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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


調査コードネーム:ティアーズオブルーマニア
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :神聖都学園
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 西暦の一九八九年。
 ルーマニアで革命が起こった。
 戦いは一週間に渡って続く。
 独裁者チャウシェスク大統領は、夫人とともに処刑された。
 その有り様は放送され、全世界に衝撃を与えた。
 栄華を極めたチャウシェスク大統領の屋敷は略奪され、夫人が所有していた数々の貴金属類も散逸してしまった。
 消えた宝石のひとつに、ルーマニアの涙と呼ばれるサファイアある。
 幾人かの手を渡り歩き、つい先日、神聖都学園理事長が手に入れた。
 時価にして二〇億というから、一般人には考えもつかない額だ。
「学校経営って儲かるんだな。俺もやりたくなってきたぜ」
 口に出さず呟く草間武彦。
 怪奇探偵と異名を取る名探偵である。
 べつに理事長が宝石を買っただけなら、たとえそれが何億しようと彼の関知するところではない。
 だが、予告状が届いたとなると話は違ってくる。
 しかも怪奇探偵とはなにかと縁のある、怪盗ペガサスから。
「警察には知らせていないんですか?」
 念のため、と、草間が問う。
 理事長の返答は曖昧だったが、公的機関に知られたくなさそうなのは簡単に読みとれた。
 まあ、国宝級の宝石である。
 持っていることが判ってしまったら、ルーマニアから返還を要求されるかもしれない。代価だって払ってもらえないだろう。
 それだけならまだしも、窃盗容疑で取り調べられたりしては、学校経営者としては非常にまずい。
「だったら買うなよ。そんな曰く付きのもの」
 草間の感想。
 もちろん口も表情にも出さない。
 頼もしい微笑を浮かべて、
「わかりました。予告の六月九日‥‥余裕を持って一〇日まで、宝石を守りましょう」
 理事長と握手を交わす。


 しかし、理事長室を出た瞬間、彼のハードボイルドな時間は終わってしまうのである。
「くーさまさん☆」
 にょき、と、芳川絵梨佳が現れる。
 まあ、彼女はここの生徒なので、校内にいても不思議ではない。
 不思議ではないのたが、
「なんてゆータイミングであらわれるんだよ‥‥おまえは‥‥」
 げっそりとうなだれる怪奇探偵。
「にゃはははー」
 笑う少女。
 と、その頬に、草間の手が触れた。
「にゃ?」
 豊かな髪の中に潜り込んでいく。
「ぃゃーん」
「変な声を出すな」
 ぴっ、と、引っ張り出されるコード。イヤホンがついている。
 どこからどう見ても盗聴器だ。
「きいてやがったな‥‥」
「てへ☆」
「てへじゃねー。盗聴は犯罪なんだぞ」
「だって探偵の基本だし」
 さらっと言い切ってくれる。あながち間違ってもいないような気もするが、肯定するのはちょっと悔しかったりする。
「あーのーなー」
「まあまあ、あたしたちも協力するから☆」
 探偵クラブが総出で、草間の手伝いをする。
 否、邪魔をする。
 情景を想像して立ちくらみを起こす怪奇探偵だった。
「これで名前と恩を理事長に売るのにゃー 部員も増やすのにゃー」
 絵梨佳の傍若無人な笑い声が、廊下に響き渡っていた。













※草間興信所で何度か対決した、怪盗ペガサス。
 神聖都学園にも登場でしょうか?
※基本的には警護の依頼です。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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ティアーズオブルーマニア

 だれにでも予想できる、ということがある。
 たとえば人間とオートバイが一〇〇メートル走を争ったら。
 たとえばレアルマドリードとコンサドーレ札幌が真剣勝負をしたら。
 結果を予測するまでもない。
 こういう例が、世の中にもけっこうある。
「‥‥ま、予測していたことではあるけどねぇ」
 シュライン・エマが溜息をついた。
 ティアーズオブルーマニアというサファイアを守る怪奇探偵。その手伝いをする探偵クラブ一同。
 当たり前というか、なんというか、芳川絵梨佳はまったく役に立ってない。さらに亜矢坂9すばるも、ぜんぜん役に立ってない。五降臨時雨も、ちぃーとも役に立っていない。
 かろうじて機能しているのは神崎こずえくらいのものである。
 草間興信所からのスタッフである守崎啓斗と桐崎明日、それに蒼眸の美女としては、宝石を守りつつ絵梨佳たちのオモリをするという、なんだか二重の苦労を背負っている。
 七人の現場スタッフのうち、三人がゼロどころかマイナスなわけだから、実効戦力はたった一名だ。
 なかなかに愉快な状況であろう。
 とはいえ、怪奇探偵たちも、ルーマニアの涙という名の宝石に魅入られがちだった。
 それほどまでに美しく、妖しい輝きをもったサファイアである。
「青の魔性」
 初めてティアーズオブルーマニアを見たとき、この言葉がシュラインの脳裏をよぎったほどである。
「二〇億するのも頷けますね‥‥」
 ちらちらと宝石に視線を送るこずえ。
 ずっと見つめないのは、あるいは魔性に魅入られぬためか。
「宝石なんか食べられないんですけどねぇ」
 桐崎が応えた。
 えらく散文的な反応ではあるが、ガードすべきもの、という以上の興味を彼は宝石に対してもっていない。
 それが警護者の鉄則だからだ。
 余計な感情は判断を誤らせる。限定された状況の中でなにを最も優先すべきか。それを常に考えなくてはいけない。それがガードというものだ。
 ガードと犯人逮捕はまったく異なる。
 ガードと捜査も、ぜんぜん違う。
 そのあたりを見誤るととんでもないミスを犯す。
 まだ若い桐崎だが、苦い経験は幾度もしている。
「でも‥‥この宝石‥‥を売れば、何十年も生活できる‥‥」
 ぼそぼそと五降臨が、やばいことをいっている。
 お前が盗んでどうするんだよ、と、視線で語り、ぽむぽむと啓斗が肩を叩いてやった。
「仕事が上手くいったら、興信所から報酬でるから」
 とってもとっても同情を込めて。
「あり‥‥がとう」
 見つめあっている。
 なんというか、貧乏人同士が慰め合っていたら、よりいっそう貧乏くさいような気もするが、それはつっこんではいけないのだろう。きっと。
「ぱんつを売るという手もあるである」
 唐突に、すばるが変なことをいった。
 なんの脈絡もなくとてつもないことを口走るからこの少女は侮れない。
 五降臨のぱんつを買ってくれるブルセラ屋があったら、ものすごい勢いで怖い。啓斗はまあ男にしては可愛らしい顔立ちではあるが、もちろん下着など買ってもらえない。
「ちっちっちっ。すばるっち。けいちーはオカマバーニ沈めるのさ。そのほーがお金になるんだからー」
 そして、とんでもない事をのたまう娘がもうひとり。
「そうか。了承したのである」
 嗚呼、痛恨の入力ミス。
 こくこくと、間違った情報をすばるがインプットする。
 まさかすばるを作ったマッドサイエンティストも、それを超えるほどのトンデモ女子中学生がいるとは、お釈迦さまでも気がつかないのである。
 死んだはずだよお富さんなのである。
「なんの話をしとるんじゃっー!!」
 すぱーんすばーんと景気のいい音。
 こずえがハリセンを握って立っていた。
 白い羽の一件で、ツッコミ用のアイテムが絶対に必要だと思い知った彼女は、秘かに夜なべしてハリセンを作っていたのだ。
 ある意味で、こずえも同じ精神上の地平線に立っているのかもしれない。絵梨佳やすばると。
 ボケはボケだけでは成り立たない。
 ツッコミがあって、はじめて漫才として成立するのだ。
「‥‥漫才をしてるつもりも、コントをやってるつもりもないんだけど‥‥」
 シュラインの呟き。
 なんだか、こめかみのあたりがぴくぴくしている。
「わたしのハートがぴくぴくしちゃうの〜♪ である」
 余計なことをいうすばる。
 思わず啓斗と五降臨が目を伏せた。
 これから起こる事態を予想したので。
 ばっこーんという音とともに炸裂する踵落とし。
「めけっ!? なのである」
 悶絶するすばる。
「にゃはははー」
 喜ぶ絵梨佳。
 そして、黙々とガードを続ける桐崎。
 愉快な仲間たちのなかにあって、微妙に浮いているといえなくもない。
 いちばん真面目に働いてるのに難儀なことである。
 六月八日の夜が、にぎやかに更けてゆく。
 明日は、ペガサスが予告した日だ。


 怪盗ペガサス。
 元代の美術品ばかりを狙う窃盗犯だ。
 正体は不明。
 女性だという説もあるが、そのあたりも不明である。
 ちなみに、シュラインなどは自分に変装されたこともあったりする。
 変装の名人なのだ。
 もっともそのときは、シュラインもまた絶妙の変装術で対抗したのだが。
 ともあれ、ペガサスがティアーズオブルーマニアを狙う、という事については、草間興信所のスタッフたちは首をかしげた。
 宝石もたしかに美術品なのだが、壺や皿などの陶磁器とは違う。
 まして、元‥‥中国で作られたものではない。
 どうしてそんなものに興味を示すのか。
 明確な答えを、シュラインも啓斗も持ち合わせなかった。
 予告状の文字はいつもと同じものだったし、文体もペガサス特有のものに思える。
「どういう事なのかしらね」
「どういう事なんだろうな」
 首をかしげるシュラインと啓斗。
 まあ、首を捻っていたところで解答が転がり落ちてくるわけでもない。
 警備を厳重にしてペガサスを待つしかない、という結論に達した。
 桐崎のスタンスではないが、あくまでも今回は宝石のガードがメインである。
 たとえペガサスを捕まえたとしても、警察に突き出すというわけにもいかない。
 明言されたわけではないが、依頼人は表沙汰にするのを嫌がっているのだから。
 捕縛の必要はない。
 クライアントの意向を優先するのが探偵というものだ。
 警察とは違うのである。
「とはいえ、本当にくるんですかね」
 桐崎が呟いた。
 六月九日。
 予告状通りなら、今夜、ペガサスが現れる。
 律儀なことだと思うが、予告を違えたことは、この怪盗にはないらしい。
「予告状通りの行動ってのは、ものすごい危険なんですよね。本来」
「そうね。守る方は日時を絞って守れるもの」
 こずえが頷く。
 最大で二四時間しか、ペガサスには与えられないのだ。
 守る方にしてみれば、これほど有利になることはない。
 普通、予告状は攪乱のために出す。
 その時間に警備を集中させておいて、他のタイミングを狙うのである。
 ただ、攪乱戦法としても、たいして効率は良くない。
 わざわざそんなことをするくらいなら、予告状など出さずにひっそりと目的を達した方がずっといい。
 犯罪者側にとって理想とは、犯罪が起こったことすら被害者は気づかない、というものである。できれば永遠に。
 予告状だの犯行声明だのは、犯人にとっては不利になるだけである。
 自己顕示欲といってしまえばそれまでだが、犯罪履歴を口にしてしまったために逮捕にいたったケースも少なくないのだ。
 だが、ペガサスはまだ捕まっていない。
 シュラインの機転で、一度は捕縛されたものの、あっさりと逃げ出してしまった。
「今度こそ雪辱戦といきたいものだけどね」
 苦笑する蒼眸の美女。
「ふたつの命題は、なかなか満たせないものなのである」
 何だかえらそうに頷くすばる。
「つまり説明すると」
 誰も頼んでないのに、解説までしてくれる。
「おやつは三〇〇円以内とする。駄菓子菓子、バナナも持っていきたい」
 すでに何を言っているか判らない。
「ふむふむ」
 熱心に聞いているのは絵梨佳くらいのものだ。
「となれば、バナナは隠して持っていくのが戦略の常道というものなのである」
「‥‥バナナは‥‥おやつにふくまれ‥ない‥‥」
 ぽそぽそと呟く五降臨。
「そんな法律がいつ決まったのであるか?」
 ちなみに法律的な問題ではない。
 むしろ校則とか、そういう次元の問題ですらない。
「三バカトリオ‥‥」
 ものすごい徒労感で両肩あたりを押さえ付けられながら、桐崎が呟いた。
 気持ちは判らなくもない。
 彼やこずえや啓斗やシュラインは、ちゃんと真面目に仕事をしている。
 そりゃもう、いつペガサスが現れてもいいように厳戒態勢を続けているのだ。
 その横で、バナナがおやつに含まれるかどうかという、ものすごい勢いでどうでもいい話をされたら、げっそりするのは当然だ。
「つまり、しぐれっちの股間にバナナを隠すのにゃー」
「下品な事を言うなっ!」
 こずえのハリセンが、すぱーんと絵梨佳の頭を捉える。
「‥‥‥‥」
 ぽっ、と、頬を染める五降臨。
「アンタもっ! 照れてるとかじゃなくてっ!!」
 こずえさん、ブチキレ寸前である。
 理事長室におかれたティアーズオブルーマニアが、困ったように輝きを放っている。
「にぎやかですね」
 と、その時、鈴木愛が入ってきた。
 差し入れを持ってきてくれたのだ。
「お茶にしませんか」
 にっこり。
 しかし、
「現れたわねっ! 怪盗ペガサスっ!!」
 びしっと指をさす絵梨佳。
「え‥‥?」
 呆気にとられる一同。
 もちろん愛も含めて。
「ちょっと絵梨佳ちゃん。何を言って‥‥」
「こんな事もあろうかとっ! 愛先輩はあたしんちに監禁してあるのよっ!」
 無茶なことをする娘である。
 仲間たちすら、目が点になっている。
 とはいえ、本当にそうだとすれば、ここにいる愛はニセモノということになる。
「くくく‥‥あははははっ!」
 突如として笑い出す愛。
 ばっと変装を解く。
 黒装束をまとい、白い仮面で顔を隠した怪盗へと。
 むろん、ペガサスである。
「なんというか。キミはすごいね」
 皮肉混じりの賞賛。
「まあ‥‥絵梨佳ちゃんだし‥‥」
「ああ‥‥芳川さんだしな‥‥」
 シュラインと啓斗が頷き合っている。
 常識で核弾頭少女の行動を読むのは、不可能というものだ。
 何をするか、味方にだって判らないのだ。
「よくやったのである」
「おてがら‥‥だね‥‥」
 賞賛するすばると五降臨。
 まあ、こいつらはだいたい絵梨佳と同類項だ。
「結果オーライなんですかねぇ」
「愛さんに変なことしてないでしょうねぇ」
 呆れ顔の桐崎と、ジト目のこずえ。
「あはははっ ホントに面白いよっ キミたちはっ」
 腹を抱えてペガサスが笑う。
 とっても不本意そうな顔をする約四名。
「降参だよ。でも、その前にちょっと私の話を聞いてくれないか?」
 両手を挙げてみせる怪盗。
 探偵たちが、顔を見合わせた。


 ルーマニアといえば、コマネチ。
 そう発想するのは、基本的に一般人である。
 オカルティストは違う考えをする。
 すなわち吸血鬼ドラキュラの生まれ故郷、トランシルバニア、と。
 ハンマーで殴られたような衝撃を受ける探偵たち。
 そうなのだ。
 しばらく前、東京のみならず日本を震撼させたペストの大流行。
 それに吸血鬼が絡んでいたことを知っている人間は多くはない。
 怪奇探偵たちは少数派である。
「‥‥この宝石とドラキュラと‥‥なにか関係あるってことか‥‥?」
 絞り出すように訊ねる啓斗。
 あの戦いの恐怖は、未だに記憶から消えない。
 後味の悪さも。
「吸祖‥‥つまりドラキュラの力の一部を封じたとされるものが幾つかあるのよ」
 悠然とたたずむペガサスが言った。
「力‥‥を‥‥封じる‥‥?」
 首をかしげる五降臨。
 どういう意味か判らなかったのだ。
 むろんペガサスは説明するつもりだった。
「普通、吸血鬼は吸血行為によって眷属を増やすんだ。で、その吸血の部分を省略する事ができるんだ。バンパイアアイテムは」
「そんなことが‥‥」
 桐崎が呻く。
「こいつをたとえば貴族に渡す。しばらくすると、その屋敷にいるものはみんなバンパイアなるって寸法さ」
「どうやってっ!?」
「‥‥身に付けていることで、じわじわと吸血ウィルスが体内に侵入してくる‥‥ということかしら」
 こずえの質問に応えたのは、シュラインだった。
 なんだか置き去りにされた恰好のすばると絵梨佳が、部屋の隅でトランプをしていた。
 雰囲気がぶち壊しだった。
「あいかわらず良い勘をしているね。シュライン女史は」
 なるべくそちらを見ないようにして、ペガサスが拍手する。
 さすがにこのシーンをコメディーにされたらたまったものではない、と、思っていたのかもしれない。
 ちなみに探偵たちの大多数も同意見だったので、敵味方暗黙の了解のもと、絵梨佳とすばるは放置されている。
「キミの‥‥言ってることは‥‥証拠が‥‥ない」
 五降臨が、ぼそぼそ指摘する。
 話し方はともかくとして、言っていることは事実だ。
 現状、探偵たちがペガサスを信用する根拠はどこにもない。
 すべては、この怪盗の口から出任せかもしれないのだ。
「疑り深くてけっこうなことだね。でも、すぐに判るさ」
 言って、半歩横に避けるペガサス。
 瞬間。
 扉を蹴破るような勢いで、理事長が転がり込んできた。
 目を血走らせ、涎を垂らし、肥大化した犬歯をぬめぬめと光らせて。
 驚いたように見つめる探偵たち。
 他方、ペガサスは冷静そのものだった。
「予告状を送ってから三日。そろそろ禁断症状が出るころさ」
 淡々と告げる。
 バンパイアアイテムは、所有者を不死の眷属にかえる。
 と、同時に、麻薬のような常習性をも持つ。
 三日の間、身に付けていなければ禁断症状が起きるのだ。
「なにかと評判の悪いチャウシェスクだけど、こいつを封印したのだけは立派な業績さ。それをわざわざ世に出すんだから、人間ってのは業が深いよね」
 肩をすくめる。
「それが人間ってものだからね」
 苦笑するシュライン。
 さっと視線で指示をする。
 桐崎、啓斗、五降臨が、女性陣を守るように展開する。
 このあたりはさすがの実戦感覚である。
 こずえがシュラインのガードに入り、一応は、すばるが絵梨佳を引き寄せた。
「吸血鬼を滅ぼすには‥‥」
 ぽつりと啓斗。
 その手が、電光石火の動きで小刀を鞘走らせる。
「心臓に杭を打つっ!」
 躊躇いはなかった。
 一撃で理事長の胸を貫く。
 彼は、幾度かの戦いの経験から、吸血鬼との戦い方を学んでいた。
 世間で言われているような退治法は、ほとんどが嘘と迷信だ。だが、心臓に杭を刺すというのだけは本当なのである。
 もっとも、心臓を貫かれれば、人間だろうと吸血鬼だろうとグリズリーだろうと、普通は死ぬのだ。
 ようするに吸血鬼を倒すには、そこまで完璧な殺人哲学が必要だった、ということなのだろう。
「グ‥‥ガ‥‥」
 灰化してゆく理事長の身体。
 不死の眷属となったものを、元に戻すことはできない。
 滅ぼすしか、
「ゆるせよ‥‥」
 ないのだ。
 少女たちにその有り様を見せぬよう。五降臨が大きな身体を使って盾になっていた。
「おみごとおみごと」
 拍手が理事長室に響く。
 はっとする探偵たち。
 窓際にたたずむペガサス。その手に、宝石ケースが乗っている。
「こいつは、私の方で処分しておくよ」
 言うがはやいか、外へと身を躍らせる。
「待てっ!」
「このっ!!」
 桐崎とこずえが追ったが、すでに手遅れだった。
 夜の色をしたハングライダーが、闇の彼方へと飛び去ってゆく。
 銃器を使えば、あるいは撃ち落とせるかもしれないが、
「こんなところで銃声をたてるわけにはいかないのである」
 ものすごく珍しく、まともなことを言うすばる。
 あまりにも珍しすぎて、仲間たちが唖然としたほどだ。
「‥‥依頼は‥‥失敗か‥‥な」
 やや意気消沈したように、五降臨が言った。
「それを咎める人も、もういないけどね」
 苦笑するシュライン。
 料金はもうもらってあるから、興信所としては痛くない。
 商道徳的には返還すべきだろうが、もう返す相手もいないときている。
「今回は痛み分けってことで、いいんじゃない」
「ひと、それを負け惜しみというのである」
 余計なことを言うすばる。
 一瞬にして沈められる。
 肩をすくめたこずえが、
「めでたしめでたし?」
 と、訊ねた。
 むろん、それに応えようとする仲間は一人もいなかったのである。
 雲間から、月が恥ずかしそうに顔を覗かせていた。


  エピローグ

 数日後。
 探偵クラブにCDが届けられた。
 中には画像ファイルが入っていて、
「えっちなやつかな?」
 という絵梨佳の期待を裏切り、太平洋の上空らしき場所の映像だった。
 その画像の中で、海へと投げ捨てられる宝石ケース。
 ガイドもなにもないが、ようするにペガサスなりの義理立てなのだろう。
「ふ‥‥今回は引き分けにしておいてあげるわ」
 なんだか格好をつけている絵梨佳。
 六月の空は、どこまでも青く。
 盛夏を待ちわびるようだった。









                       おわり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・けいと)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
3206/ 神崎・こずえ   /女  / 16 / 退魔師
  (かんざき・こずえ)
3138/ 桐崎・明日    /男  / 17 / 護衛屋 元解体師
  (きりさき・めいにち)
2748/ 亜矢坂9・すばる /女  /  1 / 特務機関特命生徒
  (あやさかないん・すぱる)
1564/ 五降臨・時雨   /男  / 25 / 殺し屋?
  (ごこうりん・しぐれ)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「ティアーズオブルーマニア」お届けいたします。
吸血奇譚の流れを、すこーしだけ汲んだお話でした。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。