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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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童話劇 〜継母と対等に渡り合う白雪姫〜
東京のとあるところに、とても不思議な物ばかりがあるお店があります。
「いらっしゃい。良く来てくれたね」
薄暗いアンティークショップの中で、ゆっくりと白い煙が細く天井に昇っています。
店の主、碧摩 蓮はとても負けん気の強そうな視線をこちらに向けて、煙管を吸いました。
「今度はこの本さ」
蓮は後ろの本棚から古びたとてもしっかりした作りの本を取り出しました。
表紙には金文字で『白雪姫』と書かれています。
蓮の持つ曰くつきの物の一つ。不思議なカードは絵本や小説、童話など様々な本に作用して、その中のキャラクターを変えてしまうのです。
なんでも、本好きだった人の気持ちが固まってそうさせるのだとか……
でも、どのキャラクターがどう変化したのかは読んでみるまで判らないのだそうです。
「変化したのは白雪姫なんだが……まぁ気の強いキャラクタに変化してねぇ」
白雪姫のお話は皆さん知っていると思います。
雪のように白い肌に黒い髪。そして清楚で純情な少女。
ところが、変化した白雪姫は実に気が強く、苛める継母に部屋で一人泣く事などせず逆に対等に渡り合っているのです。
「そういう訳だから、今回もよろしく頼むよ」
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あるところに白雪姫というそれはそれは姉御肌の少々気が強いお姫様がいました。白雪姫は不思議なものを集めるのが好きで、部屋の中は趣向の全く異なる様々なもので溢れかえっていました。
「……何ですか?これは」
不思議そうに傍らに置いてあったくすんだガラス瓶を手に取ろうとした継母【二宮・エリカ】の腕を白雪姫は慌てて掴みました。
「ダメだよ!その中身は結構危ないんだからね」
「危ないの、ですか?」
「そうさ。あたしでも準備が無いと扱いきれるか……あぁ、でも継母さまが人体実験してくれるってんなら話は別だけどね」
にんまりと意地の悪そうな笑みを浮かべた白雪姫に、継母は慌てて頭をぶんぶんと振りました。
「……ちっ。煙草がない」
部屋の壁に飾られている魔法の鏡【真名神・慶悟】は舌打ちしました。
「煙草はないのか?」
鏡の内側から室内を見渡し煙草に代わるものを探している魔法の鏡。そんな魔法の鏡を横目で見ながら、白雪姫は細い草パイプを取り出して悠々とくゆらせ始めました。
そんな白雪姫に何か言おうと口を開きかけた魔法の鏡ですが、不自然に高い声に動きが止まってしまいました。
「いやぁん。白雪姫っていったら可憐な美少女のお約束じゃないのおぅ。ダメよぉ、煙草な・ん・て」
最後に可愛くウインク……したつもりなのでしょう。がっしりどっしり体格の体とは不釣合いな金色の巻き髪を震わせて、狩人【たちばな・薫】は白雪姫に詰め寄りました。
「うっ……」
そんな狩人の行動と反発するように後退る白雪姫。
「やっぱりぃ、お姫様はたおやかなか弱さを売りにすべきだと思うのよぉ。世の中にはあたしみたいに可憐な役をやりたくたってやれない可哀相な女性もいるんですからねぇ〜」
「あんた、男でしょうが……」
冷や汗を流しながらそうツッコんだ白雪姫に、それは言わないでぇ〜と猫なで声を出しながら抱きつき頬擦りする筋肉マッチョなオカマさん。
「仲が良いみたいで、良かったです」
「……仲が良い?あれはどう見ても嫌がってるように見えるがな」
苦笑を浮かべて眺めていた継母に魔法の鏡は小さく肩を竦めたように見えました。
「で、どうする?」
「そうですね……私は王子に白雪姫を嫁に選ぶ事を躊躇わせれば、と思いますけど」
尋ねてきた魔法の鏡に継母は少し考えながら、言葉を言いました。
その考えに魔法の鏡は反対の意見を言いました。
「俺は逆だな。どんな形でも姫を押し付けようと思ってるんだが……」
「あたしはこの子を更生するつもりv」
「余計なお世話だよ!」
「ああ〜ん。ダメよぉそんな乱暴な言い方は」
ぎゅうぎゅうと狩人に抱き締められて、白雪姫は逃れようとバタバタともがきますが、腕力では敵いそうもありません。
「……ま、何にしても面白そうだ」
魔法の鏡はそう呟いて苦笑しました。
場所は変わって、ここは白雪姫の住むお城が見える原っぱ。そこにはお城を見上げる人影がありました。
「待っていてくれよ、白雪姫!俺のふわとろスマイルでその歪んだ……じゃねぇや、気の強さを乗り越えてやらぁ!」
勇ましく吼えたのは小人B【高台寺・孔志】ぐぐっと拳を握り締めて不敵な笑みを浮かべています。
そんな小人Bの背後でのんびり温和な笑みを浮かべて小人A【海原・みなも】が拍手をしています。
二人は大人のはずなのですが、背丈は6歳くらいの子供。大人の平均身長の腰辺りまでしか高さがありません。
「王子様はどうなさるんですか?」
ひとしきり小人Bへの拍手を終えた小人Aは隣でおっとりとした笑みを浮かべている王子【鹿沼・デルフェス】を見上げ尋ねました。
王子は少し首を傾げ、にっこり微笑んで言いました。
「カードの作用で変化したのはきっとマイマスターだと思うのです。ですから、世の為人の為に術で封印してしまおうかと……」
「え……封印、ですか?」
意味が分からず問い返した小人Aに笑顔で頷く王子。
「はい。封印です。……石化、と言った方が正解ですけど」
聞き捨てなら無い不穏な言葉を笑顔で言う王子様に小人Aは明らかに少々混乱している様子ですが、小人Bは気にせず言いました。
「封印だか石化だかどっちでもいいけどよ、俺のトークを邪魔するなよ?」
どこから手に入れたのか薔薇を一輪手にしてフッとキザっぽく髪を掻き揚げる小人Bの手が被っていた帽子を叩き落としました。
「えーっと、取り合えずお城に行ってみませんか?」
「そうですね。白雪姫に会いませんと、どうしようもありませんからね」
小人Aの提案に小人Bと王子は頷きました。
「よーっし!目指せ、銀幕の星!待ってろよ〜白雪姫!!」
意気揚々とそれぞれの思惑を抱いて三人はお城へと歩き出しました。
「やぁん、ダメよぉん。そんな大股で歩いちゃぁん」
「煩いね。家来のクセにいちいち指図するんじゃないよ!」
「良かったです。たちばなさんがいて」
「……煙草。煙草が吸いてぇ」
部屋の中ではてんやわんやの大騒ぎ。狩人から逃げ回る白雪姫に負けじと頑張る狩人。それをほっと安堵し傍観する継母と煙草がなく苛ついている魔法の鏡。
部屋へとやって来た小人二人に王子はポカンと入り口で立ち尽くしていました。
「……すごい事になってますね」
「なんつーか、俺の出番はなし?」
呟いていた小人たちとぼーっと部屋を眺めていた王子に、狩人が気づきました。
「あら、そこにいるのは孔志ちゃんじゃない?やあ〜ん、なんであたしの王子さまがこんなところに〜?また一段と可愛くなってるじゃなぁい」
ドタドタと地響きがしそうな体を揺すりながら駆け寄ってきた狩人に小人Aと王子はぎょっと目を大きくしました。
「よ、薫」
知り合いである小人Bは、軽く手を挙げました。
「わかったvお話にかこつけてあたしの唇を盗みに来たのね?」
「いやいやいや。ちげーし」
パタパタと手を振り狩人は否定しました。
「二宮様。継母の役でしたんですね」
「鹿沼さんは王子さまですか……」
こちらも知り合いである、継母と王子は微笑み合うと白雪姫を見ました。
「あんたが王子か……おい」
「はい?」
背後から呼ばれ、振り返った王子は不機嫌そうな魔法の鏡の視線と真っ直ぐぶつかりました。
「さっさと白雪姫を貰ってどっかに行ってくれ」
「お断りします」
さっくりとそう言った王子に魔法の鏡の動きが止まりました。
「やっぱり王子と白雪姫が結ばれないエンディングが見たいですからね」
「ちょっと待て。俺はさっさとこの世界から出て煙草を……おい、聞け!」
にこにこと楽しそうに言った王子は魔法の鏡の叫びを無視して視線を部屋の中へと戻しました。
「ん、もう。テレ屋さんなんだから〜そんなことしなくてもあたしはいつでもオッケーな・の・に。うふ」
両頬に手を当て体をくねらせる狩人に苦笑を浮かべる小人B。と、狩人と大きく距離を取る為、部屋の一番奥にいた白雪姫は叫びました。
「あんた!来なさい!!」
「は。俺?」
「そうよ。さっさと来なさい!」
キョトンとする小人Bに更に怒鳴る白雪姫。訳が分からずも白雪姫に近づいた小人Bの肩をがしっと白雪姫は掴まえました。
「気に入った。雇うわ!」
『は?』
「あんたの仕事はあいつの相手よ。一日365日あの男をあたしに近づけない事。わかったわね?」
「いやいやいや。まだ雇われるわけじゃねーし」
「な・ん・だっ・て?」
凄みをきかせて真上から覆いかぶさるように迫られては、小人Bもタジタジ。
「さすがです白雪姫さん。強引で自分の身を守るために周りを利用するなんて。素敵です」
「それ、褒めてるのかい?」
どこかズレた感覚で感嘆の声を上げた小人Aに白雪姫は眉を寄せました。
「はい。あたしは白雪姫さんのお手伝いをしようと……ですので、狩人さん。狩人さんは小人Bさんと一緒にいたいですよね?」
小人Aにそう問われれば狩人の答えは一つです。
「もちろんよぉ〜」
小人Aは満足そうに頷き、今度は小人Bを見ました。
「小人Bさん……これも人助けと思って」
「何の為の人助けだよ!?」
「あたしの為に決まってるじゃないか」
「それから、あたしの為。ね、孔志ちゃんv」
叫ぶ小人Bには逃げ場が無いようです。そんな彼らを見ていた王子はポンと手を打ちました。
「白雪姫と王子が結ばれないエンディングを目指すなら、他の方と結婚すれば言い訳ですわよね」
「……確かに、それもアリだと思いますけど。一体誰と?」
首を傾げた継母に王子はにっこり微笑みました。
「勿論、貴方とですわ。わたくしと結婚して下さいますか?」
「え……えぇ?!」
てんやわんやの大騒動。魔法の鏡はそれを眺めながら一言、呟きました。
「あー……もうどうでもいいから煙草が吸いてぇ」
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「……おかえり」
本の世界から戻って来た皆を向かえた蓮はどこか不満そう。変化した白雪姫が誰に似ているか、分かったからかもしれない。
蓮は手にした本を開くと声に出して読み始めた。
「……王子は白雪姫の継母と結婚し、狩人は白雪姫の教育係となりました。そして白雪姫は姫らしいたしなみを身につけ、やがて一国の女王として国を治めたのでした……まぁ、これもいいんじゃないかい?」
「……どうでもいいから、煙草をくれないか」
そう呟いた慶悟は不機嫌な顔で蓮に手を差し出した。蓮は苦笑し自分のキセルを渡すと本をゆっくり閉じた。
『白雪姫』了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252/海原・みなも/女/13歳/中学生】
【2936/高台寺・孔志/男/27歳/花屋:独立営業は21歳から】
【2857/二宮・エリカ/女/17歳/女子高生】
【2181/鹿沼・デルフェス/女/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【2811/たちばな・薫/男/32歳/カフェのオーナー兼メイド】
【0389/真名神・慶悟/男/20歳/陰陽師】
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■ ライター通信 ■
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どうも、壬生ナギサです。
童話劇いかがでしたでしょうか?
お届けが遅くなってしまい、申し訳ありません。
それでも、楽しんで頂けましたら幸いです。
では、短いですがご縁がありましたらまたお会いできる事楽しみにしております。
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