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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜ある日の掲示板・フリーマーケット開催!

●駅前マンション屋上へ
 その話を知ったのはつい先日。駅前マンションに住む知り合いが図書館にやって来た時だった。
 他愛もない雑談の中に入ってきたフリーマーケット開催の話。
 開催日はこれといった用事もなく、どちらかといえば暇を持て余しているだろう日だし。場所が場所だ、何か面白い物を手に入れられたらラッキーとも思った。
 そして本日、とある週末日曜日。
 綾和泉汐耶は、フリーマーケットに行くべく、駅前マンションの屋上に向かっていた。
 差し入れ用に作ったお弁当――重箱を手に。

●黒服の人
 なんと言うか……。
 おそらく普通ではない物品が出回るだろうことは予想していた。
 だから、汐耶が今問題としているのはその部分ではない。
 とりあえず見た目は普通の一般人的な人々に混じって異様に目立っている人物が一人。黒服黒タイ黒眼鏡の宮内庁職員、八島真だ。
 彼の販売スペースの前には見覚えのある女性が一人――シュライン・エマである。
「良いんですか、八島さん?」
 二人の話が途切れたタイミングを計って話しかけた。
 どこからどう見ても横流し品に見えるのだが、こんなふうに売り払って良い物なのだろうか?
 売ったあとのお金はどうする気なのか……彼の懐に入るのか、それとも経費になるのだろうか?
 そこそこの疑問を持って声をかけたのだが、八島より前にシュラインが口を開いた。
「こんにちわ」
「あら、来てたのね。……差し入れ?」
 言われて、汐耶は笑顔で応える。
「ええ、知り合いが多いみたいだったから」
 店の前でついつい盛り上がりかけたが、途中で気付いて――買い物と関係ない会話を店の前でするのは営業妨害にしかならないだろう――話を戻す。
「こういうのって、横流しとか言わない?」
「いいえ。普通の中古払い下げ品ですよ」
 売っているものが防霊弾チョッキとか占術盤とか更に宮内庁秘密機関の制服――八島が来ているのと同じ、黒服黒タイ黒眼鏡のセットだ――だとか言う時点で、すでに普通ではない気もするが。
 目を引いたのでついつい見に来たが、特別欲しいものはない。
 汐耶はとりあえずお弁当の差し入れを渡し、二人はそれぞれに興味あるものを見に別行動となった。
 
●人形の店
「うわあ、これ可愛いの〜」
 甲高く楽しそうな少年の声に惹かれて目をやると、そこには見知った顔……藤井蘭がいた。
 しゃがみこんでいる蘭の前には雑多な品々――アンティークの小物に食器、手作りらしいあみぐるみ。それに、古書。
 これに活字中毒の汐耶が惹かれないわけがない。
 だが店の近くにまで行ってみて、汐耶は妙な現象に首を傾げた。
 そこにいるのは蘭一人だけで、話相手らしき声の姿がない。
「このあみぐるみ、可愛いの〜」
「だったら買うか?」
「うーん……」
 声がするのだからそこに誰かがいるはずなのに、近づいてみてもやっぱり蘭だけしかいない。
「誰と話してるの?」
「うわあっ!?」
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら」
「んーん、大丈夫なの。こんにちわ、汐耶さん」
 きちんと立ち上がって、蘭は礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
「お人形さんと話してたの〜」
 にこっと笑った蘭が指差した先には……誰もいない。
「え?」
「ったく、どこ見てんだよ。ここだよここ!」
 ムッとした口調の、
「人形?」
 ――が、そこにいた。
「ノイさまだ」
「ここのお店の店番さんなんだってー」
「わかったか? わかったらなんか買ってけ」
 何故か胸を張って、ノイは偉そうに主張する。
「そうねえ……」
 偉そうだが子供っぽさの見える態度に心のうちでこそっと苦笑を浮かべつつ、並べられている古書を手に取った。
 結構古い物であるらしい。保存状態はまあまあと言うところか。
「これ、いくらかしら?」
「本は全部100円だ」
「そう? なら全部お願い」
「すごーいっ。汐耶さん、お金持ちなの!」
 古書は全部で10冊程度。全部買ってもそうたいした額にはならないからこそのまとめ買いなのだが、子供である蘭には充分お金もちに見えたらしい。
「蘭くんはどうする?」
「ん〜……僕はこのあみぐるみを買うの〜」
「そっちも100円だな」
 お互い欲しい物を手に入れた二人は、それじゃあまたと軽く言葉を交わして別方向へと歩き出した。

●謎の日用品
 ここでまた、汐耶は見知った人物を見つけて足を止めた。
「あら、空五倍子さんも来てたのね」
「いらっしゃい、綾和泉さん。せっかくだから何か買っていきません?」
「そうねえ……」
 汐耶はぐるりと商品を見まわしてみる。
 あるのは文房具らしき品々と、漢方薬の類い。
「あ、文房具見っけ」
 ぱたぱたと軽い足音と共に、後方から女性の声がした。声の主は汐耶の隣に立って楽しそうに、空五倍子が出している品々を眺める。
「お嬢さん、文房具を探してたんだ?」
「はい」
「いろいろ便利なものがあるよ」
 言って、まず空五倍子が見せたのは万年筆。
 手近にあった紙にのたくたと適当に文字を書く――と。
 ぐにょんぐにょんっと文字が動き出した。
「……役に立つのか微妙ね」
「面白いんですけど……」
「なら、これはどうだろう?」
 次に出してきたのは見た目は普通のハサミ。
『またお仕事ですかぁ? お兄さん、あっしを酷使しすぎなんじゃないですかい? まあ使われてナンボですけど、刃はちゃんと研いでくださいね』
 何故か、喋る。
 無駄に喋る。
「煩そう……」
「僕のところにはもう賑やかなのが一人いますから」
「そうか。ならもう一つ」
 次に空五倍子が出したのは、一見なんの変哲もないメモ帳。
「これはちょっと今すぐ実演というわけにはいかないんだけど……。書いても書いても一日たつと文字が消えるメモ帳だ」
「あら、それは便利そう」
「うーん……いろいろ説明ありがとうございました」
 結局惹かれる物がなかったらしい女性は別のところへと離れて行った。
「で、フリーマーケットといえば値切りよね?」
「ゔ」
「どのくらい勉強してくれるかしら?」
 にっこり穏やかに笑うと、空五倍子は少し考えてから10円ほど値引きした金額を告げた。
「そうねえ……一緒にこっちの漢方薬も買うから、もう少しまからない?」
「じゃあついでにこっちの薬も買いませんか?」
「それは何か怪しげだから止めておくわ」
「…………」
 誰が好き好んで怪しい薬を買うというのだ。彼の経歴から考えれば、仙丹の類いであろうが、こんなところで無造作に売る時点で怪しい。
 ……普通の漢方薬はともかくとして。
「わかりました」
 言って、空五倍子は結局、元の値段から100円ほど値引きをしてくれた。
「どうもありがとう。お礼にどうぞ」
「あれ、いいんですか?」
 差し出されたお弁当に、空五倍子が意外そうな顔をする。
「知り合いが多そうだから、差し入れに作って来てたのよ」
「すみません。ありがたく頂きます」
 お弁当を渡してその場から離れたのち、汐耶は少し考えた。
 時間はまだあるのだが……。

●帰路につく
 もう少し見て回ってもよかったのだが、フリーマーケットへの関心よりも、買った古書への興味が勝ったのだ。
 帰ったら買った古書を綺麗にして、きちんと保存体勢を整えて。
 それから、お茶でも飲みながら読書をしようか。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2164|三春風太    |男|17|高校生
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2163|藤井蘭     |男| 1|藤井家の居候
2098|黒澤早百合   |女|29|暗殺組織の首領
2309|夏野影踏    |男|22|栄養士
1431|如月縁樹    |女|19|旅人
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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。今回はご参加ありがとうございました。
 フリーマーケットはいかがでしたでしょうか?
 なにか面白い品をゲットできていればよいのですが……(笑)

 古書を持ちこむというPCさんがいらっしゃったので、古書お買い上げとなりました。
 汐耶さんならきっと見つけたら買うだろうと思っての描写となりましたが……どうでしょう?
 イメージを崩していないことを祈ります(汗)

 それでは、この辺で失礼します。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。