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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


私は悲しい死神

オープニング


 碇・麗香さん、あなたの魂を三日後に冥界に連れて行きます。

 今朝、届いたハガキにはたった一言だけが書かれていた、
 郵便局のハンコがないところを見ると、直接アトラス編集部の郵便受けに投函したのだろう。
「…何よ!これは」
 碇・麗香はかなりのご立腹の様子でハガキをグシャと握りつぶす。怒るのも無理はない。
 三日後に碇・麗香は死ぬ、といわれているのだから。
 三下は自分に火の粉がかかってこないように昼食に行ってきます、と言って編集部から出ようとした。
 …………が。
「さんした君」
 ぎく、と肩を震わせた後に「な、なんでしょう?」とわざとらしく問いかけてみる。
「コレの件、調べてくれる…よねぇ?」
 どうやら拒否権はないようだ。
「え、しかし…ボクの手に負えるものでは…」
「…さんした君、もしこれで私が死ぬような事になってごらんなさい」
 碇・麗香は三下の肩に手を置きながら言う。
「あなたも道連れよ」
 分かった?と笑いながら聞いてくる碇・麗香に三下は拒否する事は出来ずに首を大げさに縦に振る。
「そ、じゃあよろしくね」
 三下は自分の安全のためにも何としてでもこの件を解決しなくては、と心に誓った。



視点⇒柚木・シリル

「死神、ですか?」
 シリルは三下からの電話で話を聞いて驚きの声をあげた。
 どうやらアトラス編集部の編集長、碇麗香が命を狙われているらしい。
 しかも―…死神に。
「何より怪訝なのはハガキですよね。一体何の為に届けられてきたのでしょうか?」
 ただ麗香という存在を冥界に連れて行くだけならば予告など不要だとシリルは思う。
「とにかくそちらに向かいますね」
 そう言ってシリルは一旦電話を切ってアトラス編集部へと足を運ぶ。
 アトラス編集部に向かう間にもシリルは解決策を考える。わざわざ届けられたものなのだから何か意味があるのではないだろうか?
「あ…」
 もしかして、とシリルは前へと進む足を止めた。
「執行猶予、という意味じゃないんでしょうか…」
 人込みの中を立ち止まってシリルは小さく呟いた。
「…とにかく、アトラス編集部に早く行かなきゃ…」
 解決策を考えていて、アトラス編集部に行ったら全てが終わってました。なんてシャレにもならないのだから。


「遅くなりました」
 あれから数十分後、シリルはアトラス編集部の三下と麗香の所までたどり着いた。
「わざわざごめんなさいね」
 まず最初に麗香がシリルに話しかけてきた。
「いいえ。私も興味がありましたから。それで…ハガキのことなんですけど…」
 そう言ってシリルは自分なりの解釈を三下と麗香に話した。
 もしかしたら『予告』ではなく『警告』なのではないか?ということ。
 そして、その三日だけでも麗香が変われば死神は諦めるのはないかということ。
「ですから、麗香さん…三日間だけでも優しくしてください」
 にっこりと笑いながら言うシリルに麗香はヒクと眉間にしわを寄せる。
「三下さんも協力してくださいね」
「はっ、はい…」
 それから麗香にとっては地獄、三下にとっては天国の日々が二日続いた。

 そして、三日目の夜。

「今日の12時を過ぎたらもう安心ですね」
 シリルが言うと麗香はやつれた声で「そうね…」と呟き、三下は「はぁ…」と溜め息をついた。
「さんした君、覚えておきなさいよ…」
「ひっ」
 麗香の言葉に三下はビクッと肩を竦ませるがシリルから「ダメですよ、そんな言い方したら。死んでもいいんですか?」とハガキとカレンダーを見せる。
「…そうね。ここまでガマンしたんだもの…生き残らなくちゃね…ねぇ?三下君」
 麗香の大人しい声に三下は声にならない悲鳴をあげたのだとか…。
「…随分と騒がしいんですね。もうじき死ぬ時間だと言うのに」
 突然女性の声がアトラス編集部に響いて三人は声のほうに視線を向ける。時間も遅いせいか三人以外は誰もいない。
「…どちら様でしょうか?」
 シリルは大人しくその女性に話しかける。
「…そのハガキを送ったモノだけど」
 死神、確かに女性の格好は漫画などでよく見かけられる死神の定番衣装のようなものを着衣している。漆黒の服に身の丈ほどもある大きな、そして鋭い鎌。
「…死神さん、ですか…死ぬと言う事はやはり麗香さんを連れて行くのですか?」
「えぇ、これからちょっと視てからね」
「視る?」
 死神の女性が言うには冥界に連れていかねばならない人物かどうかをチェックするのだと言う。もし、そのチェックをして連れて行かねばならないと判断されたら完璧に麗香は死んでしまうだろう。
「じゃ、ここ三日の様子をチェックするからねー。あ、緊張しなくてもいいのよー」
 死神の女性はケラケラと明るく笑いながらジッと麗香を見つめている。
「あれー…」
 気まずい沈黙が流れて十分ほど経った頃に死神の女性が疑問の声をあげた。
「この前までは最悪度がマックスだったのに…今はギリギリセーフ地点ね」
 死神の女性は「ちぇっ、今月のノルマやばいのに…」とブツブツと文句をいいながらハァと大げさな溜め息をついた。
「…あのぉ…?」
 シリルと三下、麗香は状況が飲み込めずに死神の女性に話しかける。
「碇麗香は連れて行けないわ。ギリギリセーフだもん。連れて行ったら私が怒られちゃうし…他に悪い人いない?私、今月のノルマやばいのよ…」
 死神の女性はまるでキャッチセールスのような言葉を三人に投げかける。
「い、いえ…残念ながら…」
 シリルもたじろぎながら言葉を返す。
「そ、じゃあ…用はもうないわ。じゃあね…」
 そう言って死神の女性はフッと姿を暗闇に溶け込ませた。
「……………一体、この騒ぎは何だったの…?」
 死神の女性が消えてから数分後に麗香がポツリと呟く。
「…でも、三日間ガマンしたから死神に連れて行かれなかったんですよ。良かったですね」
 確かに、と麗香も頷く。もしあの三日間のガマンがなかったら今頃、麗香は無事ではすまなかったのかもしれないと思うとゾッとする。
「ということは…」
 麗香が言葉を区切って三下に視線を向ける。
「とりあえずは安全なわけだし、三下君、キミ…三日間も好き勝手してくれたわよね」
 麗香がポツリポツリと呟きながら三下に詰め寄る。
 そう、三下はこの三日間、今までの恨みをはらしているかのように麗香に厳しくしていた。何かとあればカレンダーとハガキをちらつかせられ、その度に麗香は怒りが限界を超えそうな思いをしていたらしい。
「い、いや…これは編集長のためを思って…」
「問答無用よ!三下くん!」
 シリルはその二人の様子を見て、あははと苦笑をもらす事しかできなかったとか…。

 そして、この夜にアトラス編集部に新しい怪談話が生まれたのだとか。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


2409/柚木・シリル/女性/15歳/高校生


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■         ライター通信          ■
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柚木・シリル様>

いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です。
今回は「私は悲しい死神」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございます。
この話を書いているときに悲しいのは三下だったのかも…と思ったりしました…^^;
少しでも面白いと思ってくださるとありがたいです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


                  ―瀬皇緋澄