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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ジューンブライドも楽じゃない?

------<あらすじ>--------------------------------------
ある日、例によって例の如くプラントショップ…もとい山川家に招かれた草間たち。
そこに待っていたのは早々たる面々。

話を聞いてみると、櫻の知り合いに古い教会の周りに生えている老樹達がいて、彼らは、そこで行われる結婚式を眺めるのを好んでいるらしい。
……ところが、つい先日その教会は1ヵ月後に取り壊しが決定してしまったらしいのだ。
老樹達は『それもまた世の流れなのだから仕方なかろう』と表面上は諦めているのだが、やはり、寂しいようで。
それがなんだかとてもかわいそうで…皆で一肌脱いでくれないか、ということらしい。

…まぁ、要するに「『偽結婚式』を決行しようじゃないか」ってことで。
草間も程よくはめられて参加を余儀無くされつつ、一同は偽の結婚式を行うことになるのだった。


●ペア決定―祀×沙羅編―
「結婚式かぁ…なんだか面白そうvv」
「うん、あたしも興味あるかも♪」
櫻の話が終わって各々が話し始める中、隣同士の橘・沙羅と花瀬・祀は、顔を見合わせて上機嫌にそう言い合った。
2人は同じ学校と言う事もあってか、とても仲がいい。御互い男が苦手(決してレズではない)というのも要因の一つなのだろう。
「じゃあ、祀ちゃん協力してこ♪」
「もちろんよ♪」
当然というかなんというか、意見が一致した2人はにこりと微笑み合う。
と、祀は沙羅の手を取って上機嫌に口を開く。

「それじゃ当然、花嫁は沙羅だよねっ!」
嬉しそうに言う祀に思わず頷きかけた沙羅だったが、ふとその動きを止めて首を傾げながら話し掛ける。
「…それじゃあ、祀ちゃんは?」
「あたし?」
その疑問にきょとんとして自分を指差した祀だったが、すぐににっこりと微笑み返す。

「勿論花婿に決まってんじゃん!
 沙羅の相手はあたしだけなのっ!!」

その言葉の内容は真剣そのもの。ぐっと力を入れた握り拳がマジっぷりを更にアップさせている。
机に片足を乗せたその姿は妙に漢らしいというかなんというか…スカートじゃなかったのが彼女にとっての救いだろうか。
「ま、祀ちゃん…そんなに大声だしたら恥ずかしいよ…」
「え?そぉ?」
それに恥ずかしそうに頬を染めた沙羅は慌てて祀に座るように促し、祀は首を傾げながらも沙羅のお願いに応じてすとんと座り直した。
思いの外あっさりと決まってしまったペア。
他の者はまだ話していたりペアについて考えていたりしているようで、もう暫く時間がかかりそうだ。
そう判断した2人は、待っている間、話して時間を潰す事にした。

「この家の隣が愛華ちゃんがいつもお世話になってるプラントショップなんだよね?
「そうみたいね。閉まってるから中までは解らないけど、外見は悪くないよね」
「うん。…中が覗けなくてちょっと残念かも」
「そうだねー。でもさ、店員を見る限り店の雰囲気は良さそうかな。
 ね?沙羅?」
「うん♪」

実は、祀と沙羅は知り合いである桜木・愛華がよく来ているというプラントショップを見にやってきたのだった。
本来なら中に入ってみたかったのだが、残念ながら入り口の扉には休業のお知らせが貼ってあって入れず。
残念だったと話をしながら帰ろうとした所で、丁度隣の山川家に訪れた草間たちと鉢合わせた、と言うわけだ。
中には入れなかったが店員には合えたし、なんとなく彼らの雰囲気から店の雰囲気も予想できた。

「…あ、そうだ」
そんなこんなで上機嫌で話していた2人だったが、ふと沙羅が思い出したように手を叩く。
「どうしたの?沙羅?」
不思議そうに首を傾げる祀を見、沙羅は思い出したように祀を見て口を開いた。

「愛華ちゃんがいっつも『ボブラブ!』って力説してるでしょ?」

どうやら沙羅は、愛華からボブの話を嫌というほど聞かされているらしい。
興味深げに声をあげる沙羅とは違い、祀は片眉を上げ、訝しげに声を挙げた。

「…は?ボブ?
 ボブって誰?どっかの格闘家?」

残念ながら後ろに『サップ』はつきません。
どうやら祀はボブの話を全く覚えていないらしい。
「祀ちゃん…野獣の方じゃなくて、愛華ちゃんがいっつも言ってるボブさんの方だよ〜…」
それに思わず苦笑しながら、沙羅は祀に簡単に説明した。
ふむふむと頷いてようやく思い出したような顔をする祀を見ながら、沙羅は頬に手を当てながら口を開く。
「愛華ちゃんってば蓮君って人がいるのに…。
 …でも、ボブさんってどんな人なのかなぁ?」
首を傾げながらの沙羅の呟きに、祀は確かに気になる、と頷いた。

――――と。
ぽんぽん、と2人の肩が正面から『何か』に叩かれた。
「「え?」」

その動きに反射的に同時に前を向いた2人の目の前にあったは―――カボチャの、ドアップ。

「きゃっ!?」
「ひゃあっ!?」
同時にひっくり返った声を挙げた2人は、驚いてソファーの上で仰け反った。
それに驚いたのか、微妙に後ろに後ずさるカボチャ。
よくよく見てみると、それは巨大なジャック・オ・ランタンのような物体だと言う事だけが辛うじて判断できた。

「あらあら…大丈夫ですか…?」
椅子に変な体勢でよりかかる2人の前に、そのカボチャの後ろからまきえが現れる。
しかし2人はそれどころではない。
目の前を浮遊する巨大なジャック・オ・ランタンもどきが気になって仕方がないようだ。

「な、何このでっかいかぼちゃ!?」
「わぁ…おっきなかぼちゃさん…」

驚いて悲鳴じみた声をあげる祀と、どこか感心したようにカボチャを見る沙羅。見事に正反対なリアクション。
それに苦笑しつつ、まきえはカボチャをもう少し後ろに下がらせてから、口を開く。

「…それが…どうやらボブが自分の話をされていたのが気になったみたいで…」
おほほ、と困ったように笑いながら言うまきえに2人は目を見開いた。

「ぼ、『ボブ』ぅ!?コレがァ!?」
「えぇ!?あなたがボブさん!?」

同時に挙げた叫び声ながらも、この辺りに性格の違いが現れているというかなんというか…。
「…えぇ…。…桜木さんがお話しているのが人間じゃなければ、はこのボブのはずですよ…?」
まきえが笑顔でそう言うと、祀と沙羅はまじまじとボブを見た

―――やっぱりカボチャだ。どこからどう見ても紛う事なきカボチャのお化けもどきだ。
    ならば『ボブラブ!』とはこのカボチャLOVE!と言っているわけで…。

「えっと、いつも愛華ちゃんがお世話になってます!」
「…や、でも、あの遊び人の藤宮よりはマシ…なのかな?」

しかし、次の瞬間には、素早く立ち上がってぺこぺこと頭を下げる沙羅と、真顔で悩む祀。そして、沙羅にぺこりと挨拶を交わしてから祀の視線に戸惑ったように浮遊するボブの図式が出来上がったのだった。

―――それから数分の間、祀と沙羅はボブも交えて会話(ボブは筆談)を楽しんだのだそうだ。
    …意外と適応能力高いですね、あなた達。


――――花瀬・祀、橘・沙羅、ペアを組む事に決定。


●古ぼけた教会
ペア決めから1週間後…つまり、結婚式当日。
メンバーはどこか嬉々とした表情を浮かべるものとどこか浮かない顔をする者に分かれているものの、揃って古ぼけた教会にやってきた。
そこは思っていたよりも大きく、教会部分とは別に控え室も内包されているようだ。
年季が経っているので塗装は剥がれたり黒ずんだりしているし、そこかしこに草が生えて蔦が絡まっているが、それはそれでこの教会がどれだけの年月を過ごしてきたかを現すようで、不思議と悪い気はしなかった。

「…皆さん、此方です…」

まきえはそう言いながら古ぼけて今にも外れそうな戸に手をかける。
ぎぎぎ…と蝶番が軋む音を伴って、大きな戸はゆっくりと開いた。

中は掃除されていたのか、思っていたよりも汚れていない。
多少床が割れていたりするが、その辺りは仕方がないのだろう。
それよりも、メンバーはその広さに驚いていた。
天井は200mぐらいの高さをもち、横など90m四方ぐらいの幅がある。どんなに急いで走っても10秒ぐらいはかかるだろう。
礼拝堂…つまり巨大な十字架がある台の方の部屋の隅には、大きいオルガンが置いてある。やはり所々色がはげていたが、まだまだ澄んだ音が出そうな感じではあった。
上部の窓や大きな十字架の後ろを飾るステンドグラスはやや色褪せているものの、美しい神や女神、天使や聖獣と呼ばれる獣達を描いているのが一目でわかる程度にはその輝きを残している。
壁にちらほらと点在する窓からは、同じように相当の年月を過ごしてきたであろう大樹達の枝が見て取れた。

この教会の内部をじっと見つめていると、まるで古ぼけている事すらその美しさのパーツに組み込まれているように思えてきてしまう。
…正に、永遠の愛を誓うには最適の場だと思えた。

まきえに案内されるまま、メンバーは横に曲がり、脇に用意された通路へと入る。
そのまま暫く歩くと、向かい合わせに設置された大きなドアが目に入った。
向かって左には金色の髪を靡かせた女神の姿が、向かって右には巨大な剣を携えた男神の姿が描かれたその扉。
なんとなく予想は出来たが、皆は念のためと言う事でまきえの言葉を待つ。
ドアの前で立ち止まったまきえは、左右のドアを指差しながら説明を行った。

「男神のドアには新郎役、女神のドアには新婦役の皆さんが入って準備をお願いします。
 衣装や化粧道具は中に前もって用意してあるのでご心配無く」

そう言うと、まきえは葉華・希望・ボブ・崎の4人と一緒にその2つのドアよりやや奥にある、角笛を持った天使が描かれたドアを開けて部屋の中に入って行った。
恐らくあそこが参列者役用の控え室、と言う事なのだろう。


大雑把に見当をつけた面々は、お互いに相手役と言葉を交わした後、それぞれのドアへと入って行くのだった。


●控え室の風景―新郎編―
男神の扉を潜ると、中には幾つかの鏡と衣装がかけられた衣装掛けが置いてあった。
ビニールで覆ってあるその上には、各々の名前が書いてある札が貼ってあり、全員はそれを手にとって着替え始めた。

草間は黒のフロックコート。タキシードの上に羽織った足首近くまであるコート状の上着は私服に近い感じがし、草間としてもあまり抵抗がわかず助かったようだ。
普通のタキシードは聡と笹原・美咲。聡がアイスグリーン、美咲がパウダーブルーの色のものを着用。
膝までの長さの上着を羽織るタイプのロングタキシードは櫻と花瀬・祀。櫻がロイヤルブルー、祀がオフホワイトの色のものだ。
功刀・渉は純白の燕尾服。草間と並ぶと正反対の色で中々面白い。

…ただし、メンバーの中に女性(櫻は別)がいるので先に女性が着替えてから残りが着替える、と言う運びになったが。
着替えたの後に草間と渉の間でちょっとした騒ぎが起き、それを手持ち不沙汰に眺めていた祀と美咲の元へ、それを止めた櫻がやってきた。

「どうじゃ?準備は出来たか?」
「はい」
「大丈夫です」
櫻に急に話し掛けられて驚きながらも祀と美咲が頷くと、櫻は敬語を使わんでもよい、と笑って2人の前の椅子に腰を降ろす。
その言葉に少し気を抜いた2人は、櫻と話に興ずることにした。
「そういえば、主らとペアの花嫁達の4人は同じ学校なんじゃとな?」
「まぁね」
「これでも友達なんやで、うち等」
「ほぉ、友人4人が揃って依頼に参加、か…面白い話じゃの」
くすくすと楽しそうに笑う櫻を見ていた祀と美咲は、ふと櫻の頭と胸を見て首を傾げる。
そして少しの間の後、祀と美咲は恐る恐る櫻の髪と胸を指差して問いかけた。

「あのさ…どうして髪が短くなってるの?」
「それに胸もまっ平らになっとるやろ?櫻さんて女の人じゃなかったん?」

――――そう。
櫻の足首まであった長い髪は今は襟足辺りで揃えられたショートカットになっていて前髪はワックスでも使ったのかアップになっており、胸の膨らみも影も形もなくなってしまっていたのだ。
心なしか、肩幅もやや広くなって身長も高くなっているような…。

その問いかけに一瞬きょとんとした櫻だったが、すぐに扇を口元に当ててくく、と笑うと、自分の髪を触って口を開いた。

「…わしは意識が少々女性的じゃから女子の姿をしているだけであって、本来は無性別はなんじゃよ」
「「……え?」」

唐突な櫻のカミングアウトにきょとんとする祀と美咲。
それに楽しそうに喉を鳴らすと、櫻は更に言葉を続ける。

「髪もなんとなく伸ばした姿を取っておっただけじゃしな。
 じゃから、別に男の姿をとって髪を短くすることも、わしにとっては容易じゃし特に問題もないことなんじゃ」
「「…はぁ…」」

そう言って肩を竦める櫻に、祀と美咲は呆然として生返事を返すしかなかった。
今までてっきり女だと思っていた相手に『本当は無性別だ』と言われることは中々衝撃的だ。

「以外ですねぇ。僕もてっきり女性だとばかり…」
「…俺も始めて知った…」
「あれ?草間さんに言ってませんでしたっけ?」
「聞いてねぇよ」
…離れた所で、男性陣がこんな会話をしていたが、混乱していた祀と美咲には気づく余裕はなかった。

コンコン。
「…皆さん、着替え終わりましたか…?」
ドアが軽く叩かれる音と共に、まきえの控えめな声が投げかけられる。
「大丈夫、皆着替え終わってるよ」
聡がそう答えると、まきえは「失礼します」と声をかけて扉を開いた。

中に入ってきたのは、黒い女物のスーツに着替えたまきえと…ものすっごい不機嫌そうな顔の黒いゴスロリドレスを着た葉華。
草間と聡は、その葉華の格好に目を見開いて驚いた。櫻は楽しそうに目を細めて微笑んでいる。
「……葉華?」
「な、なんだよっ!!」
「…お前、何時の間にそんな格好をするように…」
「好きでしたんじゃねぇよっ!!」
呆然とした聡と草間の問いかけに、葉華は涙目+真っ赤な顔で吼えるように言い返す。
「まぁまぁよいではないか。似合っておるのじゃからな」
「嬉しくないぃっ!!」
宥めながらフォローになってるんだかなってないんだかわからない台詞を言う櫻に、葉華は必死に叫び返した。

「えっと…どうしてこんな格好に?」
祀が恐る恐るまきえに問いかけると、まきえは笑顔で頬に手を当てて口を開く。

「…こう言うときじゃないと葉華に女の子の服、着せられませんから…」

「「「「「……」」」」」
「はは、確かにのぉ」
「…くっそー、こっちでも同じ事言いやがってーッ!!」

爽やかに言われた言葉に皆言葉を失い、櫻は笑顔で同意する。
葉華は心の底から悔しそうに叫ぶと…バァン!とドアを叩き開けて走り去って行った。
「うわぁーん、真輝ィーっ!!」とか言う泣き声が聞こえてきたところを見ると、新婦の部屋へ逃げ込んだのかもしれない。

「…まぁ、それは置いておきまして…」
しかしそんな葉華をさらっと無視し、まきえは手に持っていた袋を皆の中心になる机に置くと、中から何かを取り出す。
それは―――花。
それを持ち上げ、まきえはにこりと微笑んだ。

「…皆さんの胸に飾る花です…。
 …生花ですから、お取り扱いには気をつけて下さいね…?」
そう言って渡された胸元に飾る花は全て色違いだった。
どうやらペアのドレスの色に合わせてあるらしい。

草間は黒のチューリップ。
櫻は紅色のカーネーション。
聡はライムグリーンのアマリリス。
祀はイエローのガーベラ。
美咲はブルーローズ。
渉は白のカサブランカ。

様々な花が揃い踏みだ。…ただし、花言葉は深く考えないこと。あくまで色で考えたものなので深くはツッコまないように。
皆がそれぞれ花を胸に飾り終わったところで、ガチャリと無遠慮に扉が開かれた。

「おい。そっちは準備終わったか?」
「花嫁さん達がお待ちかねヨー?」

そこからひょこりと顔を出したのは―――希望と、崎。
しかし、2人の格好を見―――まきえと葉華、櫻以外は驚いて目を見開いた。

希望は神父が着るような漆黒服に身を包み、首には十字架のレリーフがついたネックレスを下げている。
崎は、目にも鮮やかなオレンジのフリルが控えめの足首まで隠れるシンプルなAラインのドレスを着ており、髪が脇まであるカツラを被っていた。
…要するに、牧師風男と女装男の2人組。

「…牧師?」
「イエース。俺牧師サマ役なのよ」
ぽかんとした顔の祀が問い掛ければ、希望はウィンクしながら笑って答える。
「似合うデショ?」
「…まぁまぁね」
首にかけていた十字架を手にとってちゅっと口付けながら口の端を持ち上げる希望に、祀は思わず小さく笑って答える。
希望は見た目は男なのだがその態度もあってか、あまり男くささを感じないため、祀としても気が楽らしい。

「…なんで、女装なん?」
「だってこう言うときって女の子のカッコした方が面白いかなーとか思ったし?
 俺伴奏者だからどうせならむさっくるしいスーツよりもドレスの方が見栄えいいじゃーん」
呆然とした美咲の問いかけに、崎はカツラを弄りながらくすくすと笑う。
声色も仕草も詰め物がされた胸も腰も、何もかもが妙に女性的で、なんとなく負けた気分に駆られる美咲。

「…『伴奏』ですか?」

崎の言葉が聞こえたのか、不思議そうに声をあげる渉。
その言葉にあら、良く聞こえたね、と笑った崎は、ずっと手に持っていたらしい楽譜を渉に手渡した。

「…『結婚行進曲』…『賛美歌312番』…『賛美歌430番』…??」

そこに書いてある題名を読み上げて不思議そうに眉を寄せる渉に楽しそうに喉を鳴らした崎は、楽譜を返してもらって口を開く。

「教会での結婚式では賛美歌を歌ったりするらしいよん。
 出来るだけその形式に乗っ取ってやりたいから、ってことで俺がその伴奏者役に抜擢された訳v」
「そう言う事ですか」
楽譜を口元に当てながらくすりと微笑む希望に渉も微笑むと、話を聞いていた美咲が不思議そうに口を挟んだ。

「伴奏って…自分、ピアノなんて弾けるん?」

最もな疑問である。こんなへらへらしてる人間にそうそう伴奏などと言うものが出来るような気がしない。
しかし崎はくすりと笑うと、美咲の額を小突いて口を開く。
「やーねぇ。コレでもアタシ伴奏上手なのよー?
 それにピアノじゃなくってオルガン。間違えちゃ駄目でしょー?」
「…解ったからそのオカマ口調止めてんか?」
「えー。アタシ結構気にいってるのにー」
「妙に似合っとるからムカツクんや!!」
「…あらやだ、マンゴスチンってばアタシの美貌に嫉妬してるのー?」
「マンゴスチン言うなーッ!!!」
何時の間にかすっかり崎に遊ばれている美咲だったが、幸か不幸か、彼女がそれに気づくことはなかった。

「おーおー、すっかり遊んでるなー」
「…止めなくていいの?」
「それ、そっくりそのままそっちに返すv」
「……」
椅子にどかっと座り込んで笑う希望に呆れたように問いかける祀だったが、笑顔で言い返されて思わず苦笑する。

「…あぁ、皆さん、これが今回のプログラムと賛美歌の歌詞です。
 式が始まる前に目を通して置いて下さいね…?
 …では、5分後に一旦礼拝堂にお集まり下さい…順番を決めますので…」

そんな彼らを他所に、まきえは笑顔で『仮結婚式進行表』と書かれた冊子を机の上に置いて出て行くのだった。


―――その言葉を聞いていたのが、一体何人いることやら…。


●顔合わせ
5分後。
礼拝堂に集合した新郎組が目にしたのは――――植物。
この場にいる人数分の隙間が辛うじて空けられている以外は、礼拝堂の席はびっしりと植物に埋め尽くされていた。

――ただし、植物とか言っても植木蜂とかそう言う可愛らしいものでは決してない。
可愛らしい植物に二又に分かれた根っ子が生えているものか。
普通の植物がドレス着てそわそわしているものか。
白いはずの花が心なしか赤く頬を染めたような状況になっているものか…!!!
しかもさっきから全然見あたらなかったボブ(首と布の境目に蝶ネクタイ装備)がそこで皆を待つようにふわふわ浮いてるしね…!

「あれ?母さん、うちの植物達何時の間に呼んだの?」
「ほんにのぉ。先ほどからボブの姿が見えなんだと思うておったらこんな所におったのか」
新郎新婦中唯一…と言うか全く平然としている聡が櫻と顔を見合わせた後まきえに顔を向ける。

「ふふ…今回のことをお話したら皆見たいっていうものだから…連れてきちゃったの…。
 ボブは皆がきちんと椅子に座れるように先導してもらっていたのよ…」

「…そうか…コレはアンタんとこの植物か…」
「凄いですねぇ、動く二足歩行植物って始めて見ましたよ、僕」
頬に手を当ててほほほ、と楽しそうに呟くまきえに事情を察した草間が肩を落としながら疲れたように呟き、功刀・渉はどこかズレた感想を楽しそうに言うののだった。

「なんやアレ!?キショッ!動く植物なんて植物やあらへん!!」
「…そしたらボブとか言うあのカボチャも植物じゃなくなっちゃうんじゃ…?」
「あれはまだ愛嬌あるからギリセーフや!!」
混乱して叫ぶ笹原・美咲に花瀬・祀が小さくツッコみ、更に美咲が必死に叫び返す。
…まぁ、確かにいきなり二足歩行の巨大薔薇とか見せられれば混乱するに決まってるだろう。

新郎組が入り口より少し進んだ所で立ち止まっていると、後ろから新婦組がやってきた。

「…うわぁ…」
「……何だ、この奇怪植物の群れは…」
驚いたような恐がってるような声を挙げたのは零。顔を若干青くしながら嫌そうに後ずさるのは嘉神・真輝。
「……すご…って言うか、アレって地球に存在する生命体か…?」
驚いたように目を丸くしながら何気に失礼なことを呟くのは夏野・影踏。

「…これ、まきえさんのところの子達じゃないかしら…?
 あそこにいるのってもみの木さんと門松さんだし…」
思い出したように手を打ってから、礼拝堂の椅子の中盤辺りに座っている植物を指差すのはシュライン・エマ。

「えぇ!?あれってまきえさんの所の植物さんなんですか!?」
「…わ、私…自分の身長と同じくらいの高さで頭と同じ大きさの花を持つ薔薇って始めてみました…」
エマの言葉に驚いて声を挙げる片桐・沙羅と、怯えたように呟く彩峰・みどり。

同じようにまきえが説明すると、今度は草間の代わりに真輝が力尽きたように項垂れた。


―――集合が完了した面々は、一旦お互いの顔合わせと言う事で数分ほどペア同士で話す時間を与えられた。


「沙羅!」
「祀ちゃん!」
祀は一目散に沙羅の元へ走り、沙羅も出来るだけ裾を汚さないように注意しながら小走りで祀の元へと走る。
そして立ち止まった2人は、どこか照れくさそうに見詰め合い、微笑み合う。

「ねぇねぇ、似合うかなぁ?」

頬を朱に染めながら、沙羅がドレスの裾を摘んで持ち上げ、首を傾げて控えめに問いかける。
祀はその姿を見てほぅ、と溜息をつくと、此方も若干頬を染めて口を開く。

「沙羅の花嫁姿が見れるなんて夢みたい…」
そう呟く姿は本当に夢見心地、と言った感じだ。

「えへへ、祀ちゃんもカッコ可愛いよv」
それに嬉しそうに頬を益々染めながら、沙羅はにっこり笑ってそう言う。

――――と。

祀は唐突に腕を広げ、ぎゅぅっと沙羅を抱きしめた。
「ま、祀ちゃんっ!?」
驚いて声をあげる沙羅もなんのその。
祀はそれはもう嬉しそうに声を挙げる。

「やっぱりすっごく可愛い――!!
 私、絶対幸せにするからね!!!」

興奮しすぎてこれが仮結婚式だと言う事を忘れてるようだ。
大声でそう叫びながら沙羅の髪に顔を埋める祀に、沙羅は顔を真っ赤にする。
「や、やだ祀ちゃん…恥ずかしいよ…」
とか言いつつ跳ね除けたりしない辺り、沙羅も満更ではないと言うか…そう言ってもらえて結構嬉しかったようだ。

―――彼女達が間違った道に進まぬ事を、祈るばかりである。


●式序盤
まきえ特製のくじ引きの結果、順番は以下の通りになった。

(新郎×新婦順)
1 渉×零
2 祀×沙羅
3 櫻×真輝
4 美咲×みどり
5 聡×影踏
6 草間×エマ

すぐに出入りできるように席は全体の中ほどにし、通路を挟んで新郎と新婦が順番並びに座ることになった。
1人が抜けたら席を詰め、1番外側に終わった新郎新婦が座る。
それでスムーズな交代をすることにしたのだろうだ。

今回は略式結婚式を更に略した物ということで、進行は以下の通りになっている。

<全員でやる部分>
新郎新婦入場(一旦全新郎新婦が入場した後、1番目の新郎新婦以外は席につく)
(賛美歌 312番)
聖書朗読(愛に関することば)
<各ペア毎に交代する度やる部分>
誓約
指輪交換
誓いのキス(やるペアはやる)
祝福の祈り
<全員でやる部分>
(賛美歌 430番)
新郎新婦退場(全新郎新婦が退場)

キスに関してはやってもやらなくても構わないということで、「やらない」と言うペアがほとんどだ。
…まぁ、上辺では「やらない」と言っててもやる気な輩もひっそり存在するようだが。


「…では、曲が流れ出して扉が開かれたら、そのまま入ってきて下さいね…」
外に新郎新婦を待機させたまきえは、ブーケを新婦に手渡すとそう言って中に戻って行った。

そしてそのまま少々待っていると、中からオルガンの涼やかな音が漏れてくる。
『結婚行進曲』だ。
誰もが必ず1度は聞いた事があるだろうこの曲を耳にした面々は、お互いのペアと顔を合わせた後、表情を引き締めて歩き出した。
先頭は6番目のペア。最後尾は1番目のペアだ。
まるでその様子を見ていたかのように、扉が静かに開かれていく。
ぎぎぎ…と蝶番の軋む音を響かせながら、一同はゆっくりと教会の中へ1歩踏み出した。

それと同時に、参列者の木達が枝を揺らして騒ぎ始める。
中には何故かきちんとした拍手の音まで混ざっていたが。

しかし全員緊張でそれどころではなく、顔を若干強張らせたまま中に入っていく。
右、左、左、右と何度も繰り返して足を動かす。忘れないように、まるで呪文のように頭の中で反復しながら。
ゆっくりと1歩踏み出す度に、古ぼけた、しかし柔らかいバージンロードの敷布がヒールを通して伝わってくる。
オルガンの前には女装した崎が座っており、静かに、だが力強くオルガンを演奏している。
十字架を背に立っている希望は、普段のおちゃらけた表情ではなく――本物の牧師らしく、真剣な表情で静かにこちらを見つめていた。
どきどきと高鳴る心臓を抑えて中に入ると、2番目以降のペアは途中で右左折し、席に座っていく。
奥から詰めるように座っていくと、急に気が抜けた気がしてふぅ、と深々と溜息を吐く人数人。
そして、1番目のペアが牧師…希望の前に立つと同時に、伴奏が一旦ピタリと止まった。

「一同――――起立」

希望の落ち着いた…しかしよく通る声に、全員は一斉に席を立つ。
参列役の植物達の手に楽譜が握られているのに気づき、待機している新郎新婦達は前もって置いておいた進行冊子を手にとって開いた。
それをしっかり見つめた希望は、視線をオルガンに座る崎の方へちらりと向けた。
それとほぼ同時に、崎がゆっくりと手を持ち上げる。
オルガンに下ろされた指先は、しなやかに動き回り、ゆるやかなメロディを奏で始めた。
それにあわせて、全員はゆっくりと口を開く。


――
いつくしみ深き   友なるイエスは
罪科憂いを     取り去りたもう
心の嘆きを     包まず述べて
などかは下ろさぬ  負える重荷を

いつくしみ深き  友なるイエスは
かわらぬ愛もて  導きたもう
世の友我らを   捨て去る時も
祈りに応えて   いたわり給わん

アーメン
――


静かに、厳かに、歌声が教会を埋め尽くしていく。
アーメン…「本当です」という意味を持つこの言葉が最後に皆の口から発せられると同時に、伴奏も静かにその音を止めた。

「――――着席」
その余韻に思わず浸っていた面々は、希望の静かな声を聞いて席につく。

それと同時に、希望はゆっくりと聖書を開き、目を軽く伏せながら聖書を読み上げる。


「愛がなければ何の役にも立ちません。
 愛は寛容であり、愛は親切です。
 また人を妬みません。
 愛は自慢せず、高慢になりません。

 礼儀に反することをせず、
 自分の利益を求めず、
 怒らず、人の悪を思わず、
 不正を喜ばずに真理を喜びます。

 全てを我慢し、全てを信じ、
 全てを期待し、
 全てを耐え忍びます。
 愛は決して絶えることがありません。

 こういうわけで、
 いつまでも残るものは 信頼と希望と愛です。
 その中で一番優れているのは愛です。

 愛を追い求めなさい」


高すぎず低すぎず、耳に心地よく余韻を残す希望の声が、静かに教会に響き渡る。
普段の希望とはあまりにもかけ離れた姿のせいだろうか。
まるで、希望が本物の牧師のように感じてしまった。

一同のどこか呆然とした視線を受けても顔色1つ変えず、希望は静かに聖書を閉じる。
ぱたん、と軽い音を立てて閉じられた聖書を見、全員ははっとして背をピンと伸ばす。
それを見ながら、希望は静かに声を発するのだった。


「では――――誓約に移ります」


その言葉に、参加者達の緊張が一層深まった。
ここから先は、自分達もそれぞれ経験する場面だからだ。


●結婚式―祀×沙羅編―
2番手は祀と沙羅だ。
1番手の式が終わって離れて歩き出すと同時に、2人は席を立ち、歩いて祭壇の前に立つ。
心なしか強張った表情を浮かべる2人は、色々と考えるところがあるのだろう。
1番手の2人の悪戯によって強制決行となった『誓いのキス(最低でも頬)』は2人にとってどうと言う事でもなかったが、やはり偽とは言え結婚式をやるのは緊張するのだろう。
そんな2人を一瞥した希望は、口を開いた。

「では――――誓約を」
そう言うと同時に、まずは祀へと視線を向けて話し掛ける。

「―――固く節操を守ることを誓いますか?」

真剣な表情で、真剣な声。
1番手の時とはうって変わって、真剣な進行を行うつもりらしい。
その状況を察した祀はごくりと生唾を飲み込み、口元をきゅっと引き締める。
そしてゆっくりと聖書の上に手を置いて、口を開いた。

「―――はい。誓います」

紳士的な、静かな声。
教会の中にある程度響く程度のその声音は、大きすぎず、小さすぎず、しかし確実に皆の元へ届いていく。
それを確認した希望は小さく頷くと手を退けるように示し、沙羅に静かな視線を向けた。

「―――固く節操を守ることを誓いますか?」

その言葉に、沙羅はぴくりと肩を動かし、強張った表情のまま希望を見る。
緊張を解す為か希望が小さく頷くと、どこかほっとしたように顔を綻ばせ、聖書の上にゆっくりと手を置いて口を開いた。

「―――はい。誓います」

祀と同じく、その適度な声は教会内に静かに響いていく。
それを確認すると希望は小さく頷き、2人の前に小さな箱を置いた。


「では――――指輪の交換を」


そう言って静かに開かれた箱の中には、シンプルなシルバーリングが2つ。
内側には『○○(自分の名前)to○○(相手の名前)』とアルファベットで彫られており、外側には小さく羽根の生えたハートが彫られていた。
無駄な装飾はいらない。
無駄にごてごてした物よりは、皆このような物の方がよかった。

頷いて向かい合う2人。
祀はゆっくりと手の平を上にして希望に向かって差し出す。
希望はその上に指輪をそっと置き、小さく微笑む。
それに微笑みを返すと、祀は空いている方の手で沙羅の左手を優しく掴み、持ち上げる。
どこか戸惑ったような沙羅の顔。
それを見て小さく笑った祀は『大丈夫よ』と囁いて見せる。と、沙羅は先程よりもほっとしたように力を抜いた。
それを確認した祀は指で指輪をそっと摘むと、沙羅の左手薬指にそれをゆっくりとはめる。
完全にはめ終わったところで、祀がそっと手を離す。
それを確認した沙羅も、祀と同じ動作で指輪を彼女の左手薬指にそっとはめた。

お互いがはめ終わった事を確認した希望は、ゆっくりと口を開く。


「では――――誓いの口付けを」


そこで、2人が同時にごくりと唾を飲み込んだ。
やはり偽とは言え、こう言うのは緊張するものだ。
祀は、向かい合った沙羅のベールに手をかける。
沙羅が軽く膝を曲げたのを確認してから、手をかけたベールをゆっくりと、優しく丁寧に上げていき、沙羅の顔に引っかからないように上げてから後ろまで下ろす。
そして沙羅が姿勢を直したところで少しの間を空け。
「沙羅…大丈夫だからね…?」
「う…うん…」
強張った表情の沙羅の肩に優しく手を置いた祀が―――ゆっくりと、顔を近づける。
何故か教会の中から誰かのごくりと唾を飲む音が聞こえた。
あれだろうか―――植物達の中の誰かが、女同士と言うどこか倒錯的な雰囲気に飲まれかけてるのだろうか。
祀の顔が、徐々に沙羅の顔に近づいていく。

――――――ちゅっ。
…教会に、可愛らしい音が響き渡る。
祀の唇は、優しく、まるで羽根で触れるかのように―――沙羅の頬に、当てられた。
そして顔を離した2人は―――どこか照れくさそうに、お互いの顔を見て微笑み合う。

2人だけの雰囲気になりかけたところで、真剣な表情に戻った希望が首にかけていた十字架を手にとり、巨大な十字架に向き直って頭を垂れる。

「では―――お2人の約束が神に守られるよう。
 また、新しい生活が神に祝福されるよう―――祈りましょう」

そう言うと同時に、希望が跪いて額に十字架を当て、祈るようなポーズを取った。
それに倣うように皆も頭を垂れ、瞳を閉じる。
―――暫しの沈黙。
数十秒ぐらい経ったところで、希望がゆっくりと立ち上がる。
その衣ずれの音を聞き、皆がゆっくりと瞳を開き、頭を持ち上げた。
立ち上がった希望は巨大な十字架を見つめた後、手を持ち上げて口を開く。

「――――アーメン」
『アーメン』

十字を切りながら言われたその言葉を、全員が揃って復唱する。
ここで――――祀と沙羅の2人だけの結婚式は、終わりを告げたのだった。
「ご苦労様、沙羅」
「…祀ちゃんも、ご苦労様」

お互いにそう言ってもう一度微笑み合うと、ゆっくりと身を翻す。
そしてそのまま左右に分かれて外側を回り、席につく。
その時には、既に次のペアが祭壇の前に辿り着いていた。


●終章
草間とエマ、最後の2人が席に戻ると同時に、希望が楽しそうに微笑みながら口を開く。


「一同――――起立」

希望の笑いを含んだ…しかしよく通る声に、全員は一斉に席を立つ。
全員進行冊子を手にとって楽譜のページを開く。
それをしっかり見つめた希望は、視線をオルガンに座る崎の方へちらりと向けた。
それとほぼ同時に、崎がゆっくりと手を持ち上げる。
オルガンに下ろされた指先は、しなやかに動き回り、ゆるやかなメロディを奏で始めた。
それにあわせて、全員はゆっくりと口を開く。


――
妹背をちぎる   家のうち
我が主もともに  いたまいて
父なる神の    御旨に成れる
祝いのむしろ   祝しませ

きよき妹背の  まじわりは
慰めとわに   尽きせじな
重荷もさちも  共に分かちて
よろこび進め  主のみちに

アーメン
――


静かに、厳かに、歌声が教会を埋め尽くしていく。
アーメンという言葉が最後に皆の口から発せられると同時に、伴奏も静かにその音を止めた。

「――――着席」

希望の声に答えて、全員が座る。
それを確認した希望は全員に向かって一礼すると、ゆっくりと外側から周り―――横に入って消えていった。

完全に希望の姿が消えた所で、崎がまたゆっくりとオルガンを奏で始める。
新郎新婦の退場の時間だ。
それを察した参加者全員は同時に立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
参列者役の草花の拍手にお辞儀をして返しながら、全員は静かに外へ出て行った。


外へ出ると、其処には楽しそうに口端を持ち上げた希望が待ち構えていた。
「はいはーい。皆さんご苦労様☆」
パンパンと手を叩いて楽しそうに笑う希望。
その希望に真っ先に食って掛かったのは…当然、草間。

「…覚悟は出来てるんだろうな…?」
がしっと希望の襟首を掴んで持ち上げて凄んでみせるが、希望は依然として楽しそうな顔のまま。
怒った草間が手を振り上げた瞬間――――。
「武彦さん、止めて!!」
…エマが大慌てで止めに入った。
「お前、コイツを庇うのか!?」
「…えっと…いや、庇いたくないのは山々なんだけど…」
激昂した草間の叫びに、エマは苦笑気味に言葉を濁す。…やっぱり許せないようだ。
しかしエマはすぐに慌てて草間の腕を掴むと、困ったように笑って見せる。

「ほら…希望くんも、きっと植物さん達の為にやったことだろうし…ね?」

多分違うだろうけど、このまま見捨てて希望が草間に殴られるのを見ているほど薄情ではないのだ。
困ったように微笑むエマを見―――草間も、諦めたように溜息を吐く。
「……わかった」
「ありがとう、武彦さん」
「ありがと、武彦さんv」
「殺すぞ…?」
茶化すように頬に手を当てて裏声を使って遊ぶ希望に、草間は本気で殺意の篭った視線を向けるのだった。

「…では、お話も一段落したところで」
『!?』

今まで成り行きを見守っていた面々の後ろから唐突にした声に、希望以外の全員が驚いて振り返る。
そこには、楽しそうに微笑んだまきえ・葉華・崎と、宙を漂うボブの姿が。

「折角ですから、記念に写真を撮りましょう?
 教会の前と、老樹さん達と一緒に2種類で」
その有無を言わせぬ笑顔に、全員は苦笑気味に頷いた。

「結婚式、か…。
 どーせあたしは一生独り身なんだろ〜な〜」
「…ぷっ」
移動中。ぼんやりと歩きつつぽつりと呟かれた祀の言葉に、沙羅が小さく噴出す。
「あ、沙羅、ちょっと今納得したでしょ?」
「え!?あ、な、納得なんてしてないよっ!」
あわあわと首を左右に振る沙羅。完全に嘘をついてるのがバレバレだ。
そんな沙羅の様子を見てぷっと小さく噴出した祀は、沙羅をぎゅっと抱きしめる。
「きゃっ!?ま、祀ちゃん!?」
「…ふふっ。いーもん、あたしには沙羅がいてくれればっ!!」
「ま、祀ちゃぁん…」
ぎゅーっと力を入れて抱きしめながら楽しそうに笑う祀に、沙羅は困ったような情けない声を挙げるのだった。

「あ、もっとこっちによってください」
写真を撮るのは―――参列者達の中にいた、2足歩行の喋る薔薇。
なんとなく複雑な気分ながらも、全員は大人しく寄っていく。
当然のごとく、新郎と新婦は隣同士。
一部のペアは気まずそうな顔をしていたが、それでも写真を撮る時は笑顔でいるように努めた。

「はーい、それじゃあ撮りますよー」
植物の声に全員がレンズに目線を向ける。

「はい、チーズ!」

と言って薔薇がシャッターを押す寸前。
「「ていっ」」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
草間とエマの両隣に座っていた希望と葉華が、まるで示し合わせていたかのように2人の背を押し。
「さーらv」
「ま、祀ちゃんっ!?」
祀は沙羅をぎゅっと抱きしめ。
「聡v」
「うわぁっ!?」
影踏(また女性の姿に戻った)が聡を抱きしめ。
「ハイエロファントとマンゴスチン、笑って笑ってーvv」
「きゃっ!?」
「うきゃっ!?何するん自分!?」
崎がにっと笑いながら2人の首に腕を回して引き寄せ。
「わしらも最後に遊ぶかのぉ♪」
「おわぁっ!?」
櫻が真輝の腰を掴んで抱き寄せた。

――――パシャッ。

…まさに一瞬の出来事。
老樹達の前で撮った写真は、愉快なというか…妙にラブラブな写真として出来上がってしまったのだった。


――――後日。
     プラントショップから送られた手紙には結婚式の色んなシーンと集合写真が沢山入っていて。
     受け取った人たちは、赤くなったり青くなったり、あちこちで色んなリアクションを浮かべていたそうだ。

…ちなみに。
聡は暫くの間、塞ぎ込んで部屋から一歩も出てこなかったことを…此処に記しておく。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
<ペア別一覧(新郎×新婦)>
【NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長、探偵】×【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【NPC/櫻/女(無性…?)/999歳/精霊】×【2227/嘉神・真輝/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】
【NPC/山川・聡/男/18歳/プラントショップ『まきえ』店員】×【2309/夏野・影踏/男/22歳/栄養士】
【2346/功刀・渉/男/29歳/建築家:交渉屋】×【NPC/草間・零/女/57歳/草間興信所の探偵見習い】
【2575/花瀬・祀/女/17歳/女子高生】×【2489/橘・沙羅/女/17歳/女子高生】
【3315/笹原・美咲/女/16歳/高校生】×【3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生】

<牧師>
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
<伴奏者>
【NPC/秘獏・崎/男/15歳/中学生】

<参列者>
【NPC/山川・まきえ/女/38歳/プラントショップ『まきえ』店長】
【NPC/ボブ/無性別/1歳/「危険な温室」管理役】
【NPC/葉華/両性/6歳/植物人間】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第九弾、「ジューンブライドも楽じゃない?」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回、参加者様はNPCとペアとPC同士ペアの参加者が上手い具合に1:1(要するに半々)になりました。
よって、合計6ペアです。意外と多くなってちょっとビックリしたり(笑)
しかもNPCご指名が1人も被らないという結果に…!普通に驚きましたよ、私(笑)でも新郎役はNPCのが圧倒的に多かったです(をい)
ちなみに御指名がなかったNPC達は参列者役で参加です。
その中でも希望・崎は特別に牧師役・伴奏者役で参加という運びになりました。…進行適当で申しわけ御座いません(爆)
相変わらず個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
また、式当日の準備時間は新郎編・新婦編で分けてあったり、同じ時間軸でも違う内容の個別、と言うのもあります。
他の人の物も見てみると中々面白いかもしれません。
ちなみに新郎・新婦の衣装やブーケ、胸に飾る花は独断と偏見と個人的な趣味で決めさせていただきました(笑)
一覧や副題の『(名前)×(名前)』の順はあくまで新郎役×新婦役の並びなので、実際の力関係は逆なペアもあったりします(笑)…愉快な展開に巻き込まれたNPCも約1名(ぇ)
どうぞ、これからも愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

祀様:ご参加、どうも有難う御座いました。
    …楽しかったですvとっても♪(待てコラ)
    なんとなく男らしい女性風になってしまいましたが…大丈夫でしたでしょうか?(爆)
    沙羅さんとラブラブ、やボブに関しての話などは色々あそばせて頂きましたv(ぇえ)
    では、今回のご参加、有難う御座いました。

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。