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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


黒炎丸対謎の剣道少女!
「待ちなさいッ!」
 ハンス・ザッパーとオットー・ストームを連れて歩いていた楓希黒炎丸に、背後からなにものかが声をかけた。
 声の感じからして、まだ若い女だろう。いったいなんだと思いながら、黒炎丸は振り返る。
 そこに立っていたのは、抜き身の日本刀をかまえた少女だった。
 長い黒髪を頭上でひとつに結った、近くにある高校のブレザーを着た少女が日本刀片手に黒炎丸をにらみつけている様子は、それだけで異常といってもよかった。
「いったい、なんなんだロボ〜!」
 黒炎丸が声をかけるより先に、オットーが少女に向かって叫ぶ。
「私は……」
 少女は言いながら、黒炎丸に向かって刀をつきつけた。
「私は、あなたから看板を取り戻す! いいこと、私と勝負なさい!」
「拙者に勝負を挑むでござるか」
 黒炎丸は静かに言った。
「ええ、そうよ……私は、必ず勝つの! 勝ってあなたから道場の看板を取りもどして見せるわ!」
 少女はたからかに宣言する。
「いったいどういうことだロボ?」
 盛り上がる少女をよそに、オットーがハンスに訊ねる。
「黒炎丸が、どこかで道場破りをしたんじゃないかロボ?」
「道場破り……数が多すぎてわからんロボ」
「大丈夫ロボ。気にしなくとも平気ロボ」
「そうロボか?」
「そうロボ。どうせ見てるだけロボ」
「それもそうロボな」
 オットーは納得してうんうんうなずく。そしてハンスと2体でロボロボと笑い声を上げた。
「どうしても戦わなければならない、でござるか?」
 黒炎丸が少女に向かって言葉をかける。
 すると少女は眉をつりあげ、きゅっとくちびるを噛みしめた。
「当たり前よ! 私が取りもどさなかったら……道場は……!」
 叫ぶが早いか、少女は黒炎丸へと切りかかる。
 黒炎丸はそれを、右腕のうちの1本が持っている棍棒で防ぐ。
「おお、すごいロボ! 動きは鈍くとも、さすが黒炎丸だロボ!」
 さりげなくふたりから離れて、オットーが実況に入る。
「でも当たっても黒炎丸なら平気じゃないかロボ? 黒炎丸の身体はとんでもなくかたかったはずロボ」
「ハンスはわかってないロボ……そこであえて武器を使うのが武人というものロボ!」
「おお、なるほどロボ〜」
「……少し、黙っているでござるよ」
 黒炎丸はくるりと後ろを向いて釘を刺した。
「わかったロボ〜」
「静かにしてるロボ〜」
 オットーとハンスは、あまりわかっていなさそうな口調で言う。
「本当にわかっているでござるか?」
 黒炎丸は不安になってそう訊ねた。
「大丈夫ロボ!」
 オットーは断言する。
「そうロボ! 任せるロボ!」
 ハンスも同意する。
「大丈夫じゃなさそうに聞こえるでござるよ……」
 だが、それでも黒炎丸は不安だった。
 オットーとハンスに悪気がないのはわかっているが、いかんせん、このふたりの言うことはあてにならない。
「勝負の最中によそみをするなんてッ!」
 少女は叫び、再度日本刀を振りかぶる。
「なんのこれしき!」
 黒炎丸は棍棒で、なんなくそれを受け止める。
 カキン! と音がし、火花が散った。
「くぅ……なかなかやるようね」
 少女はいったん退いて、黒炎丸をにらみつけてくる。
 黒炎丸は肩をすくめた。
 少女は悔しげにうめく。
「まだやる気でござるか? 実力の差は歴然でござるよ」
「それでもここで退くわけにはいかないの」
 言いながら、黒炎丸をにらみつけてくる少女の視線は強い。
 ずいぶんと厄介なところの看板を奪ってしまったものだと、黒炎丸は内心ため息をついた。
 世界征服を目指す黒炎丸たちは、日々、道場破りをしたりちまちまと軽犯罪で世間を騒がせたりと精進を重ねている。
 だから多分、この少女の家の道場の看板を持ってきてしまったというのも、その一環に違いない。
 だがその一環であるからして、黒炎丸は少女の家というのをまったく覚えていないのだ。
 そこで、こんなふうに恨みをぶつけられても困ってしまう。
 自分が悪いことは悪いのだが、そんなことを言われても覚えていないし、というのが本音だ。
「本気で拙者に勝てると思っているでござるか?」
「勝てるなんて思ってないわ。でも、勝たなくちゃいけないのよ」
 少女はひどく無謀なことを言う。
「それならば、やめておいたほうが無難でござる」
 黒炎丸は言った。
 勝てると思っていない相手に、勝てるわけなどないのだ。
「私をバカにしてるのね!?」
 少女は叫んで、黒炎丸の目をめがけて突きをくりだしてきた。
 黒炎丸は両手の武器でそれを受け止めながら、後方へ下がる。
 どうやら、太刀筋は悪くないようだ。
 だが若いし、なにより軽い。
「バカにしてなどいないでござる」
 黒炎丸は正直に答える。
 そう、バカにしてなどいないのだ。
 ただ、彼女は自分には勝てないだろう。そう予測しているというだけで。
「やっぱり黒炎丸の勝ちだと思うロボ〜」
 うしろのほうでひそひそと、オットーがハンスに耳打ちしているのが聞こえた。
「でもあの女の子もなかなかやるロボ。黒炎丸も防戦一方だロボ」
「わかってないロボ。黒炎丸は単に、手加減してるロボ」
「黒炎丸が手加減ロボか?」
「そうロボ。そうに決まってるロボ」
「ロボロボ〜」
「……静かにするでござるよ」
 黒炎丸は薙刀の柄の部分で、オットーとハンスをぽかりと殴る。
 すると2体はひどいロボ〜と口々に言いながら黒炎丸を見つめてくる。
 少々うざったいが、放置しておいたほうがまだよかったのだろうかと黒炎丸はため息をついた。
「私を無視しないでっ!」
 少女が地を蹴り、黒炎丸へと斬りかかってくる。
 黒炎丸は金棒で刀を受け止めると、少女の身体をぐいと押した。
「あ……」
 少女は小さくつぶやいて、そのまま地面へと叩きつけられる。そしてぐったりと、動かなくなる。
「死んじゃったロボ!?」
 ハンスがあわてた様子で言う。
「大丈夫ロボ、多分、気絶してるだけだロボ。……多分」
 オットーが自信なさげにそう答える。
「まあ、大丈夫でござるよ」
 黒炎丸は答えた。
 たしかに強く叩きつけられたようにも見えるが、黒炎丸は少女をほんのすこしだけ、強く押しただけなのだ。
 それ以上のダメージを与えるようなまねはしていないから、多分、彼女は気を失っているだけだろうと思う。
「じゃあ、黒炎丸の勝ちロボか?」
 ハンスが言う。
「そういうことになるでござるな」
 黒炎丸は武器をおさめながら答える。
「やっぱり黒炎丸はすごいロボ〜」
「さすが黒炎丸だロボ!」
「でも、なんだかちょっと女の子がかわいそうロボ〜」
「それはそうロボ……」
 ハンスもオットーも、少女に同情しているようだ。
 黒炎丸は肩をすくめた。
 そもそも世界征服を目指している、というからには、このくらいのことは日常茶飯事であるはずなのだ。
 それをそんなふうに、うらめしげに言われても、黒炎丸だって困ってしまう。
「……行くでござるよ」
 黒炎丸はハンスとオットーに声をかけた。
 そして、答えを待たずに歩きだす。
「あっ、待つロボよ〜!」
「黒炎丸、怒ったロボ!?」
 2体は口々に言いながら、黒炎丸のあとを追いかけてくる。
 そう、これでいいのだ。黒炎丸は思った。
 もしもあの少女が、本当に看板を取りもどしたいと思ったなら、いつかまた、黒炎丸の前に現れるはずだ。
 へたに情けをかけるのはよくない。そういう意味では、黒炎丸は少女を武人と認めているのだった。
「そういえば、名前も聞かなかったでござるな……」
 黒炎丸はハンスとオットーには聞こえないようにぽつりとつぶやく。
 次に会うときは、名前くらいは聞いておこう。そう思いながら、黒炎丸は足を早めた。