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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪

●眠りのマンション
 バイト帰りの朝帰り――といっても時間は昼近くだが。悠桐竜磨は少しばかりの欠伸を噛み殺しつつ、駅前マンションへと帰って来た。
 とりあえず大学の授業の時間まで寝て、それから……。
 そんなとりとめのないことを考えながらマンションへと一歩足を踏み入れた途端。
「……なんだ?」
 突然眠気が激しくなった。気を抜いたらそのまま倒れてしまいそうなほどに。
 慌ててマンションの外に出ると、眠気はあっさりと遠のいてくれる。
「いつものことと言えばいつものことなんだけどな」
 どうやらまたも何か起こっているらしい。
 しかし一体何が……。そう思ってマンション内の様子を窺っていた時――視界の端に、赤い色が飛び込んできた。
 ふよふよと浮かぶそれをじっと観察していると、それがどうやら身長十センチ程度の小さな少女であると気がついた。赤い色はチャイナ服の色だ。
「もしかして原因はあれか?」
 見掛けない顔であるし、あの中で元気に動きまわっているということは、多分そうなのだろう。
 最初は、いっそそのまま放置で大学を休んでしまおうかとも思ったが、そのまま起きれなければバイトまで休んでしまうことになる。
 それはさすがにまずい。
「……起きてられるか、俺……」
 多少の不安も残るが、行くしかない。ちょうど持っていたカフェインの錠剤を口に放り込み、覚悟を決めてマンション内へと踏み込んだ。

●チャイナ服の少女を探せ!
 眠い。
 なにはともあれ、ひたすら眠い。
「くっそー……」
 妙に重く感じる足を一歩一歩踏み出して、さっき見掛けたチャイナ服の少女を探して目を凝らす。
 ホンットーに、カフェインがあってよかった。
 気休めかもしれないが、あるとないとでは大違い。
 と。
 ちょうど、五階から六階へ上がろうとした時だった。
 ちらと視界の端に空飛ぶ小さな何かの姿が飛び込んできた。
「見つけた」
 思わずダッと駆け出すと、びっくりしたのか、少女はビクンと文字通りに飛び跳ねてピャっと小さな悲鳴を漏らす。
「あ……。ごめん、驚かすつもりじゃなかったんだ」
 一旦足を止めて告げると、少女はびくびくとこちらの様子を窺いながら近寄ってくる。
 ……なんか、眠気が増したような気がするんですけど……。
「いぢめない?」
「もちろん」
 ぱあっと少女が笑う――途端、周囲の温度がふわりと暖かい春の陽気になった……途端にどっと眠気が増す。
 もう、さっきまでの眠さなんて非じゃないくらいにメチャクチャ眠いっ!
 ここで寝こけるのは絶対避けたい。慌てて残っていたカフェインを数錠口に放り込んだ。
「あたし、シュミン」
 にこにこほのぼのと笑う彼女には、多分自覚も悪気もないのだろう。
「シュミンって言うのか。どうしてここに?」
「だって春だもん」
「春?」
 五月下旬。
 まあ春といえば春な時期だが、そろそろ暑くなってくる季節で、眠くなる時期はもう過ぎているように思う。
 ふと。シュミンがじーっと竜磨を見つめていることに気付いて思考を中断した。
「なんだ?」
「お兄さん、お仲間?」
「は?」
 唐突な話の流れについていけずに問い返すと、シュミンはぷくっと頬を膨らませる。腰に左手を当て、右手の人差し指でビシっと竜磨を指差した。
「ニンゲンぢゃないでしょっ?」
「ああ」
 そういう意味かと納得した竜磨は、頷いて答える。
 するとシュミンは何が嬉しいのかさらなる満面の笑顔でぱっと両手を上げた。
 まずいっ――と思った時には遅かった。
 急速に、意識が眠りの奥へと堕ちていく……。

●行き倒れ、一名。
 階下から順に。春の妖精を探して上へと上へと昇っていたシュライン・エマ、天薙撫子、三春風太の三人は不本意に眠ってしまったのだろう者を発見した。
 なんでそう思ったのかといえば、それは落ちていたカフェインの錠剤の瓶のせい。
「起こした方が良いのでしょうか?」
「そうねえ……」
 撫子とシュラインは彼と面識があった。悠桐竜磨――このマンションの住民にして人外の存在である。
「でも、気持ち良さそ〜だよ?」
 風太の一言もまあ、間違っていない。
 春の妖精にして、春眠暁を覚えずの言葉通りの眠りをもたらす妖精でもある彼女の影響による眠りは、必ず良い夢が見られると言う。だから、竜磨の表情がけっこう幸せそうなのは不思議でもなんでもない……が、どんなに幸せな夢を見ていようが、眠りっぱなしでいたいと思うかどうかは別問題だ。
 とゆーわけで。
「大丈夫ですか?」
 ゆっさゆっさと揺らしてみる。
「悠桐くん、起きて!」
 さらに揺らす事数回。
「ん……」
「おはよぉ、お兄さん」
「……おはよう」
 なんとものんきな風太の挨拶に、寝ぼけ半分で答えてから、竜磨はぱっと起きあがった。
「ああっ!! あの子は!?」
「あの子?」
「春の妖精のことですか?」
 撫子の問いに、竜磨はこくこくと頷いた。
「……早いところ探し出さないとマズイ」
 キョロキョロと周囲を見るその様子に、シュラインが口を開いた。
「シュミンちゃんと会ったの?」
「ああ。ほんのついさっきね……多分」
 多分と入ったのは、どのくらい寝ていたのかわからないからである。
「どーもあの子、自覚ないみたいなんだよな……自分が撒き散らしてる睡魔の威力に」
「……とにかくお祖父様の結界が消える前に探し出しましょう」
「ボクたちは下から順に見て回ってきたから、いるなら上のほうだよね?」
 風太の言葉に頷いて、一行はさらに上へと昇っていった。

●風の知らせ
 えっちらおっちら階段を昇り、一行がシュミンを見つけたのは十八階の廊下であった。
「あーっ、さっきのお兄さんっ」
 お団子頭にチャイナ服の少女が、ぱっとこちらに飛んでくる。
「と、こちらさんは?」
「ボクねえ、風太!」
 じっーっと見上げてくるシュミンに最初に答えたのは風太であった。元気に右手を差し出して、その意味を悟ったシュミンは小さな両手で握り返してくれる。
 それぞれ名前を名乗って自己紹介を終えてから、一行はとりあえず管理人室へと戻ることにした。大家が用意してくれたお茶とお菓子を頂きつつ、シュミンに事情を聞いてみる。
「いつもならもう次の場所に行ってる頃だって聞いたんだけど……どうして今回はずっとここに留まっているの?」
 シュラインの問いに、シュミンはんーっと考えるような仕草を見せた。
「わかんないっ」
「わからない……?」
「うんっ。だって風が吹かないんだもん」
「シュミンは風に乗って移動してたわけか」
「そぉよ。風が教えてくれるの。そろそろ次の場所に行きなさーいって」
「それが今回に限っては何故かなかったわけか」
 単純に上手く風に乗れなかったとか道に迷ったとか言うならばまだやりようがあるのだが、風の知らせなんてどうやって探せばよいのやら……。
「そうねえ……去年から今年にかけて、新しくできたビルとかあるかしら」
 もしかしたらそれで風の流れが変わったせいかもしれない。その考えには撫子と竜磨も同意した。
「だったら高いところにでも行ってみるか?」
 とりあえず、この周辺で一番高い建物は実はここ……二十階建てマンションの屋上である。
「それじゃ、一緒に屋上に行ってみましょうか」
 今度はエレベーターを使って、二十階まで上がり、そこからは階段で屋上へ。
 高いところだけあって風は強い――と、しばらくして。
「そっかあ、高いところは風の声が聞こえやすいんだね。うんっ、良いこと知ったわ」
「……聞こえたの?」
「うんっ。どーもありがと〜」
「そーだ、忘れるとこだった。あのね、どうもありがとう。シュミンちゃんのおかげでボクら、ぽかぽか陽気の中ぐーっすりお昼寝できるんだよね」
 にっこりと笑った風太に、シュミンがぱっと表情を輝かせる。
「嬉しい? 嬉しい? わーいっ!」
 言うが早いかぴゅっと昇っていったシュミンは、あっという間に姿が見えなくなり……そのままどこか遠くへ飛んで行った。

●そして……
「あっ、聞き忘れちゃった……。シュミンちゃんはちゃんと眠れてるのかなって。よかったらシュミンちゃんも一緒にお昼寝しようよって誘おうと思ってたのに」
 シュミンを見送った屋上で、突然そんなことを言い出す風太。
「そうねえ……。そういえばそもそも、妖精って眠るのかしら」
「さあな。とりあえず、オレは帰って寝る」
 帰ってきた当初は大学に行く気でいたが、なんだかもうそんな気力もない。さすがにバイトは休めないが、それまでは思いっきり寝倒す気である。
「ちゃんと眠ってますよ、きっと」
 確信のないことを言うのもどうかと思うが、少なくとも『忙しくて寝る時間がない』なんて事態とは無縁に見えたのでそう返しておく。
「ん〜……なんだかお昼寝したくなっちゃったな、ボク」
 言いつつ、何故か出すのはお風呂セット。
「おねーさんたちも入る? 温泉であったまった後ってとっても気持ち良く眠れるんだよ」

 ――温泉効果かそれともシュミンの置き土産か。
 その日の四人は、それぞれとても良い夢を見ることができたのだった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2133|悠桐竜磨    |男|20|大学生/ホスト
2164|三春風太    |男|17|高校生

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 毎度おなじみ(?)駅前マンションご参加ありがとうございました。

>天薙さん
 いつも大家と仲良くしてくださってどうもありがとうございます。
 「お祖父様」と呼んでいただけたのはもう、本当に本当に嬉しかったですv

>シュラインさん
 毎度お世話になっております。
 眠りっぱなしの人へのフォローもいろいろ入れてくださったのですが、書く余裕がなくてすみません(汗)

>竜磨さん
 カフェインで頑張ってくださったのですが……眠ってしまいました(をい)
 眠っている人に対しての楽しい描写があったのですが、寝たおしてやろうプレイングがなかったので書く機会がなく……ちょっと残念です(苦笑)

>風太さん
 はじめまして、こんにちわ。駅前マンションにようこそいらっしゃいました♪
 可愛いプレイングが楽しくて、ついつい笑みが零れました。
 可愛くも優しい風太さんの台詞がとてもとても嬉しかったです。


 今回はご参加ありがとうございました。多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。
 それでは……またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。