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<東京怪談・PCゲームノベル>


妖精さんいらっしゃい〜こいのぼりver

●空飛ぶこいのぼり

 五月の始め、端午の節句までもう少し。
 妖精コンビが住む小さな公園の近くを囲む住宅地のあちこちに、こいのぼりが飾られ始めた。
 屋根より高い、こいのぼり。
 風に乗って優雅に空を泳ぐその姿に、妖精コンビは興味津々であった。
「ねえねえ、遊ぼうなのっ☆」
「遊んでくれないと悪戯しちゃうのっ!」
 しかし。
 当然というかなんというか、こいのぼりが返事をしてくれるわけがない。
 戯れていた妖精コンビはふと、こいのぼりの真中に穴が開いているのを発見した。
「あれ? 中身がないのっ」
「向こうが見えるのっ」
「おもしろーいっ」
 きゃっきゃとはしゃぎながらこいのぼりのトンネルを行ったり来たり。
 そんな時だ。
 ビュオッと強い風が吹いたのは。
 急な風に吹かれて、こいのぼりが大きく揺れる。
「きゃーうっ」
「とーれなーいのーっ!」
 ちょうど小さなこいのぼりのトンネルの中を飛んでいた妖精コンビは、急に動いたトンネルに絡まってしまったのだ。
 ごそごそごそと動くうち、こいのぼりを止めていた紐がブツリと切れて、こいのぼりは空の海へと泳ぎ出した。
「…なにあれ」
「こいのぼり?」
 さて、ご近所の奥様お子様たちは大騒ぎ。
 こいのぼりが空を飛んでいるのだ。面白がって追い掛けようとする子供を慌てて追い掛けるお母さん。
 しかしそんな下の騒ぎは妖精コンビが知る由もなく。
「うわーんっ」
「だれか、助けてなのぉっ」
 絡まった布を取ろうと暴れるも、ますます絡まり深みにはまっていくのであった。

●セフィア・アウルゲートの場合

 今日はとっても良い天気。屋上でお昼寝したら気持ち良いだろうと、ぱたぱたと駅前マンションに向かっている時だった。
 ふと、可愛いものが目に入る。
「あら……?」
 支えもナシに空を飛ぶ、つぶらな瞳の可愛い可愛いこいのぼり。
 しかし体の動きが妙だ。なんだか苦しそうな感じで、あっちにこっちに突っ張ったり引っ込んだりしている。
 いや、それ以前に……こいのぼりとは確かに空を泳ぐものだが、普通、支えによって宙に上がっているのであって、あんなふうに空を飛ぶものではないはず。
「んー……とりあえず、行ってみましょうか」
 おかしな行動云々は置いておいて、あのこいのぼりは可愛いし、もっと傍で見てみたいとも思う。
 そう決めたセフィアは、ぽんっと小さな分体に変化して、ふよふよと空を飛んでいったのだった。

●綾小路雅の場合

 ただいまの季節、あちらこちらにこいのぼりはある。
 が、かつての童謡を思わせる光景はどこにもなかった。
 屋根より高いこいのぼり。しかし高層マンションが立ち並ぶ現代住宅地では屋根より高いこいのぼりなんてそうそう立てられるはずもなく。
 なんとなくそんなことなどを思いつつ歩いていた時だ、妙なものが視界に飛び込んできた。
「……はぁ?」
 支えもナシに宙を飛ぶ、しかも妙な動きをするこいのぼり。
 しかも高さが微妙。このままうろうろすれば、どっかの民家に衝突するのも時間の問題だ。
 こいのぼりが衝突墜落民家が半壊とか、ありえないたぁ思うが……ありえないと思うだけに、あったら困んぞ……。
 しばらく眺める。
 ふらふらと飛ぶこいのぼりは、危ういバランスで空を泳ぐ。
 どう考えても普通ではないあのこいのぼり。周囲の通行人の中からも騒ぎがおこり始めていてうるさい事このうえない。
 ご近所の奥さん達にもメーワクだろーがよ……新連載の昼ドラ見る時間与えさせてやろーぜ?
 ふっと頭の中でそんなことを思い、雅はこいのぼりの方へと歩き出した。

●こいのぼり、墜落?

「いやーんっ」
「取れないのぉ〜」
 ふよふよと近づいていったセフィアが聞いたのは、妖精たちのそんな声。
 どうやら毎度のお騒がせ妖精コンビ、ウェルとテクスが空飛ぶこいのぼりの原因であったらしい。
「妖精さん、大丈夫ですか?」
 こいのぼりの近くを飛びつつ声をかけるが、パニックに陥っている妖精たちの耳に届いている様子はない。
 と。
「危ないっ!」
 気がついたら真正面にマンションの壁――と思った瞬間、パンッと音が響いて目の前の空気が破裂したような錯覚を覚える。
 発生した風は上手くこいのぼりの向きを逸らして、衝突を避けてくれた。
「おーい、大丈夫か?」
 声に下を見れば、そこにはオモチャの銃を握り締めた青年――雅が立っていた。
「はい、ありがとうございます〜」
 ぶんっと手を振って答える。
 とりあえず衝突は防げたが、まだまだ安心はできなかった。
 妖精コンビはまだまだパニック中。
「お願いだから、じっとしてて」
 セフィアの声などまったく聞こえていない様子。
「ったく。仕方ネェな……」
 雅はぽつと呟いて、目算で距離を測る。幸いな事に、こいのぼりは雅の能力の有効範囲内にいた。
 風を起こして、こいのぼりを人が少なく広い場所へと誘導する。
 ……だが。
 暴れ回るこいのぼり――正確には中の妖精が暴れているのだが――のおかげで上手く風に流されてくれない。
「おいこら、動くなっ!」
 まるで追いつめられたどっかの犯人を思わせるような気迫の篭もった声を飛ばすと、こいのぼりがびくんっと動きを止めた。
「いやー」
「怖いのぉ〜〜〜〜っ」
 ……逆効果だったらしい。
 止まっていたのは短時間。こいのぼりはまたすぐさま暴れ出した。
「あああああ、そんなに暴れたらこいのぼりさんも傷ついてしまいます」
 物に魂を招く能力を持つセフィアは、物品をとても大事にする傾向にある。妖精さんも心配だけれど、こいのぼりさんも心配なのだ。
「ったく、ちっと乱暴になるが……」
 カチッと銃を構えて照準を定める。
 放たれた真空弾は、こいのぼりのすぐ傍を掠め、その勢いでこいのぼりの向きが変わる。
 しばらく繰り返した結果、こいのぼりは上手く広場の真上にやってきた。
「おーい、そいつ、下に降ろしてやれねえか?」
 こいのぼりの傍をふよふよしているセフィアに声をかける――雅は、様子からしてあれもこいのぼりの保護をしようとしているんだろうと踏んでいたのだ。
「あ、はいっ」
 しかし……妖精さんはまだまだパニック中。
 どうしようかと悩んだ挙句、セフィアも中に入ることにした。
「二人とも、落ちついてください〜」
 そっと頭を撫でてやると、ようやっと妖精たちが落ちつきを取り戻した。
「せふぃあ?」
「セフィアなのっ☆」
「怖かったの〜〜」
 びゅんっと飛びついてくる妖精コンビの頭を撫でつつ、二人を誘導してこいのぼりの外に出る。三人でこいのぼりを下へと運んだ。
「なんだ、こいつらが飛ばしてたのか?」
 降りてきた妖精コンビを雅がじーっと眺めていると、何故だか妖精コンビは胸を張る。
「ウェルなのっ」
「テクスなのっ」
「……雅だ」
 会話が繋がっていない気がしないでもないが、言われたのでとりあえず自己紹介を返した。
「このこいのぼり、どこの家のだ?」
「わかんないの〜」
「迷子なの?」
 雅は少々頭が痛む気がした。
 しかしすでに何度か妖精コンビと顔を合わせているセフィアはあっさりそれを聞き流して、
「そうですね。こいのぼりさんは支えがおうちなんです。あとで探して戻してあげましょうね」
 にっこり微笑で答えたのだった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋

2701|綾小路雅 |男|23|日本画家(ペーペーの極み)

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         ライター通信          
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こんにちは、日向 葵です。
今回は人数が少なかったため、同一文章となっております。
力不足ですみません〜(汗)

>雅さん
 いろいろと楽しいご意見というかツッコミをありがとうございました。
 全部そのまま使いたい衝動に駆られましたが、文章の流れ上さすがにそれはできず……。

>セフィアさん
 いつもお世話になっております。
 駅前マンションを気に入っていただけるようでとても嬉しいです、どうもありがとうございます。
 空を飛べるのがセフィアさんのみだったため、救助もセフィアさんにお願いしました。

多少なりとも楽しんでいただければ幸せです。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。