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<東京怪談・PCゲームノベル>


【狭間の幻夢】ユニコーンの章―鳥―前

●屋根の上の邂逅●
夜も更けた頃。
建物の屋根を蹴りながら夜空を駆ける人影が1つ。
背はさほど高くなく、身体も骨ばっておらず小柄。
結い上げた黒い髪が、夜の月に照らされて仄かに光りながらふわりと風に揺れる。
とん、と屋根を蹴る音がするがその人影の足は下にはついていない。
しかし人影はその音に合わせて何かの力に持ち上げられるかのように、ふわりと宙をを浮いた。

屋根の上を駆ける人影の正体は――――年端も行かぬ、若い少女。

その少女は、名をササキビ・クミノと言った。
「…今日も、碌でもない1日だった…」
ぽつりと呟かれたのは、少女らしからぬ生に疲れたような声。
そして彼女は無言で一旦立ち止まり、静かに振り返る。
その視線の先。
ずっと…ずっと遠くのどこかで、赤い光がちらついている。
かなり小さくて聞き取るのも非常に困難だが、耳に僅かに届くのは…パトカーの、サイレン。
恐らく爆破音を聞きつけた誰かが警察に連絡したのだろう。
ぼんやりとそう思いながら、クミノはまた謎の力でざわめく人々の喧騒から離れた家屋の屋根上を駆け出した。

撃って、走って、爆破して。
人気の少ない場所を選んだから被害は少ないだろうが、偶然通りかかった誰かが怪我をしているかもしれない。
そう思って、クミノは無意識のうちに眉を寄せた。
折角学生として働けるようになったのに、今行っている行為は以前と相違ない。
そう思うと、今やっていることに妙な嫌悪感を抱きそうな気がした。
…ただ、昔と明らかに違うことが1つある。
それは、自分の意志があるかどうか、だ。
ただ命令をこなしているわけではなく、自分で依頼を受けるかどうかを判断し、行動する。
それは非常に頼りなく不確かなものだが、クミノの中で自分が誰かを守れる力になれていると実感できていた。
それこそが、今と昔の一番大きな違いだと思う。
だからこそ、今の生活に特にと言った不満を感じることはないのだ。

タン、タンとリズミカルに屋根から屋根へと移る。
空には、氷のような薄青い満月。
黙々と自分の住居へと走っていたクミノだったが。


「待てッ!!!」


その耳に叫び声が届くと同時に、跳んでいたクミノの更に頭上を、大きな影が覆った。
「!!」
ほとんど条件反射で銃と護符を構え、攻撃された場合の事態に備えるクミノ。
その目の前に、コォン、と軽く蹄の音を立てながら着地したのは…馬。
しかし、それはただの馬ではなかった。

満月の柔らかな光を反射して輝く薄緑色の体。
クリーム色の長く、風に靡く鬣(タテガミ)。
空を駆けるように前足を動かすその体躯。
その馬のような生き物の額でその存在を主張しているのは―――真っ白な、角。

―――――ユニコーン。

油断せずに睨みつけてくるクミノにその紅い瞳を向けたユニコーンは、じっと見つめた後、『なるほど』とだけ呟く。
訝しげな顔をしたクミノが何が、と問いかける前に、ユニコーンはまた軽く蹄を鳴らし、宙へと跳んであっという間に遠ざかっていってしまったのだった。
あまりにもあっさりとした別れ。
クミノは思わずぼんやりとユニコーンの消えた方向を眺めてしまったが、背後に新たな気配が現れたことを敏感に感じ取り、反射的に素早く振り返る。

―――と。

…そこには、ついさっきまでいなかった筈の『人間』が、静かに佇んでいた。
「!」
「…逃げられたか」
いつのまに後ろに立っていたのだろうか。
こんなに近くに来るまで気づかなかったと思わず悔やむクミノとは対照的に、チッ、と舌打ちをする男。

真っ白な髪と、白銀色の瞳を持つ不可解な男だ。
その男の隣の宙には、ふよふよと真っ白な毛玉のような『なにか』が漂っている。
くりくりとした大きな黒の目玉が可愛らしい。どこかのマスコットか何かなのだろうか。
大体拳大の大きさのその毛玉の下の方には真っ白なコードのような尻尾があり、その先にまたある小さな毛玉は、その体毛とは違う色をしていた。

まさか…新手の敵か?
そう考えて右手を見たクミノだったが、自分の手には何の変化もない。
それに…どう考えても、敵意があるようには見えないのだ。
自分の障壁範囲に入っていながら、何かに気づいた様子もなく、ごく普通に困ったように頭の後ろを掻いている。
どうやらこの男、普通ではないが、害意があるという訳でもないようだ。
…ただし、今のところは、という条件がついてしまうのだが。

訝しげに見つめるクミノの視線に気づいているのかいないのか、全く気にしない様子で男は隣の毛玉へ目を向けた。
すると毛玉は、大きな目を此方に向けて、ただでさえ大きな目を更に見開く。
その気味の悪い動作に思わずぎょっとするクミノを他所に、その毛玉はくるくるとクミノの頭上を飛び回りはじめた。
一体なんだ?そう思いながら頭上を飛び回る毛玉をやや睨みつけるクミノを他所に、毛玉のその綿毛の中から唐突にがばりと大きな口が現れる。
「!?」
その奇妙さに驚いて目を見開くクミノの頭上を依然としてくるくると飛び回りながら、毛玉はその口から不快な高音を発し始めた。

「ユニコーン、ミタ!!
 ニンゲン、ノゾイタ、キオク!オモイデ、バショ、ミタ!!」

まるで日本語を覚えたての外国人のようなカタコトに、主語や述語を全く無視した単語の羅列。
音声機械が単語を高音域で発すればこんな音が出るのかもしれない。
その無駄に高い声に思わず顔を顰めて耳を塞ぎかけたクミノだったが、毛玉の言った事を考え…思わず眉を寄せた。

ユニコーンが見た。
…何を?
記憶を。
思い出の場所を。
ならば、自分にとっての思い出の場所とは?


―――HELLか、HOMEの2つのみ。


そこまで考えたクミノは、はっとして身体を翻す。
そして後ろで会話をする2人を見据えると、そちらに向かって足を踏み出した。
「ソコ、イッ…」
「私と一緒に来てくれ」
「へ!?」
そして遮るように2人…もとい1人と1体の間に割り込むと、そう呟くと同時にクミノは身に纏っている『障気』を解放する。
その障気は瞬時に目に映らない【腕】を作りあげ、クミノ自身と男の腕、そして毛玉をがしりと掴み上げた。
「うおっ!?なんやなんや!?」
気味の悪い感触に驚く男を無視し、障気は僅かな空気の揺れと共にまるで枝のように障気を分かち、不可視の【足】を作りあげる。
そのままその【足】を強く動かすようにイメージすると、ドンッ!と大きく重い音を響かせながら、2人と1体の身体は高々と宙に舞った。
そしてその【足】を駆使し、次々と屋根から屋根へ飛び移っていく。
「…なんやまるで透明人間に攫われとる気分やなぁ…」
男は障気に掴み上げられている自分の腕を眺めながら、どうにも緊張感のない感想を漏らす。
それを横目で見ながら、クミノは口を開いた。

「…私はクミノ。ササキビ・クミノだ。
 あのユニコーンが向かっている場所とやらは、貴方達の話を聞く限りでは私にとって不利益しかもたらさないだろう。
 なので、貴方たちを私の『家』へと案内する事にした。
 素性や目的に関しては、今のうちに話してくれると有り難い。
 ……それと、今よりも早く移動する手段の有無も…な」

淡々と告げられた言葉に一瞬きょとんとした男だったが、次の瞬間、面白そうに口の端を持ち上げる。
そしてクミノをその白銀色の双眸で見つめ…にっとどこか人の良さそうな笑みを浮かべた。

「おもろい嬢ちゃんやなぁ。ま、俺としては有り難い限りやけど。
 …俺は護羽や。こっちの丸いんはホンマは名無しなんやけど、俺は『毛玉』って呼んどる。
 ま、短い間やけど、よろしく頼むで?」

そう言って笑いながら此方に向かってウィンクする男…もとい、護羽。

―――どうにも読めない性格をしていそうな男だ。

クミノは、隣で笑う護羽を見て、心の奥で小さくそう呟いたのだった。


続。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【1166/ササキビ・クミノ/女/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない/無】

【NPC/護羽/男/?/狭間の看視者/無】
【NPC/わた坊(毛玉)/無性/?/空飛ぶ毛玉/?】
【NPC/?/男/?/ユニコーン/光】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第一弾「ユニコーンの章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
やはりというかなんというか、今回の参加者様方の属性は光・闇・無の3属性のどれかのみでした。
やっぱり地水火風の属性はあまりいらっしゃないんでしょうか?うーん…(悩)
また、参加者中、男性はたったお1人でした(笑)やっぱりその辺も特徴といえば特徴…ですか?(聞くなよ)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)
また、登場する『あやかし』の名前を知ることができると、後々何かいいことがあるかもしれません(をい)

・クミノ様・
ご参加どうも有難う御座いました。
今回設定が複雑で大変だったご様子で…どうもお手数かけてもうしわけ御座いません(汗)
一応ゲームノベルの仕組み上、前・後編に分けての納品とさせていただきました。
更にプレイングをご拝見した結果、オープニングからの再描写に変更させて頂きます。ご容赦下さいませ。
前編では、「出会い〜家への移動開始」までとなっております。移動途中〜家に到着してからは後編を御覧下さいませ。
護羽はクミノ様のことを勝手に『嬢ちゃん』と呼んでますが…大丈夫でしたでしょうか?(汗)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。