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<東京怪談・PCゲームノベル>


昔話を作りませんか?〜三下ずきんちゃん〜

『むかーしむかし。
 あるところに、1人の…少女…?…が、住んでいました』

何故疑問系。
ナレーションの声が届くのは…森の中の、一軒の家。
赤い屋根に白い壁。……赤い屋根の大きなおうちである。スカート着たウサギの人形とか住んでそうな感じ。

『彼女は…「オイ、洗濯は終わったのかよ三下(ミカ)ずきん!!」

話を続けようとしたナレーションの声を遮るように、柄の悪い口調の低めの声が遮った。
バン!と扉を蹴り開けるように現れたのは、やや古ぼけた木綿の服に身をつつむ、乱れたポニーテールの…男?
いや、この場では、女と言う事にしておこう。
現れた女性はどかどかと足音荒く家から出、その後を追いかけるように泣きそうな顔で現れたのは…女の子?
赤いずきんを被っていて、赤いスカートに白いエプロン。…二十歳越えた男としてはちょっとイタイ格好。

「ひ、ひぃっ!終わってます、ついさっき終わりましたぁっ!!」
秀麗な顔を情けなく歪ませながら叫ぶ少女…もとい三下ずきんに、女性はけっ、と吐き捨てるように呟いてから、声を張り上げる。
「終わったんなら次は薪割りだぜ、トロトロすんな!!」
「は、はいぃっ!!」
ビシッとした命令口調ではないものの反論は許さない口調で叫ぶ女性に、三下ずきんは半泣き状態で頷くと大急ぎで裏手に爆走して行った。
その後、猛スピードでカコーン、カコーン、と薪を割る音が裏から聞こえてくる。
偉そうに踏ん反り返って入り口の隣にある切り株に、女性はどすんと座り込んだ。

『…なーお母さんよー、せめてきちんとあらすじ言い終わるまで待ってくんね?』

天の声…もといナレーションが普通に役に話し掛けるのもそれはそれでどうかと思うが…。
しかし女性…もとい母親は、視線を彷徨わせた後仕方なさげに顔を上に向け、声を上げた。
「別にいいじゃねーかよ。死にやしねーんだから」
『んな身も蓋もない…ま、いいけどね。
 んじゃ、とりあえずナレの続きさしてもらっていい?』
「どーぞ」
どうせまだかかるだろうし、と家の裏から聞こえてくる薪を割る音を聞きながら呟いた母親に、ナレーションは小さく笑うと喋りだす。

『彼女は常に赤いずきんを被り、また誰に対してもとてつもなく腰が低い事から、皆からは親しみを込めて「三下(さんした)ずきん」と呼ばれていました。
 ちなみにお母さんからは「みかずきん」と呼ばれてました』

…多分、あんまり親しまれてない。むしろ蔑まれてるだろ、三下ずきん。

『三下ずきんの父親はプー太郎で、仕事もなくふらふらと森を歩き回るのが日課。
 そんな苦しい家計を支える為に町に出て金を稼いで奮闘しているのが、三下ずきんのお母さん。
 ただしお母さんは三下ずきんより年下です。娘の方が年上なんです。結構無理があ…げふんげふん。
 あー…やはり血が繋がっていないせいか、お母さんの三下ずきんに対する態度は酷く冷たいものでした。
 三下ずきんはシンデレラの如く徹底的にこき使われています。
 そりゃもう、馬車馬の如く。
 …彼女はそれにめげまくりながらも母親に逆らうほどの勇気は無く。
 毎日毎日しくしく泣きながら下僕のような生活をしなければなりませんでした』

「……随分と歪曲した赤ずきんだよな」
『「赤ずきん」じゃなくって「三下ずきん」。間違えないように』
ナレーション、お母さんとの掛け合いもほどほどにしましょう。

『……こほん。
 …そんな毎日が続いた、ある日のことでした』

「三下ずきん、薪割りは済んだか!?
 済んだんならちょっとこっちきな!!」
「は、はいぃ!終わりましたぁ!!今行きますぅ!!!」
母親の声に割った薪を大量に抱えて大慌てで現れた三下ずきん。
三下ずきんが扉の隣に薪を置くのを一瞥した母親は一旦家の中に戻ると、大きめのバスケットを抱えて戻ってきた。
ピンク色の布で覆われたそのバスケットからは、やや長めのパンとワインのボトルがはみ出ている。…ちょっとバランス悪そうだ。
「おら」
「えぇ!?」
ぽいっと投げられたそれを大慌てで受け取る三下ずきん。ボトルの中のワインが大きく揺れたものの、どちらもなんとか無事だった。
「な、なんですか…?」
「死にかけババアにコレを届けに行って貰いてぇんだよ」
不思議そうな問いかけに偉そうに返す母親。
「お婆さんに…ですか…」
はぁ、と気の無い返事をしながらぼーっとバスケットを眺める三下ずきん。
その様子に苛ついたらしい母親は、どこからともなく出した斧でドン!!と地面を叩いて微笑んだ。

「…いいから、とっとと行けっつってんだよvv」

――――――三下ずきんの行動は速かった。
母親が言い終わると同時に背を向け、ダッシュで走り出す。
漫画的な土煙を立てながら、三下ずきんは1分と経たずに母親の前から姿を消していた。
「……よし」
そんな三下ずきんを見送りながら、母親は満足げに頷くのだった。

『お母さんに病弱なお婆さんのお見舞いに行って欲しいと言われた三下ずきんは喜んでそれを受け、焼きたてのパンとワインを持って足取り軽く森の中へと赴くのでした』

「…あー…。…森の中には凶暴な狼がいるから、寄り道すんなよー」
思い出したように呟かれた言葉は、既にいない三下ずきんにとっては無いも等しいものだった。

***

『―――その頃、三下ずきんの病弱なお婆さんはと言えば』

そう言うと同時に、場面が移る。
今度は古ぼけたログハウス風の家の中だ。
その中には人の気配が…2つ。

「美味しいですねー」
そう言いながらにこにこと微笑むのは、Vネックの襟の胸元にレースがあしらわれ、肩口が白いベルトで絞められチューリップ風に膨らんだ長袖の黒いシャツ。
そのシャツの裾は三角形にカットされており、ヘソが見えているのが特徴だ。袖は手首に向かうにつれ少しずつ広がっていて、肘より少し下あたりまでスリットが入っている。
下は裾に少しだけスリットが入ったシンプルな黒いズボンと革靴。首には十字架のレリーフがついたチョーカー。
手には紅茶がなみなみと注がれた白いカップ。正面には食べかけのチーズケーキが乗った皿もある。
アッシュグレイの短い髪を揺らして満足そうにフォークに刺したケーキを口に運ぶのは、すらりとした女性。
…猟師だ。見えなくても、彼女は猟師なのである。

「えぇ、とっても美味しいわね」
そう言って微笑み返すのは、若々しい黒く長い髪をさらりと揺らし、パジャマ代わりの白いワンピースを着た女性。…もとい、お婆さん。
お婆さんに見えなくてもお婆さんなんです。えぇ、お婆さんですとも。
そんなお婆さんの手の中にも、暖かそうな湯気を立てた紅茶が注がれた白いカップがある。

「ま、ボクの出したモンなんだから当然だけどな」
そう言ってテーブルの上で踏ん反り返るのは、猟師とほぼ色違いの真っ白な服に身を包んだ、50センチ位の人形。
自分の体躯と不釣合いなカップを傾けるのに四苦八苦する姿を眺めながら、猟師は小さく笑った。
…これが歩く四次元ポケット(綿100%)だと、だれが思うだろうか。
今飲んでいるティーセットも、人形の背中から出てきたものだ。コップも、皿も、フォークも…ケーキすらも。
ライフルも銃も弓も爆弾もナイフも、この身体の中に入っているなどと…考えるだけでも恐ろしい。
彼は猟師のパートナー。恐らく猟師がのほほんとしてる分、こちらが好戦的な性格になったのだと思われる。

「本当に。ノイ君が出してくれた紅茶、とっても美味しいわよ?」
「だって。よかったね、ノイ?」
微笑むお婆さんに嬉しそうに人形に微笑みかける猟師。
人形はふふん、と偉そうに鼻を鳴らし、どん、と胸を叩く。
「これくらいどーってことないさ!」
お婆さんに褒められ猟師に微笑みかけられ、人形はすっかりご機嫌な様子。

『…猟師と一緒に、お茶を飲んでお茶請け食べて、まったりと和んでいました。
 まぁ、仲良き事は美しきかな、っつーことで』

ぽつりとナレーションが漏らすと同時に、お婆さんがどこからともなくレポート用紙のような物を取り出した。
手にはしっかり赤のボールペンを持っている。
「それ、一体なんですかー?」
「何かレポートでも書く気なのか?」
不思議そうにレポートを覗き込む猟師とその肩に乗った人形。
そこにはしっかりと線が引かれた表がかかれていた。ただ、字はまだかかれていない。
不思議そうに首を傾げる猟師と人形に微笑みを返すと、お婆さんは笑ったまま言葉を返す。
「…いえ、ね。やってみたかったことがあるの」
「「やってみたかったことぉー?」」
猟師と人形の声が綺麗にハモった。
それにくすりと笑ったお婆さんは、さらさらと表で纏められたレポートに字を書き込んでいく。
「『赤ずきん』、『お母さん』、『狼』、『猟師』…?」
お婆さんの不可解な行動を理解しきれず、猟師の頭の上には大量の疑問符が飛び交う。
それを横目で見ながら口の端を持ち上げたお婆さんは、楽しそうに声を出した。

「狼さんが来て孫娘…赤ずきんの真似をするでしょう?」
『あー…おばーさん、内容バラすのもほどほどにね。
 まだ其処までいってないから』
「あら、ごめんなさい」
ナレーションからの小さなツッコミに、お婆さんは悪いと思っているのかいないのか、にこにこと微笑みながら口元に手を当てながら謝る。
「あぁ、確かにそう言う場面があったような気が…」
人形がそう呟くと、お婆さんは嬉しそうに微笑んで口を開く。

「…私、あれの判定してみたかったのよ」

「「……はい?」」
またもや猟師と人形の声がハモった。
にこにこと微笑むお婆さんはそれはもう楽しそうに言葉を続ける。
「だってどう考えてもバレバレじゃないの、狼だって」
「…まぁ、そりゃあ…そうですけど」
猟師がきょとんとした表情で頷くと、お婆さんは笑顔のままさらに喋った。
「後でここをこうした方が上手くできるわよってアドバイスするとか。
 ついでから知力等の能力判定とかもしてみましょう、なんて考えてるんだけど」
どう?と笑顔で問いかけるお婆さんに、猟師と人形は引きつった笑みを浮かべた。
「…要するに、狼を評価して更にアドバイスがしたい、と?」
「まぁ、大雑把にいうならそんなところね」
人形のぎこちない問いかけに、お婆さんはにこりと笑顔を返す。
そして更に手にしていたレポート用紙を2人に向けると、蓋を閉めた赤ペンで表を指しながら説明を始めた。

「それにほら、やはり病気になって伏せってるっていう設定を持つ身としては、自分の財産を受け継ぐ相手も確り見極めなきゃならないわけで。
 それだったら、孫娘の赤ずきんは勿論、お母さんや狼、貴方達猟師も含めてみんなをチェックしちゃおうかと思って」

「僕達もですか?」
きょとんとして自分を指差した猟師にそう、と頷いて返し、お婆さんはレポート用紙をまた胸元に引き寄せる。

「それで、『これなら任せても大丈夫』って人に託すのもありかしら〜、なんて考えてるのよ」
「はぁ…」
「随分と酔狂なことを考えるんだな、この婆さん」
「ノイ!!」
生返事を返す猟師とは対照的に失礼なことを言う人形。
それを軽く殴ってごめんなさいと頭を下げる猟師にいいえ、と返したお婆さんは、レポート用紙に何かを書き込みながら微笑んだ。

「先生っていうか、教官っていうか…そんなビシッときびきびした心構えで皆さんに対応してみるつもりよ。
 だから、今あなたたちとこうやって話してる間も、評価はさせてもらってるわ」

そう言ってにっこり微笑んだお婆さんに、猟師は興味深げに目を輝かせて身を乗り出した。
「じゃあ、今私達はどんな感じなんですか?」
その問いかけに、お婆さんはにっこりと微笑んで返す。

「貴方は人当たり◎よ。まぁ、ちょっと間が抜けて見えるのが欠点かしら?
 …それと、ノイ君の方は口に問題あり、ってところね」

―――確かに、中々の辛口評価だった。
    気分は赤ペン先生、というところだろうか。

『…そんな感じで、あんまり病弱っぽ感じがないけど病弱で中々現実的なこのお婆さんは、赤ずきんや狼が現れるのを、レポート用紙とボールペン手にわくわくと待っているのでした』

***

『そしてまたもや所変わって、森の中。
 この森では、数匹の狼が仲良く暮らしていました』

そう言うと同時に、またもや場面が変わる。
木々が立ち並ぶ舗装された道。
その脇の草むらに座り込む影が――――4つ。

「美猫、ご本読むのが大好きだから、お話の世界に入れるなんて嬉しいです!」
そう言って胸の前で手を組んで笑うのは、小さな女の子。
狼の耳がついたカチューシャをつけ、狼の尻尾がついた短パンを穿いているらしく、可愛らしいスカートからその尻尾が覗いている。
彼女は狼の1人。…此処では、『狼1』と呼ばせてもらおう。
「本当は赤ずきんちゃんがやりたかったですけど、他の人に決まってるみたいですし。
 小さい美猫がお母さんやお婆さんになるのも変だから、狼さんになります。
 がんばりますね!」
しょぼんと肩を落としたかと思えばぐっと拳を握って叫ぶ狼1。
小さい子供らしく、喜怒哀楽が激しい良い子である。

「アールレイが狼やらなきゃ誰がやるの〜?」
そう言いながらにっこりと微笑むのは、狼の耳とふさふさの尻尾をつけた男の子。
狼1もだが、そっち系の趣味の人がいたら大喜びしそうな姿である。
…此処では、『狼2』と呼ばせてもらおう。
「こんなに可愛い狼さんになら、赤ずきんちゃんだって食べられても幸せだよねーv」
一体どういう仕組みになっているのか、耳をぴくぴく動かしながら楽しそうに笑う狼2。
確かに可愛らしい容姿をしているが、自分で言うとは…中々いい性格をしている。
「ってゆーかぁ、美醜も年齢も性別もアールレイには関係ないしっ、全員平等に味見させてもらっちゃおうかなっ♪」
その味見の真意や如何に。
妙に意味深で、危険な香りがするのは何故だろう…。
そして狼2は、妖しげに微笑みながら何時の間にか伸ばされていた爪を赤い舌でぺろりと舐める。
「…狼役として襲うなんて久々じゃないか…」
くすり、と笑うその姿は…狩りを楽しむ猛獣を思わせた。
「あ、ところでさ。
 ナレーションさんも美味しそうなのに食べちゃだめなの?」
すぐさまにっこりと子供らしい笑みを浮かべて虚空に問いかける狼2。
『残念だけど俺喰われるの専門じゃないんだわ。ごめんねー?』
…妙に意味深な答えを返すなナレーション。
しかし狼2は相当残念だったらしく、ちぇ、と呟くと顔を前に向けた。
「勿体無いなー。
 …ま、まだまだ美味しそうな人たちがいるから別にいいけど…v」
そう言ってにやりと笑う狼2は…ちょっち怖かった。

「えーと…ボク…狼を…頑張り、ます…」
そう途切れ途切れに呟くのは、狼の被り物を被った青年。尻尾はベルトのようなもので後ろに固定してあるようだ。
『三匹のこぶた』に出てきそうな、目が弓型に楽しそうに歪められていて、長い舌が大きく裂けた楽しそうに歪んだ口からだらりと垂れた被り物。
非常にコミカルな被り物なのだが…何故、頭だけ?
首から上しか覆っていないので、マスク・ド・ウルフとか名前がつきそうな雰囲気になってしまっている感がいなめない。
身体は普通の服のまま。それが益々コミカルさを引き立てている。
…というか、視界は確保できているのだろうか、その被り物。
とりあえず、此処では『狼3』と呼ばせてもらおう。
「…あ、えと…動物、いっぱい…ですね…」
それは君の周りだけです。
戸惑い気味に呟いた狼3の周りには…鳥が群がっていた。
スタンダートな小鳥からカラス、夜行性の筈の梟に至るまで、鳥、鳥、鳥。むしろ止まり木状態だ。
「…あの…危ないんで…どいてもらえます、か…?」
狼3が困ったようにそう呟くと、鳥達は一斉に飛び立っていった。
…一体何がしたかったんだか。

「♪男は狼なのよ〜気を付けなさい〜♪」
などと恐ろしく調子っぱずれな歌声をあげたのは、最後の狼。
黒の皮ジャンを身に纏い、頭に狼耳のついたカチューシャと尻尾のついたベルトを装備。
程よくロッカー風味な狼だ。…狼、と言う事にしておくべきなのです。
とりあえず、此処では『狼4』と呼ばせてもらおう。
「やっぱ狼だろ!
 願わくば赤ずきん…ではない女の子を喰っちまいたいところだが」
其処まで言って、ちらりと狼1を見る狼4。
落ち着け狼4、それは犯罪だ。
「…とはいっても、後で問題が発生して将来的にイメージダウンなので、程よい男に嫌がらせのようにセクハラしてみることにするか」
それもそれで問題だと思うのですが。
しかし狼4にとってはそれは大した問題ではないらしく、良いことを考えたとばかりにうんうんと頷いた。

―――以上の4名が、狼である。

『4人がそれぞれの思惑の下森の脇道でつっ立っているその時』
どどどどど…!!
『とてつもない地響きを伴って、誰かがやってきました』
そのナレーションの声に、はっとして地響きのする方向を見る狼4匹。
『その誰かとは、言うまでもありません』
どどどどどどど……!!!!!

『―――お母さんに脅されて逃げるようにお婆さんの家へと赴く、三下ずきんでした』

そう言うと同時に、三下ずきんの姿がはっきりと確認できた。
それを見た4人は三下ずきんが爆走する道の上に現れるが、三下ずきんが止まる気配は全くない。

『あーっと、このままだと狼達と三下ずきんは正面から大衝突だー!!
 さぁ、どうする狼達!このままじゃあ話が進まないぞ!?』

何故か実況風に叫ぶナレーション。
しかし実際のところ、ナレーションの言う通りだ。
このままでは狼の計画は台無しになる。
「あ、えっと…美猫、三下さんを止める自信、ないです…」
「アールレイは痛いのキラーイ」
「え、えっと…この場合…どうすれば…?」
…狼1・2・3には止められそうもない。
残るは狼4だけだが…。
「んー、しゃーねーなー」
そう言いながら肩を回してコキコキと鳴らした狼4は、三下ずきんの爆走コースにどん、と仁王立ちをする。
「あわわ、危ないですよぉっ!!」
「怪我したら…痛い…です…!」
慌てて止めようとする狼1と狼3だが、狼4のだいじょーぶ、とウィンクしながら笑い返す姿に、心配しつつも下がることにした。
「一体何するのかなー?楽しみだなー♪」
…狼2だけは、なんだか楽しんでる様子だが。
そんな3匹の狼の視線を一手に受けた狼4は、楽しそうに右腕を伸ばした。
……伸ばした?

『おおーっと、狼のうちの1匹が赤ずきんの進路にその逞しい右腕を差し出したー!
 なんだ!?ヒッチハイクでもする気なのか!?それとも腕を捨てるつもりなのか!?』

妙に面白そうに笑いながら実況を続けるナレーション。
ありえない予想を立てた後、急にナレーションは声を落とす。
『…はっ!もしやあれをやる気か!?』
あれってなんだ。
他の狼達の心のツッコミ炸裂。しかしその突っ込みは残念ながらナレーションにその声は届かない。
そんな間にも三下ずきんは泣きながら爆走しており、もう人を気にしている余裕すらないようだ。
…まぁ、自分の命がかかってるから、無理もないが。

そんな三下ずきん。狼4の腕に向かってまっしぐら。
どどどどど…!!!
「はーいそこまでー」
ガッ。
軽く腕を斜め下に傾けると同時に、三下ずきんが見事なまでに真っ直ぐその腕に…首を引っ掛けた。
「ぐえっ!?!?」
ズダァンッ!!と大きな音を立てながら受け身をマトモに取れずに後ろにひっくり返った三下ずきん。
…しかも頭から落ちてたし。とてつもなく痛そうな予感が…。

『出たー!!相手の速度を利用した必殺ラリアット―――ッ!!!』

ナレーションは完全に興奮しているらしく大声で技の解説をする。…見えないけど多分握り拳でもやっているのだろう。
「よーし、中々いい突撃っぷりだったぞ、三下ずきん!」
ぐっ!と親指を立てながら爽やかに微笑む狼4。その視線の先には倒れてぐったりしつつ目を回した三下ずきん。
…一歩間違えば殺人現場に遭遇して現実逃避してる人のようだ。

「あぅぅ、三下ずきんさーん!起きてください〜!!」
「あ、三下さ…えっと…三下ずきんさん…起きて…下さい…」
狼1と狼3は心配げに顔色が青くなっている三下ずきんを揺すっている。
「わー、すっごーい!あんなラリアット見たのアールレイ始めてだよっ♪」
「そうだろそうだろ♪」
『あー、俺もあの場にいたらやりたかったぜ、それ!』
「ふはは、残念だったな青少年!」
…狼2と狼4、ナレーションは心配する気配ゼロ。むしろさっきのラリアットに関して談議してるあたりなんというか…。

「う…うぅ…」

なんとか生きていた三下ずきんがうめきつつ頭を撫でながら起き上がる。
「あぁ、よかった、生きてたんですね!」
「…なんとか…一命を取り留めた…みたいで…なによりです…」
心配しているのはわかるのだが、なんだか物騒なことを言う狼1と狼3。
「あ、起きたみたいだよー」
「そうみたいだな。お目覚め如何?三下ずきんv」
狼2と狼4は三下ずきんが目覚めたのに気づき、目の前に座り込んで爽やかに微笑む。
…ここだけを見てると優しい人達っぽいのになぁ…。

「…あ、あれ?僕はどうして此処に…?」

自分が倒れた瞬間のことは覚えていないらしい。
狼1と狼3が事情説明をする前に誤魔化してしまおうと頭の中ですぐに結論を出した狼4(この間0.01秒)は、爽やかに微笑みながら三下ずきんの肩にぽむ、と手を置く。

「で、赤…じゃなくて三下ずきん。
 おま…じゃなくてキミはこんな森の中を1人で歩いてどうしたんだい?
 悪い人に騙されて攫われてあーんなことやこーんなことをされたら危ないだろう?」

ちょっと余計な言葉が混ざってるが、それはそれ。
「『あーんなことやこーんなこと』って…」
三下ずきんもその言葉に冷や汗を流しつつ、しかし話を終わらせなければと言う恐怖と焦りから、引きつった笑顔を浮かべながら口を開いた。
「えーっと…僕には森の中にある家に住んでる病弱なお婆さんがいるんですが。
 その病弱なお婆さんのお見舞いに行こうかと…」
「お婆さんのお見舞いに?」
何気なく三下ずきんの言葉を遮りつつ問いかけた狼4に、三下ずきんは不思議そうにしながらもこくりと頷く。
…と。
狼4は唐突にバッ!と大袈裟に手を広げ、思いっきり芝居がかった口調で喋りだした。

「なんと、お婆さんのお見舞いに行くなんて今時のギャルにはない純情猛烈セレナーデ!!」

「…せ、せれなーで…?」
「セレナーデって何ですか?」
「……さぁ……?…ボクも…よくわからない…から…」
呆然と最後の言葉を繰り返す三下ずきん。
言われた言葉の意味が分からず不思議そうに隣の狼3に問い掛ける狼1だったが、狼3も首を傾げてしまったので結局意味は分からず終いだったり。
「ねーナレーションさん、これってこのままでも大丈夫なのー?」
『個人的にはすっげー面白いからオールオッケー。
 っつかなんか崎に通じるところがある気がするのね、この人』
「崎って…ナレーションさんの知り合いだっけ?」
『そ。なんかノリが似てる気がして仕方が無くってさー』
狼2とナレーションが普通に会話してどうする。
しかしそんな面々なんのその。
狼4はどんどんテンションが上がっているらしく、芝居がかった口調のまま更に捲し立てる。

「俺は感動した!タッチドマイハート!!
 そんな君には枯れない花の咲く場所を教えてあげよう!
 心優しい君のことだ、お婆さんのために花を摘まずにはいられまい!?」

…ほどよく強制込みだが、それなりにストーリーに沿っているので問題はない。
その言葉にようやく事態を理解した三下ずきんと他の狼達。

「あ…えっと…」
狼4の言葉に悩むように視線を泳がせる三下ずきん。
その様子を見たほかの三匹の狼達は、我先にとばかりに声をあげる。

「そ、そうですよっ!
 綺麗なお花を摘んで行ってあげれば、きっとお婆さんも喜びますっ!!
 大丈夫、食べようなんてこれっぽっちも考えてませんから!…あれ?」
「そ、そうです…。
 ボク達も…一緒に…その花の…咲く…場所まで…行きます…から…」
「そうだよー。
 一緒に来てくれないと、アールレイ此処で三下ずきんちゃんのこと、別の意味で食べちゃうカモ☆」

若干1名先に考えてることをばらしちゃってたり、更に1名だけなんだか空恐ろしい事を言ってるようだが、そこは気にしてはならない。
そんな狼達の必死の説得(約1名除く)もあって、三下ずきんは少しの逡巡の後、小さく頷いた。

「…そうですね。
 じゃあ、お婆さんのためにお花を摘みに行きましょう」
「「「やったー!」」」
「…よかった…です…」

『…という感じで、お人好しと書いて「たんじゅん」と読む精神を持つ三下ずきんは、悪巧みをする狼達に気づかず。
 お婆さんのためにお花を沢山摘んであげようとお花畑に行く事にしたのでした』

***

『そうして三下ずきんが狼達に連れられてやってきたのは、綺麗な花が咲き乱れる花畑。
 嘘をつくには少しだけ真実を織り交ぜるといい、と言うお約束に従い、狼達は本当に綺麗な花が咲いている場所へと三下ずきんを連れてきたのです』

「わぁ…本当に綺麗ですね…」
「本当だ!とっても綺麗です!!」
「…うん…綺麗…だね…」
感動する三下ずきん…と何故か狼1と狼3。
「連れてきた俺達が感動してどうすんだよ」
「いいんじゃない?ほんとーに綺麗なんだし♪」
笑いながらツッコミを入れる狼4と、楽しそうに花を1本摘む狼2。
綺麗なその花からは、芳しい香りが漂ってくる。
「…ま、蜂に刺されないようには注意しないとだけどねー♪」
勿論アールレイはそんなドジしないよ、と笑う狼2。
その姿に苦笑しつつも、狼4は三下ずきんの背中をバァン!と叩いた。
「さ、さくさく花を摘もうか!」
「は…はい!」

とっとと話を終わらせたい一心なのか、痛みに顔を歪ませながらもすぐに座り込んでぷちぷちと花を摘んでいく三下ずきん。
もう完全に隙だらけ。抜け出しても気づかない(フリをしてくれる)だろう。
……ところが。

「お花、美猫も一緒に摘みます!」
…狼1、綺麗な花畑を見てうっかり花摘みに参加。

「綺麗なお花…v
 いっぱいいっぱい摘んでお家に持って帰ろう♪」
いそいそと花を摘みながら頬を緩ませる狼1。
…この辺はやっぱり子供だなぁ、と思わせる一瞬。
いや、本来はあんまり和んではいけないのだが、つい…。
「そうかー、確かに綺麗だよなー、頑張れよー」
「はい!」
狼4は思わず和んで狼1の隣でヤンキー座りして笑っている。
…君たち、話のこと完全に忘れてますね…?

「…あ、あの…今のうちに…お婆さんの…家…行くんじゃ…」
狼3が困って声をあげるが、すぐに何か不穏な気配を察したのかはっとして後ろを向く。
そこには―――森の仲間達が。
もとい、兎やら鳥やら野良犬、野良猫、その他諸々の動物達。
しかも何故か狼3を見つめてとてつもなく嬉しそうに尻尾を振っている。
今まで何もなかったから油断していたが―――自分は、動物に物凄く好かれ易い体質だ。

しまった、と思ったときにはもう遅い。
動物達は一斉に狼3に向かって飛び掛り、どばーっ、とまるで雪崩の如く彼を包み込む。
叫び声を上げる暇もなく、狼3の姿は一瞬にして動物達の中に消えた。
…とは言っても、決して死んだわけではありませんのでご注意を。

「あぅ…い、いたい…」
なんとか動物の群れから顔だけを出してうめく狼3。
被り物のマスクは完全に群れの中に飲み込まれている。…救出は相当困難だろう。
もぞもぞと起き上がった狼3は…ふと、身体の上にのしかかる重いものに気づいた。
「…えへv」
……狼2だ。
やけに可愛らしい笑顔でにっこりと笑いかけながらぺろりと舌を出す狼2。…ただし、狼3の腹の上で。
ひしひしと嫌な予感を感じつつも、狼3は狼2ににこりと微笑みかけた。
「…」
「……」
「…………あの……」
「いっただっきまーすv」
がぶり。
狼3が沈黙に耐え切れず声をあげるのと、狼2がにこやかに首筋に噛み付く(勿論かなり弱めに)のはほぼ同時だった。
「…うわぁっ!?!?」
一瞬遅れてから声をあげる狼3。
脳が認識するまで時間がかかったのか、それとも元から脳の働きが遅いのか…どっちだろうか。
「あは、いい声ーvv」
狼2はそのリアクションに嬉しそうに笑う。
「…あ、あの…」
戸惑い気味に声をあげる狼3に、狼2はそれはもう爽やかに微笑みかけた。

「…痛くしないから安心してv
 大丈夫、アールレイは優しいから☆」

一体何の話だ。
しかしそんなツッコミをされる間もなく、狼2は狼3に(別の意味で)襲い掛かった。
後方から憐れな贄(?)の叫び声が響く。

「…?どうかしたんですかー?」
「やー、気にしちゃ負けだよ。
 今は楽しく花を摘むのが得策だぜー?」
『そうそう。子供は聞いても見てもいけないコーナーに突入しちゃっただけだからねー』
そんな中、狼1にそんな光景を見聞きさせるのは危険だと判断した狼4は丁度背を向けているのを幸いにがっちり両手で耳を塞いでいた。
不思議そうに首を傾げる狼1。
笑顔で誤魔化す狼4。
何気なく危険なコメントをするナレーション。
…どちらにしても、狼3を助ける気はなさそうだだった(約1名助ける以前の問題だが)

一方、唯一狼2と狼3の危険な光景を真正面から見てしまった三下ずきんはと言うと。
「……!!!!」
一瞬で顔を真っ青にすると、ずざざざざっ!と勢いよく後ずさる。
「ぼ、僕、用事を思い出したのでこれで失礼します―――――ッ!!!!!」
そして、自分に火の粉が降りかかる前に逃げねばと本能が力いっぱい叫んだのか、慌ててバスケットを抱えてくるりと見を翻すと、だーっ!!と走り去ってしまった。

『…三下ずきんは狼達の…愛?…の営みを見て、怖くなって逃げ出してしまいました』

ナレーション、変な誤魔化し方しないように。
三下ずきんの逃走を呆然と見送ってしまった狼4。
しかしすぐに気を取り直し、狼1を小脇にかかえる。
「きゃっ!?」
「大変だ!三下ずきんが逃げ出しちまったぞ!!
 このままじゃ俺達が婆ぁの家に行く前に着いちまう!!!」
「えぇっ!?そうなんですか!?」
驚く狼1に力強く頷く狼4。
しかしその原因が自分達以外の狼だ、と言う事は敢えて伏せておく。
子供に言うのは流石に気が引けるので、これは自分の心の中に秘めておく事にした。
「…うぅ…そ、それは大変です…急がない…と…」
「うおっ!?」
うめきながら急に狼4の真横に現れた狼3。
その着衣は乱れている。…大丈夫だろうか、色々と。
「…お前、よく無事だったな?」
「…ギリギリの…ところ…で…逃げられ…まし…た…」
そう言ってしくしくと涙を流す狼3。
「あー楽しかった♪
 アールレイ満足vv」
そして、その後方で本当に満足げに微笑む狼2。
2人を見比べてなんとなくその努力が伺えた狼4は、ほろりと同情の涙を流す。

「…しかし、今はそれどころではない!!
 一刻も早く、三下ずきんよりも早く婆ぁの家に行かなければ!!!」

「は、はいっ!」
「…はぃ…」
「オッケー♪」
「では、レッツゴー!!」
ダ――――ッ!!!

『そんなわけで、狼達は、三下ずきんを追い抜くため、お婆さんの家に向かって大急ぎで走り出すのでした』

***

『…しかし、その頃、当の三下ずきんはと言えば…?』

「…あ、あれ…?」
鬱蒼と繁る森の中。
自分は確かお婆さんの家に向かって逃げ出したはず。
…しかし、人が通る為の舗装された道は全く見あたらない。

「……ここ、どこですか……?」

…真っ青になった三下ずきんの呟きが、薄暗い森の中で虚しく響き渡った。

『―――大慌てで走り回ったせいで、道を間違え…迷ってしまっていたのでした』

***

『そしてしばらく経って…狼達は、お婆さんの家の前へと辿り着きました』

「…どうやら、三下ずきんはまだ着いてないみたいだな…」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら中からの音を確認した狼4が呟くと、ようやく降ろされた狼1がとことことお婆さんの家のドアに歩み寄る。

『狼は、三下ずきんの前にお婆さんを食べてしまおうと、三下ずきんのフリをして声をかけることにしました』

コンコン、とドアを叩くと、中からお婆さんの声が聞こえてきた。
「…はい、どちら様?」
あまり老婆らしくない凛とした声だが、それはそれ。
狼1はこほん、と可愛らしく咳をすると、できるだけ可愛らしく感じられるように声を出した。

「―――お婆さん、赤ずきんよ。
 お見舞いにパンとワインを持って来たの」

元が少女なだけあって、十分可愛らしい。
…ただし、これが三下ずきんとして通用するかというと…そうでもなかった。

「…残念だけど、私の孫の三下ずきんはそんな可愛らしい声はしていないわ。
 人選…いえ、狼選ミスね」
「……え?」

家の中から冷静な声が聞こえてきて、狼1は大きな目を一層丸くした。
「…お婆さん…って…こんな…役回り…でしたっけ…?」
「いや、今回はなんでもありだって前もって宣言されてたからな。
 婆ぁ役のヤツも遊んでるんだろ」
「なるほどねー☆
 これがその人なりの楽しみ方、ってワケか♪」
狼3がお婆さんの反応に首を傾げると、狼4が苦笑しながら呟き、狼2が納得したように笑顔で頷く。
小さく苦笑した狼4は、扉に近づくと、コンコン、とドアを叩いた。

「えーっと…お婆さん、私は本当に三下ずきんよー。
 さっきは精一杯裏声を使って女の子っぽくしてみただけなのー」

狼4、微妙に棒読み。
だが、その男らしい声は多少は本物の三下ずきんに近いとも言える。
しかし返ってきたのは、冷静なお婆さんの声だった。

「確かに男の人の声ではあるけど、三下く…いえ、三下ずきんの声とは似てないわ。
 残念だけど、偽物ね」
…家の中でテーブルに置いたレポート用紙に赤ペンで「×」印を書き込むお婆さんの姿が目に浮かぶ。

『…しかしお婆さんは年の割にはボケておらず、冷静に狼達が三下ずきんではないことを見抜いてしまいました』

「お、お婆さん…?」
どうすればいいんだろう、とおろおろする狼1。
「…この場合…お話って…どうなるんでしょうか…?」
何時の間にか頭の上に一匹の鳩を乗せながら首を傾げる狼3。
「んー…いっそのことこのまま帰って終わらせるっていうのも有りだよねー☆」
「それは流石にやめた方がいいと思うぞ…?」
笑顔でとんでもないことを言い出す狼2と、小さくツッコミを入れる狼4。
しかし狼4匹の悩みは、意外な一言で終わりを告げた。

「そんなところでぼーっとしていられるのもなんだし、中に入ったらどう?
 今丁度猟師さんが来ていて、一緒にお茶を飲んでいるところなの」

「「「……はい?」」」
「へー、猟師がもう来てるんだ?さっすが何でもアリな世界だね☆」
お婆さんの言葉に間抜けな声を上げる狼1・3・4。
感心したように笑う狼2。
すると、ガチャリ、と言う音を伴って、ドアを開けて人が現れた。
――――猟師と人形だ。

「そうですよー、僕達と一緒にお茶飲みませんかー?」
「おい縁樹っ!何狼誘ってんだよ!?
 アイツ等はボク達の敵なんだぞっ!?」
「だってこのままじゃ話が進まないじゃない。
 これは必要な行動なんだよ?ノイ」
肩に乗っている人形と掛け合いをする猟師に呆然とする狼達(狼2を除く)。
喋る人形と平然と話をする女性…もとい猟師。随分変わった組み合わせだ。
しかしいち早く気を取り直した狼4は、唐突に両手を掲げて叫んだ。

「くそ、猟師が最初からいるなんて聞いてないぞ!
 いや、だからってそう簡単にはやられてやるものか!!」

「…は?」
「いや、僕達ひとっ言も『狩る』なんて言ってないんですけど…」
きょとんとした人形と冷静にツッコミを入れる猟師だが、狼4は1人でヒートアップしていて話を全く聞いていない。
どこからともなく出した真っ赤なタオルを首にかけ、拳を握って猟師と人形の2人に向ける。

「こうなったら60分1本勝負!
 首にかけた赤いタオルは萌える闘魂さ!!」

微妙に『もえる』が違う意味を含んでいるようだったが、それに気づく存在はナレーション以外いなかった。
一応相手は女性だから、あまり乱暴をする気はないが―――軽く脅かすくらいなら許されるだろう。きっと。
そんな軽い考えのもと狼4は拳を振り上げた。

―――――が。

ビュッ。スタァンッ!!!
顔の横を物凄い勢いで風が駆け抜け、後ろにあった樹木の辺りから何か鋭いものが突き刺さるような小気味良い音が響く。
ぎぎぎ…とぎこちなく後ろを向いた狼4の目に入ったのは―――木の幹に深々と刺さる、小ぶりのナイフ。
更にぎこちなく猟師の方を振り返ると―――人形が木に刺さったものと同じナイフを抱えて、ぎろりと半眼で狼4を睨みつけていた。

「今はわざと外してやったんだぞ。
 もし次に縁樹に手をあげるようなことがあれば…わかってるな?」
「スンマセン。俺が悪かったです」

…狼4、あっさり降伏。
いくら彼とて、人形と…ましてやナイフなどという刃物と闘って怪我したいなどとは思わない。
それくらいだったら降参した方がマシだ、とは彼の弁。

「…えっと…それじゃあ、美猫たちはどうすれば…?」
「…猟師さんに…負けるのは…まだ…ストーリーに…沿ってる…ような…気がしないでも…ないん…ですけど…。
 ……三下ずきんちゃん…は…どうするん…ですか……?」
「アールレイは、別にどうでもいいんだけどねー☆」

困ったように周りを見る狼1と狼3。
その2人とは対照的に、それなりに楽しめたし?とくすくす笑う狼2。
そんな3人を楽しそうに眺めながら、お婆さんはにこりと微笑んで言った。

「――――じゃあ、とりあえず三下ずきんが来るまで、皆でお茶でも飲まない?」

お茶請けも中々美味しいのよ?と微笑むお婆さん。
なんか違うような気がしないでもなかったが…とりあえず、狼達は誤魔化されておく事にした。

『…そんなこんなで、お婆さんと猟師にほだされた狼達は、2人と一緒にゆっくりとお茶を飲むことにしたのでした』
ナレーション…なんとなく合ってるような…合ってないような…。

***

『そしてそれから10分もしないうちに、迷いに迷った三下ずきんが、ようやくお婆さんの家へと辿り着きました』

「…や、やっとついた…!!」
ぜぇはぁと荒く息を吐きながら肩を上下させる三下ずきん。
身体中ボロボロな辺り、相当変な場所に迷い込んでしまっていたと思われる。
ふらふらとおぼつかない足取りでドアの前まで辿り着いた三下ずきんは、力なくドアをノックした。
コンコン、と軽い音が響くと、中から声が聞こえてくる。

「…はい?どちら様?」

聞き覚えのあるその声に、三下ずきんは嬉しくなって声を上げた。
「僕です!三下…三下ずきんです!!
 お婆さんにパンとワインを持ってきました!!!」
その声に一瞬考え込むように間が空いたが、すぐに優しい声が返って来る。

「…いらっしゃい、三下ずきん。
 ドアは空いてるわよ。入っていらっしゃい」

ぱぁっ、と一瞬で三下ずきんの周りに煌びやかな花が舞った。
やっと休憩できる。
これでお母さんに言われていたことも終わったから殺されることもない!
物騒な妄想も混じっているが、『考えすぎだ』と言い切れない辺り結構三下ずきんも切実だったようだ。
「じゃあ、失礼します!」
三下ずきんは嬉々としてドアノブに手をかけ、回す。
ガチャリ、と音がして、扉が静かに開いた。
そして三下ずきんが中に一歩踏み込むと同時に、正面から声が聞こえてくる。…複数の、声が。

「いらっしゃい、三下ずきん」
お婆さんの声。…これはまだ大丈夫。
「あ、こんにちはー」
「遅せーんだよお前。
 もう少し遅かったら迎えに行かなきゃいけなくなるトコだっただろ?」
猟師とその肩に座る人形の声。…まぁ、これもまだギリギリでセーフだろう。
…問題は…。
「あ、いらっしゃいです」
「いらっしゃーい♪待ってたよv」
「…えっと…三下ずきんちゃん…ご苦労様…です…」
「遅かったなー、待ちくたびれちまったぜ」
……4匹の狼の、声。

花畑での出来事を思い出してさーっ、と顔を青くした三下ずきんは、バスケットを戸口の横に置くと、くるりと身を翻す。

「パンとワインは届けましたので、僕はこれで―――」
「逃げちゃダメだよーv」
そして逃げようとした所で…がしっ、と肩を捕まれた。
三下ずきんがぎこちなく振り返ると…そこには、狼2の姿。
「……」
「…………」
笑顔で見詰め合う2人。
暫くその態勢で固まっていた2人だったが…。
「…逃がさないよv」
「ギャ―――ッ!!!」
狼2が三下ずきんに襲い掛かったことで、硬直が溶けた。
床に三下ずきんを押し倒す狼2。
あわやまたもや子供に見せられないコーナー突入か!?
そんな危惧が一同(極一部除く)の心の中に駆け巡った時…。

「はいはいストップ。
 そこまでにしておいてね?」

にっこり笑顔で、お婆さんがストップをかけたのだ。
「えー」
「小さい子もいるんだから、あんまり危険な行為は慎んでくれないかしら?
 それにほら、話が滞っちゃうから」
「…むー…」
不満げに声をあげる狼2に笑顔を向けながらお婆さんがそう言うと、狼2は不満そうにしつつも大人しく三下ずきんの上から退いた。

まぁ、別に1回やったからそれなりに満足していたし、多少の妥協ぐらいはしよう。
…それに、いざとなったら元の世界に戻った後にやればいいことだしv

狼2の頭の中を一瞬不穏な考えがよぎったが、それに気づく者は誰もおらず。
「あぁ、有難う御座いました!シュ…お婆さん…!!!」
間一髪で危機を逃れた三下ずきんは、感動の涙を流しながらお婆さんに感謝していた。

「…狼…可愛らしい子や面白い子がいるものの、少々統率制に欠ける…。
 三下ずきんは、とてもじゃないけれど遺産を守りきれる能力はなさそうだ、と…」

当のお婆さんはと言えば、未だに評価を続けて×やら○やらを書き込んでいたりしたけど。
三下ずきんはそんなお婆さんの様子には微塵も気づかず、ただひたすらに「有難う御座います」を繰り返している。

―――そんなお婆さんの家に、新たな訪問者が現れた。

ドゴォッ!!!
「!?」
唐突に大きな音を立ててドアが蹴り破られ、全員の視線が一斉に其方へ向けられる。
そこには―――。

「こんなところで油売ってたんか、三下ずきん!!」

―――薪割り用の斧を肩に担いで現れた、お母さんの姿が。
「お…お母さん!?」
驚いて声を上げる三下ずきん。

『…なんと、お婆さんの家に今までてっきり自分の家で寛いでいると思われていたお母さんが襲来しました。
 それもまさかり担いでですよ奥さん!驚きですね!!』
ナレーション、どっかのおばさんみたいな口調で喋らないでくれ。

「え!?あれが母親!?」
「うっわ全然女らしくねぇ!」
「っていうか男の人ですよね、あれ…」
「テメェら!人を『あれ』呼ばわりすんじゃねぇよ!!」

思わず失礼な事を口走る狼4・猟師・人形の台詞にだんだんと木の床を踏みしめながら怒るお母さんを眺めつつ、三下ずきんはおずおずと声をかけた。

「あ…あの…どうして、わざわざ此処に…?
 それと、その斧は…いったい…」
その言葉に、お母さんは目を光らせて声を上げた。

「あぁ?あんたを迎えに来てやったに決まってんだろ?
 斧は当然護身用だよ。…ちょっとした脅し用でもあるけどな」

護身用だよ、の後にぼそっと微妙に危険なことを言ったような…。
しかしそのツッコミが入る前に、お母さんは三下ずきんの手をぐっと掴み、無理矢理引っ張った。
「オラ、とっとと帰るぞ三下ずきん!」
「えぇっ!?あ、あの…っ」
おろおろと困ったように声をあげる三下ずきんを問答無用で引き摺っていくお母さん。
もうすぐ家を出ようかというところで、背中に声がかかった。

「――――待って」

…暫く面白そうに状況を見守っていたお婆さんだ。
「ぁあ?」
不機嫌そうに振り返る柄の悪いお母さんの視線を真っ向から受けつつも、浮かべた微笑みを崩さない辺り、中々の大物だ。

「折角だから、今この場で話してしまいたいことがあるの。
 …勿論、貴方達にもいてもらわないといけない大事な話よ」

「…大事な話ィ?」
お母さんは完璧に疑いモードだ。話を信じる様子など微塵もない。
しかしお婆さんは笑みを崩さず、まぁ座って、と余っている椅子を指差す。
やや不満そうな表情を浮かべる母親だったが、とりあえず聞いても損はないだろうと仕方なく椅子につく。当然、三下ずきんはその隣だ。

全員が椅子に座ったのを確認したところで、お婆さんは顔を引き締め、重々しい声で口を開いた。
「…簡潔に言うわ」
その思いのほか真剣な雰囲気に、その場にいる全員がごくりと唾を飲む。
その様子を見ながら、お婆さんはゆっくりと声を発した。

「―――――私の遺産の全てを、猟師さんに相続することにしました」


――――――間。


「「「「「「「…………は??」」」」」」」
「ぼ…僕ですか…?」
全員が間の抜けた声をあげるのと、猟師がきょとんとした顔で自分を指差して呟くのはほぼ同時。
「ちょ、ちょっと待てよ!
 普通遺産って子供とか孫とかの血縁者に渡すモンだろ!?」
思わぬ言葉に驚いて声をあげるお母さん。
その様子に笑顔を浮かべたお婆さんは、手に持っていたレポート用紙を蓋を閉めた赤ペンでなぞりながら淡々と喋りだす。

「三下ずきんは気弱すぎて遺産をきちんと守れるかどうか不安だし。
 娘…三下ずきんのお母さんは遺産を守る力はあるだろうけど、きちんと遺産を正しい方向で使ってくれるかどうかが不安なところなのよね。
 で、狼達に…っていうのも考えてみたんだけど、やっぱりこう…全然統率がなってないからそのうち仲間割れして相続争い、なんてことになり兼ねない。
 その点、猟師さんなら遺産を無駄に使うこともないだろうし、守ることに関してはノイくんだっているから問題ないわ。
 …よって、私の全ての遺産を、娘と孫ではなく…猟師さんに相続します」

「……んな無茶苦茶な…」
「無茶苦茶でもこの世界ではなんでもアリなのよ。
 そうよね?ナレーションさん?」
『その通り!!』
苦笑する三下ずきんににっこりと笑顔を向けたお婆さんは、天井を仰いで問いかける。
と、上からそれはもう楽しそうなナレーションの声が聞こえてきた。親指立てて『ナイス!』って言うポーズを取ってる光景が目に浮かぶ。
「だ、そうだけど?」
「……そうですか…」
にっこり笑顔でその場の面々を見渡すお婆さんに、三下ずきんはがっくりと脱力するのだった。

「わー、ノイ、凄いね、僕達一瞬でお金持ちだよ!?」
一方、猟師はと言えば、嬉しそうに手を叩きながら傍らの人形に話し掛けている。
この事態も単に『嬉しい』だけで、さして気にしてはいないようだ。…相当な大物か、それとも単なるボケボケ女性なのか…。
「金持ちって…三下ずきんの婆さんにそんなに経済力あんのか?」
肩に乗っている人形は、目の前でにこにこ微笑むお婆さんの姿をジト目で見つめる。
「あら、お金をちまちま溜めてたのよ、これでも。
 それなりに暮らせるくらいのお金はちゃんと持ってるわ」
その視線を爽やかに交わしたお婆さんは、笑顔でそう言った。
…まぁ、どちらにしても借金があるわけではないのだから、猟師が不利益を被る事はないのだが。

「…と言う事で、遺産相続の手続きをしましょうか」

そう呟いたお婆さんがパチン、と指を鳴らすと、急にざざざっ、と黒子が現れた。
「きゃあっ!?」
「…く…黒子…!?」
「今まで一体何処にいたんだコイツ等!?」
「すごーい、さっすが何でもアリな世界だね!黒子もバッチリ標準装備なんだ?」
驚く狼1・3・4と感心する狼2。…やはりこの辺に性格の差が出てるような…。

しかしそんな面々なんのその。
黒子はお婆さんの的確な指示を受けて素早く遺産相続の手続きを済ませ、またあっという間に去って行ってしまった。
「さ、これで手続きは終わりよ」
後に残ったのは、爽やかに微笑むお婆さんと、呆然とした面々。
お婆さんはそのまま椅子を立ち上がると、自分のベッドを綺麗に直し、その中に寝転がる。
一体何がしたいんだ。全員がそう思った時…それは起こった。

「う…っ!?」
お婆さんが、急に胸を抑えて苦しみ出したのだ。
「「「お婆さん!?」」」
三下ずきん、狼1、猟師が慌てて彼女に走り寄る。
一瞬遅れて、他の一同も大慌てで彼女に近寄った。
全員がベッドに近寄ると、お婆さんは息も絶え絶えに呟いた。

「…ほ、発作が…。
 私は…もう、ダメだわ…。
 猟師さん…あとは、よろし…く…」
『く』のところで、がくり、と頭がベッドに倒れこんだ。

『お婆さんは、猟師に遺産相続の手続きをしたことで安心したのか、心臓発作を起こし、死んでしまいました』

「「「お、お婆さ――――ん!!!」」」
お婆さんに縋りつき、三下ずきん、狼1、猟師が泣き叫ぶ。

「…都合いいなー、展開」
「まぁ、こうした方が話の進みがよくていいんだろうけど」
「結局、アールレイ達狼らしいことほとんどしてなくなーい?」
「…とりあえず…お花畑に…連れて行く…のは…やりました…けど…」
「あれだろ、終わり良ければ全て良し、ってやつ」
人形、お母さん、狼2・3・4は、その光景を一歩下がったところで冷静に見詰めていた。
…もう、何がなんだか。

***

『そうしてお婆さんは死に、猟師の手元には遺産が舞い込んみました。
 …そして』

***

お婆さんの家。
木製の家には不釣合いなレンガの煙突から、もくもくと煙が上がっている。
家の中では、猟師が鍋をくるくるとかき回していた。
肩の上には、人形がご機嫌そうに笑っている。
「えへへー、こういうのもたまにはいいかもねー、ノイ?」
「んー…まぁ、『たまには』、だけどね?」
猟師はご機嫌な様子で肩の上に人形に問いかけ、人形は照れくさそうに言い返す。
…和む光景だ…。
「これから、暫くはこうやってのんびり過ごしてみようかな♪」
「…呑気だね…」

『お婆さんの遺産を受け取った猟師は、猟師を止め、お婆さんの家で人形と一緒に幸せに暮らしました』

***

一方、森の中。
狼1と狼2が、のんびりと日向ぼっこをしていた。
「いい天気ですね♪」
「そうだね、とってもいい天気ーv」
三下ずきんを案内した花畑で花を摘み、花の冠を作ってそれを日に翳して喜んでいる狼1と、ごろりと寝転がって伸びをする狼2。
…ほのぼのしてるなぁ…。
しかし、狼3と狼4の姿がないような…?
「…それにしても、あのお2人、大丈夫でしょうか…?」
花冠を眺めながら、狼1がぽつりと呟く。
あの2人…多分、狼3と狼4のことだろう。
「あははー、大丈夫なんじゃない?
 ほら、あの2人も大人の男だし」
ね?とにこにこ微笑みながら言う狼2に、狼1は首を傾げる。
「…そうですか…?」
「そうだよ♪」
断言しつつにっこりと微笑みかけられ、狼1はあっさりと騙された。
「…そうですよね…うん、きっと大丈夫ですね!」
「そうそう、大丈夫大丈夫☆」
…純粋とは、時として幸運になる。
それをありありと実感した一瞬。
…まぁ、狼2は本当に純粋、とは言い切れないわけではあるのだが…。

『狼4匹のうち2匹は、のんびりと森で過ごしています。
 …ただ、猟師のことで懲りたのか、それからはあまり人を襲わなくなりました』

***

またもや一方、三下ずきんの家。

「オラオラ!だらけてるんじゃねーぞ!!
 キリキリ働けや!!!」

早速というかお約束というか…家の中から聞こえてきたのは、お母さんの怒声。
家の中には、怒鳴り散らすお母さんと三下ずきんと…狼、2匹。

「三下ずきん、お前は今すぐ夕飯作れ!」
「ひぃーっ!は、はいぃっ!!」
三下ずきんは大慌てで台所へ引っ込んでいく。
「オラ、狼!あんた等は家の掃除と薪割りだ!!タラタラしてんじゃねぇぞ!?」
「…は…はいぃ…」
「うぃーっす」
「声にやる気が感じられねぇ!!」
「「はい!!」」
お母さんの怒声に半ばヤケで返事をした狼2匹は、家の外に飛び出すのと雑巾をかけてあるバケツを手にとるのに素早く分かれ、大急ぎで行動を起こす。
狼3と狼4もすっかりお母さんにこき使われているのが板についている。
…というか、一歩間違えば運動部の上下関係のノリのようだ…。

結局お婆さんが大往生した後、遺産相続権をもらえなかったお母さんは怒り狂い、三下ずきんの首根っこを掴んで帰るついでに、狼達の中で役に立ちそうな狼3と狼4を拉致(半分脅)して連れて帰り。
狼2匹もあわせて三下ずきん達を相当こき使っている様子だった。

「オラ!飯まで後一時間もねぇんだぞ!?
 急げよ三下ずきん!!」
「はいぃっ!!」
台所から、今にも泣きそうな三下ずきんが声が返って来る。
お母さんはその返事に家の中の椅子にどっかりと座りながら、顎に手を当ててぽつりと呟いた。

「…ま、下僕が増えたから…いいか」
……お母さんは、中々に極悪だった。

『遺産を相続できなかったお母さんは、狼4匹のうちの2匹を拉致し、三下ずきんと一緒に散々こき使いました。
 …そんなこんなで、三下ずきんは、お母さんと狼2匹と幸せに暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし』

「全然めでたくないですよぉっ!!」
そう三下の心からのツッコミが入るのと同時に、ぐにゃり、と空間が歪んだ。

『―――はい。
 これで一応話が終わったと判断させて頂きます。
 皆さん、ご苦労様でしたー』

桂のどこか呑気な声が聞こえると同時に、視界が真っ暗に染まった。

***

「はいはーい、お帰りー♪」
呑気な声…希望の声が聞こえて、全員ははっとして目を開く。
―――目の前には、希望と桂が楽しそうに微笑みながら立っている。
きょとんとして自分の格好を見てみると、あの世界に入る前の服装に戻っていた。

「やー面白かった面白かった♪
 いい話見せてもらったよ、ご苦労さんv」
ぱちぱちと手を叩きながらにこにこ笑う希望を見て、全員(一部除く)は思わず口元を引き攣らせる。
一緒に拍手をしながら微笑んでいた桂は、全員を見渡してから、ゆっくりと口を開いた。


「これからもまだまだ色んな昔話の世界を作る予定なんで、よろしければ、またご参加くださいね♪」


――――その桂の言葉に頷いたのは…果たして、何人いただろうか?


…そんなこんなで、今回の参加者は、お礼ということで奢りで夕飯をファミレスでとることになりました。
―――誰のおごりかって?
……それに関しては、隅っこで財布を振って泣いてる三下さんに聞いてください。


おしまい。

<役名:参加者名>
三下ずきん :三下・忠雄
お母さん  :郡司・沙月
狼1    :中藤・美猫
狼2    :アールレイ・アドルファス
狼3    :五降臨・時雨
狼4    :高台寺・孔志
お婆さん  :シュライン・エマ
猟師    :如月・縁樹
ナレーション:緋睡・希望

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【1564/五降臨・時雨/男/25歳/殺し屋(?)】
【2364/郡司・沙月/男/17歳/高校生(2年)】
【2449/中藤・美猫/女/7歳/小学生・半妖】
【2797/アールレイ・アドルファス/男/999歳/放浪する仔狼】
【2936/高台寺・孔志/男/27歳/花屋】

【NPC/三下・忠雄/男/23歳/白王社・月刊アトラス編集部編集員】
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
【NPC/桂/男/18歳/アトラス編集部バイト】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
「プラントショップ『まきえ』」ゲームノベル第一弾「三下頭巾ちゃん」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
昔話なので話を1つに統一させて頂きました。他の方のを見ても全部同じです。
やはりというか何と言うか、今回の参加希望者は狼に集中しました。なんと参加者7人中4人が狼。…ある意味凄いです(笑)
なんとか全役揃ったので一安心。揃わなかったらどうしようかと思ってました。
ちなみにあくまでナレーションと視点は別にし、最後の役柄発表まであくまで役名で書かせて頂く運びに。
なので、「自分以外の参加者は一体誰だ?」と悩み、考えながら読んでいただけたら成功かな、と思ってます。
まぁ、解る人はすぐわかっちゃうとは思いますが。何せ一人称とか設定・相関の関係とかでバレる人もいますので(爆)
でもとても楽しかったです。そりゃあもう、皆さんのプレイングを反映しきれなかったのが心残りなくらいに!(笑)
一部の人は憐れなオチを迎えてますが…まぁ、それはそれ、ということで(オイ)
勿論三下さんは当然の如く最後まで憐れな役を貫いて頂きました(笑)
なにはともあれ、どうぞ、これからもこのゲーノベシリーズをよろしくお願い致します(ぺこり)

皆様、ご参加どうも有難う御座いました。
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。