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<東京怪談・PCゲームノベル>


剣を取ったらファンタジー?〜完結編〜

■MAINMENU

東京の一角にある未来型テーマパーク。
特殊な装置を使ってリアルすぎるほどのバーチャル空間でゲームが出来るそこで、
参加者が意識を失ったままログアウトできなくなる事件が起こった。
解決する為には、ゲームの世界の中のどこかにある、 ”魔王の剣”という物を手に入れなければならないという。
名乗り出た数名の者達が調査の為にゲーム世界に入り調査は開始された。
 調査の結果、”魔王の城”がある都の前まで来た彼らは都のどこかにいる”聖女”を探す事が魔王を倒す鍵になると知る。
冒険者達の探索によって”聖女”を見つけることができ、魔王を倒すための力を得る事ができたのだが…

冒険者達は最後の戦いへ向けて、自分のこれからの選択の為に各地へと散って行った。
戦いへと臨むために戻ってくる者…
自らの力を思いログアウトを選ぶ者…
そして新たに戦いへと加わろうとする者…

様々な者達の思いが交錯する中、戦いの朝日は昇る―――

■START

都の霧が晴れ、聖女の元へと様々な者達が集まってくる。
それはこの調査のためにやってきた者や、ログアウトできずに彷徨っていた者が、この事を聞きつけてやってきたりしていた。
あげく、露店まで出来る始末で、命運をかけた戦いの前だというのに、何かのイベントのような雰囲気ですらあった。
「今回から新しくパーティに加わっていただく事になりました方ですわ」
 目にも眩しい露出度の高いコスチュームに身を包んだ女剣士デルフェスがにこにこと微笑みを浮かべて、長身の男性と、小柄な少女を紹介する。
「タツヤだ…宜しく」
「あの…ミコって言います…お手伝い、させて下さい!」
 赤い目に黒い皮製のジャケットが印象的なタツヤと、獣人なのか猫耳をちょこんと生やした踊り娘風のミコ。
「こちらこそ宜しく!俺は遊びに…いや、剣士レンレン!」
「…あの、ステータス狂剣士じゃないですか?申し遅れました…僕はセイと申します」
「ってもしかして俺って奴はまたログインミスったかー!?いや、もういい…狂剣士で行こう…」
 少し大きめの剣を背中に抱えて、レンレンは手のひらをぐいっと上に上げて涙をぬぐった。
優しげな微笑みを浮かべながらそんなレンレンを宥める、魔剣士セイ。
「また皆さんにお会いできて嬉しいです…あたし、僧侶のみなも…と言います」
「僕は銃士のエンです!そしてこっちがパートナーのノイ」
『言っとくけど、ボクは便利な四次元ポケットの猫型ロボットじゃないからな』
 所々パールを散りばめ、人魚の鱗のようなプリズムの素材を縫いつけた薄い水色のローブを揺らすみなも。
そして黒で統一して動きやすく身体にピッタリとしたパンツに銃のホルダーを腰に巻いて微笑むエン。
エンの肩には、同じデザインで色違いの白い服を着たノイが座って腕を組んでいた。
「やあ、かわいいキャットレディ…いや、ガールかな?素敵な服だね…?俺はライだよ…宜しくね?」
「そんな小さな女の子にも色目使うのかよライ…あ、俺…いや、アタシはシズカ!」
 男性用の決して地味とは言えないチャイナを戦いやすいようにアレンジして着こなしている武闘家ライ。
その隣で、弓使いのシズカは短めのスカートの裾を気にしつつ、にっこりと微笑むが…ライはかなり冷ややかな視線を送っていた。
「申し遅れました…僕は白魔法使いのウタタ。主に皆さんのサポートが出来ればと」
「同じく白魔法使いのセリだ…俺で役に立てる事があるならと思って…」
 白魔法使いと言う同じ職種であれ、どこか和風なイメージの衣装のウタタと、西洋風なセリ。互いに挨拶をすると、笑みを浮かべて顔を見合わせた。
「いいねえいいねえ!今回もカワイイコいっぱいで嬉しいじゃん♪このヤト様になんでも任せてくれな☆」
 武術士ヤトは、相変わらずのテンションでミコに視線を送る。その視線をさえぎるように、ライが間に割って入り…
ちょうど両者の真ん中あたりで火花がバチリと散るが、互いに不適な笑みを浮かべて視線を外す。
「最後は私はですね。白魔法使いのリュートと申します…以後お見知り置きを。
では皆さん、お茶を用意しましたから…とりあえずお茶でもゆっくり飲みながら今後の計画でも立てませんか?」
 リュートは背中に背負ったザックを下ろすと、中からあらゆるお茶道具一式を取り出してその場に並べる。
きちんと敷物まで用意しているあたり、さすがリュートである。
「そうですね…無計画に突入するわけにはいきませんしそれじゃあ…」
 みなもがまず最初に敷き物の上に腰を下ろすと、続けて他の面々も思い思いの場所に座る。
そして円を描くようにして全員が座り終えると、待っていたかのようにそれまで黙っていた”聖女”が口を開いた。
「これからお話しするのは、私の記憶の中にある全ての情報です。それ以外は何を聞かれてもわかりません…」
「…キミがNPCにしてもPLにしても…無理は美容にも身体にも良くないからね?俺は無理強いはしないよ?」
 ローソンの店員のような服を着た”聖女”と言うのもどうも妙な雰囲気ではあるが、ライはお構いなしに微笑みかける。
”聖女”は優しげに笑みを浮かべてそれに返すと、ふっと一呼吸置いて。
「魔王は城の最上階にいます…そしてこの世界を救う為に必要な魔王の剣はその魔王の体内に眠っています…
魔王を倒せばおのずと剣は姿を現し、世界を救う鍵になると…その為には、私の持つ能力が必要なのです。
私は私自身では戦う事はできません…ですが、魔王に対抗する為の力を皆さんに与える事ができる…」
「以前も言ったかもしれませんが、要するに魔王への攻撃を有効化するプログラムみたいなものですね」
「私にはそれがどういうものかわかりませんが…そしてもう一つ…皆さんに、一度だけ使える特別な能力を授ける事も出来ます」
「一度だけ使える能力って…具体的にどんな事ですか?」
「その方の望むような能力であれば…なんでも」
 ”聖女”の言葉に、全員で顔を見合わせる。『なんでも』と言われても…どうすれば良いのかと。
「あの〜…少し考える時間もらってもいいですか?僕、すぐには思いつかないから」
 おずおずと手を挙げながら遠慮がちに言うエン。他の者も彼女の意見には賛成だった。
「ではこうしましょう!時間の事もありますから、30分間考える時間と準備の時間と言うことで自由行動にいたしましょう?
わたくしも少し考えたいと思いますし…皆様とゆっくりお話もしておきたいですわ」
 デルフェスの提案を反対する者は、その場にはおらずすんなりと話は決まる。
そして30分経過したら再びここに…この、魔王の城を見上げる事の出来る教会前の広場に集まる事にして思い思い散っていく。
 その場で真剣に考える者もいれば、どこかへ姿を消していく者、和やかにお茶や会話を楽しむ者…
誰もが『これで最後になるんだ、最後にするんだ』という思いを心に抱いたままで過ごす時間は、あっという間に過ぎ去って。


■Into the battle!!

 魔王の城は、小高い山の上に建って重苦しく都を監視するように見下ろしていた。
石造りの城壁は灰色もしくは黒に近い色で統一されていて、それだけで他者を寄せ付けない雰囲気が漂っていた。
さらに、都の霧は晴れたとは言え…城の上層階にはまだ薄気味悪く、霧か雲か区別のつかないものが取り巻いている。
都から続いている一本の道はまっすぐにその城の城門へと続いていて、硬く閉ざされた赤黒い鉄製の門がその存在を主張していた。
「まるで悪魔城ドラキュラだな…」
「ラストダンジョンに来たって感じがしますね」
 シズカとみなもが並んで城を見上げながらポツリと呟く。
「この門、”開けて下さ〜い”とノックした所で…開けて下さるわけないですよねぇ?」
「いや…意外と開けてくれるかもしれねぇぞ?なんせ、俺がコンビニで勘定しようとしたら聖女ちゃんが出てくるくらいだからな」
 レンレンの言葉に、一同はかなり納得する。もう常識だとかが通用しない世界なのだ、ここは。
「じゃあもしもの事を考えて先ほど作戦会議をした通りの”陣形・い”で行きましょう」
 最年長と言うことでほぼ強制的にリーダーに任命されたセイの提案に全員が応えて場所を移動する。
”陣形・い”と言うのは、女性を後方に下げ、前方に戦闘系の男性を配置し、防御結界を咄嗟に張れる魔法使い系を脇に固める、
まあ要するに突破タイプの陣形である。ちなみにこれはあくまでこの面々の提案した今回限りの陣形であるが。
「レディ達…俺の後ろにしっかりと隠れているんだよ?キミ達の美しいその笑みにはかすり傷一つつけさせないから」
「さっすがライ!頼りになるじゃん!じゃっ!頼んだぜ」
「……シズカ君…何度も言うようだが、俺は女性を見る目に関しては…」
「チッ…なに言ってるのライさんってば!あ、アタシあまり強くないから…!」
「そうですよライさん…シズカさんは確かに弓使いで戦闘要員ですけれど、小柄ですし…女性ですし」
 やたらとシズカに疑いの眼差しを向けるライを、みなもがかばう。
シズカはみなもの脇に移動すると、にっこりと微笑を浮かべながら「ね〜!」とかわいらしげにみなもと顔を見合わせた。
「小柄と言えばミコちゃんも小柄じゃん♪シズカちゃんとミコちゃん…二人並んでると癒されるぜ、俺☆」
「あの、えっと…ありがとうございます…でも、ミコ大丈夫ですから、その…」
「ヤトさん…そうやってどさくさ紛れにお二人の肩に手を添えないようにして下さいよ?ナンパしている場合ではないんですから」
「ンだよウタタ!俺はこの二人のボディガードやろうって思ってるだけだっての!なんかお前見てると誰か思い出すんだよなあ…」
 ヤトはぶつぶつとなにやら呟きながら、自分を諭すように見つめているウタタから顔を背ける。
「ま、それじゃあ早い所乗り込もうぜ…魔王だろうがなんだろうが、みんなでとっととぶっ飛ばしてやるだけの事だからな」
「そうですねタツヤさん!その意気です!なんだかいよいよって感じですねえ…」
「なんだか嬉しそうですわねリュート様…」
「いえめっそうも無いです!不謹慎ですから!でも…はい!レッツオープンセサミです!」
 テンションの上がってきた面々は、一通りそれぞれの顔を見て覚悟が出来ているかどうかを確かめあう。
そして改めて、真ん中に立って扉を開く役目をいつの間にか担う事になったらしいセイが深呼吸して…
「あ、ちょっと待て!」
「―――ってなんだよライー!?せっかく気持ちが盛り上がってきてたってのに!」
『お前さ、なんかボクらに恨みでもあるわけ?そういうのってさ…』
「こら!ノイ、やめなさい!」
 張り巡らしていた緊張の糸はぷっつりと途切れ、はあ〜っと全員なんともいえないため息をもらす。
しかし、ライは全く気にしていない様子で、徐に荷物の中から、おそらくこの場にいる者誰しも見たことがあるであろう濃い黄色の箱、
チーズ味とかベジタブル味とか書かれている四角形の箱を取り出して全員に配り始めた。
「あの…ライさん、これは?」
「よく聞いてくれたね?これは11種類のビタミンをはじめ、6種類のミネラル、タンパク質、脂質、糖質、食物繊維を含み、
かつビタミンは1日に必要な量の約半分も摂取出来、その上1本100キロカロリーで熱量計算も手軽に出来る…とても画期的な庶民のアイテムなんだ」
「って言うかカロリーメイトじゃん…」
「もしかしてさっき、セリさんと一緒にコンビニ行って…これ買ってたんですか?」
 フルーツ味の箱を手にしながら、エンは問いかける。ライは満面の笑みを浮かべて自信たっぷりに頷いた。
「ま、まあ…腹が減っては戦は出来ぬと申しますから…わたくしはありがたくいただきますわ」
「俺は個人的にチョコレート味の方がいいんだが」
「じゃあタツヤ、交換しようぜ!俺…じゃない、アタシそっちのチーズ味がいいから」
「…突入前の門の前でこんなやり取りしていていいんでしょうか…?」
「大丈夫ですよ…このお陰で皆さん、変な肩の力も抜けたみたいですし」
 にこにこと微笑みながら、リュートはフルーツ味のスティックを口に運んだ。…が、あまり好ましい味では無かったようである。
隣にいたセイも一本だけ取り出すと苦笑いを浮かべながら頬張った。
「しっかしコレ食うと口の中パサパサするよなあ…水分補給したくなっちまうぜ!」
「でしたら私がお茶をご用意しましょう!リュート特製・スペシャルパワーアップ茶ですよ」
 待ってましたとばかりにリュートは荷物の中から魔法瓶を取り出して、紙コップに注いで手際よく全員に配る。
「なんだか本格的なお茶会みたいになってきてる気が…」
 セリはコップを手にしながら、なんとも言えない表情で呟いたのだった。



 お茶会を済ませて、改めて城へ突入した一団は、上の階へ繋がる階段を探す為に”陣形・ろ”を取った。
ちなみに、門は何事もなくあっさりと男数人が押せばすんなりと開き、いきなり攻撃を受けるという事もなかった。
城の一階は外壁と同じ素材で壁も床も全て作られていて、かび臭いような臭いとじめっとした湿気のようなものを感じた。
”陣形・ろ”は、広い場所での陣形で、いつどこから攻撃を受けても対処できるように弓形のような形である。
今回もやはり戦闘を歩くのはセイである。そしてその脇を、リュートとライが固めた。真ん中あたりに”聖女”が立ち、後方には、エンとシズカ。
遠距離攻撃を仕掛けやすいからと言うことで前方から少し離れた場所で周囲を警戒しながらの歩みとなった。
 しんと静まり返った城内には、一団の歩く足音や衣擦れの音、かすかな息遣いだけが響いていて他には何の気配も無い。
全員が自分の持てる限りの感覚器官を使ってあらゆる気配を察知しようとはしているのだが、やはり気配は無かった。
 そしてそのまま城の奥へと辿りつく。
そこには赤い、いや、赤黒い色の絨毯が敷かれた階段が、上へと彼らを導くように待ち構えていた。
「どうやらここからが本番のようだな」
 タツヤは両手にそれぞれ、日本刀と西洋の剣を構えていつでも戦闘へ突入できるような体勢を取った。
「上からものすごい空気が流れてきますね…憎悪と、殺気に満ち溢れた」
「どんなやつが出てきてもこのヤト様がいれば全然安心だぜ!女の子達、しっかり俺についてこい♪」
「…ヤトさん、足が震えてますよ…?大丈夫ですか?」
「あ。もしかしてヤト、実は恐いんだろ?」
「何言ってるんだいミコちゃん!レンレン!こ、これは武者震いだぜ!
この天下無敵のヤト様が恐れるものと言ったら満員電車の痴漢とマジギレした兄ちゃんだけだっ!!」
「なに堂々と言い切ってるんですか」
 いざ戦闘開始直前という状況下でもどこか緊張感の欠けるやり取りであるが、しかしこの面々にはそれが一番合っている。
妙に緊張をして構えすぎてしまうと、どうにも上手く事が運ばない気がするのだ。
「では”陣形・は”で行きましょう…くれぐれも皆さん、ご自分の身を最優先にして下さいね」
 リーダーセイの言葉に、全員は静かに黙って頷き返した。



「セリ様!そちらに向かいましたわっ!!」
「わかった!」
 城の三階フロアには、体長が三メートルはありそうなトロルが三体待ち構えていた。
それだけなら特に苦戦を強いられる事も無いのだろうが、トロルの足元には黒い毛色の狼が十数…いや、数十匹。
上空には鋭い爪と牙を持った吸血蝙蝠が隙あらば血を貪ろうと羽根を羽ばたかせていた。
 デルフェスは自分の身長ほどもある大きさの剣を振るい、腰を低く落としながら狼を薙ぎ払っていく。
倒しきれなかった残りは、その後ろにいたセリへと飛び掛かる…が、そこへすかさずセリは腰に下げていた布製の鞄の中から、
ペットボトル入りの水を取り出すと蓋を開いてその場へと撒き散らし、残りを狼達へと浴びせかける。
 一瞬、驚き足を止める狼も、ただのこけおどしと判断したらしく、すぐにセリへ飛び掛かろうとする…が、
しかし彼の頭上に青白い光が閃いた直後、狼たちめがけて無数の雷が降り注ぎあっという間に感電し、その場に倒れこんでいく。
「二人ともっ!頭下げてくださ―――い!」
『ぶっ飛べこのジャガイモ頭っ!!』
 間髪居れずに、今度はエンの叫び声が響いて、デルフェスとセリは瞬時にそれに従う。
ドン、と重く鼓膜をゆるがせる音とともにそんな二人の頭上を何かが音速の風とともに過ぎ去って…
「この世界の聖なるもの達よかの者に鉄槌を下す刃の力となれ…」
 ミコのかわいらしい歌声が音速の風に乗りさらに二人の上を通過していく。
刹那、聞こえてきたのはトロルの断末魔の悲鳴と…巨大な何かが倒れこむズンという振動だった。
セリが顔を上げると、どこから出したのか…いや、どこから出たのかは推測できるが…巨大なバズーカ砲を肩に抱えたエンと、
そのバズーカの上に腕を組んで仁王立ちしているノイの姿が見えた。その脇にはミコが猫のような尻尾を揺らしながら踊りを舞っている。
どうやら、エンのバズーカの攻撃を、ミコの踊りの補助魔法で攻撃力を増加させてトロルへ仕掛けたようだった。
「皆さん大丈夫ですか?!お怪我はありませんか!?」
「回復剤でしたらまだありますからどうぞ…!」
 セリとデルフェスがほぼ床に伏せているような体勢になっていたのを、負傷したのかもしれないと思ったらしく、みなもとウタタの二人が駆け寄って来る。
大丈夫である事を立ち上がる事で示すと、二人はほっとした顔で走り寄る足を止めた。
 それとほぼ同時に、少し離れた場所で再びトロルの悲鳴と、床に倒れこむ音が響いて全員でそちらに顔を向ける。
「どうやらあっちも片付いたみたいだな…って事はあとトロル一体でこの階は終わりか…」
「1階、2階はまるで迷路…セリさんがマジックペンを用意して下さっていたお陰でそう時間をかけずに3階に上がれましたけれど…」
「上がったとたんに数で勝負の攻撃…少々骨が折れますわね」
「ですが…どうやら休憩している時間をくれなさそうですよ?」
「とにかく早いところここを突破して、あの大階段から一気に駆け上がらせてもらいましょう!さあ、ノイ!もう一度行くわよ!」
「ミコもお手伝いします!」
 エンの掛け声とともに、走り出す面々。
戦闘に入って自然に分断されてしまっていたもう一組も…残り一体のトロルへと攻撃を仕掛けるところだった。



 白…そして、青。
最上階へと駆け上がった一団の目に飛び込んできた色は、ただ一言で、それだった。
この城に足を踏み入れてから、いや、足を踏み入れる前からひたすらに黒や灰色ばかりを見つめ続けていた目には、
痛いほどの強さで全員の視力を一瞬奪いそうになったほどだった。
しかしそれは、決して何かの攻撃や特別な魔法と言うわけではなく…ただそこに、青い空と、白い雲があっただけの事だった。
「最上階…要するに屋上って事か」
「下から見上げたときに見えていた黒いもやが下に見えますね…」
「お、落ちたら死ぬよな?って当たり前か…俺、もうちょっと内側でいいぜ…」
 タツヤの特殊能力を駆使して、一気に雑魚を蹴散らして突破し駆け上がった先は…
何もなく平坦な石の床が広がっているだけの、屋上空間だった。一般的な小学校の体育館ほどの広さの屋上。
屋上ゆえのオブジェや空中庭園があるわけでもなく、特殊なものがあるわけでもなく、本当に何もない空間。ただ見えるのは空。
もちろん、その屋上の端には転落防止用の手すりなどあるわけもなく…全員、自然にその階の中央へと歩き出していた。
「誰もいないじゃん…」
「シズカ様、気を抜いたらだめですわ」
「そうそう!こういう場合、いきなりなんの脈絡もなく出現したするボスもアリだからな!ま、このヤト様にかかれば…」
「まだ言ってるぜ…コイツ…」
 苦笑しながらレンレンが呟き、その隣にいたみなもも思わず笑みを浮かべる。
「失礼ですが”聖女”さん。最上階まで来たのですが、ここで何か特別な事をやらなければいけない…とか、
そ言う言う事ってありますか?ゲームではたまにそういうものがあると聞いたもので」
 セイは周囲への警戒はそのままで、素朴な疑問を投げかけた。
「……私はもうすでに皆様へわかっている事はお話しました…それに、魔王を倒すための特殊能力もすでに全員に授けましたから…」
「そうですか…では警戒をしながら様子を伺うしかないようですね…この階を調べてみても良いのでしょうが」
「じゃあ四グループにわけて四方を調べてみますか?」
 リュートの提案に、全員でとりあえず原始的ではああるが「グッパ(※じゃんけんのグーとパーを出してチームを決めたりする)」を用い、
三人一組で四つに分かれて散っていく。真ん中では待機組として”聖女”とデルフェスが残る事になった。
「早くすべてを解決してゆっくりとお話したいですわね…
わたくし、貴女様はきっとPL様だと思います…ですから、もし宜しければログアウト後にも…」
「―――私がPLですって?」
 デルフェスの言葉に、”聖女”はどこかおかしそうに笑みを浮かべて聞き返す。
それまでの静かでおっとりとしていた”聖女”のイメージとはどこか違う、人を馬鹿にしたような笑みを。
「ログアウト後ですって?本当にのんきな人ですね…ログアウトなんかできるわけないのに…それに、私がPLなわけないじゃないですか…」
 ”聖女”は、満面の笑みを浮かべたかと思うとぐっと腕を突き出してデルフェスの首をつかむ。
不意をつかれた事もあり、咄嗟に剣を抜く事も、避ける事もできずにデルフェスは苦しそうに表情を歪めて。
『ゴクロウサマ…お陰でここに戻る事ができたよ…』
「あ、あなたはっ…!?」
『馬鹿な連中ばかりだよ、本当に』
「デルフェスさんっ?!」
 華奢な”聖女”の腕は、デルフェスの首をつかんだまま高く掲げる。
最初に事態の異常さに気付いたウタタが叫び声をあげると、全員がいっせいに振り向き驚愕の表情を浮かべた。
そして、同時に走り出す。
『ここからの眺めは最高だろう?すべてを見通し、見下ろす事が出来る』
 それまでの女性らしい声から、”聖女”は低く深く地中から轟いているような男の声へと変わっていく。
「てめえっ…どういうつもりだ?!放しやがれッ!!」
 真っ先に中央へと辿り着いたタツヤが、洋剣を抜き放って”聖女”へと切っ先を向ける。
背を向けていた”聖女”は、ゆっくりと振り返ると同時に…高く掲げていたデルフェスを、まるで人形を投げ捨てるかのようにタツヤへと投げ付けた。
咄嗟に両手で抱え込むタツヤ。デルフェスは首を締め付けられた酸欠で意識を失っているようだった。
『我は再びこの地に蘇る!』
 ”聖女”は両手を空へと伸ばし叫んだかと思うと、その背中から真っ黒な蝙蝠のような翼が一瞬で広がり風を巻き起こす。
走り寄って来ていた一団はその風圧で一気に屋上の端の方まで飛ばされて、あわや落下というところでなんとか全員止まった。
「ど、どういうことなの?!僕の目がおかしいのかな?ねえ、レンレンさん!あれって…あれって聖女さんじゃ…?」
「俺に聞かれても…むしろ俺が知りたいって言うか…おいリュート!」
「私もわかりませんよ!ですが、どうやら流れは悪いほうへと流れ始めたようですね…どうします?リーダーさん」
 セイはスラリと剣を抜き放つと、狼霊『吹雪』を呼び出して脇へと控えさせた。
吹雪は、ここまで来る雑魚との戦いでもかなり主立って戦ってくれた仲間の一人である。
「ゲームの中とはいえ…こうバグだらけですと何が起こるかわかりませんから…くれぐれも注意して下さ…」
 セイの言葉が終わらないうちに、再び彼ら全体をすさまじい風が襲う。
すぐ近くにいるそれぞれの体をつかんで必死になって、落とされるまいとその場に踏ん張りながら、”聖女”へ視線を向ける。
巨大な翼を大きく広げ、空中に舞い上がったその姿は…もうすでに”聖女”の面影など無く、青白い肌に真っ赤な目を光らせた男の姿がそこにあった。
頭には巨大な二本の角がこめかみの辺りから点に向かって湾曲しながら伸びている。
上半身こそ人間のようではあるが、下半身は獣…いや、西洋のドラゴンの下半身のようだった。
『我こそこの世界に君臨するに相応しい者!貴様らに問う!我の配下になり忠義を尽くすか?ならば命は取らぬ…しかし、断るのならば容赦はせん』
「―――あなたが魔王なんですね…?!」
『いかにも…我は王。魔の世界を統べる王』
 ”魔王”はゆっくりと翼を動かして、空中から屋上の床の上へと足をつける。ズシンという音が響いて、たっていた足元が揺れ動いた。
「悪いが、俺はお前の配下になどなる気は無い」
「その通りです!私も同じです…いえ、ここにいる皆さんはみな同じ意見ですよ」
「え、そんな勝手に…」
 タツヤとリュートがさくさく話を進め、驚いてレンレンは思わずツッコミを入れてしまう。
別に魔王の言う事を聞くというわけではないのだが、こういう場合「お断り」をすると言う事はそれすなわち…
『貴様らの思ういはよくわかった…ならばこの場で死ぬが良い!』
「ちょっと待てー!!まだ心の準備がー!!」
 そう。戦闘開始のゴングである。
RPGのボス戦前には、いったんセーブしてトイレを済ませ、飲み物を用意して開始するタイプのレンレンには、あまりにも唐突な戦闘開始の瞬間であった。
 まず動いたのはタツヤ。
瞬発力を生かして、一気に魔王の間合いへと走りこむと同時に、右手に持つ西洋剣で斜めに切り上げ、左手の日本刀ではクロスするように斜めに切り下ろす。
確かな手ごたえもあり、先手必勝!とばかりに再びとどめの一撃を食らわせようと剣を振り上げたタツヤだったが…
『そんなひ弱な刃が我に通用するものか』
 魔王の繰り出した左腕が、タツヤの顔の前で止まる。一瞬の後、衝撃波とも何かの魔法とも取れる風がタツヤの体を後方へと吹き飛ばした。
床を転がり、あわや転落という場所で、なんとか追いついたレンレンとウタタ、シズカの三人がその体を引っ張り、支えて止める。
ほっと息をつく間もなく、魔王が両手を大きく体の前でクロスさせた直後、魔王を中心に黒と紫の光が放射状に放たれた。
 咄嗟に動いたのはエン。カンというものが働いたのか、自分でも考えるよりも先に体が動くのを感じた。
”聖女”から授かった対魔王用プログラム。エンが選択したものは、すべての攻撃から仲間を守るための大いなる盾。
使うためにはどうしたらいいのかとか、そういう事は一切わからなかった。ただ、仲間達を攻撃から守ろうという思いだけだった。
 魔王の放った黒紫の光が、それぞれに直撃した瞬間…体すべてを包み込むような光の盾が出現し、そして光が黒い闇を消し去って行く。
誰一人として、魔王の放った光をその身に受ける事なくやり過ごす事はできたのだが…
光が当たった床は、まるで炎に焼かれたかのように黒く煤けてわずかながらも煙すら上がっていた。
「助かりました…!ありがとうございます、エンさん!!」
「あ、いえ…でも僕…すみません…」
 エンは短く言うと、自分ではどうしようもないくらいの睡魔に襲われてその場に膝をついた。
倒れこんでしまう前に、駆け寄っていたライがその体をしっかりと支える。そしてデルフェスの横に丁寧にゆっくり横たえた。
 短時間とは言え、聖女の力を使うとしばし行動不能になってしまうのは厄介以外の何ものでもないが、文句も言っていられない。
「今の攻撃でひとつ敵の手がわかりましたから…皆さん気をつけて下さいね!さっきのがまた来たら…」
「また来たら?」
「……気合で逃げましょうっ!!」
 リュートの言葉に思わず吉本新喜劇並みにコケそうになるが、今はそれどころではない。
「なるべく相手に攻撃の隙を与えないように一気に畳み掛けましょう!」
 ウタタの提案に、反論する者はいなかった。なぜならば、ほかに策など考えているような余裕など無いのだ。
「っしゃー!じゃあいくぜ!!」
 先陣を切ったのは意外にもシズカだった。弓を番えて走りこむと矢を放ち、すぐさま背中の矢筒から二本、三本と取り攻撃を仕掛ける。
どこかのエルフの王子様も真っ青なほどの見事な弓矢さばきだった。
さらに続いたのは、セリ。
通常の雷での攻撃と違い、魔王の動きを封じる事を優先させ、雷を生み出して網目状に絡ませあって魔王の体を覆う。
「このヤト様を差し置いて王様になろうなんて百万光年早いぜ!」
 すばやく風に乗り、ヤトは間合いに入り魔王の体を思いっきり蹴り上げる。ズシっと衝撃が体を駆け抜けて一歩後退した。
それと入れ替わるようにリュートが前線に躍り出て得意の拳を魔王の腹部へと叩き付ける。
右、左と繰り出して一転集中の攻撃。格闘ゲームで言うならば、Aボタンを連打していそうな攻撃である。
「俺も乗り遅れちゃいけねえよなっ…!」
 レンレンが重い剣を構え直して、飛び出しさらに攻撃に加わる。
タツヤも体勢を整えるとすぐに走り出して魔王の背後へとまわり二つの刃で切りつける。
 そんな彼らから引いた場所で、エンが横になっているそばには…エンの様子を見ているみなもと、ミコ。
そしてウタタとセイ、ライの姿があった。ウタタとセイは状況を判断し対策を考えようと成り行きを見守っているのだが、ライはと言うと…
「俺は武闘家として戦いに加わるべきのはずなんだ…ああ!しかしあの魔王っ!確かに今は醜い男の姿をしてはいるが、
ほんの少し前まではあの美しい聖女の姿だったはず!という事はもしかしたらあの魔王は女性なのかもしれない…
麗しき聖女が体をのっとられているのかもしれない…そうだとすると俺には魔王を攻撃する事なんてできないっ……!!」
 ―――と言った理由で、参戦できずにひたすら頭を抱えていた。
 
魔王へと総攻撃を仕掛け、先手必勝とたたみ掛ける一団だったのだが…

『我に敵う者などこの世界には存在しない』
 魔王が大きく翼を動かし、セリの張り巡らせていた雷の網を破り両腕で攻撃を続けていた彼らを弾き飛ばす。
咄嗟にそれぞれガードして受けるダメージは最小限に抑えはしたものの、バランスを崩しながら屋上の上に散らばる。
再び構えるより先に、魔王は天を仰ぎ、黒い光、今度は黒い刃状のものを周囲に生み出した。当然、それらは攻撃として放たれる。
「ミコに任せてくださいっ!」
 どう避けるか、逃げるかという事を考えるより先に、ミコの声が耳に入り、魔王の攻撃が届く直前、
それぞれの目の前に目には見えない防御壁が出現してすべての黒い刃を無効化して霧散させていく。
無事に全員を守れた事を確認すると、ミコはほっとしたようにエンの隣へと倒れこんだ。
「どうやら普通に攻撃してたんじゃ魔王には効かないって事か…だったらこのヤト様に考えがあるぜ」
 ヤトは前線から後方へ少し下がると、そばにいるセリの肩をポンと叩いて何かを耳打ちするとさらに後退する。
全体で一度、対策を練り直したいところではあるのだが、魔王がその時間を与えてくれるはずも無く…魔王は大きく翼を動かし羽ばたくと、
一度舞い上がり、レンレンの前へと降り立つと同時に腕を振り上げて大きく薙ぐように動かした。当然、吹っ飛ばされて床に叩きつけられる。
そして起き上がる様子が無い事を心配し、ふと視線を動かしたシズカの前にも、魔王が降り立ち容赦なく同じように吹き飛ばす。
「シズカさん!!」
 小柄という事もあり、高く舞い上げられてしまったシズカをライが駆け寄って抱きとめる。が、シズカに意識は無かった。
「ひどい…わかってますけど、女性でも容赦は無いという事ですね…」
 みなもが唇をかみ締めながらシズカの体を支え、その場に寝かせて回復の魔法を唱え始める。
そうしている間にも、もう一人…同じように攻撃を喰らい、リュートとセリも無残にも床の上に倒れこんでいた。
 ウタタは回復薬を手にして一番近くにいる仲間の元へと向かう。
「どうやら物理攻撃のダメージは大きいようですね…いえ、もちろん魔法攻撃も、ですが…
こちらは攻撃可能な肩がタツヤさんとヤトさんのお二人だけで…僕とウタタさんは防御やサポート…ライさんは…」
 セイが視線を向けても、ライは倒れている女性たちの介抱に集中していて攻撃や防御という様子は無い。
魔王はというと再び魔法攻撃の構えを見せていた。セイはゆっくりとその場を離れると、すぐ近くにいるタツヤに声をかける。
 そして元いた場所に戻りみなもに声をかけると同時に、小さく呪文を唱えてその場に倒れこんだ。
魔法攻撃は再び黒紫の光を放ったのだが、しかし攻撃はセイの使った魔法によって完全に無効化される。
その事をあらかじめ効いていたタツヤは魔王が攻撃を仕掛けるスキを狙って間合いに入り、両刀に力をこめて切りかかる。
さらに、ウタタから回復薬をもらい、体勢を立て直したレンレンも剣を振り回しながら仕掛けた。
 意表を疲れたものの、魔王はひるまずに再び魔法攻撃を仕掛ける。しかし、それもまた無効化される。
タツヤは渾身の力をこめて魔王の腹部へと剣を突き立て、広がっている翼をレンレンが切り落としにかかるが、まるで鋼鉄のように硬い。
わずかに皮膚部を傷つける程度で、決定的なダメージには繋がらなかった。
「あの魔王、聖女さんの体をもし乗っ取っているのだとしたら…分離すれば力が弱まったりしないかな…」
 戦いには加われずに成り行きを見つめるしかなかったみなもが、小さくつぶやく。
ふと、それを聞いたライはおもむろに立ち上がると、何かを決意したかのように歩き始め…魔王の前に立ちはだかった。
「やあ…そんな事をしていてはお肌が荒れてしまうだけだよ?せっかくのキミの美しい肌、俺は傷つけたくないな」
 そしていきなり、魔王に向かってどこから持ってきたのかバラの花を差し出しながら口説き始めるライ。
何やってるんだこいつは?!と、周囲の者たちはただ目を点にするしかなかった。
「たくましい腕だね?それにその角も見事だよ…俺にはとても真似できないけれど、憧れるね」
 ライはなおも話し続ける。ツッコミを入れようと近づいたレンレンは、ライの肌という肌に寒イボが立ちまくっている事に気づいた。
彼にとって男である魔王に口説き文句を使うという事はかなりの大ダメージを受けるのだが、それが彼が聖女から授かった『言霊』の力なのだ。
「見てください…魔王のガードが無くなってますよ…しかも、ライさんに見惚れてる!」
「えっ!?マジで!?魔王ってソッチ系…?!」
 その間に、バラバラに散らばっていた面々は一箇所に集まって大勢を立て直す。
「もしかしなくてもチャンスではないでしょうか…皆さん、対魔王の攻撃の力があるのなら…これを機会に…」
 リュートが負傷した体をなんとか保ちながら周囲に声をかける。
見ると、先ほどまで意識を失っていたエンとミコが立ち上がり、戦いの輪に加わっていた。
「っよーし!俺様の出番だ!待たせたなっ!ちょっとばかりタメに時間がかかったが、トドメはこのヤト様の担当だぜ!」
 ヤトも準備万端とばかりに笑みを浮かべて、両手を前に出して構える。
「さあ、俺の声が聞こえるかい?麗しき聖なる乙女さん…そんなところにいないでさあ、おいしい紅茶でも用意しているよ?」
 ライも最後の一言とばかりに満面の微笑を浮かべてそう告げると、両手を魔王に差し出した。
それと同時に、まるで魔王の体から幽体が離脱するように聖女の姿が前のめりになって抜け落ちてくる。
すぐさまその体を受け止めたライは、「後は任せた!」とばかりに聖女を抱いて、みなもの元へとかけ戻って…その場に倒れこんだ。
 それが、最後の攻撃開始の合図。
ありとあらゆる手段で、自分たちの持てる力と、能力すべてを使って一気に魔王へと攻撃を仕掛ける。
いくら魔王からの攻撃から守れる防御の力があると言っても、それにも限界がある。攻撃するすきを与えてはこちらの負けである。
しかし相手も仮にもラスボス。攻撃を受けながらも、翼を使い払いのける瞬間に魔法攻撃で対抗してくる。
 セリが聖女から授かった力でそれを無効化し、そのまま倒れ込みそうになるのをなんとか精神力で持ち応えて雷を魔王に落とす。
攻防を繰り返している間に、いくらか物理的ダメージを受けたレンレンは…もう自分でもわけがわからないほど必死の形相で切りかかっていた。
翼を?がれ、魔王は鼓膜が破れそうなほど空気を震わせて叫び声を上げる。
 今までに無いほどの力を自らの頭上の上に集めると、真っ黒な光の玉を生み出して…
「皆さん、これが最後ですっ!アンブレイカブル(闇夜を照らす絆の光よ…)!」
 リュートが聖女の力を借りて、最後の無効化のバリアを張り巡らせる。
魔王の生み出した光の玉は、どんどん多きく膨らんで屋上いっぱいに広がったかと思うと、すさまじい勢いで爆発した。
個々が立っていた場所以外の床がえぐれて、ところどころ下の階が見えるほどの穴があいている。
もしまともにこんな攻撃を受けていたらと思うと…かなりゾッとする。
「だったらこっちは俺が最後だ!行くぜっ…”断罪(ギルティ・トランシェ)”!!」
 待ってましたとばかりに、ヤトは聖女から託された、魔王への攻撃の力…巨大な風の刃を生み出して魔王へと向けた。
それは、魔法であれ何であれすべての魔王の攻撃・防御を切り裂く事のできり大いなる力。
「これで終わりだ!!」
 ヤトの風の刃と同時に、他の者達もいっせいに攻撃を仕掛ける。
刃はまっすぐに突き進み…直後、魔王へと直撃していた。真っ二つに体を裂かれ、魔王は呆然とした顔を浮かべる。
『まさか…まさかこの俺が…負ける…負けるのか!!そんな事はシナリオにはな…』
「いけない!このパターン、自爆パターンですよ!」
 展開や雰囲気からこの後に起こる事を察知し、みなもが大声で叫んだ。たとえ倒したとしても、自爆に巻き込まれたのでは意味が無い。
どうする!?と全員が思ったときには、もう魔王は不敵な笑みを浮かべて…自らのスイッチを押していた。



「レンレンさんのおかげですねえ…いやあ、一時はどうなる事かと」
 青空を見上げた状態で、リュートはぽつりと呟いた。
ゴツゴツとした床の感触が実に痛く、こんなところで寝転んでいたくなどないのだが…どうも体がいう事をきかない。
それは誰しも同じで、仰向けに寝転がったまま…流れて行く白い雲と、青い空をじっと見つめていた。
「ライさんとウタタさんが回復薬を取りに都まで行って下さってますから…」
 足りなくなった回復薬を小分けしながら、ミコがせっせと看病を続ける。
みなもも忙しそうに全員を見て周り、できる限りの回復魔法で怪我の回復をはじめていた。
「最後結局どうなったんですかね?僕は気を失っていたもので…すみません、リーダーなのに」
「魔王が自爆した瞬間、レンレンさんがまだ使っていなかった対魔王の力で…全員の姿を一瞬、この場から消して下さったんです。
見えなくなるだけじゃなくて、実際に消してしまった…だから自爆した衝撃も当たらずに済んだんです」
 その代わり、レンレンは現在床に倒れこんで寝息をたてている。
「自爆の力はすさまじかったようだな…気をつけて歩かないと、下の階に落ちそうだ」
「そうですね…あ、タツヤさんはお怪我はありませんか?」
「俺は大丈夫だ。他のやつを看てやれ」
 攻守共に長けていて、戦い慣れているらしいタツヤは笑みを浮かべてみなもに告げる。
そして何をするでもなく、屋上の端まで歩き…下を見下ろす。風が、心地よくその顔をなでて行く。
「それにしても…魔王を倒したのはいいんですが、剣はどこにあるんでしょう…転がってたりしてませんか?」
「あ、僕もそう思って、ノイと一緒に探してたんです…でも、それらしいものはどこにも…」
「聖女さんが目を覚ましたら聞いてみればいいですよ」
 確かに聖女が何かを知っているかもしれないと、全員納得して再びまったりとした時間を過ごす。
これで今回の事件はおそらく終結するのだろう…結局、原因はいまだはっきりはしていないのだが、
それも剣を手にして帰ればバグも直り、ログアウトも可能になり”外”の世界でいろいろと調べたり聞いたりも出来るだろう。
 早く、聖女が目を覚ましてくれれば…そればかり考えていた彼らだったのだが…
魔王が消え失せた場所、今はもう何も無いはずの場所に…ゆっくりと何かが姿を現して行くことに…まだ誰も気づかなかった。
ソレはやがて一体の機械人形の姿となり…彼らに告げたのだ。
『自分をを倒す事が出来れば、魔王の剣を与える』と。
 予想もしなかった展開に騒然としながらも、彼らはその何者かへと挑んで行く。
そう…魔王の剣を手に入れて、すべてを終結させるために…。



→→→→→剣を取ったらファンタジー?〜楓希・黒炎丸の章〜へ…


■Ten Days Later...

”テーマパーク事件・話題を呼ぶ為の自作自演企画!何者かのハッキングにより想定外の事故に!”
 そんな字が躍る新聞に目を通し、苦笑いを浮かべた後…嬉々とした表情で歩き始めた。
これからオフ会が始まる。
あのオンラインゲーム事件に奔走した”仲間達”と初めてオフラインで顔を会わせるのだ。
ちなみに、ネットを使って打ち合わせをしたために、実はいまだにそれぞれの”オフライン”の顔を知らない。
会場として用意されたカフェに足を踏み入れると…
「嘘だろ!?てめえふざけんじゃねえぞ!!」
「それはこっちのセリフだー!!うわあ…肩抱かれたっけ…キモチワルー…うげー!」
「僕は途中からなんとなくそんな気はしてたんだけど…」
『だったら言えよ!!』
 鈴森・夜刀、転、鎮の三兄弟が激しいまでのやり取りを繰り広げていた。
なんでも、「ウタタ=転、ヤト=夜刀、シズカ=鎮」で三兄弟がたまたま偶然にもログインしていたらしいのだが、
そんな事とは知らぬ兄、夜刀が、女キャラで参加していた三男に素敵にナンパ行為をしていたものだから…
揃いも揃って鳥肌を立てながら互いに文句を言い合っていた。しかも、なんとなく気づいていた事を言わなかっただけなのに、
長男は二人から責められていてなんとも切ないものである。
「やっぱエンちゃんは縁樹ちゃんだったのか〜…いやほら、ソレでピンと来たって言うか」
『まあボクがいるのに気づかないほうがどうかしてるってやつ?』
「相澤さんがレンレンさんだったんですね…僕、全然気づかなかったですよ…」
「やあ!美しいレディ…ゲーム世界でも素敵だったけれど、現実世界の方がもっと素敵だね…」
「嬉しいですわ。西王寺様はライ様そのままですのね…」
 別の場所では、エンこと如月・縁樹、レンレンこと相沢・蓮、ライこと西王寺・莱眞、デルフェスこと鹿沼・デルフェスの四人が、
「もしかしてミコちゃん…ですか?」
「あ…はい…えっと、中藤・美猫と言います…もしかして、みなも…さん?」
「僕もそうじゃないかと思っていたんですよ。改めてはじめまして。郡司・誠一郎と申します」
「郡司さんがセイだったんですね…俺、気づかなかったなあ…」
 そしてまた一方では、ミコこと中藤・美猫、みなもこと海原・みなもが、セイこと郡司・誠一郎が、セリこと芹沢・青が…
互いに自己紹介と、簡単な挨拶を交わしながら談笑していた。
 初対面の者もいれば、もともと知り合いだった者もいて、さらに言うならば身内だった者までいて…
思い思いにゲーム中の話や、現実世界での話に盛り上がる。
「すまない、遅くなった…」
 そこへ遅れてやってきたのは、タツヤこと、日向・龍也。
自己紹介をせずとも、全員それが誰であるのかはすぐにわかって輪の中へと彼を招き入れたのだった。
「残すところリュートさんのようですけど…」
「ああ、それなら俺がこんなものを預かってきたんだが…」
 龍也は持参した紙袋をテーブルの上に置きながら言う。全員がそのテーブルを囲んで、それに注目した。
「って事はタツヤ、リュートに会ったのか?」
「いや、俺はここに来る途中…黒いコートの男に『リュートから』と手渡されただけだ」
「黒いコートの男…」
「とにかく開けてみませんか?何が入ってるのか気になりますし」
「そうですわね。まさか危険物という事もありませんでしょうし」
 デルフェスがなんとはなく言った言葉に、一瞬その場が固まる。しかし、すぐに妙な笑いと共に緊張は解け、誠一郎がそれに手をかけた。
何故か近くにいる男性の陰に少し隠れる女性達…と鎮。期待と不安で見つめる中、紙袋は開かれて…
「あ…これ、お茶の葉ですね」
「お茶の葉?!」
 誠一郎が中身を取り出すと、それは確かに人数分の紅茶と緑茶の茶葉のセット・ラッピング付きであった。
そしてその紙袋の中には『お茶の使者より』とだけ書かれたメッセージカードが入っている。
「黒いコートにお茶の使者…なーんか、俺、ピンポイントで思い当たる人物がいるんだけど…」
「おや?相澤さんもかい?俺もそうだよ…きっとあの人だろうね…」
 蓮と莱眞はとある人物、冠城・琉人の事を思い出しながらポツリと呟いた。
しかしまあ、他の面々はわからないらしく、「不思議な人だな」と話題は盛り上がっていた。
「えー!それでは!全員揃ったと言う事で…僭越ながらこの相澤・蓮が乾杯の温度を測らせていただきます!」
「ってそれベタベタじゃん!ダサいぜ、レンレン!」
 この為に用意していたのか、どこからともなく温度計を取り出してギャグをかます蓮だったが、鎮に鋭くツッコミを入れられる。
落ち込みそうになるところではあるが、蓮を慰めるようにデルフェスがその肩に手を添え、
「わたくしは面白かったですわ…さあ、レンレン様…最後のしめですわ…我々仲間達の再会に…乾杯!」
『乾杯〜!』
 手にしたグラスをチンと合わせ、ある者はお酒、ある者はジュースでそれぞれ乾杯する。
この仲間達と一緒に事件を解決できた事に。
ゲーム世界とは違う、現実世界でのまた新しい出会いに。
そして…その現実世界でのこれからの仲間達との付き合いに…
「今回の事はあいつにも話してやろう…あいつは楽しい事が好きだからな…」
「タツヤさん、あいつって誰ですか?」
「あ、いや…別に…」
「もしかして彼女!?そうだろー!そうに違いないっ!!」
「へえ…タツヤもスミにおけねえじゃん!ところでみなもちゃん、ミコちゃん、今度俺様と個人的に遊びに…」
「キミの誘いにレディが引いているよ?女性に声をかける時にはもっと丁寧に誘いをかけるべきだと思うけどね?」
 ゲーム世界と同様、夜刀と莱眞の二人の間に火花が散る。
「こうして見ると皆さん、そのまんまですね…」
 誠一郎が楽しげに目を細めて呟くのを、隣に座っていた転も同意して笑みを浮かべて頷く。
「あの…美猫、写真撮っていいですか…?おばあちゃんに話したいから」
「もちろん!おーい、全員集合〜!写真撮影するぜ〜!!」
 蓮の掛け声に、少しあいているスペースへと全員移動してちょうどいい場所を探して並ぶ。
シャッターを押す係りは店員さんに任せて、カメラに向かって全員で笑みを浮かべる。
短い期間ではあったけれど、壮大なファンタジー世界を旅し、戦った仲間達の事を思い出しながら。

 後日。個々へ郵送されてきた集合写真を見て…皆、一瞬驚いて目を丸くする。
撮影した時に、皆が並んだ場所の後ろの窓…誰もいなかったはずのその窓に…
湯のみを手に微笑んでいる黒いコートの男が写りこんでいたとか、いなかったとか………。



■THE END■


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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みなも:僧侶
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13歳/ 中学生】
エン:銃士
【1431/如月・縁樹(きさらぎ・えんじゅ)/女性/19歳/旅人】
デルフェス:女剣士
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
リュート:白魔法使い
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳/神父(悪魔狩り)】
セリ:白魔法使い
【2259/芹沢・青(せりざわ・あお)/男性/16歳/高校生・半鬼・便利屋のバイト】
レンレン:狂剣士
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
シズカ:弓使い
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/497歳/鎌鼬参番手】
ウタタ:白魔法風使い
【2328/鈴森・転(すずもり・うたた)/男性/539歳/鎌鼬壱番手/ゲームマスター】
ヤト:武術士
【2348/鈴森・夜刀(すずもり・やと)/男性/518歳/鎌鼬弐番手】
セイ:魔剣士
【2412/郡司・誠一郎(ぐんじ・せいいちろう)/男性/43歳/喫茶店経営者】
ライ:武闘家
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者/調理師】
ミコ:踊り子
【2449/中藤・美猫(なかふじ・みねこ)/女性/7歳/小学生・半妖】
タツヤ:英雄
【2953/日向・龍也(ひゅうが・たつや)/男性/27歳/何でも屋:魔術師】
楓希・黒炎丸:裏ボス
【3300/楓希・黒炎丸(ふうき・こくえんまる)/男性/1歳/武者型機械兵士】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は「剣を取ったらファンタジー?完結編」にご参加いただきありがとうございました。
全てのエピソードに参加してくださった皆様、本当にありがとうございます。
また、今回新規に参加してくださった皆様、途中からでしたが楽しんでいただけましたでしょうか?
 完結編なので長くなるとは思っていましたが、まさかここまで長くなってしまうとは…と本人も吃驚です。
それもこれも、皆様のプレイングを拝見しておりましたら、あまりにもすばらしくて、
あれもこれも全てを入れたい!と思って少々欲張ってしまいました…(^^;
可能な限り執筆させていただきましたが、中には使えなかった展開等もあります。本当に申し訳ありません。
全てを入れてもきっちりと短くわかりやすく話を作り上げるにはまだまだ力不足な私ではありますが、
楽しんでいただけましたら幸いです。
 また、今回、プレイングの特殊性から、Into the battle!!のラストの展開に関しまして、
楓希・黒炎丸様のノベルへと飛んでいただきますと、ラストまで詳細を描いておりますので、
そちらも合わせて読んでいただけますと…きっちりとお話も完結すると思います。
(なんだか色々と矛盾点の多いラストになってしまいまして申し訳ありません。)

ただでさえ本文が長いのに、これ以上長々とご挨拶をするのもどうかと思いましたので、
これにて失礼させて頂きます。この度は本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできるのを楽しみにしております…

☆今回、文字数の事もあり個別でのコメントは控えさせていただきます。
個別で御礼を差し上げたい気持ちは山々なのですが…さすがにこれ以上長くなってしまうのは気が引けますので(^^;
本当に長くなってしまい申し訳ありませんでした。


:::::安曇あずみ:::::

※執筆した状態とWEB上にUPされた状態の違いによりWEBでは改行がおかしく表示されてしまう事があります。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等々なんでもお待ちしております。<(_ _)>