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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンションの怪〜ある日の掲示板・フリーマーケット開催!

●それはほんの偶然から
 別に、そのマンションに用事があったわけではない。
 かといって、急ぎの用事があって出掛ける予定があったわけでもない。
 単純に、その日は特別な用もなくて暇だったので、適当にショッピングにでも行こうかと思ったのだ。
 そんな折に偶然見つけた、フリーマーケット開催中のお報せ。
 公園や広場でならばそう珍しいことでもないが、会場はマンションの屋上。
「あら、面白そうね」
 別にどこか行きたい場所があるわけでもなし。
 なんとなく惹かれたところへ行くのも良いだろう。
 そんな思考の結果、黒澤早百合は、駅前マンションのフリーマーケットを見物してみることにした。

●黒服の人
 まさかイキナリ知り合いに出くわすとは思わなかった……。
 トレードマークの黒服黒タイ黒眼鏡もそのままに、屋上の一角で妙に目立つ風貌の男性――宮内庁職員、八島真の姿があった。
「あらやだ、八島さんじゃないの」
 軽く手を上げて近寄って行くと、八島は一瞬ピクと引き下がる。
「意外なところで会うわね」
 八島の様子にはまったく気づかないまま、早百合はにっと笑って告げて、それから八島が出品している品を見る。
「……」
 これは、横流し品と言うのではないだろうか?
 防衛庁の秘密部隊の防霊弾チョッキに、経済企画庁でひそかに使われていた占術盤、そして宮内庁秘密機関の制服――黒服黒タイ黒眼鏡セット。
「なあに、支給品を横流しなんて、生活が苦しいの?」
「いえ、そういうわけでは……」
 言いかけた八島をぴたりと遮って、
「わかったわ」
 早百合は納得顔で頷いて見せる。
「何がわかったんでしょう?」
 八島の問いに、早百合はこれ以上ないくらいに極上の笑みを浮かべて見せた。
「政府機関には告げ口しないから大丈夫よ」
 返る言葉を待たずに、早百合は再度物品を眺める。
「そうねえ……これを私に売りなさい!」
 指差したのは防霊弾チョッキ。
「もちろん、口止め料は振るってくれるわよね? 大丈夫、タダでなんて言わないから」
 早百合の笑顔におされたのか、それとも最初からそう高く売る気はなかったのか。
「わかりました」
 元の値段設定を告げられないまま。早百合は、予想よりも遥かに安い金額で防霊弾チョッキを入手できたのだった。
「どうもありがとう。それじゃ、また機会があったら会いましょうね」
 上機嫌でその場を離れる早百合の背中を見送る八島の表情はどこか暗かったとか。……サングラスのせいで正確なところはよくわからないが。

●普通の品……?
 フリーマーケットにありがちな天然石と、普通のゲームソフト。
 それが目に付いたのは、その二つの取り合わせがなんだか意外な感じがしたからだろう。
「あら、結構綺麗ね」
「いらっしゃい。どうぞ見ていってください」
 にっこりと笑った店の主の男性に、早百合も笑顔で返す。
 早百合はゲームにはあまり興味はなかったが、綺麗な石の数々には目を惹かれた。
「手にとっても良いかしら?」
「もちろん」
 了承の意を得て、早百合は石の一つを手に取ってみた。
 と。
「…………」
「どうかしました?」
「ええ……」
 何故か、生暖かい。
 ずっと屋外に置かれていて陽の光に晒されていたという点を考慮に入れたとしても。明かに不自然に石の温度が高い。
「ねえ、これ……」
「ああ、不思議ですよねえ。冬でも何故か暖かいんですよ」
「カイロ代わりにちょうど良いかしら」
 こういう怪しい物をあっさりと購入するのも少し考え物だが……。
 まあ、値段は安い。
 もし悪霊や何かが宿っていたとしても、早百合はその手合いへの対処方法も詳しい――なにせ早百合は悪霊退治を仕事にしているのだから。
「それじゃあ、これを一つ貰って行くわ」
「どうもありがとうございます」
 買った石をとりあえず手持ちのバッグにしまい、早百合はまた別の物を見るべく歩き出した。

●癒しの音楽
 今時流行りの癒し系ミュージック……と、最初は思った。
 けれどよく見てみると、ちょっと違う。告白したい時に聞く曲だとか、元気になりたい時に聞く曲だとか。
 普通の店では置いていないだろう変り種――除霊の音楽なんて物まであったのだ。
 のんびりじっくり眺めていると、隣で女性の声があがった。
「へぇ、除霊の音楽なんてあるのねぇ」
 早百合と同じか少し下くらいだろうか……。黒髪の女性は、興味を惹かれた様子でMDのラベルを見つめている。
「こんにちわ」
 店の主である少女が穏やかに笑った。
「あら、これ素敵ねえ」
 ふと早百合の目についたのは、植物を元気にする音楽。
 実は早百合は、家事全般が苦手である。料理、洗濯、整理整頓なんていった類いの仕事はもちろんながら、室内の観葉植物なんかもよく枯らしてしまうのだ。
「そうねえ……これ、買ってみようかしら」
 水をやっていないわけではないのに何故か枯れてしまう植物の数々を思い出して、早百合はそのMDを手に取った。
「ねえ、これいくらになるかしら?」
「ありがとうございます」
 訪ねると、少女はにこりと笑って告げて、値段を教えてくれた。
 そう高いものではない。
「それじゃこれ、買って行くわ」
 言いながらお金を渡し、植物を元気にする音楽が入ったMDを手に、早百合はその場を離れた。

●帰路につく
 一通り見て回ったし、暇も充分に潰せたし。
 早百合は購入品を手に、帰路についていた。
 帰ったらまずは部屋の片隅の観葉植物にこのMDを聞かせてみようか。
 石は……これから夏が来る今の時期にはまだ出番はなさそうだから、適当なところにしまっておくとして。
「これで元気になってくれるといいんだけど」
 葉っぱがほとんど黄色くなっている観葉植物の姿を思い出し、早百合はぽつりと呟いた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2164|三春風太    |男|17|高校生
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2163|藤井蘭     |男| 1|藤井家の居候
2098|黒澤早百合   |女|29|暗殺組織の首領
2309|夏野影踏    |男|22|栄養士
1431|如月縁樹    |女|19|旅人
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         ライター通信          
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 こんにちわ、初めまして。日向 葵です。今回はご参加ありがとうございました。
 フリーマーケットはいかがでしたでしょうか?
 なにか面白い品をゲットできていればよいのですが……(笑)

 八島さんとのやり取りには楽しませていただきました♪
 プレイングにはない品も買って頂きましたが、お気に召していただけたでしょうか?
 多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。

 それでは、この辺で失礼します。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。