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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


座興


[ 序 ]
「さて…、こいつは弱ったね。」
 珍しく、そう本当に珍しい事であったが蓮はわずかに困ったような表情を浮かべて、店内を歩き回っていた。 今から数日前、アンティークショップ・レンから一体の人形が消えたのである。店の、店の主人の、あるいは店に置かれた品の選んだ人間しか店に辿り着く事が出来ない。それゆえの油断があったのかもしれない。ともあれ、壊れた機巧人形が一体、消えたのである。
 消え去ったのか、盗まれたのか分からない。普通の品であれば、良くも悪くも警察に届を出して終わりという所あった。
 しかし、人形が置かれていたのはこのアンティークショップ・レン。全ての品が曰く付き。ご多分に漏れず、その人形も曰く付きの品だった。
 人形が消えてから、一つの噂が蓮の耳に届いた。
 街のとある歩道橋で事故が頻発するようになったのだと。歩道橋の階段の上、階段を転落する人が増えたと言う。
 事故に遭った人々はあれは事故ではないと、何者かに突き落とされたのだと口を揃えた。しかし、事故の目撃者は人影などなかったと言う。相反するふたつの情報に人々も警察も困惑した。
 それだけであれば、レンとは関係ないと思われた。けれど、事故に遭った、あるいは事故を目撃した者の中に、人形の姿があったという者がいたのだ。
 和人形のような、あるいは唐子のような人形であったと言う。
「やっぱり、あの子かねぇ?」
「間違いないでしょうね」
 わずかに溜息交じりで吐き出した蓮の言葉に、男の声が返った。
「ずいぶんあっさり言ってくれるじゃないか。でも、ま、仕方ないかね。今回はあたしの手落ちだ。
 …で、どうする?」
「このままにする訳には…。回収。あるいは、破壊ですか」
「ま…そんなところかね。いいや。後は、任せる事にしようかね」
 無責任にさえ取れる言葉を小さく吐き出すと、蓮は誰に助力を請おうかと思案をはじめた。


[ 1 ]
 昼下がり、大きな屋敷に一室にてゆっくりとティータイムを楽しんでいたセレスティ・カーニンガムは一本の電話で騒動に巻き込まれることとなる。
「セレスティ様、蓮様という方からお電話なのですが、お繋ぎしてよろしいでしょうか」
 どこをどう調べるのか、仕事から離れ、自宅にて休養を取っている最中にもセレスティの元へは度々売り込みの電話がかかってくる。
 ある程度のものは家令がセレスティに繋ぐ前に弾いてしまうのだが、今回ばかりは耳に覚えがあったのか、セレスティに伺いに来たのであった。
「ああ…蓮嬢ですね。こちらに繋いで下さい」
 セレスティは軽やかな車輪裁きで、自らの体を預けている車椅子を動かし、デスクの上に置かれた電話の元へと移動する。
「お待たせいたしました」
 まず受話器を取ると、電話の相手壁摩・蓮に時間をかけた事をわびるのであった。
『あ〜、総帥?ようやく代わってもらえたか』
「申し訳ありません。それで…今日はどうしたんですか?」
 蓮の方から連絡してくるとは珍しい。いつもであれば、知らぬうちに蓮の営む骨董店アンティークショップ・レンに迷い混んでいるからだ。
 それは、連れ込まれるといってもいいだろう。
 何か厄介事が起きる度、何者かの意思に導かれるように、セレスティはレンへと足を踏み入れるのであった。『手が借りたいのさ。あんたのね』
「私の手が必要なのであれば、協力させてはいただきますが…」
『いいね。そういうところは大好きだよ』
 おそらく電話の向こうでは、いつものように紫煙を燻らせているのだろう。
 その姿を想像するのは容易だ。セレスティはそっと笑みを浮かべる。顔を見られずに済むのはこういう時は楽だと思わずにはいられない。
「それで、今回はどういう事なんですか」
 尋ねたセレスティに、蓮は大まかに説明をはじめた。

「そうですか…。また、人形ですか」
 つい先日、やはりレンがらみで解決した事件のいくつかは人形が絡んでいた。果たして、そこに何かの因果関係はあるのかと考えてしまうのは自分の思い込みに過ぎないのだろうか…。
『そういやそうだね。なんかあるのかねぇ』
 電話の向こうから、あまり深く考えていなさそうな蓮の声が届く。
『とまぁ、そんな事なのさ。怪我人を増やしたくないし、協力して欲しいのさ。
 ま、もしなんだったら明日にでも店に顔を出しておくれよ』
 蓮は至極軽く店に顔を出せというが、アンティークショップ・レン自体が不可思議な場所として有名な場所である。
 望んでも辿り着く事が出来ない。かと思えば、不意に迷いこむ。店に入ることが出来るのは、店主である壁摩蓮その人か、店に並べられた曰く付きの品々が認めた一握りの人間だけど言われている。
 たいていの場合、知らないうちに辿り付いてしまっているのでセレスティは店を探した事は無い。果たして無事に着くことが出来るかと、一瞬不安に捕らわれたが、誰であろう店の店主が寄ってくれといったのだから迷う事などあるまい。セレスティは、そう思う事にした。
 セレスティはそっと受話器を置くと、キャビネットの中から一体のビスクドールを取り出す。
 かつての友人の形見としてセレスティの元へやってきたその人形の青い瞳はただ虚ろにセレスティの姿を写している。
「思えば…、あなたが来てからでしょうかね。
 こんなに様々な人形と関わる事になったのは…」
 そっとセレスティは人形に話し掛けていた。


[ 2 ]
 目の前には、重厚な木製の扉。すでに見慣れた、レンの入口である。
 果たしてここにたどり着けるのかと、不安になった事はやはりセレスティの杞憂であったらしい。
 店の重い扉を押し開き、失礼いたしますと声をかけてから、中の様子をうかがった。
 奥には人の気配がある。いつものように、蓮がカウンターに座っているのだろう。一言断わりを入れてからセレスティは店の中へ足を踏み入れた。
 器用に車椅子のハンドリウムを切り替え、カウンター傍へと進む。
 と、その場所には蓮だけではなく、ひとりの男の姿があった。名は向坂・愁。一度顔を合わせた事のある青年の姿であった。
 愁の方でも、セレスティの事を覚えているらしく『お久しぶりです』と軽く頭を下げる。
「来たね、総帥。いや、来てくれると思ったよ」
 商売人であるにも関わらず、リンスターの名を出しても怯まない。むしろ、蓮にはそれを揶揄して楽しんでいるような節さえある。
 自分を前に萎縮する人間を数多く見てきたがゆえに、蓮とのやり取りはセレスティにとっては面白いものだ。
 とはいうものの、今日の本題は人形についてである。
 今でも、傷ついている人がいるのかもしれないと思えばそう悠長に時間を取る事は出来ない。セレスティの方から、人形について切り出したのだった。
「そいつは段返し人形ってカラクリ人形さ。あんたなら知ってるだろ?」
 精巧なカラクリ人形の一つだ。茶運び人形、弓曳き童子と並ぶ、日本のカラクリ人形の中では有名な物で、トンボを切りながら階段を下る姿は名前を知らずとも、すぐに思い浮かべる事は出来た。
「前の持ち主は、人形を手に入れた後、家を訪れる客に座興として人形を良く見せていたらしい。
 ただ、物の扱いなんて知らないやつだったらしく、壊しちまったんだよね。
 で、修理するにも金がかかる、客も飽きはじめてる。だから土蔵に放っておいたらしいのさ」
「果たして恨みがあったのか、自分がトンボをきれないなら他人に切らせりゃいいと思ったのか。
 突き飛ばしちまったのさ、前の持ち主を」
 まぁね。持ち主の方にも問題がないともいえないから、こっちで引き取ってやったってわけ。と呟くと、蓮ははぁぁとどこかわざとらしい溜息をついた。
「ところが、ところがだよ。堪え性がなかったのかねえ。
 修理してやろうと思っていたところを逃げ出しちまったのさ」
「修理を待てば、人なんて突き飛ばさなくても自分でトンボも切れたっていうのにね」
 あたしの知ってるのはそれくらいさと言葉を切ると、蓮はカウンター奥のガラクタばかりが置かれた修理部屋に向かって声をかける。
「ユーキ、いるんだろ?
 ちょっと説明してやっとくれ」
「…分かりました。少し時間を下さい」
 どこかで聞いた事のある声だと、セレスティは首をかしげた。


[ 3 ]
「…分かりました。少し時間を下さい」
 店の奥でごそごそと何かを漁る音が聞こえ、しばらくしてから、階段状になった木枠と一体の人形を抱えた男が店の置くから姿を現す。
「田中由基、うちの店の修理夫さ」
 初めて会うはずの男である。少なくとも、セレスティの記憶の中にはこの男に関する情報は残っていない。
 けれど、なぜだろう。何かが引っかかった。どこかで…あった事のあるような。
 自分のことであるにも関わらず、あまりに曖昧な記憶にセレスティはしばし固まった。
 田中はセレスティの視線から逃れるように、ふっと視線をそらすと
「…では、人形の説明をさせていただきますね…」とカウンターの上に手にした木枠を設置し始めた。
 片手に人形を手にしたままでは作業もままなるまい、手伝うためにセレスティはそっと手を差し伸べた。
 …と、セレスティの指が田中の手に触れる。
 途端、みた事のない記憶がセレスティの中に溢れる。そこには、自分の姿が映っている、そして二人の女友達。
『人形はただの『物』なのです』
 それは誰かの台詞だ。前にやはり蓮に協力した時に出会った男との…。
 いや、違う。これはこの男の記憶だ。ならばこれは、この男の記憶だ。
『人形は…人ではないのです。
 あくまで物。もし、その分を超えたのであれば、それはすでに人形ではありません。
 ただの怪異、それでしかないのです』
 放つ言葉。それは同時に、自身にも突き刺さる。記憶に飲み込まれそうになるセレスティの耳に、
「用意が出来ました」と淡々とした声が届く。
 その声でセレスティは現実へと引き戻される。
 いまだ、呆然としているセレスティの前で、田中は木枠の最上段にそっと人形を置いた。
 ゆっくり…そうゆっくりとした動きで、人形がとんぼを切り一段一段、階段を下りていく。
「どういう仕組みになっているのですが?」
 さも感心したように愁は人形を覗き込むと田中へと質問する。
「この中の液体が、重心を移動させています。
 もっとも、最近は水銀を使うのも危険なので他の物で代用されていますが…」
「水銀!?」
 さらりと田中の口から飛び出した言葉の剣呑さに、さすがに我に返ったセレスティは愁と同時に声を上げた。
「…説明…されていなかったんですか?」
「そういや、そうだったね」
 呑気に紫煙を吐き出した蓮を横目に、元々表情が動かない田中の顔が強張った。
「…他の人には説明したんですよね?
 出来れば回収、破壊も止む無しとおっしゃってませんでしたか…?」
「…………忘れた」
「忘れたって…。あの人形に使われているのは代用品なんかじゃないんですよ」
 もし、そのまま怖そうものなら、水銀を撒き散らすことに…。
 田中の呟きが聞こえるか聞こえないかの内に、セレスティは店の周辺に待たせてある車を呼び寄せるために胸元から携帯を取り出した。
 その間にも、愁は店の外へと飛び出していく。考えた事はおそらくは同じ。一刻も早く、現場へと向かった方がいい。そう判断したのだ。
 車椅子を回転させ、店の外へ向かおうとしたセレスティの背後から、田中は一言。
「セレスティさん、水銀は液体ですが…金属です」と告げる。
 意味する事を瞬時に理解すると、セレスティは小さく頷き、車と合流するために店を出た。

 車と合流したセレスティは、歩道を走る愁を発見する。
「前方を走っている人に併走してください」と運転手に告げると、セレスティは窓を開ける。
「…向坂さん、乗って下さい」
 そう告げ、車を停止させると愁が車に乗り込むのを待った。
 車の窓から覗く太陽は、すでに傾き始めている。
 夏も近づき、日は長くなっている。例え明るくとも、…すでに時間は夕方に近いはずだ。
「…すでに5時を回っています…。もう少ししたら、例の歩道橋にも…帰宅途中の人々が増えるでしょう」
 セレスティが小さく呟く。冷静そうに見えても、それが焦りを抑えているのだという事に愁は気付いていた。「人形が姿を現すのは、朝と夕方といっていました…。だとすれば、急がないと」
 愁とセレスティは、様々な景色が一瞬で通り過ぎていく車の窓から、いまだ見えもしない目的の歩道橋を探していた。

「セレスティ様、目的地の傍まで参りました」
 先程から一言も音を発しなかった運転手が、低い声で目的地の傍まで来た胸を告げる。
 身を乗り出すようにして、歩道橋を探し出した愁は、その階段の上にたっていた男の体が大きく揺らぎ、重力に従い落ちていくのを目にした。


[ 4 ]
 地に叩きつけられるかと思われた男の身体は、何らかの力によってふわりと支えられたようにみえた。
 いまだ距離があったために、セレスティにはその状況を視認する事は出来なかった。
 だがしかし、周りの人々のざわめきで状況は把握出来る。
 …と、上方。おそらく、歩道橋の階段の上に不可思議な気配があるのを感知した。それには、水が纏わりついている。
 セレスティ自身も水を操る事は出来たが、その水を支配しているのは自分ではない。
 その水に対し、エネルギーが集中するのが分かる。とても親しい気配。思い当たるのは二人の友人。けれど、あれはそう、妹の方ではない。兄であるケーナズ・ルクセンブルクのもの。
「ダメです!その人形の中には、水銀が入っているんです」
 先程まで、傍にいたはずの愁が走りながら、叫んでいた。
 下手に攻撃を加えれば水銀を撒き散らすことになる。
 と、その言葉で水に封じ込まれたものに対し新たなる力が加わる。水銀を支配下におくべき集中する力。そこにセレスティは同質の物を感じた。水を操る能力だ。
 けれど、同質の能力であらばこそ、それを支配下におくことが適わない事を知っていた。
 なぜなら、田中が言ったように水銀は金属だからだ。
 人形は動きを封じられている…。姿さえ確認できれば、二人の男、ケーナズともうひとり、セレスティと同じ水を操る能力を持つ男、相生・葵の二人が攻撃する事もなく、捕獲できるかもしれない。
 セレスティには、目が見えない分気配で人形が確認できる。けれど、おそらく…あの二人にはそれは不可能だ。
 と、愁が中空に手をかざす。
 きらりと空気がきらめいた。それは視覚的なものではない。そう、セレスティでもその耀きが確認できる、霊的な物。風に乗りあたり一帯に広がる、浄化の力が広がった。
 4人の、いやみなの目の前で空間が揺らぎ、着物をまとった胡粉塗りの人形が姿を現す。
それは、いまだ葵の放った水の網に抑止されていた。
 体勢を崩したままの葵の肩を、ケーナズはぽんと軽く叩くと軽やかに階段を駆け上がり、人形を手を伸ばした。
 今まで人を突き飛ばしていたのがこの人形だとは想像もつかないくらいに小さな人形は水に束縛されたままケーナズの手の中に納まる。
「確保したぞ」
 ケーナズがそういうと、周囲から安堵を含んだ溜息が漏れる。
 ゆっくりと階段を下りる。その途中ケーナズは衆人の視線が、自分達4人に注がれている事に気が付いた。
 階段を下りたケーナズは、服に付いたほこりをパンパンと払う葵に向かって、小さく『まずい…』とだけ呟く。一瞬、事態が飲み込めずに『は?』と聞き返した葵は、ケーナズにみなに見られていると聞くと、軽く微笑む。
 次の瞬間。
「撮影にご協力ありがとうございました〜」と、白々しく大きな声でそういうと。自分達を見つめたままの人々に向かって会釈をする。
 あまりに白々しい誤魔化しに、愁は僅かに呆れたが、一人セレスティは『いいですね。撮影ですか』と微笑んだ。
 もし、あまりに噂が広がるようであれば、実際に撮影をすればいい。怪我をした人はいい気分はしないであろうが、それでも、このままこの場所に恐怖が染み付くよりはいいだろう。
 先程までざわついていた人々が、ぱらぱらと散っていく。
 それらを確認した後、愁の「…いったん、レンに戻りましょうか」との提案に異論を唱える者は一人としていなかった。


[ 終 ]
「お帰り…。無事に連れてきてくれたんだね」
 ありがとうよ。と、ぞんざいではあったが蓮の労いの言葉一同は、ようやく終了したというとばかりに溜息をついた。
「それで、この人形はどうするのですか」
 人形を捕獲は出来たものの、根本からの解決はしていない。このままでは、またレンを抜け出し、同じ事を繰り返す事もあるかもしれなかった。
「壊すべきだろう。どんな理由があれ、人を危険に晒したのは変わりない」
 ペットである犬でさえ、その牙で人を危険に晒した時は始末されるのだ。人形が許され道理もなかろう。
「僕もその通りだと思うよ。そりゃ、蓮さんが望むなら返してあげたいけどね。
 けど、同じ事を繰り返されたら困っちゃうしね」
 蓮に会えるのはうれしいけど、そのたびに階段から落ちたり、呼び出されたりしたら身がもたないしね。と、付け加える。
「この人形が、人を突き飛ばし始めたのは…自分が壊れてしまったからですよね?
 ならば、修理すればそれもなくなるのではないですか?」
 セレスティは二人に一応の反論をしてみたものの、自らの言い分が可能性に過ぎないことを重々承知していた。
「僕もちょっと可哀想な気はしますけどね。
 このまま壊してしまうのもなんだし、死に水代わりに一回だけ願いをかなえてからってのはどうです?
 一度修理してから壊すっていうのは、二度手間になるだけかもしれないですけど」
 カウンターに肘を付き、4人の話を聞いていた蓮は煙管を大きく吸い込み、ぷかりと白い煙を吐き出した。
「よし、こいつは壊そう。というか、分解しよう。
 パーツとしては残すけど、人形としては…壊す。それでどうだい?」
 ぶち壊すにも、こいつの心臓は厄介だしね。と苦笑する。
「ただし、今回ばっかりはあたしの手落ちだ。
 こいつを早々に修理してやってればこんな事にはならなかったかもしれない。
 ……で、だ。こいつを分解する前に一度修理しようと思う」
 人の注目を集めたかった、注意を引きたかったみたいだし、そん時はもう一度集まってくれるかい。と、蓮は四人を見回す。
 それに対しては、四人ともうなずいたものの、ケーナズは再度食い下がった。
「分解するだけで、本当に大丈夫なのか」
「大丈夫でしょう。部品単位になってまで動いた人形を私は知りません」
 店の奥、商品として店に並べられる前の品がどっさりと置かれた部屋の奥から、田中が姿を現す。
「はじめまして、こちらで人形の修理を担当させていただいているものです」
 男はケーナズと葵に頭を下げると、再び人形に話を戻す。
「部品単位になってまで、人形としてあるものはまずありません。
 同じ部品を使っていても、頭を挿げ替えてしまえばそれは別の人形となるように…」
「…という訳だ。問題はないかな?」
「……ええ、その人形が今後問題を起こさないというのであれば」
 再度念押しをするようにケーナズはそういってから頷く。
「じゃあ、決まりだね。
 修理でき次第、連絡を入れるよ。楽しみに待っていておくれ」


 重い木製の扉を開き、四人はアンティークショップ・レンを後にした。
 とはいえ、またすぐここに集う事になるだろう。人形の最後を見守るために。
 セレスティは、自宅のキャビネットに収められた人形に思いを馳せた。
 果たして、あの人形は自分を待っていてくれるだろうか。
 あの人形に今回の事を話してみたら、一体どのように思うのであろうかと。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業
 
 1072/相生・葵/男性/22歳/ホスト
 1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男性/25歳/製薬会社研究員(諜報員)
 1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
 2193/向坂・愁/男性/24歳/ヴァイオリニスト


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■         ライター通信          ■
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 まずは納品の遅れた関し、深くお詫び申し上げます。
 誠に申し訳ありませんでした。

 改めまして、新人ライターのシマキと申します。
 この度はご参加ありがとうございました。
 引き続いての遅延のお詫びになってしまう事、とても心苦しく思っております。
 この度は本当に申し訳ありませんでした。

 もしよろしければ、他の方の文章にも目を通していただけたら幸いです。
 一つで完結するように作ってはおりますが、おそらく明かされていないことも出て来ると思います。