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逆凪
草間興信所に暗い空気が漂っていた。
その原因となっているのは、現在依頼のために訪れている夫婦。
「命を狙われている…?」
物騒な話に武彦は眉根を寄せた。そもそも、命が狙われているだなんて、それは警察の領分ではなかろうか。
「つい先日、母が亡くなったため、その遺品を整理したんです。その日から私たちの周りで妙なことが起こるようになりまして……」
「妙なこと?」
聞き返すと、夫婦は暗い面持ちで頷いた。
「はい。火の気のないはずのところから煙が出たり、誰もいないはずの二階のベランダから植木鉢が落ちてきて危うく大怪我をしそうになったり」
「それだけじゃあないんです。階段で足を引っ張られて落ちたり、車のブレーキがきかなくなって事故を起こしそうになったこともあります。もちろん、車はあとで修理に出してみましたけれど、どこにも故障はないと……」
つまり、人の仕業に思えない。だから、怪奇探偵と名高い草間探偵所に来たのだろう…。
もちろん怪奇探偵だなんて望んでないしそういう意味では気が乗らない仕事でもあるのだが。
「わかりました。お引き受けしましょう」
依頼料は充分な額であるし、この夫婦を見捨てるのも後味が悪い気がした。
「ありがとうございますっ」
ぺこりと礼をした二人を見送り、そして。
「さて、誰に頼むかな…」
武彦はぺらりと電話帳をめくってみた。
ほんのついさっき閉じたばかりの扉が開く。入ってきたのは、草間興信所の事務員、シュライン・エマだった。
「依頼?」
電話帳を手にしている武彦の様子を見て、シュラインはすぐさまそう問いかけた。
「ああ」
答えた武彦は、かいつまんで先ほどの依頼人の話をする。
一通りの話を聞き終えたシュラインは、母親の遺品に原因があるとすぐに予測をつけた。
「依頼人のお母様が何をなさってた方かによって違ってきそうよね」
「少なくとも、マトモなことじゃないんだろうなあ……」
処分したとたん妙な現象を起こすような品を持っているのだ。そう思いたくなるのも無理はない。
「一応、本人がそれと知らずに偶然持っていたって可能性もあるわよ」
言っているシュラインも、あまりその可能性はないだろうと思っていたりするのだが……多少なりと可能性があるのならば完全否定はできない。
「まあとにかく、これから適当なヤツに連絡してこっちに来てもらうから。詳しい話はそれからだな」
「ええ、そうね」
言いながら、さっき買ってきたばかりのお菓子に目をやる。そう長く保つとは思っていなかったが……買って一日経たない間に全部なくなってしまいそうだ。
今回の依頼を受けるため草間興信所に集ったのは、シュライン・エマ、綾小路雅、宮小路皇騎、御影祐衣、知久秋月の五人だった。
軽く自己紹介を済ませ、早速仕事の本題へと入る。
依頼内容の話のから、異常現象の原因はその『整理した遺品』の中のどれかにあるのだろうと言う意見で全員一致をみた。
まあなんにせよ依頼人に直接話を聞かなければどうにもならないし、遺品を見るにも依頼人の家に行かねばならない。
ざっとした方向性だけを話したのち、一行は依頼人の元へ向かう事にした。
――依頼人の家は、豪邸というほどでもないが、よく見かける住宅よりは少し大きめで、庭もそれなりに広かった。
居間に通された五人は依頼人の夫婦にすすめられてソファーに掛ける。
「命を狙われる心当たりなどはないんですか?」
早速の秋月の問いに、夫婦は顔を見合わせた。
「ええ。特にこれといった心当たりは……」
不安そうな声音で告げる。
「お母様はどんなお仕事をなさっていたんですか?」
「カウンセラーみたいなことをしていたみたいですけど……同じ家に住んでいたわけではありませんし、私たちも母の仕事について詳しく聞いたことはなかったんです」
「カウンセラーですか……」
夫婦の答えに、皇騎が思案する。母親が霊能力の家系か何かで、心霊現象などに関する相談を引きうけていたのではないかと思ったのだ。もともと、最初に話を聞いた時点で、おそらくそういった関連の仕事をしていると予測はつけていたが……。多分、皇騎の予想は正しいだろう。実際、心霊相談とはある意味カウンセラーに近いところもあるし、まったく事情を知らない人間が見ればカウンセリングを仕事にしていると思われても不思議はない。
「遺品はもう全て処分してしまったんですか?」
祐衣が尋ねると、夫婦は首を横に振った。
「いえ、整理したと言っても、まだ処分したわけではないので……途中でおかしなことが起こり始めたのもあって、遺品はまだ全て残っています」
五人は誰からともなく顔を見合わせた。原因となった品が残っているのならば、案外簡単にことが片付くかもしれないと思ったのだ。
「すみませんけれど、その遺品がある場所へ案内していただけますか?」
「ええ」
そして五人は、夫婦の案内で、夫婦の母親が生前に住んでいたというマンションに向かった。
部屋に入った一行は、早速それぞれに気になる点の調査を始めた。
シュラインと皇騎の二人は、まず夫婦に話を聞いてみることにした。
「覚えている限りで良いんです。どこに何を移動したか教えていただけませんか?」
言われて、夫婦は記憶の糸を手繰って話し始めた。
まず最初に整理を始めたのは母の私物――友人や親戚への形見分けのためだ――からだった。
おかしな騒ぎが起こったため、いまだ形見分けは行われていないのだが……。
「宮小路くん、何か分かる?」
夫婦は、押入れに入れられていた遺品を一つ一つ出してくれる。知識からどうやら術か何かに使うものらしいとはわかるのだが、シュラインには霊的感知能力は一切ない。
「そうですね……」
実は皇騎もよくわからなかったりする。ただしそれは、霊能力がないからではない。
出てくる遺品のほとんどが術具で、また、召喚などに使用する符や封印符なんかもあるため、ざっと見ただけではどれが原因になっているのかわからないのだ。
「またいろいろあるなあ……俺が見てみよっかねぇ」
広げられた遺品の前で屈んでいた二人の肩越しに、秋月がひょいと顔を覗かせる。
「あら、わかるの?」
「さあ。とにかくやってみないとね」
ニッと笑った秋月の瞳が、ふいに真剣な色を帯びた。
再度部屋に五人と夫婦が揃った。
「多分、原因はこれだな」
秋月が、ひらひらと一枚の符を見せた。
「呪符ですね」
「ああ。ただ、ここに霊が封じられてたとかそういうわけじゃなさそうだぜ」
雅の言葉には秋月も同意した。呪符からその効果を予測していた皇騎も雅の意見に頷く。
「詳しく教えてもらえるかしら?」
霊的感知能力をもたないシュラインの問いに、皇騎が口を開く。
「この呪符は、呪詛返しに使われる物です。呪詛返しもある意味では呪の一種ですから……整理した時何かの拍子で中途半端に符が発動したため、逆凪が生じたんだと思います」
「ならば、この符を破壊すればよいのか?」
祐衣の問いに、皇騎はこくりと頷いた。
「ただし、この符を破ればよいという物ではありません」
「……もう発動しちまってるしなあ」
下手なやり方をすれば、かえって事態を悪化させかねないのだ。
「それじゃあ、どうすれば良いのかしら?」
「符の効果を浄化もしくは封印してしまえば良いだろう」
祐衣の提案に、この中では一番符に詳しい皇騎が穏やかに同意した。
浄化の能力を持つ皇騎が符の効果を浄化させ消すことで今回の事件には片がついた。
……しかし。
「他にもたくさん残ってるのよねえ、こういうのが」
「そーゆー仕事してたみてぇだし、いろいろあるんじゃねえの?」
シュラインが苦笑している横で、雅が遺品を覗きこむ。
一応、これで草間興信所に依頼された仕事は終わった事になるのだが……。
「また同じことが起こる前に対処したほうが良いのではないか?」
「俺もその意見に賛成だな」
祐衣の提案に秋月が軽く片手を上げて賛同する。
「そうですね、出来れば他の遺品に関してもきちんと調査した方が良いでしょう」
こうして。
夫婦が追加の依頼を行うと言う形になり、五人はその他の遺品の整理も行うことになったのだった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2701|綾小路雅 |男|23|日本画家(ぺーぺーの極み)
0461|宮小路皇騎|男|20|大学生(財閥御曹司・陰陽師)
3115|御影祐衣 |女|16|学生
2730|知久秋月 |男|25|よろず屋
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。
今回は依頼にご参加頂きどうもありがとうございました。
浄化出来る方がいらっしゃったので、元の符を直接浄化するという形に落ちつきました。
戦闘を想定したくださった方もいたのですが……まったく戦闘ナシです、すみません(苦笑)
調査方法がそれなりにバラけていたので、OPのほか調査シーンも個別となっております。
一部内容が被っている方もいらっしゃいますが、少しずつ描写が違うので、余裕がありましたら他の方のも読んで見て下さい(笑)
それでは……最近余裕がなくてすみません(滝汗)
次回は個別メッセージつけられる余裕がとれるよう頑張ります(遠い目)
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