コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


私は悲しい死神

オープニング


 碇・麗香さん、あなたの魂を三日後に冥界に連れて行きます。

 今朝、届いたハガキにはたった一言だけが書かれていた、
 郵便局のハンコがないところを見ると、直接アトラス編集部の郵便受けに投函したのだろう。
「…何よ!これは」
 碇・麗香はかなりのご立腹の様子でハガキをグシャと握りつぶす。怒るのも無理はない。
 三日後に碇・麗香は死ぬ、といわれているのだから。
 三下は自分に火の粉がかかってこないように昼食に行ってきます、と言って編集部から出ようとした。
 …………が。
「さんした君」
 ぎく、と肩を震わせた後に「な、なんでしょう?」とわざとらしく問いかけてみる。
「コレの件、調べてくれる…よねぇ?」
 どうやら拒否権はないようだ。
「え、しかし…ボクの手に負えるものでは…」
「…さんした君、もしこれで私が死ぬような事になってごらんなさい」
 碇・麗香は三下の肩に手を置きながら言う。
「あなたも道連れよ」
 分かった?と笑いながら聞いてくる碇・麗香に三下は拒否する事は出来ずに首を大げさに縦に振る。
「そ、じゃあよろしくね」
 三下は自分の安全のためにも何としてでもこの件を解決しなくては、と心に誓った。


視点⇒ベル・アッシュ


「最近の死神もおかしいのねぇ。ハガキで指定期日にお命頂戴なんて最近ハヤりの不当請求書じゃあるまいし」
 ベルは三下から見せてもらったハガキを見ながら呟く。
 死神の仕事とやらはそんな簡単なモノなのだろうかと心の中で毒づき、その後で「うらやましいわね」と呟いた。人間の魂をどうこうするのは悪魔だけでいいのだ、死神は病人とご臨終前の老人のところにでも行ってろ、とこれはベルの心境だ。
「タダでさえ商売上がったりだってのに、これ以上邪魔されちゃかなわないわね」
 そう言って再びベルはハガキに視線を向ける。
「…あら、これ…」
「どうかしたんですか?」
 ベルが言葉を漏らし、三下が何事かとハガキを覗き込んでくる。
「よく見たらお命頂戴って書いてないし、連れてくだけなら戻れんじゃないの?」
「そ、それは屁理屈では…」
 三下が呆れながら言うが、ベルは「馬鹿ね」と言葉を付け足した。
「人間と違って、悪魔や死神ってのはこういう屁理屈に弱い面もあるのよ?だからといってあたしはそんな事ないケドね」
 ベルはケラケラと笑いながら答える。
「じゃ、あたしと碇で契約しよっか。碇の魂はあたしがもらうって事にしちゃえばどうかしら?死神には獲る魂はないって追い返す」
 それとー…とハガキを裏返してベルはあるものを探し出す。
「何をしてるんですか?」
 三下が聞くと「署名探してンの」と短く告げた。死神の署名があればその署名を使って死神を支配する内容の契約書が作れるのに、とベルは思う。もちろん契約書は不当なものになるが、だまされる方が悪いってことで。
「署名、はっけーん…」
 ハガキの端っこに『ミレイユ』という文字が書かれていた。
「この死神、下っ端もいいところね。自分の本名を名乗るなんてお馬鹿もいいところ」
「本名名乗っちゃいけないんですか?」
 三下が目を丸くしながらベルに問いかけてくる。
「名前ってのは結構重要な役割をしてるのよ。名前を知ってるだけで呪われたりとかきいた事はあるでしょ?」
「でもベルさんは…」
「あたしは大丈夫よ、だって呪われるような弱い悪魔じゃないしね」
「そ、そうですか…」
「そう、だからあんたは早く碇を呼んできなさい、碇がいない事には何も始まらないでしょ」
 ベルはそう言いながら三下に碇を呼びに行かせる。
「怠惰の悪魔は文書も司る、改竄は得意なのよね、あたし」
 三下が碇を呼びに行ってから数分が経過した頃に三下が小走りで戻ってきた。
「編集長はもうじき来ますから」
 走ってきたのだろう、息をゼェゼェと切らしながら三下は苦しそうに言葉を紡いだ。三下から少し遅れて碇も姿を現す。
「悪いわね、三下君が頼んだらしいけど」
 碇はベルの前の椅子に座りながら言う。
「別にいいわよ。あたしも面白そうだから引き受けただけだし」
 ベルは碇の言葉に簡単に返事を返し、一枚の紙を碇に手渡した。これは?というような視線で碇はベルを見る。
「あたしとあんたで契約をしましょ。あ、もちろん仮契約だけど。三下から聞いてない?」
「大まかには聞いているけれど、これで大丈夫なの?」
 少し訝しそうに碇はベルを見る。
「ナメてもらっちゃ困るわ。あたしだってプライドってモンがあるから何もナシに代価をもらうなんてしないわよ」
 ベルは少々ムッとしたようにキツイ言葉で返す。その言葉に安心したのか碇は了承する代わりに胸ポケットからペンを取り出し、サラサラと契約書に名前を書き出した。
「これでいいのかしら?」
「OK、まぁ…最悪の場合は三下の魂使って生き返らせてあげるから」
「あら、それは安心ね」
 碇の後ろで三下が青くなっているのがベルからは良く見える。
「さて、どこか個室みたいなところないかしら?あたしは別にここでも構わないけど、あんたが構うでしょ?」
 確かに、と碇は頷く。もし戦闘にでもなられたらこんな人通りが激しいロビーでは目立ちすぎる。
「じゃ、会議室を使いましょ。確かこの時間帯なら誰も使ってなかったと思うから」
 そう言って三人は第一会議室と書かれたプレートの下がっている部屋まで移動する。
「……いつ死神とやらは来るのかしら…」
「あたしたちだけになるのを待ってたみたいね」
 ベルの言葉に碇が「え?」と小さく呟いて後ろを振りかえる。そこには一人の大鎌を携えた少女が立っていた。
「さっきまでは誰もいなかったのに…」
 三下は恐怖からか肩をカタカタと震わせながら呟く。
「碇・麗香、予告どおりお前の魂を冥界に連れて行く」
 そう言って少女は大鎌を振り上げて碇に襲いかかろうとする。
「ストップ!碇はあたしと契約してンのよね、それに…」
 ベルの声が会議室に響く。
「これ、何でしょう?」
 ベルが死神の少女に見せたのは一枚の紙切れ。だが、死神の少女は顔色を変えてベルに向き直った。
 ベルが手にしているのは死神の支配する内容を変更する契約書。
「…これ、どうしよっか?ミレイユさん?」
 本名書くなんて馬鹿ねー、と付け足しながらベルは高らかに笑う。
「本名じゃないかもしれないだろう?その場合はお前は死ぬぞ」
「名前ってのはそれだけで本人の魔力を現すものよ。このミレイユって文字からかすかに気を感じる、それはなぜ?答えは簡単、これが本名だから」
 ベルが一通り説明を終えるとミレイユは大鎌をカランと地面に落とす。
「……初仕事だったのに…」
 そう言いながらガクリと座りこんでしまう。
「そぉ、それは残念ね。あたしが相手って事が一番の不運ね、それで?まだ碇の魂持っていくつもり?ならあたしは本気で相手するけど」
 クスと妖艶な笑みを浮かべながらミレイユを見下ろす。
「…諦めるしか、ないでしょ?死神としての命を盾に取られているようなものなんだから、だけど、諦めないからね。絶対魂を奪いにきてやるから」
 それだけ言うとミレイユはフッと姿を消す。
「…終わった、の?」
 碇が小さく言葉を発す。
「一応ね」
 ベルもそれに対して簡単な答えを告げた。
「アリガトウ、といっておくわ」
「あら、礼を言われる筋合いはないわ。あたしが面白そうだから勝手に引き受けた、って言ったでしょう」
 フフッと笑ってベルはその場を後にする。
(三下の魂を使えなかったのは面白くなかったわねー、やっぱ碇を一回死なせておくべきだったかしら…)
 そう心の中で思いながらベルはアトラス編集部を後にした。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2119/ベル・アッシュ/女性/999歳/タダの行商人(自称)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ベル・アッシュ様>

いつも本当にお世話になっております。
「私は悲しい死神」を執筆させて頂きました瀬皇緋澄です。
「私は悲しい死神」はいかがだったでしょうか?
少しでも面白く感じていただければありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


           −瀬皇緋澄