 |
＜「おはようさん」の怪＞
------＜オープニング＞--------------------------------------
「確かに、妙ではあるな……」
草間武彦が眺めているのは、新聞の記事を切り抜いて貼り付けてある赤いスクラップブックだった。
新聞の記事の内容はどれもこれも事故に関するものばかりだった。
知り合いのオカルト雑誌の局長から送られてきた代物であったが、中を開けて見るなり唖然としたものだ。新聞の切抜きがただ貼り付けてあるだけのスクラップブック。一緒に手紙らしきものも同封されていたが、まずはこちらを見た。
最初は訳がわからなかった。しかし半分ほどを眺めて後、ひとつの事に思い当たって武彦はもう一度初めから記事を見直し、そして呟いたのだった。
数十件にわたる事故の記事は、事故は事故でも内容は多岐に渡っていた。自動車の事故、自転車の事故、人と人、人と自動車、自転車と……エトセトラ、エトセトラ。
まるで関連性が無いように思える事故の内容であったが、唯一つと言っていいか分からないが、どれも場所がかなり近い。半径百メーターほどの円形の中で全ての事故が起こっている事を資料の最後に付された地図が物語っていた。
これが頭痛の種なのだ。
もし一箇所で多発する事故であるのなら、それは場所に何らかの理由がある。ならば、それは最終的には警察の交通課などの管轄となるだろう。
これが事故でなく、ひったくりのなどの事件なら間違いなく警察の管轄だ。
しかし、謎の事故が近いエリアで多発するとなると……。
「また、怪奇現象か」
苦々しげに呟きながら、煙草に火をつけ、武彦はソファーに身を沈めて天井を仰いだ。吐き出した紫煙がゆっくりと空へと向って、消える。
本来こういった事件の調査は望んでいない。まったくオカルト雑誌の編集社の人間と知っていればよしみなど結ばなかったものを。
しかし請けると言った以上はやらなくてはならないだろう。
煙草一本分の時間を費やして気を取り直し、武彦は同封された手紙に目を通した。
手紙には武彦自信が気が付いた事が説明されていて、最後にもう一つ、全く知らない事実が書かれていた。
「おはようさん……って何だ？」
文面を読みながら目を丸くして、次に眉間に皺が寄る。最後に眼鏡がずり落ちた。
それは事故のあった界隈の学校などで噂になっている奇妙な少女の事だった。
道端で突然、声をかけられるというのだ。「おはよう」や「こんにちわ」などといった挨拶をされ、振り返ると遠ざかっていく少女の姿があるのだという。それがいつの間にか「おはようさん」という名称で呼ばれるようになったらしい。
問題はその後だ。
事故にあった被害者のほとんどが事故の直前「誰かに声をかけられた気がする」という証言をしているのだそうだ。
「一体どういう事なんだ？」
事件、あるいは事故。とにかく何でもいい。この奇妙な出来事を調べるとなれば、確かに怪奇事件の知識とそれに相応の見方の感覚を身につけた誰かを当てる必要があるだろう。
＜ライターより＞
はじめまして「とらむ」といいます。
今回は皆様に事件の調査依頼をしたいと思います。
調べていただきたい点は二つ。一つは事故の原因。そしてもう一つは、事故と「おはようさん」の関係、そして「おはようさん」の正体についてです。
事故は全て半径二百メートル以内で起こっています。物証はいくつか上がっているようです。つぶてのような物で走行中の車のフロントガラスが割られたりもしています。
警察でも事件として調査を開始しているようですが、決め手はありません。
事故の起こる時間はまちまちのようです。
「おはようさん」については事故の区内でも評判になっています。目撃者は相当数に昇っています。若い女性、あるいは高校生くらいの少女が「おはようさん」のようです。
特殊な力を使って調べて頂いても結構ですし、聞き込みなどをして頂いても結構です。
物語の展開次第では戦闘もありえます。
事後の原因（連続事故を起こした犯人を捕まえる）を特定し、噂の「おはようさん」と事故との関係を解き明かしてください。
どうか皆さんのご協力を頂きたいと思います。よろしくお願いします。
＜無頼人来る＞
「忙しいのに、悪いな」
事務所にやってきた青年に、草間武彦は右手を上げて言葉を投げかけた。
見た目もあまりぱっとしない、身長も体格もまるで普通の青年だった。気だるそうな表情と、とろんとした眼差し。それに服装までなんだかだらしないように思える。実際はそうでもないのだが。
壇成限というのが青年の名前だった。最近武彦の手駒に（使いっ走り）に加わったばかりで武彦に呼ばれたのも今回が初めてなのである。
「まあ、昼間はわりと暇っすから。曜日にもよりますけど。で、何すか？」
実は、武彦としては今回の事件に関しては人数をそろえたかったのだが、あいにくと全て予定で埋まっているらしく、ようやく捕まえたのが（思い出したのが）彼だったというわけなのだ。
勧められる前から向かいのソファーに勝手に腰を降ろして、限はテーブルの上に無造作に置いてあったファイルを手に取った。慌てて武彦がファイルに手を伸ばす。
「おいおい。まだ何も言ってないぞ？」
「見ちゃまずかったすか？」
とファイルを開けながら、平然と限が言う。
「あ、いや。いいんだが……」
あまりにも何の断りもなしに手を伸ばされたものでつい口にしてしまった武彦だったが、元々見てもらうために置いてあったものだ。見られて困る物では、決してない。
ただ、できれば一言断ってからにして欲しかったというのはある。
「これ、うちの近くっすね」
「は？」
意表を突かれて、武彦は間の抜けた顔をした。まだファイルを開いてからわずかな時間しか経っていない。まさか全部を見たわけではないだろうが。
壇成限はどうやらその事故の集中している辺りの近くで働いているらしい。果たして何の仕事だったか……。
「うちのレンタルビデオがこの付近なんで」
武彦の視線が「説明しろ」という風に見えたのか、壇成限はそれだけを言葉少なく言った。まあ、地理に明るいというのはこの際利点だろう。それにレンタルビデオの店員なら、割りと顔も知れているかもしれない。その点でも都合がいいだろう。
「じゃあその、おはようさんってのも知っているのか？」
一瞬考えるようにして、壇成限は視線を逸らして眉根を潜める。
「そう言えばアルバイトの子がそんな事を喋っていたのを聞いた気がするな……」
「君はアルバイトじゃないのか？」
話しの本筋より別の事が気にかかって武彦は聞いた。
「フリーターっすよ。まあ、店はほとんど仕切ってますけど」
武彦は思わず、確認の意味を込めて壇成限をゆっくりと指差した。壇成限は表情一つ変えずに小さく首を縦に振る。
「じゃあ、これ借りてきますね。全部見たけど、まあ資料として」
「へ？ 全部見たのか？ もう？」
「仕事柄、こういうのを見るのは慣れてるんで」
それがどうしたと言わんばかりの表情で、壇成限が武彦を見下ろす。それから挨拶一つせずに事務所を後にしていく。
それを唖然と見送った武彦は、テーブルの上に置いてあったメモが無くなっているのに気がついた。自分がこの事件のことに関して考えた事などを走り書きしたメモだった。おそらく彼が持って行ったのだろう。目敏い事だ。
見た目はあまりぱっとしない青年だったが、案外としっかりしているのかもしれないと思う。
「ま、任せてみるか」
一人そう呟いて、草間武彦は煙草に火を付けた。
＜アクション＞
一度ビデオレンタル店に寄って、シフトの確認をし、ついでにいくつかの言伝をその時間帯のアルバイトに伝えてから、限は何人かに事故の事と「おはようさん」の事について聞いてみた。
店の近くでこんなにも頻繁に事故が起こっている事を限る自身は知らなかった。確かに少々、外で起きる事件には疎いと自覚しているところはあるにしろ、だ。
事故の現場を直接見たという者が一人。そして「おはようさん」の噂については聞いた事があるという者が三人。
この時間のアルバイトは四人。一人を除いてこの話題を知っていたという事は、かなりの確率で多くの人が知っているという事だろう。
お客さんから聞いたというものもあれば、夕方のアルバイトの女子高生に聞いたという話もあった。ただし、出会ったという話は聞けなかった。
「この事故と、おはようさんが関係しているって噂はないのか？」
あらかたの事を聞き終えて、最後に残った疑問を、自分と同じフリーターの店員に聞く。 「え〜〜？ まさかぁ。ないよぉ。それじゃあ、オカルトだし」
まあ、その通りだ。ただし、依頼されたこの事件は偶然が重なっただけの事故にしては確かに奇妙だ。
草間の走り書きや、彼あての手紙にも、その事は記されている。連続事故というにしては奇妙だし、偶然に頼り過ぎている。何か原因があるのだろう。今の所物証に欠けていることから事故という事にはなっているが。
「仕方ない。出向いてみるかな」
ポツリと呟いたのをさっきの店員が見ていて、「今日、店長は？」と訊いてくる。
「さあ、来ないだろ、きっと。悪いけど、今日は僕は休みにしたから、後は君が中心でやってくれないか？」
言葉は疑問系でも、言ったからにはそうなる。ほとんど店長のいないこの店で全てを取り仕切っているのは限だった。実力も確かに認められはしているだろうが、何よりも誰も面倒臭がって店長の代わりなどしようともしないという現状もある。
「え？ マジ？」
と嫌そうな顔をする彼女に背を向けて、限は店を出た。
事故に遭った人達に話を聞くと言うのが、テレビで見たような捜査の仕方だろうななどと思いながら、限は一番事故の多い交差点へとやってきた。
確かに変則的な交差点にはなっていて、事故が起こっても不思議がないような立地ではある。だからといって、たった一ヶ月の間に十回を越す事故があっていいはずもない。
隣接する商店街。それに小さな公園。街路樹。忙しなく行き交う車や人を眺めながら、限は頭を掻いた。とりあえずは来てみたものの、警察や探偵ではないのだ、いったい何をしてよいものやら。
何にせよ、眺めていても仕方がない。と足を踏み出して直ぐに声をかけられて、限は思わず足を止めた。
「こんにちわ」
「……？」
聞こえたのは直ぐ近くで、どうやら若い女性の声のようだった。驚きは少なかったが、それでもゆっくりと振り向く。正体が何であるかは考える必要もない。死者の声だった。いや、微妙に違うか……？
死者を、あるいは死んだ物の意思、幽霊、霊魂、魂、言い方はいくつもあるだろうが壇成限はそう言ったものを感じる事ができた。感じる事ができるなら、ある程度の訓練を積めば視覚でも認識をできるようにはなる。だが、彼はそういうのではなかった。気がついたら、気がついた時から、あるいはそう認識を始めた時から、限にはそう言ったものを知る力があったのだ。
限は脳裏に感じるものがあって額に手をやる。頭痛とは違った独特な感覚。けれどもそれは声をかけてきた少女のものにしては不似合いな感覚だった。
怒り、憎しみ、嫉妬、羨望。どちらかといえば負の印象が強く吹き出た、（固まった？）様な感じだった。それに……。
方向が違う。
額にやった手を振り解くようにして、限は振り向いきながら無意識に身を低くした。直後、何かが空気を切り裂く甲高い音を残しながら頭上を通過していく。
「何だ？！」
視線を険しくしつつ、限は音が流れていく方向を見据える。耳にやかましいブレーキ音が鳴り響いた。クラクションの音、固い物がぶつかる音、人の悲鳴と、喚き声。
通りを走っていた車が歩道に乗り上げて、街路樹に正面衝突していた。交差点とはまったく関係がない。ただの通りで、どうして突然？
おそらくは誰にも分らないだろう、自分以外には。
喧騒が更なる喧騒を呼び、騒ぎが拡大していく。
その中を、壇成限は騒ぎとはまったく反対の方向に視線を送っていた。
「なるほど。そういう事か」
吐き捨てるようにして呟く。気に入らない結果だった。
さっき感じたのは、間違いではなかった。
となると、一つ調べておかなくてはならない事がある。それはやはり専門の人間に任せた方がいいだろう。
限は喧騒を避け、携帯電話を取り出して草間武彦の電話番号をコールする。直ぐに電話口に出た草間武彦は突然の電話に驚いているようだった。
「実は、調べて欲しい事があるんです。至急に」
事情の説明を求める武彦の言葉を「じゃ。お願いします」と一方的に言う事で遮って、限は通話を切った。どうせ説明するんだから、後でまとめてすればいい。
……いや、単に面倒臭かっただけだ。
＜リアクション＞
「ほんとに大丈夫なんだろうな？」
と声を潜めた武彦が聞く。
事件の犯人を捕まえるというので、早朝から呼び出された武彦は眠そうにしながら、投げかけた質問に答えない壇成限を見た。
昨日事務所に来た時の気だるそうな眼差しは消え、物陰からどこか一点を見つめる薄く細められた視線は、宙を射る様に鋭い。だがしかし、何かを見ているというのではなさそうだった。
「来た」
唐突に呟いて、壇成限は腰を浮かしかけた。その動きにやや遅れながら、草間武彦も続く。
「おい。来たって、何が？」
問いかけには当然答えは返ってこなかった。代わりに、まだ静かな町の空気が、かすかに振動を耳に伝えてくる。車のエンジン音が道なりに響いてくるのが聞こえた。
武彦がその方向に顔を向けると、同じ様にして壇成限もそちらを向く。彼は何かに耳を澄ますようにして、目を閉じた。眉間に少しだけ皺を寄せる。
車はかなりの速度を出しているようだった。遠くに見え始めた車影が瞬く間に近付いてくる。壇成限が「来る」と言ったのは、この車の事か？
事態を飲み込めないでいる武彦が、もう一度問いかけようとした時、唐突にその声は聞こえた。
「おはよう」
「え？」
という声を上げて、草間は振り向いた。すると、直ぐ近くの角を曲がっていく人影がある。若い女性のようだった。
呆気に取られる草間の横で、走ってきた赤いスポーツカーがひと際大きくエンジンを吹かして騒音を轟かせる。空気が激しく振動し、その一部が首筋を叩くように感じられる。
いや、空気が動いたように感じたのはそのせいではなかった。
地面を蹴る音が先だったのか、空気が動いたのを感じたのが先だったのかは、はっきりしない。ただ、武彦が壇成限の姿を視界に捉えた時、彼は全力に近い疾走で、少し離れた場所に止まっていた車めがけて走って行くところだった。
事態の急を悟り、慌てて後を追う。
その武彦の視線の先で、壇成限が車のドアを乱暴に引き開けるのが見えた。
「出ろ！」
と彼の鋭い声が聞こえる。
ドアを乱暴に引き開けると、空かしていた窓から覗いていた陰険な視線が、驚きと怒りとを織り交ぜて限を直接射てきた。突然の出来事で取り落としたパチンコが車の外に転がり出る。
限はまったく動ずる事もなしに正面からその男を睨みつける。
男は割に身なりの整った格好をしていた。年齢は限よりもやや上だろう。おそらくフリーターの自分とは違って地位もあり、それなりの暮らしをしているタイプの人間である事は間違いなかった。
だがしかし……。
その男の心中にあるものは、普通の、というにはあまりにも醜い欲望だった。こうやって車の中に潜み、無差別にこのパチンコで人を狙っていたのだ。自分がした事で巻き起こる騒ぎを見て愉しんでいた、あるいはストレスを解消していたのだろう。
限は足元に転がったそれをちらりと見る。半透明の趣を持つ弾丸上の物体、それは氷の球だった。溶けてしまえば証拠は残らない。無論それだけではない。いくらなんでも氷の塊では車に被害を与える事などできはしない。
「貴様、誰だ？」
と声を荒げようとする男に向って、限は視線を厳しくする。頬の辺りが一度だけヒクリと痙攣し、心なしか茶色の瞳が微かな光を発したように見えた。
限は言葉もなしに、男の胸倉を掴んで車から引き出す。一瞬抵抗を試みた男は、限の瞳に宿った光を見ると、突然怯えたように身をちぢこめた。
「醜い生き方しかできない、屑め。自らの罪に怯えるがいい」
まるで視線で射殺すかのように男の目を睨みつけつつ、限は静かにそう言った。瞬間、男が短い悲鳴を上げ、白目を向いて地面に伸びてしまう。
そこへ草間がやってきた。
「どうなったんだ、一体？」
「こいつが犯人です。後は全部喋るはずです。警察に突き出すのは、任せますんで」
「何だって？」
目を丸くする草間を尻目に、壇成限は「じゃ、もう一つのが残ってるんで」とだけ言い残してその場を立ち去ってしまう。
「おい、おいおい。ちょっと待ってくれ」
という言葉も空しく響く。
「……さっぱり分らん」
と草間武彦は足元に伸びている男を見た。白目を向いて、口角に泡を吹いている。意識の無い戯言で「俺が悪かった、許してくれ」と漏らすのが、時々聞こえる。
＜ほんの少しの優しさを＞
「ちょっといいすか？」
と壇成限はとある家の玄関先で、一人の男性に声をかけた。
見知らぬ男から突然声をかけられて、その中年の男性は驚いたような表情をする。
犯人を草間に押し付けたその足で、限は一軒の家を訪ねていた。昨日の内に武彦に調べてもらっておいた場所だった。
警戒の色を隠そうともしない男性に向って、限は「娘さんの事です」と告げる。途端に顔色が変わった。
事故を目撃したあの日、限は二つの事を感じていた。一つは自分の欲望の為に他人を脅かす事を愉しむ、いぎたない心。そしてそれを助長する、悪意の塊のような存在。結局その正体自体は分りようが無い。男を捕まえた時も感じはしたが、とりあえずは追い払う事しかできなかった。その存在がただの氷の球に必要以上の力を与えていたのはわかる。
そしてもう一つ。
「おはようさん」と呼ばれている少女の正体についてだった。
彼女は事故に遭う直前、つまり狙われる直前に相手にその事実を伝えようとしていた。ただ、できたのは声をかけることだけ。彼女が望んでいた言葉を、投げかける事しかできなかった。
限に声をかけてきたのはただの偶然だったのかもしれない。彼女にはもう確たる意識は存在しない。なぜなら、既に死んでしまっているからだった。
数ヶ月前、彼女は通り魔に刺されてこの世を去った。生前から彼女は誰にでも挨拶をするような愛想の良い少女だったようだ。だが皮肉にも、通り魔が彼女を指した原因と言うのが、「声をかけたが無視された」と言う理由だった。
命を失った後になっても、彼女はこの辺りに時折現れては道行く人にそうやって声をかけていた。それは、たった一つ心残りがあるからだった。それ故の行動だった。
「娘が、そんな事を？」
限は彼女の意思を聞いた。それを伝えに来たのだ。彼女を救済してやるには、この方法しかない。
男性の疑問に、限はただ頷いただけだった。
彼女が望んでいた事。それはただ父親に一言「おはよう」と声をかけて欲しかったという事だけだった。
彼女の父親は、頑なで意思の疎通という物が苦手な人物だったのだろう。厳格ではあるが融通が利かない人物でもあるらしい。ほんの些細な擦れ違いからギクシャクとしてしまっていた親子関係の中で、いつしか交わされなくなってしまったたったそれだけの言葉のやり取りを彼女は望んでいた。
事情を説明されても、やはり簡単には納得がいかないだろう。男性の視線からはいまだ訝しさを拭う事は出来ていない。それでも限は、半ば強引に男性を引っ張っていく。
近くの通り。
限はこの道をただ真っ直ぐ歩くようにと、伝えた。
「行くか行かないかは、あんたの勝手だ。僕はこれだけしか、してあげられない」
突き放すように言い、限は顎をしゃくって見せた。
少しの間男性は躊躇していたようだったが、渋々の面持ちで通りを歩き始める。
やがてその半ばほどで、彼が泣き崩れる姿が見えた。
「君の心は救済できたかな……」
やや寂しげな笑みを浮かべて、壇成限は呟いた。
〜了
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【３１７１ ／ 壇成 限 ／ 男 ／ ２５歳 ／ フリーター】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
はじめましてライターのとらむです。
＜「おはようさん」の怪＞いかがでしたでしょうか？
今回が初の依頼という事で、この依頼を選んで頂きありがとうございました。
果たしてこのクールな人物を描ききれたか、なかなかに難しいところです。
「出来れば他のＰＣとの共演を」とのお望みでしたが、人気の無いライターで申し訳ないです（涙
他の依頼人がいなくて（泣
精進しますです、はい……。
他の依頼人を待っていたため執筆が遅れてしまいましたことを、お詫び申し上げます。
また、是非ご指名いただけますよう、よろしくお願いします。
|
|
 |
