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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ジューンブライドも楽じゃない?

------<あらすじ>--------------------------------------
ある日、例によって例の如くプラントショップ…もとい山川家に招かれた草間たち。
そこに待っていたのは早々たる面々。

話を聞いてみると、櫻の知り合いに古い教会の周りに生えている老樹達がいて、彼らは、そこで行われる結婚式を眺めるのを好んでいるらしい。
……ところが、つい先日その教会は1ヵ月後に取り壊しが決定してしまったらしいのだ。
老樹達は『それもまた世の流れなのだから仕方なかろう』と表面上は諦めているのだが、やはり、寂しいようで。
それがなんだかとてもかわいそうで…皆で一肌脱いでくれないか、ということらしい。

…まぁ、要するに「『偽結婚式』を決行しようじゃないか」ってことで。
草間も程よくはめられて参加を余儀無くされつつ、一同は偽の結婚式を行うことになるのだった。


●ペア決定―櫻×真輝編―
「其処の男」
「…なんだよ?」
希望の話が終わってからそれはもう呆れたような表情で座っていた嘉神・真輝に、丁度真正面に座っていた櫻が声をかけた。
訝しげに聞き返す真輝に対し、櫻は優雅に微笑みながら畳まれたままの扇を口元に当てて、緩やかに口を開く。

「…お主、このまま一言も発さなければ自分は参加せずともよい、などと思ってはおるまいな?」

―――間。
「……」
ちょっと図星だったのだが、真輝は意地でも口に出すものか、と堅く口を閉ざす。
このまま皆がペアを組んでいる間にこっそり抜け出してしまおうとひっそり算段を練っていたのだが、真正面に座った相手が悪かった。
どうやらこの桜の精は、逃げる事すら許してくれないらしい。
どことなく悔しそうに此方を見る真輝に小さく笑い声を漏らした櫻は、扇の先をビシッと真輝に向け、にこりと微笑んだ。

「―――お主、わしとペアを組め」

発言がさりげなく命令系な辺り、『流石櫻様』って感じ。
「…はぁ!?なんで俺がお前と組まねぇといけねぇんだよ!?」
急な命令に間抜けな声を上げた真輝は、その可愛らしい顔を怒りに歪ませて叫ぶ。
しかし櫻は何処吹く風。着物のまま足を組むなどという器用な動作をしながら、真輝に向かって言葉を紡ぐ。

「…主にはペアを組む相手はおらぬではないか?」
「……組もうと思えば誰とでも組める」
「それではまるでわしと組むのが不満だとでも言いたげではないか?」
「っつかぶっちゃけこの結婚式もどき事態が嫌だよ、俺は」
相手がああ言えば此方もああ言う。
なんだか堂堂巡りに入りそうな予感がひしひしと…。
しかしそんな状態を破ったのは、櫻の意外な一言だった。

「――――――桜餅」

ぴくり。
自他共に認める甘い物好きの真輝は、櫻のその一言に思わず軽く肩を動かす。
それに気を良くしたのか、櫻は楽しそうに微笑みながら更に口を動かした。

「普通の羊羹、栗蒸し羊羹芋羊羹。
 白餡つぶ餡こし餡と、選り取りみどりの餡饅頭。
 白玉だんごにあま〜い餡蜜。
 みたらし団子に胡麻団子、蓬団子に餡団子。
 他にも…」

ぴくぴくっ。
まるで唄うように並べられていく和菓子の名称に、真輝は顔を俯かせたまま肩を跳ねさせる。
ある程度言い終わってから、櫻は扇の先を口元に当て、それはもう楽しそうに微笑みながらこう言った。

「――――わしとペアを組んでくれれば、それらを全部お主に作ってやるのにのう?
 勿論、費用は全部わし持ちで」
「乗った!!!」

そこまで言った所で、真輝は勢い良く机を叩いてそう叫んだ。
甘い物を沢山食べれて、その上費用は相手持ち。
これほど真輝にとって好条件はない。
そうだ、それぐらいなら一時の恥(結婚式)なんて我慢してやろうじゃないか!と。

「はっ!結婚式如きが何だ!!
 それぐらい軽ーくこなしてやろうじゃねぇの!!」

自分を親指で指し、机に片足乗っけて偉そうに言う真輝。
菓子でそこまで割り切れるのは、ある意味男らしいと言うかなんと言うか…。

「…ふふ、ちょろいのぉ」
「……櫻って、時々すっげー悪だよな…」
「何を言う。
 時には狡賢くならねば、この世の中生きていけぬぞ?」
「…その狡賢さって、今必要なのか…?」

櫻手製の和菓子を沢山食べる自分を想像して微妙に悦に入っている真輝を見てそれはもう楽しそうに微笑む桜に、隣に座っている葉華はどこか呆れたような…真輝に同情したような表情でぽつりと呟く。
それに心外なと言いたげに飄々と言い返す櫻に向かって、葉華は更にぽつりとツッコミを入れるのだった。
…無論、真輝はその会話など耳に入っていなかったわけだが。


――――嘉神・真輝、(報酬の和菓子づくしに釣られて)櫻とペアを組む事に決定。


●古ぼけた教会
ペア決めから1週間後…つまり、結婚式当日。
メンバーはどこか嬉々とした表情を浮かべるものとどこか浮かない顔をする者に分かれているものの、揃って古ぼけた教会にやってきた。
そこは思っていたよりも大きく、教会部分とは別に控え室も内包されているようだ。
年季が経っているので塗装は剥がれたり黒ずんだりしているし、そこかしこに草が生えて蔦が絡まっているが、それはそれでこの教会がどれだけの年月を過ごしてきたかを現すようで、不思議と悪い気はしなかった。

「…皆さん、此方です…」

まきえはそう言いながら古ぼけて今にも外れそうな戸に手をかける。
ぎぎぎ…と蝶番が軋む音を伴って、大きな戸はゆっくりと開いた。

中は掃除されていたのか、思っていたよりも汚れていない。
多少床が割れていたりするが、その辺りは仕方がないのだろう。
それよりも、メンバーはその広さに驚いていた。
天井は200mぐらいの高さをもち、横など90m四方ぐらいの幅がある。どんなに急いで走っても10秒ぐらいはかかるだろう。
礼拝堂…つまり巨大な十字架がある台の方の部屋の隅には、大きいオルガンが置いてある。やはり所々色がはげていたが、まだまだ澄んだ音が出そうな感じではあった。
上部の窓や大きな十字架の後ろを飾るステンドグラスはやや色褪せているものの、美しい神や女神、天使や聖獣と呼ばれる獣達を描いているのが一目でわかる程度にはその輝きを残している。
壁にちらほらと点在する窓からは、同じように相当の年月を過ごしてきたであろう大樹達の枝が見て取れた。

この教会の内部をじっと見つめていると、まるで古ぼけている事すらその美しさのパーツに組み込まれているように思えてきてしまう。
…正に、永遠の愛を誓うには最適の場だと思えた。

まきえに案内されるまま、メンバーは横に曲がり、脇に用意された通路へと入る。
そのまま暫く歩くと、向かい合わせに設置された大きなドアが目に入った。
向かって左には金色の髪を靡かせた女神の姿が、向かって右には巨大な剣を携えた男神の姿が描かれたその扉。
なんとなく予想は出来たが、皆は念のためと言う事でまきえの言葉を待つ。
ドアの前で立ち止まったまきえは、左右のドアを指差しながら説明を行った。

「男神のドアには新郎役、女神のドアには新婦役の皆さんが入って準備をお願いします。
 衣装や化粧道具は中に前もって用意してあるのでご心配無く」

そう言うと、まきえは葉華・希望・ボブ・崎の4人と一緒にその2つのドアよりやや奥にある、角笛を持った天使が描かれたドアを開けて部屋の中に入って行った。
恐らくあそこが参列者役用の控え室、と言う事なのだろう。


大雑把に見当をつけた面々は、お互いに相手役と言葉を交わした後、それぞれのドアへと入って行くのだった。


●控え室の風景―新婦編―
女神の扉を潜ると、中には幾つかの鏡とドレス・ベールがかけられた衣装掛けが置いてあった。
ビニールで覆ってあるその上には、各々の名前が書いてある札が貼ってあり、全員はそれを手にとって着替え始めた。
…ただ、一部男性が混ざっているので、先に女性が着替えてから男性の着替えを手伝う、と言う運びになったが。

シュライン・エマは全面にビージングを施したビスチェタイプの黒いスレンダータイプのドレス。
嘉神・真輝は花びらをモチーフにした裾のラインをしている、ドレス自体がバラの花のようなオフスリーブの桜色のAラインタイプのドレス。
夏野・影踏はすらりとした印象のハイウエストの切り替えとチュールの透明感が美しいトレーンシルエットの、ミントグリーンの七分丈Aラインタイプのドレス。
橘・沙羅は清楚な印象のボックスタックのスカート、胸元・ウエストに付けた細巾レースが上品さをかもし出しているレモンイエローのプリンセスタイプのドレス。
彩峰・みどりはレース製のパゴダスリーブに、全体にレースがあしらわれたアクアカラーのプリンセスタイプのドレス。
零は幾重にも重ねたドレス裾のフリルの純白のフレンチスリーブのマーメイドドレス。
全てまきえの独断と偏見で選んだドレスらしい。
着慣れぬドレスに四苦八苦しつつも全員は何とかドレスを着終わり、各々化粧やら装飾品を身に付けたりやらをし始めた。

そんな面々の中、ぶすーっとした表情で頬杖をついて足を組んで椅子に座っている花嫁が1人。
…真輝だ。
セミロングのウィッグに、胸には詰め物。元の美少女顔も合わせ、化粧をせずとも美人の花嫁に十分見える。
その外見でそれはもう不機嫌そうに咥え煙草をしている真輝に、沙羅とみどりが恐る恐る声をかける。
「…あ、あの…どうしてそんな怖い顔をしてるんですか…?」
「あ゛あ゛??」
「ひっ…!」
勇気を出した問いかけに不機嫌満載な声で答えられ、沙羅は小さく悲鳴を挙げながら大慌てでみどりの後ろに隠れた。
それに思わず苦笑しつつ、みどりは真輝の言葉を待つ。
真輝は暫くの沈黙の後、咥えていた煙草を灰皿に押し付けると、ダァン!!と机に拳を打ちつけた。

「―――どうして性別と役割が逆転してるんだよっっ!?」

…それは恐らく、今現在この場にいないパートナー…櫻に向けて投げかけられた言葉なのだろう。
それはもう不服そうな叫びに、沙羅は一層怯え、みどりは困ったように口の端を引き攣らせながら、大人しく真輝の愚痴を聞く事に徹する事にした。

「何で櫻が新郎で俺が新婦役なんだ!?
 普通逆だろ、逆っ!!」
「絶対似合うだろうと思ったからだろ?実際似合ってる訳だし」
「うっせー!!」

口紅を塗り終わった影踏がぽつりと呟くと、真輝は半ギレで言い返す。
実は同じ事を言おうと思っていた沙羅とみどりだったが、真輝の様子を見て言わなくてよかったかも…と密かに心の中で思った。

「…で、でも…だったら何で新婦の格好をしたんですか…?」
おどおどとした沙羅の問いかけに不機嫌そうに視線を向けた真輝だったが、すぐに困ったように眉を寄せて口を開く。

「―――だってよ、櫻を怒らせるの…何となく恐かったんだよ…」

―――――意外と力に屈服する男、真輝。
そう言って顔を背ける真輝に顔を見合わせた沙羅とみどりは、思わず小さく笑ってしまった。

「…クソッ。だから草間に関わるとロクな事が無いんだ…」
その様子を見て益々不機嫌そうに眉を寄せた真輝は、新しく煙草に火をつけると、ぶつぶつぼやきながらそれを吸う。
「草間のヤツ…後でシメる」
―――ぽつりと呟かれた物騒な台詞は、悲しいことにこの場の面々の耳に届く事はなかった…。
    草間…哀れ。

コンコン。
「…着替え終わりましたか…?」
ノックの音に全員が一斉に扉を見ると、外からまきえの声が聞こえてきた。
「えぇ、入ってきても大丈夫よ」
エマが代表としてそう答えると、ガチャリと言う音と共に扉が開かれ、中に黒の女物のスーツを着たまきえが入ってくる。
手は大きめの荷台を押していて、そこには大量の花束が活けられていた。
―――恐らく、ブーケだろう。

「…今回ブーケを2種類用意してみたので、皆さんに選んでいただこうと思いまして…」

そう言って荷台を机の横で止めると、全員がその荷台を一斉に覗き込む。

1つはユーチャリス、ブルースター、アイビーを散りばめた二等辺三角形型のキャスケードタイプのブーケ。
もう1つはブルーローズ、ブルースター、デルフィニュームのプリザーブドフラワーと生花を使った普通の円型のラウンドタイプのブーケ。
1つ目は白と青、もう1つはほぼ全部青をメインにしたブーケだ。

「…青い花は幸せを呼ぶ花とされていて、ヨーロッパでは花嫁のブーケや赤ん坊の誕生日に贈る花として使われてるんです…」

だから今回は青の花束で統一させていただきました、と言うまきえにほぅ、と感心したように声をあげる面々。
…ただし、その中でエマだけは以前色々あったので微妙そうな表情を浮かべていたが。
そんなエマを目敏く見つけたまきえが、にこりと微笑みかけて口を開く。

「…お約束でしたよね?」
「げほっ!?」
「え、エマさん!?」
まきえの唐突なキラーパスに思わず咳き込むエマと、驚いてその背を擦る零。
それを見てくすくす笑うまきえは、選んでくださいね、と全員に声をかけた。
その声に改めてブーケをじっくりと眺めた面々は、各々ブーケを選んだ。

エマ、影踏、みどりはキャスケードタイプのブーケを。
真輝、零、沙羅はラウンドタイプのブーケを、選んだ。

「…では、結婚式の時間までこれは水に生けたまま置いておきますね…」
そう言って微笑むまきえに全員が頷いた時、廊下から盛大な叫び声が聞こえてきた。

「…いっ、嫌だってばっ!!」

―――葉華の声だ。
「何でだよ?似合ってんじゃん」
「嬉しくないっ!」
「そぉ?元々女の子でもあるんだからいいじゃん、たまには」
「たまにでも嫌なモンはヤだッ!!!」
言い合いに参加してる葉華以外の2つの声は恐らく希望と崎だろう。

「……あれは何の騒ぎ?」
影踏が外を指差しながら苦笑すると、まきえはにこりと優しげに微笑む。

「…葉華が駄々を捏ねているだけですから…お気になさらずに…」

普通気にするんじゃなかろうか。
本当に保護者なのかなぁ、この人。
思わずそう思ってしまうほど、まきえの笑顔は嫌に爽やかで。
騒ぎ声はどんどん大きくなっていき―――しまいには。

バタァンッ!!

と大きな音を伴って、3人が部屋の中に入ってきた。
そしてその3人の姿に――――まきえ以外の全員は驚いて目を見開くことになる。

希望に抱えられるようにやってきた葉華は、黒のゴスロリドレス。
葉華を抱える希望は神父が着るような漆黒服に身を包み、首には十字架のレリーフがついたネックレスを下げている。
崎は、目にも鮮やかなオレンジのフリルが控えめの足首まで隠れるシンプルなAラインのドレスを着ており、髪が脇まであるカツラを被っていた。
…要するに、牧師風男とそれに抱えられたゴスロリドレスの子供と女装男の5人組。

「葉華のヤツ『見られたくない』って駄々捏ねて連れてくるのに一苦労したぜー」
「そうそう、わがまま言っちゃいけないよー?」
「うっさい!おいらはお前らと違って羞恥心があるんだ!!」
「あらあら、ちっちゃいのに『羞恥心』なんて言葉よく知ってまちたねー」
「ガキ扱いすんな崎―――ッ!!!」

入り口ですっかり空中に浮いている足をじたばたさせながら逃げ出そうとする葉華とそれをからかって遊ぶ希望と崎。
その様子にはっとした面々は、歩いて近づいてくる希望達を驚いた表情で見る。
と、希望が楽しそうに笑ってその疑問に答えようと口を開いた。

「見ての通り、俺は今回牧師役v葉華はまきえサンと一緒に参列者役なんだぜ?」
「俺は女装して伴奏者役♪似あうっしょ?」
笑いながらさらっと言う希望にスカートの裾を摘んでくるりと回ってみせる崎。
「…伴奏者?」
「伴奏って…ピアノとかオルガンとか弾くあの?」
気になる箇所を見つけたらしい不思議そうなエマと零の言葉に、崎はくすりと笑って簡単な説明をした。

「教会での結婚式って賛美歌歌うらしくてさ。俺これでもオルガン弾けるから伴奏をやることになったワケよv」
「なるほど…」
「へぇ、そうなんですか」
くつくつ笑いながらホラ楽譜、と見せると、エマと零は納得したように頷いた。

「…で、葉華が女のカッコしてる理由はっつーと…」
そこで言葉を切った希望がまきえに笑顔を向けると、まきえは楽しそうに微笑んでから、頬に手を当てて口を開く。

「…こう言うときじゃないと葉華に女の子の服、着せられませんから…」

――――――間。
あまりにも爽やかな笑顔に一瞬思考回路が停止してしまったようだ。

「…おいらはそれだけの理由でこんなカッコさせられたのかよ…!!」

硬直からいち早く回復した葉華は崩れ落ちるとダンダンと床を叩きながら心の底から悔しそうに呟いた。
「…葉華…お前…」
真輝は思わずとてつもなく憐れな物を見るような目を向け、それに気づいた葉華は顔を真っ赤にして口を開く。
「う、うっせー!真輝だって花嫁のカッコしてるくせに!!」
「こっ、これは不可抗力だ!」
「おいらだって不可抗力だい!!」
解放された葉華は真輝と口喧嘩してたり。
でもしっかり真輝のドレスの端を掴んでるあたり、葉華的には同族(女装(?)させられた組)がいるという安心感があるようだ。
…もとより、楽しんでる崎は除外済み。

「…それでは、私達は新郎さん達の方にもいかないといけませんので…。
 では、10分後に礼拝堂へ一旦集合して下さいね…?順番を決めますから…。
 あぁ、式の進行を書いた冊子はそこにおいていきますから、目を通して置いて下さいね…?」

そう言って微笑んだまきえはがっしと葉華の首根っこを掴む。
「い゛っ!?
 ちょ、もしかしておいらも行かなきゃいけないのか!?」
「当たり前でしょう…?
 …きちんと、お披露目しておかないと…」
「い、いいっ!お披露目なんてしなくていいから―――ッ!!!」
葉華の必死の抵抗も空しく、葉華はまきえの馬鹿力でずるずると引き摺られ、部屋から出て行ってしまうのだった。

「「「「「「……」」」」」」」
呆然と見送る一同に対し、希望と崎が笑顔で一言。

「「…まぁ、ドンマイ!」」

それは一体誰に向けての励ましだ。
そうツッコむ者は、残念ながらこの場には存在しなかった。

それから3分ほど暇つぶしに話し込んでいた一同。

「あー…俺達も一応挨拶に行った方がいいんじゃね?」

今更ながら思いついたというように崎が希望を振り返ると、希望もそうだなぁ…と呟いて頷いた。
だったらもっと早く行け。
この部屋の中にいた何人がそう思っただろうか。

「んー…じゃ、俺らも此処でますかネ」
「りょーかい。
 ほんじゃ、また後でねー♪」
そう言って、ひらひらとこちらに向かって手を振りながら希望と崎が部屋を出て行った。

――――――と。

「…くっそー、こっちでも同じ事言いやがってーッ!!」

それと同時に隣の部屋から、唐突に葉華の叫び声がして、驚いて顔を見合わせるエマと真輝。
しかしすぐにバァン!とドアを叩き開けて此方に向かって走ってくる音が聞こえ、大きくなったかと思うと同時にドアがバァンッ!!と叩き開けられた。
そこには、今にも泣きそうな顔をした葉華の姿。
「うわぁーん、真輝ィーっ!!」
真輝の姿を見つけるや否や、情けない声をあげると同時に真輝へ飛びつき、わんわん泣き出した。
「…い、一体何があったんだ…?」
「さぁ?…向こうでもまきえさんにこの格好させられた理由をキッパリ言われた挙句、櫻さん辺りにでもからかわれたんじゃないかしら?」
「……ありえる」
っていうかむしろドンピシャ。
顔を見合わせて苦笑する真輝とエマを他所に、葉華は少しの間悔しそうに泣き続けるのだった。
…勿論、泣き止んだあとは顔を真っ赤にして逃げ去るというオマケ付きだったが。


―――――集合時間まで、あと5分。


●顔合わせ
5分後。
礼拝堂に集合した新郎組が目にしたのは――――植物。
この場にいる人数分の隙間が辛うじて空けられている以外は、礼拝堂の席はびっしりと植物に埋め尽くされていた。

――ただし、植物とか言っても植木蜂とかそう言う可愛らしいものでは決してない。
可愛らしい植物に二又に分かれた根っ子が生えているものか。
普通の植物がドレス着てそわそわしているものか。
白いはずの花が心なしか赤く頬を染めたような状況になっているものか…!!!
しかもさっきから全然見あたらなかったボブ(首と布の境目に蝶ネクタイ装備)がそこで皆を待つようにふわふわ浮いてるしね…!

「あれ?母さん、うちの植物達何時の間に呼んだの?」
「ほんにのぉ。先ほどからボブの姿が見えなんだと思うておったらこんな所におったのか」
新郎新婦中唯一…と言うか全く平然としている聡が櫻と顔を見合わせた後まきえに顔を向ける。

「ふふ…今回のことをお話したら皆見たいっていうものだから…連れてきちゃったの…。
 ボブは皆がきちんと椅子に座れるように先導してもらっていたのよ…」

「…そうか…コレはアンタんとこの植物か…」
「凄いですねぇ、動く二足歩行植物って始めて見ましたよ、僕」
頬に手を当ててほほほ、と楽しそうに呟くまきえに事情を察した草間が肩を落としながら疲れたように呟き、功刀・渉はどこかズレた感想を楽しそうに言うののだった。

「なんやアレ!?キショッ!動く植物なんて植物やあらへん!!」
「…そしたらボブとか言うあのカボチャも植物じゃなくなっちゃうんじゃ…?」
「あれはまだ愛嬌あるからギリセーフや!!」
混乱して叫ぶ笹原・美咲に花瀬・祀が小さくツッコみ、更に美咲が必死に叫び返す。
…まぁ、確かにいきなり二足歩行の巨大薔薇とか見せられれば混乱するに決まってるだろう。

新郎組が入り口より少し進んだ所で立ち止まっていると、後ろから新婦組がやってきた。

「…うわぁ…」
「……何だ、この奇怪植物の群れは…」
驚いたような恐がってるような声を挙げたのは零。顔を若干青くしながら嫌そうに後ずさるのは嘉神・真輝。
「……すご…って言うか、アレって地球に存在する生命体か…?」
驚いたように目を丸くしながら何気に失礼なことを呟くのは夏野・影踏。

「…これ、まきえさんのところの子達じゃないかしら…?
 あそこにいるのってもみの木さんと門松さんだし…」
思い出したように手を打ってから、礼拝堂の椅子の中盤辺りに座っている植物を指差すのはシュライン・エマ。

「えぇ!?あれってまきえさんの所の植物さんなんですか!?」
「…わ、私…自分の身長と同じくらいの高さで頭と同じ大きさの花を持つ薔薇って始めてみました…」
エマの言葉に驚いて声を挙げる片桐・沙羅と、怯えたように呟く彩峰・みどり。

同じようにまきえが説明すると、今度は草間の代わりに真輝が力尽きたように項垂れた。


―――集合が完了した面々は、一旦お互いの顔合わせと言う事で数分ほどペア同士で話す時間を与えられた。


櫻が真輝に歩み寄るが、当の真輝は不服そうにそっぽを向いたまま。
それにくつくつと微笑みながら、櫻が口を開く。
「…よく似合っておるではないか?」
「うっせー!」
その言葉に顔を赤くしながら怒鳴り返す真輝。
それに一層笑みを深くした櫻をきっと睨み上げ、真輝は半分自棄が混じった叫びを挙げる。

「あー…櫻様はお姿変えられるんでしたねぇ!
 新郎姿も、俺より背高くてよくお似合いで!!」
「それはどうもv」
しかし半分嫌味交じりの叫びも櫻にかかれば小鳥のさえずりとほぼ同じ。
さらっと笑顔で返されて、真輝は一気に怒る気が失せた。

「…ふ、ふふふ…」

しかしすぐに俯いたかと思うと、不気味な笑いを発し始める。
何処かのネジが1本吹っ飛んだか?
何気に失礼なことを考えた櫻が顔を覗き込もうとすると、がばぁっ!と唐突に顔を上げ、大声で叫び出す。

「こーなったら立派に新婦やってやろうじゃねぇかっ!
 覚えとけ葉華、これが男の潔さってヤツだ!!」

ビシィッ!と親指で自分を指差すオマケ付きだ。
「ほぉ、中々いい心がけじゃのぉ」
そんな真輝を見て、櫻は満足げに頷くのだった。

「…自分も散々駄々捏ねてたのになぁ…」
「……最終的には諦める潔さが必要なんだよ、きっと…」
そんな真輝を見て、ぽつりとツッコミを入れる希望とどこか遠い目で呟く葉華がいたとかいなかったとか。


●式序盤
まきえ特製のくじ引きの結果、順番は以下の通りになった。

(新郎×新婦順)
1 渉×零
2 祀×沙羅
3 櫻×真輝
4 美咲×みどり
5 聡×影踏
6 草間×エマ

すぐに出入りできるように席は全体の中ほどにし、通路を挟んで新郎と新婦が順番並びに座ることになった。
1人が抜けたら席を詰め、1番外側に終わった新郎新婦が座る。
それでスムーズな交代をすることにしたのだろうだ。

今回は略式結婚式を更に略した物ということで、進行は以下の通りになっている。

<全員でやる部分>
新郎新婦入場(一旦全新郎新婦が入場した後、1番目の新郎新婦以外は席につく)
(賛美歌 312番)
聖書朗読(愛に関することば)
<各ペア毎に交代する度やる部分>
誓約
指輪交換
誓いのキス(やるペアはやる)
祝福の祈り
<全員でやる部分>
(賛美歌 430番)
新郎新婦退場(全新郎新婦が退場)

キスに関してはやってもやらなくても構わないということで、「やらない」と言うペアがほとんどだ。
…まぁ、上辺では「やらない」と言っててもやる気な輩もひっそり存在するようだが。


「…では、曲が流れ出して扉が開かれたら、そのまま入ってきて下さいね…」
外に新郎新婦を待機させたまきえは、ブーケを新婦に手渡すとそう言って中に戻って行った。

そしてそのまま少々待っていると、中からオルガンの涼やかな音が漏れてくる。
『結婚行進曲』だ。
誰もが必ず1度は聞いた事があるだろうこの曲を耳にした面々は、お互いのペアと顔を合わせた後、表情を引き締めて歩き出した。
先頭は6番目のペア。最後尾は1番目のペアだ。
まるでその様子を見ていたかのように、扉が静かに開かれていく。
ぎぎぎ…と蝶番の軋む音を響かせながら、一同はゆっくりと教会の中へ1歩踏み出した。

それと同時に、参列者の木達が枝を揺らして騒ぎ始める。
中には何故かきちんとした拍手の音まで混ざっていたが。

しかし全員緊張でそれどころではなく、顔を若干強張らせたまま中に入っていく。
右、左、左、右と何度も繰り返して足を動かす。忘れないように、まるで呪文のように頭の中で反復しながら。
ゆっくりと1歩踏み出す度に、古ぼけた、しかし柔らかいバージンロードの敷布がヒールを通して伝わってくる。
オルガンの前には女装した崎が座っており、静かに、だが力強くオルガンを演奏している。
十字架を背に立っている希望は、普段のおちゃらけた表情ではなく――本物の牧師らしく、真剣な表情で静かにこちらを見つめていた。
どきどきと高鳴る心臓を抑えて中に入ると、2番目以降のペアは途中で右左折し、席に座っていく。
奥から詰めるように座っていくと、急に気が抜けた気がしてふぅ、と深々と溜息を吐く人数人。
そして、1番目のペアが牧師…希望の前に立つと同時に、伴奏が一旦ピタリと止まった。

「一同――――起立」

希望の落ち着いた…しかしよく通る声に、全員は一斉に席を立つ。
参列役の植物達の手に楽譜が握られているのに気づき、待機している新郎新婦達は前もって置いておいた進行冊子を手にとって開いた。
それをしっかり見つめた希望は、視線をオルガンに座る崎の方へちらりと向けた。
それとほぼ同時に、崎がゆっくりと手を持ち上げる。
オルガンに下ろされた指先は、しなやかに動き回り、ゆるやかなメロディを奏で始めた。
それにあわせて、全員はゆっくりと口を開く。


――
いつくしみ深き   友なるイエスは
罪科憂いを     取り去りたもう
心の嘆きを     包まず述べて
などかは下ろさぬ  負える重荷を

いつくしみ深き  友なるイエスは
かわらぬ愛もて  導きたもう
世の友我らを   捨て去る時も
祈りに応えて   いたわり給わん

アーメン
――


静かに、厳かに、歌声が教会を埋め尽くしていく。
アーメン…「本当です」という意味を持つこの言葉が最後に皆の口から発せられると同時に、伴奏も静かにその音を止めた。

「――――着席」
その余韻に思わず浸っていた面々は、希望の静かな声を聞いて席につく。

それと同時に、希望はゆっくりと聖書を開き、目を軽く伏せながら聖書を読み上げる。


「愛がなければ何の役にも立ちません。
 愛は寛容であり、愛は親切です。
 また人を妬みません。
 愛は自慢せず、高慢になりません。

 礼儀に反することをせず、
 自分の利益を求めず、
 怒らず、人の悪を思わず、
 不正を喜ばずに真理を喜びます。

 全てを我慢し、全てを信じ、
 全てを期待し、
 全てを耐え忍びます。
 愛は決して絶えることがありません。

 こういうわけで、
 いつまでも残るものは 信頼と希望と愛です。
 その中で一番優れているのは愛です。

 愛を追い求めなさい」


高すぎず低すぎず、耳に心地よく余韻を残す希望の声が、静かに教会に響き渡る。
普段の希望とはあまりにもかけ離れた姿のせいだろうか。
まるで、希望が本物の牧師のように感じてしまった。

一同のどこか呆然とした視線を受けても顔色1つ変えず、希望は静かに聖書を閉じる。
ぱたん、と軽い音を立てて閉じられた聖書を見、全員ははっとして背をピンと伸ばす。
それを見ながら、希望は静かに声を発するのだった。


「では――――誓約に移ります」


その言葉に、参加者達の緊張が一層深まった。
ここから先は、自分達もそれぞれ経験する場面だからだ。


●結婚式―櫻×真輝編―
3番手は櫻と真輝だ。
2番手の式が終わって離れて歩き出すと同時に、2人は席を立ち、歩いて祭壇の前に立つ。
此方は2人とも涼やかでなんともないような表情を浮かべている。
――――が、真輝は内心穏やかではなかった。
1番手の2人の悪戯によって強制決行となった『誓いのキス(最低でも頬)』を、櫻としなければならないと言う事に。
頬なのが唯一の救いだが、やはりなんとなく緊張してしまう。
そんな2人を一瞥した希望は、口を開いた。

「では――――誓約を」
そう言うと同時に、まずは櫻へと視線を向けて話し掛ける。

「―――固く節操を守ることを誓いますか?」

真剣な表情で、真剣な声。
1番手の時とはうって変わって、真剣な進行を行うつもりらしい。
櫻は当然と言わんばかりに楽しそうに口の端を歪めるが、すぐに口を引き締める。
そしてゆっくりと聖書の上に手を置いて、口を開いた。

「―――はい。誓います」

紳士的な、静かな声。
教会の中にある程度響く程度のその声音は、大きすぎず、小さすぎず、しかし確実に皆の元へ届いていく。
それを確認した希望は小さく頷くと手を退けるように示し、真輝に静かな視線を向けた。

「―――固く節操を守ることを誓いますか?」

その言葉に、真輝はぴくりと肩を動かす。
女っぽく、出来るだけ女っぽく。
頭の中でそんなちょっと間抜けな事を反復しながら、真輝は聖書の上にゆっくりと手を置いて口を開いた。

「―――はい。誓います」

櫻と同じく、その適度な声は教会内に静かに響いていく。
それを確認すると希望は小さく頷き、2人の前に小さな箱を置いた。


「では――――指輪の交換を」


そう言って静かに開かれた箱の中には、シンプルなシルバーリングが2つ。
内側には『○○(自分の名前)to○○(相手の名前)』とアルファベットで彫られており、外側には小さく羽根の生えたハートが彫られていた。
無駄な装飾はいらない。
無駄にごてごてした物よりは、皆このような物の方がよかった。

頷いて向かい合う2人。
櫻はゆっくりと手の平を上にして希望に向かって差し出す。
希望はその上に指輪をそっと置き、小さく微笑んで見せた。
それに微笑みを返すと、櫻は空いている方の手で真輝の左手を優しく掴み、持ち上げる。
予想外の慣れたような動きに一瞬驚いて目を見開く真輝だったが、すぐに慌てて真剣な表情に戻す。
それを見て小さく笑った櫻は指で指輪をそっと摘むと、真輝の左手薬指にそれをゆっくりとはめる。
完全にはめ終わったところで、櫻がそっと手を離す。
それを確認した真輝も、櫻と同じ動作で指輪を彼女の左手薬指にそっとはめた。

お互いがはめ終わった事を確認した希望は、ゆっくりと口を開く。


「では――――誓いの口付けを」


そこで、真輝がごくりと唾を飲み込んだ。
やはり偽とは言え、こう言うのは緊張するものだ。
ましてや、神聖な教会で嘘を誓うような行為。
少々気が引けるが、後々希望の得体の知れないお仕置きを受けるぐらいなら、唇同士じゃない分頬にキスされた方がマシだ。
ぐるぐる回る真輝の思考をしってか知らずか、櫻は楽しそうに微笑んで見せた。
そして、向かい合った真輝のベールに手をかける。
真輝が軽く膝を曲げたのを確認してから、手をかけたベールをゆっくりと、優しく丁寧に上げていき、真輝の顔に引っかからないように上げてから後ろまで下ろす。
そして真輝が姿勢を直したところで少しの間を空け。
「…まぁ、あまり深刻に考えるでない。
 小さい頃にやった結婚式の真似事を少々本格的にやるようなものじゃ」
「…解ってる」
素直じゃないのぉ、と呟いて笑った櫻が巻きの肩に優しく手を置き―――ゆっくりと、顔を近づける。
何故か教会の中から誰かのごくりと唾を飲む音が聞こえた。
あれだろうか―――植物達の中の誰かが、女装した男と外見男(中身は女)と言うどこか倒錯的な雰囲気に飲まれかけてるのだろうか。
櫻の顔が、徐々に真輝の顔に近づいていく。

――――――ちゅっ。
…教会に、可愛らしい音が響き渡る。
櫻の唇は、優しく、まるで羽根で触れるかのように―――ふわりと、真輝の頬に、当てられた。
何故かふわりと桜の香りが漂った気がして、我知らず真輝は僅かに頬を染める。
それを見た櫻は楽しそうに口元を歪め、軽く肩を叩くと希望の方へ意識を向けるように促した。

それを確認して、希望が首にかけていた十字架を手にとり、巨大な十字架に向き直って頭を垂れる。

「では―――お2人の約束が神に守られるよう。
 また、新しい生活が神に祝福されるよう―――祈りましょう」

そう言うと同時に、希望が跪いて額に十字架を当て、祈るようなポーズを取った。
それに倣うように皆も頭を垂れ、瞳を閉じる。
―――暫しの沈黙。
数十秒ぐらい経ったところで、希望がゆっくりと立ち上がる。
その衣ずれの音を聞き、皆がゆっくりと瞳を開き、頭を持ち上げた。
立ち上がった希望は巨大な十字架を見つめた後、手を持ち上げて口を開く。

「――――アーメン」
『アーメン』

十字を切りながら言われたその言葉を、全員が揃って復唱する。
ここで――――櫻と真輝の2人だけの結婚式は、終わりを告げたのだった。
「ご苦労様じゃったな、真輝」
「…そっちもな」

櫻の声にぶっきらぼうに返す真輝。
お互いに顔を見て緩く口の端を持ち上げると、ゆっくりと身を翻す。
そしてそのまま左右に分かれて外側を回り、席につく。
その時には、既に次のペアが祭壇の前に辿り着いていた。


●終章
草間とエマ、最後の2人が席に戻ると同時に、希望が楽しそうに微笑みながら口を開く。


「一同――――起立」

希望の笑いを含んだ…しかしよく通る声に、全員は一斉に席を立つ。
全員進行冊子を手にとって楽譜のページを開く。
それをしっかり見つめた希望は、視線をオルガンに座る崎の方へちらりと向けた。
それとほぼ同時に、崎がゆっくりと手を持ち上げる。
オルガンに下ろされた指先は、しなやかに動き回り、ゆるやかなメロディを奏で始めた。
それにあわせて、全員はゆっくりと口を開く。


――
妹背をちぎる   家のうち
我が主もともに  いたまいて
父なる神の    御旨に成れる
祝いのむしろ   祝しませ

きよき妹背の  まじわりは
慰めとわに   尽きせじな
重荷もさちも  共に分かちて
よろこび進め  主のみちに

アーメン
――


静かに、厳かに、歌声が教会を埋め尽くしていく。
アーメンという言葉が最後に皆の口から発せられると同時に、伴奏も静かにその音を止めた。

「――――着席」

希望の声に答えて、全員が座る。
それを確認した希望は全員に向かって一礼すると、ゆっくりと外側から周り―――横に入って消えていった。

完全に希望の姿が消えた所で、崎がまたゆっくりとオルガンを奏で始める。
新郎新婦の退場の時間だ。
それを察した参加者全員は同時に立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
参列者役の草花の拍手にお辞儀をして返しながら、全員は静かに外へ出て行った。


外へ出ると、其処には楽しそうに口端を持ち上げた希望が待ち構えていた。
「はいはーい。皆さんご苦労様☆」
パンパンと手を叩いて楽しそうに笑う希望。
その希望に真っ先に食って掛かったのは…当然、草間。

「…覚悟は出来てるんだろうな…?」
がしっと希望の襟首を掴んで持ち上げて凄んでみせるが、希望は依然として楽しそうな顔のまま。
怒った草間が手を振り上げた瞬間――――。
「武彦さん、止めて!!」
…エマが大慌てで止めに入った。
「お前、コイツを庇うのか!?」
「…えっと…いや、庇いたくないのは山々なんだけど…」
激昂した草間の叫びに、エマは苦笑気味に言葉を濁す。…やっぱり許せないようだ。
しかしエマはすぐに慌てて草間の腕を掴むと、困ったように笑って見せる。

「ほら…希望くんも、きっと植物さん達の為にやったことだろうし…ね?」

多分違うだろうけど、このまま見捨てて希望が草間に殴られるのを見ているほど薄情ではないのだ。
困ったように微笑むエマを見―――草間も、諦めたように溜息を吐く。
「……わかった」
「ありがとう、武彦さん」
「ありがと、武彦さんv」
「殺すぞ…?」
茶化すように頬に手を当てて裏声を使って遊ぶ希望に、草間は本気で殺意の篭った視線を向けるのだった。

「…では、お話も一段落したところで」
『!?』

今まで成り行きを見守っていた面々の後ろから唐突にした声に、希望以外の全員が驚いて振り返る。
そこには、楽しそうに微笑んだまきえ・葉華・崎と、宙を漂うボブの姿が。

「折角ですから、記念に写真を撮りましょう?
 教会の前と、老樹さん達と一緒に2種類で」
その有無を言わせぬ笑顔に、全員は苦笑気味に頷いた。

「あ、もっとこっちによってください」
写真を撮るのは―――参列者達の中にいた、2足歩行の喋る薔薇。
なんとなく複雑な気分ながらも、全員は大人しく寄っていく。
当然のごとく、新郎と新婦は隣同士。
一部のペアは気まずそうな顔をしていたが、それでも写真を撮る時は笑顔でいるように努めた。

「はーい、それじゃあ撮りますよー」
植物の声に全員がレンズに目線を向ける。

「はい、チーズ!」

と言って薔薇がシャッターを押す寸前。
「「ていっ」」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
草間とエマの両隣に座っていた希望と葉華が、まるで示し合わせていたかのように2人の背を押し。
「さーらv」
「ま、祀ちゃんっ!?」
祀は沙羅をぎゅっと抱きしめ。
「聡v」
「うわぁっ!?」
影踏(また女性の姿に戻った)が聡を抱きしめ。
「ハイエロファントとマンゴスチン、笑って笑ってーvv」
「きゃっ!?」
「うきゃっ!?何するん自分!?」
崎がにっと笑いながら2人の首に腕を回して引き寄せ。
「わしらも最後に遊ぶかのぉ♪」
「おわぁっ!?」
櫻が真輝の腰を掴んで抱き寄せた。

――――パシャッ。

…まさに一瞬の出来事。
老樹達の前で撮った写真は、愉快なというか…妙にラブラブな写真として出来上がってしまったのだった。


――――後日。
     プラントショップから送られた手紙には結婚式の色んなシーンと集合写真が沢山入っていて。
     受け取った人たちは、赤くなったり青くなったり、あちこちで色んなリアクションを浮かべていたそうだ。

…ちなみに。
聡は暫くの間、塞ぎ込んで部屋から一歩も出てこなかったことを…此処に記しておく。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
<ペア別一覧(新郎×新婦)>
【NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長、探偵】×【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【NPC/櫻/女(無性…?)/999歳/精霊】×【2227/嘉神・真輝/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】
【NPC/山川・聡/男/18歳/プラントショップ『まきえ』店員】×【2309/夏野・影踏/男/22歳/栄養士】
【2346/功刀・渉/男/29歳/建築家:交渉屋】×【NPC/草間・零/女/57歳/草間興信所の探偵見習い】
【2575/花瀬・祀/女/17歳/女子高生】×【2489/橘・沙羅/女/17歳/女子高生】
【3315/笹原・美咲/女/16歳/高校生】×【3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生】

<牧師>
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
<伴奏者>
【NPC/秘獏・崎/男/15歳/中学生】

<参列者>
【NPC/山川・まきえ/女/38歳/プラントショップ『まきえ』店長】
【NPC/ボブ/無性別/1歳/「危険な温室」管理役】
【NPC/葉華/両性/6歳/植物人間】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第九弾、「ジューンブライドも楽じゃない?」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回、参加者様はNPCとペアとPC同士ペアの参加者が上手い具合に1:1(要するに半々)になりました。
よって、合計6ペアです。意外と多くなってちょっとビックリしたり(笑)
しかもNPCご指名が1人も被らないという結果に…!普通に驚きましたよ、私(笑)でも新郎役はNPCのが圧倒的に多かったです(をい)
ちなみに御指名がなかったNPC達は参列者役で参加です。
その中でも希望・崎は特別に牧師役・伴奏者役で参加という運びになりました。…進行適当で申しわけ御座いません(爆)
相変わらず個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
また、式当日の準備時間は新郎編・新婦編で分けてあったり、同じ時間軸でも違う内容の個別、と言うのもあります。
他の人の物も見てみると中々面白いかもしれません。
ちなみに新郎・新婦の衣装やブーケ、胸に飾る花は独断と偏見と個人的な趣味で決めさせていただきました(笑)
一覧や副題の『(名前)×(名前)』の順はあくまで新郎役×新婦役の並びなので、実際の力関係は逆なペアもあったりします(笑)…愉快な展開に巻き込まれたNPCも約1名(ぇ)
どうぞ、これからも愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

真輝様:ご参加、ども有難う御座いました。
    …楽しかったですv(待てコラ)
    何故か櫻さんに勝てない真輝さん、って感じで書かせていただきましたが…いかがでしたでしょうか?
    誓いの口付けは頬と言う事で、ご容赦下さいませ(をい)
    では、今回のご参加、有難う御座いました。

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。