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臨時カウンセリング
門屋心理相談所。
門屋将太郎は着流し白衣でテーブルに突っ伏している。
相変わらず閑古鳥で、来客が来ない。家賃を安くした結果に他ならない。都内で安く済まそうとすれば立地条件が悪くなるのは当然である。せめて、オフィス街から数歩に構えた方がよかっただろう(家賃が高くなるが)。
「こんなんじゃ、仕事にならねぇ。休業にして昼寝でもするか」
門屋将太郎は適当に紙に「都合により臨時休業」とかいて、ドアに張ろうと思っていたところに来客を知らせるベルの音。入り口には一応そうした物をおいている。
「何だ? 客か?」
頭をかきながら、期待に胸膨らませて受付から来客を招いた。
「こんにちは。どういったお悩みでしょうか」
と、挨拶。
見た目がスーツ姿で貫禄のある人物のようだ。何かの校章を付けている。
「こんにちは。実は患者ではなくて、有るお話しをしたいと思いまして参りました」
「あ…はい」
心の中で“外れかよ”と思う門屋。
この来訪者は門屋に名刺を差し出す。その肩書きには、
神聖都学園理事長
と書かれていた。
――あのマンモス校の偉いさんが何故、こんな所に?
当然の疑問である。こんな寂れたところにこんな偉い人間が来る事がおかしい。
「では、此処では何ですから」
と、疑問を抱きつつ理事長をカウンセラールームに案内する。おそらくこの診療所のなかで一番綺麗なところだ。
理事長の話によると、このマンモス校で臨時カウンセラーを雇いたいという。その勧誘に来たというのだ。
「しかし、私のことをよくご存じで?」
と、門屋らしいが理事長にトンデモナイ事を言う。
「残念ながら、気乗りがしないので断らせて頂きます」
と、断る門屋。
「そこを何とか……」
しかし、理事長は眉一つ動かさず、こういった。
「あなたの“恩師”の、推薦なのですよ」
「推薦ですか……って、ええ!?」
番茶を飲もうとしていた門屋は吹き出しそうになる。
――“恩師”と言われる人物なんて独りしか居ない。というか、あの人は昔の恩師に似すぎている。その人からの推薦なんて、前のアトラスと同じじゃないか。
と、心の中で色々考える門屋。
「あの人の推薦というならば……もう少し詳しく聞きましょう」
流石に彼は彼女に弱い。弱いというレベルではないかもしれないが。
神聖都はマンモス校故、かなりの組織になる心理相談所を設ける訳となる。それも、医者、心理学者、臨床心理士を交えての大掛かりなものだ。1つの学校に1〜2人のカウンセラーがいる学校も出てきている昨今、比率からすればある種の組織、学校内に精神の病院ができる事になるという。
「確かに、あの学校には中に病院を建てる意味合いはありますね……」
門屋は女神が推挙したカウンセラーリストを見せて貰い、言った。
実績など厳選されたそのリストに、自分の名前が載っている。なぜ、あの女神は俺を此処まで気に入っているのだろう。と疑問に思うのは内緒だ。
「どういたしますか?」
理事長は静かに訊いてきた。
お茶をのむ2人。
一間置いて、門屋は、
「試しでよければやってみますけど?」
「ええ、構いません。何せ類の見ない試みですからね」
門屋の返答で理事長は満足したようだ。
「詳しい説明や書類は此方です。後々手続きなどありますので、宜しくお願いします」
「わかりました。此方こそ宜しくお願いします」
お互い握手を交わした。
そして、門屋将太郎は神聖都の非常勤カウンセラーとして、働くのであった。伝説のカレーパン争奪などにも参加する、“食堂に入り浸る着流し白衣”として有名になる(彼の頻繁出現場所は食堂らしい)。
この話は、“恩師”が実は幼少の頃の恩師その人と知るとか、色々出来事が起こる一寸前の話である。
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