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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三つの願い −三下さんの受難5−
●始まり
「何をしてるの、三下くん?」
 碇麗香は、三下忠雄が自分のデスクの上で書いては消して、書いては消しているのを見て、真上から覗き込んだ。
「背が高くなりたい、お金が欲しい……編集長になりたい……なに、これ?」
「ああああああああああああ」
 紙を持ち上げられて声に出して読まれ、三下は取り上げてあわててぐしゃぐしゃにしてポケットに突っ込んだ。
 読まれて困るのは一番最後のだった。
「この間なんか妖精みたいのを助けたんですよ。そしたら願い事三つかなえてくれる、って言って。一つ目はこの間買ったばかりで電車に置き忘れた眼鏡を探してもらって、二つ目は夢にまでみて憧れた幻のカップラーメンを出して貰って、後一つなんですよねー」
 と暢気に告げる三下の周りの空気がさっと凍った。
「それって、どんな感じの妖精なの?」
「えーっと、全体的に真っ黒で、コウモリみたいな羽があって……ちょっと目がつり上がってました……てっ」
 嬉しそうに言った三下の頭上に麗香の鉄拳が振り下ろされた。
「あなたね! ……ふぅ……。三つ目はまだしてないのね? してないのね!?」
 麗香の迫力に三下はコクコクと無言で首を上下にふった。
「その『妖精』はどこにいるの?」
「眠い、とかいってここで寝てます」
 いって小さな小瓶を取り出した。蓋はない。その中で真っ黒いものが丸まって眠っていた。
「苦しそうだったんで、この蓋とってあげたんです! ……いだっ……」
 再び宣言するように言った三下の頭上に鉄拳が決まった。
「これでも一応部下ですものね……誰か助けてやってくれない?」
 麗香は大仰にため息をつきつつ、室内を見回した。

●本文
 ふぅ、と全員頭をおさえてため息をついた。
「三下君らしいといえばらしいんですが、何年アトラスに勤めているんでしたっけ?」
 と綾和泉匡乃に問われて、三下は思い出すように遠くをみて指をおる。
 それを見てもう一度吐息をつきつつ、しかし少し含んだような笑みを浮かべて真名神慶悟が言う。その横で櫻疾風も三下に指をつきつける。
「ものの見事に悪魔だな。素敵な縁だ。羨ましくは無いが」
「三下クン、それは悪魔だぁああああ!」
「えええええええええええええええ、あ、あくまなんですかっ」
「お、おっと」
 思わず放りだした小瓶を匡乃が受け止める。
「起きちゃったらどうするつもりですか。この状況、悪魔にとっても嬉しくないところですよ?」
 匡乃に言われるが、三下はすでにパニックの為、聞いてはいない。
「三つ目の願い事を言ったら、魂を取られるのは確実ですし。その後野放しになるのも問題ですね」
 冷静に小瓶の中で眠る悪魔を匡乃は見る。
「んじゃ【僕に何もしないでください】って頼め。或いは【百歳まで生きさせて下さい】ってな」
「そ、そんなの叶うんですか?」
 恐る恐る聞いた三下に、慶悟は胸を張る。
「しらん」
「うわーんっ」
「駄目だと言われたら【やっぱり出来ない事あるんですね】と罵れ。契約を交わしたのなら、願いを聞き入れなかった時点で契約不履行で執行のはずだ」
「そんなもんですか……」
 くすん、と涙をすすりながら三下は慶悟を見上げると、別の方向から声がとんできた。
「願いなんて努力せずに叶うものじゃない。毎日の訓練、訓練。それを怠らず続ける事が、欲しい何かに近づき手に入れる為の一歩なんだ! 僕は『いつか誰かのヒーロー』目指して、毎日頑張ってる。例え、怒られても……」
 疾風の説教は続く。しかも途中から脱線している事に、本人は気づいていない。そして三下がまじめに聞いている事10分。
「……でも三つ目を言わなければ、諦めていなくなる気もする。ならば放置決定!」
 匡乃の持つ小瓶をずびしっと指さす、がすぐにケロッとした口調で。
「というのは嘘で。取った蓋はどこへやったか、覚えてる? それを元に戻す事が必要だと思うから」
「蓋は……多分自宅に……」
「じゃあすぐにとって来た方がいい! それで、三下クン。どんなに旨い話があっても、直ぐに飛びついたらいけない。次からは……」
 と再び疾風の説教が始まる。それを真面目に聞いていた三下の脇を別の人物がつつき、さっさと三下の家へと向かう。
 残されたのは三下のデスクの上にのった小瓶。
 中では周りの騒音などものともせずに眠る悪魔の姿。
「さて、どうしましょうか」
 ただ退治するのも面白くないですね……と匡乃は呟く。
「往々にして悪魔は冷静な振りをして挑発に乗り易い。こちらを騙そうとするが騙される事に対しては鈍感だ。頭に血が上っては騙す知恵も回らん」
 慶悟の言葉に疾風は頷く。
 さて、どうしてくれようか、と悪魔以上の事を考える3人。そうこうしているうちに三下が戻ってくる。
「いっそ悪魔に部下になってもらうのもいいですね。碇女史、アトラスの部下に扱き使える悪魔がいるのも面白くないでしょうか? しかも永久的だとなお良いでしょうね」
「そうねぇ。どっかに誰かさんよりは役に立ちそうね」
 にっこり笑った匡乃に、麗香は小さく笑う。それを見た三下は、そんなぁ、と情けない声を出しつつ、蓋をデスクの上に置いた。
「あ、お、起きそうですよ」
 びくっと1mくらい後ろに飛び退いて三下が瓶を指さす。
「……強行に及ばれた場合は禁呪で動きをふん縛る。禁呪で悪魔としての能力や行動を禁じる事もできる。これは男の強い意志の見せ所だ。失態ばかりでは辛かろう? 名誉を挽回するチャンスだ。頑張れ三下。最も、それが名誉な事かどうか評価するのは碇の方だが」
 基本的に危機感はない。慶悟は頑張れ三下、とかなり棒読みで言いつつ、お茶をすする。
 見た感じ悪魔は小物だ。このメンツならあっさりとなんとか出来るだろう。しかしそれをしては三下に立つ瀬はない。
「え、えええええええ、が、頑張れって……」
 どうしたらいいんですかぁ、とすがるような瞳で、周りを見る。
「そうですね。いっそ『永久にアトラスで働いてください』とか言うのはどうですか?」
「それだとアトラスで働いてはくれるが、三下の魂はもって行かれるかもな」
「それでは『永久に自分の奴隷として働け』というのは」
「微妙だね。魂持っていって、その魂の奴隷、とかいうことにされて。でも死んでるから命令はできないな、とか言われそうで」
 匡乃が言うと、それに慶悟と疾風が意見を言う。すっかり当人は蚊帳の外。
 その上おもしろがっている様子は否めない。
「……なんだぁここは?」
 気持ちよく寝てる上でごちゃごちゃうるさいな、と悪魔は目をあけた。
「おう、三下。願い事は決まったか?」
「あ、え、えっと、それは……」
 再び捨てられた子犬のような瞳で3人を見つめる。
 しかしその3人は未だ願い事議論で盛り上がっていた。
「魂をもっていくな、というのはどうだ?」
「それだと肉体がなくなって魂だけ、という線もありますよ?」
「いっそこの契約はなしにしてくれ、というのはどうだろう?」
 錬金術で水を作って溺死、という手も……いやいや、それはヒーローにあるまじき行為、やってはいけない! 疾風は心の中で思う。
「あのぉー、もしもし?」
 遠慮がちに三下が声をかけるが、無視。麗香も苦笑しつつ自分の仕事をはじめてしまう。
「なんなんだよ一体。早く願い事を言え! オレも暇じゃねぇんだよ」
「は、はいっ」
「三下っ」
「は、はいっ」
 悪魔に怒鳴られて返事をした三下に、今度は慶悟に怒鳴られて返事をする。直立不動の体勢になる。
「口を開くな。揚げ足取られて願い事にされるぞ? ちょっと待って下さい、って言ったら『ちょっと待ったぞ』とかな」
「ひぃいいい」
 再び姿勢を正して悪魔を横目で見ると、知らん顔でそっぽを向いた。
「だからなぁ……」
 と男3人顔をつきあわせて話が盛り上がる。
「いい加減に決めてくれっ」
 悪魔が叫ぶ。しかし誰も相手にしてくれない。
「話を聞け、オレを無視するな、相手にしろっ」
 もう一度悪魔が叫んだ瞬間。悪魔以上に怖い笑みを浮かべて3人が振り返った。
「話を聞いた」
 匡乃。
「無視しない」
 慶悟。
「相手にしてやる」
 疾風。
「「「さぁ、お前・キミの願い事は叶えたぞ」」」
「な、なにぃ!?」
 3人同時に攻められて、悪魔は目を白黒させてデスクの上に墜落した。
「俺の式紙として一生こき使ってやるのもいいなぁ」
「予備校の講師も結構忙しいんですよ?」
「消化の手伝いも欲しいな」
「ちょ、ちょっと待て!」
 慌てる悪魔に、これ以上の願い事は聞けないな、と不敵に笑う。
「三下君の3つ目の願い事を叶えても、その生全てを奪わない、と約束してくれたら許してあげる、というのはどうでしょう?」
「生ぬるい感じもするけど、それでもいいかな」
「俺はなんでもかまわないぞ」
「というわけで。三下君、三つ目は何にしますか?」
「え、あ、……」
 もう好きにしろい、とどかっと座り込んだ悪魔と3人の顔を交互にみつつ、三下はぽりぽりと頬をかいた。
「それじゃあ、……これから悪魔さんが誰の魂も奪わない事、で」
 それを聞いた周りは大仰にため息をついた。
「それじゃあ悪魔の存在意義の否定だな。しかし叶えない訳にはいかないだろう」
 どうするんだ? 疾風に見られて悪魔はふてくされたように下を向いた。
「どーするもこーするもねーだろ! 叶えなかったらオレはお前らの奴隷だ。それだったらそっち叶えた方がマシだぜ。……しっかしオレはこれからどうやって生きていけばいーんだよ、ちくしょうめ」
 最後の方の言葉はどんどん小さくなっていた。
「悪魔より性悪な連中がいるなんて、人間の方がよっぽどこわいぜ……」
 ブツブツブツブツ……。
「……こ、これで僕も助かった、んですよね?」
「そうなるな」
 慶悟に肯定されて、三下はへたっと床に座り込んだ。
「これにこりて、妙な拾い物はしない事ですね」
「……ムリだろうなぁ、三下クンには」
「確かにな」
 にっこりと教訓のように言った匡乃横で、可哀相に、という瞳で疾風が見下ろし、慶悟が苦笑する。
「願わずとも凶事を呼び込む者もいる。さりとてこれだけの凶事に巻き込まれながらも、無事でいられるのだから、三下の運も大したものだな」
「さて、終わったみたいね。それじゃあ……三下くん、昨日の原稿、書き直しっ。今日の4時前にあげて頂戴ね! 印刷は待ってくれないわよっ」
「は、はいぃぃぃ」
 麗香に言われて首をすくめて三下は、ボソッと呟いた。
「やっぱり編集長にしてください、っていうのがよかったかなぁ」
 と。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】
【1537/綾和泉・匡乃/男/27/予備校講師/あやいずみ・きょうの】
【2558/櫻・疾風/男/23/消防士、錬金術師見習い/さくら・はやて】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来です☆
 三下さんの受難5ですが……もう夜来の世界だけで5回の受難にあってるんですねぇ、この人(笑)
 話が話だけに、全体的にコミカル系でまとめてみました。
 慶悟さん。いつもご参加ありがとうございます♪ 今回は術とか使わなかったですが、危機感もなかったようなので。
 匡乃さん。お久しぶりです☆ 10日間の恋人以来でしょうか。三下さんの受難には遭遇しやすい、という事で(笑)
 疾風さん。二回目のご参加ありがとうございます☆ 口調とか違っているかも…? とちょっと心配ですが、何かあったら遠慮無く言って下さいね♪

 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。