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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


図書館の会 〜御徴の下に〜

 ●かすみの苦難

「あ……探してたんですよー、かすみ先生」
 安堵したような笑顔を向けて、スタディーホールと言う名の巨大図書館で働く綾瀬が走ってきた。
 ご主人を見つけた仔犬のような印象を受けるのは何故だろう。
 しかし、先日の事件を思い出し、かすみはそんな考えを払拭しようとした。
 綾瀬が常勤する図書館ではない場所でかすみに会うことができた綾瀬は、安堵したように笑って声を掛けてくる。背に走る悪寒に眉を寄せて、かすみは後ずさろうとした。
 何か厭な思いが駆け巡る。
 冷や汗が垂れてくる。
 心音がやたら大きく聞こえてくる。
 それがなんなのかははっきり思い出せないが、最も嫌な事件だった事だけは思い出せた。綾瀬が近づいてくると、思わず避けてしまいそうになる。
「……ヒッ……な、何が……」
 怯えるかすみに近づいて、綾瀬は春のようなと形容するのに相応しいのほほんとした口調で切り出した。
「実は……ちょっとした手違いで悪魔が呼び出されてしまいまして……手助けしていただきたいんですけど」
 彼の話によると、どうやら図書館の会のメンバーの一人、海月という少女が天使を呼ぶ呪文を間違ってしまい、悪魔を呼んでしまったとのことだった。
 何処かへと飛んでいってしまった悪魔を追うべく、調査を続けていたが中間テストも近いこともあって調査は難航してしまっていた。そこを助けて欲しいと、綾瀬は頼みに来たのだ。
 そのときに使った魔法陣らしき絵をちらつかせて言う。
「かすみ先生、お願いします!」
「わ、私は関係ないわ!!」
 首をブンブンと振って、かすみは後ずさりした。
「そんなぁ……お願いですよー、魔法使いの人と一緒だったじゃないですかあ」
 悲しそうな目で綾瀬は訴える。
「い……厭よぉおおお!!! あたしは普通の生活がしたいの!!!」
「お願いしますよー、かすみ先生」
「厭なんですってばぁ!!!!!」
 平凡で平和な日常が音を立てて崩れていく。
 かすみの前には悪魔狩りの試練が続いていくのを感じざる得なかった。


●鋼鉄天使と天女

「あら…かすみ先生じゃありませんか?」
 取り縋る綾瀬を前に立ち尽し、呆然とするかすみ先生を見かけた榊船・亜真知は、なにやらのっぴきならない状況に眉を潜めて声をかけた。
 あまりにも大きな声でやり取りしていた所為か、通りかかった鹿沼・デルフェスもこちら側に歩いてくる。
「どうなさったんですの?」
「あぁッ! この前の魔法使いの人ですね? ……良かったあ…悪魔が」
「え? …もしかして、この間の?」
 流石に無理だろうと思っていたデルフェスは、綾瀬の口からそれを聞いて目を瞬いた。かすみがデルフェスに縋りついた。
「お、おねが…い…」
 恐怖が心を支配しているのだろう、かすみは憐れな様子で二人を見上げる。
「あなたたち魔法使いでしょお?」
 デルフェスをアンティークショップレンの店員と知っているのに、パニックからか訳のわからないことを言っている。
 混乱を隠し切れないかすみを見て心配になり、亜真知とデルフェスは協力する事にした。
 いつもなら調査員が集まってきそうなものだが、今日に限っては誰もそこを通りかかることはない。綾瀬が焦るわけである。
 柔らかな笑みを浮かべ、デルフェスと亜真知は二人を慰めた。
 取りあえずは、巨大図書館『スタディーホール』へと向かう事にした。


●不完全なマテリアル

 四人が地下の書庫に向かうとメンバーは集まっていた。
 呼び出してしまった海月はしょんぼりとして俯いている。床には円と六角形を描き、羊皮紙を繋いだものが置かれていた。室内は泥棒が暴れていったような有様で、踏みつけられた本やカードが所狭しと落ちていた。
「大丈夫ですか、海月さん」
「あッ! 魔法使いさん!! わたくし、どうして良いか……」
 海月という少女は走ってくると亜真知に抱きついた。
 詳しく話を聞けば、敵である悪魔の形態やその他の事柄を調べ上げるために、試しに呼んでみたと言う事だった。
 素人ゆえ呼べるはずも無いと思っていたが、その日が満月だったのと『鏡の悪魔呼び』を知らない間にしてしまったらしい。そんな条件が重なって、悪魔はやってきたのであった。

「封印を解いてしまったらしいということですよね? …という事は、まだ完全に封印が解けていない可能性がありますわ」
「そ、そうですよね!」
 可能性があるとの言葉を聞けば、半ば放心状態だった海月も元気になった。
「ちょっと見せてくださいね、海月さん」
「はい、どうぞ」
「…………あら。こことここと……ここの書式も間違ってますわ。ここに書いたこれを天使の名前に変えると天使の召喚に使えましてよ?」
「きゃあああvv 本当ですか! これで天使が呼べましてよ…ふふふ」
「でも、図形が歪んでますわ」
 さすがに美術品を扱っているだけあって、デルフェスは図形の不正確さに気が付いた。それを聞いて海月は目を瞬く。
「がぁーん……」
「まあまあ…気落ちしないで」
「もしも封印が不完全なら、悪魔は自由になる為に封印を完全に壊しに来るでしょうね」
「次もですか? 昨日、ある教会で聖水をいただいてきたのですよ! とても素敵な神父様でした…」
 うっとりとした表情で言う海月であったが、悪魔が来るとなっては負けていられない。きゅっと口を引き結んで魔法陣を見た。
「わたくし、負けませんわ!!」
「まあまあ…海月さん……」
 未完成魔法少女海月は拳をにぎにぎして力説する。
 そこに不城・鋼はふらりとやって来た。
「ちぃ〜〜っす…あれ? かすみ先生じゃん」
 ここ最近、茶をご馳走になりに来ている不城は不思議そうにこちらを見遣る。
「あぁッ、不城さん…悪魔が呼び出されたんですよ!」
 今にもすっ飛んでいきそうな雰囲気に不城は笑った。
「それでかすみ先生呼んだのか。悪魔なんて祓えたんだなあ。先生は」
「祓えるわけないじゃないのよぅ…不城くぅ〜〜ん」
「だったら何でそんな厄介ごと受けたんだ! 馬鹿か! あんたは!」
「だって、だってぇ」
「仕方ないなあ……」
 べそをかき始めるかすみに呆れ、不城は肩を竦める。
「じゃあさ、どんな姿の悪魔だったか教えてくれよ。探してやるから」
「本当!!! 不城くぅーん!」
 自分より遥かに小さい不城に抱きついて、かすみはおいおいと泣く。不城がなだめすかしている間、海月たちから事情を聞き、それから不城はかすみを連れて自分のファンクラブの人間達にそれらしきものを見た事がないか聞きに行く事にした。
 小さい不城に抱きつきながら歩くかすみの姿は愛らしくも滑稽であった。


●探査

「悪魔は…そうだなあ。いわゆるガーゴイルみたいなやつで…」
 綾瀬はそう言うとそこらへんにあった本を見せる。
 ファンタジー雑誌の特集の切抜きだった。先程の魔法陣も書いてある。どうやら、海月はこれを使って呼んだらしかった。
「「…………」」
 亜真知とデルフェスは無言でそれを見つめる。そのあと申し合わせたかのように海月を見た。
「もしかしたら…世紀初の大魔術師の誕生かもしれませんねえ」
「はあ?」
 意味が分からなくて綾瀬は尋ねる。
 不完全な魔法陣で呼んでしまったのだから才能が無いわけでは無さそうだった。…と言うよりも、普通ならできるはずがないのだ。
「ただ……悪魔が生徒に憑依している可能性もありますわよね……」
「そうですよねえ」
 デルフェスの言葉に眉を下げて綾瀬が言う。
「最近変わった行動を取る生徒が居ないか聞き込みますわ」
「助かります…」
 捜査と追い込みの手はずをすると各自所定の位置についた。

 亜真知はいつの間にか独自に構築した学園内情報網を駆使して、悪魔らしき目撃例がないかを確認し始めた。
 探索には、自分の分体を使い手分けをしてあたる。
 人目に付かない場所へ誘導する様に追い込む様に申し合わせ、分体をコンピューターの探査システムと連結させて探した。
 情報はリアルタイムにモニターされ、共有データは図書館のパソコンに送られる。
 最近変わった行動を取る生徒が居ないか、聞き込みに走っているデルフェスにも小型の端末を渡しておいた。
 見かけた生徒もいなく、可笑しな行動に出る生徒もいないとの情報しか手に入らない。日も落ちて悪魔の行動しやすい時間が近くなる。
 悪魔に遭遇するのを恐れ、不城はかすみを連れて図書館に戻ろうとしていた。
 一方、かすかにエネルギー反応している点を発見し、亜真知は捕獲準備を始めた。理力による霊力の網状結界を負のエネルギー点上に配置する。
 連絡を受けたデルフェスが追い込みを開始した。
 魔力&物理攻撃の耐性があるデルフェスしかできない仕事である。
 その負のエネルギー点は徐々にかすみたちのいる学校内のハンバーガーショップへと向かっていた。
『どうしましょう……かすみ先生のいる方向なんですけれども』
「とことんオカルトに愛されてるとしか言えませんわねぇ…」
 端末から送られたデルフェスの音声にそう返して、亜真知は困ったように首を傾けた。
「こうなったらやるしかありませんわね」
『了解(ラジャー)ですわ♪』
 そう言ったデルフェスは建物の奥から飛び出し、眼前の悪魔に踊りかかる。
 吃驚した悪魔はハンバーガーショップに飛び込んだ。
「大人しくお縄につきなさい!」
 言い放ったデルフェスの声に店の中は騒然となる。逃げ出した悪魔は店内をはちゃめちゃに壊しながら客に激突を繰り返し、店内をパニックに陥れた。
 最もパニックに陥っていたのはその場にいたかすみの方であったが。
「きゃあああ!!!! 不城く〜〜〜〜ん!!!」
「かすみ先生!」
「きゃーきゃーきゃーッ!!!」
「あら、大変」
 絶叫を繰り返すかすみの精神ブレーカーが落ちる寸前に、デルフェスが石の術を掛けて石化させ、意識を断ち切った。
 硬直したままのかすみは彫像のように立ち尽くしたままだ。
 軽やかに身を翻すとデルフェスは肩に乗せていた亜真知の分体――ミニミニ亜真知をひょいと投げた。
「お願いしますわ、亜真知さん!!」
『了解です♪』
 そういうや否や、各地に放たれていたミニミニ亜真知が飛んで来る。ぺったりと悪魔にくっつくと悪魔は亜真知の神力に力に苦しみ始めた。
 そこをすかさず不城が走りこむ。
 ミニ亜真知はちょいと離れて見守った。
「蛟竜雷閃脚!!!!」
 全闘気を足に込め、悪魔の尻を不城はサッカーボールのように蹴り上げる。
「逝ってこい、大霊界ッ!」
「ギャアああああッ!!」
 絶叫放ち、悪魔は壁に激突する。瞬時に霧散し、悪魔は藻屑と消えた。


●ご褒美

「流石ですわ、魔法使いさん!」
 感動した海月は手を取ってぶんぶん振る。
 綾瀬のケーキをお茶菓子に、反省会を兼ねたお茶会開催した図書館の会は久々に晴れやかな表情だ。
 しかし、どうやって倒したのかとなると、ちょっぴり恥ずかしくって言い難い亜真知とデルフェスであった。
 尻を蹴られた悪魔というのはちょっとお下品だ。
 フィニッシュを決めた本人である不城は、成功報酬に気を良くしてルンルン気分でお茶を飲んでいた。
 明日はデルフェスがカスミとデート…もとい、一緒に洋服を見て回るツアーである。
「わたくしを弟子にしてくださいな!」
 感極まった海月はピンクのレースが付いたハンカチで涙を拭きながら言った。
 嵐はまだまだ続きそうだった。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】



 1593 / 榊船・亜真知/女/999歳/ 超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2181 / 鹿沼・デルフェス/女/463歳/アンティークショップ・レンの店員
 2239 / 不城・鋼 /   男/17歳/ 元総番(現在普通の高校生)


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■         ライター通信          ■

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 お久しぶりでございます!
 大変遅くなりました。
 悪魔列伝『図書館の会』でしたが、如何でしたでしょうか?
 次回をお楽しみに!
 では。

 朧月幻尉 拝