コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜~act1~

オープニング

「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」



視点⇒柚木・シリル


獣達の啼く夜〜act1〜

「酷い…」
 シリルは新聞で今、世間を騒がせている連続通り魔事件の記事を読んで小さく呟いた。
 七人の被害者に共通点はなく、一つだけ共通しているのは皆が『獣に食い殺されたかのような殺され方』をしているということだけだ。
 こんなことをできる人間はまずいないだろう。
 ―…人間ならば。
 シリルの頭に嫌な予想が生まれた。
 ―もしかしたら…自分の同類がしたことなのかもしれない、という考えたくない予想が。
 しかし、もう七人の犠牲者が出ている以上…同情の余地はないかもしれない。
「だけど…」
 新聞をクシャと握り締めながらシリルは消え入りそうな声で呟いた。
「手荒な手段はしたくない…たとえ七人を殺してしまった同族だとしても…」
 グッと唇を噛み締めて、外に出る。七人目の犠牲者が出た公園はそう遠くはない距離だから歩いていく事ができた。
 まだマスコミや警察関係者が現場から立ち去っていないのか、犯行現場の公園は様々な人間でごった返している。
「ほら!さっさと散りなさい!見世物じゃないのよ!」
 そう言って野次馬を散らしている女性にシリルは目がいった。警察手帳を見せているところを見ると、警察の人間なのだろう。
「ほら!あなたも!あなたのような子供が見にくる場所じゃないのよ、帰りなさい」
 そう言ってシリルを現場から離そうと肩を押した。
「あ、あの…」
 女性に事件の事を聞けないかとシリルは聞こうとしたが、女性は野次馬を散らすのが精一杯でシリルの声に聞こえていないようだ。仕方ないのでシリルは人がいなくなった頃に再度出直そうと考えた。
 どっちにしろ、まだ明るいので犯人も次の犯行には及べないだろう。
「もう一回夜になってから出直しますか…」
 こう人がざわついていては調べるものも調べられませんし、と呟いてシリルはその場から立ち去った。


 そして、人の気配も薄らぐ夜。
「やっぱり、誰もいませんね」
 シリルは夜の闇にかき消されそうな小さな声で呟いた。さすがに昼間は野次馬などで一杯だった現場も、夜の今では人っ子一人いない。
 こんな夜に出歩いていては次の犠牲者が自分になりかねないからだろう。
「……人?」
 ビニールシートに隠された現場の中で懐中電灯の光のようなものがチカチカと光っている。もしかしたら誰かが襲われていて、助けを呼んでいるのかもしれないと考えたシリルはすぐさまシートの中に入っていった。
「あれ…」
 だが、シリルが現場に入った途端に光は消えた。光が消えたと同時に女性の悲鳴と、獣の咆哮がシリルの耳に入ってきた。
「誰ですか!」
 悲鳴の方に走っていくと、昼間、野次馬を掻き分けていた女性だった。手には拳銃が握られている。
「こんな所で何をしているの!?早く逃げなさい!」
 女性は目の前の獣に向かって発砲しながらシリルに叫んでいる。
「危ない!!」
 女性がシリルに目を向けた隙をついて、獣の鋭い爪が女性に襲い掛かっていた。
 ドスン、と鈍い音をたてながら壁に叩きつけられてピクリとも動かなくなった。
「…っ!」
 シリルは顔色が青ざめていくのが自分でも分かった。女性に慌てて近寄る。女性は頭を打って意識がなくなっただけらしく、外傷もないので命には別状はないだろう。
「…よかった…」
 女性が生きていると言う事に胸をなでおろし、キッと背後にいる獣を睨む。
「何をやっているのですか!!止めなさい!!」
 シリルは襲い掛かってくる獣の爪を避けながら一生懸命説得を試みる。目の前にいるのはどう見ても同族にしか見えない、だからシリルは乱暴な事はせずに自主的に抵抗をやめて欲しかった。
「やめ、やめてください!どうして、こんな酷い事を…」
 だが、シリルの言葉など理解できないように獣はニィと薄気味の悪い笑みを浮かべるだけだった。
「クス、ムダだよ、おねーさん。ソイツは人語は理解できないもの」
 突然、光が差し、シリルは眩しさで目を細める。その光の正体が懐中電灯だと分かったのは数秒後だった。
「…誰?」
 クスクスと笑いながら獣とシリルの姿を交互に見ているのは同い年くらいの少年。先ほど見えた光もこの少年の懐中電灯だったんだろう。
「人語ができない…?獣人は姿は違えど人の言葉くらいは理解できるはずなのに…」
 真剣に悩むシリルを見て少年はけたたましく笑い出した。
「あはは、おねーさん。面白いね。おねーさんも人間じゃないのかい?そいつはね俺が作った合成遺伝子生命体なのさ、上手くできているだろ?人間とライオンの遺伝子を組み合わせたんだよ」
 誇らしげに言う少年にシリルは自分の耳を疑った。
「つくった…?」
 まるでプラモデルでも組み立てた幼子のような表情で言う少年にゾク背筋が凍るような感じがした。
「…あなたは…誰なんですか…」
「…俺の名前は十六夜・夜白、人間によって人間を止めさせられたモノだよ」
 こう見えてもあんたの数十倍は生きてるよ、と夜白は言葉を付け足した。
「…こんな、こんな酷い…。人の命を弄ぶなんて!罪のない人が犠牲になってるんですよ!?」
 シリルはあまりの事実につい声を荒げてしまう。
「罪のない?ククッ、一つ訂正してあげるよ。人間の罪は遺伝するんだよ。だから罪のない人間なんていやしない。生まれながらの罪人なんだよ、人間は」
 先ほどのふざけた言い方ではなく、もっと恐怖を感じさせる声色にシリルはゾクとした。
「今日はおねーさんの相手をするつもりはないんだよ。そいつの始末をしにきたんだ。もういらないから」
 そう言って夜白は一本のナイフをシュっと獣に投げつけた。
 ドス、と鈍い音がしてシリルが獣のほうを見ると、額にナイフが刺さっており、その傷が致命傷となったのか、ザァッと砂のようになって消えた。
「なっ!何て事を!」
「何て事を?おねーさんはアイツを始末しにきたんだろ?だから手間を省いてやったんじゃないか。あぁ…仲間だから悲しくなった?さっきも言ったけど、アイツは俺が作った人工的なモノだからおねーさんの仲間じゃないんだよ」
 だから悲しまなくていいよ、と言う。
 そう答えた夜白にシリルは心底恐ろしいと感じた。夜白は命というものの尊さが分かっていない、まるでおもちゃのようにしか考えていないのだ。
「…あれ?何怒ってるのさ。今日はおねーさんとやり合う気はないんだよね。機会があったらまた会えるよ」
 そう言って夜白は夜の闇に溶け込むようにして消えていった。
「…あのひとは一体…」
 シリルの小さな呟きは夜空に浮かぶ月のみが聞いていた。

「何をしてるの!」
 あれから数分後に女性が目を覚まして、シリルは女性からたっぷりと説教を喰らう羽目になった。そして、その女性が桃生叶という名前の女性刑事だと知ったのは数日後だった。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2409/柚木・シリル/女性/15歳/高校生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

柚木・シリル様>
いつもお世話になっております、瀬皇緋澄です。
今回はシリル様と同じ獣人…(とは少し違うかもしれませんが)が相手でした。
話はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと感じていただければ幸いです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^
 
           −瀬皇緋澄