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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


温泉旅行へご招待

 最近何かとごたごたとしていた。
 お陰で能力の使いすぎで何時も以上にダラダラとした生活を送ってしまう。
「それは関係ないと思うわ」
「他はしっかりしてるしな」
「……うっ」
 リリィと草間の言葉にりょうが呻く。
「でもまあのんびりしたいってのは賛成だよな」
「そーだろ……ん?」
 着信音に気付いたりょうが携帯を取り出し相手の名前を見てから電話を切る。そうして何事もなかったように会話を続行させようと。
「誰だったのよ」
「いや、間違い電話」
「出てないのに解る訳無いでしょう!」
 もう一度かかってきた電話に嫌そうに視線を落とす、リリィも一緒になって画面を覗くとかけた相手が狩人だという事が解った。
「これで事件だったりしたら俺は切れるぞ」
「……外でやってくれよ」
 やる気なさげな草間は置いといて、仕方なしに出た電話。
『何で出ないんだお前は』
 なんと言うかは、考えていた。
「……ピー、ただいま電話に出る事が出来ません」
『おいっ! まあそんなに忙しいって言うなら、温泉は無しだな』
「えっ!?」
 予想通りと言ったように苦笑するのが解ったが、それよりも。
「温泉ってなんだ!」
『そうがなるな、俺がよく行くとこに霊力とかそう言うのが回復できるいい温泉があるんだ。もちろん行くだろ?』
 答えは決まっている。
「当然!」

■光月・羽澄

 持っていくのは鞄が一つ。
 簡単すぎる準備だが、一泊ならこれで羽澄には十分だった。
 もちろん中に必要な物は綺麗に整頓されて入っている。
「後は……」
 他に必要な物はなかったかを再確認している時に、携帯の着信音が鳴り始めた。
 人によって音を変えているから、誰かはすぐに解る。
「どうかしたの、りょう」
『ああ、単に確認な』
「ならいいけど……」
 そこはかとなく何かありそうな口調だったが、直接聞いたとしたらすぐに切ってしまうに違いない。
「りょうのほうこそ大丈夫なの」
「忘れたりなんかする訳無いだろ」
「それもそうね、誰が来るか言える?」
「そりゃあ!」
 言いかけて、ピタリと止まる。
 いい所を付いたらしい。
「まあそれは当日の楽しみって事で」
「ちょっと、りょう?」
 唐突にかかってきた電話は、切られる時も唐突だった。
「……なに?」
 何があるか解るのは、明日の事。



 そして当日。
「良くこれだけ集まったわよね」
 それぞれ仕事やら学校やらで忙しいはずなのだが……逆にゴールデンウィークからずらした事が良かったのかも知れない。
 決まった休みがある会社勤めとは違って大型連休では休みが取れなかったりするような職業ばかりだったり、普段真面目に仕事をしているからその付加価値的に休みを取れたりしたのだろう。
「まだ来るって話だぜ」
 とりあえずこの場にいる顔ぶれだけでもかなりの数なのだ。
 りょうとリリィに夜倉木にナハト。
 ここら辺はいつものメンバーで、話を持ち出した狩人とかなみさんとその娘のマナ。
 興信所からもシュラインに草間に零。
「こうなるとちょっとしたツアーよね」
「温泉楽しみです」
「ゆっくり……出来るか?」
 いきなり不吉な事を言う草間は、シュラインの笑顔で沈黙させられた。
 守崎家の双子の啓斗と北斗。
「あー……絶対なんかあるだろ」
「………」
「どうしたんだ兄貴?」
「いや、何でもない。迷惑かけるなよ」
 いきなり啓斗はあの男が居る事が気になって仕方なかったのだが……北斗にそう言った手前何かを言う訳にも行かないだろう。
 汐耶にメノウ。
「大丈夫でしょ、これだけ揃ってれば対処できますから」
「確かにどんな事件でも対処できそうですよね」
 何か起こる事前提で話していたりするが……この顔ぶれではその程度の予想はして置いて損はないだろう。
 きっと……。
 悠也とその式神の悠と也。今回は掌サイズになって来たのだが、正解だったらしい。
「ナハちゃーん☆」
「遊ぶでーす♪」
 さっそくとばかりにナハトの背に乗って遊んでいる。
「このサイズでちょうど良かったみたいですね」
 途中車で拾ったみそのもそこに加わる。
「皆様よろしくお願い致します」
「ああ、よろしく」
 それから羽澄と……もう一人。
「伊織!」
「おはよう、羽澄」
「どうしてここに!!」
 そこで気付いたらしい。
「言ってなかったのか?」
「その方が楽しそうだろ?」
 驚いた物の、楽しむ事に決めたらしい。
 総勢20人の大旅行だ。
「……二十人」
「多っ!!」
「いっそ壮観よね」
「本当に……」
 とにかくこれで全員揃った訳である。



 高速も使って、車で数時間。
 都会から離れた静かな土地に立っていたのは予想以上に立派な旅館だった。
 一瞬、予算の事が頭を過ぎる程度には。
「ここ……」
「素敵な所ですね」
 誰かの呟きに、サラリと答えたのはみそのだった。
「……」
 なんとなくその横とかを見てしまうのは、お約束ではその横に古い旅館があったりして、実はそこが泊まる所だったりする展開が頭を過ぎったからだ。
「大丈夫だって、ここがそうだから」
 狩人が入っていく辺り、間違いなさそうである。
「行きましょうか」
「そうだな」
「何時までもここで立ってる訳にいもかないでしょうし」
 苦笑するシュラインに続き、草間と汐耶も後に続く。
「それもそうね」
「そうだな、行くか」
 羽澄と伊織もそれぞれ荷物を持って後に続く。
 派手な装飾などはないが、戸や柱に使われている木材が良いものだというのはすぐに解った。
「すげ……」
「あんまりキョロキョロするなよ、北斗」
 だが驚くのは無理はないだろう。
 入り口からはいると丁重にお辞儀をして出迎えてくれた旅館の女将に礼を返す。
「いらっしゃいませ、どうぞおくつろぎ下さい」
「お世話になります」
 チェックインを済ますあいだ、入り口の側に置かれた椅子に腰掛けていると全員にお茶とお茶菓子が振る舞われる。
「時期がずれてると言ってもよく取れたわよね」
「はは、気にするな」
 さっさとお茶を飲み終えると腰を上げて片手を上げた。
「じゃあ、後は任せてあるから適当にやっててくれ」
「ごめんなさい、せわしなくて」
「はい、承りました」
 狩人とかなみが立ち去ってすぐに、出迎えてくれた女将が旅館を案内してくれる。
 室内の位置関係を聞いた後、部屋割りを決めてから。
「ここの温泉は霊力が回復すると言うことですが」
 悠也の問いに女将が微笑み返す。
「はい、人や生き物だけではなく物にも霊力が宿る事がありますでしょう。ご神木や霊水と言ったものと同じように、ここの温泉は力の含まれたお湯なんです」
「珍しい温泉だけれど、噂になったりはしてないみたいね」
 問いかけたのはシュラインだ。
 知られていないからこそ秘湯なのだろうが……それにしてもこの規模なら、噂程度は耳にしていてもおかしくないはずだと思ったのである。
「ええ、ここは少し特殊ですから。紹介状がないと泊まれない使用になっておりますので」
 確かに噂が広まればどっと人が押し寄せるに違いない、そうなれば幾ら人手があってもたりないだろう。
「では効能とかは?」
「そうですね、効能は減少した力を補ってくれたり、バランスが崩れた時に整えてくれると行った所でしょうか」
 確かに霊水などは除霊の力があったりする、この温泉もその類の物なのだろう。
「いつでも入れますから、ごゆっくりどうぞ」
「あっ、そうだ。温泉とかってどうなってるんですか?」
 思い出したような質問に。
「男女別もございますし、混浴もございますよ」
 反応は驚いたり笑っていたり何時も通りだったりと色々だった。
「ありがとうございます」
 荷物を置いて一段落したら入りに行く事にしよう。

●散策

 部屋に荷物を置いてから、それぞれが部屋に残ったり、辺りを歩いたりしている。
 そんな中汐耶とメノウは旅館にあるという庭園を見てみる事にした。
「いい天気だから気持ちいいわね」
「空気も澄んでますし、東京とは違いますね」
 少し歩くと、茶室のような建物とそのすぐ側に置かれた竹細工で作られた椅子。
 ここでお茶が飲めるようになっているらしい。
 二人に気付いた旅館の人がおっとりとした口調で声をかけてくれる。
「よかったら如何です? いいお抹茶が手に入ったんですよ」
「そうね、せっかくだから」
「はい」
 並んで腰掛け、ゆっくりとお茶を楽しむ事にした。

●庭園

 回ってみて気付いたのは、この地に流れる独特な気配の流れ。
 大丈夫。
 悪いものではない。
 それは意識の無い気の流れが渦巻いて出来るもの。
 今感じている物ですら、本当はもっと深い場所にあるものが地表へとこぼれだしているのだ。
 多大な力の気まぐれ。
 僅かな恩恵。
 それが、この土地。
 ほとんど何も移さない目だが、それは何の苦にもならない、ここでは全てがはっきりと視える。
 みそのに気付いたリリィが声をかけてきた。
「みそのちゃん、もう着替えたんだ?」
 旅館についてすぐ、みそのは自らが持ってきた薄墨色の浴衣に着替えている。
「ええ、温泉ですから。そうです、リリィ様もご一緒致しますか」
「何かあるの?」
「はい、わたくしはこれからこの地の神様にご挨拶をしようと思いまして」
 並んで歩くリリィに、みそのがおっとりとした口調で告げた。
「神様!? そっか……うん私も行く」
「良い経験になると良いですね」
 これだけの土地だ、きっと面白いおみやげ話が出来るに違いない。


 ■温泉【女湯】


 温泉が目的で来る事を考えて作られているためか、脱衣所から浴室や湯船も広めに作られているお陰で、こうして結構な人数がいてもゆっくりと体を伸ばせるのだ。
 檜作りの湯船には透明度の高い湯が満たされ、外には露天風呂もありそちらは岩で囲まれた作りになっていた。
 霊力や魔力が回復すると知ってはいたが、使ってみればその効果は確かによく解る。
 普通の湯ではない。
 特殊能力を所持しているのなら、それはもっとはっきりと感じ取れる事だろう。
 なんとなく集まったのは、やはり景色の良い露天風呂のほうだ。
「柔らかいお湯ですけど、浸かっていると力がが高まるような気がしますね」
「肌もビリビリします、悪い意味ではなく」
 パシャリと汐耶がすくい上げた湯は、掌から離れて言ってしまうと只のお湯にしか見えなかったが。
「気の流れがとても濃い為かと思われます、この土地の深くに気脈の流れに触れている水源があるためでしょう」
 いまみそのの知覚は、特に意識せずとも膨大な量の気が渦巻いているのが感じ取れる。
 正確には、膨大な量故に向こうから流れ込んでくる状態だと言ってもいい。
 すぐ側に鎮められている卵の入った籠を見つめ、静かに微笑する。
「それは……?」
「温泉玉子ですよ、楽しもうと思いまして」
 当然のように言うが……間違いが一つ。
 玉子という物は、黄身は65℃くらいから固まりはじめ、白身は70℃から固まる性質の物なのだ。
「違うから! それじゃいつまで立っても固まらないのよ」
「今からでも大丈夫なのかしら?」
 立ち上がったシュラインに、汐耶が玉子を手に取り首を傾げる。
「女将さんに作れる所があるかどうか聞いてみた方が良さそうね」
 玉子を持ち上げた羽澄。
 そんな些細なやりとりはあった物の、この気の恩恵を受けた茹で作られた温泉卵はどうなるのだろうか……それはなかなかに楽しみだった。
「どう、零ちゃん?」
「あ、はい。凄く気持ちいいですね。ずっと浸かってたいぐらいです」
 ウットリと肩まで浸かりながら、縁に体を預けている。
 霊の特質上、何かを感じ取る範囲が大きいのかも知れない。
「浸かりすぎてのぼせないようにね」
 柔らかく笑いかけるシュラインに、羽澄がうなずく。
「本当ね、気を付けないと。お湯も温めの所にいたら、気持ちいいから長居しちゃいそう」
「のぼせて倒れたらちょっと恥ずかしいもんね」
「……あり得そうだけどね」
 リリィの意見に苦笑する。
 誰かがそうなりそうな予感が頭をよぎったのは無理のない事だろう。
「こっちの方は温めですね」
 湯船が広いだけに、湯が出ている付近が熱めで、離れるほどに温度が下がっていくから好きな所にいればいい。
 みそのは少し離れた所に移動して、そこを定位置にした。
「ゆっくりと浸かるなら、この辺りがちょうどいい所でしょうね」
「そうね」
 岩に腰掛けたりして、熱気を冷ましたりする事も長く浸かるコツだ。
「お待たせ致しました」
 女将が湯の上に浮かべたのは、お盆の上に乗っている日本酒の入ったお銚子とお猪口だ。
「ありがとうございます」
「いえ、また何かあったら呼んでくださいませ」
 軽く会釈し、お盆を受け取った汐耶がお猪口に酒を注ぐ。
「あら、いいわね」
「お勧めだそうですよ、水をこの辺りで汲んだ物だそうですから」
「効果があるのは温泉だと聞きましたけど、水を加工した状態でも効くそうです」
 一口飲んだ汐耶が驚いたように目を開く。
「……美味しい! どうですか、少し?」
「じゃあ少しだけ……ん、おいし」
「でしょう」
「ここの温泉のお湯分けて貰えるか交渉しようと思ってたんだけど……お酒も買っていった方が良さそうね」
 そう言ってお猪口に口を付けたシュラインが汐耶と一緒に酒について語り合っていたのだが、ふとシュラインが思いついたように口を開く。
「思ったんだけど、鬼鮫さんって温泉が似合いそうよね」
 本当に唐突だった。
「何で鬼鮫さん……?」
「確かに似合いそうですけど」
「草間さんもって言ってあげなゃかわいそうよ」
 クスクスと笑う。
 今頃くしゃみの一つでもしているかも知れない。
 そんな様子でお酒を飲んでいるのは本当に楽しそうだったが、流石に今ここで飲酒をしようと言う未成年者はいなかった。
「ちょっと面白そうよね」
「少しぐらいなら……リリイちゃん未成年ですよね」
「そうなのよ」
「だったらもう少ししてからの方が良いわね」
 リリィとメノウの会話に苦笑する羽澄。
 少しずれるが、似たようなな事がしたいのならジュースでもいいかも知れない。
 何か間違ってる気はするが。
「それ以前に少しアルコール高いみたいだから」
 日本酒とは大抵そう言うものだ。
 ビールやワインとは違い、アルコール度数が高い物が多い。
 これは原酒だから18度から20度ぐらいはあるはずだ。
「私あまりお酒強くないですから」
 飲んだろだろうかという疑問は、敢えて置いておく。
「口当たりは凄くいいんだけどね……大丈夫かしら?」
 見上げたのは、垣根の向こう側。
 男湯の方なのだが、あの顔ぶれでやけに静かなのが気になる。
「まさか本当に酔いつぶれてたり」
 不安げなリリィに、みその。
「わたくしが様子を見て参りましょうか?」
「それはまずいから」
「余計に混乱します」
 即座にシュラインと汐耶に止められる。
 向こうには悠也がいるのだからその辺り何とかしていると思うのは……考えは甘いかも知れない。
「声、かけてみる?」
「そうね。伊織、大丈夫?」
 僅かなタイムラグの後。
「おお、羽澄、そりゃ当然!」
 声が帰ってきたすぐ後に……バシャンと大きな水音がして騒がしくなり始めた。
「飲み過ぎだ!」
「早く出たが良さそうですね」
「はは、悪い……」
 聞こえるのは、そんな声。
「……もしかして伊織?」
 なんとなく予想を付けた羽澄が慌てて上がる。
「何やってるのかしら……」
「………私たちも上がった方が良さそうね」
 もう1時間近く入っているのだ。
「そうですね」
 何て、お約束。

●ロビー

 急いで通路に出て、長いすに腰掛ける伊織の所へと駆けつける。
「大丈夫、伊織?」
「ちょっと…飲み過ぎた」
 少し呆れられたようだったが、のぼせた時に何かを言った場合にその声は頭に響く事は解っているのだろう。
「何か飲む?」
「悪いな」
 買いに向かおうとした羽澄の前に、スッとよく冷えたペットボトルが差し出される。
「ポカリ貰ってきたけど」
「ありがとう」
「じゃあ、また後でな」
 なんとなく伊織の意図を察したらしい他の面々は、さっさとその場を後にした。
 ポカリスエットを少しだけ飲む。
「あとは横になった方が良いわね」
 夕食の時間を予定より遅くさせてしまったのは予定外だったが、この展開はまさに理想通りだった。
 羽澄に膝枕をして貰いながら、うちわで扇いで貰うなんて。
 見上げた視界にはいるのは心配そうに見下ろす羽澄。
 急いで出てきたためだろう、まだ髪がちゃんと乾いていない。
「……髪」
「これ? 慌てて出てきたから」
「早く乾かさないとな」
「伊織もよ」
「そうだな」
 毛先からしっかりとタオルで拭いていく様子を眺めながら、その時間すら幸せに浸れる。
 口元が緩みそうになるのを押さえるのが大変だった。
「おみやげ、買いに行かないとな」
「治ってからね」
「楽しみだな、どれぐらい買っていこうか」
「そうね……」
 お酒は父親のように慕っている骨董屋の店主に、お菓子やおまんじゅうは住み込み手員や友人達に……おみやげを渡す相手の顔を思い浮かべながら、指折り数えて行くと結構な人数になっている。
「帰りが大変ね」
「郵送しないのか?」
「手渡ししたいから……大変だけどね」
 苦笑する羽澄に、伊織は楽しそうに微笑み返す。
「大丈夫、手伝うから。二人でもって帰ればいい」
 そんな、やりとりは伊織が回復して、女将さんに大丈夫だと知らせるまで続いた。

●牛乳とマッサージ器

 倒れた人が出たりしたが、あの様子なら大丈夫だろう。
「兄貴、俺卓球やってくる」
「解った」
 その間のんびりしていようと啓斗は通路にでてすぐに目的の物を見つける。
 温泉と言えば牛乳だ。
 最近は自販機で売られているようになっているのが少し惜しい所だが、この際その程度の事は些細な事である。
 蓋の開け方は昔から変わらぬ方法だったし、火照った体には程沸く冷えたビンが心地よい。
 ビンに口を付け、それは美味しそうに最後まで一気に飲み干す。
「……っはー」
 満足げにビンを置き、次に探したのはマッサージ器だ。
 温泉なら絶対にあるはずの物である。
 啓斗は啓斗なりに、温泉を満喫しきっているようだ。

●温泉卓球・その1

 卓球台を見つけた北斗が、喜々として駆け寄る。
「卓球やろうぜ!」
 温泉と言えば卓球。
 もちろん浴衣でなければいけない。
 まさにそんな表情だった。
「お、いいな。相手してやるよ」
 そこに通りかかったりょうが、喜々としてラケットを握る。
「いいのか、俺が勝つぜ」
 北斗もまたラケットを手に、勝利宣言をしてみせる。
「そりゃあ、やって見なきゃ……な?」
 当然のようにりょうもやる気であった
「へっ、勝負だっ!」
 こうして白熱した勝負が始まった訳である。
 カコン、カッカコッ!
 開始数秒でヒートアップする勝負。
 元々負けん気の強い北斗と、大人げない大人であるりょうの対戦なのだからこうなるのは当然の事だった。
 ついでに言うなら二人して平均よりずっと高い身体能力の持ち主である。
 普通なら目で追うのがやっとなラリーが続いていたが……。
 ヒュカッ!
「やりっい!」
 身体能力は忍者である北斗の方が当然高い。
「まだまだだなっ、俺が買ったらおごりだからな!」
 いつの間にかそう言う事になっていた様てある。
 しかし、勝負はまだまだ……むしろ更にヒートアップしていくのだった。

●温泉卓球・その2

 かなり熱い戦いをしていた北斗とりょうを止めに入ったのは悠也だった。
「面白そうだったんですけど、あれ以上は……」
 苦笑する悠也のすぐ側には、やりすぎだと怒られている二人。
 結局、突き詰めればいつもの事なのだが。
「たのしそうですねー☆」
「しょうぶですー♪」
 悠と也の二人も、みなと同じように小さな浴衣を着ていた。
「じゃあ……」
 小さな体には卓球のラケットは大きかったが、何の苦にもなっていない辺りは流石と言った所だろう。
 最初は悠と也の二人で楽しんでいたが、やりとりはハイレベルだ。
「あー、怒られた……」
「それは……火まで使ったら怒られますよ」
 丸い形に焦げ跡がついていたり、爆発までさせれば流石に怒られる。
「ついな、こっちも凄い勝負だよな」
「二人と勝負します?」
「……絶対に無理だろ、そうだ、ナハトなら行けるぜ!」
 さっそく人に戻している辺りやる気らしい。
「わー、ナハちゃんと勝負ですー☆」
「楽しそうですー♪」
「……おい」
「せっかくだしな」
「頑張って下さいね」
「………」
 二対一だが、交互に撃つ卓球の勝負だから問題ないだろう。
 こちらはハイレベルながら、穏便な勝負だった。


■宴会

 浴衣に着替え、広間に集まる。
 目の前に用意されたコース料理はどれも上等な物ばかりだった。
 釜飯はお焦げまで美味しく、キレイに盛りつけられた天ぷらの盛り合わせと煮物に茶碗蒸し、刺身やお吸い物も見た目にも綺麗な出来である。
 それらを一通り食べ終えた後、当然のように始まったのは酒盛りだ。
「このおつまみ追加お願いします」
「あ、こっちも」
「はい、かしこまりました」
 このメンバーでは予想してしかるべき展開だろう、何しろ大半が酒に強い人ばかりが集まっているのだから。
「せっかくですから、色々試してみましょうか」
 つまみもそろえて、お品書きに書かれている酒を何種類か注文して、しっかりと準備を整えた汐耶が本格的に飲み始める。
「泊まりで良かったですね」
「そんな事言って、どうせ倒れるまで飲まないんだろ」
 悠也の言葉にりょうが切り返す。
「そう言えば結構強いのが揃ってるな」
「もう平気なの?」
「まあな」
 一升瓶を抱えて現れた伊織、さっきのぼせたばかりだというのにもう回復したらしい。
 そこにみそのがおっとりとした口調で付け加える。
「どなたが強いのでしょうか」
 その一言が一部に対して惨事を呼ぶのは……予想できそうな事だった、解っていてもやるのがその一部のメンバーである。
「お、何だよ。飲み比べ?」
 それまでカラオケに熱中していた北斗が、喜々として酒盛りに混じり始めた。
「いいのかしら?」
 腕を組むシュラインだが、実際には兄弟揃って飲み慣れるどころか強い部類に入る事は知っている。
「大丈夫だって!」
「あまり大きくいえた事じゃないけど」
「北斗、あんまり飲んで人に迷惑かけるんじゃ……」
「倒れて運ばれないようにしろよ」
 余計な事を言った夜倉木と、きっと眉をつり上げた啓斗の間に火花が散る。
 既に若干酔い始めているらしい。
「大丈夫かしら……」
「安心してください、何かあったらすぐに止めますから」
「それもそうですね」
 悠也がいれば、安心だろう。
「よし、飲むか」
 クッとコップを煽った伊織、今度は本格的に飲むつもりらしい。
「そうそう、泊まりだしな」
「楽しそうですね、本当に」
 温泉玉子を食べながらコロコロと楽しそうに笑うみその。
「後で困った事にならないと……って言うのは無理ね」
「いいんじゃないですか、今日ぐらいは」
「この程度なら、些細な事でしょう」
 そうして飲み比べは始まった訳である。

●こっそりと裏話

 その横で酒の飲めないメンバーはと言うと。
「もう一回お風呂行ってこようかな」
「あ、私も」
 あの温泉がよっぽど気に入ったらしいメノウとリリィ。
「お姉さん、温泉に行ってきます」
「解ったわ」
「羽澄ちゃんとナハトはどうする?」
「そう、じゃあ……途中までは一緒ね」
 部屋から出て途中で羽澄が。
「ナハトも一緒に入る?」
「……!」
「冗談よ、私はちょっと用事思い出したから」
「うん、じゃあまた後でね」
 羽澄が向かったのは狩人の所だった、少しだけ聞きたい事があったのである。
「ここにいたのね」
「どうしたんだ、嬢ちゃん?」
「こんばんは、羽澄さん。ゆっくり出来てます?」
 二人は今までのんびりと別行動を取っていたのだ。
「はい、ありがとうございます。所で無粋な事聞くけど……この温泉に誘ってくれたのって何かあったからなの?」
「何かって?」
「何かあった時に動けるように、とか。曰く付きとか……」
 羽澄の言葉を聞いてかなみが堪えきれなくなったようにクスクスと笑う。
「ほら、何時もあんな事ばっかりしてるから」
「うーわー、信用ねぇなぁ。まあ安心してくれ、何にもない」
 同じく笑ってから。
「あるとしたら……本当は今日ここに来るはずだった御上が何でか仕事が増えたって事ぐらいだ」
 やっぱり、多少は何かをしているらしい。
「そう、だったらごめんなさい」
 言ってからハタと気づく。
 今確かに御上と言った。
 彼の上というと……。
「ここの旅館って……そんなに凄い所なの?」
「一般には公開されてない所だからな。霊力や魔力が回復するようなのは珍しいから上とかどっかの金持ちが独占って状況だからな……たまにはこう言うのもいいだろ」
 そう言って狩人はニッと笑った。
「ゆっくり出来たし」
 軟らかい表情で微笑んだ羽澄は、かなみの腕に抱かれていたメイがパチリと目を覚ましたのに気付いてそっと声を潜める。
「起こしちゃった?」
「大丈夫よ、ミルクの時間だから」
 その言葉にホッとしてから。
「少し、抱かせて貰ってもいいですか」
「ええ、どうぞ」
 メイをそっと撫でてから、抱かせて貰う。
 腕にかかる体重はずしりと重くて暖かかった。
「……可愛いですね」
 ミルクをあげながら見下ろす眼差しは、切なくなるぐらいに真っ直ぐで……とても優しい。
「羽澄」
「……?」
 不意に髪を撫でた狩人が、ニッと笑う。
「安心しろ、何があったって俺よりかはまともな親になれる」
 理解できるような、どうかと思うような台詞に苦笑する。
「そうね」
「即答とはやるな」
「それほどでも……ありがとうございます」
 渡された時と同じように、そっとメイをかなみへと渡す。
 寝顔はとても気持ちよさそうだった。
「そろそろ羽澄さんに迎えが来たみたいね」
 近づいてくる気配に振り返る。
「伊織」
「途中でいなくなったから、探しに来たんだ」
「……うん」
「じゃあ、またな」
 狩人とかなみを見送ってから、羽澄と伊織は入れ替わるようにそこに腰掛けた。
「みんなは?」
「まだ宴会やってる」
「飲まなくていいの?」
「羽澄といる方が大事だからな」
 当然のような口調に羽澄は頬を赤くしながら、何て言葉を返そうかと考え始めた。
 今はゆっくり話して、明日からはまた何時も通りの生活に戻る事にしよう。



【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1388/海原・みその/女性/13歳/深淵の巫女】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1779/葛城・伊織/男性/22歳/針師】


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■         ライター通信          ■
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温泉、ギリギリ納品になってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
今回は個人の話を読むだけで大体話の筋が解るようにしようと思いましたが、
結局いつものように他のも読むと色々な事が解るような事になってしまいました。
■が合同。
●の部分は半分個別です。
一部だけ全員用のノベルに食い込み、
後半分はその方の文章だけで読めると言うことになっております。
ちなみに最初に取ったアンケートでは温泉は男女別でした。

色々と複雑になってしまいましたが。
それでは、ありがとうございました。