに!」
「だって、美味そうだったし……普通、鮭があったら拾うよな? な?」
「いや、普通拾わない」
 すばるがぼそりとつぶやく。
「だってもくそもありません!!」
 かあっとまたもや女生徒達に怒られる。
「そのせいで! ミノタウロスがイケニエ対象を人間に変えたんですよ!?」
「あたしたち、もうすこしで食べられるところだったんですよ!?」
「どーしてくれるんですか!!」
「ひ、ひぃ……」
 一気にまくしたてられ、熱夫はもうぼろぼろだった。そこに、ひびきが割って入った。
「まぁまぁ。とりあえず、一件落着したんですから。ね?」
 む〜っといった表情で互いを見る女生徒達。
「そそ! それよりなにより、無事だったんだし! 楽しかったし☆」
 壱華がにっこりと微笑む。
 すばるもさりげなく、ぴーすをする。
「だっから! お肉! お肉食べましょー♪」
 ひびきは、シルクハットを手に持ち、くるりと廻って見せた。
 次の瞬間、ぱぁっとどこからか見事なバーベキューセットが現れた。
「うわ〜〜! すっごーーい!」
 思わず、壱華が叫ぶ。
「ふふふ♪ これがマジックです♪ ね?」
 ひびきは、人差し指をちょいとたて、ぱちんとウインクした。
「ステーキ食べたい! ていうか丸焼きがいいかも!」
「あはははははは!!」
 皆の笑い声が、洞窟内に響きわたった。


 その後、丸焼きにされた牛は、思う存分皆に堪能され、胃袋に収まったという。
「冒険部、最高!!」
 熱夫の叫び声はいつまでも反響した。

 了

 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2865/宮本・まさお/女/22歳/ロックバンド】
【3022/霧杜・ひびき/女/17歳/高校生】
【1619/葉山・壱華/女/12歳/子鬼 】
【2592/不動・修羅/男/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師】
【1425/ルゥリィ・ハウゼン/女/20歳/大学生・『D因子』保有者】
【2748/亜矢坂9・すばる/女/1歳/日本国文武火学省特務機関特命生徒】

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■         ライター通信          ■
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どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。

この文章は(オープニングを除き)全7場面で構成されています。
大きくわけた展開は罠の部分で、3つ。1.ルゥリィ・修羅様 2.壱華・すばる様 3.まさお・ひびき様と
いう感じです。
もし機会がありましたら、他の参加者の方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。
また今回の参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。

大変お待たせしました。本当に申し訳ありません。もっと早くお届けできればよかったのですが、またぎりぎり
です。すみませんでした。
さて、NPC熱夫が絡んできた今回のお話、いかがだったでしょうか? 皆様思ったよりいろいろ動いてくださっ
て書き手としても大変楽しく書かせていただきました。
もし、女子高生救出のプレイングがいろいろあったら、分岐および個別文章を増やしていたと思います。(笑)
パーティを分けて行動させることができましたからね。
ただ、今回のものでも比較的皆さんまとまっていたように思います。ありがとうございます。

 最後、肉を食べるシーンも個別にしようか悩んだのですが、共通にさせていただきました。肉メインでいらっ
しゃっている方ばかりではなかったので。わきあいあいという感じで、あのようなラストにさせていただきまし
た。

もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコン、もしくはショップのHPに、ご意見
お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょう。
 
>修羅様

こんにちは。初めまして。今回はご参加どうもありがとうございました。修羅様のその熱血パワー、思う存分堪
能させていただきました。○曜スペシャル張りなプレイングには、大笑いしました。結果、かなり遊んでしまっ
たのですが大丈夫でしょうか?? もし口調や、キャラが違うぞ〜ということがありましたらお知らせ下さい。
では、今回はありがとうございました。


>ルゥリィ様

こちらも初めましてですね。依頼のご参加ありがとうございました。ルゥリィ様はこの依頼の中で唯一の常識人
といった感じでした。(笑) でも、半ば付近でちょっと壊れていますが。すみません。エストラントの描写です
が、とても難しく、あのイメージでよろしいのかどうか少し不安です。もし間違っていましたら、お詫び申し上
げます。お気軽にお知らせ下さいね。それでは今回はありがとうございました。