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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


童話劇 〜継母と対等に渡り合う白雪姫〜

東京のとあるところに、とても不思議な物ばかりがあるお店があります。
「いらっしゃい。良く来てくれたね」
薄暗いアンティークショップの中で、ゆっくりと白い煙が細く天井に昇っています。
店の主、碧摩 蓮はとても負けん気の強そうな視線をこちらに向けて、煙管を吸いました。
「今度はこの本さ」
蓮は後ろの本棚から古びたとてもしっかりした作りの本を取り出しました。
表紙には金文字で『白雪姫』と書かれています。
蓮の持つ曰くつきの物の一つ。不思議なカードは絵本や小説、童話など様々な本に作用して、その中のキャラクターを変えてしまうのです。
なんでも、本好きだった人の気持ちが固まってそうさせるのだとか……
でも、どのキャラクターがどう変化したのかは読んでみるまで判らないのだそうです。
「変化したのは白雪姫なんだが……まぁ気の強いキャラクタに変化してねぇ」
白雪姫のお話は皆さん知っていると思います。
雪のように白い肌に黒い髪。そして清楚で純情な少女。
ところが、変化した白雪姫は実に気が強く、苛める継母に部屋で一人泣く事などせず逆に対等に渡り合っているのです。
「そういう訳だから、今回もよろしく頼むよ」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 あるところに白雪姫というそれはそれは姉御肌の少々気が強いお姫様がいました。白雪姫は不思議なものを集めるのが好きで、部屋の中は趣向の全く異なる様々なもので溢れかえっていました。
「これは、随分とまぁ……お姫様の部屋とは思えないわね」
 額縁の中にすっぽり納まったかのように、鏡の内側から部屋を見渡し魔法の鏡【綾和泉・汐耶】は苦笑を浮かべました。
 その隣に立つ継母【草壁・小鳥】も呆れたような顔で小さく溜息をつきました。
「あたし的には、ハッキリと物を言ってくれるストレートな白雪姫ってのは好きだけどね……しかし、一体どこからこんなに手に入れてくるんだろうね?」
 そこへ白雪姫が部屋へ入ってきました。その手にはカードの束。トランプのようです。
「おや。継母さんじゃないか。あたしの部屋に何か御用でも?」
「まぁ、ちょっと魔法の鏡とおしゃべりに……ところで、その手に持ってるのは何だい?」
 尋ねられた白雪姫はニマリとお姫様らしからぬ笑みを浮かべました。
「これは呪いのトランプさ。なんでも、これを手にした者は皆何らかの不幸な目にあってるらしいけどね」
『そんなもの捨てなさい』
 継母と魔法の鏡のツッコミが綺麗に重なりますが、白雪姫は笑いとばしました。
「大丈夫さ。ちょいと細工すれば悪さ出来なくなるからね」
 一体どんな細工をするのでしょうか?更につっこんで尋ねようとした継母ですが、部屋にやって来た人物に気づき振り返り見ました。
「ここにいらっしゃいましたか、お姫様」
 狩人【セレスティ・カーニンガム】は微笑ながら優雅な手振りで窓を指し示しながら言いました。
「今日はとてもよいお天気ですから、森へピクニックに行きませんか?」
「ピクニック?何しにだい」
「いえ、何しにって……健康的にも良いではないですか」
「却下。あたしは忙しいんだよ」
 無碍もなくそう言った白雪姫にやれやれと狩人は息を吐きました。
「外に連れ出してどうするつもりなんだ?」
 継母の疑問に狩人はだって、とやんわり微笑みながら言いました。
「白雪姫が城から出ないと物語世界も動かないでしょう?」
「まぁ……それもそう、なのかしら?どっちにしろ、お姫様に動いてもらった方が面白くはなりそうね」
 少し考えた魔法の鏡は呪いのトランプに何かしている白雪姫へ声をかけました。
「白雪姫。あなたは珍しい物が好きなの?」
「なんだい、今更。いつもあんたが教えてくれてるじゃないか」
「あーそうだったわね。そうそう。森にも変わったものがあるのは教えたかしら?」
「変わったもの?」
 途端に白雪姫の目の色が変わりました。白雪姫は魔法の鏡に詰め寄ります。
「それはなんだい?」
「えっと……行ってみれば分かるわよ。ね、狩人さん」
「えぇ」
 魔法の鏡に同意を求められ、狩人はにっこり微笑みました。そして、もちろん白雪姫の答えは先ほどとは正反対のものでした。
「……あたしもとりあえず付いて行こうと思うんだけど……アンタどうする?」
 さっさと身支度を整えている白雪姫を見ながら、継母は魔法の鏡に聞きました。
「そうねぇ……鏡だと動けないみたいだし、待ってるわ」
「……そう。じゃ、ちょっと行って来るよ」
 もうすでに部屋を出てしまった白雪姫と狩人の後を追う為に、継母は魔法の鏡に軽く手を挙げて部屋を後にしました。

「あ〜いい天気だ……」
 一人木陰の芝生に寝転ぶ王子様【忌引・弔爾】まったくやる気が感じられません。ごろりと横になって空を見上げて大きな欠伸をした王子様。
そこへドレスから動きやすい服装に着替えた継母やって来ました。
「うわ……コレはまた似合わない王子だね」
「……余計なお世話だ」
 ぶっきらぼうに言った王子に継母は尋ねました。
「ところで……白雪姫とそのお供が通らなかったか?」
「通ったぜ。森に歩いて行ったが」
 寝転がったまま森を指差した王子に軽くお礼をいい、継母は森へと歩いて行きました。
 残された王子様はしばらくボケっと空を見ていましたが、のそりと体を起こして大きく伸びをしました。
「ふぁああ……俺も行くかぁ。ヒマだしな」
 頭を掻きながら、王子様も後を追い森へと足を踏み入れました。
「……どうやら、団体さんがお目見えのようだぞ」
「あら、本当ね。白雪姫と狩人、かしら?その後ろからまだ人が来るみたいだけど」
 小人B【ケーナズ・ルクセンブルク】の言葉に小人A【シュライン・エマ】は作業の手を止めて木の間から体を乗り出しました。
「で、どうする?」
 草臥れた三角帽をかぶりなおしながら、小人Bは小人Aに尋ねました。
「そうね……とりあえず、売り込みしてみようかしら」
 小人Aは袋の中から取り出した綺麗な細工の施された木靴をながめて言いました。彼女のもつ袋の中には他の小人たち達が作った装飾品に森の食べ物で作った加工品が入っています。小人Aはこれを白雪姫に売り込んで自国繁栄でもしようかと考えているのです。
「ま、キミに任せるよ。私はじっくり観察させてもらいますから」
 微笑んだ小人Bはのんびり立ち上がり、森の小道を歩く白雪姫を見ました。
「で、一体何処にあるんだい?」
 どんどん先に進みながら白雪姫は後ろを歩く狩人に尋ねました。
「そうですねぇ……まだ先ですよ」
 のんびり微笑みながら言った狩人。彼の言葉に怪しく思った白雪姫は立ち止まり振り返りました。
「あんた……本当は知らないんじゃないのかい?」
「え?何の事です?」
「あたしはその笑顔には騙されないよ。白状しな」
 にこにこと微笑むだけの狩人に詰め寄る白雪姫。と、その背後に小人AとBが森の中から現れました。
「あ。いましたよ、お姫様。彼らです」
 狩人が指差した先を振り返った白雪姫は目をぱちくりさせました。そこには大人の腰ぐらいほどの身長しかない人間が立っているのですから、ビックリするのは当然かもしれません。
「こんにちは、白雪姫」
 小人Aはにっこりと白雪姫に挨拶しました。
「何者だ?」
 マジマジと小人たちを見つめ、白雪姫は尋ねました。
「私たちは小人ですよ。ま、見たまんまですけど」
 小人Aの後ろから、白雪姫の様子を伺うように小人Bは言いました。
「ふぅん……まぁ、確かに小人なんて『変わったもの』は珍しいかもしれないけどね。ただ背が低いだけじゃないか」
 すぐに平常に落ち着いた白雪姫は顎を軽く撫でながら言いました。
「こちらをどうぞ」
 白雪姫に木靴を渡した小人Aはさっそく話をはじめました。
「これは小人たちが作ったものです。他にも、森で取れた果実から作ったジュースにお酒。蔦で編んだ籠なんか、生活にも役立つし結構丈夫なのよ」
「ほぅ……」
 興味深そうに木靴をながめ、袋の中の物を丹念に観察する白雪姫に継母と王子様が追いつきました。
「……何してんだ?」
 不思議に思い、狩人に尋ねた王子様。
「小人たちが作った品を検品中……ですかね?」
 小さく頭を傾けながら答えた狩人はじっと白雪姫たちを見ていました。すると白雪姫が立ち上がりました。
「気に入ったよ。あんた達を城に招待する。さ、行こうか」
 袋の口を持ち、振り返った白雪姫の視線が止りました。
「……あんたは誰だい?」
 訝しげな視線の先には王子様の姿。王子様はどこか決まり悪そうに頭を掻きながら答えました。
「あー……通りすがりの王子だ。気にすんな」
「王子ねぇ。まぁいい。あんた、これ持ちな」
 突きつけられた布袋をぶつくさ文句を言いながらも担いだ王子様はさっさとお城に向かって歩き出しました。
 皆も後に続き歩き出します。継母は歩きながら、小人Aに尋ねました。
「一体……白雪姫とどんな交渉をしたんだい?」
「自国にある生産力と隣国の情報提供、ってところね」
 意味有り気に小人Bを見て言った小人Aに、継母はふぅん……と生返事を返しました。
「さて、どうなるのかしらね。この物語は」
 楽しそうに小人Aは白雪姫の背中を見つめながら呟きました。

「おかえりなさい」
 白雪姫の部屋に戻って来た皆に魔法の鏡は言いました。
「どうです?あったでしょう、変わったもの」
「あぁ。しかも今回のはなかなかいいね」
 かなり嬉しい様子で答えた白雪姫は小人達を見ました。
「さて。あんた達小人は何人いるんだい?」
「私たちを入れて7人ですが……」
 腕を組み何やら考えている白雪姫を不思議そうに見て、それぞれ顔を見合わせあいました。
「ちょっと白雪姫。アンタ、何考えてるの?」
 継母の質問にニンマリ笑んだ白雪姫は言いました。
「何。ちょっと、自国繁栄でもしてみようかと思ってさ」
「なんだ?金儲けでも考えたのか?」
 荷物持ちにされて疲れたのか、勝手に椅子へ腰掛ながら言った王子様に大きく白雪姫は頷きました。
「小人たちを使って隣国諜報活動。それから自国工芸の発展、なんてどうだい?そして我が領土を広げていくのさ!」
「……いや、どうだいと言われてもな」
 どう返事を返してよいものやら口篭る王子様に構わず、白雪姫はどんどん事を進めるつもりのようです。
「そうだね、城にある部屋の一つを小人達の作業場にあてよう。諜報活動は魔法の鏡も使えばもっと効率よくなるね。いいですよね?継母さん」
「え……あぁ、まぁいいんじゃないかな」
 突然話を振られて、しどろもどろに返事をした継母の横で魔法の鏡は苦笑を漏らしました。
「もの凄いバイタリティね」
「さっ!そうと決まればさっそく行動だよ」
 小人達だけでなく、狩人とだらしなく座っていた王子様まで追いたて白雪姫は動き出したのです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「……おかえり」
 本の世界から戻って来た皆を向かえた蓮はどこか不満そう。変化した白雪姫が誰に似ているか、分かったからかもしれない。
「やれやれ。とんだ話になっちまったね……」
「読ませて頂いて良いかしら?」
 尋ねた汐耶に無言で本を渡した蓮はキセルを咥えた。
「なになに……小人達や狩人、王子までもこき使い、女王となった白雪姫は自国の領土を次第に増やし豊かな国を作りましたとさ」
「……憐れだな」
 そう呟いた弔爾は軽く手を合わせた。


『白雪姫』了
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男/25歳/製薬会社研究員(諜報員)】
【2544/草壁・小鳥/女/19歳/大学生】
【0845/忌引・弔爾/男/25歳/無職】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23歳/都立図書館司書】

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■         ライター通信          ■
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皆様こんにちは。壬生でございます。
沖縄ではすでに入梅。そろそろ雨が多い季節になりますが、如何お過ごしでしょうか?

久しぶりの童話劇、如何でしたでしょうか?
今の独立心旺盛なキャリアウーマンになってしまいましたね。
私はこんな姫は嫌いじゃないのですが……
楽しんで頂けたなら幸いです。

では、失礼致します。