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The Secret Garden U
園の中に花が舞う。
花は、音を立て歌うように踊る。
吹く風に身を寄せながら、はらはら、はらはらと。
+
「秘密の花園を作ってください」――……そう、お願いしてから数日たった、ある日。
セレスティ・カーニンガムの前にいるのは満面の笑みで微笑む庭師。
その表情でセレスティも庭師が何を報告しにきたかを察し、問い掛ける。
「……出来上がったんですか?」
「はい。ですが、場所はお教えいたしません。お二人で探してください」
「勿論、そう致しますよ」
では、と頭を下げ出て行く庭師を横目に、セレスティは愛しい少女を招待するべく、早速連絡を取った。
指にかかる、ボタンの感触が心地いい。
……自分でも浮かれているのが解って、苦笑してしまうけれど。
何処に作ったのか。
どのような花が咲いているのか。
まだ何も聞いていないし知らない。
だからこそ、愛しい少女を招いて、共に探したい――、素直にそう、思える。
(……子供っぽい、とヴィヴィは微笑うでしょうか……)
いや……微笑わないかも知れない、逆に呆れてしまうかも知れない。
だが、愛しい人であるのなら、どう思われようと気にはならない。
子供っぽいと言われようと、呆れられようと、そう言う一面さえ曝け出せる相手はヴィヴィだけだ。
彼女でなければ見せる意味も無い――……いや、見せても仕方が無い。
このような面があるのだと教えて、尚、微笑んでくれる彼女だけにのみ、伝える価値がある。
RRR……
RRRRRR………。
何回かのコール音が耳に響く。
ややあって、電話の持ち主が応答し――セレスティは口元に柔らかな笑みが浮かぶのを感じながら、ゆっくり、用件を話し出した。
+
「はい……はい! 楽しみにしてますねぇ♪」
(……とは、言ったものの……)
電話を受けてから、言葉の余韻を繰り返すこと、暫し。
ヴィヴィアン・マッカランは、自室のベッドの上、大きなウサギのぬいぐるみを抱え、悩んでいた。
いや。
悩む、と言うのは少し違う。
電話をしてくれた主に逢いに行くことは躊躇いは無いし、寧ろ嬉しい。
問題は……。
(あ、あの庭師が作った園を見に行くと言うこと、なんですぅ……)
仕方が無いといえば仕方が無い。
「あの」庭師はセレ様(ヴィヴィはセレスティをこう呼んでいる)直属のお抱え庭師だし……、セレ様のお医者様でもあるし……でも、でもっ…!!
(幾ら秘密の花園、だって庭師と3人の秘密なんて……! セレ様…あたし、違う庭師だったら手放しで喜べたのかも……)
…何を言おうと、もう、始らないのだけれど……恋する乙女の心は微妙なのである。
どうにもできずに、ぬいぐるみを一瞬きつく抱きしめると、いくらか落ち着きを取戻し、そう言えば、と思う。
(明日着ていく服……。えっと…買ってまだ袖を通してないのにするべきですぅ?)
髪は金色に染めていこう。
確か、秘密の花園に出てくる少女も金だったから。
ああ、なら……それに合う一番いい服があった、ともヴィヴィはにっこり笑い、その服に丁寧にアイロンをかけるべく準備を始める。
……明日への嬉しさ半分、微妙な気持ち半分の期待を、引きずりながら。
+
花は揺れる。
木々の枝も同じく揺れる。
花びらも葉も等しく同じ。
はらはら、はらはらと、舞い落ち――やがて舞い落ちたものさえも風に乗り、何処かへ消える。
花びらの行方、葉の行方。
誰にも告げぬままに、風に乗る。
+
天気は、快晴。
気持ちよい初夏を告げる陽光に、セレスティは瞳を細め、空を見上げる。
「……良い天気になりましたね、ヴィヴィ」
「そうですねぇ♪ さ、セレ様探しに行きましょうか」
「はい。では……お手をどうぞ?」
…今日は、珍しく車椅子を使わず、杖を使い歩く。
おどけて腕を差し出すセレスティにヴィヴィは一瞬、頬に朱を走らせるがすぐに嬉しそうにセレスティの腕へと手を絡めた。
一緒に歩き出すと同時に「そう言えば」と呟くセレスティ。
「はい?」
「今日のヴィヴィの服装は、不思議の国のアリス+秘密の花園、と言うところですか?」
「その通りですぅ♪ 丁度、そう言うのがあったなあって思い出して……でも」
「………?」
(ちょっと、地味かななんて思ってるんですけどね……)
が、ヴィヴィは、その言葉を言わないまま下を向く。
水色のエプロンドレス(が、袖等にはレースが沢山ついて居るので、ぱっと見エプロンドレスには見えない)
同じく金に染めてきた髪には水色を基調としたヘッドドレス。
黒のストラップシューズに白の靴下。
(しっかりとしたスーツを着こなすセレ様に比べたら、まるで子供のようだしぃ…)
が、その言葉を覆すような一言がセレスティの口から、漏れた。
「とても良く、お似合いですよ。いつもの服装も素敵ですが、時にはそう言うのも良いですね」
「え……? も、もう一度言ってくれますぅ?」
ぱっと顔を輝かせ上を向くとねだるようにスーツの袖を引っ張るヴィヴィに、セレスティは、笑い。
「ダメです、二度は同じ事は言いませんよ。もし、言うとするのであれば」
「は、はいっ?」
ヴィヴィの背に緊張が走った。
歩いている筈なのに足が縺れそうになってしまうほど、次の言葉が気になる。
さわ……。
風が、吹いた。
綺麗に整えられた庭に色づく、緑と花が、音を立て、歌う。
「それは、見つけた園の中でのみ、です。……解りますよね?」
掠めるように、耳元、声が、響いた。
そして。
何を言うのかと待っていたヴィヴィは、その言葉で腰が砕けそうになり――慌てて、
「わ、解ったしっ!」
と、答えてしまっていた。
くすくす微笑うセレスティを思わず、ジト目で見てしまうが絶対に敵わない。
そう、こう言うのは好きが大きいものほど負けているのだ、と解って居るから。
だから。
照れ隠しに、ではないけれど、絡めていた手をぐっと持ち変え、ヴィヴィはセレスティを引っ張り、歩く。
きっと、耳まで真っ赤――ヴィヴィ自身も解っているだけに始末が悪くて、でも。
『楽しい』
ただ、ただ、目的地が解らぬままに歩く広大な庭の、何処かにある花園を探す。
それだけで、それ以上と変わっていく、時間。
(本当に問題はあの庭師が作ったって言うことだけだしぃ〜……)
「速く歩きすぎですよ、ヴィヴィ」……そう、背中越しで言うセレスティの声を聞きながらヴィヴィは、裏庭の向こう、見た事が無い、随分と高い背の垣根が建つ場所を見続けていた。
+
垣根には、大きな梯子がかかっている。
何処か、寂れた扉をつけられた、まだ真新しく見える垣根。
其処へ数羽の鳥と、蝶が舞うように降りていく。
「…あそこでしょうか、セレ様……」
「どうも、そのようですね。なるほど、裏庭の誰からも目の届かぬ所……庭師らしい」
「本当にひねくれてる庭師らしいですねぇ♪」
「ヴィヴィ。確かに、庭師はひねくれてるかもしれませんが……今回は貴女との秘密の場所を作ってくれたのです。感謝しなくては」
「あの。あたしの言葉より…今のセレ様の言葉に沢山の問題があったような気がするんですぅ……」
「気のせいですよ、ヴィヴィ。さあ、行きましょうか……」
目で見えている距離だから、そう大した事は無い距離。
だが、セレスティとヴィヴィは、其処までの距離を楽しむようにゆっくり、歩く。
まるで二人三脚をしているように、その合わせを楽しむように、ゆっくりと、ゆっくりと歩調をあわせて。
そして。
ふたりは梯子の横にある、寂れた扉に手をかける。
ギィィ……。
扉のイメージそのままの軋む音を立てる、扉。
開けた扉の向こうにあるのは――。
「わぁ……!」
「これは……短期間で此処まで、とは……随分と頑張ってくれたようですね」
百花繚乱、と言うような花園にセレスティは目を見張る。
白木で作られたブランコに、其処に絡まる蔦。
緑の芝に、色鮮やかに植えられた花々……薔薇は、あえて棘の少ない種類のものを植えてくれているのは、秘密の花園の主人が花々を憎んだように。
せめて、そう言う事がないようにと願う庭師の心遣いなのだろうか。
辺りを見渡すと更に。
二人で話す事が出来るようにと、ブランコと同色の白木で造られた椅子とテーブルさえも置いてある。
全てが、ふたりのために造られた。
ふたりの世界でしかない、ふたりの『秘密の花園』
が。
セレスティは、ふと思う。
やはり、此処は3人の為の秘密の花園、だと。
確かにふたりの為に造られている――けれど、これは庭師の協力あってこその事。
その協力が無ければ、セレスティはふたりで過ごす花園を見ることなど、ついぞ無かっただろうから。
柔らかく、ただ柔らかくセレスティは微笑み。
喜び、花園の周りを見続けるヴィヴィの肩に手をかけ。
驚く少女に、今日初めて触れるように優しく額へと口付けた。
…鳥たちが見守るように垣根の上から、歌い。
陽光は昼の陽射しから、柔らかく、午後の陽射しへと彩りを変える。
・End・
+ライター通信+
セレスティ・カーニンガム様、ヴィヴィアン・マッカラン様、こんにちは。
今回書かせていただきましたライターの秋月 奏です。
前回の話に引き続き、今回は総帥とヴィヴィ嬢とのお話、
書かせていただきまして本当に有難うございます!!
ただ、私の場合。
時に砂糖の加減を無茶苦茶間違えるのですが……甘さの度合は如何でしたでしょう?
ほんのりと幸せ気分になれるような適度な甘さなら良いのですが……。
すいません…精進いたします(汗)
ですが本当に楽しく書かせていただきました!
若干言葉遣いなどイメージに合わない部分も多々あったかと思いますが。
その点は、今後教えていただければ改善していきたいと思いますので(^^)
それでは、また何処かにてお逢い出来ますことを祈りつつ。
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