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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


猫になる日。



オープニング


朝起きたら、義兄の耳がネコ耳に変化していた。


零は、今まで様々な奇妙な現象を目の当たりにしてきたせいでもあるのだろう。
大して動揺せぬまま、しかし30男のネコ耳姿という、嗚呼、神様。 もし、見なくて済むのならば、積極的に見ないまま人生を終えたかったのですなんていう、光景を目の当たりにし、とりあえず、この事態はどういう事なのか問い質して見るべきかと、強引に自分を納得させる。
何か、別に良いかなぁ…なんて、投げやりな感情に支配されつつも、「その、耳…、どうしました?」と、零が問い掛けてみれば、「耳が、どうしたんだニャ?」と武彦が答えてきた。


森へ、帰りたい。


別段森生まれでも何でもない零は、ガクリと、床に膝付きながら、何故かそんな郷愁に襲われる。


語尾にニャて、おいおい。
許されるキャラすっごい限定される口調やん。
ていうか、義兄がニャて、ニャて……うあー。

もう、項垂れるしかないという気分になりながらも、零は静かに立ち上がり、そして、「もし、わざとであるのならば、本日限りで、ここをお暇せねばならなくなるので、是非とも他に原因がある事を祈るばかりなのですが……兄さん。 ネコ耳生えてますよ?」と、告げる。
人生において、人に、それも兄に「ネコ耳生えてますよ?」という台詞を吐く機会に恵まれるなんて、私はなんと不幸な人間であろうか…、と自分の境遇を嘆く零に対し、武彦は目を見開き、それから、「プッ」と吹き出すと「なぁに、言ってんだかニャ」と言いながら、自分の耳に手を伸ばし、そして硬直した。
「……なぁぁぁっぁぁぁっぁぁああああああ?! ニャ」
事務所に武彦の絶叫が響き渡った。



「ええぇぇぇ? 誰も、求めてニャイだろ、これ? ええ? 何で、猫ニャ? どういうニーズニャ? ていうか、えーー?」
混乱しきったまま、自分の耳を触りつつ、そう呻く武彦に、零はあくまで冷静に言葉を掛ける。
「まぁ、誰かが求めてどうのこうのって訳じゃないでしょうが……、兄さん、何か心当たりとかありますか? 変な物を拾い食べしたとか」
「そんな、今時、子供でもしないような馬鹿な事しねぇニャ」と、抗議しつつも、「心あた…り?」と首を傾げ、そして、ポンと手を打った。
「そういや、昨日、街頭で、試飲サービスをやっていて、『またたびジュース』とかいう変な飲み物を飲んだ記憶があるニャ。 新製品とか言っていたけど、随分と人通りの少ない道でやっていたので、不思議に思ったニャ」
武彦の言葉に、どうして、そういう怪しげなものを呑んじゃうかなぁ…と呆れつつも、零は「多分それですね。 そういう仕組みかは分かりませんが、その飲み物のせいで、猫化したと考えるのが自然でしょう。 そのジュースを薦めてきた人間の容貌を覚えてますか?」と、聞いた。
武彦は、目を細め、考え込むような素振りを見せた後、「……女だったニャ。 うん。 真っ黒な髪した、何か背の小せぇ、ちんまい感じの……」と、答える。
「その人が、無差別にジュースを配っているとしたら、今頃はもっと騒ぎになっているでしょうから……」
「俺を狙っての、犯行…かニャ」
そう言いながら、武彦は自分の頬をつるりと撫でて、そして、「ひあ!」と素っ頓狂に叫んだ。
「ひ……髭ニャ! うあ! 尻尾も!」
動揺して、そう喚く武彦の鼻の側の頬から、確かに三本の髭がぴょんと生え、そして尾てい骨の辺りから、ズボンの外へ細長い尻尾が飛び出してくる。
さっき迄は、存在しなかったネコ特有の特徴に、武彦はネコ化が進んでいるという事実を悟り、戦慄した。
「ね、ネコになってるニャ! ネコになってるニャーーー!」
武彦が、動転し、ソファーから転げ落ちる姿を眺め、零も流石に、「もしこのまま、兄さんが猫になってしまったら?」という焦りのようなものを覚え、そして、とにかく誰かに助けを求めようと心に決めたのであった。



本編


猫化している武彦を思う存分からかうべく、さなはワクワクしながら興信所の前を訪れていた。
ポケットには、此処へ来る迄の道中でむしった雑草のねこじゃらしが入っている。
さなの頭の中では、殆どネコとなっている武彦が、無心になってねこじゃらしに飛びついている姿が思い浮かんで、それだけでも踊り出したくなる位楽しみだった。

興信所の前に辿り着き、「こーんちわー! 武彦で遊びに来たよー!」と言いながらドアノブに手を掛ける。
だが、扉を少し開けた隙間から漏れ聞こえてきた、「サイテーだね。 冗談にしたって笑えないよ」という尖った声に、思わずノブを握る手を離す。
ガチャンと、自然の法則に従って閉まるドア。
(なに? 喧嘩? 喧嘩になってんの?)
喧嘩になってる場所に一人で入っていくのは不安だし……そう思いながら、そっと耳ドアに耳を当てるさな。
そうやって、全神経をドアの向こうに集中していたものだから、
「あの…」
と、唐突に背後から声を掛けられた瞬間、さなは体全体が跳ね上がるほど驚いた。
ゆっくりと振り返ると、若く背の高い男性が首を傾げながら「あの、sanaさんですよね?」と、問うてくる。
(この人は誰だろう?)
そう思い、「えーと、興信所の人?」と、聞けば、男はコクリと頷いた。
「あの、何やってんすか?」
男の質問に「う? あのね、僕、武彦が猫になったっていうものだから、見物に来たんだけど、なんかね、中の雰囲気が、何だかおかしいものだから、ここで少し様子を伺ってるんだよね」と、答える。
「中の様子が、おかしいって?」
そう聞かれ、説明しようとして面倒臭くなり「ま、聞いてたら分かるから」なんていって、自分は再び扉に耳を当てた。
訝しそうな顔を見せながら、男も大人しく、扉に耳を寄せる。

ボソボソと、不明瞭な声が聞こえてきてはいるが、話の内容までは、分からない。
(聞こえないなぁ)
そう思い、「聞こえないねぇ」と男に同意を求めようとした時だった。
いきなり部屋の中から「テメェら、さっきの事と良い、今とイイ、調子ノリ過ぎてんじゃねぇか?」とドスの効いた声が聞こえてくる。
そのドスの効きかたは、何というかホンモノの迫力があって、さなは自分の全身が硬直するのを感じた。

(ヤクザ? 喧嘩って……ヤクザの喧嘩?)

咄嗟に、そう思えば、男も、同じ想像に行き当たったのか、凍り付いた表情で此方を見下ろしてくる。
「ど……どうする?」
そう聞かれたので、「もう…ちょっと、中の様子を伺ってみる事を僕は提案するね」と、呟き返しておいた。
それにしたって、先程から男から、少し変わった匂いがする。
クンクンとさなは鼻を鳴らすと不思議そうに、男の事を見上げた。
「キミ、なんか変わった匂いがするね?」
そう問い掛けたら、男は「エイ」と胸を張り「またたびの粉をね、擦り込んできたんです。 体中に」と答える。
「またたびの粉? なんで?」と、不思議に思いに問い返すさな。。
ニィと笑って男は人指し指をピンと立てると滔々と、並べ立てた。。
「猫は、またたびに弱いだろ? 猫化してる、武彦さんも、またたびに弱いと思うんだよね。 だからね? こうやって、全身からまたたびの匂いがすれば、自然武彦さんは、俺にごろにゃんvってなる訳だ」
「……ごろにゃんvってなったら嬉しいの?」
「うん。 で、その様子を、ビデオに撮って、姉貴に高く売りつける訳」
「売れるの? ビデオ」
「売れるよ」
よく分からない。
なんで、ネコの武彦と仲良くしている所を撮影したら、その映像が高く売れるのだろう?
うーんと考え込むさなを見下ろして、何事かを思い付いたのか、男がポンと手を叩く。
「で、モノは相談なんだけど…」
「ん?」
「カメラマン、お願い出来ない?」
そう言いながら、デジカメを取り出す男。
銀色のコンパクトなボディーに、さなの目が輝いた。
「わ! これ、僕が今、買おうかどうか、悩んでる奴だ!」
と、小声ながらも興奮したように言えば、「撮影係りやってくれたら、あとで、何でも奢ってあげるから」と笑いかけてくる。
「何でも?」
「はい」
「デニーズの、パフェと、ポテトと、ケーキセットと、ハンバーグを頼んでも良い?」
「ていうか、芸能人の割にって感じだけど、了解! 奢るから」
「んじゃ、やる」
そう言ってデジカメを受け取るさな。
「うあー、カッコイー」と言いながら、その小さな銀色のボディをかえすがえす眺める。
「これってさ、動画も撮れる奴だよね?」
「うん。 ていうか、動画で撮って。 撮って欲しい時に呼ぶから」
そこまで、影踏が言った時だった。


パンパンパン!と手を打ち鳴らす音が聞こえ、次いで、エマの声で「デッドorアライブなのね! そういう事でしょ? 分かった! 了解した! うん! 格好良かった! 二人とも、格好良い! シュライン判定的には、あんた達二人とも同じ位格好良かった! 故に、引き分け! Vシネの二大スタァ豪華共演! 後は、アレね、どっちが哀川翔かを、ガチンコで取り合えばいい!」と聞こえてきた。



(え? えぇ? 哀川翔争奪戦だったの?)



何故、それが、此処で?っていうか、ヤクザ同士が睨み合って取り合ってる姿を思い浮かべると少し笑えるが、本当に行われてるとはとても思えない。
耳を澄まし続けると、今度は「貴女は、翼ちゃんと、岩下志摩を取り合えば良い」なんて言葉も聞こえてきて「え? 今度は極妻?」と更に驚く。
武彦が猫化しただけで、充分可笑しいのに、どうして此処ばっかり、そんなイベントがあるんだろう?なんて、感じているのさなの耳に、戸惑ったような口調の、澄んだ、美しい声が聞こえてきた。
「あの……、な、何をなさっているんですか?」
その声に男が、唇に指を立てて「シィー!」と言いながら振り返る。
そして、そこに立つセーラー服姿の美少女海原みなもの姿を見留め、少し目を見開いた。「あれ? みなもさんも、呼ばれたんですか?」
男の問いに、何が何だか分かってなさそうに目をパチパチさせるみなも。
さながそんなみなもに「零ちゃんが、電話して来たんだ。 助けて欲しいってね。 何だかね、武彦がね、猫になるんだよ」と、自分が此処に来た経緯を語る。
「は? え? 猫って、あの、にゃあっていう猫ですか?」
みなもが、目をパチパチさせたまま問うてきたので、
「うん。 にゃあにゃあの猫だね」
さなは、「にゃあ」の部分を楽しい気分になりながら言い、、「でね…」と言葉を続ける。
「僕は、武彦の為に、わざわざ猫じゃらしを手に入れてまで遊びに来たっていうのに、この中ではヤクザが二人、デッドorアライブで哀川翔を取り合って大喧嘩していて、エマがそんな二人を止めようとして、岩下志摩も決めようとしてるんだ」
さな的には、かなり明快に説明できたつもりでいるのだが、みなもは、困惑したような表情を浮かべ、救いを求めるような視線を男に送る。
だが、男も「俺的には、竹内力の方が格好良いと思うんだけど…」なんて、ずれた事を言って、真面目なみなもは「えーと、じゃあ、整理すると武彦さんは猫で、ヤクザの二人は哀川翔さんのファンで、エマさんは岩下志摩オーディションを今日ここで、開催しようとしているっていう事なんですか?」と言い、それからじっと黙り込んだ。

こんな説明で、中の様子を全て理解出来たら、まさに名探偵だ。
そいつが、興信所の主をやればいい。

「でも、エマが頑張ったおかげで、ヤクザ達もしょんぼりさんになってるみたいだからね、僕達はお邪魔する事にしようか」
そろそろ外で、中の様子を窺っている事に飽き、そうさなが言えば、男も「そうだな。 此処にいても埒があかないし」と頷いて、「じゃ、お先に」なんてみなもに言い、二人は揃って興信所へと入った。


興信所内では、エマが金髪のえらい美形の青年と同じく金色の髪をした美麗な顔立ちをした少年どちらにも視線を向けて「ね? 喧嘩なんかせずにさ、武彦さんの事、助けてあげるの、お願いだからみんなで協力してくれないかな?」と言っていた。
(ありゃ? 哀川翔争奪戦は? そして、岩下志摩オーディションは?)
そう思いながら見渡せど、そんな訳の分からないイベントが開催されている気配は、勿論微塵もない。
エマの言葉に金髪の青年は心からどうでも良さそう且つ、つまらなそうに視線を明後日の方向に向けたが、美少年の方は典雅な笑みを浮かべ「貴女みたいに美しいレィディに頼まれて、断る人間なんていやしませんよ?」と答えている。
さなは、その少年の言葉に呼応して、何も考えないままに、まるで、子供のように元気で朗らかに、エマの頭上からさなが声を掛けた。
「そうだ! その通り! そんな人間いたら僕が蹴り飛ばしてやる!」
「あら? 山口さん?」
驚いて勢い良く振り返るエマに、ピカッとした笑顔を向ける、さな。
その隣で、男が人懐っこい笑みを浮かべて、「どうも」と頭を下げる。
男の名をなかなか名前が思い出せないのだろう。
トントンと指先でこめかみを叩くエマ。
そんなエマを、苦笑して眺め、影踏は「影踏です! 夏野影踏!」と快活に名乗り、それからソファーに座っている武彦に視線を走らせた。

一瞬、武彦が身を強張らせる。

(そうか、夏野影踏っていうのか)
と、やっと名前を知ることが出来た、さな。
影踏の視線に怯える武彦に、何でこの子面白いのに怖がってるんだろ?と、不思議に思った。
しかし、その回答は即効で、目の前で繰り広げられる。。
にぃぃぃっと何とも言えない形に唇を裂き、影踏は「草間さぁぁぁんv」と叫びながら一目散に武彦に走り寄っていく。
一瞬にして応接間に飛び込んだ影踏は、覆い被さるようにしてにして武彦の体を抱き締めると「めっちゃ可愛いいいーー!」と絶叫していた。
「フミャーーー!! うあ! やめるにゃ! この変態! あほう! 」
怒鳴り散らしながら身をくねらせる武彦をガッチリと締め上げ、「もう、ほんと、可愛いっ! マジ可愛い! 尻尾も可愛いっ!」と、感激する影踏に、思わずさなは「ずるい! 僕にも、武彦君で遊ばせてよ!」と喚く。
影踏は、ペットショップ辺りで手に入れてきたらしい、ねこじゃらしで武彦の頬をくすぐり、「ほらほらほらぁ」と悪魔の笑みを浮かべていた。 武彦は冷や汗のようなものを流しながら、その攻撃に耐えている。
「じゃれついても良いんですよー? ばっちりデジカメ(動画も撮れるよ☆)に収めてあげますからねv」
なんて言いながら、今度は、「うひひ」と妙な笑いを漏らして、「持参アイテムその2! マタタビの木ぃ〜〜!」と似てないドラえもんの物真似をしつつ、今度はマタタビの乾木を翳す。
「じ・つ・は! もう、ばっちりマタタビの粉は体中に擦り込んであるんですよv と、いう事で、ヘイ! キャメラマンカモン!」
そう呼ばれたのでデニーズでの豪遊の為、「アイアイサー☆」と一声叫び、取り敢えず、ピョンと飛んで参上つかまつるさな。
影踏からデジカメを受け取り、動画を撮り始める。
カメラを構え、武彦と影踏が仲良くしている(影踏から一方的に)姿を撮りながら、さなはやはり(なーんで、この映像が高く売れるのかな?)と疑問を深めた。
にわか、撮影会が興信所で敢行されるなか、マタタビの威力なのだろう。
ゴロゴロと喉を鳴らし、眼を熱っぽく潤ませながらも、理性と欲求の熾烈な争いを繰り広げる武彦に、影踏が「ちょっとずつ、眼がトローンとなっちゃってますよー? さぁ! 武彦さん、この胸に甘えるが良いですっ!」と両手を広げて叫んだ瞬間、
「なぁぁに、しとんねぇぇぇん!!」
の、大音声を上げながら、エマが、ヒールの一番尖った部分をあえて、そうあえて影踏にhitさせたのだ。
武彦の頭を自分の引き寄せるようにして胸に抱え込み、「シャー!」と蛇のような威嚇音をエマが発すると、「誰の許可を得て、武彦さんにいかがわしい事しようとしてんのよ、この野郎!」 と、凄んでくる。
その迫力と先程の痛みが二乗しているのだろう、涙目になりながら、影踏が震える声で叫んだ。
「だって! 可愛いじゃないですか!」
その叫びに同調して「あ! 僕もネコ耳は可愛いと思うぞ!」と、さなは手を挙げるが、その両者に対し、
「馬鹿ぁぁぁ! 武彦さんを可愛いと思うのは、私だけの権利なのよーーーー!」
と、何の独占欲かよく分からない事を思いっきり叫び、エマが武彦を抱える腕に力を込める。
うっかり、首のイイトコに入って、その武彦が窒息しかけている事などおかまいなしである。
(うあー。 武彦のー、顔色がー、土気色にー)
その姿も、うっかりデジカメに収めつつ、ぼんやりと武彦が死に近付いていく様を眺めるさな。
勿論、助けてやろうという気は全く無い。
遠くの方で銀色の髪をした美少女と、スーツ姿で眼帯をした端正な顔立ちの青年が二人で声を合わせて「「ていうか、可愛いと思ってたんだ」」とヒいたような声で呟くのさえ、エマは聞き逃さず、「可愛いわよ!」と怒鳴り返していた。
さなは、ハタと気付けば、事務所内の人口密度が更に上がっている事に気付き、びっくりする。
それは、エマも同じ心境らしい。
「れ……零ちゃん? で? 何人の人が来るって言ってくれてたのかな?」
と、完全に傍観者していた零に問い掛ければ、彼女はニコリと笑って、「えーと…、エマさん含め10人の方が、お越し下さる予定だったのですが、有り難い事に、連絡が取れた方以外も来て下さってるみたいです」と答えた。
狭い事務所内は、二桁に突入する程の人数が入れば、もう、満員状態である。
新たに増えた人々を含め、どうも自己紹介をお互いにしているようだ。
聞くともなしに聞いていれば、金髪の青年は金蝉、美少年に見えたがどうも声を聞く限りでは少女らしい金髪の子は翼、銀髪の美少女は鵺、眼帯スーツの青年は幇禍、新たに現れている妖艶な女性は摩耶、そしてみなもがいつの間にか抱えている黒い猫は黯傅というらしい。
滅多にお目に掛かれないような美形揃いの状況を、一応記念に(影踏のデジカメでだが)撮っておく。
そんなさなを余所に遠い目をしながら、「武彦さん。 今年こそ改装しましょうね?」と、呟き、漸く腕の中の武彦の体がグッタリと力が抜けきっている事に気付くエマ。
「た! 武彦さん?! っ! 誰がこんな酷い事を!」
そう焦って叫ぶので、「や…、思いっきり、エマさんが締め落としてたよね? 見事に」と、影踏が呟き、コクンとさなも頷きながら「一本勝ちだね。 一本勝ち」と会話した。そんな二人を、もとい影踏をギロリと睨み据え、エマは「元はと言えば、あんたが悪いんでしょうが」と吐き捨てる。
「デジカメまで用意して、大体、自分と武彦さんじゃれあってんの撮って、何に使うのよ…」と、そこまで問うて、影踏がニタっと笑い「それはね、具体的に言うと、まず夜の…」と、ウキウキした声で使用方法を語り出すのを耳にした瞬間、エマは「あ。 ごめんなさい。 聞きたくないです。 むしろ、聞かさないで下さい」と両耳を塞ぎ、首を振った。さなは、二人の会話についていけないまま、キョトンとしてしまう。
(夜の? 夜の、何?)
そして、(よく、分からなーい)と、ぶーたれつつ、デジカメを抱えてフラフラと美形集団が集っている側へと近寄った。
幇禍という青年が、細長い奇麗な指を顎に当てて何事か考えている。
その様子が、雑誌に載っていそうな位格好良いなぁと感じたさなは、さしたる思惑もないままにパシャリと一枚その姿をデジカメに収めた。
「っ! ……何遊んでるんですか?」
驚いたように、左目を見開き、それから、首を傾げて聞いてくる。
「んー? 僕もね、新しいデジカメ欲しいなぁ〜?って、考えてて、んで、夏野君の持ってるデジカメがちょっと前、電気屋さんでいいなぁ〜って、思ってたヤツだもんで、性能をね、試してんの」
そう言いながら、勝手に、他の面々の事も撮り始めるさな。
「あー。 俺も、デジカメは通販で見掛けて良いなぁって思ってたんですけど…」
「でも、こういうものは、通販よりも直に見た方がいいよ?」
そう言いながら、「ホイ」とさなは他人の物であるにも関わらず、気軽に幇禍にデジカメを渡す。
幇禍は、コンパクトな銀色のデジカメを物珍しそうに眺めながら、適当なボタンを幾つ顔していた。
すると、何処か変なボタンを押したのだろう。
デジカメのプレビュー画面に、影踏が今まで撮ってきた次々に映像が映し出される。


(そこに映るカメラ映像や、動画の数々の詳細は描写した瞬間に、「18禁描写禁止」の規則に引っ掛かる為に、お書きできません。 なので、眺めているさな・幇禍両名の音声のみでお楽しみ下さい)


「え? え? なんで、これ、どちらも男の人ですよね?」
「うあ! 変態! 夏野君、変態ってか、わぁ! 何してんのこれ! ぎにゃーー!」
「草間相手にじゃれついてた時点で、おかしいと思ってたんですけど……って、ぐあ! ダメ、これは、夢に出る! うあ! 怖い! 怖いよぅ! 助けて、お嬢さん!」
「ひぃぃ! ス、スイマセンでした! うっかり、見てしまってスイマセンでした!ってか、もう、アレです! 生まれてきてゴメンナサイでも良いから許してっていうか、うあーーん! おかぁーーーさーーん!」
「ど、どう、やったら、コレ止まるんです? どうやったら? と、いうよりも、もう、神様、許して下さい。 この通りです。 これから、いい子になりますから! こ、これは、何の罰なんですか!」


と、まぁ、こんな風に、開けてはいけないパンドラBOXをうっかり開けてしまった二人が、大騒ぎしている時だった。

「この興信所の主はご在宅かな?」

事務所の入り口で、古めかしい言葉遣いをしたハスキーな声が響いた。
「ゲ…、客かにゃ?」
と、身構える武彦。
今や、興信所内は万国博覧会よりも珍しい存在達の集まりになっている。
その上、肝心の主人が猫化の一途を辿っている訳であって、もし、奇跡的にまともな依頼が来たとしても、仕事を受けられる状態ではない。
入り口近くで煙草をふかしていた摩耶がヒラヒラと手を挙げて「私、出るわ」と言った。
エマは、摩耶の事をよっぽど信用しているのだろう。
安堵するような表情になりながら、両手を合わせて「お願い。 客だったら、適当に誤魔化して」と頼む。
「了解」と、短く答えると、摩耶は応接間と入り口を仕切る衝立の向こうへと消えた。
「此程までに、客でなければ良いと願った事は、未だかってないにゃ」と悲しげに呟く武彦。
うんうんと、頷いている影踏に、早く、この核兵器にも匹敵する最終武器(とかいて、リーサルウェポンと呼ぶ)を返却せねばと、さなが震える手で「あ、あ、あの、これ…」とデジカメを差し出す。
ガタガタと震える様子を見て、「どうしたの?」と聞いてくるので「い、い、いや、その、ちょっと、この最新機器は、僕の手では、あの、扱いきれないかな?とかって思って…」とか何とか言いながら、影踏の手にカメラを押し付け後ずさりする。
そんなさなを屈託のない様子で、「じゃ、帰り、デニーズ行きます?」と誘ってくるも、音がしそうな勢いで首を振り、「か、勘弁して下さい! ていうか、もう、僕の負けで良いです!」とか何とか意味の分からない事を言うさな。
「ほんと、キミ最強っていうか、多分、今、この興信所内で、一番強い武器持ってんのは、アナタなんで、ええ」
そう目を泳がせ震える声で言い、影踏が何事かを言おうとしてだろう口を開いた。

その瞬間、「ちょっ! あなた、勝手に!」と、誰かを制止しようとする摩耶の声と共に、ズカズカと武将が入室してきた。

そう、もう一度言うが武将である。

正直、現在の興信所内も、派手な外見を有する者や、人語を解する猫、特殊な能力を持ち、特殊な見た目をしている人間でひしめいている為、さなも「武将ねぇ…」と一瞬納得しかけたのだが、やはり、どう頑張っても奇怪な者は奇怪にしか見えない。
武将て…、武将って……なんで?と、首を傾げど、武将だからしょうがない。
そして、何よりも最も奇怪だったのは、その武将にネコ耳が生えていた事だった。
額に、宝玉が埋め込まれている、中国風のシンプルな甲冑を身に纏った、凛々しい青年が興信所内にいる人間を見回しながら、最終的には摩耶に視線を据えて中性的なハスキーボイスで言い放った。
「ここの主は、どこかと聞いているだけだろう? 大体、興信所というものは、誰にでも門戸を開かれている場所ではないのか?」
摩耶は、武将の視線を受け止めて、呆れたように答える。
「だから、今、ちょっと取り込んでるって言ってるでしょ? それにね、えーと、泰山府君さんでしたっけ? 貴方、別に客じゃないんだよねぇ? そのお耳の事で、ここに依頼に来た訳ではないだよな?」と摩耶が言えば、泰山府君は不機嫌そうな表情を見せ、「貴様、先程から一体何の話をしているのだ? 耳だと? 耳がどうしたと言うのだ?」と、問うた。
その問いに思わずと言った感じで、近くに立っていた幇禍が、武彦を指し示しながら「つまり、貴方、あの阿呆面の、この興信所の経営者と同じ状態になってますよ?って事です」と告げる。
泰山府君は、「どういう意味だ?」と言いながら、幇禍の指先の方向へと視線を向け、そして固まった。
「な? なんだ、その姿は。 随分と巫山戯た格好ではないか? そんな風体で、興信所の主というのは勤まるものなのか?」
そう戸惑ったように呟きながら、それでも珍しいのか、じっくりと武彦の姿を眺める泰山府君。
そんな泰山府君に、「あ、あの……」と、みなもが、黯傅を抱えながら声を掛けた。
「あの、まず、えーと、写真を撮らせて貰って良いですか?」と問い掛け、泰山府君が返事をしない内に、パチリとデジカメでその、不思議な姿を撮る。
その後、デジカメのプレビュー画面を見せながら「ほら、草間さんと同じようにネコ耳生えてますよ?」と、あっさり告げた。
画面に映る映像に凍り付く泰山府君。
武彦と同じ症状が見られる以上、多分、原因は武彦も飲んだというまたたびジュースと鑑みて間違いないだろう。
語尾が「にゃ」に変じていないのは、飲料を飲んだばかりのせいなのか、それとも体質のせいか?
(この人の、語尾が『にゃ』だったら、めっちゃ可愛かっただろうな)なんて影踏の妄想には勿論気付かず、最初のショックから解放され憤懣やるかたないといった様子の泰山府君は「うぬぅ! たばかられたわ! やはり、先程の、『またたびジュース』なるもの、妖しの飲み物であったのか!」と、歯軋りし、そして武彦を睨み据えると、「貴様も、アレを飲んだのか! なぜ、あのような妖しき飲み物を口にするのだ! 馬鹿か! 馬鹿なのだな!」と自分を棚に上げて責め立てる。
「や、だって。 君も飲んだんだよね?」と鵺に突っ込まれて、「我は喉が渇いていたんだ!」と、無茶苦茶な事を叫んでいる泰山府君。
「あー、だったら、しょうがない……の?」
と、泰山府君の自信満々な一言に、思わず納得し掛けてしまっている鵺。
(うーん、しょうがないのかなぁ)
と、さなも納得し掛けたが、幇禍は「や? でも、やっぱり、結構理不尽ですよ、この人」と鵺に言って、泰山府君に物凄い視線で睨み据えられていた。
そんな呑気なやり取りの間にも、事態は進行していく。
唐突に、泰山府君の事を呆れたような視線で見上げていた摩耶が、武彦達の座っているソファーの後ろにある窓の外へツト視線を向け、そして飛び出すようにして駆け寄った。
「な? 何よ? どうしたの?」
という、エマの問い掛けを無視し、ガラリと窓を開け、素早く腕を窓の外へ突き出している。
「! っと、何やってんのよ? あんた」
驚いてエマがそう問い掛ければ、摩耶はニッと笑って「今日の興信所は千客万来だね」と、武彦に向かって言った。
「どういう意味だにゃ?」
と、問い掛ける武彦に、意味ありげに笑いかけ、勿体ぶるようにゆっくりと何かを持ち上げる摩耶の手の先には、金色の長い髪をした、真っ白なネコ耳の生えた子供がいた。
(っ! かっ! 可愛いっ!)
余りの可愛さに衝撃すら受ける、影踏。
「放すにゃ! 放すにゃぁ!」
しっかりと襟首を捕まえられ、よっぽど軽いのだろう。
軽々と、細腕の摩耶に持ち上げられている姿は、本物の猫のようで、じたばたと暴れる姿も、何処か愛らしい。
(うあーv ネコ耳かあいいなぁv いいな、いいなぁ…)
そう心が浮き立つさな。
「あちしを、誰だと心得てるにゃ! そんな風に、持ち上げるとは、不届きにゃ!」
そう摩耶に喚いている、その子供の側に近寄って、みなもが優しい声で尋ねる。
「窓の外で、どうしてたのかな? 耳が生えてるって事は、あなたも、ジュースを飲んじゃったのね。 それで困ってここへ来たの?」
零も、怖がらせないように、微笑みながら、「可愛いお客さんなのかしら?」と首を傾げ、「兄さんだけでなく、他に二人もジュースを飲まされた人がいるなんて……、もしかしたら、もっと大きな事件へ発展するかも知れませんね」と呟きながらその子供を覗き込むが、摩耶は冷静な声音で、みなもと零の言葉を否定した。
「こいつ、見た目はこんなだけど、あなた達が考えてるような子供じゃないよ。 ふっつーの子供が、二階にある興信所の窓の外で、しっかも…」
半眼になりながら事務所内に居る人間を見回し「こぉんな、曲者揃いの人間達に気配も気づかれないで、部屋の中の様子窺えると思う?」と冷静に言えば、翼も頷きながら「確かに、もし困って此処に来たのなら、正面から普通に訪ねて来れば良い。 キミ誰だい?」と、問い掛けた。
吊り下げられたままの子供は、別段困った様子もなく「あちしは、ねこだーじえるくんなのにゃ!」と誇らしげに名乗る。
そして、小さな手をふるふると振り回すと「降ろすのにゃ! 降ろすのにゃ! にゃぁ、にゃぁ、にゃぁ!」と、身を捩らせた。
(ね、ねこじゃらしで遊びたい…)
ねこだーじえるのそんな様子に、さなはポケットの中の、ねこじゃらしに手を伸ばし掛ける。
皆は一様にほんわかとした表情を浮かべてねこだーじえるを眺めていた。
しかし、そんな状況に全く頓着しないまま、ぐっとねこだーじえるの顎をグッと掴むと金蝉は冷たい声で「で、テメェは、外で何してやがったんだ?」と、問い掛ける。

ひぃぃぃ! 怖い!

金蝉の血も涙もない姿に心からさなが怯えた時、お次は泰山府君と武彦が声を揃えて、「あーーーーーー!!」と叫び声をあげた。
今度は何だと、エマが武彦と泰山府君の視線の先に眼をやれば、そこには背丈ほどの長い黒髪を垂らし、大きな赤い瞳を持つ、ランドセルを背負った小さな女の子が立っている。小柄で、髪の長い…という特徴が、武彦にジュースを配ったという女性に酷似はしているが、どう見ても小学生にしか見えない。
予想外の人数がいた事、そして一気に注目を集められた事のせいだろう。
少女は「え? ……え? えぇ?」と、怯えたように身を縮こまらせた。
そして、オズオズと「あの……これ…」と、小柄な体一杯に抱えた段ボール箱を差し出す。「と…届けにき、ました」
か細い声でそう告げた少女の抱えていた段ボール。
そこにはレトリックされた文字で、「またたびジュース」と印刷してあり、猫のキャラクターが描いてあった。
瞬間、泰山府君は「よくもぬけぬけと!」と唸り、武彦に至っては、「にゃぁぁぁぁ!」とよく分からない奇声をあげる。
どうも、二人にまたたびジュースを配ったのはこの子らしい。
ただ、それにしては、今や敵の巣窟ともいえる直接この興信所を訪ねてくるのが奇妙に感じられたし、その態度も訳の分からない事態に巻き込まれて戸惑う人間の表情そのものだった。
「小柄! 黒髪! あいつにゃぁぁ!」と、錯乱したように叫ぶ武彦に、何か知っているのか、エマが「ちょっ! 落ち着いて! 彼女は、違うわよ!」と止めようとするが、まさに猫のような身軽さで、ソファーから跳ね起き、一気に少女に飛びかかる。
片や泰山府君は、何処から取り出したのか、狭い事務所内で刃の部分が青龍刀になっている鉾を振りかざすと、唐突に少女に振り下ろそうとした。
「天誅!」そう叫びながらの、凶行に、「えぇ?!」と驚きの声をあげるさな。
しかし、泰山府君の鉾が少女を傷付けるよりも早く、翼が何処から取り出したのか、美しい剣を翳してその斬撃を受け止める。
金属通しのぶつかり合う甲高い音が、興信所内に響いた。
「僕の目の前で、レィディへの乱暴は許さないよ? 例え、君自身が、美しい女性であろうともね」
と、白い歯を見せて笑う翼に、「嘘ぉ? 女の人ぉ?」とさなは目を見開き、その他の人々にも「あれで、女かよ!」という純粋な驚きが走るが(そして、金蝉には「なんで、翼は、性別を判断できるんだよ」という別の驚きも)、そんな衝撃を受けている間にも、錯乱武彦は少女に「お前もこれを飲むにゃぁぁぁ!」と叫びながら段ボールをバリバリと破き、中に入っていたジュースを無理矢理ビンごと飲ませている。
すると、今までみなもの胸の中で大人しかった黯傅が、ピョンと抜け出して、武彦の頭の上に乗り、そして思いっきり爪を立てたまま、その背中を滑り落ちた。
「っってぇぇぇ!」
そう叫んで、少女を放す武彦。
その隙に、逃げ出した少女には、既にネコ耳が生えてしまっている。
事務所内にある、大きな机の下に小柄な体を更に縮めて、逃げるように潜り込んだ少女が、ガタガタと身を震わせ「ふっ…ふぇ…ふっふぇぇん」と泣き始めた。
そんな様子を痛ましげに眺め、キっと眉を吊り上げて腰に手を当てると、「武彦さん! あの子は、蒲公英ちゃんよ! ジュースを配っていた女性じゃないわ!」と、エマが叱り、翼も、泰山府君と剣を合わせたままながらも、「女性をしかも、子供を泣かせるだなんて、君の罪は万死に値するね!」と叫ぶ。


そして、ようやく、興信所に、この事件における最後の登場人物が姿を現し、この事件は新たな展開を見せる事になった。
 

「おや? 立て込んでるみたいですが…大丈夫ですか?」
そう言いながら、柔和な笑みを浮かべ応接間の入り口に繊細な佇まいをした美青年が立っていた。
「今日は、珍しく、満員御礼じゃないですか」と、穏やかな口調で、ちょっとした冗談を口にする青年の隣りに立つ、背の小さな、黒髪の女性を見て、泰山府君は「貴様っ!」と叫びながら、やっと翼と合わせている剣を降ろし、武彦も呆然と、立ち尽くす。
どうやら、今度は本当に、またたびジュースを配っていた女性なのだろう。
優雅な足取りで、その女性の手を取りながら人の間を縫い、「お連れいたしました」と恭しく告げる青年に、「え? ど、どうやっ…てにゃ?」と首を傾げた武彦。
「やはり、武彦さんの猫姿は美しくないですね」
と関係ない事を言いながら嘆かわしいといった様子で首を振り、(さなは、でも、ネコ耳可愛いよ? と、心中で否定し)青年はそれからツイと、泰山府君に視線を送って微笑み掛けた。
「貴女のように、素敵な女性の猫姿をお目に掛かかれたのは、眼福ですけどね」
笑ってウィンクを自然にする青年に、翼除く皆が「だから、何故一発で性別を見分けられるのか? その能力を持っている人間の共通項は、ウィンクが自然に決められるという事なのか?」と疑問を深めるものの、「こちらへ来る前に、試飲を薦められまして、身体的特徴も一致しますし、武彦さんにもジュースを薦めたのはこの方じゃないかな?と思いまして、お話を聞いてみたところ、そうだと言うので………」頬を染めて自分を見上げている女性を見下ろし、笑う。
「…お連れしました」
「連れてこられましたんv」
女性は、身をくねらせて、そう答えた。
そして、アレ?という風に首を傾げると、相変わらず摩耶にぶら下げられたままのねこだーじえるに視線を向けて口を開く。
「ねこだーじえる様? そこで、何をしてるんですかにゃ?」
その瞬間、一瞬気を抜いてしまった摩耶からねこだーじえるが逃げだし、窓際に立った。
そしてビッと、女性を指差しながら、
「にゃにゃにゃ! もーう、怒ったにゃ! しかも、お前もにゃーんであっさり連れて来られてるにゃ! 最悪だにゃ! ほんっとーに、猫股は良い男に弱すぎだにゃ!」と喚く。
それから、
「こうなったら……にゃむにゃむにゃむ」
と、チョコンと両手を合わせて口の中で呪文を唱え始めると、「みぃぃんな、猫になるにゃぁぁ!」と、言いながら両手を広げクルンと廻った。
その瞬間ねこだーじえるの手から、キラキラと光る赤い粉振りまかれる。
何事が起こっているのか理解出来ぬまま、その粉を無防備に吸い込んださなは、「クシュン…」と一度くしゃみをした瞬間、ポンと軽い感触と共に、頭に何か違和感が生まれた事に気付いた。
「うわv うわ、うわv もしかして…」と、ワクワクしながら手を伸ばせば、指先に、フサリとした感触を感じる。
指を這わせれば、ピコピコとした震えが伝わってきた。
「にゃにゃにゃにゃ〜〜ん! またたびジュースの粉末バージョンにゃん! 吸い込んだ人間は皆、猫化するにゃ〜〜ん! みぃぃんな猫になれば良いにゃん!」とねこだーじえるが笑って言うと、ヒラリと身を翻し、窓下へと飛ぶ。
「っ!」
と、息を呑みながら摩耶が窓に走り寄り、窓下を覗き込んだ後、「後、追うよ!」と言いながら興信所を飛び出した。
その後ろを、「あ! 私も、行きますっ!」と手を挙げたみなもと、それからみなもの肩に乗ったまま黒猫の黯傅が追い掛ける。
間もなく、摩耶の愛車ヤマハTMAXの爆音が響き、ねこだーしぇるを追っているのだろう。
あっという間に、その音が遠くなる。
「こんな姿で、生き恥晒すのはごめんだ。 行くぞ、翼」と、翼の肩を叩き、ネコ耳姿を武彦にからかわれていた金蝉も、走り出す。
翼も心境は金蝉と同じなのだろう、「あの子の行き先ならば、風が知っている。 追おう」と頷き、興信所から飛び出していった。
そんな様子を眺め、泰山府君が、蒲公英が潜んでいる机に向かって「間違いであった。 怖がらせてしまった非礼をお詫びする」とだけ呟き、一礼するとクルリと踵を返し、興信所から出る。
(およよ? 何処行くんだろ?)
そう疑問に思い、そんな泰山府君の後ろ姿に、さなは声を掛けた。
「え? 帰っちゃうの?」
すると泰山府君は「まさか!」と肩を怒らせて答え、物凄い形相で言い放つ。
「かくなる上は、あの子供。 我の手によって捕獲せしめ、この姿を元に戻させる。 己の始末は、己でというしな」
(へぇ、けっこー、格好良いこと言うじゃん)
そう感じ、泰山府君の事を少し気に入ったさなは、テテテテという音がしそうな走り方をしながら、泰山府君へと走り寄ると、「じゃ、一緒に行こう! なーんか、楽しそうだしね!」と笑いかけた。
その臆面のないものの言いに驚いたのだろう。
目を見張り、「了解したが、足手まといになるようならしらん」とだけ彼女は答えると、さなと泰山府君はは連れだって興信所を出る。

興信所の外で、キョロキョロと辺りを見回している泰山府君に、さなはずっと気になっていたことを聞いた。
「ねーねー、泰山府君って本名?」
「本名というか、なんというか……、まぁ、複雑ではあるのだが、今の所、その名しか他人に名乗ってはいない」と、憮然と答えてくるので、さなはにっこり笑って「僕はね、山口さな。 宜しく」と自己紹介し、「多分、あそこに逃げ込んだんじゃないかな?」と予想した場所へと、ぴょんぴょんと先に立って歩き始める。
「貴様、あのねこだーじえるとやらの行き先を知っておるのか?」
慌てたように聞かれ、「んー。 想像なんだけどね、ここからそう離れてない場所に公園があるんだよね」と言って、それからクルンと振り返って笑った。
「ねぇ、泰山府君はさ、猫の集会って知ってる?」
唐突な問い掛けに、首を振る泰山府君。
さなは、笑ったまま「あのね、猫って、猫同士で夜中に集会をやるんだよ」と言い、少し前の記憶を探る。
「まさか……? 本当か?」
泰山府君が信じがたいという風に、眉を顰めた。
「うん。 僕、見たんだよねぇ。 レコーディングの帰り道でさ、たまには歩いて帰ろうって思って、深夜だったんだけど、テクテク歩いてたらね…見たんだよ」と、さなは最後の方を、まるで怪談の様に声を潜めて、言葉を続ける。
「猫の集会をさ」
泰山府君は、フンフンと頷きながら、真剣な面もちで続きを促してきた。
「で? どのような様子なのだ、その猫の集会というのは…」
その夜の光景を思いだし、ふにゃんとさなは表情を夢見るように緩ませると「満月の下でね、たっっくさんの猫たちがにゃぁ、にゃぁお話ししてて、まるでお伽噺の光景みたいだったよ」と答える。
泰山府君は、暫くは、同じように夢見る表情を見せていたが、ハッと今自分がすべき事を思い出したのだろう。
「で、それが、あのねこだーじえると、どういう関係があるのだ?」と厳しい声を出してくる。
おー、怖い、怖いと思いつつ、さなは、泰山府君を見上げ「チッチッチッ」と舌を鳴らして指を振ると、「考えてみなよ。 あのねこだーじえるって子はさ、猫股族とかいう女の子よりも地位が上だったわけだよね」と言う。
泰山府君は「確かに、『様』付けで呼ばれておったしな」と頷けば、「だからね、ねこだーじえるって子は、ネコ耳、猫尻尾なんて格好からも見て分かるとお、猫と関わりの深い、そして猫たちから敬われている存在な訳だ。 で、バイクで追われている徒歩のねこだーじえるが、ここら辺で咄嗟に逃げ込む場所を考えたとき、やっぱり内部の事をよく知ってる場所に逃げ込みたいって考えるよね」
「では…?」
「うん。 今、僕達が向かってるのはね、僕が猫の集会を見掛けた公園だよ。 あの興信所へ徒歩で、ねこだーじえるが来ていた事を考えても、彼がここら辺の住人、もしくはここら辺に良く来ている子だって確信出来るし、公園の集会なんかと無関係だったとは考えられない。 自然、咄嗟に逃げ込む場所も、その公園になるんじゃないかな」
そこまで、言い「じゃ、ちょっと急ぐ?」と笑えば(なかなか、やるものだ)と感心したように泰山府君は頷く。
ちょっと可愛いかもとか、さなは考えながら二人で一路公園へと向かった。


その公園は、都内にあるにしてはかなり広く、人工の小さな森まで配置してあった。
公園の入り口に、確か興信所の前で見掛けたバイクがある。
摩耶達が出ていったあと、バイクの音が聞こえた事からも、これは摩耶の愛車と見て間違いないだろう。
つまり、ねこだーじえるが逃げた直後に追っていった、摩耶達が此処に来ているという事になり、彼がこの公園に逃げ込んだ確率は確信に近い部分まで跳ね上がったと見て良いだろう。
「よし。 では、手分けして探す。 我は、西の方から中央へと向かって探す。 お主は、東の方を頼む」
そう言って、ダッと駆け出す泰山府君。
「りょうかーーい!」という、ワクワクする気持ちを隠せないまま、さなは泰山府君の背中に声を掛けた

「ふんふふーん♪」と、今度「imp」で出す、新曲の鼻歌を唄いながら、道を歩く。
色んな場所を見回り、ゴミ箱すら覗き込みながらも、さなの頭の中は「ネコになったら、どーなるのか?」という好奇心に満ちた疑問で一杯だった。
公園西のエリアを隈無く探し、噴水のある広場につく。
そこは、木々が生い茂っており、噴水の側には一本の大木が生えていた。
「そうだ! 良いこと考えた!」
そう一人で叫び、大木にヨジヨジと登るさな。
いつもより体が軽い。
(ネコになりかけているからかな?)
なんて、若く見えても三十路に突入しているさな。
こんなに身軽にいれるなら、暫くこのままでもいいや、ネコ耳可愛いし。
なんて、呑気な事を考える。
大木の、一際太い枝に腰掛けると、さなは公園全体を見渡してみた。
(高いトコから全体を見たら見つかるかもだし)
そう思いつつ、目を凝らす。
だが、それも続かず、さなはそのまま、涼しい風に吹かれ、ウトウトしかける。
それから数分ほど経過した頃だろうか、「もう、観念しなさい!」という、みなもの声が木の真下から聞こえ、びくっと体を震わせてさなは意識を取り戻す。
見下ろせば、噴水の前で、みなもが手を広げて立っており、そのみなもの前には、ねこだーじえるが、別の場所へ逃げようと方向を転換しかけていた。
(うあ! 何か、展開が進んでいるよ?!)と焦るさな。
何とか、ねこだーじえるの足を止めようと、木から降りかけるさなを止めるように、「逃がすものか!」という声と共に、晴天の空から一条の雷撃がねこだーじえるの目の前に落ちる。

「貴様、我にこのような生き恥を晒させた罪、重いと思え。 膾に切り刻んでくれる!」
そう言いながら、現れたのは泰山府君である。
そのタイミングの良さに「かぁっくいい! まるで、戦隊物のブラックのような良いトコ取りっぷりだな!」と、小さく手を叩くさな。
噴水広場の入り口からは、走り寄ってくる摩耶の姿も見えた。
「ね? ねこだーしぇる君。 お願いだから、私達が元の姿になる方法を教えて下さい。 このまま猫になっちゃったら、私達本当に困るの」
みなもがそう訴え、摩耶も頷きながら「教えてくれたら、痛い目なんかには合わせはしないからさ」と言って、ゆっくりとねこだーしぇるの側へ二人が寄っていく。
しかし、ねこだーしぇるは首を振ると、「にゃにゃにゃ! 人類猫化計画の為にも、ここで捕まるわけにはいかないのだ!」と意味の分からない事を叫び、そして再び「にゃむにゃむにゃむ」と何事か呟くと「今度は、完全に猫になるがいいにゃ!」と叫びながら、クルリと回った。
再び、赤い粉が、ねこだーしぇるの手から散布されるのを見て、(あ! まただ!)と、身を乗り出すさな。
突然、みなもが噴水に走り寄り、その中に手を入れると、突如水の膜が、三人の前に現れる。
みなもの持っているという、触れている水を自由に操れるという能力なのだろう。
赤い粉は、水を通り抜けて、その奥に守られている存在まで到達する事は出来ない。
しかし、自分だけでなく、他人の防御まで請け負ったみなもの精神力の疲労は激しいらしく、また、赤い粉が待っている間は摩耶も泰山府君も、みなもの作った水の壁の前からは容易に動けなかった。
みなもの顔色がどんどん悪くなっている。
(くそ! このままじゃ!)
その時、さなは、頭が空っぽになるのを感じた。
僕が、あの子達を助けるんだ!
燃え上がるような興奮を感じつつスクリと立ち上がる。
心の命じるままに、さなは大声で天を仰いで叫んだ。
「じゃじゃじゃじゃーーーん! ヒーロー見参!」
そして「トゥ!」と、昔見た戦隊ヒーローの勇姿を思い浮かべながら、中に飛ぶ。


シェアフォーチュン発動。


さなの思惑では、シュタっと見事に地面に降り立ち、驚いているねこだーじえるを抑え込むつもりだったのに……。


バッシャーーーン!


と派手な水飛沫をあげながら、噴水の中に沈むさな。
何故か、体がえらく小さくなっており、足が噴水のそこに着かずにおぶおぶと溺れてしまう。
しかも、水の感覚が、まとわりつくようにさなの足を引き、その感触が余計さなを苦しませる。
(何? 何なの?! 何なんだよ?!)
怖い。
水が、滅茶苦茶怖い。
確か、泳ぎはそんなに不得意じゃなかった筈なのに、どうしてこんなに体が重いの?


どんどん水の底に体が引き込まれていく。
何とか、前へ、前へと手を掻いて、噴水の縁に手を掛けると縋り付くようにして、さなは這い上がる。
大きく息を吐き、ブルブルブルっと身を震わせ、その瞬間自分がネコに変化している事に気付く。
落下中にまたたびジュースの粉を吸い込んでしまったらしい。
よろよろと疲れた体を引きずって歩く。
フト視線を上げれば、そこには信じられない光景が広がっていた。


摩耶が、ねこだーじえるの体を抱き締め、そして泰山府君に切り裂かれている。


(何で?!)
悲鳴を上げるように心中で叫び、ヘタンと地面に座り込んだ。
(どうして? どうして、こんな悲しい事が…)
みなもが、喉も裂けよとばかりに悲鳴をあげ、顔を覆っている。
どうすれば良いのか分からず、身を寄せ合おうと「にゃー」と言いながら、みなもの足に体を擦り寄せた。
目を閉じ、じっとみなもの体温を感じ続けるさな。
そんなさなの耳に「残念だわ。 あなたの刃は私の肌を傷付けられない」と告げる、摩耶の凛とした声が聞こえてきた。
驚き、パッと顔を上げれば、そこには傷一つなく、ねこだーじえるを背後に庇って立つ、摩耶の姿がある。
強い視線を泰山府君に据え、それでも薄く笑っている姿は、息を呑むほどに美しい。
「と、いっても、内蔵への衝撃までは防げないから、強く突かれたり、さっきの雷みたいなの喰らったら一発だろうけどね」
そして摩耶は泰山府君に勢い良く頭を下げた。
「あなたは、凄く強い人だってよく分かる。 多分、その気になれば私ごと、後ろの子も殺せるね。 でも、お願い。 今回の事で、あなたが凄く不快な気分になったのは分かるけど、許してあげて。 この子と、この子を庇ってしまう私を」
顔をあげ、満面の笑みを浮かべて摩耶は言う。
「これは命乞い。 あなたが望むなら、土下座だってしてあげる。 自分の身を守る為だもの、足だって舐められる」
さなは、こんなに誇り高い命乞いを見た事がなくて、その見事さに息を呑んだ。
摩耶の言葉に答えず泰山府君は、呆然としたままの表情を、安堵の表情に変え、それから掠れた声で「馬鹿者が」と呻く。
「怪我はないか?」
「大丈夫よ。 そういう体質なの」
「だが、痛かったろう」
「アハハ。 平気だって」
「………本当に馬鹿者だ。 我は無益な殺生は好まない。 先程の攻撃とて、寸止めて、脅すだけのつもりであったのに……貴様は…」
そう言いながら、ふうと、溜息を付くと、泰山府君は摩耶に対して一礼した。
「見事である。 感服した」
そして、ねこだーじえるに声を掛ける。
「さて、もう良いだろう? 教えてくれ。 我らが、元の姿に戻る方法を」



ねこだーじえるがというよりも、試飲イベント行っていた猫股族の面々が企んでいた事。
それは、ただ純粋に、あのまたたびジュースを気軽にネコ耳や尻尾が生やせるジュースとして商品化する事だったらしい。
確かに、こういった手合いのものを大っぴらに売り出す事は無理だとしても、それ相応のルートに乗せれば、かなりのヒット商品になるだろうとは考えられる。
ねこだーじえるは、猫達にとっては多大な権力を持つ存在らしく、猫股達にこのジュースを人間に効力があるのか試験したいのだがどうすれば良いだろう?と相談され、この試飲キャンペーンのアイデアを出したらしい。
ただ、あんな危ないジュース無差別に試飲させれば大騒ぎになる。
と、いう事で、ねこだーじえる曰くの「ぴっかぴかの慧眼」で、「またたびジュースを飲んで猫化が始まっても」すぐに警察に飛び込んだり、絶望の余り自傷行為に走ったりしない、それでいてねこだーじえるが見物して面白い人物に限定し、ジュースを飲ませていたそうだ。
で、まんまと、その餌食に泰山府君と武彦が選ばれたという事なのだろう。


ま、そんな事情は、もう、こうなったらどうでも良い。
肝心の元の姿に戻る方法が大事なのだ。

猫になってしまったさなを抱えてくれながら、ねこだーじえるに「で? どうすれば元に戻れるんだ」と、問う摩耶。
しかし、ねこだーじえるは「あー! 蝶々にゃ」とか「水に濡れて気持ち悪いのにゃ」とか「またたびジュースはすこぶる美味なのにゃ」とか、話を逸らしてばかりで一向に質問に答えてくれない。
額に青筋を立て始めた泰山府君が「いい加減にせんと、今度は本気で刻むぞ?」と脅せど、ねこだーじえるは何処吹く風。
自分の顔を猫の仕草で、手で擦り「あちし、何だか眠たくなってきたにゃ」と呟く。
戻ってきた黯傅を抱えたまま、そのやり取りを眺めていたみなもは、ある最悪の可能性を口にした。
「あの……もしかして、だけど、元に戻る方法が無いって事、ないですよ…ね?」
すると、ねこだーじえるの耳がピクンと反応し、ニパッと笑いながらこちらを見る。
さなも、その愛らしい笑顔につられて笑みを返しながら、安堵した。
(まさか、そんな訳ないかぁ…)
すると、ねこだーじえるは笑顔のままで頷いた。
「凄いにゃ! 正解だにゃ!」
その瞬間、みなもを含む、その場にいた全ての者達の視界が一瞬暗くなった。

 
「殺す! 殺し尽くす! もう、許さん! 成敗してくれる!」
「あー、うん、なんか、それで良いかもーって思えてきた」
「えーーーー?! そんな、駄目ですよ! く、黯傅さん! 何とかして下さい!」
「……なぁぅ」
「さ、さなさんもです!」
「んにゃ?」
「わーーーん、頼りにならないよーー!」
「あちしを殺すと、猫たちの祟りがすんごいにゃよーー?」
「ほら、祟りですよ! 摩耶さん、泰山府君さん祟りですって! きっと、毎日玄関にフンとかされちゃいますよ!」
「や、いいよ、掃除するし」
「今は、こやつの息の根を止める以外の何も望みはない」
「えええ?! ちょっ! 誰か!っていうか、ねこだーじえる君、とりあえず逃げて!」


と、いう騒々しいやり取りを経て、とりあえず興信所へ戻ったねこだーじえる含む面々は、そこで待っていたあっさりイベントのキャンペーンガールを連れてきていた青年の言葉でこれ以上ないほどの脱力を味わう事になる。


「何だか盛り上がっているトコに水を差すのが悪いなぁと思って、能力の事言い出せませんでした」なんてかるーく笑い、「申し遅れましたがモーリス・ラジアルと言います。 了承さえ賜れば、私の思う通りに人の姿を変える事が出来ます。 あなた方の事も、すぐ元の姿に戻してあげますよ」とあっさり告げた。
その瞬間、「えーと、じゃあ、本当はもっと早くにこの話って終わってた筈って事ですか?」と、さなは登場人物はおろか、ライターすら抱えていたツッコミを心中で呟いた。


さて、それからさなはどうなったかというと、しっかりとシェアフォーチュンの代償を払わねばならなくなった。
あの、噴水にさなが飛び込んだお陰で、水を被ったねこだーじえるが動揺し、ねこまたの粉も水を被って地に落ち、あの場は救われたという事実を知らないさなにとっては、はなはだ不本意な代償ではあったが、ネコになって溺れたさいの恐怖体験が祟って暫く、水恐怖症になったのである。

夏本番を控え、海にもプールにも遊びに行けなくなったさなは、唯々落ち込むしかなかった。




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■  登場人物  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

受注順に掲載させて頂きました。
【2411/鬼丸・鵺/13歳/中学生】
【3342/魏・幇禍/27歳/家庭教師 殺し屋】
【1252/海原みなも/13歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3317/斎・黯傅/334歳/お守り役の猫】
【2863/蒼王・翼/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【2916/桜塚・金蝉/21歳/陰陽師】
【1979/葛生・摩耶/20歳/泡姫】
【3415/泰山府君・― /999歳/退魔宝刀守護神】
【1992/弓槻・蒲公英 /7歳/小学生】
【2309/夏野影踏 /22歳/栄養士】
【2640/山口・さな /32歳/ベーシストsana】
【2318/モーリス・ラジアル /527歳/ガードナー・医師・調和師】
【2740/ねこだーじえる・くん /999歳/猫神(ねこ?)】



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■         ライター通信          ■
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まず! 遅れてスイマセンでした!(平身低頭) 初めましての方も、そうでない方もヘタレでほんま、すいません! ライターのmomiziです。 今回、二回目の受注窓オープン。 前回の如く、緩やかに参加表明がなされるであろうと予想していた私を裏切って、14名参加っていうか、喜びと共に正直キョドってしまいました。 あえて、ウェブゲームの醍醐味を追求すべく、同じ物語で、それぞれの視点で書いてみた「猫になる日」。 やぁ、無謀でした。(遠い目) えーと、書いている間に、三度ほど、三途の川を見たのですが、渡らなかった私に、私が乾杯。 一人一人が、別々の感情で動き、見えている真実も違っていたりするので、色々読み比べて下さると、また別のお話の姿が見えたりするように書きました。 他の話にもお目通し下さると、ライター冥利に尽きます。  また、ご縁が御座いますこと、願っております。