コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


記憶映画館 〜そうだ、廃墟、行こう2〜

「記憶、映画館?」
 草間は、ぽつりとつぶやいた。
 記憶。それは、あいまいなもの。楽しいもの、嫌なもの、怖いもの、悲しいもの。
 誰しもが持つもの。それが記憶。
 だが、それは時がたつにつれ、しだいにぼやけてくるものだ。
 しかし。
「はい、頭の中の記憶を映像にして見れる映画館があるのです」
 男は、熱っぽく語りだした。
 男によると、その映画館ではひとつだけ、自分の大切な記憶を完璧に再現することができるという。
 完璧とは、つまり……。
「望めば、死んだ人にも会えるということか」
 触れる、聞く、会話する。限りなくリアルで体験することができるというのだ。
 ただし、上映時間は30分。
 そして、その映画館は廃墟だった。
(なぜ、廃墟でそのようなことが……)
 草間は男の瞳を見つめた。男の目は、不気味に輝いていた。
 


■1・依頼者は


「―というわけなんだ」
 草間は、おもむろにライターを取り出すと、くわえたタバコに火をつける。はあ、と吐き出された煙は空中で
薄く広がった。
「……廃虚、ですか。しかも、映画館」
 ふむと考え込む仕草をし、つぶやいたのは綾和泉・匡乃。すらりとした長身の男である。肌がぬけるように白
い。憂いをおびた瞳は、黒くぬれて輝いていた。スーツをさりげなく着こなしたその姿は、予備校教師でありな
がらもまるで紳士のようであった。
「草間さんのところに、こんな話が来たのは何故ですか? 依頼とも思えませんけど」
 匡乃はけげんそうに、眉をひそめた。
「まあ、それについてはいろいろあるんだが……」
 草間は、タバコを灰皿に押し付ける。じゅうという音とともに、火が消える。
「つまり、映画を試せって依頼?」
 壁にもたれかかり、腕を組んでいる妖艶な女性。シュライン・エマ。胸ぐりの大きく開いたスーツを着、腰ま
である長い黒髪をひとまとめにしている。翻訳家、幽霊作家、そして草間興信所の事務員という三つの顔を持つ
彼女であったが、今日は事務員としてこの場にいた。
 切れ長の瞳で、ちらりと草間をみやる。
「……怪しいわね、依頼人が」
「ああ」
 草間は、軽くうなずく。
「まあ、どうもその男の話によると、怪しい都市伝説の類を調べてくれということらしいんだが……」
「わざわざ、ここに依頼するほどのものかよ」
 突然、割って入ったのは雪森・雛太。やや幼さが残る、柔和な顔立ちの青年である。きれいに整えられた眉の
下には、黒く大きな瞳がのぞいている。唇はかすかに赤味を帯びていた。しかし、そんな顔立ちからは想像もつ
かないような、ぶっきらぼうな言葉が発せられる。
「大体そいつ、なにが目的なんだ?」
 さらさらとした黒髪が、ふわりと揺れる。
「―本当に再現できるのかどうか。それを調べて欲しいということらしい」
「……そんなもん、自分で行って体験すればいいことじゃねえか」
 同じく、吐いて捨てるようにつぶやかれる言葉。強い視線を感じ、草間は振り返る。そこには、燃えるような
緋色の瞳で草間を見つめている男がいた。日向・龍也。全身黒で統一された姿。特殊素材のジャケットを着込み
ぴたりとしたズボンを履いている。
「ああ、そうだな。そうなんだが……」
 草間は困ったようにぽりぽりと頭をかいた。
「ただ、自分は仕事の関係で行けないと言われたんだ。無駄足は踏みたくないとね」
 そのとき、興信所の扉が大きく開いた。
「学校帰りに遊びにきたよぉ〜〜〜!!」
 元気な声があたりに響きわたる。海原・みあお。まだ幼い少女である。肩のところで切りそろえられた銀の髪。
制服を着ており、首もとで結ばれた赤いリボンがふわりと揺れる。みあおは、今までの話を草間から聞きだした。
「って、廃虚?? 今度は病院じゃないんだね!? だったらみあおもいく!!」
 透き通るような銀の瞳が、きらきらと輝いた。
「懐中電灯と虫よけは廃虚探索の基本だよね。んで、映画鑑賞にはポップコーンとジュースも基本だよね!」
 そのとき、後ろから声がかかる。
「みあおちゃん、これは遊びじゃないんですよ」
 みあおは驚き振り返る。そこには、はかなくも美しい青年が、車椅子に乗っていた。
「セレスティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「やあ、こんにちは、みあおちゃん」
 セレスティはにっこりと微笑む。セレスティ・カーニンガム。細面の顔、透明な蒼色の瞳。細く長い銀髪は、
もつれあうようにして肩にかかっていた。品の良い雰囲気は、財閥総帥という立場から自然に発せられるもので
あろう。
「なんで、セレスティもいるのぉ?!」
 みあおは、セレスティの後ろに回りこんで、小首をかしげる。
「ええ、私も……興味がありましたからね」
 セレスティは、手を組むとどこか遠くを見つめた。
「あんた、誰に会いたいんだ?」
 雛太が声を掛ける。
「……ええ、両親に、ですね」
「両親……か」
 龍也がつぶやく。
「ええ……」
 セレスティは寂しげな笑みを見せた。その表情は、かすかに憂いを帯び、彼の美しさを一層引き立てていた。
「私の手の届かない、遠い遠い世界へ……」
「悪いこと、聞いちまったな」
 雛太は、困ったようにぽりぽりと頭をかく。そんな雛太にセレスティは優しく声を掛ける。
「いえ、お気になさらずに」
「でもよ……」
 セレスティは、きらきらと輝く笑顔を向ける。その表情は、天使のように穏やかであった。
「いえ、本当に」
 セレスティは、ぴっと人差し指を立てた。
「生きてますから♪」

 ちゅどごぉぉむ!

「!!!!?」
「な……んな……??」
 その突然の言葉に、雛太と龍也は動揺する。たらり、とこめかみから一筋汗が流れ落ちる。
「ええ、すむ世界が違うだけであって。おっと、これ以上はいえませんが♪」
 セレスティは、再び、ぴっと人差し指を立てた。
「だよね〜? みあお、おかしいなぁって思ってたもん!」
 みあおはセレスティに抱きつく。
「はははは、みあおちゃんは知っていたんでしたっけ?」
「うん!」
「あははははは♪」
「あははははは♪」
 二人はお互いの手を取り合いくるくると回る。その様子を他は黙ってみているしかなかった。
「な……なんだか話がそれたが」
 草間がごそごそと、ポケットをまさぐる。
「もうすでに、依頼を受けてしまったしな……。ほら、それにこんな招待券ももらってしまったし……」
 そういうと、草間は券をつきつける。
 シュラインは、それを受け取るとまじまじと眺めた。
「そこまで手に入れているのなら、仕事を休んでもいくはずですが……」
 匡乃はふむとうなずく。
「配って歩いているのかしら……」
 シュラインの言葉に、あたりの空気が一変する。
「罠かもしれないしな」
 龍也が苦々しげにつぶやく。
「まあ、なんにせよ依頼人が怪しいわね」
 そのとき、がちゃりと興信所の扉が開いた。
 みな一斉に注目する。
「あ、すみません。遅れて申し訳ありません。記憶映画館の件で来たんですけど……」
 そこには、スーツ姿のの若い男が立っていた。


* * *


「どういうこと?」
 シュラインが草間に尋ねる。
「わからん……」
 草間は頭を抱えて考え込む。
 先程の男が、実はアポイントをとっていた正規の依頼人であったのだ。招待券をもらったのだが、場所がわか
らない。だから、その場所を突き止めて欲しいと。
「だって、この場所はわかっているんだろ?」
 雛太がつぶやく。
「廃虚だって。そうだろ?」
「ああ、そうだ……」
 草間はますます困った表情をみせる。
「なんで、みつからないんだろう?」
 みあおは、小首をかしげる。
「じゃあ、あいつが正規の依頼人なら、武彦のとこに来た奴は誰なんだよ?」
 龍也がたずねる。
「だぁぁぁ! いっぺんに話しかけないでくれ!」
 草間は叫んだ。
 まあまあ、と匡乃が草間をなだめる。
「とにかく、いってみるしかないんじゃないんですか?」
 セレスティが、ぴっと人差し指を立てる。
「そうすれば、すべてがわかりますよ」
「そうですね……」
 匡乃も、それに同意する。
「ここで考えていても仕方ありませんし」
「依頼は依頼だしね!」
 みあおは楽しそうだ。
「おもしろそうじゃねぇか、いこうぜ!」
 雛太が叫ぶ。
「こんな機会、めったにないしな!」
「招待券は……レイトショーになっているわ」
 シュラインが眼鏡をかけ、まじまじと券を眺める。
「24:00。すばる劇場……」
「聞いたことありませんね」
 セレスティがつぶやく。
「そうね……」
「それじゃあ、れっつごぅーー!!」
 みあおの声が響きわたった。



■2・E それぞれの思惑と準備(龍也編)


 龍也はベランダにたたずんでいた。ある思いが、龍也の胸によみがえる。
 その日は雨上がりの夜だった。人気の無い路地裏で、龍也は30人の男に囲まれていた。
「あのとき俺は……」
 一分と立たないうちに、20人弱が地に転がる。そして―。
「そして?」
 ふと、龍也の記憶が途切れる。
「女が……そして……? 俺は……」
 思い出せない。龍也は混乱していた。龍也は、ふと空を見上げた。三日月は青く冷たい光を投げかけていた。



■3・記憶映画館


 指定された場所は更地であった。
「う〜ん、やっぱなんにもないよぉ〜……」
「おかしいですね……」
 セレスティとみあおはお互いに眉をひそめる。ずずず、と魔法瓶から味噌汁をとりだしすすっていた。
 そのとき。
「おおおおお!?」
 突然、声が上がる。二人は声の上がったほうへと急ぐ。手に握ったチケットは奇妙な光を放っていた。
 みあおはセレスティの車椅子を押し、速度を上げる。たどり着いた先には、雛太が指を指していた。
 すでにまわりには龍也、シュライン、匡乃も集まっていた。彼らも同じくそれを見ていた。
 目の前に、ぼんやりとした映画館が浮かび上がる。そしてそれは、廃虚であった。
「これは……」
 匡乃が目を細める。
「なにか、危険な香りがするな」
 龍也がはき捨てるようにつぶやく。
「ちょうど、24:00……」
 シュラインは時計を見ると、現れた映画館を見上げた。
 みな、お互いの顔を見合わせると廃虚の中へと侵入した。


■4.スクリーン


 映画館の内部は、朽ち果てていた。ぼろぼろになったポスターが散乱し、壁は崩れている。シュラインと匡乃
は、廊下を歩いている時に、自分達が調べてきたことを皆に話した。
 匡乃は、すばる劇場についての事実。1972年に営業。経営者、高橋幸史。最盛期は、最大従業員20名。
主に娯楽映画を上映。しかし興行成績の悪化のため85年閉館。都市開発地区の一部として更地となる。そして、
その本に載っていた経営者の顔は、自分が草間からみせられた写真と同じだった。
 つまり、最初の依頼人=経営者であるということ。
 シュラインも同じことを調べていたが、さらに彼女は突っ込んだところまで調べていた。
 この劇場で何が起こったのか。それは、このような事件であった。


すばるサブリミナル事件:すばる劇場で起きた死亡事故。映画を見ていた客が、自殺したくなる衝動に駆られ実
行に移した。原因は、広告宣伝のために使われたサブリミナル効果。それを死にたくなるような映像にすりかえ
て映画と共に配信した疑い。動機は不明だが、経営者自身が「人生は映画だ」とつぶやいていたという。
以降、評判を落とし、すばる劇場は閉館となる。その後、経営者は自殺。


サブリミナル:顕在意識には知覚されないが、潜在意識には届く、特殊な刺激により潜在意識を活性化させる手
法。視覚系では
・速く画像をフラッシュさせる方法
・隠し絵のように絵やメッセージを画像のなかに忍びこませておく方法などがある。

―自殺。すでに経営者は死んでいた。
「だから、草間さんのところに最初に来た人物は、もうすでに死んでいる人だったのよ」
 シュラインはつぶやく。
「マジかよ……」
 雛太がいまいましげにしゃべる。
「私が調べたことの補足なんですが」
 匡乃は語りだす。
「どうやらこの映画館は、オリジナルの映画を流していたという事実もあるようです。むしろ、こちらのほうが
量が多い」
「それは、経営者の趣味って奴か?」
 龍也はぽりぽりと頭をかく。
「わかりません。その辺に関しては……」
 匡乃は眉をひそめた。
「ねぇねぇ! スクリーンがみえるよ!」
 みあおの声に皆が集まる。セレスティがじっとスクリーンを眺めている。
「なにか……危険な気配がします」
 そのとき、ふらふらと数人がスクリーンのほうへ引き寄せられていった。
「あっ……!」
シュラインが止める間もなかった。


■5・B 記憶


 龍也は、スクリーンをじっと眺めていた。そこに、不思議な映像が浮かび上がる。
 その日は、雨上がりの夜だった。人気の無い路地裏で、龍也は30人前後の男達に囲まれていた。
「てめぇら、そこをどけよ」
 龍也は鋭い瞳で彼らを見据える。次の瞬間。龍也の目の前に、10人の男達が地にふしていた。
「ぐっ……」
 龍也を捕縛しようとしていた男達は、その行動を抹殺に切り替えた。だが。
「うわぁぁ!!」
 男達が吹っ飛ぶ。その数、20人。あるものは壁に叩きつけられ、またあるものは地面に激突した。
 残りの者は、じりと後退する。と。
 突然、路地裏から女性が飛び出してきた。めがねで、おさげ髪の地味な格好をした女性だ。男達はにやりと不
適な笑みを浮かべると、一斉に女に襲い掛かった。女性は、悲痛な声を上げる。
 だが。
 龍也が前に立ちはだかる。女性は驚いたような表情で龍也を見つめる。龍也の表情が苦しげに歪む。剣が龍也
に刺さっていた。それは肩から腹に抜けていた。龍也はその状態で、なおも男達を倒す。
すべてを殲滅させた。ぽたぽたとしずくがたれる。そのまま龍也はうつ伏せに倒れる。きゃああっという女性の
悲鳴が聞こえた。
 薄れ行く意識の中、ふと優しい感触に包まれる。誰かが、呼んでいる。そして、龍也は引き戻された。
 龍也は目を開けた。そこには、母親が倒れこんでいた。
「母さん……母さん……!?」
 龍也は自分の腹を見た。傷跡は消えていた。龍也は悟った。母親が禁術を使ったということを。
「た……つや……」 
 母親は、涙を浮かべながら弱々しく手を差し伸べた。
「ごめんね……」
 その手が、龍也に触れる前に。手は力を失った。
 龍也の瞳が大きく見開かれる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 龍也は天に向かって吼えた。そして、膨大な魔力が龍也の体から放出された。
 次の瞬間、龍也は現実に引き戻された。




■6 戦い


「きゃぁぁぁ!!?」
 みあおの声が響きわたる。みあおはスクリーンからでて来た巨大な腕につかまれていた。鋭い鍵爪がみあおの
首元を狙う。
「みあおちゃん!?」
「みあおさん!!」
 セレスティ、匡乃が駆け寄る。だが。
「だめよ……! 下手に手出しできない!」
 シュラインが叫ぶ。
「くっ……!」
 ぎり、と雛太は歯を食いしばる。自分が何もできない状況に、怒りを覚えるかのように。
「人生は……映画だ……!」
 スクリーンから、声が響く。
「だ、誰です……」
 セレスティがつぶやく。
「あいつだわ!」
 シュラインはスクリーンに向かって指を突きつけた。
「高橋ね!? なぜ、なぜ今さらこんなことを!?」
 すると、スクリーンに、いやらしい男の顔が映り、中からくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「くっくっくっく……。おろかな者たちめ……」
「なんだと……」
 龍也は反論する。だが、匡乃に制止される。
「なぜ、あなたはこんなことをするのですか? 何の目的で?」
「人生とは、映画だ。私はオリジナル映画をたくさん上映してきた。だが、それはすべて私の記憶。私の中の記
憶達。それをすべて映画にしたのだ」
「ほう」
 雛太がつぶやく。
「私は、満足できなかった。今度は、私は他人の人生が欲しかった。だから殺した」
「サブミリナルね……」
 シュラインは苦々しげにつぶやいた。
「私は気づいた。ここが、死んだ人間の記憶を吸い取ることができる場所だということに。その記憶は、フィル
ムとなり映画となり、そして永遠となる」
 くくく、と下卑た笑いが聞こえる。
「すべては、私のコレクションのために! 人間の記憶ほど素晴らしい映画はない!」
「取り付かれている……」
 セレスティは眉をひそめた。
「なにか、恐ろしいものに、取り付かれています」
「あいつは狂ってる」
 雛太は吐き捨てた。
「何かに取り付かれていたとしても、ほとんどあいつの意思なんだ」
「サブミリナル。潜在意識に働きかけて、記憶を増幅させる。だがその記憶は、絶望への記憶にすりかえられ
る」
 高橋の顔が歪む。
「今の世は、絶望した人間が多い。みすみす死ぬなら、私の元で死ぬがいい。素晴らしい芸術を残して!」
「チケットを配ってたのは、そういうわけだったのね」
 シュラインは、鋭い瞳でにらむ。
「他の二人は、掴み損ねたが、この子供はひっかかってくれた。あとは絶望して死ぬだけだ」
「みあお!」
 龍也が叫ぶ。
「……いえ、大丈夫ですよ」
 セレスティが龍也の横でつぶやく。
「なんだと?」
「あの子は……死にません」
「どういうことだ?」
 セレスティは、龍也を見上げる。
「あの子は、『絶望』できないんです……」
 その瞬間、龍也は駆けていた。
「みあおーーー!!」
 みあおは遠くを見つめていた。龍也は地を蹴る。その瞬間、ふと青い霊羽が現れた。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
 龍也の瞳が、激しく光る。次の瞬間、大量の霊剣が姿を現していた。
「これでもくらいやがれーーー!!」
 龍也が腕を振り下ろした時。一斉に大量の霊剣が降り注いだ。

―ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 恐ろしい叫び声と共にスクリーンはずたずたに引き裂かれた。巨大な手には、大量に霊剣が刺さり、ぽろりと
みあおが落ちた。匡乃がみあおを抱きかかえる。
 次の瞬間。

ごごごごご……。

「なっなんだ!?」
 雛太が叫ぶ。
「く、崩れますよ!!」
 セレスティは天井を見上げた。ぱらぱらと小石が降り注ぐ。皆は一斉に出口に向かって走り、外に出る。
 間一髪というところで、映画館は崩れ落ちた。
「あぶないところでした……」
 匡乃はつぶやく。
「あ、あれ……」
 シュラインが指さす。そこは、今まで映画館があった場所。瓦礫と化した映画館は、すっとその姿を消してい
った。あとには、更地だけが残った。
「夢か、幻か……」
 雛太はその光景を眺めていた。
「みあおさん?」
 匡乃の腕に抱かれたみあおは、う〜んと声を上げた。
「あれ? ここは?」
「みあおちゃん!」
 セレスティが車椅子で駆け寄る。
「セレスティ! なんでみあお、ここにいるの?」
 セレスティは、にっこりと微笑んだ。
「よかった、よかったです……」
「?」
 みあおは、小首をかしげた。
「じゃあ、みんなで写真とろーー!!」
「ええぇぇ!?」
 皆は驚きの声を上げる。しかし、みあおは気にする様子も無い。
「記念写真だよ! みんなでとろ? 絶対楽しいって!」
 みあおは、にっこりと微笑んだ。



■7・B それから
 

 後日。何も無い更地で移した、とびきりの笑顔の写真が、龍也のもとに届けられた。
 龍也はそれを一瞥すると、優しい笑みを浮かべた。
(記憶……か)
 たとえ、形に残らなくても。その思いは、色あせることがない。龍也は、空を見た。穏やかな表情の女性が、
龍也に微笑みかけているようであった。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術師】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1537/綾和泉・匡乃/男/27歳/予備校講師】
【1415/海原・みあお/女/13歳/小学生】
【2254/雪森・雛太/男/23歳/大学生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


 どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章だということです。また小文字が入っ
ているものは、同じ展開で、ちょっとアレンジが加えてある場合を指します。

 この文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。もし機会がありましたら、他の参加者の
方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるかと思います。また今回の参加者一覧は、受注順に掲
載いたしました。


 大変お待たせいたしました。最初に頼んでくださった方には、遅れを生じさせてしまって大変申し訳ない気持
ちでいっぱいです。その分、個別を多めにと頑張ってみたのですがいかがでしょうか。

 思えば、この廃虚シリーズが私の最初の東京怪談でした。再び参加してくださった方の中には、その時のメン
バーの方もいらっしゃって大変嬉しい気持ちでいっぱいです。また何かの折にはよろしくお願いいたします。

それでは、今回はどうもありがとうございました。

龍也様>依頼のご参加ありがとうございます。過去に様々な思いをしていらっしゃるようですね。でも龍也様の
その強さで、きっと乗り越えられるのではないか……と感じました。戦闘では先陣を切ってのご活躍、何よりだ
と思います。それでは今回はありがとうございました。