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<東京怪談・PCゲームノベル>


→ 知らぬは本人ばかりなり。


 からんころんと鳴るドアベル。いつもの音。
 それを聞いてから暫く後、綾和泉汐耶はカウンター席に着いていつもの如く一杯を楽しんでいたりする。
 場所はそろそろ行き付けの酒場、暁闇と言う名のバーである。
 カウンターの中のふたりとも顔なじみ。店員と客と言うだけでは無く、他の場所でも――例えば草間興信所と言ったところでも――色々と懇意だったりする。
 そんな中。
 特にここで飲んでいる時は汐耶の話し相手になっている事の多い、金の瞳のバーテンダー――真咲御言が、そうでした、と何か思い出したように一枚の紙片を取り出した。どうやら小さく折り畳んである便箋のようである。
「間島さんから汐耶さんにお手紙だそうです」
「…あ、本当にですか?」
「蓬莱館でお話が終わらない事があったから渡しておいてくれ…とメモ書きで言伝られまして」
「ええ。一応、聞かせて欲しい…と思ってた事が結局聞けなかったもので…」
「聞かせて欲しいと思ってた事、ですか」
「って、間島さんの方から振られた話なんですけどね」
 言い掛けておいて結局止められれば気になるでしょう?
 と、汐耶は苦笑する。
 受けて、御言もまた苦笑していた。
「…ま、何となく予想付きますけどね」
「…そうなんですか?」
「…あの間島さんが汐耶さんに対して特に気にしそうな事と言うと…まぁ、思い当たる事が無い訳でも無いので」
「?」
「詳しくはその手紙に書いてあると思いますよ。俺の予想が合っているなら、ですが」
「…はぁ」
 御言から手渡された間島の手紙を、汐耶はいったい何だろうと見下ろしてみる。
 …どうも気になる。


■■■


 帰宅の後汐耶が読んでみた手紙の中身には、暁闇の店員さん方――御言や紫藤とは明らかに違う筆跡でつらつらと文面が書き連ねてあった。信じるならば間島の筆跡。…取り敢えず、他に該当するような筆跡の人物を汐耶は知らない。間島自身の筆跡は勿論知らないが、この内容では特に誰が得をする訳でも損をする訳でも無さそうである――と言うか損得に関るような相手の筆跡とは確実に違う。ついでにこの手紙、一度開かれて再び折り直されたような気配も無い。…恐らく書いた本人以外は、今汐耶が開いて見るまで誰も見ていない。よって、誰かがわざわざ騙してこれを汐耶に渡るよう仕向けた可能性は果てしなく低そうだ。
 つまり、特に作為無く間島の手紙だと信じて問題無いだろう。
「…つまりは真咲さんが間島さんの面影追われて良く遊ばれてるってだけの話、か」
 あの、碧ママに。
 で、結局間島が何を言いたかったのかと言うと…自分のせいで真咲に余計なオカマが纏わり付いてるよーな気がするから、邪魔でごめんねと謝りたかったらしい。
 何と言うか、あまり洒落にならないような『お遊び』をされる事ははっきり有り得ないが、いつぞやのアルバイト強制指名程度は良くある事だそうで。暁闇のカウンターでも良く言い寄られているらしい。…肝心の間島の方は客として碧が居る時は敢えて暁闇への来店を避けているから、その時の碧への対処は余計に真咲に頼っちゃってるとも言えるんだよね、と、すまなそうに付け加えてある。
「…別にそのくらい構いませんけども」
『崇乃さん』の姿は私も楽しませて頂きましたし。碧ママさんも悪い人じゃなさそうですし。
 …と言うか、それで何故私が謝られるのか。
 汐耶、悩む。


■■■


 で、数日後。
 仕事帰りに何処ぞへ飲みに行こうと考えた汐耶は――何となく今日の店を『MIDNIGHT ANGEL』に決めてみた。
 …ちょっと前に色々と草間興信所関連の多数の面子とバカ騒ぎをしたよーな気がする件のゲイバーである。
 つまりは碧ママのお店って事で。
 今回ここに飲みに来た理由は何となく、ではあったが…ひょっとすると間島さんからのお手紙の件が頭にあったからかもしれない。
 最近汐耶は漠然としたもやもやを抱えている。
 自分でもなんだか良くわからないが、すっきりしない何か。だからと言って別に特に体調不良と言う訳では無いが、どうも引っ掛かる。…だが何に引っ掛かっているのかよくわからない。
 その良くわからないもやもやの件に、碧ママの名前が微妙ながら関っているようにでも感じているのかもしれない。だから今日ここに来たのかも。
 思いつつ、汐耶はお店のおねえさんたちに連れられテーブルへ。
「…あっ、綾和泉さんまた来てくれたの? いやん、嬉しいっ」
 くねりんとしなを作るちょっとゴツめなおねえさんひとり。
 それを見て汐耶は微笑んだ。
「今日はウイスキーにでもしようかと思ってるんですが…ひとまず、お勧めのボトル一本お願いします」
「きゃ、早速♪」
「はーいっ、ボトル一本入りまーすっ☆」
 こちらは本物の女の子と見紛う若々しいおねえさんの――嬉々とした低い声が店内に響いた。


「…そーいえばね、崇乃ちゃんと詩織ちゃん並んでるの、結構絵になってたわよぉ」
 ひそっと汐耶に耳打ちするおねえさんひとり。
 え、何何と好奇心旺盛なまた別のおねえさんがそこに首を突っ込んで来たりしている。そこに、ちょっと前にね、この綾和泉さんにもお手伝いしてもらったコトあるの☆ と耳打ちしたおねえさん――ユウさんと言うらしい――があっさり暴露していた。…そう言えばこの人だけはあの時も居た。
「…いや、あの件は忘れさせて下さいって」
 ちなみに詩織ちゃん=汐耶。…ちょっと前の某バカ騒ぎの時、本物の女性であるにも関らず、あろう事かわざと間違えられてコンパニオンとして巻き込まれてしまっていたりする。
 その件を出されるのは汐耶にとってはどうにも悩ましい。
「でも綺麗だったのー。素敵だったのセクシーだったのー。…ホントに悔しかったわっ」
 やっぱりどうしても本物の女には勝てないって事かしらっ、そんなのっ…くぅっ。
 …俄かに泣き真似するユウさん。
 その反応には苦笑するしかない。
「そんな事言われても、私も男性に間違われる事ありますよ?」
「そうなの?」
「ってゆーか綾和泉さんはドッチにしろ綺麗だものっ」
 性差なんて関係無いわっ、と頑張る他のおねえさん。
 …そう言う問題でもない気がするが、まぁそこは御愛嬌。


「…ところで崇乃ちゃんの方って確かノンケの男の子だったわよね? ママが何処からか連れて来た…」
「そうっ、勿体無いのよ崇乃ちゃんもっ!」
「あんなに綺麗にできるのに全然その気が無いなんてっ!」
 ぐぐっ、と握り拳を作り大声をあげるふたりのおねえさん。…何やら燃えているらしい。
 …ちなみにその崇乃ちゃんの方は、実はつい最近まで臨時アルバイトとしてこの店に時々呼び出されていたりしたらしい。本当に最近になって漸くその『臨時』の必要が無くなってきたと言う事で――某バカ騒ぎのあの時に居合わせなかったおねえさん方も『彼女』に関しては結構知っている模様。
 燃えているおねえさん方の言い分に、何だか真咲さんの話で盛り上がっちゃってますよ? と内心呟きつつ苦笑する汐耶。
 と。
「『崇乃ちゃん』じゃない方が良いんだもんねー? 綾和泉さんは☆」
 ひらひらと小さく手を振りつつ、汐耶たちの居るテーブルに来たのは和装姿の碧ママ。
「碧ママさん」
「いらっしゃいませー☆ 早速のボトルありがとね☆」
 艶やかに笑って見せる碧ママ。…性別もさる事ながら年齢も結構謎な気がする『彼女』。紫藤の弟分、そして紫藤と同年代になるだろう間島に前々から惚れていたらしいと言う事、ついでに三十過ぎている御言に対して子供でも呼ぶような感じで君付けしている…となると単純に五十そこらが妥当な線ではないかとは思うが…それにしては見た目は随分と若い。
「で、崇乃ちゃん…じゃなくって、御言クンとは最近どぉ?」
「どうって…、何がどうなんですか」
「何がどうって…あら、トボけちゃって」
 碧ママ、汐耶に向けて、このっ、とばかりに軽く肘鉄。
 …けれど汐耶、本気で何だか良くわからない。


 頭の中に疑問符が浮かぶ。
 また。
 ちょっとでも関係のある人の場合は、どーも毎度の事。


 ………………皆さんが真咲さんの事私に振ってくるのは何故かしら?


 真咲さん。
 …えーと。


 美味しい珈琲を淹れてくれる人、と草間さんのところで…なりゆきで知り合った訳で。
 以後、色々と…やっぱり怪奇事件絡みで良く会うようになって。
 ちょっとした偶然で過去を聞いてしまった時――あの、姓じゃなく名前で呼ばれるようになった時の事。
 鎌倉の旅行で空五倍子くんとひっそり付いてきていた時の事。
 先日、蓬莱館で倒れそうになった時、受け止めてくれて…その時自分が慌てたのは何故。


 ………………とにかく、真咲さん絡みの場合、どうも常と違う態度を取っている気がする自分。


 つらつら考え暫し後。
 たった今言われた碧ママの科白を改めて思い返し。
 ………………汐耶、唐突に赤面。
 …さて、顔が赤いのはいったい何のせいなのか?


 細かく考え直せばすぐわかる。
 ひょっとしてこれは私が鈍かっただけ…って事?
 汐耶、内心、大慌て。


「綾和泉さん?」
「…え? いえ、何でも、無いんですけど…」
 と、言ってはみるが…どうも百戦錬磨(?)のおねえさん方に対しては説得力は無かった模様。
 そんな汐耶を見て、あー、ひょっとしてー、やだ、かわいー、とまた、おねえさん方はきゃぴきゃぴと大喜び。
 おねえさん方のその反応にまた途惑う汐耶。
 照れ隠しにか、グラスの中身を一気に呷っている。


 悩み事がひとつ増えた。
 いえそれはだから特にどうこうしようって気は更々無いんですけど。
 でも。


 ………………次にお会いした時、普段通りの顔、できるでしょうか…?


 まずは、そこが問題で。


【了】

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

■指定NPC
 ■真咲・御言(しんざき・みこと)
 男/32歳/バー『暁闇』のバーテンダー兼、用心棒

 ■間島・崇之(まじま・たかゆき)
 男/享年38歳/幽霊(生きていれば53歳)

 ■碧(みどり):我妻・正宗(あづま・まさむね)
 男/?歳/ニューハーフパブ『MIDNIGHT ANGEL』のオーナーでママ

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       ライター通信…改めNPCより
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 指定が微妙でしたので取り敢えず座談会の方向で。

真咲:「このたびは発注有難う御座いました」
碧:「やっほー☆ 元気だった? 碧でぇっす☆ 今回はお店に来てくれてありがとー☆」
真咲:「…って蓬莱館での間島さんとしていた話ってやっぱりそっちですか…」
碧:「そーそー! そこなのよ問題はっ! 蓬莱館にタカちゃん(注・タカちゃん=間島崇之)居たんでしょ!? 悔しいったらありゃしないっ(きー、とばかりにハンカチ食い締め)」
真咲:「まあまあ、抑えて下さい」
碧:「…くすん。まぁ過ぎた事は仕方が無いわ、私はタカちゃんの居ないこの世界をケナゲに生きて行くのよっ」
真咲:「…一応、居ない訳でも無いんですけどね。と、それはともかく、今回の発注は…こう来ましたか」
碧:「綾和泉さんホントに気付いてなかったのねぇ。…かーわいい☆ あ、それとタカちゃんが言ってたって事の補足だけど、私別に御言クンに恋愛感情持ってないからそこんトコは大丈夫よ☆ えーとねぇ、私にとって御言クンは…なんて言ったら良いのかしら〜。…ペットとか?」
真咲:「…一応生き物扱いはしてくれてたんですか(笑)」
碧:「となると、おもちゃの方が正しいのかしら?(笑)」
真咲:「まぁ、…何にしろ、間島さんの言っていたある意味身代わりって言うのは…ノベル本文にもある通り某所でのアルバイトに突然強制指名されるようなだけの話で。紫藤もむしろ一緒になって遊ぶ側になってますしあんまり逃げ場は無いんですね。…おもちゃ扱いの一番ひどいのでこないだのアルバイトの状況ですから。後、碧さんに色々されるって言うと…荷物持ちがてら買い物に付き合わされたり、暁闇のカウンターで言い寄られたり酔い潰されたりするくらいですかね?」
碧:「…そーねー? そうかしら? でも御言クンって紫藤ちゃんトコ来てから長い事かーなーり暗かったじゃない。ついでにお堅いって言うかさ。なぁんか色々無理してるのが傍で見てて良くわかる感じで。…だから私なんか見た目性癖からしてこうだし? 敢えて道化役やってたんだけどねー」
真咲:「…それもあるって事は何となくわかってたんで黙っておもちゃになっていたって部分もあるんですが」
碧:「そーなのよ。御言クンの場合、承知の上で付き合ってる感がずーっとあったのよ。…そんなんじゃダメ! って思ってたんだけど全然変わんなくって。老婆心ながらそこがずーっと気になってたのよねぇ。…けどそれが、ここ一年くらいで漸く…何て言うか、開き直ってきた感じじゃない?」
真咲:「…そうですか?」
碧:「それって綾和泉さんのおかげなところが大きいんじゃないかなーって私なんかは思う訳よ☆」
真咲:「…さぁ、どうでしょう?」
碧:「やん、意味ありげー♪」
真咲:「それはともかく。…さて今後はどうしましょうか(考)」
碧:「行っちゃいなさいよ男でしょっ☆ そしたら少しは貴方に手ぇ出すの控えたげるっ☆」
真咲:「…止めるんじゃなくて控えるだけですか」
碧:「そこはあんまり深く考えるんじゃないわよ☆」
真咲:「…えー、『どれだけ文句付けても我妻には言うだけムダ』…と、今ここに書かれましたけど」
碧:「え!? ひょっとしてタカちゃん今ここに居るの!? ちょっと、いやん、待って、心の準備が…っ☆」
真咲:「…居ればそれだけで良いんですね。…言っている事自体はどうでも良いと」
碧:「だって暁闇でもタカちゃんてば私の居る時は絶対来てくれないしー、結構つれないのよぉっ」
真咲:「結局、一途なんですね…」
碧:「勿論。だってタカちゃんは私が生涯唯一愛した人だものっ」
真咲:「そうですか。…ところで話は変わりますが汐耶さん、蓬莱館での事はあまりお気になさらず。あの後ゆっくりお休みになれたのなら宜しかったんですが…。ついでに、ライター曰く俺の性格設定はデフォルトからして結構鬼らしいですよ、と代理で伝えておきますね(笑)。…って本人に言わせる辺り何を考えているんだか(笑)」
碧:「あ、そうそう、折角だから良い事教えてあげる! 御言クンて酔い潰してみると可愛いわよー」
真咲:「…何言い出すんですか」
碧:「普段だと酒量オーバーは絶対やらないけど綾和泉さんに勧められれば抵抗しないわよ☆ 私が保証するからそのうち試してみれば? っと、じゃ、この辺りでね☆(ばちりとウィンク)」
真咲:「…(頭が痛そうな顔をしている)ともあれ、そろそろ失礼致します。では」

 …やっぱり無理矢理幕。