コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


猫になる日。



オープニング


朝起きたら、義兄の耳がネコ耳に変化していた。


零は、今まで様々な奇妙な現象を目の当たりにしてきたせいでもあるのだろう。
大して動揺せぬまま、しかし30男のネコ耳姿という、嗚呼、神様。 もし、見なくて済むのならば、積極的に見ないまま人生を終えたかったのですなんていう、光景を目の当たりにし、とりあえず、この事態はどういう事なのか問い質して見るべきかと、強引に自分を納得させる。
何か、別に良いかなぁ…なんて、投げやりな感情に支配されつつも、「その、耳…、どうしました?」と、零が問い掛けてみれば、「耳が、どうしたんだニャ?」と武彦が答えてきた。


森へ、帰りたい。


別段森生まれでも何でもない零は、ガクリと、床に膝付きながら、何故かそんな郷愁に襲われる。


語尾にニャて、おいおい。
許されるキャラすっごい限定される口調やん。
ていうか、義兄がニャて、ニャて……うあー。

もう、項垂れるしかないという気分になりながらも、零は静かに立ち上がり、そして、「もし、わざとであるのならば、本日限りで、ここをお暇せねばならなくなるので、是非とも他に原因がある事を祈るばかりなのですが……兄さん。 ネコ耳生えてますよ?」と、告げる。
人生において、人に、それも兄に「ネコ耳生えてますよ?」という台詞を吐く機会に恵まれるなんて、私はなんと不幸な人間であろうか…、と自分の境遇を嘆く零に対し、武彦は目を見開き、それから、「プッ」と吹き出すと「なぁに、言ってんだかニャ」と言いながら、自分の耳に手を伸ばし、そして硬直した。
「……なぁぁぁっぁぁぁっぁぁああああああ?! ニャ」
事務所に武彦の絶叫が響き渡った。



「ええぇぇぇ? 誰も、求めてニャイだろ、これ? ええ? 何で、猫ニャ? どういうニーズニャ? ていうか、えーー?」
混乱しきったまま、自分の耳を触りつつ、そう呻く武彦に、零はあくまで冷静に言葉を掛ける。
「まぁ、誰かが求めてどうのこうのって訳じゃないでしょうが……、兄さん、何か心当たりとかありますか? 変な物を拾い食べしたとか」
「そんな、今時、子供でもしないような馬鹿な事しねぇニャ」と、抗議しつつも、「心あた…り?」と首を傾げ、そして、ポンと手を打った。
「そういや、昨日、街頭で、試飲サービスをやっていて、『またたびジュース』とかいう変な飲み物を飲んだ記憶があるニャ。 新製品とか言っていたけど、随分と人通りの少ない道でやっていたので、不思議に思ったニャ」
武彦の言葉に、どうして、そういう怪しげなものを呑んじゃうかなぁ…と呆れつつも、零は「多分それですね。 そういう仕組みかは分かりませんが、その飲み物のせいで、猫化したと考えるのが自然でしょう。 そのジュースを薦めてきた人間の容貌を覚えてますか?」と、聞いた。
武彦は、目を細め、考え込むような素振りを見せた後、「……女だったニャ。 うん。 真っ黒な髪した、何か背の小せぇ、ちんまい感じの……」と、答える。
「その人が、無差別にジュースを配っているとしたら、今頃はもっと騒ぎになっているでしょうから……」
「俺を狙っての、犯行…かニャ」
そう言いながら、武彦は自分の頬をつるりと撫でて、そして、「ひあ!」と素っ頓狂に叫んだ。
「ひ……髭ニャ! うあ! 尻尾も!」
動揺して、そう喚く武彦の鼻の側の頬から、確かに三本の髭がぴょんと生え、そして尾てい骨の辺りから、ズボンの外へ細長い尻尾が飛び出してくる。
さっき迄は、存在しなかったネコ特有の特徴に、武彦はネコ化が進んでいるという事実を悟り、戦慄した。
「ね、ネコになってるニャ! ネコになってるニャーーー!」
武彦が、動転し、ソファーから転げ落ちる姿を眺め、零も流石に、「もしこのまま、兄さんが猫になってしまったら?」という焦りのようなものを覚え、そして、とにかく誰かに助けを求めようと心に決めたのであった。


本編


「にゃにゃにゃにゃ〜〜んv 困ってるにゃ、困ってるにゃ。 とぉっても困ってるにゃ」
ねこだーじえるは、草間興信所の屋上から、クルンと飛び降り部屋の中を覗き込む。
「人類猫化計画の、偉大なる第一歩が踏み出されたのにゃ〜んv」
真っ白な尻尾をパタパタと機嫌良く振ると、武彦の頭に生えているネコ耳を満足げに眺めた。
武彦が猫化する原因となった「またたびジュース」。
実は、この試飲キャンペーンの首謀者は、このねこだーじえるだったりする。
そもそもの始まりは、猫股族の面々に、またたびジュースを気軽にネコ耳や尻尾が生やせるジュースとして商品化する事は出来ないだろうかと、相談を受けた事だった。
人間達の中には、こういう猫の耳や尻尾を殊の外好む人間もいるらしい。
確かに、大っぴらに売り出す事は無理だとしても、それ相応のルートに乗せれば、かなりのヒット商品になるだろうとは考えられる。
だが、効き目の程や、どのように猫化していくのか、それ以上に本当に猫化するのかが分からない。
猫股族で実験したとて、元からネコ耳、猫尻尾持ちなのだ。
どうしても、人間の被験者がいる。
しかし、誰かに頼んだとて、そんな意味の分からないジュース飲んでくれる人がいるとは思えない。
って事で、「んじゃ、んじゃ、黙って飲んで貰えば良いにゃーん?」と思い、この試飲キャンペーンのアイデアを出したのだ。
猫の広大なネットワークを使い、「またたびジュース」を飲んで例え猫化しても、すぐに警察に走ったり、絶望の余り自傷行為に走ったりしないものを選別し、その上で、ねこだーじえるが経過を眺めていて愉しめる者という事で、武彦を選び出し、試飲させた。
怪奇事件を主に解決してきた、この探偵事務所には、他にも面白い面々が集ってくるらしい。
ねこだーじえるは、またたびジュースの効き目を確かめるという名目で、この興信所の窓の下に身を潜め、中を覗いて楽しんでる訳である。
既に草間興信所に関わりのある者達のデータはあらかた手に入れていた。
興信所内には、武彦の窮状を救うために、見てるだけでワクワクするような人々が集まりだしている。
(にゃにゃにゃーん♪ やはりあちしの目に狂いはなかったにゃんv それに、またたびジュースの効き目もバッチリにゃようだし、大ヒットしたらアジの開きと、カツオ節をしこたま買うにゃんv)
そう思いながら、ニコニコと眺めていると、チョイとねこだーじえるの足を何者かがつつく気配がした。
見下ろせば一匹の猫がニャーンと鳴きながら、体を擦り付けてくる。
「どうしたにゃ?」
そう聞けば「にゃにゃにゃにゃにゃん。 にゃむ、にゃにゃんにゃーん」と人間にはまっったく分からない言葉で、ねこだーじえるに話しかけた。
「ふむふむ。 中国の武将みたいな人にゃ? どうも、こっちへ向かってる人にゃんだにゃ? それから、金髪で緑色の目をした、男の人にゃか? 此処の興信所でたまに、仕事をする、確か、モーリスとか言う人が、その特徴と合致してた筈にゃ。 構わないにゃ。 二人とも、またたびジュースを飲ませるよう、猫股に伝えるにゃよ。 人によって効き目の差があるか、確かめにゃいといけないからにゃ」
そう伝えると、「みゃ!」と気合いの入った返事をし、猫がトントントンと、興信所の壁を駆け下りていく。
ねこだーじえるは、「にゃにゃにゃ、もーっと、面白い事になりそうにゃ」とほくそ笑むと、再び、興信所内へと視線を戻した。

それから、暫く後。

最終的に10人以上の人間達が、興信所へと集合した時だった。

「ここの興信所の主はご在宅かな?」

と、事務所の入り口で、古めかしい言葉遣いをしたハスキーな声が響いた。
「ゲ…、客かにゃ?」
と、身構えている武彦。
今や、興信所内は万国博覧会よりも珍しい存在達の集まりになっている。
(こーんな、状態では、仕事にならないにゃねぇ)
と、他人事のように眺めているねこだーじえるは、その後、対応に出た摩耶という名前の妖艶な女性を押しのけるようにして、室内に入ってきた人間の姿を見て、面白さのあまりひっくり返った。
武将である。

武将が入ってきたのである。

あの、報告に来た猫が「武将みたいな格好をした人」とは言っていたが、よもやここまで武将しているとは思わなかった。
なんというか、武将濃度100%といった貫禄すらある。
だが、その貫禄を裏切るように、武将の頭にはピコピコと可愛いネコ耳が揺れていた。
現在の興信所内は、派手な外見を有する者や、人語を解する猫、特殊な能力を持ち、特殊な見た目をしている人間でひしめいてはいるが、やはり、どう頑張っても奇怪な者は奇怪にしか見えない。
武将て…、武将って……なんで?と、首を傾げど、そこにいるのは武将でしかない。
額に、宝玉が埋め込まれている、中国風のシンプルな甲冑を身に纏った、凛々しい青年が興信所内にいる人間を見回しながら、最終的には摩耶に視線を据えて中性的なハスキーボイスで何事か言い放つのを、ねこだーじえるは耳を澄ませて聞き取った。
「ここの主は、何処かと聞いているだけだろう? 大体、興信所というものは、誰にでも門戸を開かれている場所ではないのか?」
摩耶が、武将の視線を受け止めて、呆れたように答える。
「だから、今、ちょっと取り込んでるって言ってるでしょ? それにね、えーと、泰山府君さんでしたっけ? 貴方、別に客じゃないんだよねぇ? そのお耳の事で、ここに依頼に来た訳ではないだよな?」と摩耶が言えば、泰山府君という青年は不機嫌そうな表情を見せ、「貴様、先程から一体何の話をしているのだ? 耳だと? 耳がどうしたと言うのだ?」と、問うた。
その問いに思わず、近くに立っていた眼帯スーツの青年幇禍(彼は、同じく今日、武彦を訪ねてきてる銀髪の美少女鵺という子の家庭教師をしているらしい)が、武彦を指し示しながら「つまり、貴方、あの阿呆面の、この興信所の経営者と同じ状態になってますよ?って事です」と告げる。
泰山府君は、「どういう意味だ?」と言いながら、幇禍の指先の方向へと視線を向け、そして固まった。
「な? なんだ、その姿は。 随分と巫山戯た格好ではないか? そんな風体で、興信所の主というのは勤まるものなのか?」
そう戸惑ったように呟きながら、それでも珍しさの余り、じっくりと武彦の姿を眺める泰山府君。
そんな泰山府君に、「あ、あの……」と、セーラー服を着て、猫の事ならば殆どの情報を掌握している、ねこだーじえるでさえ見覚えのない黒猫を抱えた海原みなもが、声を掛けた。
「あの、まず、えーと、写真を撮らせて貰って良いですか?」と問い掛け、泰山府君が返事をしない内に、パチリとデジカメでその、不思議な姿を撮る。
その後、デジカメのプレビュー画面を見せながら「ほら、草間さんと同じようにネコ耳生えてますよ?」と、あっさり告げる。
画面に映る映像に凍り付く泰山府君。
(にゃにゃにゃv やーっと、自分の姿に気付いたみたいにゃね? びっくりしてるにゃ!)
悪戯が成功したような爽快な気分になりながら、泰山府君の凍り付いた表情を、両手で必死に笑い声を抑えて眺めるねこだーじえる。
語尾が「にゃ」に変じていないのは、飲料を飲んだばかりのせいなのか、それとも体質のせいか?
(まだ、研究の余地がいるにゃ)と、考えるねこだーじえる。
もうちょっと中の様子を見ようと、身を乗り出した。
泰山府君は、最初のショックから解放されたのだろう。
憤懣やるかたないといった様子で「うぬぅ! たばかられたわ! やはり、先程の、『またたびジュース』なるもの、妖しの飲み物であったのか!」と、歯軋りし、そして武彦を睨み据えると、「貴様も、アレを飲んだのか! なぜ、あのような妖しき飲み物を口にするのだ! 馬鹿か! 馬鹿なのだな!」と自分を棚に上げて責め立てている。
「や、だって。 君も飲んだんだよね?」と冷静に鵺が突っ込めど、「我は喉が渇いていたんだ!」と、無茶苦茶な事を叫び返してきた。
「あー、だったら、しょうがない……の?」
と、泰山府君の自信満々な一言に、思わず納得し掛けてしまっている鵺。
幇禍は、そんな鵺に「や? でも、やっぱり、結構理不尽ですよ、この人」と言って、泰山府君に物凄い視線で睨み据えられていた。
その呑気なやりとりに、また、「プククッ…」と笑いを堪えるねこだーじえる。
(しかし、これで、大体、効果の程は見れたにゃ。 皆の慌てふためく顔も見れて満足したし、そろそろ、此処を離れないと、よく分からない連中ばかりだし、気付かれるかもしれないにゃ…)
そう考えて、壁を駆け下りようとしたねこだーじえるの前を、「ジジジ…」と鳴き声をあげながら一匹の蝉が飛んできて、興信所の壁に止まった。
猫の習性で、思わず、「ニャ!」と身構えるねこだーじえる。
そのまま、じーっと睨み続け、蝉が再び飛び立とうとした瞬間に、身を躍らせる。
シュタ!と、音を立てそうな勢いで、蝉に手を伸ばしたねこだーじえるの襟首を誰かが掴み、それから軽々と持ち上げた。
(にゃ? にゃにゃにゃ?! 何事にゃか!)
そう思いながら視線を上げると、にんまりとした笑みを浮かべた摩耶の顔が目に入る。
「! っと、何やってんのよ? あんた」
という、この興信所の事務員をやっているエマの問い掛けが聞こえてきた。
摩耶はニッと笑って「今日の興信所は千客万来だね」と、武彦に向かって言った。
「どういう意味だにゃ?」
と、問い掛ける武彦に、意味ありげに笑いかけ、勿体ぶるようにゆっくりと摩耶はねこだーじえるを高く持ち上げる。
ようやく、そこで、自分のピンチに気が付いた、ねこだーじえる。
(み、見つかった上、捕まってしまったにゃぁ!)
と、焦り「放すにゃ! 放すにゃぁ!」と叫べど、勿論逃がして貰える筈はない。
じたばたと暴れながら、「あちしを、誰だと心得てるにゃ! そんな風に、持ち上げるとは、不届きにゃ!」そう摩耶に喚めけば、みなもがねこだーじえるの可愛らしさに表情をふにゃんと緩ませながら近寄ってきて、優しい声で尋ねてきた。
「窓の外で、どうしてたのかな? 耳が生えてるって事は、あなたも、ジュースを飲んじゃったのね。 それで困ってここへ来たの?」
どうも、ねこだーじえるをまたたびジュースの被害者だと考えているようだ。
武彦の妹の零も優しく微笑みかけてきながら、「可愛いお客さんなのかしら?」と首を傾げ、「兄さんだけでなく、他に二人もジュースを飲まされた人がいるなんて……、もしかしたら、もっと大きな事件へ発展するかも知れませんね」と呟きながらねこだーじえるを覗き込んでくる。
ねこだーじえるは(違うにゃ! ねこだーじえるは、武彦達のようなそんな間抜けな者と一緒にしないで欲しいにゃ!)と、状況を忘れて否定しそうになった。
そんなねこだーじえるの心境を汲み取った訳ではなかろうが、摩耶が冷静な声音で、みなもと零の言葉を否定する。
「こいつ、見た目はこんなだけど、あなた達が考えてるような子供じゃないよ。 ふっつーの子供が、二階にある興信所の窓の外で、しっかも…」
半眼になりながら事務所内に居る人間を見回し「こぉんな、曲者揃いの人間達に気配も気づかれないで、部屋の中の様子窺えると思う?」と冷静に言えば、男装の麗人・翼も頷きながら「確かに、もし困って此処に来たのなら、正面から普通に訪ねて来れば良い。 キミ誰だい?」と、問い掛けてくる。
ねこだーじえるは、やっと聞いて貰えたと、胸を張り、「あちしは、ねこだーじえるくんなのにゃ!」と誇らしげに名乗る。
そして、小さな手をふるふると振り回すと「降ろすのにゃ! 降ろすのにゃ! にゃぁ、にゃぁ、にゃぁ!」と、身を捩らせた。
(困ったのにゃ。 にゃんとかして、此処から逃げださにゃいと、下手をすれば三味線にされちゃうのにゃ)
ねこだーじえるのそんな怖い想像を後押しするかのように、異様な迫力を持つ金髪の美青年金蝉が、顎をグッと掴み、冷たい声で「で、テメェは、外で何してやがったんだ?」と、問い掛けてきた。


お、鬼にゃ。 この人間違いなく、鬼にゃ。 猫鍋にして、た……食べられちゃうにゃ…。


猫鍋という料理があるかどうかは別にして、カチーンと恐怖に硬直するねこだーじえる。
金蝉の黒曜石のような目が、全てを見透かすように、ねこだーじえるの青い瞳の奥を覗いてくる。

だが、そんな金蝉の呪縛を解くように、武彦と泰山府君が同時に、「あーーーーーー!!」と叫び声をあげた。
驚いての二人の視線の先に眼をやれば、そこには背丈ほどの長い黒髪を垂らし、大きな赤い瞳を持つ、ランドセルを背負った小さな女の子が立っている。
(あの子は、確か蒲公英ちゃんにゃ。 猫仲間からも評判の良い、動物にとっても優しい女の子にゃ)
蒲公英の情報を思いだし、状況を忘れてニコリと笑うねこだーじえる。
予想外の人数がいた事、そして一気に注目を集められた事のせいだろう。
蒲公英は「え? ……え? えぇ?」と、怯えたように身を縮こまらせた。
そして、オズオズと「あの……これ…」と、小柄な体一杯に抱えた段ボール箱を差し出す。「と…届けにき、ました」
か細い声でそう告げた蒲公英の抱えていた段ボール。
そこにはレトリックされた文字で、「またたびジュース」と印刷してあり、猫のキャラクターが描いてある。
(にゃあああああ! にゃんと! あの、猫股! た、確かに、自分によく似た背格好の女の人を見掛けたら、ジュースを入れた箱を持たせて、興信所に向かわせると、もっと面白くなると思うにゃ、とは言ったが、幾ら何でも小さな子過ぎにゃ! こんなの、幾ら相手が阿呆でもバレるにゃ! っていうか、蒲公英ちゃんになんて事させるにゃ!)
そう焦れど、武彦達はねこだーじえるの予想を超えて阿呆……というか、錯乱しきっていたらしい……。





泰山府君は「よくもぬけぬけと!」と唸り、武彦に至っては、「にゃぁぁぁぁ!」とよく分からない奇声をあげた。



(騙されてるにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!)





「小柄! 黒髪! あいつにゃぁぁ!」と、錯乱したように叫ぶ武彦に「ちょっ! 落ち着いて! 彼女は、違うわよ!」とエマが叫び、エマ以上に切実に(そうにゃ! 違うにゃ! その子は無関係にゃ!)とだーじえるが、心の中で喚く。
しかし、武彦は、まさに猫のような身軽さで、ソファーから跳ね起き、一気に蒲公英に飛びかかった。
片や泰山府君は、何処から取り出したのか、狭い事務所内で刃の部分が青龍刀になっている鉾を振りかざすと、唐突に蒲公英に振り下ろそうとする。
「天誅!」そう叫びながらの、凶行に思わず、(駄目にゃ!)と身を震わせ、ギュッと目を瞑るねこだーじえる。。
だが、泰山府君の鉾が蒲公英を傷付けるよりも早く、翼が美しい装飾の剣何処からか取り出しその斬撃を受け止めた。
金属同士のぶつかり合う、甲高い音が響く。
「僕の目の前で、レィディへの乱暴は許さないよ? 例え、君自身が、美しい女性であろうともね」
と、白い歯を見せて笑う翼に、(え? 泰山府君はお、女の人だったのにゃ?)とねこだーじえるは驚き、その他の人々にも「あれで、女かよ!」という純粋な驚きが走るが(そして、金蝉には「なんで、翼は、性別を判断できるんだよ」という別の驚きも)、そんな衝撃を受けている間にも、錯乱武彦は蒲公英に「お前もこれを飲むにゃぁぁぁ!」と叫びながら段ボールをバリバリと破き、中に入っていたジュースを無理矢理ビンごと飲ませている。
(あほにゃ。 ほんまもんのあほが、あそこにいるにゃ)と、呆れるねこだーじえる。
すると、今までみなもの胸の中で大人しかった黒猫が、ピョンと抜け出して、武彦の頭の上に乗り、そして思いっきり爪を立てたまま、その背中を滑り落ちた。
「っってぇぇぇ!」
そう叫んで、武彦は蒲公英を放す。
その隙に、逃げ出した蒲公英には、既にネコ耳が生えてしまっていた。
事務所内にある、大きな机の下に小柄な体を更に縮めて、逃げるように潜り込んだ蒲公英は、ガタガタと身を震わせ「ふっ…ふぇ…ふっふぇぇん」と泣き始める。
(可哀想にゃ…)
自分の蒔いた種ながらも、ねこだーじえるは心から同情した。
エマも腰に手を当てると、「武彦さん! あの子は、蒲公英ちゃんよ! ジュースを配っていた女性じゃないわ!」と叱り、翼も、泰山府君と剣を合わせたままながらも、「女性をしかも、子供を泣かせるだなんて、君の罪は万死に値するね!」と叫ぶ。


そして、ようやく、興信所に、この事件における最後の登場人物が姿を現し、この事件は新たな展開を見せる事になった。 


「おや? 立て込んでるみたいですが…大丈夫ですか?」
そう言いながら、柔和な笑みを浮かべ応接間の入り口に立っているのは繊細な佇まいをした美青年モーリス・ラジアルだった。
(およよ? 確か、またたびジュースを飲ませた筈なのに、なんで、猫化してないにゃ?)と、ねこだーじえるは不思議に思う 。
「今日は、珍しく、満員御礼じゃないですか」と、穏やかな口調で、ちょっとした冗談を言うモーリスの隣りに立つ、背の小さな、黒髪の女性を見て、ねこだーじえるは衝撃の余り呆然とし、泰山府君は「貴様っ!」と叫びながら、やっと翼と合わせている剣を降ろし、武彦もポカン、立ち尽くす。
(な……なななな、なんで、猫股が此処にいるにゃ?!)
驚き呆れるねこだーじえるを余所に、優雅な足取りで、その女性の手を取りながら人の間を縫い、「お連れいたしました」と恭しく、告げるモーリス。
「え? ど、どうやっ…てにゃ?」と武彦は首を傾げた。
「やはり、武彦さんの猫姿は美しくないですね」
と関係ない事を言いながら首を振り、モーリスはそれからツイと、泰山府君に視線を送って微笑み掛ける。
「貴女のように、素敵な女性の猫姿をお目に掛かかれたのは、眼福ですけどね」
笑ってウィンクを自然にするモーリスに、ねこだーじえるは「だから、何故一発で性別を見分けられるのにゃ? それは、気障な人間なら、誰でも持ってる能力なのかにゃ?」と疑問を深めるものの、「こちらへ来る前に、試飲を薦められまして、身体的特徴も一致しますし、武彦さんにもジュースを薦めたのはこの方じゃないかな?と思い、お話を聞いてみたところ、そうだと言うので………」頬を染めて自分を見上げている女性を見下ろし、笑う。
「…お連れしました」
「連れてこられましたんv」
女性は、身をくねらせて、そう答えた。
(アホーー! にゃーんで、ナンパされて着いてきちゃってるにゃ!)
思わず、脱力したくなる程の怒りに襲われるねこだーじえる。
猫股は、アレ?という風に首を傾げると、相変わらず摩耶にぶら下げられたままのねこだーじえるに視線を向けて口を開いた。
「ねこだーじえる様? そこで、何をしてるんですかにゃ?」
(それは、こっちの台詞だにゃぁぁぁぁ!!)
その瞬間、ねこだーじえるを吊り下げている摩耶の手から、力が抜けたのを感じたねこだーじえるは、スルンと逃げ出すと、窓際に立つ。
そしてビッと、女性を指差しながら、
「にゃにゃにゃ! もーう、怒ったにゃ! しかも、お前もにゃーんであっさり連れて来られてるにゃ! 最悪だにゃ! ほんっとーに、猫股は良い男に弱すぎだにゃ!」と喚く。それから、
「こうなったら……にゃむにゃむにゃむ」
と、チョコンと両手を合わせて口の中で呪文を唱え始めると、掌の中にまたたびジュースの粉末を召還し、「みぃぃんな、猫になるにゃぁぁ!」と、言いながら両手を広げ粉を巻きつつ、クルンと廻った。
ねこだーじえるの手から、キラキラと光る赤い粉が振りまかれる。
その数瞬後にはいたる所で「クシュン」というくしゃみが聞こえ、そして、興信所内の人間は皆、またたびジュースの粉を体内に摂取したせいで、猫化が始まり、ネコ耳を生やしていた。
その光景を、満足げに見渡し、「にゃにゃにゃにゃ〜〜ん! またたびジュースの粉末バージョンにゃん! 吸い込んだ人間は皆、猫化するにゃ〜〜ん! みぃぃんな猫になれば良いにゃん!」とねこだーじえるは笑って言うと、ヒラリと身を翻し、窓下へと飛んだ。


興信所の前の道路を全速力で走る。
程なく、誰かが追って来ているのだろう。
大型バイクの爆音が聞こえてきた。
(このままでは、追いつかれるにゃ)
そう判断したねこだーじえるは、一瞬悩んだ後、目の前に来た曲がり角を、曲がる。
そこには、猫達が夜の集会の会場としてよく利用していた大きな公園があった。
(ここなら、隠れる場所がたくさんあるにゃんv)
そう思い公園内に駆け込むねこだーじえる。
内部の構造を知り尽くしている故に、追っ手をやり過ごせるだろうと考えたのだ。
一目散に奥へと走り、中央にある噴水広場へと続く小道の草むらの中に飛び込む。
そのまま、はぁ…と息を整えると(しっかし、面倒な事ににゃってきたにゃぁ……)と思いつつも生来の性分で、深く思い悩む事なく、そのうちウトウトと昼寝を始めた。



どれ位の時間が経ったのだろう。
ねこだーじえるは、唐突に人の気配を感じて覚醒した。
嗅いだ事のある匂い。
甘い香水の匂いは、自分をずっと吊り下げたままでいた、摩耶の匂いだ。
(にゃにゃにゃ? ここに、摩耶が来ているにゃか?)
そう思いつつ、音を立てないように草むらの隙間から覗けば、摩耶が、ゴミ箱の中を覗いている。
(幾ら何でも、そんなトコには隠れないにゃよ)
そう、ねこだーじえるが憮然とした時だった。
また、ねこだーじえるの目の前を「ジジジジ…」と鳴きながら、一匹の蝉が飛んでいった。
そして、ねこだーじえるの潜んでいる草むらの隣にある木の幹に、止まる。
(だ、駄目だにゃ。 今、動いたら見つかるにゃ)
そう自制心を総動員させるも、蝉は無防備且つ挑発するように、幹の表面をのんびりと動き、やがて制止すると、「ミ〜ン」と暑苦しく鳴き始めた。
(いいかにゃ? ねこだーじえる。 これは、ねこだーじえると蝉の勝負にゃ。 動いた方が負けにゃ。 いつもみたいに、捕まえたら勝ちじゃないにゃ。 大人になるにゃ、あちし)
自分に強く言い聞かせるねこだーじえる。
拳も、ギュッと握りしめている。



まぁ、大方の予想通り、その、三秒後、ねこだーしえるはあえなく、蝉を追って小道に走り出ていた。


蝉、圧勝。


「にゃぁ! 待つにゃぁ!」と言いながら蝉を追って飛び出し、「え?」という摩耶の呟きで、再び自分の立場を思い出したねこだーじえる。
(しまったにゃぁぁぁぁ!)
と内心叫びつつ、クルンと踵を返すと、一目散に逃げ出す。
当然ねこだーじえるを追って、摩耶も走り始めた。

「っ! 待て! 逃げんじゃない! コラ!」

摩耶の声を背に(そんな言葉で、止まる奴はいないにゃ!)と思いつつ、シタタタタと走る。
噴水広場に飛び込むと、運悪くそこにはみなもがいた。
ねこだーじえるの姿に、目をきょとんと見開くみなも。
そんなみなもに、摩耶が「捕まえて!」と叫ぶ。
それで、自分の役目を思い出したのだろう、慌ててねこだーじえるの前方に立ちふさがると「もう! 観念しなさい!」と、強い表情で言い放った。
「やだにゃ!」と答え、別の方向へと転じるねこだーしぇる。
しかし、「逃がすものか!」という声と共に、晴天の空から一条の雷撃がねこだーじえるの目の前に落ちてくる。
その音と、威力に自然身が竦むねこだーじえる。

「貴様、我にこのような生き恥を晒させた罪、重いと思え。 膾に切り刻んでくれる!」

そう言いながら、現れたのは泰山府君である。
そのタイミングの良さに「まるで、戦隊物のブラックにゃ!」とねこだーじえるは歯軋りしたい気分になった。
「ね? ねこだーじえる君。 お願いだから、私達が元の姿になる方法を教えて下さい。 このまま猫になっちゃったら、私達本当に困るの」
みなもがそう訴え、ようやく追いつけた摩耶も頷きながら「教えてくれたら、痛い目なんかには合わせはしないからさ」と言って、ゆっくりとねこだーしぇるに近付いてくる。
一瞬、言うとおり、大人しくしていようかと思えど、フト、そう、今更、フト、重大な事に気が付いた。
(元に戻る方法って……なんにゃ?)
そう、猫股達は「またたびジュース」が開発できた事に浮かれていて、元に戻る方法なんて考えておらず、ねこだーじえるに至っては、「猫になるのも悪くはにゃいにゃ。 元に戻るより、猫でしか楽しめない事を、人間は満喫すればいいにゃ」なんて考えていて、元に戻る方法なんか気にしてもいなかったのである。

このまま、捕まれば、間違いなく三味線にされる!

そう確信した、ねこだーじえるは首を振ると、「にゃにゃにゃ! 人類猫化計画の為にも、ここで捕まるわけにはいかないのだ!」と叫び、そして再び「にゃむにゃむにゃむ」とまたたびジュースの粉を召還すると「今度は、完全に猫になるがいいにゃ!」と叫びながら、クルリと回った。
再び、赤い粉が、ねこだーしぇるの手から散布されるのを見て、摩耶や泰山府君が息を止めている。
そんな中、ハンカチで口元を抑えたみなもが噴水に走り寄り、その中に手を入れた。
(何をするつもりにゃ?)
と首を傾げるねこだーじえるは、突如水の膜が、みなも達に三人の前に現れた事に驚く。(この子は、水を自由に操れるにゃか)
状況を忘れ、感心するねこだーじえる。
赤い粉は、水を通り抜けて、その奥に守られている存在まで到達する事は出来ない。
だが、三人も水の壁の前からは動けない訳で、一瞬膠着状態に陥った。
このまま、みなもの疲労を待とうと、ねこだーじえるが考えた時だった。
「じゃじゃじゃじゃーーーん! ヒーロー見参!」の明るい声と共に、ずっと潜んでいたのだろう。
噴水の近くに生えていた木の枝から、何故か「imp」というバンドのベーシストをしている山口さなが飛び降りてきて、そして、目測を誤ったのだろう。
そのまま、噴水の中へと……落ちた。

派手な水音を立てて、噴水から大きな水飛沫が上がり、そして近くに立っていたねこだーじえるに派手に降り注ぐ。
大部分の猫がそうであるように、水が苦手なねこだーじえるは「にゃーーーーーー!」と、叫び声をあげて、身を捩らせた。
その瞬間「でかした!」と、泰山府君が一声上げて、ねこだーじえるへと突っ込んできた。
しまった! 水が頭上から降り注いだ為に、粉が全て地上へと落下したのにゃ! と思う間もなく、泰山府君は、一気に距離を詰め興信所内でも振りかざして見せた鉾を脇に構え、ヒュッと鋭い音を立てて、ねこだーしぇるを横薙ぎに切り裂こうとする。
(仕方ないにゃ! あんまり使いたくないにゃが!)
命の危機を前にして、滅多に行使しない能力をねこだーじえるが発動しようとした時だった。
「!!」
いきなり摩耶はバッと走り寄り、ねこだーじえるを庇うように抱き締めてきた。
柔らかで、豊かな胸に顔が埋められる。
フワリと香水の匂いが立ち上り、そして、暖かな温度が体を包んだ。
(な……なんでにゃ…)
呆然とする、ねこだーじえる。
強く抱き締められた背中が痛い。


そして、ようやく自分は庇われたのだと悟った。


何故、自分を摩耶が庇ったかなんて事は、思い付かないままに、ねこだーじえるは体が震えるのを感じた。
「いやぁーーーーー!!」
みなもの甲高い悲鳴が、広場内に響き渡る。
「ま……摩耶さん…摩耶さん……」
と、涙声でみなもが何度も名前を呼んでいる。
(お、お人好しにゃ。 見た事もない位、摩耶はお人好しにゃ)
ねこだーじえるは、ふるふると震えたまま、摩耶の胸の中でそう呟いた。
すると、驚いた事に、摩耶は、何のダメージも受けていないような笑顔で、ねこだーじえるを見下ろし、それからすくりとねこだーじえるを背後に庇うように立ち上がった。
そして「残念だわ。 あなたの刃は私の肌を傷付けられない」と凛とした声で、泰山府君に告げる。
その声にみなもが、驚いたように顔を上げた。
摩耶は強い視線を泰山府君に据え、それでも薄く笑う。
息を呑むほどに美しい笑顔。
「と、いっても、内蔵への衝撃までは防げないから、強く突かれたり、さっきの雷みたいなの喰らったら一発だろうけどね」
そして摩耶は泰山府君に勢い良く頭を下げた。
「あなたは、凄く強い人だってよく分かる。 多分、その気になれば私ごと、後ろの子も殺せるね。 でも、お願い。 今回の事で、あなたが凄く不快な気分になったのは分かるけど、許してあげて。 この子と、この子を庇ってしまう私を」
顔をあげ、満面の笑みを浮かべて摩耶は言う。
「これは命乞い。 あなたが望むなら、土下座だってしてあげる。 自分の身を守る為だもの、足だって舐められる」
ねこだーじえるは、こんなに誇り高い命乞いを見た事がなくて、その見事さに息を呑んだ。摩耶の言葉に答えず泰山府君は、呆然としたままの表情を、安堵の表情に変え、それから掠れた声で「馬鹿者が」と呻く。
「怪我はないか?」
「大丈夫よ。 そういう体質なの」
「だが、痛かったろう」
「アハハ。 平気だって」
「………本当に馬鹿者だ。 我は無益な殺生は好まない。 先程の攻撃とて、寸止めて、脅すだけのつもりであったのに……貴様は…」
そう言いながら、ふうと、溜息を付くと、泰山府君は摩耶に対して一礼した。
「見事である。 感服した」
そして、ねこだーじえるに声を掛けてくる。
「さて、もう良いだろう? 教えてくれ。 我らが、元の姿に戻る方法を」


さて、この状況で「そんな方法御座いません」なんて言える勇者がいるのなら、お会いしたい。
(無理にゃ! 絶対無理にゃ!)
と、ねこだーじえるは悲鳴をあげたい気分になった。





噴水に飛び込む際に、またたびジュースの粉を吸って猫になってしまったさなを抱えながら、ねこだーじえるに「で? どうすれば元に戻れるんだ」と、問うてくる摩耶。
しかし、ねこだーじえるは「あー! 蝶々にゃ」とか「水に濡れて気持ち悪いのにゃ」とか「またたびジュースはすこぶる美味なのにゃ」とか、話を逸らし、何とか質問に答えまいとする。
額に青筋を立て始めた泰山府君が「いい加減にせんと、今度は本気で刻むぞ?」と脅せど、ねこだーじえるは何処吹く風。
だって、方法はないんだもん。
聞かれたって答えられない。
その内、ポカポカ陽気にあてられて、自分の顔を猫の仕草で手で擦り「あちし、何だか眠たくなってきたにゃ」と呟く。
ねこだーじえるを探しに行かせていたらしい黒猫を抱えたまま、そのやり取りを眺めていたみなもは、少し青ざめながら、とうとうねこだーじえるの欲していた言葉を言った。
「あの……もしかして、だけど、元に戻る方法が無いって事、ないですよ…ね?」
すると、ねこだーしぇるの耳がピクンと反応し、ニパッと笑いながらみなもを見る。
(よく言ってくれたにゃ!)
そう心の中で誉めれば、みなもも、笑みを返してきた。
「凄いにゃ! 正解だにゃ!」
そうねこだーじえるが言い放った瞬間、その場にいた全ての者達が凍り付いた。

 
「殺す! 殺し尽くす! もう、許さん! 成敗してくれる!」
「あー、うん、なんか、それで良いかもーって思えてきた」
「えーーーー?! そんな、駄目ですよ! く、黯傅さん! 何とかして下さい!」
「……なぁぅ」
「さ、さなさんもです!」
「んにゃ?」
「わーーーん、頼りにならないよーー!」
「あちしを殺すと、猫たちの祟りがすんごいにゃよーー?」
「ほら、祟りですよ! 摩耶さん、泰山府君さん祟りですって! きっと、毎日玄関にフンとかされちゃいますよ!」
「や、いいよ、掃除するし」
「今は、こやつの息の根を止める以外の何も望みはない」
「えええ?! ちょっ! 誰か!っていうか、ねこだーしぇる君、とりあえず逃げて!」


と、いう騒々しいやり取りを経て、とりあえず興信所へ戻ったねこだーじえる含む面々は、そこで待っていたモーリスの言葉でこれ以上ないほどの脱力を味わう事になる。


「何だか盛り上がっているトコに水を差すのが悪いなぁと思って、能力の事言い出せませんでした」なんてかるーく笑い、「了承さえ賜れば、私の思う通りに人の姿を変える事が出来ます。 あなた方の事も、すぐ元の姿に戻してあげますよ」とモーリスはあっさり告げた。
その瞬間、ねこだーじえるは「良かったにゃ。 何とか三味線は免れたにゃ」と安堵したが、その先に待っている、泰山府君や摩耶、エマからもたらされるであろう説教地獄に遠い目をする。


ねこまたジュースも、元に戻る方法が発見されないままでは、売り出せそうにはないし、そういう意味ではねこだーじえるの自業自得とはいえ、踏んだり蹴ったりの一日であったといえよう。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■  登場人物  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

受注順に掲載させて頂きました。
【2411/鬼丸・鵺/13歳/中学生】
【3342/魏・幇禍/27歳/家庭教師 殺し屋】
【1252/海原みなも/13歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3317/斎・黯傅/334歳/お守り役の猫】
【2863/蒼王・翼/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【2916/桜塚・金蝉/21歳/陰陽師】
【1979/葛生・摩耶/20歳/泡姫】
【3415/泰山府君・― /999歳/退魔宝刀守護神】
【1992/弓槻・蒲公英 /7歳/小学生】
【2309/夏野影踏 /22歳/栄養士】
【2640/山口・さな /32歳/ベーシストsana】
【2318/モーリス・ラジアル /527歳/ガードナー・医師・調和師】
【2740/ねこだーじえる・くん /999歳/猫神(ねこ?)】



□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

まず! 遅れてスイマセンでした!(平身低頭) 初めましての方も、そうでない方もヘタレでほんま、すいません! ライターのmomiziです。 今回、二回目の受注窓オープン。 前回の如く、緩やかに参加表明がなされるであろうと予想していた私を裏切って、14名参加っていうか、喜びと共に正直キョドってしまいました。 あえて、ウェブゲームの醍醐味を追求すべく、同じ物語で、それぞれの視点で書いてみた「猫になる日」。 やぁ、無謀でした。(遠い目) えーと、書いている間に、三度ほど、三途の川を見たのですが、渡らなかった私に、私が乾杯。 一人一人が、別々の感情で動き、見えている真実も違っていたりするので、色々読み比べて下さると、また別のお話の姿が見えたりするように書きました。 他の話にもお目通し下さると、ライター冥利に尽きます。  また、ご縁が御座いますこと、願っております。