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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


オフ会やります!
「……あら?」
 いつも通りに、いきつけのインターネットカフェから怪奇情報投稿サイト『ゴーストネットOFF』へアクセスした雫だったが、ふと、カウンターの数字がずいぶんときりのいい数字になっていることに気がついた。
「うーん、もうこんなかあ……なにか記念にやろうかな?」
 キリ番、といえば、なにか記念企画をやるものと相場が決まっている。
 だが、あまり大掛かりなことをやるのは大変だし、かといってなにもやらないのも寂しい。
「……あ、そうだ」
 しばらく考えた末、雫はぽんと手を打った。
「そうそう、オフ会よオフ会。記念オフ! 日ごろの苦労をねぎらっちゃったりもして、一石二鳥だわ。うんうん。ついでになにか面白い話が聞けたらラッキーってことで!」
 雫は言いながら、嬉々としてキーボードを叩くのだった。

   *

 自宅からゴーストネットOFFを閲覧していた月見里千里は、オフ会の知らせを見て、小さく笑った。
 怪盗としてひと仕事すべきだと、千里の中の怪盗の血がさわいでいる。
 千里はすぐに、雫のもとへ出すための予告状をつくりはじめた。
 怪盗といえば予告状、これがうつくしい形なのだ。
 当日はどうやってプレゼントを盗み出そうか。そんなことを思いながら、千里ははりきって予告状の製作にとりかかった。

   *

 雫がそろそろ休もうかとベッドに寝転がると、そのとたん、まくらがぽん! と破裂した。
「わわわっ」
 雫は思わず声を上げる。
 だが爆発はたいしたことがなく、しかもその上、あたりにはひらひらと紙ふぶきが舞っている。
「なんだっていうのよ〜もう!」
 まったく、わけがわからない。誰が、いったい、なんの目的でこんなことをしたのだろうか。
 雫がそう思いながら先ほどまでまくらのあったあたりを見ると、そこには、1通の封筒があった。
 多分、ここにあるということは、これは自分宛てなのだろう。雫はそう判断して、封筒を開く。
 すると中にはキレイなカードが入っていて、そこには、「プレゼントをいただきにオフ会当日に参上します 怪盗レイルーナ」としるされていた。
「……なんのいたずらなのかなあ、これ」
 雫は首をひねりながら、カードをまた封筒に戻した。
 そしてとりあえずは、机の上に置く。
 どうせ、誰かのいたずらか余興か、そんな感じのものなのだろう。
 雫はあくびをひとつすると、予告状のことなどきれいさっぱり忘れて眠りについた。

   *

「いやー、なんか急なオフ会だったのに、鰍ちゃん、場所見つけてくれてありがとねー。と、いうわけでゴーストネットOFF、キリバン記念カラオケオフ、みんなでぱーっと盛り上がっちゃおう!」
 雫がカラオケマイクを持って、明るくそう宣言する。
 ゴーストネットOFFのオフ会ということで、未成年を中心に年齢層はばらばら、人数もある程度集まったため、参加者のひとりである井園鰍の手配で20人まで入ることのできるカラオケルームを借りたのだ。
 そこはそこそこ食事もおいしいと評判の店だったので、テーブルの上に並んでいる料理はそれなりにおいしそうだ。歌う側よりも、食べる側にまわりそうに見える人間も何人か見受けられる。
「ここ、セッティングしてくれたの鰍ちゃんなんだね。すごいなあ」
 たまたま鰍の隣になった千里が、笑顔でそう感心する。
「いやあ、そうでもないけどな」
 鰍はたはは、と照れ笑いをする。
 鰍はネットにはずいぶん詳しいので、条件にあう店を探したりするのは得意なのだ。
「さーて、それじゃあ余興のかくし芸でも〜。誰かやりたい人ー!」
 マイクをつかんだまま、雫が叫ぶ。
 雫の声のあまりの大きさに、千里が耳をふさいで顔をしかめる。
「かくし芸、ねえ……」
 鰍は頬に手を当てて首を傾げた。
 サイトにはかくし芸などを見せてくれる人大歓迎、というようなことが書いてあったが、鰍には特にかくし芸といえるような芸はない。
 記憶力は自慢できるレベルだと自負しているが、だからといってそれが芸かといえばそうではないのだ。
 とりあえず最初に誰が発表するのかと、カラオケルーム内がざわざわとする。
 そのとき、ドアが開いた。
 全員の視線がドアのところへと集中する。
 そこにいたのは、千里にそっくりの姿をした少女だった。
「……え?」
 鰍は驚いて、千里と少女とを見比べる。
 千里も驚いているらしく、目をぱちくりとさせている。
「あんた、双子の妹さんとか、おるん?」
「……ううん、いないけど……」
 鰍の問いかけに、千里は首を振った。
 では、あれはどういうことなのだろうか。
「……あ、わかった!」
 そのとき、雫が声を上げた。
「もしかして、変装が得意な人でしょ?」
「……ああ、なるほど」
 雫の言葉で合点がいって、鰍はうなずいた。
 たしかに、あれくらいそっくりな変装ならば、余興にはじゅうぶんだ。
「あ、はい、そうなんです! ボク、洋子っていいます。変装が得意だから、みんなを驚かせようと思って、それでっ!」
 洋子と名乗った少女がはきはきと答える。
 声まで千里にそっくりだ。これはずいぶんと本格的だと、鰍は感心した。
「うわー、すごいの出ちゃったね、こりゃ。どうやってやってるの〜?」
 雫が洋子に近づいていく。
 洋子は小さく悲鳴を上げて逃げる。
「え、なんで逃げるのよ〜」
「いや、だって……触られるのとか、そんな」
 洋子はぶんぶん首を振る。
「あ、わかった。触られると化粧がはげるとか? よーし、みんな洋子ちゃんを捕まえちゃって!」
 雫が明るく号令をかける。
 その場のノリも手伝って、何人もの人間が立ち上がった。
 そうして、洋子を捕まえるべく、狭いところでの追いかけっこがはじまった。

   *

 たくさんの女子高生――もちろん、中には男子高校生や、大人の女性もいたのだが――に追いかけられて、嬉しい反面、倉之内洋二はあせっていた。咄嗟に出てきた洋子、というのはもちろん偽名だ。
 特殊メイクとはいったものの、実際には、これは特殊メイクでもなんでもないのだ。
 洋二には、ある特殊能力がある。
 それは、萌エテンダーに変身する能力――携帯の番号を押さずに通話ボタンを押すことで、今いちばん自分が萌えている対象からメールが届き、それに返信することで、変身をすることが可能になる、という能力だった。
 今はどうやら、洋二は先ほど見かけた女の子に変身してしまっているらしい。
 もちろん、これは変身であって特殊メイクではないから、つかまえられてしらべたれたりしたらバレるかもしれない。
 そう思うと洋二は、とにかく逃げまわるほかなかった。
 ……実のところ、女子高生からひたすらに追いまわされるのも楽しかったのだが、それは本人も気づいてはいなかった。

   *

 そんなこんなで時間は過ぎて、ついにプレゼント交換の時間になった。
 全員が輪になって並び、それぞれに用意してきたプレゼントを持つ。
「それじゃあ、いよいよ待望のプレゼント交換たーいむ!」
 雫が嬉しげに宣言する。
 そして続けてなにかを言おうと口を開きかけた瞬間、個室内の照明が一気に落ちた。
「え!?」
 雫がマイクを持ったままで声を上げる。
 室内にざわめきが満ちる。
 そんな中で、千里はすっくと立ち上がった。計画どおりだ。
 千里は暗闇の中でポーズを決める。
 すると衣服が闇にとけて、かわりに燕尾服を改造したような感じの、可愛らしい衣装があらわれる。
 千里の、細身ではあるがそれなりに女性らしい素肌が一瞬さらされたが、暗闇の中のため、それは人目には触れなかった。
「予告した通り、プレゼントはすべていただいていくわ!」
 千里は宣言して、能力を使って万能シルクハットを具現させる。
 すると、まるで魔法かなにかのように、参加者たちのプレゼントがシルクハットの中へ吸い込まれていく。
「え!?」
「ありゃ!」
「な、なんでー!?」
 あたりからは口々に悲鳴が上がった。
 千里はほくそ笑みながら、そのまま走り出そうとする。
「まてっ!」
 だが、そこに声がかかった。千里とそっくりの声――たしか、洋子、とかいう女の子の声だ。
「プレゼント交換のプレゼントを奪うなんて、言語道断! 返信ひとつでビビビっと変身! 愛と情熱の叶姿・萌エテンダー、萌える姿でただいま参上! プレゼントは渡さないぞっ!」
 洋子は朗々と名乗りをあげ、ぐい、と千里の腕を引いてきた。
「きゃあっ!」
 千里は思わずよろめき、尻もちをついた。
 その瞬間に、照明がつく。
「あ……あんた、千里さん?」
 鰍が目をまるくする。
「……あは」
 千里はごまかし笑いをした。
 けれども、誰もごまかされてくれそうにない。視線が突き刺さってくる。
「ああ、昨日、予告状くれたのって千里ちゃんだったんだ〜。そういえば、そんなのが着てたけど、すっかり忘れてたわ」
 ただひとり、雫だけがのんびりしている。
「で、どうする?」
 洋子が雫に訊ねる。
「んー……まあ、余興みたいな感じで。ちょっと盛り上がったしいいんじゃない?」
 雫は明るく言う。
「たしかに……まあ、盛り上がった、といえば盛り上がったような気もするけどなぁ」
 鰍がぽそりという。
 とりあえず、千里は胸を張ってみた。
「そうそう、そうだよー。さて、てなわけで、プレゼント交換再開ね」
 雫は本当に、少しも気にしていないらしい。
 千里のもとへと歩みよると、プレゼントを中から取り出して、それぞれもとの持ち主へと返す。
「さて、じゃあ、千里ちゃんも混じってねー」
「え? あ、あたしも?」
「だってせっかく来たんじゃない」
 雫はあっけらかんと言う。
「……まあ、多少のアクシデントは宴会の華、とも言うしな。気にせんとき」
 鰍が笑いながら、千里に手をさしのべてくる。
 千里は鰍の手をとると、また、もともと座っていた場所に戻った。
 その隣に、洋子が座る。
「ごめん、痛くなかった?」
 洋子が千里を気遣うようなそぶりを見せる。千里は笑顔でうなずいた。
 そして、プレゼント交換会が、雫の司会の下で開始された。

 ――そうして、オフ会はいろいろとトラブルはあったものの、なんとか無事に終了した。
 ゲットしたプレゼントは、それぞれ、千里がペンギン型の貯金箱、鰍がやや使用感のある男ものの腕時計、洋子こと洋二が巨大なアリクイのぬいぐるみだった。
 他の人間たちもそれぞれに、いろいろなプレゼントが当たって、悲鳴を上げたり奇声を上げたりしていたが、それはそれで盛り上がった。
 そうやってオフ会が無事に終了したことに気をよくして、雫が、またいつかやりたいかもなどと思ったのだったが、それはまた別の話。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0165 / 月見里・千里 / 女 / 16 / 女子高校生】
【2758 / 井園・鰍 / 男 / 17 / 情報屋・画材屋『夢飾』店長】
【3173 / 倉之内・洋二 / 男 / 27 / 神聖都学園の数学教師/萌エテンダー】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
 萌エテンダー、という単語にまずハッとし、設定を読んで笑わせていただき、キャッチフレーズに思わず吹き出してしまいました。作中では変装中ということで洋子洋子と連呼しているのですが、いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。