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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


呪いを解いて下さい!

【喜劇の始まり:ナマモノ談】
 草間の所に現れたのは悪名高き似非枢機卿、ユリウス・アレッサンドロ。
 顔面蒼白で現れたことで、流石に草間や零は驚いた。どうも足取りもおぼつかない似非猊下。
「どうしたのだ?」
「じ、実は……」
 と、彼は話しかけようとするが…
「ひ、ひいいい!」
 クッキーと砂糖と紅茶を持ってきた零を見て、彼は悲鳴を上げた。
 しかし、彼は食べたくて、食べたくて切望の眼差しで見ている。なんとも器用な奴だ。
「どうした?お前の好物ではないか?」
 首を傾げる草間兄妹。
 落ち着きを取り戻す枢機卿。
「実は……呪いにかかってしまったんですよ。洋菓子を食べることが出来ない呪いを…」
 ユリウスのその一言で、草間は爆笑した。今まで散々、奇妙な事件や滞納などをして苛立っていたからだ。
「兄さん、笑うことは酷いです」
 零に注意される草間。
「悪い、悪い。で、お前ほどの術者なら簡単に解けるだろ?」
「そ、それが……必ずあんこを食べないと解けない呪いなんです……。どう解を求めても……あんこを…」
 なんて言う呪いだ。まさしくユリウスに対して嫌がらせしかない効果の呪いではないか。笑いをこらえる草間に心配な零。
「だ、だから他の方々にも協力して欲しいのです!お願いしますよう」
「俺は拝み屋ではないが、心当たりのある奴はいる。その前に誰にそんな呪いをかけられたか分かるだろ?誰だ?」
「……」 
 沈黙。
「まさか?自分で?」
 沈黙……
「今は言わなくて良いが……しっかり言わなきゃ困るのだがな……」
 流石に、草間もやつれた人間をほっとけるわけはない。
 零が、黒い電話から、助手を呼ぶことにした。


【同情しちゃうなぁ:シュラインさん談】
 シュラインは、買い物から帰ってきた時にこの話を聞き、深くため息をついた。やつれた似非猊下の姿を見て同情しているのである。
「武彦さんが、煙草吸えない呪いがかかるとこんな風になるのかしら?」
 と、連想していけば行くほど同情せざるを得ない。
「しゅ、シュラインさーん、何とかしてくださぁい」
 涙目で訴えるユリウス。それでも笑い顔なのだから少し怖い。
「何とかしたいけど、ちゃんと正直に事の経緯を教えてよね?」
「……」
 又沈黙するユリウス。

 電話で駆けつけてきた、海原みあおは嬉々として事務所に入ってきた。
「ユリウスが面白いことになっているって!?」
「人の不幸を笑うと罰が下りますよ〜」
 生気のないユリウスが力なさげに答える。
 しかし、みあおは彼の言葉なんて聞いておらず、デジカメを持って、
「洋菓子食べられなくなった記念写真♪」
 と、彼の力のない姿を撮ったのだった。

 同じく柏木狭波がやってきたが、じっとユリウスを見ており、助手が揃うまで待っているが、
「どうして……そう言うことに?」
 と、ユリウスに訊いている。
 しかし、ユリウスは何も答えない。

 退魔の仕事帰りに丁度興信所を立ち寄った天薙さくらが、小豆と芋のきんつばの詰め合わせを持ってきてくる。いつもなら、巫女服なのだが、着物を着てのご登場。きんつばの僅かな香りで、ユリウスは半径1.5mまで離れてしまった。
「わ、和菓子はどこかに……お願いします」

 モーリス・ラジアルは、零から連絡を受けた時、
「少し、遅れます」
 と、伝えていた。
 そして、最後にやってきた彼は、きんつばを始め、羊羹、饅頭、タイヤキ、小豆アイス、大阪でしか売られていない名物(?)餡プリンを持ってきたのだった。
 此処まであんこのオンパレードを見せられたユリウスは、草間の陰に隠れブルブル震えている。
「そ、わ、和菓子を……み、見せないで下さいぃ〜」
――あんた解呪して貰う気があるのか?

 シュラインさんは麗花に依頼料の手続きを取って電話したのだが、
「猊下が又遊んでいるのですか! 申し訳ありません! ……え? 依頼料……? は、はい、分かりました。私もそちらに参ります」
 とのことだった。
 少し考えてしまったシュラインさん。

 より一層、ユリウスの表情が青ざめていく。まるで人生終わったような顔をしていた。
 |Д゚) 運命とはドアをノックする様なものだ。
 いつの間にかいるかわうそ?が、ぽつりと言った。


【まずは経緯を吐いて貰おう:草間所長談】
 まず皆が訊かねばならない事は、どうしてそんな特定の人を苦しめる呪いを受けてしまったか、だ。
 しかし、この似非猊下は、
「黙秘権、使えますか?」
「使えるか!」
 と、喋らない。
「済みませんが、事情を……お聞かせ願えませんか……?」
 狭波がユリウスに向かって頼んでいる。
 しかし、首を振る一方だ。
 何故そこまで、理由を言いたくないのか? 謎である。

「たしか、麗花さん、来るって言っていたわね……。何か知っているかも」
 シュラインは、台所で料理をして喋っている。
「でもね、みあお、思うんだけど」
「なんですか?」
 みあおが何か言いたそうなので耳を傾ける。
「このままのほうが良い機会だから、甘断ちすれば?」
 と、彼女は言う。
 草間も頭に乗っている焔も納得しているし、零も苦笑している。
「そ、それは勘弁してください〜!」
 ユリウス大あわて。
「教会の家計簿的にかなりの節約になるし、為になるよ?」
 と、麗花たちの教会運営費、家計簿はとても都合の良い呪いだ。大体3食+αが全部洋菓子というのがおかしい。
「生憎これは“仕事”だしな」
「私は、医者ですから、其れは反対です。しかしこれを機に和菓子を克服し、好物となれば幸いですね」
 草間は、一応仕事としてだとして受け止めている。モーリスは自分の仕事の視点で反対を唱えている。
「噂では、かなりの甘党なのですね。さぞかし辛いでしょう」
 さくらは今のところ傍観だ。
「本音といえば、このままが良いのだが。みあおが楽しんでいる通り面白いし」
 草間は煙草を取り出しライターで火を付けた。
「武彦さん、煙草が吸えない呪いにかかったらどうするの?」
「う……」
 シュラインの突っ込みが草間の心臓を鋭利な槍のように貫いた。
 草間もユリウスにかかった呪いと同じよう、“煙草が吸えない呪い”で苦しむところを想像すれば、今のユリウスと同じ顔つきになるだろう。解呪方法が、よりによって“怪奇探偵”と呼ばれることを誇りに思う等、自分にとって都合の悪い物になる。
「さ、真面目に仕事だ。仕事」
 冷や汗をかきながら、シュライン以外の助手達でユリウスを囲むようにした。
「い、異端審問ですかぁ?」
「似たようなものだね♪」
「ひええ〜」
 
 一方、色々お菓子の中にあんこを忍ばせているシュラインさん。餡子といっても和洋中と様々。小豆の餡が駄目というなら他の餡子なら行けるのではないかと考えている。ただ、其れだと、洋菓子は呪いの効果で無理だが、アジア系の餡の代わりになるようなお菓子があるならば、其れを食して解呪出来ているはずだ。となれば、一番嫌っている小豆の餡ではないだろうか? どの辺がOKなのか本人から訊けない以上、お茶請けでそっと出すか、ご飯の時にデザートかスープで出してみないことには分からないだろう。

「さて、本当に何の餡子で解けるのですか?」
 桜が訊いている。
「餡子でも色々あるからね。小豆が原材料の餡子が駄目? それとも小豆無しでもOK?」
 みあおが確認のために訊く。
「正直に答えて下さい。そうでなければ、解呪出来ません……」
 狭波は何となく追いつめている感じで訊いてくる。
 追いつめられるユリウスは、顔面蒼白を更に蒼白にしていた。
「じ、実は、小豆をはじめとする豆を原材料とした餡子でないと解けないのです……」
 言いたくなかった解呪の方法を口にした似非猊下。かなりテンパッているようだ。

 実際は数人、条件を揃えなくてもこの呪いを解呪出来る。しかし、ユリウスのはた迷惑な行為で悪名を轟かせている以上、今は今までの鬱憤を晴らす好機であったり、お灸を添えたり、と、とても楽しい遊び相手だ。一部の人間は、この先ユリウスが、困りそうなことはないと思っているらしい。

 台所でその話しを聞いたシュラインは、小豆の餡を何に忍ばせておくか悩む。何でアレ、豆を使った餡子でないと無理と言うことだ。こしあんであろうと無かろうと。


「じゃ、次に。どうして呪いにかかったの?」
 みあおが聞くのだが、
「……」
 返事はない。
「言って頂かないと……困ります……」
 狭波は、いつの間にかいるかわうそ?を抱っこして言った。
「そうですね、私も経緯をしらない以上手伝えません」
 モーリスも言っている。
 あいかわらず、ユリウスは頑として黙秘。
「困ったわねぇ……。とりあえずお茶にしましょ?」
 数種、お菓子を作ったシュラインさんがお茶と一緒に持ってきた。中には餡子を隠している物が6割。見た目で餡子入りのお菓子が3割 あとは全くないものである。
「わーい、ありがとう〜」
「……」
 喜ぶみあおに、顔面蒼白が更に酷くなるユリウス。
 色々考えてみる一行だが、重要な原因である経緯が分からないと、解呪式を構成できない。考えすぎたために、お茶やお菓子が美味しい。ユリウスは、皆に食べてみたら? と言われるのだが、首を振った。
「今が好機ではないでしょうか? もうそこら中に解呪可能のお菓子がいっぱいあるのですから」
 にこにこと、さくらが言った。
「だめだよ、ユリウスは餡子にトラウマになっているから」
「はぁ、そうなんですか」
 みあおの言葉に納得する、さくら。
 
 
【原因がわかればいいですけどね:モーリスさん談】
「皆さん申し訳ありません……猊下がご迷惑を」
 と、走ってきたのか、シスターがやってきた。星月麗花だ。
「猊下!! 又皆さんに……っ!」
 と、上司をしかろうとする麗花だが、生気もなにもない似非枢機卿をみて、ため息をつく。
「麗花さん、ユリウスさん全く原因を言ってくれないのよ……分かることあるかしら?」
 シュラインが、お茶とお茶請けを差し出しながら訊いた。
「え、ええ、多分……あると言えば、ありますが……」
「れ、麗花さん! そ、それは言わないで下さい」
 悲鳴と間違えるほどのユリウスの慌てぶり。
「ユリウス、観念したほうがいいよ?」
 みあおがにっこり笑う。
「皆さんは心配しているのです……」
 狭波は、ムッとして言う。
 このメンバーの中で、ユリウスに降りかかった呪いで楽しんでいるのはかなり多いので、それほど困っていない。

 そして、ゆっくりと麗花の口から真実が語られる。
「猊下は“絶対餡子防御術”を作り上げようとして、異教の術を行使したようなのですが、聖なる父の怒りを受けたようなのです。その結果が……今いる猊下なのです」
 身内の恥を口にするのは恥ずかしい麗花さん。ユリウスは更に蒼白になった。
 そこで皆さん沈黙。
「……ユリウス、ドジ」
 みあおの言葉に皆頷いた。自業自得だと。
「弘法も筆の誤りと言うではないですか……。そ、それに……、皆さん私をいじめてませんか?」
「半分はそうだな」
 ユリウスの言葉に一部楽しんでいる者はキッパリ肯定する。
「あ、あんまりです……」
 よよよと泣き崩れる似非猊下。
「和菓子を克服すればいいのではないでしょうか?この際」
 モーリスやさくらがユリウスに言った。
 しかし、ユリウスは頑として拒否。
「何故そこまで……?」
 狭波は、和菓子嫌いが理解できない模様。

「たしか、餡子にトラウマがあるそうだ」
 草間はお茶を飲みながら一息ついている。あとはすることが分かったのだから急ぐこともない。
「じゃあ、少しずつ、あんこの材料小豆をはじめとする料理でならしていきましょうか?」
 シュラインは色々試して、解呪と餡子嫌い克服作戦を提示する。
「それは、素晴らしい方法ですね」
 さくらはぽややんとした雰囲気で賛同した。
「其れ楽しそう!」
「そうですね」
「楽しそう……」
 みあお、モーリス、狭波も大賛成だった。

 ユリウスは、どうやって此の状況を逃れるか必死に考えるも……、草間とモーリスにがっしり腕を掴まれた。
「観念しろ、ユリウス。因果応報というやつだ」
 死刑宣告されてしまった。

 興信所では、餡子料理フルコースを食べさせられるユリウスの悲鳴が響き渡った。


【悲劇と喜劇は紙一重だね!:みあおちゃん談】
 後日。
 麗花が謝罪という形も含め、草間興信所に依頼料を渡しにやって来た。
「こんにちは、麗花さん。あれからユリウスさんはどう?」
 シュラインが麗花に訊いた。
「まだ、寝込んでいます。なにか呻いているようです」
 ため息をつく麗花。
 あの、餡子料理を無理矢理食べさせられた枢機卿は餡子拒絶反応で意識不明の重体(みあおはしっかり、「ユリウス餡子を食べた記念」写真を撮影した)。気を失ってしまったので、まだ呪いにかかっているのかどうも分からないので、さくらとモーリスは呪いの有無をしらべてみて、彼が起きるまでどうするか保留にした。
 実のところ、餡子を食べて気を失った時点で呪いは解かれているのだが……。

 また、ユリウスは更に和菓子嫌いになった事は言うまでもなかった。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1415 海原・みあお 13 女 小学生】
【1462 柏木・狭波 14 女 中学生・巫女】
【2318 モーリス・ラジアル 527 男 ガードナー・医師・調和者】
【2336 天薙・さくら 46 女 主婦/神霊治癒師兼退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 滝照直樹です。
 『呪いを解いて下さい!』に参加していただきありがとうございます。
 とりあえず、ユリウスは呪いが解けましたが、精神的ダメージが強いようです。暫く洋菓子も食べられないかもしれません。
 ユリウスで遊びたい方が多かったので、ある意味“愛されているんだな”と思っております。
 
 モーリスさま、初参加ありがとうございます。

 では、機会が有れば又お会いしましょう。

 滝照直樹拝