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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


指輪がいっぱい?

【0.箱襲来】
「噂に名高い箱みたいね」
 蓮が、あやかし荘や草間興信所に良く出没する『箱』をみてうきうきしていた。
 こんな面白そうなことをする業者が有るなら、是非にと契約したいモノだと思っていた。ただし、自分に迷惑かからなければ、だが。
 一応箱を開けてみると、1ダースほどの紺の指輪のケースが詰めてあった。
 其れに加えて、手紙が一つある。
「あら、あたしにも挑戦するつもりなのね」
 彼女は微笑んだ。
 手紙の内容から、蓮が求めている指輪が入っているが、其れを当てろと言うものだ。
 全て同じ形をしておりミスリルで出来ており彼女の鑑識眼でも分からない。大きさも装着者に合わせて可変自在らしい。ただし呪われている物があるので注意が必要だ。
 蓮が欲しい指輪は有る魔法使いが使っていたと言われる魔術、魔法を補充する指輪という。
 しかしルールがあり、能力者の探知能力、鑑識眼を一切使わない。もちろん確認は指輪を実際はめる。そして、念ずる事で効果を確認するのだという。
 蓮にとってあまりリスクを負いたくない。まぁアーティファクト並みの強力な呪いはないだろうから、解呪などして売り物にしても良いし、報酬としてあげてもよいだろうと彼女は思った。
 因みに魔法の指輪は片手に1個、即ち合計2個までしか付けることしかできない。もし其れを破ると、どれも効果を発揮しないそうだ(はめ直せば済むことだが)。
 
 さて、彼女の道楽の手伝いをする人はいるのだろうか?

【1.道楽付き合いする人々】
「マスター……あの“箱”に興味を持たれるとは」
 と、店の外を掃除をしている、ミスリルゴーレムの鹿沼デルフェスがため息をついていた。既に前の肉体の主要素材はミスリルで無いのだが、同じ効力を持つ素体で活動している。今回に置いてその事は些細なことだ。
「にゃー」
 彼女の近くで猫が鳴いた。可愛いリボンの付いたアメリカンショートヘアと、珍しい紫色の猫。
「こら、まちなさい!」
 と、この2匹を追いかけてくる少女が一人。グレーの服と綺麗な黒髪が印象的である。
「こんにちは。貴女の猫ですか?」
「あ、はい。はじめまして、白里焔寿と申します」
「はじめまして、鹿沼デルフェスです」
「こっちはチャーム。ボクはアルシュ。よろしく〜」
 挨拶しているときに紫猫が挨拶した。
 すこし、デルフェスは固まった。いや、いきなり猫が喋ったことで驚いているだけであり、“猫や犬などの動物が喋る”事に驚いていない。念のため。
「初めまして、可愛い猫さん」
「にゃー」

 そのあと、着物美人の天薙撫子と、髪の毛がとても長い少女、鈴代ゆゆがやってきた。
「うう〜ん」
 撫子が悩んでいる。
「どうしたの?」
 ゆゆは、キョトンとした顔で撫子に訊いた。
「例の“箱”ですからねぇ……」
 過去のあやかし荘の出来事を思い出して、悩んでいる事をゆゆに話したものの、
「大丈夫じゃない?それに女の子には指輪は憧れだよ〜♪」
 と、明るく笑った。
 恐ろしい物を運んできた“箱”事件は今のところ1件しかないそうだが、今回は何が起こるのか不安である。
 結局の所、2人の共通点は指輪に惹かれたこと。魔法の指輪でもなくても憧れだ。素材がミスリルならば魔法・魔術の触媒にもなるだろうし、同じ形とあらば、多少の加工でペアも出来る。ゆゆの気がかりは、自分のこの体でも指輪をはめることが出来るかが問題、親友から貰った人間になる薬を切らしてしまったからだ。しかし其れは些末事だ。危険と分かれば、妖精種として非実体化し逃げることも可能なのだからだ。
「こんにちは、皆様」
「今日は宜しくね〜♪」

 此でデルフェス含め、指輪をはめる助っ人(犠牲者と言うべきなのか?)4人となる。後一人、指輪をはめて効果を知る手伝いさんが来るはずなのだが……。
 デルフェスがそう考えていたときに、いきなり大声がした。
「こんちわ、はじめまして! 目的の指輪を探すために来ました! 湊リドハーストです!」
 元気よく、黒いセーラー服でお下げの少女がデルフェスに声をかけた。制服からすると都内の公立高校らしい。
「こんにちは、はじめまして」
 デルフェスは、驚きもせずにっこり微笑み挨拶する。
 リドハーストは、バイトで牧師の助手をしているそうだが、将来シスターになるのかそれとも悪魔払いをするのか分からない。手伝いの理由は、“魔法”の指輪に興味を持った好奇心から来るものであり、それは彼女の“竜の血”によるものとして考えて良い。竜は、地域問わずして高価な宝を集めるのが好きなのだ。
「集まりましたね。では中にどうぞ。主が待っております」
 デルフェスが店の中に皆を案内するのであった。


【2.簡易説明と装着】
 初顔合わせも多いことなので(特に蓮と焔寿そしてリドハースト)、それぞれの自己紹介と挨拶を済ませた。
 蓮はキセルをふかしながら、もう一度説明する。
「簡単に言うと、何も考えずそのまま指にはめる。あ、こういう場合は中指ね。魔法の指輪は中指にはめるんだよ」
 魔法や魔術の指輪をはめる所は中指が基本らしい。たとえば、薬指がある絆を示す事もある。中指に魔力発動を匹臆す由縁があるのだろう。
「あ、それでも分からない物は、置いておけばいい。一回で魔法を込める指輪を見つけたらこっちの勝ちだからね」
 箱に収められた、ケースをマジマジ見る5人。だれも気が付いているだろうが、5人では後2つ分からないではないか?
 その辺が、蓮自身の“道楽”なのだろう。ワザと5人しかあつめていないのだ。しかしそんなことは気にしない方が良い。何が起こるか分からないのだから自分の身を心配する方がいいのだ。
 早速、思い思い指輪のケースを2つ取り出して、はめていった。
 
 
【指輪色々】
 全く危機感無しに白里焔寿は指輪を2つはめた。念じてみれば、1つはもう一つのリングと“リンク”していると言うことと、お腹がすかないし喉の乾きもしないと言うことだ。しかし、“其れ”には少し違和感がある。
「どうされました?」
 心配そうにデルフェスが訊いた。
「はずれ。でも、結構便利ね。この指輪、居候に無理矢理付けると良い感じだわ」
 何か態度が偉そうに答える、焔寿。
 猫たちは、怖がるように逃げる。焔寿に人の暗黒面が現れているのだ。其れが霊気として発散されている。
「性格逆転ね」
 蓮はのんびりとその場を眺めている。
「え?」
「おとなしい人は過激か乱暴になる。また、善悪基準であればその反対になる呪いの指輪。ま、欠陥品かもね。外せば元に戻ると思うわ」
 と、蓮は説明した。
 まだ効き目が大きくないので、急いでデルフェスが彼女から無理矢理指輪を取ろうとするも。
「邪魔しないでよ! 私は私で気に入ってんだから!」
 焔寿さんご立腹。
 いつも協調性がある焔寿がこうも自分勝手になっているのは違和感がありすぎる。
「こわいー」
 アルシュが泣いた。
「……乱暴な方が、おとなしくなる分には差し支えありませんが……」
 撫子は鈴代ゆゆに「おねーさま」と懐かれ困り果ててはいるが、喋った。
 撫子の指輪に異常はない。1つは、治癒強化の効果を持っているという効果と分かる。もう一つは、念じるだけでは効果はないらしく、何かコマンドを言えば、効果を発揮する物らしい。1つは希望通り物だから問題はなかった。後々、分からない指輪は前に言った通りに蓮が何とかするらしい。
「しかし、このままでは焔寿様のイメージが……」
「そうですわねぇ」
デルフェスが、換石の術で焔寿を徐々に石化させて身動きを取れないようにする手段にでるのだが……。
「はわっ!」
 リドハーストの指輪が何か反応し、何故か彼女が石化し始めたのだ。
「え?」
 皆が止まる。当然性格が変わっている焔寿も。
 特殊な結界が彼女を守っていたのだ。
 焔寿とリドハーストが付けた片方の指輪は、ペアで作用する一種の身代わりの効果を持つ指輪らしい。
「んーおもしろ〜い。ねぇ、撫子お姉様〜」
 ゆゆは、もう撫子に夢中であり、腕を組んでいて離さない。おそらく、同姓に恋をする呪いの指輪なのだろう。もう、妖精化する気もないようだ。
 撫子は困った顔をするも、何とか彼女の相手をして、こっそり解呪し指輪の効果を取り除くと、
「あ、あたしな、何やってたんだろ? ご、ごめん! な、撫子!」
 と、凄く赤面して、彼女は姿を消して逃げていった。
「あらら、待って下さい! ゆゆ様!」

 焔寿の方はと言うと、蓮に対抗するかのように偉そうに座っているし、リドハーストは「はわはわ」叫びながら、石化で慌てている。デルフェスはどうすればいいのか少し混乱気味でありながら、ゆゆが付けていた指輪が気になっていた。
「デルフェス様、術をお解きになっては?」
「え? は、そ、そうですわね」
 撫子の言葉でデルフェスは、石化の解呪をする。
「はわ〜っ」
 もう腰まで石化していた高校生は、安心してかその場でぺたりと座り込んだ。
「便利なんだか迷惑なんだか分からないよ!」
「確かにそうですわね」
 デルフェスと撫子は頷く。
「便利でいいんじゃない?」
 しかし、焔寿はサラリと言ってのける。
「私は今無敵といえるのだから♪」
 今までの彼女とは全然違う態度。かなり指輪と同調しているようだ。
「……でも、まって? 耳を……」
 リドハーストは、撫子とデルフェスに耳打ちする。
「宜しいのですか?」
「思いっきりやっちゃって!」
 悩む撫子は、意を決し、リドハーストに思いっきり、当て身をしたのだ。
 普通なら、リドハーストが気絶するはずだが……。
「きゃ!」
「予想通り!」
 指を鳴らすリドハースト。
 焔寿が身代わりになったようだ、彼女はそのままふんぞり返ったままで気絶している。
「んーどれなのかな?」
 身代わりを無理矢理させられるペアの指輪。嫌な代物である。
 気絶している焔寿から共鳴しているこの呪いの指輪を外した。多分もう一つが性格逆転呪いの指輪だろう。しっかり其れを外して、撫子が焔寿を治療してあげたのだった。

 とりあえず、呪いの指輪騒ぎはひとまず終了のようだ。


【4.誰が当てたのか?】
「で、見付かった?」
 蓮は皆に訊いてくる。
 ほとんどの者は、首を振った。
「わたくしかもしれません」
 デルフェスは、手を挙げる。
「換石の術を自分にかけたのに、石のまま動けますからこの指輪は“自由の指輪”なのですが……」
 と、一つを外す。すると、彼女は完全に石の状態になって動かなくなった。しかし、己の術に対しては意識を保てるため、直ぐに解いて、話を続ける。
「残り一つに魔力は感じるのですが、ある部分が空っぽなのです」
「からっぽ?」
おかしな表現だが、魔力を感じて空っぽというのはおかしい。
「何かをためておく物なのかな?」
「かもしれません」
興味深げに、リドハーストがマジマジと指輪を見る。
「換石の術を其れに込めれば?」
「良い考えでございますわ。リドハースト様」
 早速、彼女は指輪に換石の術を指輪に向けた。
 彼女は石化せず、指輪に“換石の術”が貯まった事を知らせる。
「やった!」
「此ですか。でもいくつか込めることが出来ますね」
 まだ、“空っぽ”の部分があるらしい。
 面白そうなので、今いる気を失っていない女性達は、各々の魔術を込めて見たのだ。
 魔法を補充する指輪。正確には呪文や魔術ストックし、術式を起動させずして発動させる指輪。それが、蓮が求めていたものだ。
 「偉いよ、デルフェス」
 「ありがとうございますマスター」
 恭しくお辞儀をする。デルフェス。
「皆お疲れ様だね。お茶でもどうだい?」
 と、言う蓮。デルフェスはいそいそと、お茶の支度を始めた。


【5.残りの指輪って?】
 「なんだったのかな?」
 リドハースト達は首を傾げる。入り口付近で赤面顔のゆゆが顔を半分出して見ている。
 ゆゆは、もう一つの指輪の効果は動物との会話が出来るものと記憶している。妖精化したときに落ちてしまったが、撫子に懐いていたときに、チャームの鳴き声を人の言葉として理解できた。しかし、指輪の効果とは言え、あんな恥ずかしいことをしたので、入るに入れない。
 リドハーストは、もう一つの指輪をはめていると、周りの観葉植物から何かコソコソと聞こえてくる違和感に悩んでいる。その事を打ち明けると、呪いを解かれ、起きていた焔寿はにっこりと喜んだ。
「植物との会話が出来る指輪かもしれませんね」
「はわっ! すごいなぁ」
 彼女は純粋に喜んだのだった。

 後の不明な指輪と残りの身を持って体験していない指輪は、魔法補充指輪を当てた見返りに箱の業者が答えをいつの間にか持ってきた(今回は封筒)。呪いの指輪(と言うより欠陥品)以外なら、危険性もないらしいので、報酬としてお気に入りを貰ったり、他の物をいただいたりできる。一応1人につき1つその中から、もしくは似たようなものを2つ貰っても構わないそうだ。
 
 撫子がペアで欲しいという声が上がり、蓮を説得の末、ミスリルではないが、加護の術を込めたペアリングを貰った。
 リドハーストも、色々苦労したと主張し、植物会話とミスリル製でない加護の指輪を貰った。
 焔寿は、ゆゆが落としていった動物会話をもらい、ゆゆは、アルシュに連れられ、何だかんだありながらアクセサリーとして、魔力霊力増強のミスリルの指輪を貰ったのだった。
 さて、デルフェスはその時何も言わなかった。何か考えているのだろうか。



 各々が、満足して(?)帰って行くなか、ミスリルゴーレムは、保管庫に向かっていく。其処に自分のマスターが後かたづけをしているから手伝うつもりらしい。
 しかしそんなことは建前だ。
 同性を愛してしまう指輪。此を自分もしくは、あの憧れでありライバルの霊鬼兵・エヴァにあげると自分の思う通りになりそうなのだ。そう考えると楽しみで仕方ない。皆の前で言えなかったのは其れが欲しいから内密で交渉したかったのだ。
「マスター」
「なんだい? もう休憩してもいいのよ?」
「あの、例の指輪を欲しいのですが?」
「あ? 同性愛の呪いがかかった欠陥品? 効果は“身かわし”だけどあんたの強度を考えると必要ないじゃないのかい?」
「ええ……でも、頂けませんか?」
「そんなものほしがってって……あんたそんな趣味持って……」
「そ、その……」
 デルフェスは赤面する。
 蓮は、ゴーレムも恋するものかと思っているわけだが、此は此で面白い状況になるのではないかと考え、
「自分が付けるのか、相手に付けるのか知らないけど、あまり迷惑なことはしないようにね。其れをはめた者が最初に見た“同性の人”を恋するのだから気を付けること」
 と、指輪をデルフェスに投げた。
「あ、ありがとうございます!」
 デルフェスはお辞儀をしていた。しかし、背中から良からぬオーラを発していた。
 
 ゆゆの本体の鈴蘭の植木鉢には、こっそりとミスリルの指輪が飾られているが、家の者は其れがあることが分からない。リドハーストは、教会のバイトでこの植物の指輪を有効活用しているようだし、焔寿も欲しかった動物会話の指輪をつけて、“友達”と話しをしている。
 さて、撫子がもらった1つでペアの指輪はどういう意味で使うのだろう?気になる天然師範代か、幼なじみにあげるのか謎である。
 
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【0428 鈴代・ゆゆ 10 女 鈴蘭の精】
【1305 白里・焔寿 17 女 天翼の神女】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2332 湊・リドハースト 17 女 高校生兼牧師助手(今のとこバイト)】

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■         ライター通信          ■
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 滝照直樹です。
 『指輪がいっぱい…?』に参加して下さりありがとうございます。
 何が起こるか分からないため、私が思いつくものや、プレイングで欲しいモノのリストを作り、トランプでランダム決定しました。色々な効果を書いて下さったPL様方ありがとうございました。
 コレといった、トラブル(?)はなく無事、目的の物が見付かったので、良かったと思います。

 湊・リドハースト様初参加ありがとうございます。

 今回初の、アンティークショップ・レンの調査依頼ですが、また何か曰く付きなどの代物と関わりになるでしょう。
 では、またお会いできる事を楽しみにしております。

 滝照直樹拝