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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


Lovely


 ボッ……という音がしてフラッシュがたかれる。
 ライトを浴びている東条花翠(とうじょう・かすい)はいつまでたっても慣れないフラッシュの光に目がちかちかしていたがそれを表に出さない笑顔をキープしていた。
 フラッシュの音と交互に響くシャッター音。
「半分背中を見せるようにして振り向いて」
 カメラマンの指示通りにポーズをとる。
「次はそのカーディガンを脱いでストール風に羽織るようにして―――」
 何枚も何枚も1着の服にいろんなポーズをとる。
「正面向いて―――」
 パシャッ。
「はい、これでラスト」
 そう言ったカメラマンShow―――本名羽柴遊那(はしば・ゆいな)はモデルの花翠に、
「お疲れ様」
と言って彼女の肩を軽く叩いた。
 

■■■■■


 花翠の本業は大学生だが、ファッション雑誌のモデルと言う二足の草鞋を履いている。
 髪だけが烏の濡羽色をした翠髪といわれる美しい黒髪で、後は色素の薄い白い肌に真夏の葉のような深い緑色、それに168センチという女性にしては高い背丈。
 フランス人とのクォーターである花翠にとってモデルと言う仕事は2つの国人種の特色を良いトコ取りしたような容姿を最大限に活用できる副業だった。
 だが、何よりも楽しいのはやはり可愛い服、綺麗な服をいろいろ試せるところであるのだが。
「やっぱり私の目に間違いはなかったわね」
 花翠を頭のてっぺんからつま先まで見て遊那はそう言った。
 遊那も本業はフォトアーティストなのだが今日の撮影ではヘアーメイクアップアーティストも兼ねていた。
 今、花翠が着ている服は今日の撮影の目玉であった。
 真っ白のノースリーブのワンピースはラインが綺麗なのはもちろんのことだが背中に大きく縦にスリットが入っていて、その開いた背中の部分に紐が編み上げのように交差して紐の先は綺麗にリボン結びになっている。
 正面から見ても後ろから見ても可愛いそのワンピースに今日は今年流行のビタミンカラーである鮮やかなイエローのボレロ風のカーディガンを合わせている。
 そのカーディガンも粗い網目の夏物のニットで、まるでこのワンピースのためにあしらえた様なコーディネートだった。
「絶対花翠ちゃんの白い肌に映えると思ったのよ」
 髪は敢えてゆるく編んでアップにはしてはいないが、その髪型と花翠の持つ幽雅な雰囲気がこの服を清楚に見せている。
 ひどく満足そうに遊那はさっそく先ほど撮ったポラをチェックしていた。
 横から一緒にチェックしていた花翠は、思わず、
「いいなぁ」
と言った。
「んー、このワンピ?」
 遊那が花翠の顔を悪戯っぽく伺う。
 花翠はこくりと頷いた。
 それに、ふふふ……と、遊那は笑みを深め、
「実はコレって買い取りなのよねぇ」
と言う。
 ポラを凝視して悩みぬいた結果、
「う〜………………カーディガンも一緒に」
と花翠は付け加えた。
「半額にしておくわ」
「やったぁ♪Showさん大好き」
 そういって花翠は遊那に背中から抱きつく。
「かわいいわねぇ」
 抱きつかれた遊那も満更でもない様子だ。
「でも、彼氏の方がもっと大好き、でしょ?彼氏が羨ましいわ」
 からかう様に遊那に覗き込まれて、花翠は一瞬にして頬を赤らめる。花翠がこのワンピースが欲しかったのはきっと彼が好きそうな服だと思ったからだったなんてことは遊那にはすっかりお見通しだった。
 見透かされてからからかわれた花翠はちょっとむくれて見せたが、照れて真っ赤になった顔では全く説得力がない。
「まだ彼氏じゃなくてぇ」
と、花翠は反論したが、それも、
「ふぅん『まだ』ってことは『予定』ではあるのね」
と言われてしまった。
「え!?……っと、なったらいいな〜なんて」
 両手の指を組んで少し俯きながらそういった花翠の耳は相変わらず真っ赤だった。


■■■■■


 それから数日後のことだった。
 その日の仕事―――アーティストのジャケットCDの撮影が予想以上にスムーズに進み、予定よりもかなり早く終わった遊那は帰り際に同じく仕事終わりらしい花翠に会った。
「あ、Showさん!」
 遊那に気付いた花翠が手を振る。
「お疲れ様でした」
 花翠は長い髪をポニーテールにして例のワンピースを着ていた。
「これからデート?」
「はい」
 照れながらもはっきりとうなづいた花翠の笑顔には嬉しいとはっきり書いてある。
「いいわねぇ、私は予定もないから一人寂しく帰るとしようかしら」
と、言いかけた時だった、軽やかなメロディが花翠の鞄の中から聞こえた。
「あ、ごめんなさい」
 そう言いながらも携帯電話を探す。すぐに音が切れたところを見るとメールだろう。
 頬を染める様子を見ると、きっと彼氏からの連絡に違いない。
 しかし、携帯を開いてメールを見て、花翠の表情が急に曇った。
 ごくごく短文のメールを返信して、花翠は携帯を鞄にしまった。
「花翠ちゃん?」
「彼、急な残業が入ったらしくって……。でも、仕事じゃ仕方ないですよね」
 言いながらも、その口調はまるで花翠自身、自分に言い聞かせている様だった。
 ただでさえ、大学生と社会人では生活のペースが違うのだが、営業マンだからなおのことだ。
 だから、こうやってたまに平日に会う約束をしても急な残業やどうしても抜けれない接待があったり―――花翠だってそれは仕方のないことだと判っている。判っているから、メールには、
『私のことは気にしないでお仕事頑張ってね』
と返したのだが……。
「せっかくそんな可愛らしくして来たんだから、メールだけじゃなくて写真も送ってあげれば良かったの、そしたらきっと残業だって早く切り上げて飛んでくるわよ」
 そういう遊那に、花翠はゆっくりと首を横に振った。
「わがまま言って彼のこと困らせたくないから」
 自分が彼よりも年下で……きっと、彼の周りにはいつももっと大人の女の人がいっぱい居るはずだから、子供だと思われるのが嫌なんです―――と、花翠は続ける。
 年齢はどうしようもないから、せめて彼の枷になるようなことはしたくなかった。
 それでもやはり気持ちが沈んでしまうのは花翠自身どうしようもない。
「じゃあ良かったら、ウチのスタジオで私の手料理を食べに来ない?」
「Showさん。そんな、気を使わないで」
「そんなんじゃないわ。仕事も早く終わったし、久しぶりに腕を振るおうと思ってたんだけど誰も居ないんじゃ腕の振い甲斐もないし困ってたのよ」
 そう言った遊那に、花翠は、
「やっぱりShowさん、大好き!」
と、数日前のように抱きついた。
 とりあえず、笑顔の戻った花翠に胸を撫で下ろしながら遊那も微笑んだ。