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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


   ハードボイルドダンディ



 ――プロローグ


 始終無言の時間である。
 草間・武彦はよく冷えたゆでタマゴを手にしている。場所は草間探偵事務所の簡素なキッチンだった。
 やはり、ゆでタマゴを剥くとき、人はなによりも重い沈黙を感じずにはいられないのだ。
 草間は思う。そうだ、ゆでタマゴはそういった運命にある食べ物なのだ。

 草間の茹で加減はそれこそ『見事』であった。そして冷やすタイミングも完璧だった。
 だから、剥きやすい。草間のつくった完全体のゆでタマゴは、ツルンとした肌を露出させ草間を魅了している。

 しかし。

 草間は、そのゆでタマゴを二つに割った瞬間、信じられない光景を目にした。
 ゆでタマゴは、半熟だったのだ……。
 ……――ありえん。草間は呟く。ありえん、ありえんありえん、あってたまるか!
「ふざけるなあ!」
 叫んで草間はゆで卵をキッチンの床へと投げ付けた。グチャッと音がして、半熟のゆでタマゴが破裂する。物陰から、妹の零がじっと兄の奇行を見つめている。
「お兄さん」
 少し哀しそうなのは、兄の乱心振りにか、それともゆで卵というくだらないものに固執する兄の嗜好にだろうか。
「くそう、お前、そんなことでハードボイルドになったと思うなよ」

 と、草間・武彦は砕け散ったゆでタマゴに向かって言った。
 

 ――エピソード1 巻き込まれ型ドーマン
 
 所詮、草間・武彦はハードボイルドになり損ねた男である。
 ……
「誰だ、今言ったの!」
 草間が椅子から立ち上がる。その勢いで、机の上のファイルやら皿やらカップラーメンのカスが散乱した。
 ここには今妹の草間・零と親友の足立・道満しかいない。言ったのは、明らかに男の声だった。
「ドーマン、お前なんの了見でそんなこと言うんだ」
 道満は、相変わらずあるのかないのかわからないほど細い目を明後日の方へ向けた。
「おい、ドーマン」
「まずさ、そのドーマンって呼び名やめてくれない? 僕にはちゃんと足立・みちみつという名前があるんだよ」
「くそぉ、わかったぞ。アレはお前の術のせいだな」
 草間は悔しそうに呟いた。アレが指すものは、今のところ半熟タマゴ事件ぐらいしかない。
「ぼかぁ、あなたがどんなゆで卵食べようが興味ナシだよ。明日醤油飲んで死んだって、香典代心配するぐらいさ」
「葬式には出てくれるのか」
「葬式には知人も行くからね」
「なんだったら、お前が葬式あげてくれないか」
「……陰陽師は葬式なんかやりません」
 ……とまあ、草間と道満は実りの無いやり取りをして、
「零、そこのできそこないを片付けておきなさい」
 草間が厳しい口調で言うのを遮り
「零ちゃん。そこの、草間・武彦そのものみたいなタマゴは後で本人が片付けるから、放っておいていいからね」
 道満は穏やかにそう告げた。
 零は困った顔で仕方なく微笑んだ。もちろん、微笑むに笑みを返したのは道満のみである。草間・武彦は不機嫌を通り越して凶悪な顔で、机へ戻り椅子へかけた。

 ジリリリリン、と電話が鳴った。
 
「へぇ、それまだ電話として使えるんだ」
 稼動している黒電話へ道満が至極もっともなことを呟く。
「はい、草間興信所」
 草間は眼鏡の位置を直しながら、電話に出た。依頼人は春日・イツルという名の青年だった。依頼内容を聞き、そこら辺にある書類の後ろにメモを取る。
「それじゃあ最後に、ゆで卵についてどう思われます?」

 道満は零をソファーへ移動させながら、草間の台詞にコケた。
 依頼人への台詞から察するに、草間は平常な状態ではない。いわゆる、イッちゃった脳内回路らしい。
 依頼人が気の毒になって、電話を代わってきちんと内容を聞いてやろうと電話に手を伸ばすもすでに遅し。草間は受話器を本体に下ろし、音がチンと鳴った。
「おい、ドーマン買い物へ行くぞ」
「……どこへ」
 ほとんど分かり切った答えだったが、道満は一応訊いた。思わず訝しげな表情になる。
「スーパーだ」
「だからどうして僕が知人のあなたとスーパーへ行かなくちゃならないの」
「お前ねえ、親友がハードボイルドのなり損ないとか言われて悔しくないのか」
 ……たしか言ったのは、道満だった気がするのだが。
 勘弁してよ……。と、草間の腕力にぐいぐい身体を引かれながら口の中で呟いた。
 
 
 二人が出て行って、とびちった半熟タマゴを眺めて五分も経たないうちに、ドアが開いた。
 零は希望を込めてドアを見た。ドアには、いつも通りのぱりっとした格好のシュライン・エマが立っている。
「シュラインさん」
 ほぼ切望状態で零は叫び、立ち上がった。
 呼ばれた方のシュラインは、意味がわからず頭に大きなハテナマークをのせている。シュラインはパンプスを鳴らして事務所の中へ入り、ソファーの上にハンドバックを置いてから零を見た。零はシュラインの片腕にすり寄り、離すものかと片腕を握った。
「ど、どうしたの、零ちゃん……」
「お兄さんのハードボイルドが半熟タマゴでご乱心なんです」
 意味がわからない。……が、本人にしてみれば筋が通っているのである。
 
 シュラインは考える。
 まあ、実際、草間・武彦がハードボイルドかと言われたらそれは違うだろう。半熟か、いや本当のところは生卵と称してしまってもよい。それでも、ハードボイルドマニアの草間なのだから、半熟タマゴを割り当てられたら意味もなく怒り狂うに決まっている。
 一応大筋を考えてから、シュラインはキッチンを振り返りタマゴの残骸を目にした。
 ああ。と胸の中で納得する。
 つまり、草間は固ゆで卵を作るのに失敗し、半熟タマゴなんて女子供の食う物だとかなんとか暴言を吐き、そしてタマゴを床に投げつけ「お前みたいにジュクジュクした奴は梅雨時も流行んねえんだよ」などと意味不明な決め台詞を言ったに違いない。
 むう……許せない。
 一つ、食べ物を粗末にしたこと。一つ、女性子供差別発言。一つ、半熟タマゴへの侵害行為。
 シュラインの中で、草間・武彦は有罪と決まった。……一つはシュラインの想像の中の草間の罪だがいたし方ない。なんにしろ食べ物を粗末にした段階で、裁判官(シュライン)の心証は悪いのだ。
 シュラインは、ともかく無残なキッチンは片付けなければなるまいと思った。
「タマゴの残骸片付けちゃうね」
 なんとなく怯えている零へ言うと、零はぶんぶんと首を横に振った。
「ドーマンさんがお兄さんそのものだから片付けるなと」
 一瞬また、頭に謎が浮かぶ。それでもその謎は、すぐに解けた。
「ああ、足立さんね。また、何かの依頼で呼んだところにそんなことになってたってわけか。それで、タマゴの残骸は半熟タマゴみたいな武彦さんに片付けさせるからそのままにしておけって言ったんだ。そうか、わかったわかった」
 零の言葉はなんだか暗号めいている。
「それにしたって、このままじゃ汚いわよ」
 シュラインは草間・武彦の……もとい、半熟タマゴの残骸の後片付けを始めた。
 
 
 ――エピソード2 料理上手? リオン
 
 一方の草間と言えば、タマゴのパックをLにするかMにするかで悩みあぐねていた……。
 そこへリオン・ベルディーニという暗殺者がひょいと顔を出した。リオンは素っ頓狂な声で
「あーれー、草間さーん、奥さんに逃げられましたか」
 一人で言って一人で笑った。草間は思わず、離婚歴のある道満を見た。道満は不服そうな顔で草間を見返し、タマゴパックの束を指してさっさと選ぶように促した。
「奥さんなんていないぞ」
「いないの? 内縁の妻とか」
「普通に連れ合いがいないのに、どうして内縁ができるんだ」
 リオンは納得のできない顔で、
「だって、男が買い物に来ているイコール女に逃げられた。ですよ、決まってるでしょ」
 草間はタマゴパックの前に屈みこんだまま、リオンを見上げもせずに答える。
「じゃあ、お前だってそういうことになるだろうが」
「いや、俺の場合は別件で」
 リオンは草間の後ろから、草間の手元を身を乗り出して見ていた。タマゴをようやく決めた草間が立ち上がると、リオンの顎に草間の頭がぶつかった。
「ぬおっ」
 ガシャーン。
 道満があーあ。と額に手を当てて天を仰ぐ。
 ぶつかった拍子にタマゴは床へ落ち、床へ落ちたタマゴはもちろん見事に粉砕されたのである。リオンは痛そうに顎をさすりながら、涙目でタマゴを見て
「うわ、弁償しますよ……ってえか、なんなら昼飯うちで食べてきます? こんなところで、なんか甲斐性のなさそうな男二人で買い物してるぐらいなら」
 道満は知らぬ男に甲斐性なし扱いをされて、不満そうに片眉を上げた。草間は脳天を両手で押さえながら、同じく涙目でリオンを見上げた。
「ゆでタマゴ。もちろん、ハードボイルドだ……」
 リオンは白衣の裾をまくってしゃがみ込み、タマゴのMを一つ片手に取って了承した。
「なんか貧乏臭い選択肢ですね。まあ、いいですけど……、じゃあ、うち行きましょうか」
 そこへバンダナに頭を巻いて白衣姿でいるリオンを、ずっと疑問に思っていただろう道満が口を開いた。
「ちょっと、……あなた、誰です?」
「そらあ、あなたこそ誰です?」
 草間は知っているのだが、道満は知らぬ相手に名を言うことはほとんどない。同業者だとすると、名を悪用されかねないからだそうだ。
 そこを見越して草間は言った。
「足立・ドーマン。会社員だ。これは、……変態暗殺者」
「誰が変態だ、この生卵探偵」
 リオンはグサリと草間に言い残して、さっさとレジへ向かって行った。
 その後、道満が「草間が生卵ではない理由三十」を上げ連ねなければならなかったのは、言うまでもない。因みにタマゴではないから始まって、ピアノが弾けないに落ち着くまで軽く小一時間はかかった。言い終わる直後、生卵もピアノが弾けないことを突っ込む余裕は誰にもなかった。

 考えてみると、リオン・ベルティーニは暗殺者なのである。
 聞くによると、どうやら薬物マニアらしい(中毒者なのか、研究者なのか定かではない)
 そして、スーパーには別件で現れたのである。もしかすると、リオンは道満を毒殺しようとしているのでは……。いや、もっと恐ろしいことがある。もしかすると、草間を毒殺しようとしているのでは……。
 草間は横目でリオンを見た。
 リオンはカルピスソーダを鍋に入れて、ついでにタマゴを二つ中へ入れた。タマゴとカルピスソーダはすっかり混じってしまって、どこにタマゴがあるのかわからない。タマゴを茹でている間に、大量の梅干をミキサーにかけたリオンは、匂いに鼻を摘みながら小さなボールいっぱいになった梅肉をより大きなボールに氷を入れて冷やした。
 道満はというと、草間が生卵でない理由三十を律儀に連ね続けている。
 まさか、この大量の梅干の中に毒が! ……入っていても匂いでは判別できない。
 く、敵の術中にはまるとは……草間は苦々しく呟く。
 しかし、幸なるかなタマゴよ。タマゴの内部に、毒を染み込ませるのは不可能なのだ。
 ……草間に食べないという選択肢はないようだ……。命の危険を顧みずして突き進むハードボイルドダンディ、草間・武彦。一応、ここでは幸あれと述べておきたい。

「おお、タマゴ。あなたはどうしてタマゴなの」

 うっとりと草間が呟いたので、道満は一瞬言葉を引っ込め、マジマジと草間の様子を見ていた。草間はいつも通りの草間らしい。つまり、草間は元々こういう奴なのだと、道満は一人合点した。
どうせ知人の不幸だし、元々気がふれていたのならば道満の責任ではない。
 そうこうしているうちに、やけに酸っぱい匂いをさせたゆで卵が運ばれてきた。
「じゃーん、ゆでタマゴ! ってなんもじゃーんなところがない料理っすねえ……」
 たしかに。
 道満は手に取ることなく考える。
「……このぉ、すっぱい匂いは?」
「梅干です」
 端的な答え。ほうほうと言いつつ、一応手に取ってみる。
「俺のハートをボイルドしてみました」
 うふん、と両手を組んでポーズをしてみせたので、草間と道満はためらいなく手に取っていたゆでタマゴを金髪の大男リオンに投げつけた。
「いたっ、俺のハートはギザギザハート」
 意味がわからなかったので、草間と道満は残りの生タマゴを持ってリオンのマンションを後にした。


 ――エピソード3 イタズラ大王益零

「あらー! 草間センセイ!」
 嫌な予感の走る声であった。口調はやわらかいのに、どういうわけかバリトンサックスもびっくりな重低音で、バストロンボーンも肩なしな野太さなのだから仕方がない。
 振り返るのが嫌だったので、草間は無視をしてスタスタと進むことにした。道満もそれにならって何も聞かなかったことにして進む。
「草間センセイったら!」
 声がして、ドスン、ドスンと声の主が進む声がする。
 草間が小走りになりながら道満に訊いた。
「ああいう化け物をどうにかする術はないのか」
「僕二丁目で会ってもああいうのにばっかり好かれるから、ほっんとこーもー慣れちゃってるけど実は嫌いっていうか。泣きたくなるんだよ」
 草間の問いには答えず道満は草間を追い越し、二段抜かしで草間興信所の階段を駆け上がって行った。
「この、薄情者」
 言いながら後ろを振り返ると、可憐なピンクのワンピース姿のたちばな・薫がニッコリと笑って草間の背後にいた。なんという大きな身体だろうか。たちばな・薫は身長二メートルを越えるマッチョで恐ろしいお兄さん……もといお姉さんなのである。
「草間センセイ!」
「……は、は、は、はぃ……!」
 はくしょんとくしゃみが出なかったことを褒めてもらいたい。
 最後のハイは、心なしか完璧に裏返っていたが、薫嬢はまるで気にしていない様子である。
「どうしたのよ、そんなに慌てちゃって」
 どうもこうも、お前に怯えたんだ。とは言えない。
 草間はうわ言を言うように
「タマゴが、完全なゆでタマゴが……」
「なんだ、そんなこと!」
 薫は大きな手を打ってパーン!という音を鳴らし、片手に下げた買い物袋から小さなタマゴを取り出してみせた。
「キッチン貸してくださる? おいしいの作ってあ・げ・る」
 脳殺である。
 脳が殺されたのだから、草間に思考力はない。草間はぐにゃぐにゃと首をうなずかせ、右足と右手を同時に出しながら草間興信所への階段を上って行った。

 興信所へ入って行くと、道満が零を盾にするようにして隠れていた。
「あらやだわ、あたしったらこんないい男がいるのに、ノーメイクに近いなんて!」
 道満を見て薫は恥じらいを見せた。実際、薫は絶対的にフルメイクであろう。
 キッチンには人がごった返している。
 草間に気がついたシュライン・エマがつかつかとやってきた。
「武彦さん、あなたね、タマゴダメにして、しかもこんな長い間そのままどこへ行ってきたのよ」
 気付けば行く前に依頼を受けた春日・イツルの姿がソファーにあった。薫はイツルを見て、「キャア!」と嬌声を上げた……嬌声で、表現がよいのかは知らない。
「伎神楽さんじゃないですかぁ、うわぁ、感激!」
 伎神楽は確か有名な俳優だった。
 シュラインは薫嬢を見上げて、一瞬だけ顔をしかめ、それから伎神楽と呼ばれた依頼人のイツルを見つめてから、
「そういえば……見た顔だと思ってたんだけど」
 と呟いた。
 草間はシュラインから目を離し、キッチンの謎の後姿を見つけた。青い長髪のがっしりとした男が電子レンジをじっと覗き込んでいる。
「おい、お前」
 声をかけると、男は振り返ってニヤリと笑った。御東間・益零である。たしか、開業をしていない開業医という肩書きだったと思う。
「タマゴだって聞いたんでのー。お前に食べてもらいたいタマゴがあるんじゃよ」
「いいか、俺はハードボイルドしか食わんぞ」
 草間が念を押すのを見て、益零は尚更嬉しそうに笑った。
 シュラインは草間の腕を引っ張って行って、冷蔵庫の前に立たせた。冷蔵庫には、ポラロイドカメラで撮られた無残なタマゴの残骸と、一個四十三円とメモ書きが貼ってあった。バツが悪くなりながらも、シュラインを横目にする。シュラインは
「毎月煙草を減らしていただきます」
 冷たく言ってガス台の前に立った。
 薫嬢は伎神楽とかいう依頼人に夢中な様子だった。
 触らぬ神に祟りなし。草間は呟きつつ、なんだか整理されている机へ行き(シュラインが整理したのだろう)「まったく、誰もハードボイルドなんかつくれやしない」と呟きながら腰を下ろした。
 グチャ。プウウー? 尻の辺りで嫌な音とブーブークッションの泣き声がした。
 もちろん、グチャの方には感触つきである。座った本人には、もうすでにそれが生タマゴであろうことは察しがついている。
 草間は立ち上がって
「お前等、誰だこんなくだらねえイタズラしやがったのは!」
 と言ったが、イタズラついでに仕掛けられたブーブークッションを手に取った途端、頭の上になぜか設置してあった金タライがグラリと揺らいで落ち、もちろんその中身は生タマゴというやつで、ベチャベチャベチャと生タマゴを浴びた後、草間は金タライの直撃を食らい、見事に生タマゴの上に倒れた。
「……うわ、悲惨だなあ……おーい、草間」
 道満が気の毒そうに言う。草間の机の辺りは生タマゴだらけだったので、誰一人として近寄らなかった。
 キッチンから顔を出した益零が勝ち誇ったように笑った。
「そんだけ生タマゴ割るの、苦労したんじゃぞぉ」


 ――エピソード4 ラブリーエンジェル薫嬢
 
 シュラインは草間にシャワーを浴びるよう指示をして、土鍋で茹でているタマゴを気にしながら部屋の掃除をした。拭けども拭けども生タマゴである。これも全て、草間のタマゴへのくだらないこだわりが招いたことだ。
 土鍋の様子を見に戻ったシュラインの隣では大きな薫嬢がウズラのタマゴを茹でている。ウズラのタマゴはすぐに茹で上がり、薫嬢と零はウズラのタマゴを剥いて
「かわいいぃ」
 とはしゃいだ末、シュラインの見ている横でゴマやら紅ショウガやらで顔を作り、糊で髪の毛をつけて、いよいよ興奮してきたのか二人とも周りが見えない様子で冷蔵庫の中に入っているハムやレタスを小さく切って、ウズラのお雛様を作り上げていた。
 ……それ、食べるんじゃないの。
 シュラインが思おうが思うまいが、二人の知ったことではない。
 そこへ新しいシャツとズボンで、濡れた頭のままの草間が出て来た。金ダライが当たったのがよほど堪えたのか、頭がぼーっとしている様子である。
「春日さんと言いましたっけ……ご依頼を」
「いえ、あの、そちらが一段落してからで結構です」
 それを受けて草間は「はあ」と気のない返事をして、自分の机の元まで行き、やけに物のない机を見渡してから椅子の上に何もないことを確認し、それからようやく腰をかけた。
 そこへやってきたのはまず、大きなボールいっぱいにタマゴを抱えた益零である。
「どれ剥いてもいいぞぉ」
 草間は胡散臭そうに、今の季節に緑色のコートを相変わらず着ている老人を見上げ、試しに一個手に取ってみた。
 一個剥いてみる……そこには白く眩しい白身の姿が……なかった。
「?」
 ないのである。白身はなく、そこにはまた殻があるのであった。草間は驚いて、ともかく殻を一度剥ききり、もう一度殻にチャレンジした。剥けども剥けども、殻である。殻なのである。殻なのだ。
「あーもー、こんちくしょー!」
 ウズラのタマゴを突破して小指の先ほどの大きさになった、タマゴなのかタマゴの殻なのかを草間は床に叩きつけた。
 益零は被害が及ばぬよう、キッチンの中から草間の様子を眺めている。
 草間はもう一個タマゴを取り、殻を剥いた。
「おおーう」
 ……タマゴから声がするのだ。びっくりして、剥いた殻を元に戻す。すると、声は止んだ。
 ……また剥いてみる。
「おおーう」
 びびってまた元に戻した。なんだか、ドキドキしてきた。これは心霊現象か?
 そう思っているところへ、道満が近付いてきて草間の肩を叩いた。キッチンから覗いている青い頭を指し、
「見ながら剥いてみなよ」
 とアドバイス。草間はそれに従って、青い頭を見ながら剥いてみた。
「おおーう」と益零が叫んでいるのであった……。
 草間はそのタマゴを剥く気が失せて、机に剥きかけのタマゴを置いた。
「エマ、お前なんかこー、まともなタマゴないのか」
「今作ってます」
 そこへ益零が遠くから言う。
「な、草間。もう一個、もう一個だけ剥いてくれんかのー」
「……また、叫ぶんじゃないだろうな」
「絶対叫ばんから。その、右端の方のやつ」
 草間は渋々タマゴに手を伸ばし、殻に爪を立ててつるんと殻を剥いた。そして白身に歯を立てた……そのとき……。
 パン! とタマゴは弾け飛んだ。草間は呆然としている。部屋の中にいる益零以外の全員が草間を呆気に取られて眺めていた。
「やーい、またひっかかったー」
 草間は眼鏡にかかったキミを拭くこともせず、怒りに任せて立ち上がった。
「このおぅ、クソじじぃ……」
「なにを言っておるんじゃ。少年の心を忘れぬナイスガイちゅーんじゃい」
 キッチンにいると危険と察知したのか、益零がとりあえず逃げようと一度部屋へ戻る。草間は先手を打って事務所の出入り口を塞いだ。そこからは、狭い事務所内での追いかけっこの勃発である。
 そこへ、薫嬢が自信作のウズラ雛を皿に盛り登場した。二人は薫嬢の大きな身体に気付かない。草間は、誤って薫嬢にぶつかり、そしてウズラ雛は薫嬢の手から落ち、もろくも床で崩れ去ってしまった……。
「あーなーたーたーちぃぃぃぃぃ」
 低い声が事務所に鳴り響く。
 何もしていない道満も、「ひい」と悲鳴を洩らしてソファーから腰を上げた。が、イツルは相変わらず無関心な顔で座っている。
 
 
 ――エピソード5 変なイツル
 
 見兼ねたのか、イツルはよっこらとその場でカセットコンロを取り出して、道満がびっくりして見ているのを気にすることなく、事務所で鍋を借り水を汲んでソファーへまた戻って来た。
 だいたい、どこにそのカセットコンロを隠しておいたんだ?
 思っても、イツルの空気はなにやら重く沈んでいて話しかけ辛い。かと言って、誰かに聞いてもらおうにも。事務員のシュラインは土鍋の前で塩と睨めっこをしているし、所長の草間は益零との追いかけっこに忙しい。零は薫嬢と二人で、さっき壊されたウズラ雛第二弾☆を作っている。やはり、ここは自分で聞くしかないようだ。
 道満はなんとなく、ネクタイを締めなおし、一張羅の裾を延ばしてからイツルに聞いてみた。
「なに……してらっしゃるんです?」
「見てわかりませんか」
 イツルの口調は素っ気無い。
 負けるな僕、負けるな自分。と、道満は自分を応援してみた。あまり効果はない。
 イツルはカセットコンロの火をつけた。横目で中を覗きこむと、大きな鍋には大量のタマゴが入っている。
 よくよく考えてみると、そのタマゴも一体どこから取り出したんだろう。
 ……ああ、この人の謎だけで一週間ぐらい眠れなくなりそうだ。道満はすっかり怖気ついて、イツルが淡々とタマゴを茹でるのを見守っていた。

「……ふ、っふっふっふっふっふ」
 不敵な笑い声がする。その笑い声を聞きつけて、益零と草間も立ち止まった。そして、笑い声の主は事務所の出入り口から現れた。
 さっき会った、リオン・ベルティーニである。しかし先ほどとは違い、白衣は泥にまみれていて、バンダナのあちこちも汚れていた。
「あれ? 入らないぞ」
 どうやら、台車を引いているらしい。……台車を引いて階段を上がってきたのか? あの狭い階段を? 今更部屋に入れないのなんて当たり前じゃないか。
 道満の常識など知らないのだろう。リオンは幾度も台車を引っぱって中へ入れようとした。
 
「でっきあっがっりv 今度こそ、壊しちゃ、イ、ヤ よ!」
 そこへ薫嬢がウズラ雛第二弾☆を皿に盛って登場した。一瞬場が緊迫する。
 薫嬢はリオンを見て、ぺこりと頭を下げた。
「あっらぁ、ハジメマシテ」
 リオンは聞いているのか聞いていないのか、突然哄笑を始めた。
「うはははははは、小さい、小さいぞ、オカマ嬢」
「え? あたしのどこが小さいって言うの」
 場が色めき立つ。因みに、薫嬢の声は野太い声で読むように。
「タマゴだよ、まあ、俺の持ってきたタマゴを見てくださいよ」
 リオンは鼻をさすってから、台車の後ろに載っているらしい(部屋の中から台車は、引くところしか見えない)タマゴを取り出した。
 それは……恐竜の……タマゴ……なのか?
 道満はまたも呆気に取られて固まった。
「うわ、大きいな、そりゃ」
 草間も反応する。
 考えてみるに、草間は別にタマゴ好きではなかった筈である。言ってしまえば、ただハードボイルド小説が好きだから、同じ延長上にハードボイルドタマゴがいるだけなのではないだろうか。……と、この満身創痍で恐竜のタマゴらしきものを持ってきたリオンに告げるのは酷だろうか。道満は、ぼんやりと考えた。
 そんなことはつゆ知らず、リオンは大きな声で勝どきを上げた。
「俺の勝ちですよ、オカマ嬢。ダチョウのタマゴです」
「オカマ、オカマって呼ばないでぇ」
 薫嬢はフリルのついたピンクのスカートをヒラヒラさせ、それから脅すように声色を落として続ける。
「あたしのタマゴにケチつけたらぁ、どうなるかあ」
 また明るく陽気なオカマ口調になり
「わからないわよー!」
 と言った。
 道満はこの世は怖いものだらけだと痛感していた。
 今度はイツルが冷たく言い放った。
「それに、本当にそれ、ダチョウのタマゴなの」
 道満が恐竜のタマゴだと思ったぐらいの大きさだ。言われてみれば、本当にダチョウのタマゴなんだろうか?
 イツルの思わぬ加勢に薫嬢は意気揚々と言った。
「そうよそうよ! 証明しなさいよ」
 リオンは「うっ」と呻いてから台車の持つ部分をくぐって部屋へ入り、草間にダチョウのタマゴを手渡した後、薫嬢を振り返って言った。
「待ってろよ、オカマ野郎!」
 リオンは台車を置いたまま去って行った。
 
 
 ――エピソード6 食す草間
 
 とりあえず、シュライン・エマのタマゴが茹で上がったので、皆で食べている。
 薫嬢の自信作である、ウズラ雛リベンジ☆(改名)は、「かわいそうだから」ということで食べられず、草間の机の上に置いてあった。草間の机の上は、あまりにも色々な災害に見舞われた為、今までにないほどきれいな状態である。
 草間は
「どれ一個食べてみるか」
 とシュラインの自信作に手を伸ばした。
 手に持ったまま、ついつい開けっ放しになっている事務所の出入り口を見る。
「リオンの奴、台車回収に来るんだろうな」
 台車が引っかかってドアが閉まらないのだ。薫嬢が、タマゴを二口で一個頬張りながら答えた。
「証明できないんだもん、来る筈ないんじゃない?」
 そうしている間に、道満は草間の隣に来ていた。草間が道満に気付いて、どうした? と見上げる。
 道満は意味ありげに微笑んでから、人差し指と中指を立て、口の中で何かを唱えてからその指で草間の持っているタマゴに触れた。皆が、指先のタマゴを見ている。
 ……パリ。
「え?」
 誰もが固唾を飲んでタマゴを見ていた。
 パリ、パリパリパリ。タマゴが内側から雛が殻を破っている。これがテレビ画面で見ている映像だったとしたら、全員が「がんばれ、もう少しだ」と応援をしているところだ。
「ピー!」
 ヒヨコは草間を見て一つ鳴き、草間の手の中でくるりんと身体を丸めた。
 あ、愛らしい……。
 ……。
 ……――。
 ……って。
「ドーマン、なにやってんだお前!」
「いやあ、皆それぞれなにかやるし、僕も出し物をしようかと思って」
 草間はヒヨコを机の上に降ろし、道満を見据えて口を尖らせた。
「皆フツーに食べてるだろ、春日さんなんか持参したカセットコンロで茹でて食べてるんだぞ。お前はなに邪魔なことしてんだよ」
 道満は困った顔で
「いやあね、だから、カセットコンロを出すとか、生タマゴ爆発させるとか、ウズラのお雛様作るとか、皆やってるじゃない?」
 キッチンの戸口に立っていたシュラインが、ぼんやりと反応する。
「……鳴き声がするわ」
 一瞬誰もが黙り込む。ピィという鳴き声だけがする。
「するな」
「します」
「するのお」
「かわいいわね」
「そうですねえ」
 草間、イツル、益零、薫嬢、零の順の発言だった。
 シュラインが短く
「そうではなくて……」
 言った瞬間、突然事務所の電気が消え、「グワァ」という鳴き声と「うわあ」という人間の叫び声が事務所の階段を上りそして台車を蹴散らして事務所の中へ入ってきた。
「ぶっ、ダチョウ」
 ダチョウである。黒い羽、白い頭。その巨体の後ろに、リオンがなんとかかんとか捕まっている。
「ね……? 本当だった、で、しょ?」
 そう言ってリオンは力尽きた。
 リオンが手を離すと、ダチョウは草間目がけて突進してきた。草間は慌てて立ち上がって逃げる。逃げれば追う、追えば逃げる。そういうわけで、草間とダチョウは本棚をなぎ倒し、机の上を駆け追いかけっこを始めた。
 もちろん道満は簡単にその渦に巻き込まれ、逃げる側になってしまい、益零は楽しそうにダチョウを鑑賞し、薫嬢は「かわいい」と言ってダチョウを物欲しそうにし、零は「今日の親子丼はいくつできるんでしょう」と呟き、イツルは無言で一口で茹でタマゴを口の中へ押し込んでいる。因みに、イツルが食べているのはどうしてだか持参したタマゴであることに間違いはない。
 リオンは何度も二人と一匹に何度も足蹴にされていた。
 薫嬢がすくっと立ち上がり、間髪いれずにダチョウを抱きとめる。
「カワイイわあ」
 ダチョウの首に抱きついた状態で、ほとんど絞め殺す勢いだった。
 はあはあ、と草間と道満が肩で息をしている。
 
 
 ――エピソード7 切れるシュライン
 
 ……すう、と道満と草間の前に美脚が現れる。ストッキングにパンプスを履いていた。道満は、シュラインだとわかった。
 顔を上げる前に、鋭い声色が告げた。
「いい加減になさい! 全員、そこに並んで座りなさい」
 そういえば、事務所内が暗い。道満はそんなことを考えながら、シュラインの指している入り口側の壁際へ歩いた。逆サイドは本棚が倒れていてとてもじゃないが、座ることはできないのだ。全員シュラインに逆らうことはできず、一直線に並んで座った。
 もちろん、ダチョウもである。
 シュラインは顎に手を当てながら、座ってもまだ尚でかいダチョウを見据えた。それから、ゆっくりと声を発する。
「そもそも、あんた、なんであんな滅茶苦茶怪しそうな男について来ちゃうの。知らない人について行っちゃダメだって言うでしょう」
 最初からダチョウを説教するシュラインもシュラインだし、果たして日本語がわかるのかわからないのに説教をするシュラインもシュラインなのだが、ダチョウは存外にしょぼんとした様子で叱られている。
「それから益零さん。大の大人が、ブーブークッションを仕掛けるってどういうことかしら。それに、ナイスガイなんて今時言いません。外で使ったら笑われるわよ」
 ……聞いているに、なんだか説教の論点がずれているようである。益零を叱るのであれば、どちらかというと生タマゴをぶちまけたり金ダライを仕掛けたり、タマゴ爆弾を作った悪質なイタズラを上げるべきだ。
「薫さん。……生き物は大切です。絞め殺すようなことはやめなさい」
 薫嬢は別に絞め殺そうとしていたわけではないと、思う。
「零ちゃん。だからね、今言ったように、生き物は簡単に殺してはいけません。ダチョウがいるからって、何人前の親子丼ができるかしら? なんていうことは考えちゃダメ。わかったわね。考えてみたら親子丼って、なんて非情な食べ物なのかしら」
 言われてみればそうかもしれない。道満は心の端で発見した。
「それにリオンくん。あなたもね、そろそろいい加減にするべきじゃない? 白衣着てバンダナ巻いて、考えてみなさい。もう、そんな歳じゃないでしょ。それに今日はダチョウだか恐竜だかのタマゴまで持ってきて。夢を見るのは自由よ。でもね、それは寝てから見ることね」
 イツルの前に来て、シュラインは一瞬黙った。
 しかし、すぐにしゃべり出した。
「依頼人のあなたを叱るのも変だけど。春日さん、あなた、携帯コンロのガスは取り外して持ち歩くべきよ。何が起こるかわかったもんじゃないわ」
 シュラインの説教を食らった面々は、なんとなくうつむき加減である。シュラインの説教は、本人の核心を突くらしい。
「ドーマンさん、あなた今の状態を元奥さんやお子さん達に見せられますか? そもそも、イタズラに生命を生み出していい筈はないでしょ。あのヒヨコはどうなるの、親子丼にでもするんですか。命というのは、大切なものです。あなたのお子さん達の命と他の方々の命も同等に見なさい」
 ぐうの音も出ない。
 そして、シュラインはつった目をしばらくつぶり、ゆっくりと口を開いた。
「全ての元凶は、武彦さん。あんたね……。どこから上げ連ねてあげればいいかわからないわね。まず、半熟だろうが完熟だろうが茹でタマゴは茹でタマゴ。食べ物は食べ物。貧困にあえいでいる人が世界中にいる中で、あなたの行動は許すことはできません。そもそも、武彦さんはそういうくだらない思い込みを人に押し付けるところがあるわね……。三歳児がサンタクロースを信じてるんじゃないんだから、いい大人がそんなことしていいわけないでしょ。……ハードボイルドだかなんだか知らないけど……」
 シュラインの口調がエキサイトしてくる。
 そこで、シュラインは止まった。机のある方を見て、窓をじっと見つめる。そして耳をすます。そのとき、パラパラパラパラという音が道満にも聞こえてきた。
 それはだんだん大きくなって、耳障りになり、そして爆音に……――。
 
 ドウーン!!
 
 ……つ、突っ込んだ。草間興信所の壁にヘリコプターの先端が突っ込んだ。
 そこから、銃器類を持った男達が降りてくる。
「俺達はモラトリアム解放前線だ。悪いが人質になって……」
「いいからそこに座りなさい」
 シュラインがぴしゃりと言った。有無を言わさぬ口調だ。
 男達は顔を見合わせていたが、シュラインはもう一声上げた。
「早くなさい!」
「は……はいっ」
 ヘリコプターから降りてきた五人がキッチン側の壁にずらりと座った。
 シュラインは、気を取り直してと言った風に一息ついて、草間に向かって何かを言おうとした。
「大丈夫か!」
 警官の人間が出入り口から飛び出してくる。
 シュラインはイライラした表情で言った。
「ちょうどいいわ、あんた達もそこに座りなさい!」


 ――エピローグ
 
 草間はイツルの向かいのソファーに座っている。
 まだ初夏だったので、吹く風は心地よい。……窓が開いていると考えればよいか。草間は大きな風穴をちらりと一瞥して、なんとなく気が重くなった。
「それで、依頼というのは」
 部屋にはなんとか前線と警官以外は、まだ全員残っている。
 薫嬢はイツルの隣に座り、道満の『実家から送ってきた』リンゴを両手で掴み、その腕力でリンゴを二つに割って見せた。草間の隣に座っている零が、パチパチパチと拍手をする。草間達の座っているソファーの背凭れに座っている、益零も同じく拍手をした。
「……いえ、依頼は、もう解消しました」
 しれとイツルが言う。草間は肩透かしを食って、「はあ?」と返した。
「あの、モラトリアム前線ですか? あれの脅迫状を受け取って。俺を誘拐するってやつだったので。護衛を頼もうと思って来たのですが」
「あぁ……」
 そういうことか……と合点する。
 無事である奥のキッチンから、シュラインが皿にリンゴを盛って出て来た。
「ジャムにしてもおいしいんですよ。あと、焼きリンゴとか」
「いいわね。ジャムはわかるんだけど、焼きリンゴってチャレンジしたことがないのよ」
 道満とシュラインは家庭的な話をしていた。シュラインは、つまよう枝の刺さったリンゴをソファーの真ん中にあるテーブルへ載せた。
 シュラインは風穴を見てから、
「それにしても、警察に文句を言う機会があって嬉しいわ」
 と笑った。
 説教をされた側の身としては、全員苦笑いをするしかなかった。
「……あと武彦さん。私、きっちり様々な茹でタマゴを作っておいたから、しっかり食べてね。サラダにして、おでんに入れて、ラーメンに入れて、……あとなにか思いつく?」
 草間は皆のお土産に茹でタマゴを進呈しようと言ってみたが、きっぱりとシュラインに却下されたのだった。




 ――end

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2554/春日・イツル(かすが・いつる)/男性/18/俳優、アニメショップ店員
【2811/たちばな・薫(たちばな・かおる)/男性/32/カフェのオーナー兼メイド】
【2952/御東間・益零(ミアズマ・エキレイ))/男性/69/自称フリーター(開業医)】
【3359/リオン・ベルティーニ/男性/24/喫茶店店主兼国連配下暗殺者】

【NPC/足立・道満(あだち・みちみつ)/男性/30/会社員・陰陽師】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして!「ハードボイルドダンディ」にご参加ありがとうございます。
ライターの文ふやかです。

まず……ハチャメチャで申し訳ありません!

コメディということで、普段は割愛してお届けする各皆様の視点全てを盛り込んだ作品になりました。各人を歪曲し、誇張して書き連ねました。本当にお世話をおかけしました。
では、次にお会いできることを願って。

 シュライン・エマさま
 
 毎度どうも! ご参加ありがとうございます。
 細かい指定をいただきましたのに、細部を書く余裕(雰囲気)がなく、申し訳ありませんでした。シュラインさまの茹でタマゴは、さぞかし草間探偵の希望通りだったのだろうなあと、想像しております。
 今回は本当にドタバタしてしまって、今後あやふやのコメディには出ないぞと言われないことを祈ってます。
 少しでもご希望に添えていれば幸いです。
 ご意見がありましたら、お気軽にお寄せください。
 
 文ふやか