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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


迷路



■ オープニング

「さて、そろそろ帰ろうかしら……」
 職員室に残っていたのは響・カスミはただ一人であった。閑散とした職員室――時刻は八時を過ぎていた。
 カスミは帰り支度を終わらせると職員室の鍵を手に持ち、ドア口まで移動した。
「――あら?」
 職員室を出ると違和感――目の前にはいつもと違った風景。というより、職員室を出たはずなのに室内にいる。しかも、そこはカスミにとって馴染み深い音楽室であった。
「……つ、疲れているのかしら」
 よろめきながら再度確認するも音楽室であるのは間違いない。手には職員室の鍵――見間違いでもなんでもない。
「こ、こ、これは霊の仕業……いえ、もしかしたら魔物の類……って違うわ! そんな非現実的なものはこの世に存在しないはずなのよ! これは……ストレス……。そうよ、ストレスだわ!」
 カスミは小走りに移動する。音楽室を出ると――そこは二年生のとある教室であった。
「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」
 錯乱するカスミは恐ろしさのあまり、無意識のうちに携帯メールで一斉送信をしていた。
『学校に閉じ込められた。誰か助けて』
 胡散臭い内容のメールは彼女の登録している携帯300件あまりに送信された。



■ 校内進入

『おかけになった電話番号は……』
 五回ほどコール音がした後に、流れ出したのは留守電話サービスの無機質な音声だった。
 神崎・こずえ(かんざき・こずえ)は通話を終了させた。そして、溜息。
「……先生、気絶してるのかな……?」
 仕方なくこずえは仕事着――特殊繊維製ドレスに着替えると銃をベルトに差し込んだ。マンションを出るとすっかり辺りは闇に包まれていた。
 とにかく、神聖都学園へ向かうこずえ。道中、何度かカスミにコールしたが、結局、出ることはなかった。
「ふう、到着っと……さてと」
 あまり気軽に進入はできそうにもない。とりあえず警備が手薄そうな場所から――
 巨大な塀を乗り越えて校内への侵入に成功する。こずえはすかさず銃を抜き取り両手で構えた。周囲に人影はない――だが。
「……ん、なんだか」
 何となく学校全体の雰囲気が悪い。それは、感覚的なものであったが、こずえは確かにその邪悪な気配を感じるとことが出来た。彼女は霊力自体を自在に操る能力はないものの、その抜群の運動神経によって退魔師を盛業としている。
 昇降口から中へ入るとますます気味の悪い――邪気のようなものが辺りを包み込んでいた。
「それにしても……」
 メールが届いたのは自分ひとりだけではないはずだ。なのに、誰もやって来ないところを見るに、皆いたずらだと思っているのだろうか。
「そうだ、放送室へ行ってみよう」
 校内に誰かが残っていれば呼びかけに反応するかもしれないと考えたのだ。
 放送室までは何事もなく辿り着いた。
「えっと……」
 とりあえず、呼びかけてみる。しばらく待ってみたが反応はない。携帯アドレスを、ゆっくり一文字ずつマイクを使って読み上げ校内へ響かせる。これで、返事があるかもしれない。
 しかし、やはり何の応答も見られないようだった。
「自力で探すしかないのかなぁ」
 放送室を出ながら考える。
「そういえば……」
 ふと思いつく。カスミは通常ならば職員室にいるはずだということに――。
 こずえはそれに気づくと同時に足を踏み出していた。



■ 迷路
 
 職員室へ到着しドアを開く。鍵は掛かっていないようだ。
 とにかく中へ入る。念のため銃は抜いておいた。
「……誰もいない?」
 人の気配は皆無――だが、奇妙な感覚があった。
 しかし、誰もいないのでは仕様がない。こずえは、職員室を出ることにした。
「……あれ? ここは?」
 職員室を出るとそこは音楽室の中だった。視線の先に黒いグランドピアノがある。
 どういうことだろうか?
 考えるが答えは出ない。しかし、カスミもこれが原因で迷っている可能性が高い。
「しょうがない、これを使おう」
 取り出したのはお札――式神の役目を果すものだ。人を探知できるはずなので、これを使えばカスミの元へ辿り着くことが出来るはずだ。高価なものなのであまり使いたくはなかったのだが……。
「この際、仕方ないか。料金は響先生から徴収ってことで……」
 式神が飛翔し、ドア口まで移動した。どうやら、外へ出ないといけないらしい。
 ドアを潜る――。
 しかし、廊下へ出たはずなのに、そこはまた別の教室だった。階数から判断するに二年生の教室だ。
「閉じ込められたってまさか……」
 カスミのメールの内容は『学校に閉じ込められた。誰か助けて』である。状況から察するにこずえもカスミ同様に閉じ込められていると言える。
 と、式神が教室の隅へ飛んでいく。そこには――。
「響先生?」
「……だ、だれ!? こ、こないでーー!」
 こずえが呼びかけると即座にカスミは気絶してしまった。極度の緊張状態が続いたためであろうか。
「取り乱してごめんなさい……」
 数分後、自分を取り戻したカスミがこずえに恭しく謝った。
「とにかく、脱出しないといけませんね」
「そうね……。それにしても、まるで迷路みたいだわ」
 カスミが視線を空中に扇ぐ。
「あの、先生は職員室からここへ辿り着いたんですか?」
「……ええ、そうよ。最初は職員室、次は音楽室……で、ここってわけ」
「へぇ……じゃあ、迷路とは違うのかもしれませんね?」
 こずえは自信ありげにそう言って微笑んだ。



■ ループ

「次は化学室みたいですねぇ」
「……ええ、何かの間違いだと思うけど、そうみたいね」
 カスミは否定しながらも肯定するという妙な返答をする。やはり、心霊現象は彼女にとって非現実的なものなのだろう。
「ほら、戻ってきましたよ」
「本当ね……つまり、この現象は」
「ループですね」
 初めは職員室――音楽室――二年教室――化学室、そしてまた職員室へと戻ってきた。あとは、この繰り返しだった。何度、ドアを潜っても同じ場所に到達した。四つの教室が何らかの現象で繋がってしまっているのだ。
「で、どうするの? それが分かったところで出られないのは一緒なわけで……」
「入り口に仕掛けがあるのかなぁ……」
 こずえがドア口へ移動する。
「そうだわ! 窓を破って脱出すればいいのよ! 私ってば天才ね!」
 カスミが大声で叫び窓際へ走る。しかし――。
「……きゃああ!」
 窓に触れた瞬間、カスミは弾き飛ばされてしまった。
「――なっ!?」
 こずえがすかさずカスミの元へ駆け寄る。
「先生、大丈夫?」
「……夢よ。そう、これは夢に違いないわ」
 カスミは現実逃避に走っていた。とりあえず外傷などはないようなので一安心ではあるが……。
「どうすればいいのかな……」
 職員室を歩きながら思案するも良い考えは浮かばない。
「……早く帰りたいわね。このままだと……十時からのドラマに間に合わないわ」
 どうでもいい心配をするカスミ。
「……あれ? カスミ先生って職員室には普通に入れたんですよね?」
「え、ええ。そうよ」
「もしかしたら……」
 こずえがドアへ近づく。開いたドアの敷居に手を触れる……。
 空間が微妙に歪んでいるのが認識できた。
「よしっ」
 おもむろに銃を抜くこずえ。そして、何の躊躇いもなく銃を発砲した。
 衝撃音が轟く。
 歪んでいた空間にさらに歪みが生じた。
 こずえはおまけに爆発を誘発するお札を歪み付近に放った。
 すると――。
「うわああぁぁ!!」
 その歪みの部分から突然、魔物が飛び出してきた。人型だが、かなり小さな魔物だった。
「まいったなぁ。まさか、歪みにダメージを与えようだなんて」
 魔物がこずえに向き直った。カスミは魔物が登場した瞬間に気絶してしまったようだ。
「このループ現象は君の仕業?」
 こずえが問い掛けると小さな魔物がにっこりと微笑んだ。
「いやぁ、退屈でさあ……。ほら、この学校ってやたら大きいからさ、誰か引っ掛かるだろうと思ってね。で、ちょっと入り口の空間を何箇所かズラしてみたんだよ。常に魔力を放出しておかないといけないから面倒なんだけど、これならリアルタイムで楽しめるからね」
「趣味悪いなぁ」
 こずえが深い溜息をつく。
「当然だよ。俺は魔物なんだから。ま、楽しめたし文句はないよ。じゃあ、俺はこの辺でおさらばするからよ」
「あ、ちょっとまちな……!」
 悪戯好きの魔物はこずえに微笑みかけながら姿を消した。
「もう! いいように遊ばれただけじゃないの!」
 そして、深い嘆息。
「……あら? ここは、職員室? 変ねえ、職員室を出ようとして出られなくなって……。まるで、夢を見ていたみたい……そうよ! 夢だったのよ! 全部夢なのね!」
 夢に責任転嫁することで、カスミは何とか己に溜まったストレスを発散させている様子であった。
 何はともあれ、お札代だけでもカスミに請求しようと企むこずえであった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3206/神崎・こずえ/女/16歳/退魔師】

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■         ライター通信          ■
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『迷路』にご参加くださいましてありがとうございました。
迷路と言いつつ、微妙にオチが違ってしまいましたが楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またの機会にお会い致しましょう。

Writer name:Tsukasa suo
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141