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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


猫になる日。



オープニング



朝起きたら、義兄の耳がネコ耳に変化していた。


零は、今まで様々な奇妙な現象を目の当たりにしてきたせいでもあるのだろう。
大して動揺せぬまま、しかし30男のネコ耳姿という、嗚呼、神様。 もし、見なくて済むのならば、積極的に見ないまま人生を終えたかったのですなんていう、光景を目の当たりにし、とりあえず、この事態はどういう事なのか問い質して見るべきかと、強引に自分を納得させる。
何か、別に良いかなぁ…なんて、投げやりな感情に支配されつつも、「その、耳…、どうしました?」と、零が問い掛けてみれば、「耳が、どうしたんだニャ?」と武彦が答えてきた。


森へ、帰りたい。


別段森生まれでも何でもない零は、ガクリと、床に膝付きながら、何故かそんな郷愁に襲われる。


語尾にニャて、おいおい。
許されるキャラすっごい限定される口調やん。
ていうか、義兄がニャて、ニャて……うあー。

もう、項垂れるしかないという気分になりながらも、零は静かに立ち上がり、そして、「もし、わざとであるのならば、本日限りで、ここをお暇せねばならなくなるので、是非とも他に原因がある事を祈るばかりなのですが……兄さん。 ネコ耳生えてますよ?」と、告げる。
人生において、人に、それも兄に「ネコ耳生えてますよ?」という台詞を吐く機会に恵まれるなんて、私はなんと不幸な人間であろうか…、と自分の境遇を嘆く零に対し、武彦は目を見開き、それから、「プッ」と吹き出すと「なぁに、言ってんだかニャ」と言いながら、自分の耳に手を伸ばし、そして硬直した。
「……なぁぁぁっぁぁぁっぁぁああああああ?! ニャ」
事務所に武彦の絶叫が響き渡った。



「ええぇぇぇ? 誰も、求めてニャイだろ、これ? ええ? 何で、猫ニャ? どういうニーズニャ? ていうか、えーー?」
混乱しきったまま、自分の耳を触りつつ、そう呻く武彦に、零はあくまで冷静に言葉を掛ける。
「まぁ、誰かが求めてどうのこうのって訳じゃないでしょうが……、兄さん、何か心当たりとかありますか? 変な物を拾い食べしたとか」
「そんな、今時、子供でもしないような馬鹿な事しねぇニャ」と、抗議しつつも、「心あた…り?」と首を傾げ、そして、ポンと手を打った。
「そういや、昨日、街頭で、試飲サービスをやっていて、『またたびジュース』とかいう変な飲み物を飲んだ記憶があるニャ。 新製品とか言っていたけど、随分と人通りの少ない道でやっていたので、不思議に思ったニャ」
武彦の言葉に、どうして、そういう怪しげなものを呑んじゃうかなぁ…と呆れつつも、零は「多分それですね。 そういう仕組みかは分かりませんが、その飲み物のせいで、猫化したと考えるのが自然でしょう。 そのジュースを薦めてきた人間の容貌を覚えてますか?」と、聞いた。
武彦は、目を細め、考え込むような素振りを見せた後、「……女だったニャ。 うん。 真っ黒な髪した、何か背の小せぇ、ちんまい感じの……」と、答える。
「その人が、無差別にジュースを配っているとしたら、今頃はもっと騒ぎになっているでしょうから……」
「俺を狙っての、犯行…かニャ」
そう言いながら、武彦は自分の頬をつるりと撫でて、そして、「ひあ!」と素っ頓狂に叫んだ。
「ひ……髭ニャ! うあ! 尻尾も!」
動揺して、そう喚く武彦の鼻の側の頬から、確かに三本の髭がぴょんと生え、そして尾てい骨の辺りから、ズボンの外へ細長い尻尾が飛び出してくる。
さっき迄は、存在しなかったネコ特有の特徴に、武彦はネコ化が進んでいるという事実を悟り、戦慄した。
「ね、ネコになってるニャ! ネコになってるニャーーー!」
武彦が、動転し、ソファーから転げ落ちる姿を眺め、零も流石に、「もしこのまま、兄さんが猫になってしまったら?」という焦りのようなものを覚え、そして、とにかく誰かに助けを求めようと心に決めたのであった。


本編





「今すぐ興信所前で、待ち合わせだ!」
携帯の向こうから、翼に力一杯の声音で告げられた瞬間、いつにない本気の声音に「ああ、零が絡んでんだな」と、金蝉は三秒で理解した。



死にたくなる位、不機嫌な気持ちを抱え、興信所前で翼と待ち合わせる。
翼は、そんな金蝉に苦笑しながら「後で、必ず埋め合わせするよ」なんて言ってくるので、とりあえず「酒、煙草、酒、酒、酒」と真剣な表情で呻いておいた。
これだけは、幾らあっても困らない。
「キミは、それしかないかい?」なんて言われながら興信所の前の階段を並んで登っていた時だった。
唐突に、翼が何かに気付いたかの如く、物凄い勢いで振り返り、登ってきた階段に駆け寄ると手をのばす。

何してんだ?

そう思う間もなく、翼の手が、鑞のように白い繊細な手を握り締め、その手の持ち主を自分の胸に引き寄せる姿が見えた。
どこかの間抜けが、階段から落ちかけてるのに気付き、翼が咄嗟に助けたらしい。
どうせ、女だろ?と、思えば、金蝉のご明察。
スカートを穿いた華奢で小さな体が、金蝉の胸の中に納まり、翼の顔を呆然と眺めていた。
精巧に作り上げられた人形の様に美しい顔をしている。
銀色のシャギー髪が、不健康な迄に白い顔を縁取っていた。
「ふぅ」と翼は安堵の溜息を吐き「大丈夫かい? 危なかったね」なんて、囁いている。
また、悪い病気が出ているなんて、呆れている金蝉の気も知らぬげに、ニコリと微笑み掛ける翼。
そんな翼の顔をうっとりと見つめている少女。
翼の、空のように蒼い目とは対照的な目の色をしている。
血のような、真っ赤な眼。
少女が小さく笑って「助かりました。 ありがとう」と翼に告げる。
それから、少女は翼から身を離し、真っ直ぐな視線で翼を見上げて言った

「まさか、吸血鬼に助けて貰えるなんて、凄い経験。 チョーラッキーだわv」

その声音、眼の色、口調、全てが、金蝉の神経を引っ掻いた。

翼が、馬鹿にされたような気がしたからだ。
その瞬発的な怒りは「何故、そんな事を知っている?」という疑問は全く含まれていなくて、むしろ、あのような不吉な眼の色を持つ人間ならば、翼の正体を見抜くなんて芸当出来ても不思議ではないだなんて感じてしまった。
金蝉は、本能的に、少女の目がそういう類の魔眼であると悟っていた。

「な……んで?」
零れ落ちるように翼が呟く。
まるで、怯えてるようにすら見えた翼を咄嗟に背後に庇い、金蝉は、前に出て、「てめぇ、何者だ?」と少女に凄んだ。
間近で見れば、見る程、蠱惑的な眼の色をしている。
翼が、金蝉の服の裾をギュっと握り締めてきた。
翼が、不安がっている。
その瞬間、どうしても、この少女の眼から、翼を守らねばならないという強迫観念に近い激情が金蝉を襲った。
少女は、金蝉の問いに答えず、ニコニコと翼に視線を送っている。
そんな少女の態度に焦れて、金蝉はぐいとその胸ぐらを掴んだ。
「答えろ」
そう言われ、ようやく金蝉に視線を向け、少女は薄く笑う。
「……鵺っていう名前のただの休みがち中学生よ?」
巫山戯た声音でそう答え、鵺は誰かの名を呼ぶ。
「幇禍」
「はい。 お嬢さん」
階下に、驚く程気配無く佇む、スーツ姿の青年がいた。
白い肌に端正な顔立ち。
右目に眼帯をつけている事が、妙な迫力を醸し出している。
「なんか、痛いかも」
鵺が、何でもない調子でそう呟いた。
すると、幇禍と呼ばれた青年が一足飛びに金蝉に迫り、階段という限定された足場にも関わらず、流れるような動作で、金蝉の頭をめがけて蹴りを繰り出てくる。
だが、既に、幇禍が走り寄ってくる時点で、どのような攻撃をするかシュミレイトの済んでいた金蝉は、焦る事なく、頭を後ろに逸らすという最小の動作で幇禍の攻撃から逃れた。
ヒュッと、鋭い音を立てて空気を切り裂いていった爪先の軌跡を横目で眺め、かなりの使い手であると、判断する。

ぞくっとした、悦びに似た感情が背筋を這い上がった。

面白ぇ。
面白ぇじゃねぇか。

ギッと音のするような視線で幇禍を睨み据える。
鵺はといえば、その隙にとっとと逃げ出し、幇禍の後方で腕を組みながらの傍観者体勢をとっていた。
「…どーいうつもりだ?」
押し殺したような声での問い掛ければ、幇禍は飄々と「先に手を出したのは貴方ですよね? こぉんな小さな女の子の胸ぐら掴むなんて、紳士的じゃないですよ?」と答えた。
一丁前に、誘ってきてやがる。
上等だ。
ド頭ぶち抜いてやる。
本気で、そう思い、懐に手を伸ばしかける。
翼は、そんな金蝉を袖を引き「金蝉止めるんだ。 大丈夫だから」と囁くように止めてきた。
その手の震えは、もう収まっており、眼の中を覗けば、いつもの冷静な色が浮かんでいて、金蝉は少し安堵し、攻撃態勢を解いた
翼は、滅多に見せない青い瞳を更に青く凍り付くような色に染めると「鵺さんは、武彦の客じゃなくて、興信所のバイトをしてる子だったりするのかな?」と確信を持った声で問うた。
鵺は、その問いにコクンと頷き「分かる?」と笑う。
「まぁね。 一目で正体見抜かれてしまったのだもの。 ここで仕事をする人達は、特殊な能力の持ち主が多いしね。 君も、ただの中学生なんて、大嘘だろ? しかし、あんまり、良い趣味じゃないな。 人の内面を覗くだなんて」
と、翼。
鵺は明るい笑顔で「だって、癖なんだもん」と答え、「ね? 貴女名前は?」と聞いていた。
翼は、金蝉が憶えている限りは、女性相手には今まで一度も向けた事のないであろう冷笑を浮かべて答えた。
「蒼王翼。 急いでいるんでね。 先に行かせて貰うよ」と告げ、金蝉に「ごめん。 待たせたね。 行こう」と、宥るように肩を叩きながら告げてくる。
金蝉は、フンと鼻を鳴らすと、「気にいらねぇ」と心から吐き捨て、クルリと踵を返した。

鵺がよっぽど、気にくわないのだろう。
翼が、苛々している。

「珍しいな」
ぼそっと、言えば、翼は、ソッと俯いた。

そんな翼の為にという訳ではないが、金蝉も嫌悪を露わに言う。
「あいつら、何だか気にいらねぇ」
翼はこれまた珍しく素直に同意した。


「零ちゃん!」
その声音は、愛しい人を呼ぶような、情熱的な温度さえ感じられ、まるで王子様のように両手を広げ、翼が真摯な表情を浮かべながら翼は零を待っていた。
その瞬間、零が飛び上がるかのような動作でソファーから腰をあげ、そして「翼さん!」と感極まったように叫びながら、その胸に飛び込む。
「翼さん! 翼さん! 来て下さったんですね!」
そう言いながら、翼を見上げる零に、翼は「当たり前じゃないか! 言っただろ? 君は僕の勝利の女神なんだよ? そんなレィディが困っている時に、僕が駆けつけない筈ないじゃないか」と、優しく告げた。
そして、零の白い頬に指を滑らせ「泣いていたのかい? 兎さんのお目々になってるよ? 君の涙は真珠のように美しいけれど、笑顔は世界中のどんな宝石よりも素晴らしいんだ。 さ、もう、安心していいよ? 僕が、君の宝石を取り戻す為にも、その悩みを全部解決してあげるからね」と囁く。
宝塚も顔負けの、翼のナチュラル口説きテクに零は腰砕けになったのだろう。
「翼さん」とうっとりしたように呟きながら、縋り付くように、翼の胸に頬を寄せた。

ある日、突然、女性を「僕の、婚約者(と書いて、フィアンセと読む)なんだ」なんて紹介されても、素直に祝福してしまいそうだ。

死んだ魚のような眼で、そんな二人のやり取りを見つめている金蝉に武彦の隣りに座るエマが、同情したように、ヒラヒラと手を振ってくる。
金蝉は、そんなエマに気付きはしたが、いつも通りの無愛想面でツカツカと近寄り、そして、中途半端に猫化している武彦を見下ろし、「プッ」と吹き出すと、嘲笑うかのような冷笑を浮かべた。
「なかなか、イイ格好になってんじゃねぇか」
そう皮肉気に告げれば、武彦は眉根を寄せ「お前、俺なんざ、どうなろうと知ったこっちゃねぇだろうに、なんで来てんだにゃ?」と問うてくる。
その語尾の「にゃ」の気持ち悪さと、その問い掛けに答える事への気分の悪さが相乗し、物凄く眉間に皺を寄せながら、「連れて来られた」とだけ、一言不機嫌に言い放った。
その答えに、「プッ…クッ…クククク…」っと、エマは抑えきれないように、噛み殺しながらも笑い声を漏らし、隣では、武彦が「へっへぇんだ! 俺が、イイ格好なら、お前はイイご身分ってとこだにゃ? どーせ、いつもの如く翼に無理矢理連れて来られたって訳にゃ。 相変わらず、頭上がんねぇみたいだニャ!」とくさしてくる。
金蝉は、生えてる耳を引きちぎってやろうかと、本気で考えた。


相変わらず、零を口説いている翼の元へと近寄れば、うっとりと自分を見上げてくる零に「可憐だ…」なんて、囁いている。
金蝉は冷めた声で「よくやるぜ」と呟き、本気で呆れ返った表情で翼を見下ろした後、ついで武彦を指差した。
「馬鹿そのものの姿だな、ありゃ」
翼は、「いつも、馬鹿なのに、さらに馬鹿になれるだなんて、人間の限界はどこにあるんだろうね」と辛辣に答えてくる。

「あははははははーーー!」

突如、耳をつんざくような笑い声が、金蝉の脳を揺らした。
いつの間にか、現れていた鵺と幇禍が、けたたましい笑い声をあげながら床を転げ回っている。
鵺は武彦を指差しながら、
「うわ! ほんとだったんだ! すごっ! キモっ! だっさーーー! おやびん! ださ! 変態! コミケ帰り? ってか、あははっはははーー! ヤバイ! 近寄りたくないぃ〜〜!」と、身も蓋もない事を言いながら大笑いし、幇禍も「ひっひひひひぃぃぃぃ〜〜〜!」と、腹を押さえ、苦しげに身を捩りながらも、バンバンと空いている方の手で床を叩き、顔を上げて武彦を見ては、また涙を目に滲ませながら笑っている。
そして、「ひっ…ひひっ…ひぃ…うあ、苦しい! 死ぬ、死ぬ!」
と、苦しみながらも、幇禍は「アレだ! 迎えが来るな! ほらあれだ、猫の国の王様がお前を愛妾に迎えたがってるんだよ」と、ジブリネタ混じりの嫌味を言い、その上、「はい、土産だ!」、なんて言いながら、嬉しげに猫が嫌いな匂いがするオレンジの皮を投げつけた。 
「うわぁ…」
武彦は疲れたような声で、それだけ呟き、それからいそいそと張り切って(特に、翼の分のを)コーヒーを入れに行こうとする零に声を掛ける。
「おい。 こいつらも、呼んだのかにゃ?」
金蝉は、「むしろ、翼も呼ばないで欲しかった」(自動的に、金蝉も一緒に来ることになるから)と思いながら、視線を向ければ、零はニッコリ笑って「はいv とりあえず、現段階で連絡が取れる人には全て、連絡させて頂きました!」と無邪気に言い放った。
「やー。 俺は、まっったく、草間の事助けるつもりとか、単位にして1ミクロンもないんですけどね! そんな面白い見世物とか、ほんと、もう見逃しちゃダメ!絶対! って感じで、お嬢さんと見物に来たっていうか、むしろ完全に猫になった暁には、三味線にでもして、売っ払って、新しい通販商品でも買おうかと…」
と、全開の笑顔ながらも、あながち冗談とも思えない口調で、幇禍が語り、間に受けた零が「だ、ダメです! そんなコトしちゃ!」と、訴えた瞬間だった。
「サイテーだね。 冗談にしたって笑えないよ」
翼が、蔑むような声で、そう幇禍に言った。
先程の事が尾を引いているのか、零が絡んだせいなのか、口調が刺々しい事極まりない。
「ただでさえ、ダメ人間?っていうか、甲斐性なし且つ、考え無しの兄が、この上猫化までしてるっていう状況の零ちゃんの前で、そういう事をよく言うよ」
武彦は、物凄い云われようのままで良いのかと思いながら、推移を見守れば、鵺が幇禍よりも先にニッと唇を吊り上げて口を開く。
「うわぁー。 優しいーv いい子ねぇ、翼ちゃん? そうよー? 幇禍、三味線にしちゃうなんて言っちゃダメ。 大体、オヤビンで出来る三味線なんて屹度、音が悪すぎて、高く売れないよー?」と、翼の神経を更に逆撫でするような事を言い「アハハ」と気楽に笑う。
そんな鵺に、翼は不機嫌な表情になると「家庭教師が家庭教師なら、生徒も生徒って訳か。 TPOって言葉、学校で習ったことはないのかな?」と、まるで普段男性に対するような、辛辣な言葉を言い放った。
それを、また、自分のせいでこうなっているというのに、シレっとした顔で「ほらほら? お嬢さん。 怒られちゃいましたから、そろそろ翼ちゃんで遊ぶのを止めましょうね?」と、火に油を注ぐような発言をする幇禍。
その言葉に、金蝉が今度は、苛立ちを感じた。
翼で、「遊ぶ」だと?
懐に手を入れて、肌に慣れ親しんだ銃に触れる。
そんな金蝉の様子に気付いたのだろう。
ソファーに座るエマの眉がツイと上がり、翼の表情にも、「しまった」という風な後悔の色が滲み始めた。
先程の、階段での出来事で確信した通り、かなり「使える」らしい幇禍は既に、そんな金蝉に対して警戒の態勢を取っている。
ソファーに座っていたエマが、とうとう立ち上がった。
ピリピリとした空気が、幇禍との間に満ちる。
金蝉は何処か、愉しいような気分になりながら口を開いた。
「テメェら、さっきの事と良い、今とイイ、調子ノリ過ぎてんじゃねぇか?」
そんな金蝉の言葉に、
「おや? ナイトの登場ですか? 格好良いなぁ。 痺れるなぁ」と、幇禍がおどけたような声で言う。

覚悟しろよ?

胸中で呟く金蝉。
そして、懐から素早く銃を取り出そうとする。
それに対し何らかの動作を見せようとした幇禍。
まさに、一種触発の状態だった。
そんな危険な状態極まりない二人の間に、落ち着いた探るような視線でこちらを窺っていたエマが割って入ってくる
そして、いきなりパンパンパンと手を叩き、「ハイ! 分かった!」と叫んだ。
思わず、何がしたいのか理解出来ず、固まる金蝉。
「デッドorアライブなのね! そういう事でしょ? 分かった! 了解した! うん! 格好良かった! 二人とも、格好良い! シュライン判定的には、あんた達二人とも同じ位格好良かった! 故に、引き分け! Vシネの二大スタァ豪華共演! 後は、アレね、どっちが哀川翔かを、ガチンコで取り合えばいい!」
は? デッドorアライブって……なんだ?
思わず、呑まれたように、沈黙が支配する中、
「え? 竹内力のが、格好良くない?」
と、これまた意味の分からない事を言う鵺。
すると、そんな鵺の肩をポンと叩き、女性はお姉さんっぽい微笑みを浮かべると「貴女は、翼ちゃんと、岩下志摩を取り合えば良い」と告げていた。

あ? 翼は、岩下志摩に憧れてんのか?

思わず、翼が聞いていたならば「そんな訳ないだろ」と、物凄く疲れた声で言われそうな事を、考えている金蝉を置き去りにエマはサクッと、事態をまとめた。
「良し! 解決っ!」と親指を立てたエマに、確かに険悪な空気は霧散し尽くしたものの、何というか釈然としない気持ちに皆が襲われる。
そしてエマは先程までのレッド・ゾーンを思いっきり振り切ったようなヒートを見せていた状態からは想像できないような落ち着いた表情をして、クルリと、幇禍と鵺に向かい合った。
「で? えーと、貴方達には、私、初めましてなんだけど?」
と、首を傾げてエマが武彦に視線を送れば、先程までの狂乱を微塵も感じさせない、冷静さに、少々戸惑った様子を見せつつも、武彦は二人を順々に紹介してくる。
まず、鵺を指し示しながら、
「えーと、そこの奇天烈少女が鵺で」
と、滅茶苦茶な事を言い、次に幇禍を差して、
「どう頑張って見てもヤクザ?っていうか、極道?出所したばかり?みたいな、無駄にデカい眼帯スーツ男が鵺の家庭教師の幇禍。 どっちも、厄介な事に、能力自体はかなりある。 何とかに刃物の、良い例だな」と端的に言い放つ。
そんな紹介で黙ってる訳もなく、鵺はぶーっと膨れて、「現段階において、この事務所内で誰が一番奇天烈なのはおやびんだと思う」と言い放てば、思わず本人含める皆が「その通りだなぁ」と納得してしまった。
幇禍も、「真っ当でないっつうなら、怪奇探偵な上に、只今絶好調猫化中のお前に勝る奴は、そうはいないと思うね」と、冷たく言放ち、そんな二人の言葉にエマは、カラっとした美しい笑みを浮かべて、まず、鵺、それから幇禍に手を差し出して握手した。
「初めまして。 シュライン・エマって言います。 ここの事務員という名の無料奉仕、つまりボランティアやってるの。 よろしくね」
鵺もニッコリ笑い、幇禍も見た目だけは好青年風の笑みを浮かべながら「こちらこそ、よろしく」なんて言っている。
エマは今度は、金蝉と翼どちらにも視線を向けて「ね? 喧嘩なんかせずにさ、武彦さんの事、助けてあげるの、お願いだからみんなで協力してくれないかな?」と言ってくるので、金蝉はまるで、自分が頑是無い子供扱いをされているようで、心からどうでも良さそう且つ、つまらなそうに視線を明後日の方向に向けたが、翼は途端に花が綻ぶような笑みを浮かべ「貴女みたいに美しいレィディに頼まれて、断る人間なんていやしませんよ?」「そうだ! その通り! そんな人間いたら僕が蹴り飛ばしてやる!」
翼の台詞に呼応してのいきなりの声に、振り返る金蝉。
背の高い男性と、幼い顔立ちをした小柄な青年が並んで立っている。
「あら? 山口さん?」
同じように、振り返ったエマが、目を見開いて、小柄な青年に声を掛けた。
山口?
どっかで、見た事がある。
翼の家で、暇つぶしに捲った音楽雑誌だっただろうか?
確か、山口さなとかいう、何処かのバンドのベーシストだ。
そんな奴まで、この興信所でスタッフをやっているのか?
そう、やっと金蝉が思い出した時には、ピカッとした笑顔を浮かべて、さなは「今日和!」なんて挨拶している。
その隣の男性は、人なつこい笑みを浮かべ、「どうも」と頭を下げていた。
男性の名前をなかなか思い出せないのだろう。 トントンと指先でこめかみを叩くエマ。
そんなエマを、苦笑して眺め、男は「影踏です! 夏野影踏!」と快活に名乗り、それからソファーに座っている武彦に視線を走らせる。
その視線に武彦は身を強張らせたのを、金蝉が「何怯えてやがるんだ?」と首を傾げた瞬間だった。
にぃぃぃっと何とも言えない形に唇を裂き、夏野が「草間さぁぁぁんv」と叫びながら一目散に武彦に走り寄っていった。
何故か焦ったようにエマが、咄嗟にその背中に手を伸ばせど、届かずに指先が宙を掠める。
その間に一瞬にして応接間に飛び込んだ影踏は、覆い被さるようにしてにして武彦の体を抱き締めると「めっちゃ可愛いいいーー!」と絶叫した。

大丈夫か? あの男。

思わず凶器的なその言葉の威力に腰から下に力が入らなくなる金蝉。
見回せば、皆一様に同じ様な顔を見せ、影踏の動向を見守っている。
ぎゃあぎゃあと騒いでいる、影踏とさなを眺め「阿呆らしい」と嘆息する金蝉の耳に「プッ…ブハッ…」と、男の吹き出すような声が聞こえた。
翼もその声を聞いたのだろう、
不思議そうに振り返り、幇禍や鵺も同じ方向へ視線を向けていた。
そこには、妖艶な雰囲気をした、とてもスタイルの良い女性と、何度か此処等の仕事で会った事のある少女、海原みなもがいた。 みなもは一匹の黒猫を抱えており、その猫は、鵺を見上げて「なぁお……」と鳴いている。

男の吹き出すような声がした筈なのに、金蝉や幇禍が吹き出した訳ではなさそうだし、新たに現れた面々にも男性はいない。
「さっき…誰か吹き出しましたよね? 男性の方が」と、幇禍が言えば、みなもも、「えーと…私も聞こえたんだけど……」と言いながら女性を見上げ、その女性は「…あなた達、何か笑った?」幇禍と金蝉を順々に見回した。
「いいえ?」
幇禍は、首を振って答え、金蝉は黙ったまま立っていたが、その表情を見ただけで、皆、笑い声の主は金蝉でないと理解してくれたらしい。
「………」
最後に、皆で黒猫に視線を据えるも……「まさか……ねぇ?」の翼の一言で、「そうだよなぁ…」と皆、顔を上げ「気のせいか」という結論に達する。
妖艶な美貌を持つ女性が、気怠げに提案した。
「えーと、初めましての人もいるから一応自己紹介する? 私は、葛生・摩耶。 宜しく」
短くそう済ませた摩耶に続き、みなもが口を開く。
「私は、海原みなもと言います。 中学生やってます。 それから、彼は斎・黯傅さんっていう、人語を解するスーパー天才猫なんです」
みなもの紹介に頷くように、黯傅が「なぁう」と短く鳴いた。
スーパー天才猫という、みなもの言い方が可愛く思え、翼は黯傅に対し、「みなもさんに抱かれてるなんて、幸せ者だね」なんて、心の中で語りかける。
鵺も「鬼丸・鵺って言います。 で、この人は……」と言い、後ろを指し示せば、
「鵺お嬢さんの家庭教師と、護衛みたいな事もやってる魏・幇禍です。 どうも」と幇禍も名乗った。
最後に翼が「僕は、蒼王・翼で、彼は桜塚・金蝉」と金蝉を示しながら告げ、これで興信所内にいる人間の一通りのフルネームを金蝉は理解する事が出来た。
しかし、それにしたって、今日は人が多い。
興信所内は、二桁に突入する程の人数が入れば、もう、満員状態である。

人混みは苦手だし、こんだけいりゃあ、最早俺は必要ねぇんじゃねぇか?
ていうか、必要とされていても、知るものか。
こんなあほらしい事に付き合っていてはいられない。
そう考え、ひっそり、翼に気付かれぬようフェードアウトを計る金蝉。
しかし、そんな金蝉に入り口近くに居た摩耶が、声を掛けてきた。
「アレ? 帰るの? カノジョ置いて」
そう馬鹿にしたような声で言われ、反射的に、グッと睨み据える。
すると動じたようすなく、「アハハ。 図星か」と摩耶は笑い、銜えている煙草をくゆらせた。
「もうちょっと居なよ。 きっと、これから、もっと面倒臭くなるよ」
そう言う摩耶に理解しがたいといった顔を向けて、金蝉は言った。
「面倒臭ぇ事が嫌だから、ずらかろうとしてんだよ」
「ばっかだねぇ。 面白い事ってのはね、みんな大なり小なり面倒臭いんだよ」
摩耶は、そう告げて、フフンと笑うと、ツイと視線を遠くへ向けて、それから金蝉の腕に「ゴミ、ついてる」と言いながら手を伸ばしてきた。
咄嗟に、身を引きながら「触るな」と言えば、摩耶は、「かぁわいいv」と囁き、そして「あんたのカノジョもね」と笑う。
「で? 帰るの、帰らないの? ってか、言い換えると逃げるの? 逃げないの?」
そう、挑発するように言う摩耶を、もう一度睨み据えると、クルリと踵を返して翼の元へと足を運んだ。
翼は、何やら、ブンブンと首を振ったり、難しい顔をしたと思ったら、困ったような顔をしたり、ちょっと面白い事になっていた。
「一人阿呆劇場か?」
金蝉が身を屈め、翼の顔を覗き込んでそう聞いてみる。
途端、翼は、顔を勢い良く上げると、「このスケベ!」と一言言い放ち、フン、と顔を背けた。
「はぁ?」と、金蝉が口を開け、「オイ、翼、そりゃ、どういう意味だよ?」と問うてみるが、ツーンとした表情のまま、口も開かず、何が何やらさっぱり分からない。
「意味が分かんねぇ」
そう呟けど、勝手に臍を曲げた翼の機嫌を、損ねた理由も分からないのにどう対処すれば良いかなんて分からず、金蝉は正直途方に暮れた気持ちになった時だった。

「ここの興信所の主はご在宅かな?」

と、事務所の入り口で、古めかしい言葉遣いをしたハスキーな声が響いた。
「ゲ…、客かにゃ?」
と、身構える武彦。
今や、興信所内は万国博覧会よりも珍しい存在達の集まりになっている。
その上、肝心の主人が猫化の一途を辿っている訳であって、もし、奇跡的にまともな依頼が来たとしても、仕事を受けられる状態ではない。
皆の中で一番入り口の近くにいて、煙草をふかしていた摩耶がヒラヒラと手を挙げて「私、出るわ」と言った。
エマは、摩耶の事をよっぽど信用しているのだろう。
安堵するような表情になりながら、両手を合わせて「お願い。 客だったら、適当に誤魔化して」と頼む。
「了解」と、短く答えると、摩耶は応接間と入り口を仕切る衝立の向こうへと消えた。
「此程までに、客でなければ良いと願った事は、未だかってないにゃ」と武彦が悲しげに呟いている。
翼が武彦に同情したように「なんとかならないかな」と呟くので、「放っておけよ」と金蝉は答える。。
すると、キっと此方を見上げ「君はほんっとに、冷たくて、デリカシーがなくて、性格が悪いね」と乱暴な口調で言ってくる。
ほんと、今日は珍しく苛々してんな、なんて思いながら、いつもとは逆の立場を少し愉快に思いつつ、シレっとした視線でその表情を見下ろすと、ポフっと、金蝉はその頭に手を乗せてきながら「知ってるだろ?」と言い返し、それから「言っとくけどな、俺は、お前に言われなきゃ、今回だって此処に来もしなかったな」とぼそっと呟いた。
この際、さっき帰ろうとしていた事は黙っておこうと、心に決める金蝉。
「いっつもお前だ。 俺を動かすのは」
そう言えば、翼が、頭の上に置かれた手をそのままに、顔を真っ赤にさせた。
「苛々してて、ごめんなさい」
消え入りそうな声で翼が詫びる。
「フン」
金蝉は、そんな翼の頭をグリグリと撫でた。
そんなやり取りをしている時である、唐突に、ズカズカとした乱暴な足音が聞こえ、「ちょっ! あなた、勝手に!」と、誰かを制止しようとする摩耶の声と共に、何故か、武将が入室してきた。

そう、もう一度言うが武将である。

正直、現在の興信所内も、派手な外見を有する者や、人語を解する猫、特殊な能力を持ち、特殊な見た目をしている人間でひしめいている為、金蝉は「もう、どうでもいいや」と投げやりな気持ちになりかけたが、やはり、どう頑張っても奇怪な者は奇怪にしか見えない。
どれだけ目を凝らせど、そこにいるのはやはり武将で、何よりも最も奇怪だったのは、その武将にネコ耳が生えていた事だった。
額に、宝玉が埋め込まれている、中国風のシンプルな甲冑を身に纏った、凛々しい青年が興信所内にいる人間を見回しながら、最終的には摩耶に視線を据えて中性的なハスキーボイスで言い放つ。
「ここの主は、どこかと聞いているだけだろう? 大体、興信所というものは、誰にでも門戸を開かれている場所ではないのか?」
摩耶は、武将の視線を受け止めて、呆れたように答えた。
「だから、今、ちょっと取り込んでるって言ってるでしょ? それにね、えーと、泰山府君さんでしたっけ? 貴方、別に客じゃないんだよねぇ? そのお耳の事で、ここに依頼に来た訳ではないだよな?」と摩耶が言えば、泰山府君という青年は不機嫌そうな表情を見せ、「貴様、先程から一体何の話をしているのだ? 耳だと? 耳がどうしたと言うのだ?」と、問うた。
その問いに思わずと言った感じで、近くに立っていた幇禍が、武彦を指し示しながら「つまり、貴方、あの阿呆面の、この興信所の経営者と同じ状態になってますよ?って事です」と告げる。
泰山府君は、「どういう意味だ?」と言いながら、幇禍の指先の方向へと視線を向け、そして固まった。
「な? なんだ、その姿は。 随分と巫山戯た格好ではないか? そんな風体で、興信所の主というのは勤まるものなのか?」
そう戸惑ったように呟きながら、それでも珍しさの余り、じっくりと武彦の姿を眺める泰山府君。
そんな泰山府君に、「あ、あの……」と、海原みなもが、黯傅を抱えながら声を掛けた。
「あの、まず、えーと、写真を撮らせて貰って良いですか?」と問い掛け、泰山府君が返事をしない内に、パチリとデジカメでその、不思議な姿を撮る。
その後、デジカメのプレビュー画面を見せながら「ほら、草間さんと同じようにネコ耳生えてますよ?」と、あっさり告げた。
画面に映る映像に凍り付く泰山府君。
武彦と同じ症状が見られる以上、多分、原因はまたたびジュースと鑑みて間違いないだろう。
語尾が「にゃ」に変じていないのは、飲料を飲んだばかりのせいなのか、それとも体質のせいか?
泰山府君は、最初のショックから何とか解放されたのだろう。
憤懣やるかたないといった様子で「うぬぅ! たばかられたわ! やはり、先程の、『またたびジュース』なるもの、妖しの飲み物であったのか!」と、歯軋りし、そして武彦を睨み据えると、「貴様も、アレを飲んだのか! なぜ、あのような妖しき飲み物を口にするのだ! 馬鹿か! 馬鹿なのだな!」と自分を棚に上げて責め立てる。
思わず「や、だって。 君も飲んだんだよね?」と鵺が突っ込めば、「我は喉が渇いていたんだ!」と、無茶苦茶な事を叫び返してきた。
「あー、だったら、しょうがない……の?」
と、泰山府君の自信満々な一言に、思わず納得し掛けてしまっている鵺。
(しょうがないのか?)思わず、そう金蝉ですら納得しかけていたが、幇禍は「や? でも、やっぱり、結構理不尽ですよ、この人」と冷静に呟き、泰山府君に物凄い視線で睨み据えられていた。
そんな呑気なやり取りの間にも、事態は進行していく。
唐突に、泰山府君の事を呆れたような視線で見上げていた摩耶が、武彦達の座っているソファーの後ろにある窓の外へツト視線を向け、そして飛び出すようにして駆け寄った。
「な? 何よ? どうしたの?」
という、エマの問い掛けを無視し、ガラリと窓を開け、素早く腕を窓の外へ突き出している。
「! っと、何やってんのよ? あんた」
驚いてそう問い掛ければ、摩耶はニッと笑って「今日の興信所は千客万来だね」と、エマと武彦に向かって言った。
「どういう意味だにゃ?」
と、問い掛ける武彦に、意味ありげに笑いかけ、勿体ぶるようにゆっくりと何かを持ち上げる摩耶の手の先には、金色の長い髪をした、真っ白なネコ耳の生えた子供がいる。
ビリビリと、異様に鋭い金蝉の勘が警鐘を鳴らした。
(んだぁ? あのガキ)
「放すにゃ! 放すにゃぁ!」
しっかりと襟首を捕まえられ、よっぽど軽いのだろう。
軽々と、細腕の摩耶に持ち上げられている姿は、本物の猫のようで、じたばたと暴れる姿も、何処か猫っぽい。
「あちしを、誰だと心得てるにゃ! そんな風に、持ち上げるとは、不届きにゃ!」
そう摩耶に喚いている、その子供の側に近寄って、みなもが優しい声で尋ねている。
「窓の外で、どうしてたのかな? 耳が生えてるって事は、あなたも、ジュースを飲んじゃったのね。 それで困ってここへ来たの?」
零も、怖がらせないように、微笑みながら、「可愛いお客さんなのかしら?」と首を傾げ、「兄さんだけでなく、他に二人もジュースを飲まされた人がいるなんて……、もしかしたら、もっと大きな事件へ発展するかも知れませんね」と呟きながらその子供を覗き込むが、摩耶は冷静な声音で、みなもと零の言葉を否定した。
「こいつ、見た目はこんなだけど、あなた達が考えてるような子供じゃないよ。 ふっつーの子供が、二階にある興信所の窓の外で、しっかも…」
半眼になりながら事務所内に居る人間を見回し「こぉんな、曲者揃いの人間達に気配も気づかれないで、部屋の中の様子窺えると思う?」と冷静に言えば、翼も頷きながら「確かに、もし困って此処に来たのなら、正面から普通に訪ねて来れば良い。 キミ誰だい?」と、問い掛ける。
吊り下げられたままの子供は、別段困った様子もなく「あちしは、ねこだーじえるくんなのにゃ!」と誇らしげに名乗る。
そして、小さな手をふるふると振り回すと「降ろすのにゃ! 降ろすのにゃ! にゃぁ、にゃぁ、にゃぁ!」と、身を捩らせた。
翼が、そんなねこだーじえるの様子にほだされたように「かわいー」と呟いている。
翼だけでなく、ねこだーじえるという子供を捕獲している摩耶も含む、その他人々も皆一様に和んだような表情を浮かべていた。
(は? 馬鹿じゃねぇのか?)
周りのそんな態度を全く理解出来ない冷血生物(武彦と翼が先日相談して、金蝉の枕詞に決定した)金蝉は、ぐっとねこだーじえるの顎をグッと掴むと金蝉は相変わらずの冷たい声で「で、テメェは、外で何してやがったんだ?」と、問い掛ける。

わぁ…、とみんながドン引きの視線で見てくる事も、関係なく、泰山府君からめぼしい情報が引き出せそうにない今、またたびジュース事件と無関係とは思われないねこだーじえるから、何らかの情報を得たいと思っているっていうか、正直とっとと蹴りを付けて、金蝉は帰りたかったのだ。
だが、そんな金蝉の決意を削ぐように、今度は武彦と泰山府君が同時に、「あーーーーーー!!」と叫び声をあげた。
お次は何だと、金蝉が武彦と泰山府君の視線の先に眼をやれば、そこには背丈ほどの長い黒髪を垂らし、大きな赤い瞳を持つ、ランドセルを背負った小さな女の子が立っている。
小柄で、髪の長い…という特徴が、武彦にジュースを配ったという女性に酷似はしているが、どう見ても小学生にしか見えない。
予想外の人数がいた事、そして一気に注目を集められた事のせいだろう。
少女は「え? ……え? えぇ?」と、怯えたように身を縮こまらせた。
そして、オズオズと「あの……これ…」と、小柄な体一杯に抱えた段ボール箱を差し出す。
「と…届けにき、ました」
か細い声でそう告げた少女の抱えていた段ボール。
そこにはレトリックされた文字で、「またたびジュース」と印刷してあり、猫のキャラクターが描いてある。
瞬間、泰山府君は「よくもぬけぬけと!」と唸り、武彦に至っては、「にゃぁぁぁぁ!」とよく分からない奇声をあげた。
どうも、二人にまたたびジュースを配ったのはこの子らしい。
ただ、それにしては、今や敵の巣窟ともいえる直接この興信所を訪ねてくるのが奇妙に感じられたし、その態度も訳の分からない事態に巻き込まれて戸惑う人間の表情そのものだった。
「小柄! 黒髪! あいつにゃぁぁ!」と、錯乱したように叫ぶ武彦に、何か知っているのか、エマが「ちょっ! 落ち着いて! 彼女は、違うわよ!」と止めようとするが、まさに猫のような身軽さで、ソファーから跳ね起き、一気に少女に飛びかかる。
片や泰山府君は、何処から取り出したのか、狭い事務所内で刃の部分が青龍刀になっている鉾を振りかざすと、唐突に少女に振り下ろそうとした。
「天誅!」そう叫びながらの、凶行に、「ひっ!」と喉の奥で悲鳴を上げるみなも。
しかし、泰山府君の鉾が少女を傷付けるよりも早く、翼が神剣を召還し、その斬撃を受け止める。
金属通しのぶつかり合う甲高い音が、興信所内に響いた。
「僕の目の前で、レィディへの乱暴は許さないよ? 例え、君自身が、美しい女性であろうともね」
と、白い歯を見せて笑う翼に、「女ぁ?」と金蝉は驚き、その他の人々にも「あれで、女かよ!」という純粋な驚きが走るが(そして、金蝉には「なんで、翼は、性別を判断できるんだよ」という別の驚きも)、そんな衝撃を受けている間にも、錯乱武彦は少女に「お前もこれを飲むにゃぁぁぁ!」と叫びながら段ボールをバリバリと破き、中に入っていたジュースを無理矢理ビンごと飲ませていた。
すると、今までみなもの胸の中で大人しかった黯傅が、ピョンと抜け出して、武彦の頭の上に乗り、そして思いっきり爪を立てたまま、その背中を滑り落ちた。
「っってぇぇぇ!」
そう叫んで、少女を放す武彦。
その隙に、逃げ出した蒲公英には、既にネコ耳が生えてしまっている。
事務所内にある、大きな机の下に小柄な体を更に縮めて、逃げるように潜り込んだ少女が、ガタガタと身を震わせ「ふっ…ふぇ…ふっふぇぇん」と泣き始めた。
そんな様子を痛ましげに眺め、キっと眉を吊り上げて腰に手を当てると、「武彦さん! あの子は、蒲公英ちゃんよ! ジュースを配っていた女性じゃないわ!」と、エマが叱り、翼も、泰山府君と剣を合わせたままながらも、「女性をしかも、子供を泣かせるだなんて、君の罪は万死に値するね!」と叫ぶ。


そして、ようやく、興信所に、この事件における最後の登場人物が姿を現し、この事件は新たな展開を見せる事になった。 


「おや? 立て込んでるみたいですが…大丈夫ですか?」
そう言いながら、柔和な笑みを浮かべ応接間の入り口に立っているのは、繊細な美貌が目を引くモーリスラジアルだった。
「今日は、珍しく、満員御礼じゃないですか」と、穏やかな口調で、ちょっとした冗談を口にするモーリスの隣りに立つ、背の小さな、黒髪の女性を見て、泰山府君は「貴様っ!」と叫びながら、やっと翼と合わせている剣を降ろし、武彦も呆然と、立ち尽くす。
どうやら、今度は本当に、またたびジュースを配っていた女性なのだろう。
優雅な足取りで、その女性の手を取りながら人の間を縫い、「お連れいたしました」と恭しく、告げるモーリスに、「え? ど、どうやっ…てにゃ?」と首を傾げた武彦。
「やはり、武彦さんの猫姿は美しくないですね」
と関係ない事を言いながら嘆かわしいといった様子で首を振り、モーリスはそれからツイと、泰山府君に視線を送って微笑み掛けた。
「貴女のように、素敵な女性の猫姿をお目に掛かかれたのは、眼福ですけどね」
笑ってウィンクを自然にするモーリスに、翼は「泰山府君さんのように美しい方を女性と見分けられないなんて、やはり、皆の方が見る目がないのだ」と確信を含める。
モーリスは滔々と、「こちらへ来る前に、試飲を薦められまして、身体的特徴も一致しますし、武彦さんにもジュースを薦めたのはこの方じゃないかな?と思いまして、お話を聞いてみたところ、そうだと言うので………」と、そこまで語り、頬を染めて自分を見上げている女性を見下ろし、笑う。
「…お連れしました」
「連れてこられましたんv」
女性は、身をくねらせて、そう答えた。
そして、アレ?という風に首を傾げると、相変わらず摩耶にぶら下げられたままのねこだーじえるに視線を向けて口を開く。
「ねこだーじえる様? そこで、何をしてるんですかにゃ?」
その瞬間、一瞬気を抜いてしまった摩耶からねこだーじえるが逃げだし、窓際に立った。
そしてビッと、女性を指差しながら、
「にゃにゃにゃ! もーう、怒ったにゃ! しかも、お前もにゃーんであっさり連れて来られてるにゃ! 最悪だにゃ! ほんっとーに、猫股は良い男に弱すぎだにゃ!」と喚く。
それから、
「こうなったら……にゃむにゃむにゃむ」
と、チョコンと両手を合わせて口の中で呪文を唱え始めると、「みぃぃんな、猫になるにゃぁぁ!」と、言いながら両手を広げクルンと廻った。
その瞬間ねこだーじえるの手から、キラキラと光る赤い粉振りまかれた。
「っ!」
金蝉は警戒し息を止め、粉を吸い込まないようにすれど、それ程長く息を止める事も出来ず、結局粉を吸い込む事になる。。
鼻の奥がむず痒くなり、「クシュン…」と一度くしゃみをした瞬間、ポンと軽い感触と共に、頭に何か違和感が生まれた。
「……死にたい」
自分の身に何が起こったのか如実に悟り、遠い目をしてそう呟きながら、手を伸ばせば、指先に、フサリとした感触を感じる。
指を這わせれば、ピコピコとした震えが伝わってきて、本気で発作的に命を断ちたくなった。
「にゃにゃにゃにゃ〜〜ん! またたびジュースの粉末バージョンにゃん! 吸い込んだ人間は皆、猫化するにゃ〜〜ん! みぃぃんな猫になれば良いにゃん!」とねこだーじえるが笑って言うと、ヒラリと身を翻り、窓下へと飛ぶ。
武彦が、金蝉の姿を眺めながら「なんか、ほんと、死んだ方が良いくらい似合わないな」と、自分の姿を馬鹿にされた事の意趣返しのように言ってきて、金蝉は、何事か言い返そうとすれど、では何と言えばいいのか。
「そんな事ねぇよ!」と言い返すのもおかしいし、さりとて「お前よりマシだ」というのもおかしい。
と、いうか、ネコ耳を生やしたいい年こいた男二人が向かい合って、罵り合っている事自体、なんというかどうしようもない光景なのだ。
そう考えると、絶望的な気分に陥り「うるせぇよ」と掠れた声で呟くだけに留まった。
そして、とっとと、何とかしたいと心から願い、「こんな姿で、生き恥晒すのはごめんだ。 行くぞ、翼」と、翼の肩を叩き、走り出す。
翼も、頷きながら「あの子の行き先ならば、風が知っている。 追おう」と頷き、興信所から走り出た。


興信所を出て、暫く行った人通りの少ない道路で翼が金蝉を呼び止めてきた。
「金蝉! まず、風に話を聞く。 少し待ってくれないか?」
そう言われ、今の間抜けな姿が人目に付かぬよう木陰に立ちながら煙草を銜える
翼が目を閉じ、金蝉には分からぬ言葉で何事かを唱え始めた。


「どうも……面倒な事になってるみたいだな」
風に話を聞き終えた翼が、そう眉を顰めて言うので「今だって充分面倒なんだ。 今更、少々面倒が重なろうがどうでもいい。 話せ」と金蝉は話を促す。
翼は、「どうも、別の場所で、ちょっとばかり不味い事になってるみたいだ。 ねこだーじえるの事はみなもさん達に任せて、そっちに向かった方が良いかも知れない」と、答えた。
「どういう事だ?」
と、怪訝な表情で問いを重ねれば、翼は考え考えしている様子で口を開く。
「試飲をね、始めようとしているらしいんだ」
「試飲?」
意味が分からず、思わず平淡な声での問い掛けになる金蝉。
翼はコクンと頷き、言葉を次ぐ。
「『またたびジュース』の試飲キャンペーンの準備を、数人の女の子達が向こうの裏路地の方で進めているらしい」
「あぁ? モーリスが連れてきた女が試飲させていたんじゃねぇのか?」
訝しげな幇禍の問い掛けに、翼は頷きながらも「ただ…ね」と言葉を続けた。
「ただ、そもそも、今回の『猫化騒ぎ』は、あの『またたびジュース』を手軽にネコ耳や尻尾を生やせる商品として猫股族が売り出すために開発したそうなんだ」
「それも風に聞いたのか?」
「ああ。 風の吹かない場所というのは、殆どないし、彼らはかなりの情報通なんだ。 この話は、まず、間違いないと思う」
と、確信に満ちた声で言う翼。
「それでね? あの、ねこだーじえるって子は、何故か、猫達の中では絶対の権力を持つ存在らしいんだ。 それで、今回、『またたびジュース』の効能を商売相手になる人間相手に試す為に、こういうキャンペーンをうったんだけど、ただ、その飲ませる相手は、例え猫化しても、すぐに、警察に飛び込んだりせず、こういう怪奇な事件に慣れている、それでいて、ねこだーじえるが、見物していていて愉しめる人間なんかに限定していたみたいだな」
確かに、正体の知れない力を感じはしたが、それにしたってあのクソガキが?
そう疑問を感じる金蝉。
「そういうのは、全部、あのガキが見分けたっていうのか?」
「ああ。 どうも、そういう能力とかぜーんぶ含めて、正体不明な存在らしい。 風達にも、あの子の事はよく分からないみたいだ。 だが、猫股達のなかには、そのようなまだるっこしい事をしなくても、人間達の事なんか知った事ではないのだから、みんなに試飲させて、もっと幅広く実験すれば良いんだという奴らもいたらしいい。 それで、今、キャンペーンを行ってる女の子達じゃ、そういう派閥に属してる子達のようで、とうとう痺れ切らして勝手に、人々に試飲させようとし始めてるみたいなんだ」
そして、翼は険しい表情になると「やはり、こっちの方へ行くべきだ金蝉」と言う。
「もし、耐性のない人達が、いきなりこのような怪異に襲われたらきっと、途方もないパニックになる」
金蝉は「別に、どうでも良いけどな」と心からそう言いながらも、街が、こんな風にネコ耳を生やした人間で溢れかえるかと思うと頭が痛くなったので、「じゃ、行くか」と告げる。
しかし翼は、金蝉の腕を引くと、ニッと子供っぽい笑いを見せて「それで、金蝉。 少し頼みたい事があるんだが…」と言った。
頼み?
うざってぇもんじゃねぇだろうなぁ?と思いながらも「なんだよ」と問えば「ニコリ」と笑いかけると、「僕を運んでくれないか」と告げて、猫の姿に変化した。
目の前で起こった出来事が、俄には信じがたく、金蝉は黙って瞠目する。
真っ白な毛並みに、サファイアのような目を輝かせた、すらっとした美しい猫が足下にいた。
「……翼…か?」と、問えば猫は、コクンと頷いた後、「ニャー」と鳴いて、トンと金蝉の体を駆け上がり、その肩に体を落ち着けてくる。
軽く、柔らかな体の感触が、金蝉の頬を掠めた。
「さぁ、出発」と言うつもりなのだろう、「ニャン」と鳴いた。
金蝉は、そんな翼に自分もこんな姿でいる位なら、いっその事猫になりたいと願い「オイ、それは、他人の姿も変える事は出来ねぇのか?」問うてみるが、翼はにべもなくフルフルと首を振る。
(使えねぇ…)
口に出せば引っ掻かれるだろうから、胸中でそう呻いてガクリと項垂れたると金蝉は、「てめぇ、逃げやがって…」と恨めしげに呟き、翼を肩に乗せたまま、教えられたキャンペーン準備を行っているという路地へ向かった。



金蝉達が路地裏で、最初に見た光景。
それは、何の考えもなく、配られているまたたびジュースを飲み干している鵺と、幇禍の姿だった。
「……あほだな」
思わずそう呟く金蝉。
「や、何で、飲むんだよ。 その場面で」と嘆く。
案の定二人は、まんまと完全な猫に変化させられていた。
銀色の子猫と、黒の毛並みに銀メッシュが入っているシャム猫が呆然と2匹で佇んでいる。
金蝉は本気の本気で、「なぁ。 全部放って置いて、帰らねぇか」と提案するが、翼は慌ててブルブルと首を振った。
では次の提案という事で「じゃあ、面倒だからあの女共、一人残らず締め上げて、こっから追い返すか」と物騒な台詞を吐き、懐に手を伸ばし掛けば、頬を引っ掻れ、ギランと猫の目で睨み据えられる。
そして翼はクルンと宙返りをしながら、金蝉の肩から降り、中途半端な猫化している姿に戻ると「良い? 僕が、説得するから金蝉は後の処理、頼むよ?」とだけ言って、鵺と幇禍へと近付いていった。


「あ、あの、またたびジュースの試飲を行っております」
と、声を掛けてくる女性を無視し、鵺と幇禍を見下ろしながら翼が呆れた声で言う。
「何で君達はそんなに考えなしなんだ」
2匹の猫が、ポカンと翼を見上げていた。
翼は、両手を伸ばして片手ずつに、2匹を抱き抱える。
「またたびジュースの粉で猫化が始まっている所に、ジュースを飲んだんだ。 一気に猫化するなんて事、すぐ想像できるだろ?」と、疲れたような顔で言う翼に「にゃにゃにゃ」と何事か訴えている、鵺猫。
金蝉はその光景の馬鹿らしさに脱力した声で、「んな奴らほっといて彼奴らシメんぞ」と言えば、翼はそんな自分を諫めるように、「言っただろ? とにかく僕に任せて」と言いながらこちらを窺っている女達に声を掛けた。

翼の周りの空気が変わった。
言葉に力を込めているのだろう。
「君達が、行っている事は、人の都合を考えない、大変勝手な行動だ」
独特の声音、独特のリズムで、翼が女達に告げる。
「あのねこだーじえるという子が取った方法も、傍迷惑極まりないが、人物の選別を慎重に行っていたという点においては情状酌量の余地がある。 しかし、君達の無差別に、そんな物を人に飲ませようとする行動は頂けない。 頂けないよ」
翼が、女達に顔を近付け、唄うような声で命令した。


「さぁ、そんな飲み物はもう仕舞って、帰るんだ。 そして二度と、こんな事をしようとしないように」

魅了が成功したらしい。
夢を見るような目つきになって女達は頷くと、大人しく設置してあるテーブルなどを片付け始める。
翼は、ほっと胸を撫で下ろし、金蝉に向かって「じゃ、また、運んでくれよ?」と言ってきた。



そして、何故か、金蝉は三匹の猫を抱えて歩く事になった。

猫おじさんか、俺は…(猫に異様に好かれ、いつも猫を集団で連れ歩いていたりするおじさんの事。 どの地域にも必ず一人はいる。 ……いますよね?)と項垂れつつ、何故、気にくわない幇禍や鵺まで運ばねばならないのかと、遠い目をする。
人々の視線が痛い。
てういうか、視線よりも、今の状況の心が痛い。
金蝉は、「置いてけよ」なんて心から言ったのに、うるさく幇禍と鵺に鳴きつかれ、翼には悟されて、あれよあれよという間に三匹の猫の運搬係を任せられていた。
人でも殺しそうな目つきを見せながら、ネコ耳をはやし、猫を三匹連れて歩いている。

最早意味が分からないっていうか、正直、ここんとこ、こういうどうしようもない事態にみまわれ過ぎな気がする。
沸々と、そんな事を考えていた金蝉の耳に、鵺と翼が「シャー!」「フギャー!」と争いあっている猫同士の奇声が聞こえてきて、反射的に冷たい声で「テメェら、それ以上ぎゃーぎゃー喚いたら、川に流すからな」と本気の声で告げていた。
金蝉の様子に流石の二匹も、ピタっと鳴くのを止めて、大人しくなる。

いっつもこうであれば良いのに、なんて、金蝉は夢みたいな事を考えた。


事務所ではモーリスが、みなもや、摩耶を元の姿に戻している真っ最中だった。
興信所の奥では、摩耶と泰山府君に捕まえられたねこだーじえるがこってりと叱られている。
「何だか盛り上がっているトコに水を差すのが悪いなぁと思って、能力の事言い出せませんでした」なんて笑い「申し遅れましたが、了承さえ賜れば、私の思う通りに人の姿を変える事が出来ます。 あなた方の事も、すぐ元の姿に戻してあげますよ」とあっさり告げた。
その瞬間、金蝉は脱力の余り、目の前が暗くなり「モーリスが、もっと早くに来て、その能力を行使してくれていたら、この話もっと早く終わったのでは?」と、全ての登場人物且つライターすら感じずにはいられないツッコミを内心で入れつつ、更に気分が悪くなる。

金蝉はこうなったら、翼の埋め合わせとやらで憂さを晴らさせて貰おうと心に決めつつ、出来るだけ早くモーリスに元の姿に戻して貰わねばと考えた。







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■   登場人物   ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

受注順に掲載させて頂きました。
【2411/鬼丸・鵺/13歳/中学生】
【3342/魏・幇禍/27歳/家庭教師 殺し屋】
【1252/海原みなも/13歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3317/斎・黯傅/334歳/お守り役の猫】
【2863/蒼王・翼/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【2916/桜塚・金蝉/21歳/陰陽師】
【1979/葛生・摩耶/20歳/泡姫】
【3415/泰山府君・― /999歳/退魔宝刀守護神】
【1992/弓槻・蒲公英 /7歳/小学生】
【2309/夏野影踏 /22歳/栄養士】
【2640/山口・さな /32歳/ベーシストsana】
【2318/モーリス・ラジアル /527歳/ガードナー・医師・調和師】
【2740/ねこだーじえる・くん /999歳/猫神(ねこ?)】



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■         ライター通信          ■
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