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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


バスジャック



■ プロローグ

『こんな原稿シュレッダー行きよ!!」
『ぎゃぁぁぁ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 背中に衝撃が走った。目が覚めると天井を見上げていた――。
「……ほっ、夢か」
 体を起こし机の上に視線を向ける。原稿は無事だった。しかし、夢が現実になる可能性は非常に高い。
「……はぁ」
 自然と溜息が漏れる。いや、こんなだからいけないのだ。昨晩、読んだビジネス本に『運を取り込むためには自分自身が積極的になるべきだ!』と書いてあったのを思い出した。ベストセラーだから、きっと間違いない。
 三下は決意した。編集長、碇・麗香が椅子から転げ落ちそうになるぐらいのビッグなネタを探して、斬新でエキセントリックな原稿を書くと――。
 気合を入れて出社する。その途中で、三下は幸か不幸か絶好の記事となるネタと遭遇する。
「乗客は全員頭に手をつけろ! 動いたら殺すからな!」
 バスの運転手にナイフを突きつける男は覆面をかぶっていた。さらに傍らで拳銃を構える男もいる。バスジャックである。
(はわわわ、ど、ど、どうしてこんなことに!!)
 三下は顔を真っ青にして神に祈り始めた。



■ それぞれの行動

 ――バス到着二分前。
 三下が大口を開けて欠伸をしていると背中を叩く者がいた。
「あ、おはようございます」
「朝から奇遇ね。これは何か起きそうだわ」
 秋山・悠がブラウン色の髪を揺らし三下に歩み寄る。
「……きっと、あなたの不幸と私の災難吸引能力があいまって前代未聞の事件が起きるわ!」
 ちょうどそこへバスが到着。悠は三下の腕を掴んで意気揚々とバスへ乗り込んだ。
 そして――。
「少しでも動いたら撃ち殺すぞ!」
 バスジャック――悠はぐっと拳を握ってほくそえんだ。隣に座る三下はぶるぶると子犬のように震えていた。

 犯人からもっとも離れた後部座席――そこに足を組んで優雅にも踏ん反り返っているのはシオン・レ・ハイである。お金がないという切実な理由により普段は徒歩が基本なのだが、今日は珍しくバスへ乗り込み、デパートの試食品売り場を目指してマイ箸を握り締めていたところでバスジャックである。
(ぶっ、なんてことだ……)
 あまりに突拍子もない出来事に火の玉を吐き出しそうになったシオンであった。

 後部座席から二つほど前の左の座席に表情を変えずに座っているのは蒼王・翼だ。彼は犯人の様子を窺っていた。聴覚が格段に優れている翼は、後部座席から運転席に至るまで、乗客全てに対して聞き耳を立てている。
 どうやら三下がいるようだが、他にも特殊な能力を有した者が乗り込んでいるようだ。
 任せられるのならば翼は一般人を決め込もうと考えていた。
(けど、一般人に危害が及ぶのだけは防がないと)
 ともかく翼は、しばらく犯人の動向を探ることにした。

 ドア口付近に座っているのは新座・クレイボーン。新座は顔の右半分を包帯で隠している。俯き加減に首にかけたペンダントを眺め、そのまま右腕のバングルに視線を移す。その間、新座は牙で頬の内を噛み切った。すぐに口内が血の海になり、
「くっ、げっふ……」
 思わず吐き出しそうになるがどうにか堪える。犯人にもバレなかったようだ。
 手で口元を覆い、ペンダントとバングルに血を擦り付ける。
 新座は一定量の血を物体に付着させるとそれを擬似生命へと変化させることができる。二匹の小さな擬似生命が動き出す。

 さらに前の席にはがっしりとした体系の藤岡・敏郎がいた。
(これは幸運なのか不運なのか……いや幸運ですかね)
 藤岡は犯人を見た。覆面の男はナイフを持って運転手を脅している。もう一方の男は銃を乗客の方に向けている。
(そう簡単にはいかないようですね)
 目をギラギラに光らせる犯人は少しでも動こうものなら怒鳴り声を上げる。手元が狂って引き金を引いてしまうかもしれないなどとほざいていた。



■ 事件解決へ向けて

 運転手は意外に冷静だった。ただし、犯人も賢いようで運転手は犯人の言うとおりに運転をするほかないようだった。
「動くなよ? 動いたらブチ殺すからな?」
 犯人は冷静に狂っている、と称した方がよさそうだ。二人組みなので隙はそうそう生まれない。
「あのー」
 その時、悠が口を開いた。
「なんだてめえ? 喋るなって言っただろうが!」
「インタビューさせてくれない? 世間に訴えたい事、色々あるんでしょ? 私作家だし、この子(三下)は雑誌社の人だし。ねえ、どう?」
 勢いよく畳み掛ける悠に気負いした犯人は口ごもってしまった。だが、すぐに現実に舞い戻り、銃を構える。
「ふん、所詮、俺たちは悪だ。何を訴えても無駄だ!」
「で、お前さんたちは、一体何が目的なんだい?」
 シオンが後部座席から犯人に尋ねる。
「なんだお前は? なめてんのか?」
「物騒ですね……どうです、私が人質になるというのは?」
 シオンが犯人に提案する。
「……そうだな」
 銃を持った男がナイフの男に耳打ちをする。
「よし、こい」
 シオンが頭の後ろに手を回したまま歩き出す。長身なのでバスの天井に回した手が当たっている。犯人がでけーなと呟いた。
「――あっ」
 シオンが途中で転ぶ。バスが縦に揺れ動いた。
「っ!?」
 犯人が銃を構えるが発砲はしない。シオンはしばらく身動きしなかったが、おもむろに立ち上がり再び犯人の方へと歩き出した。
 バスは市街地から抜け出し国道を走っていた。しばらくなだらかな直線が続く。
「あの、トイレに行きたいんだけどー?」
 また悠だ。隣の三下は「触発しちゃだめですよぉ」とか言っている。
 犯人はイライラしているようだ。そろそろ発砲するかもしれない。
「チッ……」
 新座が舌打ちした。
 犯人をどうにかしようとする他人の姿勢がどうも気に食わないらしい。それはともかく、二匹の擬似生命はゆっくりだが確実に犯人のもとへと向かっていた。
 翼はひたすら車内の状況を傍観していた。もちろん、乗客の会話を聞き逃すまいと気を張っている。誰も行動に移さねば自ら行動に出なければとも思っていた。
(国道を過ぎれば山道だから……うまくいけば)
 藤岡は念動力を使う機会を窺っていた。しかし、今はまだ迂闊に手は出せない。
 バスが二人組みの男たちに乗っ取られて十五分が経過した。
 乗客たちの顔色は悪い。
 だが、犯人にも疲れが見え始めていた。
 先ほど犯人は、バスの運転手の無線を使って警察へ金を要求していたが、ハッキリ言ってバスジャックが成功するとは誰も思っていない。
 しかし、犯人の精神状態によっては乗客たちに被害が出る可能性はある。
 犯人は手口こそ典型的だが、巧妙ではある。二人組みという点、バスジャックとしては賢いやり方だ。
「警察が来たら逃げられないよ? 今のうちに逃げた方がいいんじゃないの?」
 悠が犯人を挑発するようなことを言う。
「う、うるさいぞ!」
 犯人が銃口を悠に向ける。だが、撃ちはしない。
 その時、バスが大きく揺れた。さらに車内に得体の知れない空気が漂い始める。
「あ、これって……」
 不幸の嵐――仮称だが、これは悠が災難と遭遇し感情が高ぶった時に起きる不可解な現象である。
「よし……」
 これに興じて藤岡が、バスの揺れにわざとぐらつき手摺を掴んだ。
 さりげなく念動力を使用――何とバスをわずかばかり持ち上げた。
 さらに揺れ動く車内。
「な、なんだー!!」
 犯人が慌てふためく。
(よし……今だ!)
 新座が擬似生命二匹を使役し――その一方、メカ恐竜のぎゃおに刃物を持った男を噛み付かせ、ケツァに銃男を攻撃させる。
「うぁぁ!?」
 ナイフがキラリと光りながら宙を舞い、床に落ちる。同時に銃も叩き落される。
 犯人が慌ててナイフを拾い上げようとするので、
「……そうはいきませんよ!」
 人質になっていたシオンが犯人から離れ、落ちているナイフをバスの後方へと蹴り飛ばす。それを新座が足で止めた。
 さらに藤岡が念動力でバスを傾かせ、銃を後方へと滑らせ手に取った。
「これは偽者ですね……」
 藤岡が持ち上げた銃を見ながら呟く。
「ふん、本物はこっちさ」
 犯人がにやりと笑う。実はフェイクだったらしい。
 形勢逆転のさらなる逆転である。
「……バスジャックが本当に成功すると思っているのかい? 僕は、いい加減、諦めた方がいいと思うよ? さあ、武器を捨てるんだ」
 翼が犯人の説得を試みる。
「あ? 何をほざいて……」
 急に犯人が膝をつく、そしてそのままバタリと倒れこんでしまった。
 連鎖的に隣の犯人もよろける。
 翼の魅了催眠能力だ。言葉に乗せてさりげなく催眠を施したのである。
「さて、警察に連絡しましょうか」
 藤岡が携帯電話を使って警察に連絡を入れる。
「もう、いつまで怯えてるの?」
 悠が三下の背中を叩く。
「はわわわ、だって……バスジャックが……ナイフが……銃が……ってあれ?」
 子猫のように震えていた三下は、眠りこける犯人二人を見つけて唖然とした顔つきになった。



■ エピローグ

 犯人は無事逮捕され――数日後、五人はアトラス編集部を訪れていた。
「それで、件の事件についてだけど――」
 麗香は事件の当事者である五人に記事になるようなネタを提供してくれないかと頼んでいた。
「これなんかどうでしょうか?」
 藤岡がA4用紙を麗香に手渡す。
「ポルターガイスト……バスジャックを退治?」
「ええ、バスが宙に浮き上がりましてね。ああいうのを、ポルターガイスト現象って言いません?」
 自分で持ち上げておきながら藤岡がそ知らぬ顔で言う。
「ははは、ポルターガイストねえ……」
 新座が苦笑する。
「あのー、もしよかったら今度の連載のネタに使わせてもらえませんか?」
 悠が麗香に訊いた。
「ええ、その辺はご自由に」
「あのー、もしよかったら交通費を――」
 万年貧乏人のシオンが恐縮そうに麗香に尋ねた――が、聞き流された。
「それにしても乗客の皆さんが無事で本当によかったですね」
 翼が万遍の笑みを浮かべてそう言った。
「そうね……人って極限状態に追いやられると、何をしでかすか分からないものね。これも、全てはあなた達のおかげね。それに引き換え……うちの三下は……」
 麗香が流し目で三下を見やる。
「……ちゃ、ちゃんと記事にして見せます!」
 そう意気込むと五人から受け取ったレポートの編集作業に没頭する三下。
 まだまだ三下の苦難は続きそうであった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3356/シオン・レ・ハイ/男/42歳/びんぼーEfreet】
【2863/蒼王・翼/男/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【3060/新座・クレイボーン/男/14歳/ユニサス(神馬)/競馬予想師/艦隊軍属】
【2975/藤岡・敏郎/男/24歳/月刊アトラス記者】
【3367/秋山・悠/女/34歳/作家】

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■         ライター通信          ■
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というわけで『バスジャック』でした。担当ライターの周防ツカサです。
皆さんのプレイング、完全には生かしきれませんでしたが、五人の連係プレーという形でまとめてみました。
ご意見・ご感想等ありましたらどしどし送っちゃってください。こういう場合はもっとクールに振舞うとか、そういった細かいことでも構いません。次回の参考にさせていただきます。
それでは、またの機会にお会い致しましょう。

Writer name:Tsukasa suo
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141