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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


音楽室の怪5:響カスミの「持っている物」

【Opening】
 響カスミは走って逃げている。
 後ろには音楽魔神が何かを叫びながら彼女を追っている。
「た、たすけて〜!」
 カスミは何かを持って信じられないスピードで走っている。
「まつのだ、麗しき女性よ!」
 音楽魔神はカスミを呼び止めようとしているが効果はない。
 カスミが持っているものは、古ぼけたヴァイオリンと何かの楽譜。
 とうとう、彼は彼女を見失ってしまった。
「あの二つが揃うとは……た、大変なことに!」
 運動不足ではないが、息を切らし立ち止まる魔神……。

 カスミは、何とか魔神から逃れたが……。何か様子がおかしい事に気付く。
 見たことのない音楽室だった。第9音楽室に似ているオーケストラタイプ音楽室だ……。
 
 ――弾いて……
 声がする。女性の声。
「だ、だれ!?」
 周りを見渡すと……。
 
 
 ぼんやりと白い影が……


 現れた。
「きゃああ!」
 神聖都学園の夜に彼女の悲鳴が轟いた。


「しまった! 余としたことが! とうとうあの楽器が……」
 魔神は汗を拭い、カスミを探す。
「すでにアレは固有世界を……其れを探さなければ」
 念話術で、知っている人物全員に「女性が危ない、神聖都学園に来るべし。汝が来られない場合、代理を立てるべし」と伝えた。



【青い鳥がやってくる】
 榊船亜真知は、魔神が息を切らしている所を見かけ、声をかけようとするときに、念話を受け取った。
「魔神さん、どういう事か詳しく教えて下さい」
「おお、亜真知か! 実は……」
 魔神が喋り始めた時に“何か”が彼の頭に直撃する。
「ぶっ!?」
「きゃ!」
 魔神とその“何か”は廊下で気絶してしまった。
 その何かとは、小鳥だった。しかも良く見かける鞄を足で持ちながら、魔神と同じように気絶している。
 小鳥は数秒で、海原みあおに姿を変えたのだった。因みに気絶はそのまんま。
「あらら」
 亜真知がそれを呆然と眺めているときに、鹿沼デルフェスがやってきた。
「どうしたんでしょうか?」
「さ、さあ」
 
 とりあえず、2人を起こすことに。

 魔神は起きてから、
「む、集まってくれたのか。感謝する」
 礼を言う。
「ね、ね。何が起こったの?」
「みあお様、念話の内容ご存じでは?」
「ん〜ん。面白そうだから聞いてなかった」
 てへっと笑うみあお。流石、お気楽極楽鳥娘である。
 最も、あの念話内容だけでは詳しい事は殆ど分からないからどのみち聞かなければならない。しかし、みあおが持っている物で真剣に考えている魔神とデルフェスはため息をつくのだ。そう、デジカメにおやつ、ジュースを持ってきている訳だ。

 一行はの第14音楽室に向かって話をすることにした。
 亜真知は会話の前に織田義明を呼んでいた。魔神と義明が面と向かうのはあまり良くないのだが、腕力担当でかり出されたようである。
「魔神さん詳しくお話しを」
「うむ」
「女性ってカスミ?」
 魔神はみあおの持ってきたジュースで喉を潤し、話し始めた。
「カスミという女性は、魔法のヴァイオリンと楽譜を持っていたのだ。何処で其れを手に入れたかは分からぬ。ただ、あの楽器と楽譜は前回の悪魔召還楽譜に似た類なのだよ。魂喰らいの楽器だ」
「では、悪魔が召還されると言うことですか?」
 デルフェスが魔神
「悪魔と言うより、ヴァイオリンと楽譜自体が意志をもち、揃うと固有世界を展開する。単にそれだけなら余とて何も焦りはしない。しかし、魂喰らいだと話は違うのだ」
「魂喰らい?」
 みあおは、ポテチを食べながら訊いた。
「左様。アレが揃うと、大きな演奏会場の固有世界をつくり、その世界を一度現実とリンクしたとき、この周辺〜つまり、神聖都学園全域〜の魂を刈り取るのだ。その役目を果たすと又どこかに旅立つのだ」
「では、今カスミ様は……?」
「依代として、人柱になるだろう。そうなってはカスミとやらの命が危うい。まだリンクしていない所、空間干渉し、演奏を止めさせなければならぬ。何故こういった類が作られたかは、才能があったのだが認めてもられなかった者達の想念によるものよ。しかし、情をかけて音楽を聞いても無駄。死ぬだけ」
 魔神の言葉で、デルフェスと亜真知は険しい顔になった。
 しかし、みあおはそれほど危機感をも持っていない。
「そんなに、急いでも良いと思うよ。気楽にいこ」
 彼女の視点からは、カスミの命が危ないと言うことは無いらしい。
「まずは、先生が何処に行ったか探さないと」
 義明はコレといって感情を出さずに、立ち上がった。


【歪んだ空間】
「でも、封印しても結局は揃っちゃうから、膿は出しておかないと」
 みあおは青い小鳥になって“違和感”を探す事にした。その変身前に言った言葉。
「曰く付きの代物を破壊するのは良いけど、アーティファクトなのか? 魔神」
「もちろん。そうでなかったら、余とて急ぎはしない」
「では、急いでカスミ様を捜さないと」
 デルフェスはカスミの“命”を感知し始める。
「みなさんこっちに……」
 彼女に付いていく一行。
 10分ぐらい歩いたのだろうか? 別校舎に繋がる渡り廊下を歩いているとき、
 みあおが小鳥でその場所に留まっていた。
「この辺がおかしいよ、何となくだけど」
 変身を解いて伝えるみあお。
「魔力の淀みと空間に歪みがありますわ」
 亜真知とデルフェスは何かを睨んでいるようにして言う。
「空間については、やっぱり亜真知か義明だね!」
 と、みあおは2人を見ていった。
「確かにそうだけど……」
 どうも義明は難しい顔をしている。
「空間さえ斬り裂く“壊の技”は中に居る人さえも影響するし、具体的に世界との狭間が分からないと、解の技は使えないんだよな……」
「難しいのですか? 義明様」
 デルフェスが訊くと頷く義明。
「待って下さい。義明さんは後の腕力担当なので力を温存して頂いた方が良いと思います」
 亜真知が言う。
「ふむ、考えてみればこやつの腕だと中にいるカスミにまで怪我をさせてしまいそうだ」
 魔神も頷いていた。
「では、此処はひとまず第9音楽室に参りましょう」
「「え?」」
 亜真知の発言は皆に首を傾げさせた。
「ここから第9までかなり距離があるよ?」
 みあおが訊く。
「演奏場となるなら、似たような場所から此方で“繋げて”いきたいのです」
 其れが亜真知の答えだった。

 そして、第9音楽室。
「やっぱり大きいですね」
 大ホールになっている特殊な教室。交響曲を行える場所。
「何か感じます……。ビンゴです」
 亜真知は自信たっぷりに言った。
 そう、何かが違う第9音楽室。
「これは、先ほどの歪みと似ていますわ!」
 デルフェスが驚いていた。
「おそらく、此処にヴァイオリンを保管していたのかもしれないです」
 亜真知はざっと周りをみて言う。
「では、空間を繋げますね」
 亜真知は指揮者の立つ場所を起点とし、あちらの世界と繋げる〈門〉を作り上げた。
「行きましょう」
 念のため、音対策として音に耐性を持つ術を皆にかけて〈門〉をくぐる。


【怨念は虚しく】
 皆は門から固有世界に入った。そこはまるで第9音楽室の其れと似ている。出てきた場所が指揮者の立ち位置なので、そこから360度見ることが出来る。
 舞台には、不透明の演奏者の白い影達がオーケストラのポジションを構成し同じように白いぼやけた楽器を持っている。指揮者の位置から少し離れたところで、カスミが気絶していた。
「カスミ様!」
 デルフェスが駆け寄る。息はまだあることを確認する。
「そ! そんな!?」
 息はしていても魂がないカスミ。其れに驚くデルフェス。
「始まる数分前だ……。早く結界を破らなければならぬ。さもなくば人柱となった女性の魂は……」
 魔神は辺りを見渡す。
「急ぎましょう」
 亜真知は白い演奏者の中から楽器を探す。
 デルフェスは中央でカスミを抱きかかえ、ほかは楽器を探そうとする。
 しかし、いきなり耳をつんざくヴァイオリンの音が響いた。しかし、亜真知の音耐性術で誰も影響はない。
「!!」
 ソデの所から、ヴァイオリンと楽譜を持った女性が現れた。
「私達の演奏を邪魔しに来た愚か者め! 世に出ることなく演奏家、音楽家の怨念の叫びを聴くがよい!」
 怒りに満ちた声で怒鳴る。
「貴女の気持ちは分かります。しかし、其れを他の人に八つ当たりで演奏し魂を喰らう事は、いけませんわ!」
 デルフェスが叫ぶ。
「説得は無理みたいですね」
 亜真知は残念な顔をしている。
「本当なら、思いっきり音楽鑑賞といきたいところですが、カスミ先生のこともありますので、此処はひとまずお仕置きです」
 目つきが鋭くなる亜真知。
 亜真知が女性に向かって進んでいく。手には何も持っていない。
「く、くるな!」
 何故か女性は後ずさりする。
「どうして?」
「む、流石に戦闘能力の差が桁外れだからだろう。逃げ切れないと分かったし、音の攻撃も今の余や貴公らに効果がないことで恐怖しているのだろう」
「ふーん。簡単に終わっちゃうんだ」
 魔神の言葉にみあおはため息をついた。

 亜真知は女性から楽譜と楽器を難なく取り上げ、
「さて、響先生の魂を返して貰います」
 と、亜真知は楽器から、カスミの魂を取り出した。
魂は直ぐにカスミの肉体に戻る。
「さて、先に元の世界に戻りましょう。義明さん、頼みましたです」
 亜真知は義明にそう言って、皆と帰ろうとする。
「壊して良いの? 楽器」
 義明が魔神にきくが、魔神はただ頷くだけだった。
 義明を残して〈門〉をくぐって第9音楽室に戻ると、〈門〉がガラスの割れるように崩れていった。


【なにがあったの?】
 さて、この後保健室に運ばれたカスミ。デルフェスが心配そうに看ている。
 カスミが起きるとデルフェスは喜んだのだが……。
「あれ、何故保健室に? 鹿沼さん、私……いったい」
 と、何かあったか全然覚えていないようだ。魔神に追いかけられていたことさえも。曰く付きのヴァイオリンを持っていたことさえも……。
 デルフェスが事件のことを話そうとするが、それは亜真知やみあおに止められた。因みに魔神はそこには居ない。
 カスミはこういった類に出会うと、気絶してその前後のこと含めて全部忘れてしまう。なので、今回事は忘れた方が幸せだろう。
 
 因みにヴァイオリンは義明の手によって破壊された。世界が構築されていた渡り廊下はせいぜいガラス製の物品が割れただけ。その場所に何故か義明がいないので、通りがかった人はいきなりガラスが割れたことで又大騒ぎ。暫く渡り廊下に何か居ると噂になった。
 義明は数時間後に空間の狭間から帰ってきて、亜真知から報酬を受け取ったそうだ。其れが何であるかも知らない方が良いかもしれない。


End?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1415 海原・みあお 13 女 小学生】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です
『音楽室の怪5:響カスミの「持っている物」』に参加して頂きありがとうございます。
無事カスミ先生を救出できたので一安心です。
響カスミが魔神と出会うと、どうなるのか……彼の姿だと多分カスミ先生は気絶してしまうでしょう。
吸血鬼か何かと間違えて。

では、機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝