コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


『二人歩む先にある二人の愛の形式の答え ― 二本の銀のスプーンに想いを込めて ― 』


【二人の愛の形式】


 電話の受話器から聞こえてくる友人の彼女の声はとても幸せに満ちていた。
「そうですか。それはおめでとうございます。お幸せに」
 セレスティは心の奥底からそれを願い、言葉に紡ぐ。
『ええ。ありがとう。それとね・・・』
「・・・・はい?」
 それとね・・・からの沈黙が随分と長い。セレスティは小首を傾げて、さらりと揺れた前髪を右手の人差し指で掻きあげた。
 たっぷりと間を置いて・・・
『もうひとつ報告があるの・・・』
 そう言う彼女の声はどこか照れがあった。6月20日に結婚するの、と言った時よりも。もちろん、セレスティはそう言う彼女の雰囲気でだいたいの察しはついた。だけどセレスティは紳士だ。自分からそれを口に出すような野暮な真似はしない。優しい声で、ただ彼はそれを彼女に言ってあげる。
「はい。何ですか?」
 その彼の声の響きに安心したかのように彼女は一呼吸置いて、言った。とても幸せそうに、とても嬉しそうに。
『えっと、実は赤ちゃんもできたの。双子なんですって』
「それは本当におめでとうございます。良かったですね。あなたの倖せとそして生まれてくる双子の命を心から祝福させていただきますよ」
『ありがとう』
 受話器の向こうでくすりと笑った彼女にセレスティも両の瞳を柔らかに細めて、それで気になった事を訊いてみる。
「それで式はどこで?」
『ああ、あのね。結婚式と言っても親戚たちにお披露目という意味の方が強い式だからドイツの実家でやろうと想うの』
「そうですか。それでしたら我がリンスター財閥より自家用飛行機を出しましょう。私からのささやかなあなたへのお祝いのひとつとして、ね」
『まあ、本当ですか?』
「はい。かまいません。甘えてくださって結構ですから、式に出られる方にもそうお伝えください」
『ありがとう。それではそう皆さんに伝えておきます』
 そうしてもう少しだけ世間話2割、後の8割はのろけだった彼女との電話は切れた。
 受話器を置いたセレスティは杖を片手にロッキングチェア―から立ち上がり、部屋のカーテンを開けて窓の外に広がる深い藍色の空を眺めた。夜空の色は深海の色と同じだという。ならばさながら夜空にきらめく星々はマリンスノーか?
 ほとんど視力の無いセレスティにもしかしなぜか不思議と星の光は感じられた。それは気の遠くなるような時をかけてやってきた星の光の力なのであろうか? それともこの地球という星に届く光はしかし実際にはおそろしく遥か昔の光であるから、だからセレスティもまた長き時を生きるメトセラであるから、その光が発せられた時を生きていた彼の目には見えるのかもしれない。
 そんな事を考えるのはなぜだろう?
 ひょっとしたら少しナーバスになっているのかもしれない。結婚してしまう友人がどこか遠くのほうへ行ってしまうかのような気がして。
「ふっ。困りましたね。私も感傷的になってしまったものです」
 昔はもっと割り切れていたと想う。
 彼は長生種。人間の生などはセレスティにとっては瞬きのほどの時間だ。そういう事もあったのだろうか? 長き時がある彼は何事にもクールであったし、そしてだから何度でもやり直しがきくという強みもあって危険な賭けにも出られた。リンスター財閥総帥という今の地位もそうした彼の思考の下に手に入れた地位だ。
 そう、昔は本当にだからクールであったと想う。人には執着しなかった。去りたければ去ればいい。どうせ、人はいつか自分を置いて死んでしまうのだから。
 ああ、だからそうした心情のせいで恋愛に対しても否定的であったのかもしれない。心のどこかで自分が傷つくのを避けるためにマインドコントロールによるブレーキをかけていた。
 だけど・・・


『セレ様♪』


 そんな頑なに閉じられていた心は彼女の優しい微笑みによっていとも簡単に開かれた。まるで春先の心地良い軽やかな風が窓の隙間から入り込んでくるかのようにいつの間にかセレスティの心の中にいた彼女。
 彼女を愛おしく思う想いがセレスティをほんの少し変えた。もともと人には執着しないと言いながらも仲間には危険だと言われるほどに愛情は注いでいた。ただ恋愛には否定的であっただけ。だけどその自分が今は笑い上戸の泣き女を愛しているのだから本当に不思議だと想う。ひょっとしたらそれは彼女もまたセレスティと同じメトセラであるからかもしれない。
 それでも………
 ―――――――それでも自分が彼女と望むのは永遠の恋人同士という間柄だった。
 結婚とは鳥籠のようなモノだと言った誰かがいる。鳥籠の中の鳥は籠から出たがり、籠の外の鳥は中に入りたがる。そんな不思議な男と女の形式。
 結婚と言うのは何であろう?
 男と女がずっと一緒に生きていくための方法――――
 ―――――男と女の一つのけじめ。
 とにかくそれは先の時代を生きていた者たちが作り上げた形式であって、だからと言って今を生きる自分たちがそれに囚われる事は無い。
 恋人はとても大事。
 心の奥底から愛しているし、
 いつも一緒にいたいと想っている。
 だけど今はそれでも結婚と言う答えを出すつもりは無い。
 ――――――――先人が作り上げた愛しあう男女二人の形式に乗る事は無い。
 だって二人はメトセラ。永遠とも思えるような長い時間があるのだから。
 だから模索していきたいのだ――――
 先人の作り上げた愛しあう男女二人の結婚と言う一つの答えではない、
 自分たちだけが出せる答えを。
 ずっと長かった分、その永き時を越えて出逢えた分、その永き時を捨てて掴んだ勇気の分、セレスティはだからそれに見合う自分が納得できる答えが欲しかった。二人でこれから歩いていく時間の。
 そのための答えが―――――――――。
 そしてそれはきっと彼女もわかってくれる。
 二人手を繋いで、自分達のペースで二人の道を歩き、答えを出せるはずなのだ。
 そう、出せるはずだ。自分と彼女なら。
「もうそろそろかな?」
 ぴしゃりと部屋のカーテンを閉じたセレスティはそれを信じて疑わなかった。だって・・・
 部屋に響く電話のコール音。
 ナンバーディスプレイに表示されているのは、彼女の名前。
 ―――――こうやってわかりあえているのだから。
『もしもし、セレ様ですか?』
「はい。そろそろ電話がかかってくる頃だと想っていましたよ。彼女の事ですね」
『はい。セレ様が飛行機を出してくれますし、宿泊する場所ももう決まっていますから、持って行くのはパスポートと衣装だけなんですね。セレ様はお洋服はどんなお洋服を?』
 それからまた彼女と明け方近くまで電話で色々と語り合った。それはセレスティにとって何の苦痛も無い心の奥底から楽しく想える時間であった。



 ――――――――――――――――――――
【不思議な商店街】



 結婚祝いは彼女と一緒に出すという事で決まった。
 見立ては彼女がしてくれるという事で、次の彼女の学校が休みの日に一緒に買い物をしに行く事になった。
 次に考えなければいけない事は少し気が早いが出産祝いだ。
 これは別々に、という事になった。彼女はベビー服とクマのぬいぐるみを贈るらしい。そう言えば生まれた赤ん坊にクマのぬいぐるみを贈る風習は彼女の生まれた国のモノではなかったろうか?
「だったら私は・・・」
 セレスティはくすりと笑うと、秘書に仕事のスケジュールを確認し、時間を作ってもらった。
 行く先はほんの少し前に知った不思議な商店街。とある買い物をするために偶然に入り込んだ不思議な異次元にある商店街である。
 そこは用も無く行こうと想って行ける場所では無い。
 そこでしか手に入らぬモノを望んだ時に行ける場所である。
 その想い故に入れるのか?
 ―――――それともひょっとしたらそのモノが、買い手を呼んでいるのかもしれない。
 ともかくそこで買い物を望むセレスティはその不思議でそしてどこかとても懐かしく感じられる商店街にやって来た。
「よう、セレスティさん。こんにちは」
「こんにちは、セレスティさん」
「あ、セレスティさんだ」
「セレちゃーん」
 と、すっかりとセレスティはその不思議な商店街の人々と仲良しになっていた。彼らは人見知りせずに、ものすごく人懐っこく笑いながら挨拶をしてくれる。
 セレスティもそれにいちいち反応して挨拶をしていた。そこはそういう場所で、そしてそうさせてしまう何かがあるのだ。
「こんにちは」
「いらっしゃい。セレスティさん」
 今日、セレスティが入ったお店は金物屋だった。そこには包丁やら何やらが所狭しと並んでいて、しかも同じモノは二つと無い。すべてが単品であった。
「何をお求めで?」
 アッシュグレイの髪の美女は甘やかに微笑んでセレスティにそう言った。
「はい。銀のスプーンを二つ欲しいのですが?」
 と、言いながらセレスティはちょっと考えてしまう。周りを見回す限りは同じ商品は無い。だったら銀のスプーンも同じモノは二つ無いのではなかろうか?
 だけどそこはやはり不思議な商店街にあるお店であった。
「あら、銀のスプーンと言うとひょっとしたら出産祝い?」
「ええ。友人の女性に双子の赤ん坊が出来まして。それで少し気が早いのですが買い求めに来た次第です」
「なるほど。確かヨーロッパの方では銀のスプーンをくわえて生まれてきた子どもは幸せになれるという言い伝えがあったのよね」
「はい。それで出産祝いに銀のスプーンを贈る慣わしが」
「セレスティさんのリンスター財閥本部があるアイルランドはまさにその文化圏よね?」
「はい」
 頷くセレスティに頬杖つきながら話を聞いていた女店主は立ち上がると、ちょっと待っていて。とても良い銀のスプーンが二本あるので、それを持ってくるからと言って店の奥に引っ込んだ。
 そして彼女は戻ってきて、
「はい。セレスティさん。ご希望の銀のスプーンよ♪」
 と、銀のスプーンが二本入った鳥籠を手渡してきた。セレスティは少し困ってしまう。
「えっと、この鳥籠の意味は?」
「お屋敷に帰って、その鳥籠の蓋を開けた時にわかるでしょうね」
 アッシュグレイの髪を掻きあげながら女店主はにこりと笑った。



 ――――――――――――――――――――
【銀のスプーン】



 屋敷の自室に戻ったセレスティは女店主に渡されたメモを読んだ。


 銀のスプーンの使用方法。
 この銀のスプーンには幸せの妖精が宿っています。
 でもその妖精はとても悪戯好き。
 だからこの鳥籠の蓋を開けた瞬間に悪戯を始めます。
 ですからもしもあなたがその妖精を捕まえて、再び銀のスプーンにその妖精たちをする事ができれば、その妖精たちはそれをできたあなたに敬意を表して、自分たちがプレゼントされた子どもを幸せにするでしょう。


 セレスティはため息を吐きながら肩をすくめる。
「まあ、生まれてくる友人の子らのために陰ながら努力するのは良き事ですかね?」
 そして彼は鳥籠の蓋を開けた。
 すると二本の銀のスプーンは二羽の銀の鳥となり飛び出したではないか。
 だがセレスティは慌てる事無く鳥へと意識を集中させる。
「鬼ごっこは得意でね」
 右手のステッキの先を部屋の隅に置かれた花瓶に向けた。転瞬、花瓶から飛び出した水が投げ網のようになって鳥に向う。
 しかし鳥らはセレスティを嘲笑うかのように軽やかな飛翔でその網を避けてみせた。
「むぅ。外見は鳥でもさすがは妖精という事ですか?」
 ならば・・・
 手法を変えるまでだ。
 右手のステッキを手放し、
 両の手の平を天井に向ける。そうすればそれぞれの手の平の上には小さな水の珠が。それをセレスティは銀の鳥に向って投げた。
 放たれた瞬間にそれはぐるぐると横に旋回する棒となる。それが狙うのは羽ばたく翼にヒットして巻きつくことだ。そうなれば銀の鳥は翼を封じられて飛べなくなる。
 しかし銀の鳥達は、そんなセレスティの考えを見透かすかのように棒が迫ってきた瞬間、紙一重のタイミングで翼を閉じてしまった。
 ひゅんっと重力に引かれて落ちる銀の鳥たち。
 横に旋回しながら水の棒が転瞬前まで銀の鳥たちがいた場所を行き過ぎる。
 そしてその瞬間に重力に引かれて落ちていた銀の鳥たちはしかし両の翼を広げて羽ばたいた。
 だがしかしその銀の鳥たちが今までのように勝ち誇るかのように優雅に空間を飛翔する事は無かった。なぜなら―――――
「残念ですね。私は水を操れるのですよ。そう、水はすべて私のイメージ通りに動く」
 ―――――完全に水の棒は銀の鳥たちを捕まえ損ねたと想われた。
 しかしその水の棒は銀の鳥たちが翼を広げて、再び飛翔した瞬間に絶妙のタイミングで横に旋回する棒からブーメランとなって、弧を描き、そして後ろから銀の鳥たちにヒットし、その水で出来たブーメランはその瞬間に水のヘビとなって、銀の鳥を捕らえたのであった。まさしく水の支配者たるセレスティのイメージ通りに。
「さあ、幸せの妖精たちよ、これで私の勝ちですよ。ですからあなた方は潔く銀のスプーンとなりなさい」
 穏やかににこりとセレスティは微笑しながら、銀の鳥たちに命令した。



 ――――――――――――――――――――
【ラスト】


「セレ様、すごく綺麗ですね」
「ええ。本当に」
 友人のウエディングドレス姿にうっとりと微笑する彼女と手を繋ぎながらセレスティは素直に頷いた。
 ヴァージンロードを歩く花嫁は心の奥底からため息が出るほどに美しかった。
 そしてつつがなく式は進み、
 青い空の下で、
 式に参列した人々は、
 幸せそうに微笑む新郎新婦にバラとクローバーを祝福を込めて投げる。
 そしてそんな友人たちの祝福に新婦はとても幸せそうに微笑みながらウェディングブーケを青い空に向って投げた。
 それをセレスティは目で追い、どこまでも透き通った青い空をバックに降下し始めたウエディングブーケを見つめながらとても幸せそうに微笑んだ。


 ― fin ―


こんにちは、セレスティ・カーニンガムさま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


えっと、まずはいつも通りにお礼を。
本当にプレイングではお優しいお言葉をありがとうございました。
本当にすごくありがたかったし、嬉しかったです。
頂けたお優しいお言葉に応えるためにもがんばりますね。^^



そして今回のシチュノベですが前半はプレイング通りに。
後半部分はこちらでお話を考えさせていただきました。


前半部分はセレスティさんがイメージしていた通りの雰囲気が出ていればといいな、と想います。
そして後半なのですが、この場合は結婚式にちなんだお話の方がいいかな? とも想いましたが、せっかくアイルランドにちなんだネタもありましたので、銀のスプーンのお話に。^^
こちらも気に入っていただけると本当に嬉しいです。


それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にプレイングでのお言葉ありがとうございました。
こちらこそ、これからもどうぞ、よろしくお願いいたしますね。少しでも頂けるお優しいお言葉の分、期待してご依頼して頂ける分、セレスティさまに満足していただけるお話を書きたいと心から想います。^^
それでは失礼します。