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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


迷惑者捕獲大作戦

*オープニング*

 その日、草間興信所に持ち込まれた、麗香からの依頼は、いろんな意味で武彦の頭を悩ませたようだ。麗香から渡された資料を読み、零が目を瞬かせる。
 「ええと……『迷惑男捕獲作戦』?なんですか、これ??」
 その内容とはこうだ。

 冬の話だが、何が目的だが分からないが、女性ばかりをターゲットにして、己の仲間としようとする不埒者がいた。女性、しかも美人、そのうえ何らかの能力者であればなお宜しい、と言う超絶我侭な奴だ。実際に犠牲となった女性はまだ報告されていないが、ほっとけば面倒な事にもなりかねない。何を考えているか分からない不可解な男だが、とにかくこいつをとっ捕まえたい、と。

 「でも兄さん、これだけならただの人捜しですよね?例え、碇さんが持ち込んだにしても」
 「問題は、その迷惑男、そいつ自身さ。奴は、結構厄介な能力を持っているらしい」
 「…だから兄さんのところに来たんですね。その話」
 「………」
 俺は唯の探偵なんだがなぁ、と武彦が往生際の悪い呟きを零す。武彦はデスクの上に置いてあった煙草の箱を取り、一本咥えて火をつけながら伸びをした。
 「…まぁいい。麗香は金払いだけはいいからな。この程度の依頼、とっとと終わらせて煙草代の足しにするぞ」
 って言いながら電話帳に手を伸ばしている辺り、やっぱり誰かに手伝わせる気だ。
 そんな兄の様子を笑って見ながら、零は資料の続きを読む。最後まで読んでから、細く溜息を零す。
 「……相当私情が混ざってませんか、コレ…」
 零が困ったように笑い、資料と、諦め切った表情の武彦とを、代わる代わる見詰めた。


*お呼び出しを申し上げます*

 「…で、編集長はしょうがないとして、どうして、僕がいるのに草間さんがいないんでしょう?」
 「編集長はしょうがない、ってさくっと言っちゃう辺り、三下さんの立場の弱さがありありと分かっちゃうねぇ」
 零樹がくすくすと笑ってそう言うと、その通りですと三下が諦めたように頷く。その様子に、込み上げる笑いを堪えつつ、ケーナズが言った。
 「ま、碇女史はしょうがないだろう。依頼者が自ら調査に乗り出すなら、わざわざ草間氏に頼む必要など無いからな。…それより問題は、草間氏の方だろう」
 「それも、ある意味いつもの事…って気がするけどね。こう言う類いの事になると、草間さんはすぐに逃げ出すんだから。その分、僕達への報酬が多いんなら、文句は言わないんだけどね」
 「…って事は、報酬もロクに出ないって事!?」
 一子が驚いたようにそう叫ぶと、零樹とケーナズが同時に神妙な顔で頷き、同意をした。それを聞いた一子は、落胆したよう、がくりと肩を落とした。
 「…面白い事があるから来てみろと言われて来てみれば、こんな話ですか……しかも、ぼくの役割はていのいい囮役とか何とか…」
 ほろりと泣き真似しながら嘆く一子の肩を、ケーナズがぽむりと叩いてにっこりと笑った。
 「いやぁ、囮役はキミが努めてくれるのか、それはいい!もし、メンバーの中に適役がいなかったら、碇女史にご足労願わなくてはならないかと思っていたんだ」
 「そ、それは…もしそうなった場合、誰が編集長に頼むんでしょうか…?」
 僕には無理です、と首を振る三下に、ケーナズの代わりに零樹がやはりにっこりと笑い掛ける。
 「そんなの決まってるじゃない、三下さんしかいないでしょう?まぁ、碇さんを呼び出さなくても、一子兄さんの無駄に可愛いらしい容姿を利用すれば…」
 「無駄とはなんですか、無駄とは」
 むーっと不満げに一子が唇を尖らせると、それが可愛いんです、と零樹が含み笑いをした。
 「…と言うか、…囮が女性でなくても、そのMってヒトは引っ掛かってくれるんでしょうか?」
 三下が首を傾げながら尋ねた。それを聞いたケーナズは、軽く口をへの字にする。
 「性別は人の特殊な能力と言う訳ではないからな…容姿がそれなりなら、すぐには分からないだろう。現に、前回も実際に我々の姿を自分の目で見るまでは、男か女かと言うのは分からなかったんだしな」
 「しかし、その人の能力を判別する力はともかく、中和させてしまう力ってのはちょっと厄介だね」
 何も対策が講じれないって事だよね、と零樹が面倒臭そうに呟いた。
 「それなんだけど…それって、どう言う能力に対して、なんでしょう?全ての能力を、って言うんなら、例えば、人間離れした生命力を持つヒトなら、その生きる力を中和、結果的に命を奪ってしまう、って事になりません?」
 一子の言葉に、零樹が応ずる。肩に落ちていた黒髪の一房を、背中側へはらりと追い遣った。
 「特殊能力の、あらゆるものを視覚的に捉える事が出来る、って言ってたけど、その全てを無効にできるとは限らない、って事かもね」
 「だが、それは実際にヤツに会ってみないと分からないな。ありとあらゆる力を…なんて言う、万能能力者で無い事を祈ろう。まずは、当の本人を呼び出さないとな」
 では移動しようか。そうケーナズが促すと、皆は頷いて椅子から立ち上がった。
 行き際、思い出したようにぽつりと一子が零す。
 「…と言うか、ぼくが囮になるのは、最初から決定なんですね……」

 「で、どうやって誘き出すんですか?ただ単に綺麗な女性がいるってだけじゃ、さすがに寄っては来ませんよね?」
 三下がそう言って、目の前の一子の姿を上から下まで見る。容貌は申し分ないとびっきりの美少女だが、それ以上に、金魚みたいにヒラヒラした衣装が際立って目立っている。囮役としてはある意味完璧なのだが、むやみやたらと目立ってしょうがない事も確かである。三下の視線に、一子がその場でくるりと回って円を描くと、それにあわせて白衣の裾も閃いた。
 「…一子兄さん、こう言う時ぐらい、白衣は脱いだらどうなの。それじゃあ、まるで白衣フェチの、妙な方向に気合いの入ったヘンな美人って思われるよ」
 「零樹、それは余りに失礼でしょう。ぼくのコーディネートはいつだって完璧ですよ。そこまで言われちゃ、猫又の名が廃ります、きっちりと囮役を務めてみせますとも」
 むん、と気合いを入れて一子が胸を張る。それを見た零樹は、極めてお気楽に、頑張って〜、と拍手をした。
 「まぁ、一子兄さんのコーディネートが完璧かどうかはともかく…もしかして、また美人が瀕死にならないと出て来ないかもね?だったら、ねぇ一子兄さん、もう一回車に轢かれ…って痛い痛い!」
 どうやら、一子の堪忍袋の緒が切れて、鋭い爪で零樹の頬を引っ掻いたらしい。それを見た三下は、自分が引っ掻かれた訳でもないのに、ぎゃー!と悲鳴を上げて自分の頬を両手で覆った。
 「三下君、キミが引っ掻かれた訳じゃないだろう…そうそう、ヤツの居場所だが、私がヤツの雰囲気を記憶しているから、その気配を追ってみて、ある程度範囲を狭めてみようと思う」
 三下の行動にしっかりツッコミを入れておいて、ケーナズがそう答えると、零樹も納得したように頷いた。
 「それでその後、一子兄さんが妖気を撒き散らしながら、その辺を練り歩けばいいんじゃない?奴が求めているのは、特殊な能力を持った美女なんだから、きっとそう言うのを図るためのセンサーみたいなものを広げていると思うんだよね」
 「…妖気を撒き散らし、って……」
 ぼくは種蒔きか何かですか、と一子ががくり肩を落とす。まぁまぁ、と零樹が一子の肩をぽむぽむと叩くが、その表情はただひたすらに愉快そうであった。ケーナズも笑いを堪えるような顔をしたまま、軽く一子の背中を、手の平で押し出す。
 「…と言う訳で、オジョウサンには早速練り歩いて貰おうか?」


*餌は充分*

 ケーナズが、Mの気配を探り、それが一番濃く現れているらしい、近くの公園を決戦の場と定めた。一子はと言えば、そこに行くまでの間にも、皆に促されて渋々、猫が毛を逆立てるみたいにして妖気を全身から漂わせ、自分は只者ではないとの主張をし捲りながら歩いていった。恐らく、見える人が見れば、一子が歩いた経路には帯のような妖気のオーラが揺らめいて残っているのが分かったに違いない。
 「どうだろう、これで奴は来るかな?一子兄さん、もっと目立つように何か芸でもしたら?」
 「零樹、ぼくは芸人じゃありませんよっ」
 むー、と一子が唇を尖らせる。それでも一応、囮役に責任感を感じているのか、んー!と息を詰めるような仕種をすると、一子が放つ妖気が、更に強さを増した。Mのように、それを視覚的に捉える事は出来ないが、それでもその気配は分かるのだろう。三下以外の全員が、おお、と感心したような声を漏らした。
 「なかなか器用な…で、こうしていればそのうちヤツはやってくると思うんだが、…で、どうやって捕まえるか、だな」
 「能力を無効化する力を持っているんですよねぇ…それに、特殊能力が目で見えるんなら、相手がどう言う能力を持っているかも分かっちゃうんじゃないですか?」
 と、さしたる能力も無い三下が心配そうに言った。
 「そうだけど、どっちにしたって、無効化されるんなら特殊な力は使えないから関係ないかもね?」
 「え、え、だったらどうやってヤツを捕まえるんですか〜!?」
 そんな情けない声を出す三下に、零樹がにっこりと鮮やかな笑みを向ける。
 「さぁ?」
 「そ、そんなぁ〜……」
 「まぁまぁ三下君、そんな顔をしては、折角の美貌が勿体無いじゃないか」
 ケーナズが、眼鏡の下にある(筈の)三下の容姿を想像しながら笑う。
 「と言うか、確かに特殊能力なら中和されてしまうのだろうが、まずひとつ。大勢で一斉に飛び掛った場合、その全てを中和させる事が出来るほど器用な奴かどうか、と言う事だ」
 「ああ、確かにね。奴の持つ力が、中和させようとする相手の能力を見極めてからでないと作用しない類いのものなら、そう言う可能性はあるね」
 「でも逆に、とにかく中和化させる波動みたいなものを無差別に放出するようなタイプだったら、ちょっと困り者ですねぇ」
 「一子兄さん、話に加わらなくていいから、ちゃんと妖気振り撒いててよ」
 零樹にそう言われ、一子が渋々、また漂わせる妖気を強くする。
 「もうひとつ、碇女史のレポートにもあったが、肉体的な能力に関する情報が欠落している、と言う事から鑑みて、もしかしてヤツは、肉弾戦には極めて弱いタイプかもしれない、と言う事だ」
 「それはいいねぇ…さすがに男とくんずほぐれず、なんて厭だからね。汗臭いのも暑苦しいにも僕は嫌いだし」
 「じゃあ、Mさんが一子さんの色香に迷って近くにやってきたら、皆で飛び掛って押さえ付けちゃいましょうか」
 三下は、あくまで冗談のつもりでそう言ったのだが、予想外に、ケーナズや零樹にあっさり頷かれ、同意を得てしまって、逆に焦り始めた。
 「え、本気ですか!?」
 「本気だな。とりあえず、やってみないと分からないし」
 「ま、簡単に言うと、行き当たりばったり、成り行き任せ、って感じ?」
 にーっこりと微笑む零樹の傍らで、ケーナズがふと視線をあちらへと向けた。
 「どうかしましたか、ケーナズさん」
 「……来たようだな」
 皆は顔を見合わせ、ひとつ黙って頷いた。


*御用だ!?*

 その頃、囮役の一個は他のメンバーから少し離れた所で、恋人と待ち合わせ中の美少女と言った風情で公園の噴水の傍に佇んでいた。ケーナズが感じた気配を、一子も感じたらしい。ケーナズや零樹は、以前にもMと出会っているが、今回会うのが初めての一子は、妙な寒気を感じて、ざわざわ〜ッと全身の毛を総毛立たせた。
 「う、…な、なんでしょう…急に寒気が……」
 「お嬢さん、大丈夫ですか?」
 不意に背後からそんな声が掛かり、驚いた一子がわー!と叫んで一メートルほど飛び退り、身構えた。そこには至って平凡なスーツ姿の男が一人。一子は知らなかったが、それがM当人であった。Mはにこにこ平和そうな笑みを浮かべつつ、片手をぱたぱたと上下に振る。
 「いやだなぁ、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。まだ何も悪い事はしてませんよー」
 「まだ、って事はこれからするつもりなんじゃないですかー!?って言うか、いつの間に湧いて出たんですかっ!」
 「湧いて…ってそんな、人を虫か何かみたいに。いえね、何だか妙に強い力の放出を感じたので来てみれば、こんな可愛らしいお嬢さ………って、あれ?」
 ふと、Mが眉を潜め、一子の姿を上から下まで眺め見る。ナンデスカ、と胸を張る一子の顔をじーっと見詰めていたが、やがてくるりと踵を返し、一子に背中を向けた。
 「あれ?どうしたんですか?」
 「……。どうもこうも、お嬢さんかと思って来てみれば……ねぇ?最近、こんな事が多くて紛らわし……って、うわー!」
 今度は、Mが悲鳴を上げる番である。ヤツが背中を向けたのを見計らい、一子の影に身を潜めていた零樹達三人がそこから飛び出し、Mの身体に馬乗りになったのだ。どさどさどさ、と男三人に押さえ付けられ、Mは物凄く残念そうだ。
 「…ああ、この容姿のままで皆女性なら……僕は本望なのになぁ……」
 「…相変わらずトボけた事を言ってんだね……」」
 呆れたような零樹の声に、首だけ捻ってMが反論する。
 「何を言ってるんだ!女性はこの世の宝だろ!」
 「あー、はいはい。分かったから大人しく捕まっときな」
 若干疲れたような声で、ケーナズがそう言うと、Mは否定を示して首を左右に振った。
 「男に捕まってんのはシュミじゃないんだ。悪いけど、失礼するよ」
 そう言った途端、Mの輪郭が少しずつブレてぼやけ始める。空間転移する!そう、その場の皆が思った途端、三下が思わず叫んでいた。
 「ああっ、折角捕まえたのにー!また碇編集長に怒られるー!!」
 直後、Mの輪郭のブレが止んだ。
 「…碇編集長って、もしかしてもしかしなくても、月刊アトラスの碇麗香様?」
 「…そうですけど」
 なんで様付けなのかは疑問だが。麗香の名前に、妙に様付けが似合うのも疑問だが。
 「碇麗香様が、僕の事を?」
 「ああ、私達は、碇女史から依頼を受けた、草間氏から預託を受け……」
 「碇麗香様が、僕をお求めになったんだねっ!」
 ケーナズの言葉を途中で断ち切り、急にMの目がキラキラと輝き始め、感激の様子で両手の指を祈るように組み合わせた。ちなみに、Mの思考回路上では、途中にあった草間武彦の名前はあっさりスルーされているっぽい。
 「なんで碇さんの事を知ってるかってのはともかく、…これから碇さんのところに行くって言うんなら、大人しく付いて来るんですか?」
 一子の質問には、Mはこくこくと素直に何度も頷いた。ケーナズも零樹も、思わず、深い溜息をついて脱力する。
 「…それなら最初から、碇さん自ら街を練り歩けばよかったんじゃないの……?」
 「…ああ。だが恐らく、コイツを誘き出すよりも、碇女史をその気にさせるほうが遥かに困難だったろうな」
 そう言うケーナズの隣で、三下が激しく首を縦に振って同意をしている。
 「…結局、ぼくは何だったんでしょうね……」
 遠い目で空を仰ぐ一子が、横目で恨めしげにMの方を見た。まさに迷惑者だったMは、既に心ここにあらずで、麗香との邂逅に思いを馳せているようであった。


*エンディング*

 と言う訳で、無事にMは捕獲?され、麗香の元へと連行された(まずはと草間興信所へ連れて行こうとしたら、それは厭だ、すぐに麗香に会いたいと駄々を捏ねやがったのだ)

 アトラス編集部で、妙な含み笑いをする麗香と、彼女の足元にひれ伏すMの姿を見るにつけ、暫定的な呼び名であった筈の『M』だが、実は本当に『M』だったのではないか、と溜息を零すケーナズなのであった……。


おわり。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1481 / ケーナズ・ルクセンブルク / 男 / 25歳 / 製薬会社研究員(諜報員) 】
【 2568 / 言吹・一子 / 男 / 138歳 / 骨董店『言祝堂』店主・噂の語り部 】
【 2577 / 蓮巳・零樹 / 男 / 19歳 / 人形店店主 】

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■         ライター通信          ■
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毎度毎度の事ではありますが、大変お待たせ致しました(平伏)
ライターの碧川桜でございます。この度は草間興信所の調査依頼にご参加頂きまして、誠にありがとうございました!
ケーナズ・ルクセンブルク様、いつもありがとうございます!
今回の攻略?のポイントは、特殊能力を使わずに肉弾戦でどうにかする事でしたので、無事に迷惑者を捕まえる事が出来ました。…どうやら、この後もコイツは出て来るような気がしますので、またどこかで見かけたら構ってやってください(笑)
ではでは、今回はこの辺で…またお会いできる事を、心からお祈りしています。