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<東京怪談・PCゲームノベル>


卵のかけらと封印効果


 すっかり見慣れた代わり映えのしないブザーは、押さない方がいいだろう。
 押す方も驚くし、呼び出される方もその騒音に驚いて手に持っていた珈琲カップが倒れたりした事もあった。
 ノックに切り替えてから扉を開く。
「失礼します」
「綾和泉か、どうした?」
 タバコの煙で白くなりつつある部屋は、暫く換気をしていないようだ。
「場所を貸して貰おうと思って、窓を閉めてるのは何かあるんですか?」
 職業上偶に狙われる事があるだけに、そうだったのなら開ける訳には居ないだろうが……そうではないなら空気を入れ換えた方が良い。
「いや、別になにも?」
 普段それを行っている人が不在だから仕方ないのだろう。
「だったら少し空気を入れ換えた方が良いですよ」
 窓を開けると外から新鮮な空気と心地よい風が流れ込んでくる。
「それで、どうしたんだ。ここで何か依頼でも?」
「場所を貸してください」
「ん? 別に構わないが?」
「よかったらどうぞ」
 手みやげとして持ってきたのは草間が喜びそうな、少し良い酒とマルボロワンカートン。
「ありがたい、ちょうど無くなりそうだったんだ」
 ほくほくと上機嫌で手土産を受け取る草間。
 今まで色々な事件に関わってきたから、資料も豊富にあるし使い糧がいい場所でもある。
 現在はあまり多忙でもないようだし、地図を広げて思考できる余裕はあるだろう。
「さてと……」
 持参してきた東京都の地図と、他にも数冊。
 23区やその他の市も交えたいくらかの地図を応接セットの上に広げる。
「最近封印能力を使う機会が多かったですから、少し整理のために確認した方が良いと思って」
「ああ、なるほど」
 意識さえすれば、何処にどういう封印を施しているかはいつでも再確認出来る。
「ただ……」
 ビーーーーーーーーーーーーー!!!
 説明を付け加えた汐耶の言葉を遮ったのは、入る時に押すのを辞めたブザーの音だ。
 鼓膜に響く、ブザーと言うよりは警報に近いような大音量。
「うわ!」
「今の声……」
「……また押したな」
 眉をしかめ、ジンと痺れる耳を押さえて振り返れば、入ってきたりょうが片手をあげる。
「あー、悪い」
「押さなくていいって言っただろうが」
「それよりも、病院は……?」
 まだ能力の調節がおかしいだとかで療養も兼ねて検査入院していたはずだ。
「ああ、それは退院……」
「退院したという話は聞いてませんから、逃走でもしたんですか?」
 予想の言葉は的中していたらしい。
 グッと呻いてからあっさりと真相を話し始める。
「………タバコを買ったついでに寄っただけで、すぐ帰るって。所でどっかいくのか?」
 テーブルの上に広げられた地図を見てそう思ったのだろう。
 ついさっき草間にした説明を途中だった事も思い出し、頭から話し始める。
「最近封印能力を使う機会が多かったのでその整理……までは草間さんに説明した所ですね」
 実際に例を見せるように印を付け加えながら、説明していく。
「数が多くなりましたから。最近は他の場所の封印も拾うようになって、その把握もした方が良いと思ったんです」
「拾う?」
 この辺りからは能力を持たないと解りずらい概念の話だろうから、誰にでも身に覚えのありそうな言葉を交えて説明する。
「私のかける封印は、かけた瞬間だけではなく効果が継続されますから。対象の人や物の位置は意識すれば解りますし、後から効果に書き換えが出来る事は知ってますよね」
「ああ、何回も見てるしな」
 ここまでの理解は簡単に済んだ事を確認してから、後を続ける。
「例えば、今このタバコに封印をかけたとしたら。私はこのタバコの把握が出来るわけです」
 手に取ったタバコの箱をトンとテーブルの上に立たせて見せ、その近く草間のライターを置いて見せた。
「このタバコが壊れたり移動したら解りますが、この近くに別の封印がかけられている物があったとしたら、それも解るんですよ」
「ああ……」
 一つや二つなら把握も簡単だしこういった苦労はしないで済むのだが、数が多くなってくるとまた話は変わってくる。
「例えから、実際に説明しながらの方が良いですね」
 広げたばかりの地図にマルとバツを書き込んでいく。
「マルは私がかけた封印で、バツが元からあった他の誰かがかけた封印です」
「ああ、だから拾ったなのか」
 マルの数もパラパラとあり、その近くにもバツ印が幾つか書き込まれていく。
「結構多いな、なんかやる事あるか?」
 地図をのぞき込み書けたりょうに、汐耶が注意を促しておく。
「気を付けてください、視るときついですよ」
 封印の中には、他者を排除するような封印や、近寄った相手を混乱させるような結界もある。
 上手く調整が出来ないだろうから、迂闊に触れれば封印に引っかかる事もあるかも知れないし、運が悪ければ封じている何かが視えてしまうかも知れないと思ったのだ。
「んー、大丈夫だろ」
 いまいち不安な事を言いながらも、向かいのソファーに腰かける。
 最も手伝うと言っても今やっているのは確認作業で、把握した封印や結界を書き分けていく物であまりする事はなかったのだが、どうせなら資料として提出しておけば後々役立つ事もあるだろう。
「でしたら住所と解る限りの状況を説明していくので、打ち込みお願いできますか」
「解った、パソコン借りるぜ」
「好きにやってくれ」
 お互いやる事がやるからと作業に専念する事にしたようだ。
 汐耶が拾い集めて把握した能力を確認できる限り詳細に理解しながら地図に書き込み、その補助的な形としてりょうがデータとして処理していく。
「マメだよなぁ」
「状況整理は必要な事ですから、こうして認識し直せば無駄も省けますし」
 こうして整理していけば、それはそのまま関わってきた出来事の記憶となって蘇る。
 ナハトやメノウとの事。
 赤い掌事件や神聖都学園で事件もそうだ。
 つい最近起きたばかりのジャック・ホーナの事件でも色々と力を行使しているし、他にも色々と使う場面もある。
 それだけではない、こうして拾い集めた他の誰かが手がけた結界や封印が……東京の影の部分を表しているような気がする。
 結界や封印。
 それはは何かを守るための物であり、危険な物を封じて置くものでもあるのだ。
 この町の光の部分が強い分だけ影が濃くなり、事件が増える。
 そして、その度に事件を解決しようとする動きも出てくるのだ。
 その流れは様々な事件へと形を変えて、繰り返される続けるのだろう。
「でも凄いよな、あれだけ封印使ってて平気なのか?」
「それで苦労してるから、こうして整理してるんですよ」
「………」
 データの状況はどうなっているだろうかとパソコンをのぞき込み、資料として出せそうなレベルである事に汐耶が頷く。
「意外にちゃんとまとまってますね」
「………は?」
「書類整理、やった事あるんですかと」
「ああ、昔ちょっと……って、そうじゃなくていま気になる台詞が……おい、なんか具合悪くないか?」
 偶に勘も鋭かったりする。
 別に隠すつもりもなかったし、言うつもりもなかった事だが。
「微熱がある程度ですよ」
「何で早く言わないんだよ、大丈夫なのか!?」
「こういう事は盛岬さんも身に覚えがあるはずでしょう」
 能力者でなくとも、身に覚えるある状況だ。
 汐耶の持つ能力が許容量の限界に近づいたか、越えた分だけ使われたと言うだけの事。
 この辺りがボーダラインであるとちゃんと理解している。
 今回は大きく力を使ったから熱を出すに至ったが、普段はもう少し上手くやっているのだ。
「そりゃあ………でもそれなら、封印の数減らした方が良くないか? 他に任せても良さそうなのあったら書いといてくれよ、出来る限り何とかするし」
「大丈夫なんですか?」
「何とかするって、あんまり無茶して心配すんの家族とかだろ……とかってのは俺がよく言われる事だからな」
 まさか彼に諭されるとは思わなかったが……。
 ため息を付く様子は説得があるような無いような。
「大丈夫ですよ、こう言った事は慣れてますから」
 だからこそ今の内に整理をしているのだ。
「あ、そう言えば慣れてるって? 前も言ったよな」
「……ああ」
 今の状況とは少し異なるが、言った覚えがある。
 ナハトが鬼鮫に追いかけられた事件の時に、色々と隠し事をしていた彼に言ったのだ。
『こういう事には慣れてますから』と、つまりは能力や何かが原因で狙われたりするような事。
「私も昔、色々と巻き込まれた事があったんですよ」
 兄の能力の事で、一緒に誘拐され掛かった事があったのだ。
 その時は兄の機転で事なきを得たのだが……そう言う事は大人になった今でも時折起きている。
 けっして事件を軽んじている訳ではない、けれど少なくともそれを恐れて引くような性格でもなかった。
 守られたからこそ、今度は誰かを守りたいと思うのである。
「そう言う経験、ありませんか?」
「……ある」
 守る存在も、ただ守られている訳じゃない。
「ふとした瞬間に、理解するんですよね。こういう事はお互い様だって」
「そうだよな……」
 打ち込み終えたデータをプリントアウトした事で、やろうとした事はあらかた片づいた。
「私の方は、これで一段落しましたから」
「そっか、あんまり無理すんなよ」
「そうですね、そうします」
 今日ばかりは早く帰ってゆっくり休む事にしよう。
 家には、妹が待っていてくれるのだから。
「お疲れさまでした」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】

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■         ライター通信          ■
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今回は能力のリスク。
汐耶さんはきっとどの程度から危ないか大体は理解してそうな気がします。
解っていてもそれが必要なら無理してしまいそうな気はするのですが、

りょうが言っていた負担の軽減。
今まで通り汐耶さんが管理する事も可能ですし、
言葉通りも他に移しても良さそうな物は任せても大丈夫だと思われます。
取引とかそう言ったリスクを負わないように何とかする事は可能ですのでその点はご安心下さい。

それでは、ありがとうございました。