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<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜~act1~

オープニング

「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」



視点⇒幻・―


 獣達の啼く夜〜act1〜

「…七人目の犠牲者…」
 最近多発している連続通り魔事件の七人目の犠牲者が出たと言う事で幻は現場の公園まで来ていた。
 実は幻は連続通り魔事件の最初の犠牲者でもあり、桃生叶の妹でもある里香の死体の第一発見者でもあった。その時に能力を使って里香の記憶を奪い、桃生叶の事を知った。
「あら、あなたは…」
 現場を離れてきた叶が幻に気がついて近づいてくる。
「どうも…」
 幻はペコリと頭を叶に下げる。幻の外見はフードとマフラーと一見怪しい人物に分類されそうではあるが、叶は幻が対人恐怖症ということを知っていたので、何のためらいもなかった。
「里香の事からまだ三週間しか経っていないのに、もう七人目の犠牲者が出ちゃったわね…」
 叶は公園のベンチに幻と座って、缶コーヒーを渡しながら言う。
「警察も何やってんだか…あは、私が言える言葉じゃないわね」
 叶は笑いながら言ってはいるが、その笑顔はとても無理をしているように幻には見えた。
「今回の事件も…例の殺され方ですか?」
 幻が問いかけると、叶はしばらく間を置いてから頷いた。
「そう、今回も獣に食い殺されたような酷い殺され方。今回は里香と同じ年の子だったわ」
 きっと、現場を抜けてきたのも被害者の女の子と自分の妹が重なってしまい、居たたまれない気持ちになったからだろう。
「このままじゃ犠牲者が増えるだけだわ。私は今夜、ここを調べてみようと思ってるの」
「女性一人は危なくないですか?」
「里香が味わった恐怖に比べればなんてことないわ」
「…では、僕も行きます。これ以上犠牲者を増やしてはいけないから…」
 幻がそう言うと、叶は「ありがとう」と小さく答えた。
「じゃあ、ちょっといいですか?」
 そう言って幻は左手で叶の肩に触れる。
「何?」
 叶は何事かと眉間にしわを寄せながら幻に話しかける。
『お互いの連絡手段がないでしょう』
「え?え?何コレ、頭の中に声が響いてくる…」
 幻の能力に叶は戸惑いながら幻を見る。
「じゃ、今夜もう一度ここでお会いしましょう」
 途惑う叶を置いて、幻はその場を立ち去った。
 そして、夜までの時間つぶしにファミレスに入った。
 幻は最初の犠牲者、桃生里香の記憶を奪っている。それなのに彼女の記憶の中には犯人の映像はなかった。死ぬ、と思う間もなく殺されたのか、あるいは…何かによって記憶そのものが消されてしまったのか…という事になる。
 幻はその犯人に興味もあった。自分の絶対的な能力を掻い潜った存在に。
「まだもう少し時間はあるな…」
 あれからずっと考え事をしていたら時間が結構すぎていた。いい加減ファミレスを出ないと店員の恨めしそうな目にどうにかなってしまいそうだ。
『今、現場にいるんだけど少し様子がおかしいの、ちょっと時間は早いんだけど来てくれないかしら?』
 叶の突然の連絡に幻は足早に昼間の公園に足を進めていた。

 それから数分後に叶と合流した。
「ごめんなさいね」
「いえ、何かあったんですか?」
「あれ、見てもらえる?」
 叶が指差した方向はビニールシートで覆われた殺害現場。
「あそこが何か…?」
「さっきからちらちらと懐中電灯の光が漏れてくるのよ。あ、ほら」
 確かに叶の言うとおりに不自然な光がシート越しに見える。もしかして犯人が戻ってきたのかもしれない、という考えに二人は行き着いた。
 犯人を示すものを落として、殺害現場に戻ってくるのはドラマや漫画の中では当たり前のように描かれている。現実ではそんな事はあまりないのだけれど…。
「とりあえず見てきます」
 そう言うと、幻はベレッタM92FSを取り出してから現場に向かおうとする。
「ちょっと待ってっ、何で一般市民のあなたが拳銃なんか所持しているの?銃刀法違反よ」
「………」
 しまった、と言い訳を考えていると叶がクスと笑いながら「冗談よ」といった。
「協力してくれるんだもの、コレくらいは大目に見るわ。だけど、危ない使い方をしたら即逮捕するからね」
 そう言って叶は幻を見送った。最初に幻が見に行って、異変があるようであれば、もしくは幻の帰りが遅いときは叶が後から行く、という方法をとった。
 最初から二人で行って、万が一二人とも捕まってしまったらシャレにもならないからだ。

 幻はベレッタM92FSを手に持ってシートの中に入る。先ほどの光をさがしてみるが、幻に気がついて光を消したのか見つけることはできなかった。
「グゥゥウ…」
 突然の呻き声に幻はハッとして後ろを振り返る。だが、振り返ると同時に強く殴られて、壁に叩きつけられる。
「…ゲホッ…」
 幻は息を整えて、目の前のソレを見て驚きで目を丸くする。
 よく漫画などで獣人を描く漫画などがあるが、幻の目の前にいるのはまさしくその獣だった。よく見れば所々が人間のようなカタチをしていた。
「…なっ…」
 幻は距離を取るために一発だけ発砲する。弾丸はその獣の肩を撃ちぬいたが、痛みに悶えるところか、ニィ、と気味の悪い笑みを浮かべて幻を見る。
 まるで痛みなど感じないかのようにも思えた。
「何があったの!?まぼ―…」
 銃声を聞いて叶が慌ててシートの中に入ってくる。
 入ってきちゃダメだ!そう叫ぶ間もなく叶も壁にたたきつけられてしまう。
「叶さん!」
 幻は叶に駆け寄る。幸いにも打ったのは頭だけで命に別状はなさそうだ。
 幻はホッと胸をなでおろすのと同時に怒りも込み上げてきた。
 桃生里香の記憶に犯人の姿がなかったのは恐らく見る間もなく殺されてしまったからだろう。
「七人も殺して、まだ血を求めるのか」
 幻はそう言ってまたバスンと銃を撃つ。
 今度の弾は獣の頭を打ちぬいた。獣は鼓膜が破れてしまうような咆哮をあげて砂へと姿を変えて消えていった。
「お見事」
 パッと光を当てられ、幻は目を細める。その光が懐中電灯の光だという事に気がついたのは数秒後の事だった。
「いい腕してるね」
「誰、ですか?」
 懐中電灯を持っているということは先ほどの光の主と見て間違いはないだろう。どんな人間かと思えば、まだ少年のようだ。
「俺は十六夜・夜白、さっきの獣を作ったモノさ」
 クッと笑いながらいわれる言葉に幻は疑問を感じた。
「作った…?」
「そう、人間とライオンの合成遺伝子生命体」
「な、んで…そんなものを―…」
 幻の言葉が癇に障ったのか夜白は表情を変えてこたえた。
「遥か昔に人間が俺に対してした事に復讐をしているだけさ、目には目をという言葉があるだろう?だから俺は同じことをしているだけだよ、貴様ら薄汚い人間どもと同じ事をな」
 言葉の最後は夜白は顔を歪ませながら言っていた。
 話を聞く限り、夜白という少年も人間でないのだということが分かった。しかも、人間の手で人間を捨てさせられてしまったということも。
「…だからって、関係のない人間を巻き込んでまで…」
 幻の言葉を最後まで聞かずに夜白はけたたましく笑い始めた。
「罪のない人間?罪のない人間なんかいるものか。罪ってモノは遺伝するんだ。だから人間は生まれながらにして罪人なんだよ!」
 幻は夜白の言葉を聞きながらベレッタM92FSの引き金をひこうとした。
「おっと、今日はやりあうつもりはないよ。もっと楽しまなくちゃ、それじゃ、また会える日までごきげんよう」
 そう言うと夜白は丁寧に頭を下げて夜の闇へと溶け込んでいった。
 七人の犠牲者を出した犯人は滅する事はできたが、諸悪の根源は逃がしてしまった。
「…また、出てくるつもりなのならば…手加減はしない…」
 幻の言葉は闇夜を照らす月だけが聞いていた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3362/幻・―/男性/1歳/能力の残滓

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■         ライター通信          ■
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幻・―様>

初めまして、今回「獣達の啼く夜」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
今回は「獣達の啼く夜」い発注をかけてくださいまして、ありがとうございました!
話の内容はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったらありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^


               −瀬皇緋澄